「能力不足の社員に辞めてもらいたいが、解雇できるほどの理由はない」「話し合いで円満に退職してもらうには、どう切り出せばよいのか」。問題を抱えた従業員への対応で、多くの会社が検討するのが退職勧奨です。
退職勧奨そのものは違法ではありません。しかし、面談の回数や言い方を誤れば「退職強要」として慰謝料の支払いを命じられ、合意した退職が後から無効になることもあります。さらに、解決金の税金、離職票の離職理由、助成金への影響など、合意後の実務でつまずく会社も少なくありません。
この記事では、違法になる退職勧奨の判断基準と裁判例、面談の進め方とトーク例、退職条件と解決金の決め方、退職合意書の作り方、税金・社会保険・離職票の扱いまで、社会保険労務士・弁護士が解説します。
- 退職勧奨は、会社が従業員に退職を勧める行為。応じるかどうかは従業員の自由で、勧奨そのものは違法ではない。
- 裁判所は、面談の回数・期間、1回の時間、人数、言動、拒否した後の対応から、社会通念上相当な範囲を超えていないかを判断する。
- 進め方は、指導記録の整理、社内方針と条件の決定、面談、回答期限の設定、退職合意書の締結の順。退職届だけでなく合意書まで取り交わす。
- 解決金は月給の数か月分で設計することが多い。紛争になった場合の解決金の中央値は、労働審判で月給の4.4か月分という調査がある。
- 退職勧奨による退職は雇用保険上「会社都合」になる。自己都合に書き換えることはできず、一定期間受けられなくなる助成金もある。

【中内 康裕 | 弁護士】
法律事務所 sui/株式会社altruloopホールディングス
会社法務・知的財産・訴訟対応を中心に、スタートアップから事業者まで幅広く支援。アンダーソン・毛利・友常法律事務所、三村小松法律事務所を経て、特許庁商標課にて法務調査員(任期付公務員)を歴任。現在は文化服装学院 非常勤講師・知的財産管理技能検定 試験委員を務め、商標・ファッションロー分野の第一線で活動。『年報知的財産法』ほか共編著・寄稿多数。
第一東京弁護士会 所属 | 登録番号:58036

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloopホールディングス 代表
人事労務DD(人事労務デューデリジェンス)・IPO準備の労務監査/労務是正を強みとする社会保険労務士。建設・介護・医療・IT・製造・飲食・小売・人材・不動産など多業種の労務顧問、就業規則作成、人事評価制度構築にも対応。
登録番号:13250298
退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が従業員に対して、自分の意思で退職するよう勧めることです。「退職勧告」と呼ばれることもあります。会社の一方的な意思表示で雇用契約を終わらせる解雇とは異なり、従業員が同意しない限り退職は成立しません。
解雇・辞職・合意退職との違い

| 区分 | 誰の意思で終わるか | 法律上の制限 | 雇用保険上の離職理由 |
|---|---|---|---|
| 解雇 | 会社の一方的な意思 | 客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要(労働契約法16条)。30日前の予告または解雇予告手当が必要 | 会社都合(重責解雇を除く) |
| 辞職 | 従業員の一方的な意思 | 無期雇用なら申し入れから2週間で終了(民法627条) | 自己都合 |
| 合意退職 | 会社と従業員の合意 | 合意が自由な意思によること | 申し出た側による |
| 退職勧奨による退職 | 会社の提案に従業員が同意 | 勧奨の方法が社会通念上相当な範囲であること | 会社都合 |
退職勧奨は、法的には合意退職に向けた働きかけです。解雇のような厳しい要件はありませんが、同意を引き出す過程に問題があると、違法とされたり合意そのものが否定されたりします。
退職勧奨が選ばれる場面
- 能力不足で、指導を続けても改善が見られない
- 遅刻・欠勤、指示に従わないなど、勤務態度に問題がある
- 他の従業員とのトラブルが続き、職場の運営に支障が出ている
- 業績悪化や事業の縮小で、人員を減らす必要がある
いずれも、すぐに解雇しても有効とされる可能性が低い場面です。解雇のリスクを避けつつ、条件を示して話し合いで雇用関係を終えるための手段として使われます。解雇トラブル全般の考え方は解雇トラブルを防ぐための相談先と企業が守るべきルールで解説しています。

違法な退職勧奨(退職強要)の判断基準
退職勧奨は、従業員が自由に判断できる状況で行われる限り適法です。裁判例では、従業員の自発的な退職の意思を形成するための説得として、社会通念上相当と認められる範囲を超えた場合に違法と判断されています。
違法とされると、慰謝料などの損害賠償を命じられるほか、合意した退職そのものが無効・取消しになることがあります。
裁判所が見ている5つの要素

| 要素 | 違法と判断されやすい例 |
|---|---|
| 回数・期間 | 短期間に何度も面談を繰り返す、数か月にわたって続ける |
| 1回の時間 | 数時間に及ぶ面談、終業後や休日の呼び出し |
| 人数 | 上司や役員など多人数で囲む |
| 言動 | 大声・机をたたく、人格の否定、解雇をほのめかす、家族への言及 |
| 拒否した後の対応 | はっきり断った後も同じ内容の勧奨を続ける、仕事を取り上げる・配置転換するなどの圧力をかける |
違法とされた裁判例・適法とされた裁判例

| 裁判例 | 勧奨の態様 | 判断 |
|---|---|---|
| 下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決) | 教諭2名に対し、数か月の間に十数回にわたって面談し、1回の時間が2時間を超えることもあった。退職するまで勧奨を続ける旨の発言もあった | 違法(損害賠償を肯定) |
| 全日空事件(大阪高裁平成13年3月14日判決) | 休業から復職した客室乗務員に対し、約4か月の間に30回を超える面談を行い、長時間に及ぶものや大声を出す・机をたたくといった言動もあった | 違法(損害賠償を肯定) |
| 日本IBM事件(東京地裁平成23年12月28日判決) | 業績評価の低い従業員に、退職金の上乗せや再就職支援などの条件を示して退職を勧めた。従業員が拒否した後は、具体的な業務改善を求める内容に切り替えていた | 適法(違法性を否定) ※東京高裁平成24年10月31日判決で控訴棄却(第一審維持) |
違法とされた事案に共通するのは、「辞めると言うまで終わらない」状況を作っていたことです。一方、適法とされた事案では、条件を示したうえで判断を従業員に委ね、拒否された後は勧奨を続けていません。
言ってはいけない言葉と、言い換え例
| 言ってはいけない言葉 | 問題点 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 「辞めないなら解雇する」 | 解雇を避けるために退職を選ばざるを得ない状況を作る。強迫による取消しの根拠にもなる | 「会社としては、退職という選択肢も含めて一緒に考えたいと思っています」 |
| 「君の居場所はもうない」「給料泥棒だ」 | 人格の否定。パワハラにも当たる | 「〇月の目標に対して、実績は〇割でした。この状況が続いていることを会社として懸念しています」 |
| 「家族のためにも辞めた方がいい」 | 私生活への不当な介入 | (家族や私生活には触れない) |
| 「今日中に返事をしてほしい」 | 考える時間を与えず、自由な判断を妨げる | 「1週間ほど考えていただき、〇日にもう一度お話しさせてください」 |
| 「退職届を書くまで帰さない」 | 長時間の拘束。違法性が極めて高い | 「今日はお伝えするだけで、結論を急ぐ必要はありません」 |
特に注意が必要なのが、解雇をほのめかす言い方です。実際には解雇が有効とされる見込みが乏しいのに「応じなければ解雇」と伝えて退職させた場合、従業員は退職の意思表示を取り消せる可能性があります。
退職させる目的の配置転換・減給・仕事外しはパワハラになる
退職勧奨を拒否した従業員を、見せしめのように閑職へ異動させる、仕事を与えない、合理的な理由なく減給するといった対応は、退職に追い込むための嫌がらせと評価されます。
パワハラの類型の一つである「過小な要求」「人間関係からの切り離し」に当たり得ます。ハラスメントの類型は職場のハラスメント種類一覧で解説しています。

性別・妊娠・育休・障害などを理由にした退職勧奨は禁止
男女雇用機会均等法は、性別を理由とする退職勧奨を禁止しています。妊娠・出産・育児休業の取得などを理由に退職を勧めることや、障害を理由とした差別的な退職勧奨も、それぞれの法律で禁止されています。対象者の選び方そのものが違法になるため、勧奨の理由が業務上の具体的な事実に基づいているかを事前に確認する必要があります。
退職勧奨の進め方

①事前準備:指導・注意の記録をそろえる
退職勧奨の説得力は、それまでの指導の記録で決まります。いつ、どのような問題があり、会社がどう指導し、どう改善しなかったのかを、日付と事実で整理します。口頭の注意だけで書面の記録がない場合は、勧奨の前に書面による指導を行い、一定の改善期間を設けることも検討します。
この記録は、勧奨を拒否されて解雇を検討する段階でも必要になります。懲戒処分の進め方は就業規則違反への正しい対応とはで解説しています。

②方針と退職条件の上限を社内で決める
面談に入る前に、次の点を社内で決めておきます。面談の担当者に決裁権がないと、従業員から条件を求められたときにその場で答えられず、交渉が長引く原因になります。
- 退職勧奨を行う理由(業務上の具体的な事実)
- 提示する退職条件と、上乗せできる金額の上限
- 退職日の目安と、退職日までの業務・有給休暇の扱い
- 回答期限と、面談の最大回数
- 拒否された場合の次の対応(改善指導を続けるのか、配置を見直すのか)
③面談の設計
- 人数:会社側は2名まで(直属の上司と人事担当者など)。1名は記録係にする
- 時間:1回30分〜1時間程度。就業時間内に行う
- 場所:他の従業員に話が聞こえない個室
- 記録:面談後すぐに、日時・出席者・発言の要旨を記録に残す
面談は従業員に録音されている前提で臨みます。録音されて困る発言をしないことが、最大のリスク対策です。
④1回目の面談:理由の説明と退職の提案
1回目の面談では、会社が退職を提案する理由と、退職する場合の条件を伝えます。その場で結論を求めないことが重要です。
【1回目の面談のトーク例】
「今日は、〇〇さんの今後の働き方についてお話ししたくて時間をいただきました。
この1年、〇月と〇月に業務の進め方について指導し、改善の計画も一緒に立てましたが、〇〇の業務では目標の〇割にとどまる状況が続いています。
会社としては、今の職務で〇〇さんの力を生かすのは難しいと考えています。そのうえで、〇〇さんにとって別の環境で力を発揮する道もあると考え、退職という選択肢をご提案したいと思います。
退職を選ぶ場合は、通常の退職金に加えて〇か月分を上乗せし、残っている有給休暇もすべて消化できるようにします。
もちろん、これはご提案であって、応じるかどうかは〇〇さんが決めることです。今日お返事をいただく必要はありません。1週間ほど考えていただき、〇日にもう一度お話しさせてください。」
⑤回答期限の設定と2回目以降の面談
回答期限は1週間程度が目安です。2回目の面談では従業員の考えを聞き、条件について質問や要望があれば検討します。従業員がはっきり断った場合は、同じ内容の勧奨をそれ以上続けないことが原則です。条件を見直して改めて提案する場合も、回数は必要最小限にとどめます。
⑥合意したら、退職届と退職合意書を取り交わす
従業員が退職に同意したら、退職届(または退職願)を提出してもらい、あわせて退職合意書を締結します。詳しくは後述します。
⑦退職日までの業務・引継ぎ・有給休暇の扱い
退職日までの期間に、引継ぎをどこまで求めるか、残っている有給休暇をどう扱うかを決めます。引継ぎが不要であれば、退職日まで出勤を免除して賃金を支払う方法(就業免除)もあります。有給休暇を消化しきれない分を買い取る場合は、その金額も合意書に記載します。
退職条件と解決金の決め方
提示する条件の種類
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 退職金の上乗せ・解決金 | 規程上の退職金に加えて、月給の数か月分を支払う |
| 有給休暇の消化・買取 | 退職日までに消化してもらう。消化しきれない日数を買い取る |
| 就業免除 | 退職日まで出勤を免除し、賃金は支払う。転職活動の時間を確保できる |
| 再就職支援 | 再就職支援会社のサービスを会社負担で提供する |
| 退職日の調整 | 転職先の入社日や賞与の支給日に合わせる |
解決金・上乗せ額の考え方

退職勧奨の解決金に法律上の基準はなく、会社と従業員の合意で決まります。実務では月給の数か月分で設計することが多く、次の要素で増減します。
- 勤続年数と年齢(再就職のしやすさ)
- 仮に解雇した場合に、有効とされる見込みがどの程度あるか
- 指導の記録がどこまでそろっているか
- 従業員が弁護士や労働組合に相談しているか
参考になるのが、紛争になった場合の解決金の水準です。労働政策研究・研修機構の調査では、雇用紛争の解決金の中央値は、月給に換算して労働局のあっせんで1.1か月分、労働審判で4.4か月分、裁判上の和解で6.8か月分でした(労働政策研究報告書No.174、2015年)。
参考:労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析
退職勧奨の段階で合意できれば、紛争にかかる時間や弁護士費用も避けられるため、この水準を一つの目安に、会社として出せる上限を決めておきます。
外資系でよく使われる「パッケージ」とPIP
外資系企業では、退職金の上乗せや有給休暇の買取などをまとめた退職条件を「パッケージ」と呼ぶことがあります。また、退職勧奨の前段階として、業績改善計画(PIP:Performance Improvement Plan)で一定期間の目標を示すことも一般的です。PIPは改善の機会を与えた記録として有効ですが、達成できない目標を課して退職に追い込む手段として使うと、違法な退職強要と評価されるおそれがあります。
退職合意書の作り方と、合意の有効性
退職届だけでは足りない理由
退職届は、従業員が退職の意思を示す書面です。しかし、退職届だけでは、解決金の額や支払日、退職理由の扱い、ほかに請求できるものはないことなどが残りません。後から「上乗せの約束が違う」「未払いの残業代がある」と争われないよう、会社と従業員の双方が署名する退職合意書を必ず取り交わします。
退職合意書に入れる項目
| 項目 | 記載のポイント |
|---|---|
| 退職日と退職の形式 | 「会社の退職勧奨に応じ、合意により退職する」と明記する |
| 解決金・上乗せ退職金 | 金額、支払日、支払方法。税金を差し引くかどうか |
| 有給休暇 | 消化する日数、買い取る日数と金額 |
| 離職理由 | 雇用保険の手続きでは会社都合(退職勧奨)として扱うこと |
| 清算条項 | 合意書に定めるもの以外に、互いに債権債務がないことを確認する |
| 守秘義務・誹謗中傷の禁止 | 合意の内容や会社の情報を口外しない。互いに誹謗中傷しない |
| 貸与品の返却 | パソコン・社員証・資料などの返却期限 |
未払い賃金などの放棄は、従業員の自由な意思に基づくと認められる場合に限り有効とされるため、清算条項を入れただけで請求を封じられるとは限りません。合意書の作成や条件の交渉は、弁護士に依頼するのが安全です。
退職の意思表示は撤回できるか
従業員が退職を申し出た書面が、「辞職」の意思表示なのか、「合意退職の申込み」なのかで、撤回できるかどうかが変わります。
- 辞職の意思表示:会社に届いた時点で効力が生じ、原則として撤回できない
- 合意退職の申込み:会社が承諾するまでは撤回できる
退職勧奨に応じて出された退職届は、合意退職の申込みと扱われるのが一般的です。会社が承諾したといえるには、人事について決定する権限を持つ人が受理したことが必要とされています(大隈鐵工所事件・最高裁昭和62年9月18日判決)。退職届を受け取ったら、権限のある人が速やかに承諾の意思を示し、合意書の締結まで進めることが撤回トラブルの予防になります。
後から無効・取消しを主張されるケース
- 強迫:「応じなければ懲戒解雇にする」などと脅して退職させた場合、取り消される可能性がある
- 錯誤:解雇事由がないのに「このままでは解雇される」と従業員が誤信して退職した場合、取り消される可能性がある
- 心理的な圧迫:長時間の拘束や多人数での面談の末に署名させた場合、自由な意思による合意ではないと判断される可能性がある
どのケースも、面談の進め方と言動に原因があります。前述の判断基準を守ることが、合意の有効性を守ることにもつながります。
解決金の税金・社会保険・離職票の扱い

解決金・上乗せ退職金は「退職所得」として扱うのが一般的
退職に伴って支払う上乗せ退職金や解決金は、一般に退職所得として扱われます。退職所得は退職所得控除が使えるため、給与として支払うより税負担が軽くなります。
このとき、従業員に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらう必要があります。提出がないと、支払額の20.42%を源泉徴収しなければならず、従業員は確定申告で精算することになります。なお、名目を「慰謝料」としても、実態が退職に伴う一時金であれば退職所得と判断されることがあります。名目の決め方は税理士にも確認しておくと安全です。
社会保険料・雇用保険料はかからない
退職金や解決金は、退職を理由として一時的に支払うものなので、健康保険・厚生年金保険の報酬や賞与には当たりません。雇用保険料の対象となる賃金にも含まれないため、保険料はかかりません。賞与支払届の提出も不要です。
離職票の離職理由は「会社都合(退職勧奨)」になる
退職勧奨に応じて退職した従業員は、雇用保険上、事業主から退職するよう勧奨を受けて離職した「特定受給資格者」に当たります。自己都合退職と比べて、失業給付の給付制限がなく、給付日数も多くなる場合があります。離職票の手続きは雇用保険被保険者資格喪失届の書き方で解説しています。

「自己都合にしてほしい」と頼む・書き換えるのは不可
退職勧奨で退職した従業員を、離職票で自己都合として扱うことはできません。従業員が離職票の内容に異議を申し立てれば、ハローワークが事実を確認して離職理由を判定します。事実と異なる離職理由を記載すると、虚偽の届出として問題になるおそれがあります。
会社都合の離職者を出すと、一定期間受けられない助成金がある
雇用関係の助成金の多くは、申請の前後の一定期間に「事業主都合による離職者」がいないことを支給要件にしています。たとえばキャリアアップ助成金(正社員化コース)も、正社員化の前後の一定期間(転換日の前日から起算して、6ヶ月前の日から1年を経過する日までの間)に事業主都合の離職者がいると支給されません。
退職勧奨による退職も事業主都合の離職に当たるため、助成金の申請を予定している会社は、勧奨の時期と申請のスケジュールを事前に照らし合わせる必要があります。キャリアアップ助成金の要件はキャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請方法で解説しています。
の申請方法を社労士が解説|改正後の受給額と不支給を防ぐポイント-300x169.jpg)

従業員が退職勧奨を拒否した場合
拒否の意思が明確になったら、勧奨はいったん止める
従業員がはっきり退職しないと答えた場合は、同じ内容の勧奨を繰り返さないことが原則です。拒否された後も面談を続けたことが、違法と判断された裁判例の共通点だからです。
改善指導・配置転換・降格を検討するときの注意
勧奨を止めた後は、通常の人事管理に戻ります。改善指導を続ける、適性に合った部署へ配置を見直す、評価に応じて等級を見直すといった対応は、業務上の必要性があれば可能です。ただし、勧奨を拒否した直後の不利益な処遇は、報復と受け取られやすいため、理由と根拠を記録に残したうえで行います。
解雇を検討する場合のハードル
改善の見込みがなく解雇を検討する場合は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法16条)。能力不足を理由とする解雇は、十分な指導と改善の機会を与えたことが前提になり、簡単には有効と認められません。解雇の前に、弁護士に有効性の見通しを確認することが欠かせません。
ケース別の注意点
試用期間中の従業員
試用期間中でも、退職勧奨のルールは変わりません。本採用を見送る(本採用拒否)場合は解雇に当たり、通常の解雇よりは広く認められるものの、合理的な理由が必要です。試用期間中に退職勧奨で合意できれば、本採用拒否をめぐる紛争を避けられます。
私傷病で休職中・メンタル不調の従業員
療養中の従業員への退職勧奨は、心身の状態によっては自由な判断ができず、合意の有効性が争われやすくなります。就業規則に休職制度があるなら、休職期間の満了による退職の規定に沿って対応する方が、紛争になりにくいことが多くあります。業務による心理的負荷が原因で休業している場合は、労働基準法19条の解雇制限にも注意が必要です。休職中の社会保険料の扱いは休職中の社会保険料は誰がどう払う?で解説しています。

外国人従業員
- 指導書や退職合意書は、日本語と本人が理解できる言語の併記にする
- 退職後、本人は14日以内に出入国在留管理庁へ所属機関に関する届出が必要になる
- 就労の在留資格で働いている場合、退職後に一定期間その活動を行わないと在留資格の取消しの対象になり得る。転職活動の期間も踏まえて退職日を調整する
- 会社はハローワークへの外国人雇用状況の届出(離職)が必要
在留資格の手続きは、グループの行政書士事務所と連携して対応しています。

【本間 隆裕 | 行政書士】
シキサイ行政書士事務所 代表/altruloopホールディングス グループ
在留資格(就労ビザ)・特定技能・永住/帰化申請など入管業務を専門とする行政書士。不許可案件のリカバリーや在留資格変更・更新にも対応。建設業許可をはじめ、建設・製造・IT・飲食・介護など多業種の許認可申請を支援。
行政書士登録番号:第20092052号
業績悪化による複数人への退職勧奨
業績悪化で複数の従業員に退職を勧める場合は、対象者の選び方の基準を事前に決め、説明できるようにしておきます。全社員を対象に条件を示して応募を募る場合は、希望退職の募集になります。勧奨や希望退職で必要な人数に届かず解雇に進む場合は、整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性)を満たす必要があります。
退職勧奨は誰に相談すべきか(弁護士と社労士の役割分担)
弁護士にしかできないこと
退職条件について会社の代理人として従業員と交渉すること、従業員の代理人弁護士とやり取りすること、紛争になった場合の労働審判・訴訟への対応は、弁護士にしかできません(弁護士法72条)。合意書の作成や、解雇の有効性の見通しの判断も弁護士の領域です。
社労士が担うこと
- 勧奨の前段階での、指導記録の整え方や書面による指導の進め方の助言
- 休職・懲戒・退職に関する就業規則の整備
- 離職票、社会保険・雇用保険の資格喪失などの手続き
- 助成金の申請予定への影響の確認
普通の社労士は従業員との交渉を代理できませんが、特定社会保険労務士は、個別労働紛争の裁判外紛争解決手続(ADR)で代理人になることができます。
面談に弁護士が同席するメリット・デメリット
弁護士が同席すると、法的に問題のある発言を防ぎ、条件交渉をその場で進められます。一方で、従業員が身構えて話し合いが硬くなったり、従業員側も弁護士を立てて対立が深まったりすることもあります。1回目の面談は社内の担当者が行い、弁護士は事前の準備と合意書の作成で関わる形が、実務では多く見られます。
よくある質問
退職勧奨の面談は、何回・何時間までなら大丈夫ですか?
法律に明確な上限はありません。裁判例を踏まえると、1回30分〜1時間程度、回数は2〜3回程度にとどめ、拒否の意思がはっきりした後は続けないことが目安になります。回数や時間だけでなく、言動や面談の人数も合わせて判断されます。
面談を録音されたら、どうなりますか?
従業員が会社に無断で録音した音声も、裁判では証拠として扱われるのが一般的です。録音を禁止するよりも、録音されても問題のない話し方をすることが重要です。会社側も、記録のために録音しておくと、言った・言わないの争いを防げます。
退職勧奨の理由を書面で出すよう求められたら、応じる必要がありますか?
退職勧奨の段階では、理由を書面で出す法律上の義務はありません。ただし、退職後に従業員から請求があれば、退職理由を記載した退職証明書を交付する義務があります(労働基準法22条)。面談で伝えた理由と矛盾しない内容にしておく必要があります。
解決金を払わずに退職勧奨はできますか?
できます。解決金の支払いは法律上の義務ではありません。ただし、条件がなければ従業員が応じる理由は少なく、勧奨が長引く原因になります。合意しやすい条件を最初に示す方が、結果的に負担が小さくなることが多くあります。
パート・アルバイトにも同じ注意が必要ですか?
必要です。退職勧奨の判断基準は雇用形態で変わりません。有期契約の場合は、契約期間の途中で辞めてもらうのか、期間満了で更新しない(雇止め)のかによって、検討すべき点が変わります。
まとめ
- 退職勧奨は、従業員の自由な判断に委ねる限り適法。回数・時間・人数・言動・拒否後の対応で、社会通念上相当な範囲を超えると違法になる。
- 面談の前に、指導記録の整理と、退職条件の上限・回答期限・拒否された場合の対応を社内で決めておく。
- 合意したら退職届と退職合意書を取り交わす。権限のある人が速やかに承諾し、撤回や無効の主張を防ぐ。
- 解決金は退職所得として扱い、退職所得の受給に関する申告書を提出してもらう。社会保険料はかからない。
- 離職理由は会社都合(退職勧奨)になり、自己都合に書き換えることはできない。助成金の申請予定がある会社は、時期を事前に確認する。
社労士事務所altruloopでは、退職勧奨の前段階の指導記録の整え方から、離職票などの手続き、助成金への影響の確認まで対応し、条件の交渉や合意書の作成はグループの弁護士と連携して進めます。