会社を設立したり、初めて従業員を雇い入れたりしたとき、まず向き合うことになるのが「労働保険」の加入手続きです。
労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」と呼び、労働者を1人でも雇う事業所は、業種や規模を問わず原則として加入が義務づけられています。
しかし実際に手続きを始めてみると、「成立届はどこに出すの?」「概算保険料の計算方法は?」「ハローワークにも行くの?」と、提出先も書類も多く戸惑う経営者・担当者の方は少なくありません。さらに提出期限を過ぎたり、未手続きのまま労災事故が起きたりすれば、追徴金や費用徴収といったペナルティにもつながります。
本記事では、労働保険の新規加入手続きを 5つのステップ に分けて、提出期限・必要書類・電子申請の方法まで社労士がわかりやすく解説します。

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労働保険とは|労災保険と雇用保険の2つで構成される

労働保険は、「労働者災害補償保険(労災保険)」と「雇用保険」の総称で、どちらも国が運営する公的保険制度です。労働者の業務上・通勤途上のケガや病気、失業などに備えるための制度であり、事業主には加入義務が課されています。
労災保険の基本(強制加入・全額事業主負担)
労災保険は、労働者が業務上または通勤途中でケガ・病気・障害・死亡などに見舞われた際に、本人や遺族に必要な給付を行う制度です。
保険料は全額事業主が負担 するのが特徴で、労働者からの徴収はありません。保険料率は業種ごとの労働災害リスクに応じて定められており、金融業・保険業・不動産業が2.5/1,000と最も低く、建築事業では9.5/1,000と業種によって大きな差があります。令和8年度(2026年度)の労災保険料率は、令和7年度から据え置きとなっています。
※参考:厚生労働省 労災保険料率
労災保険は、正社員だけでなくパート・アルバイト・日雇いを問わず、労働者を1人でも雇用した時点で適用されるため、未加入期間を作らないことが重要です。
雇用保険の基本(加入要件:週20h以上・31日以上見込み)
雇用保険は、労働者が失業した際の生活保障(基本手当)や、育児休業・介護休業中の給付、教育訓練給付などを提供する制度です。保険料は事業主と労働者の双方で負担します。
雇用保険の被保険者となる要件は次の2つを 両方 満たす労働者です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上引き続き雇用される見込みがあること
令和8年度(2026年度)の雇用保険料率は、一般の事業で 13.5/1,000(労働者負担5/1,000、事業主負担8.5/1,000) です。農林水産・清酒製造業および建設業は「特掲事業」として料率が異なり、それぞれ15.5/1,000、16.5/1,000となっています。

※前年度(令和7年度)と比較して0.1%引き下げられています。給与計算ソフトの料率設定の更新漏れに注意しましょう。
一元適用事業と二元適用事業の違い
労働保険には、労災保険と雇用保険の手続きを一体として扱う「一元適用事業」と、それぞれ別個に扱う「二元適用事業」があります。ほとんどの事業所は一元適用事業に該当しますが、次の業種は二元適用事業となります。
- 建設の事業
- 農林の事業(一部)
- 畜産・水産の事業(一部)
- 港湾運送の事業
- 都道府県・市町村等が行う事業
二元適用事業では、労災保険と雇用保険で別々に成立届を提出し、保険料も別個に申告・納付することになるため、一元適用事業よりも手続きがやや複雑になります。
社会保険労務士 野澤惇「労働者を1人でも雇えば、業種・規模を問わず原則加入義務があります。正社員だけでなくパート・アルバイトも対象です。『家族経営だから不要』『短時間だから対象外』という誤解で未手続きになっているケースが非常に多いので、雇用を始める前に加入義務を必ず確認しましょう」
労働保険の加入手続き|全体フローを5ステップで把握する
労働保険の新規加入から初年度の保険料納付、翌年以降の年度更新までを時系列で整理すると、以下の5ステップに分かれます。


ステップ①:労働保険関係成立届の提出(労基署/翌日から10日以内)
労働者を初めて雇い入れた日の翌日から 10日以内 に、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署へ「労働保険関係成立届(様式第1号)」を提出します。これは「私たちは労働保険の適用事業になりました」と国に届け出る最初の手続きで、後続のすべての手続きの起点になります。
法人の場合は登記簿謄本、個人事業主の場合は代表者の住民票を添付します。また、成立届の様式は特殊用紙のためインターネットでダウンロードできず、労働基準監督署かハローワークで入手する必要があります(電子申請の場合は様式の入手は不要)。
詳しい書き方・記入例・電子申請の手順は、別記事「労働保険関係成立届の書き方|記入例・添付書類・電子申請まで社労士が解説」で詳しく解説しています。


ステップ②:概算保険料申告書の提出(翌日から50日以内)
成立届と並行して、保険関係成立日の翌日から 50日以内 に「労働保険概算保険料申告書」を提出し、同時に概算保険料を納付します。
概算保険料とは、その年度末(3月31日)までに労働者に支払う予定の賃金総額の見込額に保険料率を乗じて算出する、1年分の前払い保険料です。実務的には、成立届と同時に労基署へ提出し、最寄りの金融機関(銀行・郵便局)で納付するのが一般的な流れです。
※概算保険料申告書は成立届とは別の様式ですが、同時に作成・提出することで手続きが1回で済みます。
ステップ③:雇用保険適用事業所設置届(ハローワーク/10日以内)
労災保険の手続き(ステップ①・②)が完了したら、次は雇用保険の手続きです。事業所を設置した日の翌日から 10日以内 に、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)へ「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。
この手続きには、ステップ①で労基署に提出した 労働保険関係成立届の控え が必要になるため、成立届の控えは必ず保管しておきましょう。
ステップ④:雇用保険被保険者資格取得届(翌月10日まで)
雇用保険の適用事業所として認められたら、加入対象となる従業員ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。提出期限は、被保険者となった日の属する月の翌月10日まで です。
この手続きにより、従業員一人ひとりに「雇用保険被保険者番号」が発行されます。以降、入社・退社のたびにハローワークでの資格取得・資格喪失の手続きが発生します。
ステップ⑤:翌年以降の年度更新(毎年6/1〜7/10)
加入初年度に概算で納付した保険料は、翌年度に「確定精算+次年度の概算納付」の形で年1回まとめて申告します。これが「年度更新」と呼ばれる手続きで、毎年6月1日から7月10日までの期間 に行います。
※ここで説明した流れは一元適用事業の場合のものです。二元適用事業(建設業等)では、労災保険と雇用保険でそれぞれ別個に年度更新を行う必要があります。
必要書類と添付書類の一覧表
労働保険の加入手続きでは、法人か個人事業主かによって準備する添付書類が異なります。
法人の場合(登記簿謄本、事業場確認書類)
法人が労働保険関係成立届を提出する際に必要な書類は、次のとおりです。
- 労働保険関係成立届(様式第1号)
- 労働保険概算保険料申告書
- 法人登記簿謄本(登記事項証明書) ※コピーで可
- 事業場の確認書類(賃貸借契約書のコピーなど、登記上の本店所在地と実際の事業所所在地が異なる場合)
- 労働者名簿・賃金台帳



雇用保険の適用事業所設置届の際には、これらに加えて「労働保険関係成立届の控え(監督署で受理済みのもの)」が必要です。
個人事業主の場合(住民票、事業場確認書類)
個人事業主の場合は、法人登記簿謄本に代えて次の書類を用意します。
- 労働保険関係成立届(様式第1号)
- 労働保険概算保険料申告書
- 代表者の住民票(または運転免許証のコピー)
- 事業場の確認書類(賃貸借契約書、公共料金の請求書など)
- 労働者名簿・賃金台帳
各様式の入手方法
労働保険関係成立届の様式は、特殊用紙(OCR用紙) が使われているため、インターネット上でダウンロードした様式は原則として使用できません。必ず以下のいずれかの方法で入手してください。
- 管轄の労働基準監督署・ハローワーク・労働局の窓口で受け取る
- 電話で連絡して郵送してもらう
- e-Govで電子申請する(この場合は紙の様式は不要)
厚生労働省や各労働局のウェブサイトに掲載されているのは 記入例・サンプル であり、申請用紙として使用することはできない点に注意しましょう。
提出先と提出方法|窓口・郵送・電子申請の違い
労働保険の加入手続きは、労働基準監督署とハローワークで手続きが分かれます。それぞれの役割と提出方法を整理しましょう。
労働基準監督署とハローワークの役割分担
労働基準監督署は 労災保険 を、ハローワーク(公共職業安定所)は 雇用保険 を、それぞれ所管しています。一元適用事業の場合でも、成立届と概算保険料申告書は労基署、雇用保険適用事業所設置届と被保険者資格取得届はハローワーク、というように提出先が分かれるため、それぞれの期限を意識した動きが必要です。
※労基署の窓口は平日8時30分〜17時15分のみ対応。土日祝・年末年始は閉庁のため、繁忙期のスケジュール管理には注意が必要です。
e-Gov電子申請のメリット(24時間受付・グループ申請対応)


※参考:e-Govポータル
e-Govはデジタル庁が運営する電子申請システムで、労働保険の各種手続きをインターネット経由で提出できます。主なメリットは次のとおりです。
- 24時間365日いつでも申請可能(窓口の開庁時間に縛られない)
- 申請の処理状況や受理通知をマイページで確認できる
- 労働保険関係成立届・雇用保険適用事業所設置届・健康保険/厚生年金新規適用届を 同時に「グループ申請」 できる
- 特殊用紙の入手が不要
特にグループ申請は、会社設立直後のように複数の手続きが集中する場面で、提出漏れや書類不備を防ぐ強力な手段になります。
GビズIDがあれば電子証明書不要で申請可能
従来、e-Govでの電子申請には電子証明書(マイナンバーカードやICカード)が必要でした。しかし現在は GビズIDプライム のアカウントがあれば、電子証明書なしで労働保険関係の電子申請が可能になっています。
GビズIDプライムは1つのアカウントで複数の行政サービスを横断的に利用できるIDで、取得費用も無料です。会社設立時に取得しておくと、その後の労働・社会保険手続きや補助金申請などにも幅広く使えるため、早期の取得をおすすめします。
GビズIDプライムの取得は経済産業省のこちらのPDFを参考にしてください。
加入手続きを怠るリスクと社労士に委託するメリット
労働保険の加入手続きを怠った場合、事業主には想像以上に重いペナルティが科されます。
未手続き期間に労災事故が起きた場合の費用徴収(最大100%)
労働保険の成立手続きを行わないまま労災事故が発生した場合、事業主は「費用徴収制度」の対象となり、労災保険給付額の40%または100% を国から徴収されます。
- 故意に手続きを行わなかった場合:給付額の100%を徴収 (行政からの指導を受けたにもかかわらず10日以内に届出しなかった場合も、原則として「故意」と認定されます)
- 重大な過失により手続きを行わなかった場合:給付額の40%を徴収 (労働者を雇用してから1年以上経過しても届出をしなかった場合に適用)
たとえば遺族補償一時金として1,000万円の給付が発生すれば、故意と認定された場合は全額1,000万円、重過失でも400万円が事業主負担となります。経営へのインパクトは甚大です。
保険料の遡及徴収・追徴金
費用徴収とは別に、未手続き期間中の労働保険料も 最大2年分まで遡って徴収 されます。さらに、遅延に対するペナルティとして 10%の追徴金 が上乗せされます。
加えて、労働保険の加入義務を定める労働保険徴収法に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 という刑事罰の規定も設けられています。
労働保険事務組合・社労士委託の選択肢
労働保険の手続きは、自社で対応するほかに 労働保険事務組合 や 社会保険労務士(社労士) に委託する方法があります。
- 労働保険事務組合:中小事業主が組合に事務を委託する制度。事業主・役員も特別加入できるメリットがある
- 社労士への委託:成立届・概算保険料申告・年度更新に加えて、労務相談・就業規則整備・助成金申請なども一体で依頼できる
特に会社設立期は、労働保険以外にも健康保険・厚生年金の新規適用、就業規則の作成、給与計算の立ち上げなど、労務関連タスクが集中する時期です。コア業務に専念するためにも、専門家への委託は費用対効果の高い選択肢といえます。
労働保険の加入手続きに関するよくある質問
労働保険の加入手続きはいつまでにすればよい?
労働者を初めて雇い入れた日(保険関係成立日)の 翌日から10日以内 に、労働保険関係成立届を管轄の労働基準監督署へ提出します。
同時に、翌日から50日以内に概算保険料申告書の提出と保険料納付も必要です。雇用保険の適用事業所設置届もハローワークに10日以内に提出します。
役員のみの会社でも加入は必要ですか?
原則として、労働者を1人も雇用していない役員のみの会社では、労働保険への加入義務はありません。ただし、役員でも「兼務役員(使用人兼務役員)」として実態が労働者に該当する場合は、その労働者部分について労働保険の対象となります。パート・アルバイトを1人でも雇用した時点で、加入義務が発生します。
建設業の場合はどう違いますか?
建設業は「二元適用事業」に該当するため、労災保険と雇用保険をそれぞれ別個に手続きします。また、建設業の労災保険は工事現場ごとに保険関係が成立する「有期事業」として扱われるケースもあり、継続事業とは様式や保険料計算方法が異なります。元請・下請の関係により、下請の労働者の労災は元請の労災保険で処理される点も特殊です。
手続きを忘れていた場合はどうすればよい?
気づいた時点で、速やかに管轄の労働基準監督署へ相談し、成立手続きを行ってください。自主的に申告した場合と、行政の指導や調査で発覚した場合では、費用徴収の扱いが大きく変わります。自主申告なら「故意」ではなく「重過失」として扱われる可能性が高く、ペナルティを軽減できる余地があります。いずれにせよ、発覚前の自主対応が鉄則です。
社労士に依頼した場合の費用相場は?
新規適用手続き(成立届・概算保険料申告書・雇用保険設置届の一式)の代行費用は、一般的に 5万円〜15万円 程度が相場です。加えて、毎年の年度更新や月次の入退社手続きを含む顧問契約を結ぶ場合は、従業員数に応じて月額2万円〜10万円程度が目安となります。
まとめ
労働保険(労災保険+雇用保険)は、労働者を1人でも雇う事業所に原則として加入が義務づけられている、会社設立期の最優先タスクです。
- ステップ①労働保険関係成立届(労基署/10日以内)
- ステップ②概算保険料申告書(労基署/50日以内)
- ステップ③雇用保険適用事業所設置届(ハローワーク/10日以内)
- ステップ④雇用保険被保険者資格取得届(翌月10日まで)
- ステップ⑤翌年度以降の年度更新(毎年6/1〜7/10)
これらの手続きを期限内に行わず、未手続き期間中に労災事故が発生した場合、給付額の40〜100%の費用徴収+遡及保険料+10%追徴金 という重いペナルティが科されます。会社設立期の「うっかり」では済まされない規模の負担になるため、雇用を始めた段階で速やかに動き出すことが何より重要です。
電子申請(e-Gov+GビズID)やグループ申請を活用すれば、手続きの負担は大きく軽減できますが、それでも会社設立期は労務関連タスクが集中する時期です。自社で抱え込まず、労働保険事務組合や社労士などの専門家を活用することも、安心して事業を軌道に乗せるための有効な選択肢となります。
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