この記事では、混同されやすい変形労働時間制・シフト制・フレックスタイム制の違いから、必要な手続きや自社に合った制度の選び方まで、社労士がわかりやすく解説します。
- 変形労働時間制・シフト制・フレックスタイム制の基本的な違い
- 「シフト制」と変形労働時間制はどう違うのか
- 「フレックスタイム制」と変形労働時間制はどう違うのか
- 制度ごとに必要な手続き(36協定・労使協定・就業規則)の違い
- 自社にはどの制度が合うのか、選び方の考え方
変形労働時間制・シフト制・フレックスタイム制の違い

3つの言葉が混同されるのは、性質の異なるものが同じ土俵で語られているからです。
3つの制度の違い
| 項目 | 変形労働時間制 | シフト制 | フレックスタイム制 |
|---|---|---|---|
| 法律上の制度か | ○(労基法上の制度) | ×(勤務の組み方の通称) | ○(労基法上の制度) |
| 労働時間を決める人 | 会社が事前に決める | 会社が時間帯を割り振る | 従業員が始業・終業を決める |
| 対象期間の考え方 | 1ヶ月・1年・1週間単位 | 特になし | 清算期間(最大3ヶ月) |
| 残業の考え方 | 期間平均で法定内なら特定日の8時間超も残業扱いにならない | 通常の法定労働時間ルールがそのまま適用 | 清算期間の総労働時間が法定枠を超えた分が残業 |
| 導入手続き | 就業規則または労使協定(単位により届出) | 制度としての特別な手続きはない | 就業規則+労使協定(清算期間1ヶ月超は届出) |
変形労働時間制は「会社が期間内でならす」制度、シフト制は「時間帯を交代で割り振る」運用の呼び方、フレックスタイム制は「従業員が始業終業を決める」制度になります。
「制度」と「働き方の呼び方」が混ざっている
間違えやすい要因としては、法律上の制度である変形労働時間制・フレックスタイム制と、単なる勤務の組み方の通称であるシフト制が、区別されずに語られているためです。
では、最も混同されやすいフレックスタイム制とシフト制の違いを解説していきます。
変形労働時間制とシフト制の違い
「シフト制」は法律上の制度ではなく勤務の組み方
シフト制は複数人で時間帯を交代しながら勤務を割り振る運用の通称であり、労働基準法に定められた労働時間制度ではありません。
飲食・小売・介護・医療など、営業時間が長い業種で「早番・遅番」を組む場面がその典型です。
重要なのは、シフト制それ自体には、1日8時間・1週40時間という法定労働時間の総枠をゆるめる効果がまったくないということ。シフトを組んでいるかどうかと、残業代が発生するかどうかは、別の問題として考える必要があります。
変形労働時間制は「残業の考え方」を変える制度

一方、変形労働時間制は労働基準法(第32条の2ほか)に定められた制度で、一定期間の労働時間を平均して法定内に収まっていれば、繁忙期に1日8時間を超えて働いても、その超過分を直ちに残業(時間外労働)として扱わなくてよい制度になります。
たとえば月末が忙しい会社であれば、1ヶ月単位の変形労働時間制を使い、月末の所定労働時間を長めに、月初を短めに設定できます。これにより、月内で山と谷をならして残業代の発生を抑えられます。シフト制という「割り振り方」だけでは、この効果は得られません。
シフト制と変形労働時間制は組み合わせられる
シフト制と変形労働時間制は「どちらを選ぶか」という関係ではなく、重ねて使える概念です。
実際の現場では、シフト制で人を各時間帯に割り振りながら、その土台として変形労働時間制を導入し、繁閑に応じた所定労働時間を設定して残業を管理する、という併用が数多く見られます。
社会保険労務士 野澤惇「シフト制を採用している会社が、あわせて変形労働時間制を導入する」形が一般的です。
変形労働時間制とフレックスタイム制の違い
労働時間を「誰が決めるか」かの違い
両者の最大の違いは、各日の労働時間を決める主導権が正反対にあることです。
変形労働時間制では、会社があらかじめ「この日は7時間、この日は9時間」と各日の所定労働時間を決めます。これに対しフレックスタイム制(労基法第32条の3)では、従業員が自分の判断で始業・終業の時刻を決めます。会社主導か、従業員主導か。この違いが、両制度を分ける根本にあります。
残業(時間外労働)の考え方の違い
残業の判定基準も異なります。変形労働時間制では、あらかじめ定めた所定労働時間や、期間全体の総枠を超えて働いた分が時間外労働になります。
フレックスタイム制では、日々の長短は問わず、清算期間(最大3ヶ月)における実労働時間が、その期間の法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働として扱われます。1日単位でなく、期間全体の合計で残業を判断する点がフレックスの特徴です。
向いている働き方・職種の違い
変形労働時間制は、月内や年内で繁閑の波がある現場、シフト勤務のある業種に向いています。会社が業務量を見越して各日の労働時間を設計できるためです。
フレックスタイム制は、始業終業を各自に委ねても業務が回る、裁量の大きいオフィスワークや専門職に向いています。制度の狙いが「時間配分の自由」にあるため、成果を時間で管理しにくい職種と相性が良いといえます。
制度ごとに必要な手続きの違い【36協定・労使協定・就業規則】
36協定はどの制度でも必要になる場合がある
36協定が必要かどうかは「どの労働時間制度を採用しているか」ではなく、「時間外労働・休日労働をさせるかどうか」で決まります。
36協定(労基法第36条に基づく労使協定)は、法定労働時間を超える残業や、法定休日の労働をさせる場合に必要な手続きです。
したがって、変形労働時間制でもフレックスタイム制でも、それぞれの枠を超えて働かせる可能性があるなら、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要になります。
変形労働時間制と36協定の関係
変形労働時間制を導入していても、あらかじめ定めた所定労働時間や期間の総枠を超えて残業させるのであれば、36協定が必要です。
「変形労働時間制を入れたから残業の届出はいらない」というのは誤りです。変形制はあくまで残業の「起点」となる所定労働時間を柔軟に設計する制度であり、その起点を超える労働には別途36協定が要ります。
フレックスタイム制と36協定の関係
フレックスタイム制でも同様です。
清算期間の法定総枠を超える時間外労働が生じるのであれば、36協定の締結・届出が必要になります。従業員が自分で時間を決められるからといって、残業の手続きが免除されるわけではありません。
制度導入そのものに必要な手続きの違い
一方で、制度を導入するための手続きは、制度ごとに要件が異なります。
| 制度 | 導入に必要な手続き | 労基署への届出 |
|---|---|---|
| 変形労働時間制(1ヶ月単位) | 就業規則 または 労使協定 | 労使協定で定めた場合は届出が必要 |
| 変形労働時間制(1年単位) | 労使協定(必須) | 届出が必要 |
| フレックスタイム制 | 就業規則(規定)+労使協定 | 清算期間が1ヶ月を超える場合に届出が必要 |
なお、常時10人以上の従業員がいる事業場では就業規則の作成・届出義務がある点や、1年単位の変形労働時間制には労働日数や連続労働日数の上限といった細かな要件がある点にも注意が必要です。
自社の人数や運用実態によって要否や様式が変わるため、実際の導入時には個別に確認することをおすすめします。
自社に合う制度の選び方
繁閑の波があるなら変形労働時間制
月内・年内で忙しさに波がある事業には、変形労働時間制が向いています。選択の目安は波の周期です。
月末集中や週内での偏りが中心なら1ヶ月単位、季節による繁忙期・閑散期がはっきりしているなら1年単位、というように、繁閑の周期に合わせて単位を選びます。



小売・飲食・宿泊・製造・建設など、時期によって業務量が読みやすい業種と相性が良い制度です。
従業員に時間の裁量を持たせたいならフレックス
始業・終業を各自の判断に委ねたい場合は、フレックスタイム制が適しています。
通勤ラッシュを避けたい、育児や介護と両立させたい、成果で評価しやすい職種で自律的に働いてほしい、といったニーズに応えられます。
開発職・企画職・管理部門など、時間の使い方に裁量を持たせても業務が回る職場と相性が良いです。
迷ったら社労士に相談するのが確実
制度の選択、必要な36協定・労使協定・就業規則の整備、そして残業代の計算までを正確に行うには、専門的な判断が欠かせません。制度を誤って運用すると、未払い残業代や届出漏れといったリスクになります。
自社の勤務実態に本当に合う制度はどれか、どの手続きが必要かは、社会保険労務士に相談して整理するのが確実です。



制度設計から就業規則・労使協定の整備、届出まで、実態に即した形で進められます。
変形労働時間制とほかの制度の違いに関するよくある質問
シフト制と変形労働時間制は同じものですか?
同じではありません。シフト制は勤務時間帯の割り振り方を指す通称で、法律上の制度ではありません。変形労働時間制は労働基準法上の制度で、残業の考え方をならす効果があります。両者は併用できる別々の概念です。
変形労働時間制とフレックスタイム制はどちらが自由ですか?
従業員側の自由度が高いのはフレックスタイム制です。始業・終業の時刻を従業員自身が決められます。変形労働時間制は会社が各日の労働時間をあらかじめ決めるため、時間配分の主導権は会社側にあります。
変形労働時間制を導入すれば36協定は不要ですか?
不要にはなりません。あらかじめ定めた所定労働時間や期間の総枠を超えて残業させる場合は、変形労働時間制でも36協定の締結・届出が必要です。36協定の要否は制度の種類ではなく、残業や休日労働をさせるかどうかで決まります。
シフト制だけでも残業代を抑えられますか?
シフト制そのものに残業代を抑える効果はありません。シフトは人の割り振り方にすぎず、法定労働時間の総枠を変えないためです。残業の発生を抑えたい場合は、シフト制に加えて変形労働時間制の導入を検討する必要があります。
自社にどの制度が合うか分かりません。どう選べばよいですか?
まずは繁閑の波の有無と、従業員に時間の裁量を持たせたいかを整理するのが良いでしょう。
波があるなら変形労働時間制、裁量を重視するならフレックスタイム制が基本の考え方になります。判断に迷う場合や手続きの整備まで含めて任せたい場合は、社労士に相談すると確実です。
まとめ
- シフト制は法律上の制度ではなく勤務の組み方の通称で、変形労働時間制のように残業をならす効果はない
- 変形労働時間制は会社が事前に労働時間を決める制度、フレックスタイム制は従業員が始業終業を決める制度で、主導権が逆
- 36協定は制度の種類ではなく残業・休日労働の有無で必要になり、変形でもフレックスでも必要になる場合がある
- 制度を導入する手続き(就業規則・労使協定・届出)は制度ごとに要件が異なる
- 自社の勤務実態に合う制度選びと手続きの整備は、社労士への相談が確実
自社に最適な制度の選定や整備でお悩みの際は、専門家へのご相談をご検討ください。









