「固定残業代を45時間分にしているが、違法にならないか」「求人に『固定残業代45時間分を含む』と書いたら、応募が減った気がする」「45時間を超えて働いた月はどう計算すればよいのか」。固定残業代(みなし残業)の時間数は、会社にとっても求職者にとっても関心の高いテーマです。
結論からいえば、固定残業時間の上限を直接定めた法律はなく、45時間に設定すること自体は直ちに違法ではありません。ただし、45時間は36協定で認められる時間外労働の限度時間そのものであり、これを大きく超える時間数を毎月の前提にすると、固定残業代の定めが無効と判断されることがあります。また、45時間分の固定残業代は基本給を押し下げるため、求職者から「やばい」と受け取られやすい設定でもあります。
この記事では、固定残業代45時間が違法かどうか、45時間を超える設定についての判例、超えた場合の残業代の扱い、基本給との割り振りの計算、2026年9月からの監督指導の見直しとの関係、求人票の書き方、固定残業時間の決め方と見直し方まで、社会保険労務士・弁護士が解説します。
- 固定残業時間の上限を定めた法律はない。45時間に設定すること自体は直ちに違法ではないが、36協定の限度時間(月45時間)と同じ水準で、上限の目安とされている。
- 45時間を大きく超える時間数(80時間・100時間など)を設定すると、長時間労働を前提とする定めとして、固定残業代そのものが無効と判断された判例がある。
- 固定残業時間を超えて働いた分は、毎月追加で支払う。月60時間を超える部分は割増率50%。
- 45時間分を月給に含めると、基本給と1時間あたりの賃金が大きく下がる。月給30万円なら基本給は約22万2,000円。
- 2026年9月から労働基準監督署の「月45時間以内」への一律指導は見直されたが、法律の上限規制は変わっていない。固定残業代の有効性の判断にも影響はない。

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloopホールディングス 代表
人事労務DD(人事労務デューデリジェンス)・IPO準備の労務監査/労務是正を強みとする社会保険労務士。建設・介護・医療・IT・製造・飲食・小売・人材・不動産など多業種の労務顧問、就業規則作成、人事評価制度構築にも対応。
登録番号:13250298

【中内 康裕 | 弁護士】
法律事務所 sui/株式会社altruloopホールディングス
会社法務・知的財産・訴訟対応を中心に、スタートアップから事業者まで幅広く支援。アンダーソン・毛利・友常法律事務所、三村小松法律事務所を経て、特許庁商標課にて法務調査員(任期付公務員)を歴任。現在は文化服装学院 非常勤講師・知的財産管理技能検定 試験委員を務め、商標・ファッションロー分野の第一線で活動。『年報知的財産法』ほか共編著・寄稿多数。
第一東京弁護士会 所属 | 登録番号:58036
固定残業代45時間は違法か
法律上の上限はない
固定残業代(みなし残業代)とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度です。労働基準法には、固定残業代として設定できる時間数の上限は定められていません。そのため、45時間に設定したこと自体で直ちに違法になるわけではありません。
固定残業代が有効と認められるには、通常の賃金と固定残業代を区別できること、時間外労働の対価として支払われていること、超えた分を追加で支払うことなどの要件を満たす必要があります。
要件の詳細は固定残業代(みなし残業代)とはで解説しています。

45時間が目安になる理由
45時間が上限の目安とされるのは、36協定で定めることができる時間外労働の限度時間が、原則として月45時間・年360時間だからです(労働基準法36条4項)。固定残業時間をこの範囲に収めておけば、「毎月、法律の原則的な上限を超える残業を前提にしている」とは評価されにくくなります。
臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項付きの36協定を結ぶことで45時間を超えることができますが、次の上限があります。

| 項目 | 上限 |
|---|---|
| 原則(限度時間) | 時間外労働 月45時間・年360時間 |
| 特別条項を結んだ場合の年間上限 | 時間外労働 年720時間以内 |
| 単月の上限 | 時間外労働+休日労働 月100時間未満 |
| 複数月の平均 | 時間外労働+休日労働 2〜6か月平均でいずれも80時間以内 |
| 45時間を超えられる回数 | 年6回(6か月)まで |
特別条項は、あくまで臨時的な事情に対応するための仕組みです。45時間を超える時間数を固定残業代として毎月前提にすることは、この趣旨と合いません。36協定の上限の考え方は36協定の特別条項とはで解説しています。

36協定の45時間は「時間外労働」だけ
36協定の限度時間(月45時間)は、法定労働時間を超える時間外労働の時間です。法定休日の労働や深夜労働は含みません。一方、固定残業代には、時間外労働だけでなく休日労働・深夜労働の割増賃金を含めることもあります。何の割増賃金を、何時間分・いくら含んでいるのかを、雇用契約書と賃金規程で区別して書くことが大切です。
- 良い例:「固定残業手当として、時間外労働45時間分の割増賃金78,035円を支給する」
- 避けたい例:「固定残業手当(残業・休日・深夜を含む)を支給する」(時間数も内訳も分からない)
45時間を超える設定はどう判断されるか【判例】
45時間を超える固定残業時間を設定していた会社について、裁判では次のような判断が示されています。

| 判例 | 設定されていた時間 | 判断 |
|---|---|---|
| ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決) | 約95時間分(職務手当) | 95時間分の残業を義務づけることは公序良俗に反するおそれがあるとして、月45時間分の固定残業代として限定して有効と判断。45時間を超える分の支払いを命じた |
| マーケティングインフォメーションコミュニティ事件(東京高裁平成26年11月26日判決) | 約100時間分 | 長時間の時間外労働を恒常的に行わせることを前提とした手当とはいえず、固定残業代としての効力を否定 |
| イクヌーザ事件(東京高裁平成30年10月4日判決) | 80時間分 | 月80時間の時間外労働を前提とする定めは、健康を損なう危険のあるもので公序良俗に反するとして、固定残業代の定め全体を無効と判断 |
判断のポイント
- 時間数の長さ:月80時間(いわゆる過労死ライン)前後やそれ以上を前提にする設定は、無効と判断されるリスクが高い
- 36協定との関係:36協定の限度時間や特別条項の範囲を超える時間数を、毎月の前提にしていないか
- 実際の残業時間:設定どおりの長時間労働が実際に行われていたか、健康への配慮がされていたか
- 基本給との関係:固定残業代で基本給を不当に低く抑え、1時間あたりの単価を下げる目的になっていないか
無効と判断されると、支払っていた固定残業代は残業代として認められず、計算の基礎にも含まれます。その結果、過去3年分の残業代を、高い単価でまとめて支払うことになります。未払いの規模は未払い残業代の時効は3年?で解説しています。

弁護士 中内 康裕判例は『何時間までなら有効』という線を引いているわけではありません。ただ、36協定の限度時間を超える時間数を毎月の前提にした設定は、争われたときに会社が説明に苦しむのは確かです。45時間を超える設定をしている場合は、実際の残業時間と照らして見直しを検討すべきです。
45時間を超えて働いた場合の扱い


超えた分は毎月追加で支払う
固定残業代は「45時間分の残業代を前払いしている」ものであり、「45時間までしか残業代を払わない」制度ではありません。実際の時間外労働が45時間を超えた月は、超えた時間分の割増賃金を、その月の給与で追加して支払う必要があります。
| 区分 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働(月60時間まで) | 25%以上 |
| 時間外労働(月60時間を超える部分) | 50%以上 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜労働(22時〜5時) | 25%以上(時間外・休日と重なれば加算) |
例:固定残業時間45時間、1時間あたりの賃金1,387円の人が、ある月に55時間の時間外労働をした場合、超えた10時間分として 1,387円 × 1.25 × 10時間 = 17,338円 を追加で支払います。
超過分を払っていないと固定残業代全体が否定されるおそれ
超えた分を払わない運用が続いていると、「固定残業代は時間外労働の対価ではなく、残業代を一定額で打ち切るためのもの」と評価され、固定残業代の定め自体が無効とされるおそれがあります。労働時間は1分単位で把握し、毎月、固定残業時間と実績を比べて精算する仕組みが必要です。労働時間の端数処理は労働時間は1分単位が原則で解説しています。


45時間分にすると基本給はいくらになるか【計算例】
基本給と固定残業代の割り振りの計算


月給の総額を変えずに固定残業代を含める場合、基本給と固定残業代は次の式で割り振ります(割増率25%の場合)。
基本給 = 月給総額 ÷(1 + 固定残業時間 × 1.25 ÷ 1か月の平均所定労働時間)
月給30万円、1か月の平均所定労働時間160時間の場合の比較です。
| 固定残業時間 | 基本給 | 固定残業代 | 1時間あたりの賃金 |
|---|---|---|---|
| 20時間 | 259,459円 | 40,541円 | 1,622円 |
| 30時間 | 243,038円 | 56,962円 | 1,519円 |
| 45時間 | 221,965円 | 78,035円 | 1,387円 |
同じ月給30万円でも、45時間分を含めると、20時間分の場合より基本給が約3万7,000円低くなります。基本給は賞与や退職金の計算に使われることが多く、1時間あたりの賃金は残業代や有給休暇の賃金にも影響するため、従業員にとっての実質的な処遇も下がります。
自社の条件で計算する
月給の総額と固定残業時間を入れると、基本給・固定残業代・1時間あたりの賃金を計算できます。都道府県を選ぶと、その地域の最低賃金と比べた結果も表示されます。
固定残業代の割り振り計算ツール
月給の総額(固定残業代を含む)から、基本給と固定残業代の内訳、1時間あたりの賃金を計算します。
| 基本給 | |
|---|---|
| 固定残業代 | |
| 1時間あたりの賃金 | |
| 最低賃金 |
※ 割増率25%で計算しています。最低賃金は2026年度(令和8年度)の額で、各都道府県の発効日より前は2025年度の額で判定します。
最低賃金のチェック
最低賃金を満たしているかは、固定残業代を除いた賃金で判断します。固定残業代は最低賃金の計算に含められないため、月給の総額が高く見えても、基本給を1か月の平均所定労働時間で割った金額が地域の最低賃金を下回れば違法です。最低賃金は毎年改定されるため、改定のたびに確認します。
2026年9月からの監督指導の見直しと固定残業代
厚生労働省は2026年8月19日、労働基準監督署の時間外労働に関する監督指導を、9月1日から見直すと発表しました。これまでのように時間外・休日労働の時間数だけに着目して「1か月45時間以内」への削減を一律に求めるのではなく、各事業場が36協定で定めた健康・福祉を確保するための措置が実際に行われているかを重点的に確認する方針に変わっています。
ただし、見直されたのは監督指導の運用であり、月45時間・年360時間の上限規制そのものは変わっていません。固定残業代が有効かどうかは、これまでどおり裁判所が判例の基準で判断します。「45時間を超えても指導されなくなったから、固定残業時間を増やしてよい」ということにはならず、特別条項を使う場合は、健康・福祉確保措置を実際に講じていることが、これまで以上に問われます。
求職者から「やばい」と見られないための求人表示


求人票に明示が必要な3項目
固定残業代を採用する場合、求人票や募集要項には、職業安定法に基づく指針により、次の3つを明示する必要があります
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額などの計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨
「固定残業代45時間」がマイナスに受け取られる理由
求職者が「固定残業代45時間」を不安に感じるのは、毎月45時間程度の残業があること、そして基本給が低く抑えられていることの2つを想像するからです。実際の残業が月10時間程度でも、45時間と書いてあれば、残業の多い会社だと受け取られます。
表示の良い例・悪い例
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| 月給30万円(固定残業代含む) | 月給30万円(基本給221,965円、固定残業手当78,035円) |
| みなし残業あり | 固定残業手当は時間外労働45時間分。45時間を超える時間外労働、休日・深夜労働は別途支給 |
| (実績の記載なし) | 前年度の平均時間外労働:月18時間 |
実際の残業時間が固定残業時間を大きく下回っているなら、平均の実績をあわせて書くことで、誤解を減らせます。そもそも、実績と大きくかけ離れた時間数を設定している場合は、固定残業時間そのものの見直しを検討します。
固定残業時間の決め方と見直し方
過去の残業実績から決める
固定残業時間は、「45時間が上限だから45時間」と決めるのではなく、実際の残業時間から決めます。
- 職種・部署ごとに、直近1年分の月ごとの時間外労働を集計する
- 平均と、繁忙期・閑散期の幅を確認する
- 平均を中心に、繁忙期に超過分が出ても毎月精算できる時間数にする
実績より大幅に長い時間を設定すると、実態に合わないとして固定残業代の趣旨が疑われ、単価を下げる目的と見られるおそれがあります。反対に、実績より短く設定すると、毎月の超過分の精算が増えます。
45時間から引き下げるときの手順と注意
固定残業時間を45時間から30時間などに引き下げる場合、月給の総額を減らすと、労働条件の不利益な変更になります。月給の総額を維持したまま、固定残業代を減らした分を基本給に移す方法であれば、基本給と1時間あたりの賃金が上がるため、従業員にとって不利益にはなりません。
- 対象者と、変更後の基本給・固定残業代の額を計算する
- 就業規則・賃金規程を改定し、変更後の雇用契約書(労働条件通知書)を交付する
- 月給の総額が下がる場合は、個別の同意を得る。その際は不利益の内容を具体的に説明し、書面で同意を取る
- 給与計算システムの設定(固定残業時間・超過分の計算)を変更する


就業規則・雇用契約書の規定例
(固定残業手当)
第〇条 会社は、時間外労働に対する割増賃金の一部として、固定残業手当を支給する。
2 固定残業手当の額及びこれに相当する時間外労働の時間数は、個別の労働条件通知書に定める。
3 1か月の時間外労働の時間数が前項の時間数を超えた場合は、超えた時間について、第〇条に定める計算方法により割増賃金を追加して支給する。
4 休日労働及び深夜労働に対する割増賃金は、固定残業手当とは別に支給する。
固定残業時間を45時間から25時間に見直したケース(IT企業・従業員約30名)
全職種一律で45時間分の固定残業手当を支給していた会社から、採用への影響を理由に相談を受けました。当事務所で直近1年分の勤怠を集計したところ、平均の時間外労働は月17時間、最も多い月でも32時間でした。月給の総額は変えずに、固定残業時間を25時間に引き下げ、差額を基本給に移す形で賃金規程と雇用契約書を改定し、給与計算の設定も変更しました。求人票には、基本給・固定残業手当の内訳と、平均の時間外労働の実績を記載しています。
よくある質問
固定残業代45時間分は、毎月45時間残業させてよいという意味ですか?
違います。固定残業代は残業代の支払い方の仕組みであり、残業させてよい時間を決めるものではありません。残業を命じることができるのは36協定の範囲内で、業務上必要な場合に限られます。
残業がほとんどない月も、固定残業代は全額支払うのですか?
はい。固定残業代は、実際の残業時間が設定より少なくても、全額を支払います。残業が少なかった月に減額すると、固定残業代の定めと矛盾し、賃金の未払いになります。
60時間・80時間に設定するとどうなりますか?
直ちに違法とはいえませんが、36協定の限度時間を超える時間を毎月の前提にすることになります。80時間分の固定残業代を公序良俗に反して無効とした判例もあり、無効と判断されれば過去3年分の残業代を高い単価で支払うことになります。
管理監督者にも固定残業代は必要ですか?
管理監督者には時間外・休日労働の割増賃金の規定が適用されないため、固定残業代は不要です。ただし、深夜労働の割増賃金は必要です。管理職として扱っていても管理監督者に当たらない場合は、残業代が必要になります。判断基準は管理監督者とはで解説しています。


固定残業時間を超えたかどうかは、どう判断しますか?
1か月の時間外労働を1分単位で集計し、固定残業時間と比べます。休日労働や深夜労働を固定残業代に含めていない場合は、時間外労働の時間数だけで比べ、休日・深夜の割増賃金は別に支払います。
まとめ
- 固定残業時間の上限を定めた法律はなく、45時間に設定すること自体は直ちに違法ではない。36協定の限度時間と同じ水準で、上限の目安とされている。
- 80時間・100時間など長時間を前提とする設定は、固定残業代の定めが無効とされた判例がある。
- 45時間を超えた分は毎月追加で支払う。払っていないと、固定残業代全体が否定されるおそれがある。
- 45時間分を含めると基本給と1時間あたりの賃金が大きく下がり、求職者からも敬遠されやすい。求人票では基本給と内訳、超過分の支給を明示する。
- 2026年9月の監督指導の見直し後も、上限規制と判例の基準は変わらない。固定残業時間は実績から決め、引き下げる場合は月給の総額を維持して基本給に移す。
社労士事務所altruloopでは、勤怠実績の集計による固定残業時間の見直し、賃金規程・雇用契約書の改定、給与計算の設定まで対応します。固定残業代の有効性をめぐる紛争のリスクは、グループの弁護士と連携して対応します。
