1年単位の変形労働時間制とは?要件・年間カレンダーの作り方・残業代まで社労士がわかりやすく解説

1年単位の変形労働時間制は、1年以内の期間で労働時間をならし、季節的な繁閑に対応できる制度です。

ただし、1ヶ月単位よりも要件が厳しく、労働日数や連続勤務に上限があり、年間カレンダーの作成も必要になります。

この記事では、1ヶ月単位との違い、特有の要件、カレンダーや労使協定の作り方、残業代の計算までを社労士が解説します。

この記事でわかること
  • 1年単位の変形労働時間制の仕組みと、1ヶ月単位との違い
  • 1年単位ならではの要件(労働日数・連続労働日数・1日1週の上限)
  • 年間カレンダー(労働日・休日)の作り方
  • 導入手続き(労使協定・就業規則・労基署への届出)
  • 残業代の計算方法と、運用を誤ったときのリスク
目次

1年単位の変形労働時間制とは?

1年以内の期間で労働時間をならす制度

1年単位の変形労働時間制とは、1ヶ月を超え1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内であれば、繁忙期に法定労働時間を超えて働かせても残業として扱わなくてよい制度です。

季節によって忙しさが大きく変わる職場で、繁忙期に労働時間を多めに、閑散期に少なめに配分できるのが特徴です。年間という長い単位でならすため、季節的な業務の波に対応しやすい仕組みだといえます。

1ヶ月単位の変形労働時間制との違い

同じ変形労働時間制でも、1ヶ月単位とはいくつかの違いがあります。

項目1ヶ月単位1年単位
対象期間1ヶ月以内1ヶ月超〜1年以内
導入方法就業規則または労使協定労使協定が必須
各日の労働時間の決め方就業規則または労使協定労使協定
週平均所定労働時間の上限40時間40時間
所定労働日数の上限定めなし対象期間が3ヶ月を超えるときは280日以内
変形休日制の適用ありなし(連続所定労働日は原則6日)
1日・1週の上限定めなし1日10時間・1週52時間
連続労働日数定めなし原則6日まで
社会保険労務士 野澤惇

対象期間が長い分、1年単位は労使協定が必須で、労働日数や連続勤務、1日・1週の労働時間に明確な上限が設けられています。

この制度が向いている企業・業種

1年単位が向いているのは、季節で繁閑がはっきり分かれる業種です。

たとえば、製造業、建設業、観光・宿泊業、農業、あるいは確定申告期に業務が集中する税理士事務所などです。1年を通じて忙しい時期がある程度見通せる職場に適しています。

社会保険労務士 野澤惇

一方で1年単位の変形労働時間制は管理が難しく、制度入れただけで自由に働かせられるわけではないためそこは注意してください。

1年単位の変形労働時間制の要件

項目詳細
採用要件労使協定の締結(届出必須)
単位期間1ヶ月超1年以内
1日の所定労働時間の上限1日10時間
1週間の労働時間の上限52時間 ※ただし、週48時間を超える週は
①1連続3週以内 ② 3ヶ月ごとに3週以内
所定労働日数の上限280日以内 ※対象期間が3ヶ月を超えるとき
連続所定労働日数原則6日
時間外労働の基準期間対象期間が3ヶ月を超えるときは1ヶ月42時間、1年320時間

労働日数の上限

項目日数
対象期間1年280日(うるう年の場合も同じ)
対象期間3ヶ月超1年未満280日×対象期間中の暦日数÷365日(端数切捨て)
対象期間3ヶ月以内制限なし

1年単位の変形労働時間制では、対象期間の長さに応じて労働日の上限日数が制限されています。

1日・1週間・対象期間が3ヶ月を超えるときの労働時間の上限

1年単位の変形労働時間制の場合、1日あたりの労働時間は10時間、1週あたりの労働時間は52時間が上限とされています。(隔日勤務のタクシー運転手は16時間まで可能です。)

1日・1週間の労働時間

項目詳細
1日の労働時間の上限10時間
1週間の労働時間の上限52時間
1週間48時間超の週の制限対象期間が3ヶ月を超える時
①連続3週間まで
②3ヶ月以内に3週間まで

次に、1日と1週間の労働時間にも上限があります。

1日の労働時間は10時間、1週間の労働時間は52時間が上限です。

対象期間が3ヶ月を超えるときの労働時間

また、対象期間の総労働時間の上限(法定労働時間の総枠)は以下の計算式で求められます。

計算式をもとに算定した法定労働時間の総枠は下記になります。

項目法定労働時間の総枠
1年(365日)2085.7時間
6ヶ月(183日)1045.7時間
4ヶ月(122日)697.1時間
3ヶ月(91日)520.0時間

連続して働かせられる日数の上限

項目詳細
原則6日
特定期間最長12日

連続して労働させられる日数は、原則として6日までです。ただし、あらかじめ定めた特に忙しい「特定期間」については、例外として最長12日まで連続勤務が可能となります。

原則
特定期間

特定期間とは、繁忙期など、特に忙しい期間について、通常より長い労働時間を設定するためにあらかじめ定める期間です。特定期間中は、1週間あたりの労働時間が48時間を超える週を設定できます。

1年単位の変形労働時間制の残業代の計算方法

日単位の残業時間

1日の所定労働時間が8時間超である場合

あらかじめ定めた所定労働時間を超えた時間について残業時間となります。

社会保険労務士 野澤惇

例えば、1日の所定労働時間を9時間と定めている場合は、9時間を超えて労働した部分について残業時間となります。

1日の所定労働時間が8時間未満の場合

8時間を超えて労働した部分について残業時間となります。

社会保険労務士 野澤惇

例えば、1日の所定労働時間を7時間としている場合には、8時間を超えて労働した部分について残業時間となります。

週単位の残業時間

1週の所定労働時間が40時間超である場合

あらかじめ定めた所定労働時間を超えた時間について残業時間となります。

社会保険労務士 野澤惇

例えば、週所定労働時間が45時間と定めている場合、45時間を超えて労働した部分について残業時間となります。

1週の所定労働時間が40時間未満の場合

週40時間を超えて労働した部分について残業時間となります。
例えば、週所定労働時間が38時間と定めている場合、40時間を超えて労働した部分について残業時間となります。

週の残業時間を計算する際に、日単位で発生した残業時間は除いて計算します。

対象期間の残業時間

対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間を計算します。

日単位、週単位で発生した残業時間は除いて計算します。

中途入社・退職者の取り扱い

中途入社や退社の場合は、在籍した期間中の法定労働時間の総枠と実働労時間を比較して残業時間を算出します。

年間カレンダー(労働日・休日)の作り方

1年単位で特に重要になるのが、年間の勤務カレンダーです。

変形労働時間制カレンダーとは

変形労働時間制カレンダーとは、対象期間の各日について、労働日か休日か、また労働時間を事前に定めた年間の勤務予定表です。

1年単位では、原則として対象期間が始まる前に、全期間分の労働日と労働時間を特定しておく必要があります。「その都度決める」という運用は認められません。このカレンダーが、制度運用の土台となります。

カレンダー作成の手順とポイント

カレンダーは、次の手順で作成します。

総労働時間の枠を計算する

はじめに、対象期間に働かせられる総労働時間の上限を算出します。

対象期間の暦日数をもとに、平均して週40時間以内となる総枠を計算し、その範囲内で各日の労働日・労働時間を配分していきます。この総枠を超えることはできません。

繁忙期・閑散期に労働時間を配分する

次に、その枠の中で繁忙期と閑散期に労働時間を振り分けます。

繁忙期には長めの労働時間を、閑散期には短めの労働時間や休日を割り当てます。ただし、前述した労働日数・連続勤務・1日1週の上限といった要件を、すべて満たす形で組む必要があります。

カレンダーを後から変更できるか

作成したカレンダーは、原則として後から自由に変更できません。

各日の労働日・労働時間は事前に特定しておくのが原則です。対象期間を区分し、区分ごとに労働日数と総労働時間を定めておく方法もありますが、その場合も一定の要件を満たす必要があります。安易な変更は制度が無効と判断される原因になります。

カレンダーができたら、導入の手続きに進みます。

1年単位の変形労働時間制の導入手続き

制度を有効に導入するには、定められた手続きが必要です。

労使協定の締結(1年単位では必須)

1年単位では、労使協定の締結が必須です。

労使協定には、対象となる労働者の範囲、対象期間、労働日と労働日ごとの労働時間(=カレンダー)、対象期間中の特定期間、協定の有効期間などを定めます。1ヶ月単位は就業規則だけでも導入できましたが、1年単位は労使協定がなければ導入できない点に注意が必要です。

要件
  1. 対象労働者の範囲
  2. 対象期間と起算日
  3. 特定期間
  4. 労働日と労働日ごとの労働時間(特例あり)
  5. 労使協定の有効期間
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就業規則への規定

労使協定とあわせて、就業規則にも制度を規定します。

始業・終業時刻や休憩、休日などについて、労使協定の内容と整合するように就業規則を整えます。両者の内容が食い違わないようにすることが大切です。

社会保険労務士 野澤惇

就業規則への改定は社労士に依頼するのがおすすめです。

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労働基準監督署へ届け出る

締結した労使協定は、労働基準監督署へ届け出ます。

所轄の労働基準監督署に労使協定を届け出て、初めて有効に運用できます。届出を怠ると、制度が認められないおそれがあるため、忘れずに行いましょう。

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運用を誤ったときのリスクと正しく運用するポイント

最後に、運用を誤った場合のリスクと、正しく運用するためのポイントを確認します。

要件を満たさないと制度が無効になる

もっとも大きいのが、制度が無効になるリスクです。

労働日数や連続勤務、1日1週の上限の違反、カレンダーの事前特定を欠いた運用、労使協定の未届出などがあると、制度そのものが無効と判断されることがあります。その場合、通常の1日8時間・週40時間を基準に残業代を計算し直すことになり、過去にさかのぼって多額の未払い残業代が発生するおそれがあります。

1年単位は特に要件が多く、専門的なチェックが有効

1年単位は、1ヶ月単位よりも要件が多く複雑です。

労働日数の上限、連続勤務の制限、1日1週の上限、年間カレンダーの特定、労使協定の届出と、確認すべき点が数多くあります。自己流での運用はリスクが高く、要件を一つでも満たせていないと制度全体が無効になりかねません。

導入・運用を社労士に相談するメリット

こうしたリスクを避けるには、社会保険労務士への相談が有効です。

社労士に依頼すれば、自社に合った制度設計から、年間カレンダーの作成、労使協定・就業規則の整備、労基署への届出、残業代の計算まで任せられます。要件の多い1年単位だからこそ、専門家とともに整えることで、安心して運用できます。

1年単位の変形労働時間制に関するよくある質問

1年単位の変形労働時間制とは、簡単に言うとどんな制度ですか?

1年以内の期間で労働時間をならす制度です。

期間を平均して週40時間以内であれば、繁忙期に法定時間を超えて働かせても残業扱いにしなくてよい仕組みで、季節で忙しさが変わる職場に向いています。

1ヶ月単位とは何が違いますか?

1年単位は対象期間が最長1年で、労使協定が必須です。さらに、労働日数(原則年280日)、1日10時間・週52時間、連続6日までといった上限があり、1ヶ月単位より厳格です。

年間の労働日数や連続勤務に上限はありますか?

あります。

対象期間が3ヶ月を超える場合、年間の労働日数は原則280日が上限です。連続して働かせられるのは原則6日まで(特定期間は例外あり)です。

導入に労使協定は必須ですか?就業規則だけではだめですか?

労使協定が必須です。

1年単位は、就業規則だけでは導入できません。労使協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。就業規則にも制度を規定し、内容を整合させます。

期間の途中で入社・退職した人の残業代はどうなりますか?

実際に働いた期間に応じて精算します。

対象期間の途中で入退社した従業員は、その期間を平均して週40時間を超えた分について、割増賃金を支払う必要があります。精算漏れが起きやすいため注意が必要です。

まとめ

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月を超え1年以内の期間で労働時間をならし、季節的な繁閑に対応できる制度です。ただし、1ヶ月単位と違って労使協定が必須で、労働日数(原則年280日)、1日10時間・週52時間、連続6日までといった上限があります。

対象期間の労働日と労働時間は年間カレンダーで事前に特定し、労使協定を締結して労基署へ届け出る必要があります。要件が多く複雑で、違反は制度の無効や未払い残業代に直結するため、導入・運用に不安があれば社労士に相談することをおすすめします。

本記事のまとめ
  • 1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月超1年以内で労働時間をならし、季節的な繁閑に対応する制度
  • 1ヶ月単位と違い労使協定が必須で、労働日数(原則年280日)・1日10時間/週52時間・連続6日などの上限がある
  • 対象期間の労働日と労働時間を年間カレンダーで事前に特定する必要がある
  • 労使協定を締結し、労働基準監督署へ届け出て初めて有効に運用できる
  • 要件が多く複雑で、違反は制度無効・未払い残業代に直結するため、社労士への相談が有効
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監修者

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloop代表
社会保険労務士として、建設・介護・医療・IT業界など累計100社以上の労務顧問を担当。 労務DD・就業規則作成・人事評価制度構築・給与計算/社会保険手続きなどの実務に精通し、高難易度な労務DD案件も多数対応。
現在は東京都八王子・渋谷を拠点に、全国対応で大手企業からスタートアップまで幅広く支援しています。
登録番号:13250298

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