初めて従業員を採用した、あるいは支店を新しく設けた——そんなタイミングで「雇用保険適用事業所設置届」の提出が必要になります。しかし実際に書いてみようとすると、「どこに何を書くのか」「どの順番で手続きを進めればいいのか」「添付書類は何が必要なのか」と、疑問が次々と出てくるものです。
この記事では、社会保険労務士が書類の各項目の記入例から添付書類、手続きの順番、支店新設のケース、電子申請の手順まで、実務担当者がつまずきやすいポイントをひとつずつ丁寧に解説します。
- 雇用保険適用事業所設置届を提出すべきタイミングと、設置届・資格取得届の関係
- 労基署→ハローワークの正しい手続き順と、その理由
- 各項目の書き方と具体的な記入例(支店・営業所の新設ケースを含む)
- 労働保険番号の調べ方・取得方法
- 電子申請(e-Gov)の手順と提出時の注意点

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloop代表
社会保険労務士として、建設・介護・医療・IT業界など累計100社以上の労務顧問を担当。 労務DD・就業規則作成・人事評価制度構築・給与計算/社会保険手続きなどの実務に精通し、高難易度な労務DD案件も多数対応。
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雇用保険適用事業所設置届とは
どんな時に提出が必要か
雇用保険適用事業所設置届は、雇用保険の被保険者となる労働者を初めて雇い入れた際に、会社(事業所)をハローワークに登録するために提出する書類です。
雇用保険の被保険者となる労働者とは、次の2つの条件を両方満たす人のことです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上継続して雇用される見込みがある
この条件に該当する従業員を雇い入れたとき、その事業所は「雇用保険の適用事業所」となり、ハローワークへの届出義務が発生します。パートタイムや契約社員も上記の条件を満たせば対象です。
また、本社とは別に支店や営業所を新設して、そこに初めて被保険者が勤務するようになった場合にも、支店単独での届出が必要になります。
提出先は事業所の所在地を管轄するハローワークで、提出期限は適用事業所を設置した日(被保険者となる従業員を初めて雇い入れた日)の翌日から10日以内です。正当な理由なく手続きを怠った場合は、雇用保険法第83条に基づき、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。
設置届と資格取得届の関係
混乱しやすいのが、設置届と「雇用保険被保険者資格取得届」の違いです。それぞれの役割を整理すると次のとおりです。
| 書類名 | 役割 |
|---|---|
| 雇用保険適用事業所設置届 | 会社・事業所そのものが雇用保険の適用事業所として登録される手続き |
| 雇用保険被保険者資格取得届 | 個々の従業員を雇用保険の被保険者として登録する手続き |
どちらもハローワークへの提出が必要で、実務上は両方をセットで同時に提出するのが一般的です。設置届が受理されてから資格取得届の処理が進む仕組みになっているため、初回は設置届を先に、または同時に提出するようにしましょう。
手続きの全体像
なぜ労基署が先か
雇用保険適用事業所設置届の記入欄には「労働保険番号」を書く項目があります。この番号は、先に労働基準監督署(以下、労基署)へ届出を行うことで取得できるものです。
つまり、ハローワークへ設置届を提出する前に、労基署での手続きを完了させて労働保険番号を手元に用意しておく必要があります。労基署の手続きを後回しにしてしまうと、設置届が記入できない状態になってしまうため、必ず先に対応しましょう。
全体の手続きフロー
一連の手続きは大きく4つのステップで進みます。
| STEP | 提出先 | 提出書類 | タイミング |
|---|---|---|---|
| STEP1 | 労働基準監督署 | 保険関係成立届・労働保険概算保険料申告書 | 雇い入れ翌日から10日以内 |
| STEP2 | 労基署から受領 | 労働保険番号(事業主控えに記載) | STEP1完了後 |
| STEP3 | ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届 | 労働保険番号取得後(10日以内が目標) |
| STEP4 | ハローワークから受領 | 雇用保険適用事業所台帳・雇用保険被保険者証 | STEP3の受理後 |
設置届とハローワークへの資格取得届にはいずれも「10日以内」という期限がありますが、STEP1とSTEP3の間に順番があるため、実務上は10日を超えることもあります。なるべく早く準備を進め、労基署→ハローワークの順でスムーズに対応することが重要です。
建設業・農林水産業(二元適用事業)の場合の違い
一般的な事業(一元適用事業)では、労災保険と雇用保険をひとまとめに処理しますが、建設業・農林水産業・都道府県・市町村などは「二元適用事業」として、2つの保険を別々に扱います。
二元適用事業の場合は、ハローワークへの設置届に加えて、次の書類もハローワークへ提出する必要があります。
- 労働保険関係成立届(雇用保険分)
- 労働保険概算保険料申告書(雇用保険分)
建設業や農林水産業で設置届を提出する際は、事前に一元適用か二元適用かを確認しておきましょう。
「労働保険番号」の調べ方・取得方法
労働保険番号とは何か

労働保険番号とは、労働保険(労災保険・雇用保険)に加入するすべての事業所に付与される14桁の番号です。内訳は次のとおりです。
府県コード(2桁)+所掌(1桁)+管轄(2桁)+基幹番号(6桁)+枝番号(3桁)
雇用保険適用事業所設置届には、この番号を必ず記入する必要があります。
初めて事業所を設置する場合(番号がない場合)
会社を設立したばかりで労働保険番号がまだない場合は、まず労基署に「保険関係成立届」を提出します。届出が完了すると事業主控えに番号が記載されるので、その番号を設置届に転記します。
設置届をハローワークに提出する際は、この事業主控えも添付書類として持参しましょう。
既存の番号を確認する場合(支店新設・番号不明の場合)
すでに番号が発行されているにもかかわらず、どこに書いてあるかわからない——そんなときは次の方法で確認できます。
- 過去の労働保険料申告書(年度更新)の控えを確認する
- 労働局・労基署から送付された労働保険料の納付書を確認する
- ハローワークから交付された雇用保険適用事業所台帳で確認する
- 管轄のハローワークまたは労基署に電話で照会を依頼する
電話照会の際は、会社名・所在地・設立年月日などを手元に用意しておくとスムーズです。
各項目の書き方


「事業所の名称・所在地」欄の書き方

登記上の正式な会社名と事業所の住所を記入します。屋号や略称は使用できません。
支店・営業所を届け出る場合は「○○株式会社 △△支店」のように、本社名に支店名を付けて記入します。住所は登記上の本社住所ではなく、届出対象の事業所(支店等)の所在地を記入してください。
「事業主の住所・氏名」欄の書き方

法人の場合は代表取締役の住所と氏名を記入します。個人事業主の場合は個人の住所と氏名を記入してください。
なお、2021年以降の様式では押印が廃止されています。署名のみで問題ありません。
「労働保険番号」欄の書き方

労基署から取得した14桁の労働保険番号を記入します。初回届出の場合は必ず先に労基署手続きを完了させてから記入してください。「まだ番号が手元にない」という理由で空欄のまま提出することはできません。
支店を新設する場合は、本社の番号ではなく支店として新たに取得した番号を使います。支店と本社では原則として番号が異なります。
「設置年月日」欄の書き方

設置年月日には「雇用保険の被保険者となる従業員を初めて雇い入れた日」を記入します。
ここで注意したいのは、会社の設立日(法人登記日)とは必ずしも一致しないという点です。会社を設立してしばらく代表者だけで運営し、数か月後に初めて従業員を採用した場合は、その採用日が設置年月日になります。
提出期限の10日は、この設置年月日の翌日から数えます。
「事業の種類」欄の書き方

事業内容に対応するコードを、厚生労働省が定める「事業の種類一覧表」から選んで記入します。主なコードの例は次のとおりです。
| コード | 事業種類 |
|---|---|
| 03 | 建設業 |
| 35 | 製造業 |
| 61 | 卸売業・小売業 |
| 73 | 不動産業 |
| 76 | サービス業 |
事業の種類一覧表は、ハローワークの窓口や公式サイトで確認できます。どのコードが自社に当てはまるか判断に迷う場合は、管轄のハローワークに電話で確認するのが確実です。
「被保険者数」欄の書き方

届出時点で雇用保険の被保険者となる従業員の人数を記入します。週20時間以上・31日以上の雇用見込みという要件を満たしているパートタイムや契約社員も含めてカウントします。
代表取締役は雇用保険の被保険者にはなれないため、役員のみで従業員がいない場合は「0」と記入します。
「加入している社会保険・労働保険の種類」欄の書き方

健康保険・厚生年金保険・労災保険について、加入しているものに丸をつけます。法人の場合は原則として3つすべてに丸をつけるケースがほとんどです。
従業員が5人未満の個人事業主で、かつ農業・漁業・サービス業など特定の業種の場合は健康保険・厚生年金保険への加入が任意となるため、実態に合わせて記入します。
「事業所への地図(略図)」欄の書き方

最寄り駅・バス停から事業所への道順を略図で記入します。実務上はGoogleマップ等の印刷物に事業所の場所を明示したものを添付するケースが多く、その場合は欄内に「別紙地図参照」と記入しておけば問題ありません。
添付書類一覧
全事業所共通の添付書類
設置届を提出する際に用意する書類は次のとおりです。
| 書類名 | 内容・備考 |
|---|---|
| 保険関係成立届の事業主控え(写し) | 労基署で手続き後に受け取る控え。労働保険番号が記載されている |
| 法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書) | 発行から3か月以内のもの。法務局で取得 |
| 事業所の使用権原を確認できる書類 | 賃貸借契約書のコピー・不動産登記簿謄本等 |
| 労働者名簿 | 被保険者となる従業員の氏名・生年月日・採用年月日・雇用形態を記載したもの |
| 出勤簿またはタイムカード | 設置後の勤務実態を証明する資料。設置直後の場合は作成中・記載途中でも可 |
| 賃金台帳 | 設置後の賃金支払いを証明する資料。まだ支給がない場合は「未支給」「計算期間中」と記載でも可 |
パートタイム・有期契約労働者が含まれる場合の追加書類
所定労働時間が短いアルバイトや、契約期間が定められた労働者を雇用している場合は、次の書類も追加で必要になります。
- 就業規則のコピー(所定労働時間が確認できるもの)
- 雇用契約書のコピー(契約期間・所定労働時間が確認できるもの)
これらは、雇用保険の加入要件(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)を満たしていることを証明するために提出が求められます。
個人事業主の場合の書類
個人事業主の場合、法人の登記事項証明書は不要です。代わりに次のいずれかを準備します。
- 税務署に提出した開業届のコピー
- 事業の実態がわかる書類(許可証・免許証等)
屋号で届出を行う場合は、屋号が確認できる書類の添付が求められることがあります。
支店・営業所を新設した際の書き方
支店設置と本社設置の最大の違い
支店・営業所を新設する際に最も大切なのは、「支店は本社とは別の労働保険番号が必要になる」という点です。本社で使っている番号をそのまま支店でも使うことは、原則として認められていません。
支店ごとに独立した事業所として届出を行い、支店用の労働保険番号を取得することが基本の流れです。
継続事業の一括制度
ただし、一定の要件を満たす場合は「継続事業の一括」という制度を使って、支店の労働保険を本社にまとめて管理することが認められています。
主な要件は次の3点です。
- 本社と支店が同一の事業主である
- 本社と支店が同種の事業を行っている
- 本社と支店に適用される労災保険率が同じである
この制度を利用すれば、支店ごとの個別手続きが不要になり、管理コストを大幅に削減できます。利用する場合は「継続事業一括申請書」を管轄のハローワークへ別途提出する必要があります。
支店新設時の設置届の記入上の注意点
支店の設置届を記入する際は、本社との違いを意識して次のポイントを押さえてください。
- 事業所の名称:「○○株式会社 △△支店」と支店名まで記入する
- 事業所の所在地:本社住所ではなく支店の所在地を記入する
- 設置年月日:支店に初めて被保険者が勤務した日を記入する
- 事業主の住所・氏名:法人代表者(本社代表取締役)の情報を記入する
- 労働保険番号:支店として新たに取得した番号を使用する(本社番号は使えない)
電子申請(e-Gov)での提出手順
電子申請の前提条件
設置届は窓口への持参・郵送のほか、e-Govを通じた電子申請でも提出できます。電子申請を利用するには、次の準備が必要です。
- GビズIDプライムアカウントの取得(申請から発行まで数日〜2週間程度かかるため事前準備を推奨)
- インターネット接続環境と対応ブラウザ
なお、資本金1億円を超える法人については、2020年4月から電子申請が義務化されています。
e-Govでの申請手順
e-Govを使った申請は次の手順で進みます。
状況から探すからでも、手続き検索からでも可。





(自社申請の場合は入力不要)

添付書類はこちら

提出先のハローワークを選択する。
「内容を確認」ボタンをクリックし、エラーが無いか確認する。
よければ、そのまま申請する。

電子申請時の注意点
電子申請で注意したい点は次の3つです。
①添付書類はPDF形式でのアップロードが必要です。ファイルサイズの上限を超えないよう、スキャン解像度を調整して準備しましょう。
②設置届と資格取得届は同時に電子申請できます。二度手間を避けるためにも、両方の書類をまとめて準備してから申請を行うのが効率的です。
③労基署への保険関係成立届もe-Govから電子申請が可能です。すべての手続きをオンラインで完結させたい場合は、労基署の申請からe-Govで統一するのも一つの方法です。
よくある質問
- 設置届の提出期限10日以内を超えてしまいましたが、どうすればいいですか?
-
できるだけ早く、管轄のハローワークへ提出してください。
期限を過ぎても届出は受理されます。ただし、提出が遅れると雇用保険被保険者証の交付も遅れるため、従業員への影響を最小限に抑えるためにも速やかに対応することが重要です。提出前にハローワークへ電話で一報を入れておくと、窓口でのやり取りがスムーズになります。
- 設立したばかりで登記事項証明書を取得していません。先に提出できますか?
-
登記事項証明書の取得が先になります。
登記事項証明書は法務局での登記が完了した後でなければ発行されないため、まず登記を完了させてから取得・添付することが必要です。法人設立から最初の従業員採用まで時間がある場合は、余裕をもって登記手続きを済ませておきましょう。
- 労働保険番号はどこで確認できますか?番号がわからない場合はどうすればいいですか?
-
過去の労働保険料申告書の控えや、労働局・労基署から送付された納付書、または雇用保険適用事業所台帳で確認できます。
どの書類にも番号が見当たらない場合は、管轄のハローワークか労基署に電話で照会してください。会社名・所在地・設立年月日を伝えると、担当者が記録を確認してくれます。
- 支店を新設した場合、本社で使っている労働保険番号を使ってもいいですか?
-
原則として使えません。
支店は独立した事業所として扱われるため、本社とは別の労働保険番号が必要です。ただし、「継続事業の一括」制度を利用する場合は、一定の要件を満たせば本社の番号にまとめて管理することが認められています。支店の状況が要件に当てはまるかどうかは、管轄のハローワークに確認するのが確実です。
- 設置届と資格取得届は同時に提出できますか?
-
同時に提出できます。
実務上、設置届と資格取得届をセットで持参してハローワークに一度に提出するケースがほとんどです。添付書類は設置届に必要なもの(登記事項証明書・賃金台帳等)と資格取得届に必要なもの(雇用契約書等)をまとめて準備しておくと、窓口での手続きがスムーズです。
- 代表取締役のみで従業員がいない法人でも設置届は必要ですか?
-
代表取締役だけの状態では設置届の提出義務は発生しません。
代表取締役は雇用保険の被保険者になれないため、現時点では「被保険者となる労働者がいない状態」です。初めて従業員(週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある人)を採用した日が適用事業所の設置日となり、そのタイミングで設置届の提出が必要になります。

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まとめ
雇用保険の適用事業所設置届は、初めて従業員を雇い入れた際に行う重要なスタートラインです。
労基署からハローワークへという正しい順序を意識し、必要な添付書類を事前に揃えておくことで、直前で慌てることなくスムーズに手続きを進められます。期限は10日以内とタイトなため、電子申請なども上手く活用しながら、ぜひ早めの準備を心がけてみてください。
- 雇用保険適用事業所設置届は、雇用保険の被保険者となる従業員を初めて雇い入れた日の翌日から10日以内にハローワークへ提出する
- 手続きの順番は「労基署(保険関係成立届)→ 労働保険番号の取得 → ハローワーク(設置届・資格取得届)」が正しい流れ
- 「設置年月日」は会社設立日ではなく、被保険者となる従業員を初めて雇い入れた日を記入する
- 支店・営業所の新設時は本社とは別に届出が必要で、継続事業の一括制度を活用することで管理を一本化できる場合もある
- 設置届と資格取得届は同時提出が可能で、電子申請(e-Gov)では両方まとめて申請できる

