2025年6月に成立した年金制度改正法により、2028年4月から遺族年金が見直されます。「遺族年金が5年で打ち切られる」「遺族年金が廃止される」といった話を目にして、不安に感じている人も多いはずです。
実際には、影響を受けるのは一部の人で、すでに受け取っている人の年金は変わりません。この記事では、改正で何が変わるのか、自分が対象になるのか、今もらっている人はどうなるのかを、厚生労働省の資料をもとに社会保険労務士が解説します。
- 2028年4月から、60歳未満で配偶者を亡くした子のない人の遺族厚生年金が、男女とも原則5年間の有期給付になる。
- 女性で施行直後に対象になるのは、2028年度末時点で40歳未満(1989年4月2日以降生まれ)の人。2028年度に40歳以上になる女性は対象外。
- すでに受け取っている人、60歳以降に配偶者を亡くした人、子を育てている間の給付は変わらない。遺族年金は廃止されない。
- 5年間の金額は今の約1.3倍に増え、収入が少ない人や障害のある人は5年後も最長65歳まで継続給付を受けられる。
- このほか、中高齢寡婦加算の段階的な縮小、子の加算額の引き上げ(1人年281,700円)、死亡分割の創設などがある。

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloopホールディングス 代表
人事労務DD(人事労務デューデリジェンス)・IPO準備の労務監査/労務是正を強みとする戦略コンサルティングファーム出身の社会保険労務士。建設・製造・飲食・小売・人材派遣・SES・IT・医療・介護・医薬品・不動産・投資ファンドなど多業種の労務顧問、就業規則作成、人事評価制度構築にも対応。
登録番号:13250298
あなたは対象?改正の影響の早見表

| あなたの状況 | 改正の影響 |
|---|---|
| すでに遺族厚生年金を受け取っている | 影響なし(今の給付がそのまま続く) |
| 2028年3月までに配偶者を亡くした | 影響なし(改正前の制度で支給) |
| 60歳以上で配偶者を亡くした | 影響なし(男女とも無期給付) |
| 2028年度に40歳以上になる女性(1989年4月1日以前生まれ) | 遺族厚生年金の期間は影響なし(無期給付)。新たに発生する中高齢寡婦加算は縮小 |
| 18歳年度末までの子を育てている | 子が18歳年度末を迎えるまでは影響なし。その後は5年間の有期給付(増額)+継続給付 |
| 2028年度末に40歳未満で、子のない女性 | 原則5年間の有期給付(今の約1.3倍に増額)+継続給付 |
| 60歳未満で、子のない男性 | 今は55歳未満だと受け取れないが、新たに5年間の有期給付を受け取れる |
女性で新たに5年の有期給付の対象になるのは、2028年度末時点で40歳未満で、18歳年度末までの子がいない人です。厚生労働省の推計では、新たに対象となる30代の女性は年間約250人です(20代の女性は今も5年間の有期給付です)。一方、新たに5年間の遺族厚生年金を受けられるようになる男性は、年間約1万6,000人と推計されています。
2028年4月の改正で何が変わる

| 項目 | 今の制度 | 2028年4月から |
|---|---|---|
| 子のない妻の遺族厚生年金 | 30歳未満は5年間、30歳以上は無期 | 60歳未満は原則5年間(女性は対象年齢を20年かけて段階的に引き上げ)、60歳以上は無期 |
| 子のない夫の遺族厚生年金 | 55歳未満は受け取れない。55歳以上は60歳から無期 | 60歳未満は5年間、60歳以上は無期(男女の差がなくなる) |
| 有期給付の金額 | 報酬比例部分の4分の3 | 有期給付加算(報酬比例部分の4分の1)が加わり、約1.3倍 |
| 5年後 | (30歳未満の妻は終了) | 障害のある人・収入が少ない人は、最長65歳まで継続給付 |
| 収入要件(年収850万円未満) | あり | 有期給付では廃止。生計を同じくしていれば収入にかかわらず受給できる |
| 死亡分割 | なし | 亡くなった配偶者との婚姻期間の厚生年金記録を分割し、自分の老齢厚生年金を増やせる |
| 中高齢寡婦加算 | 40〜65歳の妻に年635,500円(2026年度) | 新たに発生する加算は25年かけて縮小し、2053年に廃止 |
| 子の加算額 | 1人目・2人目は各243,800円、3人目以降は各81,300円(2026年度) | 人数にかかわらず1人年281,700円(2024年度価格)。今受け取っている人も対象 |
| 子の遺族基礎年金 | 親が再婚した、親の年収が850万円以上などの場合は受け取れない | 親の事情にかかわらず、子が受け取れるようになる |
「廃止」「5年で打ち切り」は本当?
遺族年金は廃止されない
遺族年金そのものが廃止されることはありません。遺族基礎年金も遺族厚生年金も続きます。段階的に廃止されるのは、遺族厚生年金に上乗せされる「中高齢寡婦加算」です。
全員が5年で打ち切られるわけではない
5年間の有期給付になるのは、60歳未満で配偶者を亡くし、18歳年度末までの子がいない人です。女性については、施行時点では2028年度末に40歳未満の人だけが対象で、その後20年かけて対象年齢が引き上げられます。すでに受け取っている人や、60歳以上で配偶者を亡くした人は無期給付のままです。
5年後に必ずゼロになるわけではない

5年間の有期給付が終わった後も、障害年金を受けられる状態の人や、収入が十分でない人は、増額された遺族厚生年金を最長65歳まで受け取れます(継続給付)。継続給付の目安は次のとおりです。
- 全額支給:単身で、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下
- 一部支給:収入が増えるにつれて、収入と年金の合計が緩やかに増えるよう年金額を調整
- 全額停止:遺族厚生年金の額にもよるが、月額20万〜30万円程度を超えると全額支給停止
厚生労働省は、2025年度の税制改正を反映すると全額支給の目安は年132万円になる見込みで、地方税法上の「寡婦」に当たる人は年204万円程度になるとしています。
今もらっている人はどうなる?
すでに遺族厚生年金を受け取っている人は、改正の影響を受けません。5年で打ち切られることはなく、今の給付がそのまま続きます。すでに受け取っている中高齢寡婦加算も、65歳まで今までどおり支給されます。
一方、子の加算額の引き上げ(1人年281,700円)は、今遺族基礎年金を受け取っている人にも適用されます。子が3人以上いる世帯ほど増額の幅が大きくなります。
5年の有期給付の金額

有期給付の5年間は、今の遺族厚生年金(報酬比例部分の4分の3)に、有期給付加算(報酬比例部分の4分の1)が上乗せされます。報酬比例部分の全額を受け取る形になり、今の約1.3倍の金額です。
| 亡くなった配偶者の平均標準報酬額 | 今の遺族厚生年金 | 改正後の有期給付(5年間) |
|---|---|---|
| 25万円 | 年308,306円(月約2.6万円) | 年411,075円(月約3.4万円) |
| 30万円 | 年369,968円(月約3.1万円) | 年493,290円(月約4.1万円) |
| 40万円 | 年493,290円(月約4.1万円) | 年657,720円(月約5.5万円) |
| 50万円 | 年616,613円(月約5.1万円) | 年822,150円(月約6.9万円) |
※加入期間はすべて2003年4月以降で300月とみなして計算(乗率5.481/1000)。実際の額は年金額の改定で変わります。今の制度での金額の目安は、遺族年金はいくらもらえる?早見表と計算方法で解説しています。

子どもがいる場合はどうなる
18歳年度末までの子がいる間は、遺族基礎年金と遺族厚生年金を今の制度と同じように受け取れます。子の加算額は1人年281,700円に引き上げられます。
子が18歳年度末を迎えた後の扱いが変わります。
- 今の制度:遺族基礎年金は終わるが、遺族厚生年金は無期。40〜65歳の妻には中高齢寡婦加算がつく
- 改正後(対象者):遺族基礎年金が終わった後、遺族厚生年金は5年間の有期給付(約1.3倍)。その後は、収入などの要件を満たせば継続給付
また、親が再婚した、年収850万円以上の親と暮らしている、祖父母の養子になった、離婚していた元配偶者に引き取られたといった場合でも、子が遺族基礎年金を受け取れるようになります。今は、子自身の選択によらない事情で支給が止まることがありました。
夫(男性)はどう変わる
今の制度では、妻を亡くした夫は、そのとき55歳以上でないと遺族厚生年金を受け取れず、支給も60歳からです。改正後は男女の差がなくなり、60歳未満で妻を亡くした子のない夫も、5年間の遺族厚生年金を受け取れるようになります。男性にとっては、保障が広がる改正です。
中高齢寡婦加算の縮小
夫を亡くした40〜65歳の妻の遺族厚生年金に上乗せされる中高齢寡婦加算(2026年度は年635,500円)は、2028年4月から25年かけて段階的に縮小され、2053年に廃止されます。男性には同じ加算がないため、男女差を解消するための見直しです。
すでに中高齢寡婦加算を受け取っている人は影響を受けません。2028年度に40歳以上になる女性も、遺族厚生年金は無期のままですが、2028年4月以降に新たに発生する中高齢寡婦加算は縮小後の額になります。
死亡分割の創設
離婚時の年金分割と同じように、亡くなった配偶者との婚姻期間中の厚生年金記録を分割して、遺された人の記録に上乗せする「死亡分割」が新しくできます。遺された人が65歳から受け取る老齢厚生年金が増えます。
遺族厚生年金を受け取る人の老齢年金の繰下げ
今は、66歳になる前に遺族年金を受け取る権利ができた人は、自分の老齢年金を繰下げて増やすことができません。改正後は、2028年3月31日時点で遺族厚生年金の受給権があり、65歳になっていない人(1963年4月2日以降生まれ)について、次のとおり繰下げができるようになります。
- 老齢厚生年金:遺族厚生年金の請求をしていない場合に限り、繰下げできる
- 老齢基礎年金:遺族厚生年金の請求の有無にかかわらず、繰下げできる
なぜ改正されるのか
今の遺族厚生年金は、「夫が働き、妻が家庭を守る」世帯を前提に、主に夫を亡くした妻を支える制度として作られてきました。共働き世帯が多数になり、女性の就業率も上がったことから、男女の差をなくし、配偶者を亡くした後の生活を立て直す期間を手厚く支える給付へと見直されます。そのため、5年間の金額を増やし、収入が少ない人には継続給付で配慮する形になっています。
改正のスケジュール

| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年6月13日 | 年金制度改正法が成立 |
| 2028年4月 | 遺族年金の見直しを施行。男性は施行時から60歳未満が5年の有期給付の対象。女性は2028年度末に40歳未満の人から対象 |
| 2028年4月から20年 | 女性の有期給付の対象年齢を段階的に60歳未満まで引き上げ |
| 2028年4月から25年(2053年) | 新たに発生する中高齢寡婦加算を段階的に縮小し、廃止 |
よくある質問
50代の妻です。夫が亡くなったら5年で打ち切られますか?
打ち切られません。2028年度に40歳以上になる女性は、5年の有期給付の対象外で、遺族厚生年金は無期のままです。ただし、2028年4月以降に夫が亡くなった場合、新たに発生する中高齢寡婦加算は縮小後の額になります。
65歳以上の遺族年金は変わりますか?
60歳以上で配偶者を亡くした場合は、改正後も無期給付で、65歳以降に自分の老齢厚生年金と調整される仕組みも変わりません。
専業主婦の遺族年金はなくなりますか?
なくなりません。専業主婦かどうかではなく、配偶者を亡くした時の年齢と子の有無で決まります。2028年度末に40歳未満で子のない女性は5年の有期給付になりますが、収入が少なければ継続給付で最長65歳まで受け取れます。
2028年3月までに配偶者が亡くなった場合は?
改正前の制度で支給されます。施行後に受け取り続けても、5年で打ち切られることはありません。
公務員の遺族年金も改正されますか?
公務員の遺族年金も、2015年10月から厚生年金(遺族厚生年金)に一元化されているため、同じように見直しの対象です。
まとめ
- 2028年4月から、60歳未満で配偶者を亡くした子のない人の遺族厚生年金は、男女とも原則5年間の有期給付になる。
- 女性で施行直後に対象になるのは、2028年度末時点で40歳未満の人だけ。すでに受け取っている人や60歳以上で配偶者を亡くした人は変わらない。
- 遺族年金は廃止されない。廃止されるのは中高齢寡婦加算で、2053年にかけて段階的に縮小する。
- 5年間の金額は約1.3倍に増え、収入が少ない人や障害のある人は最長65歳まで継続給付を受けられる。
- 子の加算額の引き上げ、子が遺族基礎年金を受け取れるケースの拡大、死亡分割の創設など、手厚くなる改正もある。
遺族年金の制度全体(もらえる人・手続き)は、遺族年金とは?もらえる人・金額・いつまで・手続きで解説しています。
