等級制度とは、社員を能力・職務・役割などの基準で段階(等級)に分け、評価・賃金・昇格を決める土台にする仕組みです。種類は、能力で分ける職能資格制度、職務で分ける職務等級制度、役割で分ける役割等級制度の3つです。どの種類を選ぶかより、各等級に何を求めるかを行動の言葉で書けているかが、制度が機能するかを決めます。
この記事では、3つの等級制度の違いと選び方、等級の数の決め方、等級定義の書き方と例、昇格・降格の基準と法的な扱い、複線型・ハイブリッド型の設計、導入と移行の手順まで、社会保険労務士が解説します。
- 等級制度は、人事制度(等級・評価・報酬)の土台。等級が決まると、評価の基準と賃金の範囲が決まる。
- 職能資格制度は「人の能力」、職務等級制度は「仕事の価値」、役割等級制度は「期待される役割の大きさ」で等級を決める。階層ごとに組み合わせることもできる。
- 等級の数は、組織の階層と標準的な在籍年数から逆算する。多くの会社は6〜8等級に落ち着く。
- 等級定義は「主体的に」「高度な」ではなく、担う範囲と判断の難しさで書く。隣り合う等級の違いを1〜2文で説明できるかが基準。
- 役職を外す降格は人事権の範囲で行えるが、等級を下げて賃金が下がる降格は、就業規則に根拠がないと無効とされた裁判例がある。

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloopホールディングス 代表
人事労務DD(人事労務デューデリジェンス)・IPO準備の労務監査/労務是正を強みとする社会保険労務士。建設・介護・医療・IT・製造・飲食・小売・人材・不動産など多業種の労務顧問、就業規則作成、人事評価制度構築にも対応。
登録番号:13250298
等級制度とは
人事制度は、等級制度・評価制度・報酬制度の3つで構成されます。等級制度は「どの段階にいるか」を決め、評価制度は「その段階の期待にどれだけ応えたか」を測り、報酬制度は「その結果をいくらで処遇するか」を決めます。
等級が土台になるのは、順序があるためです。等級が決まると、その等級に求める行動が決まり、それが評価の基準になります。そして等級ごとに賃金の範囲が決まります。評価がうまく機能しない会社の原因が、評価ではなく等級の定義のあいまいさにあることは少なくありません。人事評価制度の全体像は人事評価制度とはで解説しています。

等級制度があると答えられるようになること
- なぜあの人が課長で、自分は主任なのか
- 次の等級に上がるには、何ができるようになればよいか
- 中途採用の社員を、既存の社員と比べてどの段階で処遇するか
- 役職のポストが空いていなくても、成長した社員をどう処遇するか
等級制度の3つの種類と違い

| 項目 | 職能資格制度 | 職務等級制度 | 役割等級制度 |
|---|---|---|---|
| 等級を決める基準 | 人の職務遂行能力 | 担当する職務の大きさ・価値 | 期待される役割の大きさ |
| 連動する賃金 | 職能給 | 職務給 | 役割給 |
| 昇格のきっかけ | 能力が上がったと認められたとき | 上位の職務に就いたとき | 上位の役割を担えると確認できたとき |
| 異動との相性 | 職種をまたぐ異動がしやすい | 職務が変わると処遇も変わるため、異動しにくい | 役割が同じなら異動しても処遇は変わらない |
| 主なメリット | 育成とゼネラリストの養成に向く。ポストがなくても処遇できる | 仕事と賃金の関係が明確。専門人材を外部から採用しやすい | 職務ほど細かく定義せずに、貢献と処遇を結びつけられる |
| 主なデメリット | 年功的になり、人件費が上がりやすい。能力の判定があいまいになりやすい | 職務の分析と職務記述書の維持に手間がかかる。組織が硬直しやすい | 役割の定義があいまいだと、実質的に職能資格制度に戻る |
| 向いている会社 | 新卒採用中心で長期に育成する会社 | 専門職が多く、職務の範囲が明確な会社。グローバルに展開する会社 | 事業の変化が速く、成果と柔軟な配置を両立したい会社 |
職能資格制度とは
職能資格制度は、社員が持つ職務遂行能力の段階で等級(資格)を決める制度です。役職とは別に資格を付与するため、ポストが空いていなくても、能力が上がれば昇格・昇給できます。担当する仕事が変わっても等級は変わらないため、ジョブローテーションで幅広い業務を経験させるのに向いています。
一方で、一度認めた能力は下がりにくく、等級も下がりにくいため、運用が勤続年数の順番と変わらなくなり、人件費が上がりやすいのが課題です。職能要件を行動で書き、昇格を在籍年数だけで決めないことが運用のポイントです。
職務等級制度(ジョブ型)とは
職務等級制度は、担当する職務の難しさや責任の大きさ(職務の価値)で等級を決める制度です。職務ごとに、仕事の内容・責任・必要な知識やスキルを職務記述書(ジョブディスクリプション)にまとめ、職務評価で価値を測って等級に区分します。同じ職務なら、年齢や勤続にかかわらず処遇は同じです。
仕事と賃金の関係が明確で、社外の相場と比べて専門人材を採用しやすい一方、職務記述書の作成と更新に手間がかかり、記述書にない仕事を引き受けにくくなるといった硬直化の課題があります。厚生労働省の職業能力評価基準は、職務記述書を作る際の参考になります。
役割等級制度とは
役割等級制度は、社員に期待する役割の大きさで等級を決める制度で、ミッショングレード制とも呼ばれます。職能資格制度と職務等級制度の中間に位置づけられ、職務ほど厳密に仕事を固定せず、期待される役割と責任の大きさで処遇を決めます。日本企業で採用されることの多い制度です。
役割を果たしている限り異動しても処遇が変わりにくく、成果と処遇も結びつけやすい一方、役割の定義を書き切れないと、実際の運用は職能資格制度と変わらなくなります。等級定義の書き方がもっとも重要になる制度です。
役割等級制度と職務等級制度の違い
職務等級制度は「何をするか(職務)」を細かく定義して等級を決め、役割等級制度は「何を期待されているか(役割)」で等級を決めます。職務等級制度は職務が変わらなければ等級も変わらず、役割等級制度は同じ職務でも担う役割が大きくなれば昇格できます。職務を細かく定義しにくい会社や、チームで協力して働く会社では、役割等級制度のほうが運用しやすくなります。
どの等級制度を選ぶか
| 会社の状況 | 寄せやすい制度 |
|---|---|
| 新卒採用が中心で、職種をまたぐ異動で育てる | 職能資格制度・役割等級制度 |
| 職務の範囲がはっきりしていて、専門職が多い | 職務等級制度 |
| 専門人材を外部から採用したい | 職務等級制度・役割等級制度 |
| 人事の担当者が少なく、職務の洗い出しに手が回らない | 役割等級制度 |
| グループ会社や海外拠点と制度をそろえたい | 職務等級制度(管理職から段階的に) |
3つのうち1つを純粋な形で選ぶ必要はありません。労働基準法には、賃金の決定方法そのものを規制する定めはなく、階層ごとに制度を組み合わせることもできます。
ハイブリッド型・ダブルラダー型

- ハイブリッド型:階層ごとに制度を使い分ける。たとえば、一般社員は育成を重視して職能資格制度や役割等級制度、管理職は職務等級制度や役割等級制度にする
- ダブルラダー型:一人の社員に、能力の段階を示す職能資格と、今担っている役割を示す役割等級(職責等級)の2つを持たせ、賃金も職能給と役割給に分ける
組み合わせる場合は、どの層をどちらの基準で扱うかの境目を先に決めておくことが必要です。境目があいまいだと、異動や昇格のたびに処遇の根拠が変わってしまいます。
等級の数の決め方

等級の数は、組織の階層と、標準的な社員が各等級にとどまる年数から逆算します。
- 組織の階層を数える:担当・主任・係長・課長・部長のように、判断と責任の段階を並べる
- 一般社員の層を2〜3段階に分ける:入社から主任の手前までは在籍が長いため、この層だけ細かく分ける
- 管理職の層は階層と1対1にする:課長と部長で等級を分ける。細かくしすぎると昇格が名ばかりになる
- 標準在籍年数で検証する:各等級の標準在籍年数を足し、何歳ごろに管理職になる想定かを確認する
| 社員数の目安 | 等級数の目安 | 構成の例 |
|---|---|---|
| 30名程度まで | 3〜5等級 | 一般2〜3段階、リーダー、管理職 |
| 30〜300名程度 | 5〜7等級 | 一般3段階、リーダー、課長、部長 |
| 300名以上 | 6〜9等級 | 一般3段階、リーダー2段階、課長、部長、本部長。管理職と専門職の複線型も |
前の等級と何が違うかを1〜2文で説明できない場合は、等級が多すぎます。逆に、等級が少なすぎると昇格の機会が減り、同じ等級にとどまる期間が長くなって不満につながります。たとえば22歳で入社し、1〜3等級を3年・3年・4年、4等級を4年とすると、5等級(課長)への到達は36歳ごろになります。この年齢が自社の想定と合っているかで、等級数と在籍年数を調整します。
等級定義の書き方と例
等級定義でよく見かけるのが、次のような書き方です。
- 3等級:担当業務を主体的に遂行できる
- 4等級:高度な専門知識を有し、後進の指導ができる
「主体的に」「高度な」は、評価者によって受け取り方が変わるため、昇格の判断で必ずもめます。等級定義は、担う範囲(自分の業務・チーム・部門・部門をまたぐ)と、判断の難しさ(前例がある・前例がない・利害が対立する)の2つの軸で書きます。

| 等級 | 担う範囲 | 判断の難しさ | 指導・マネジメント |
|---|---|---|---|
| 1等級 | 自分の担当業務(定型) | 手順書や指示に沿って進め、例外が起きたら上司に判断を求める | ― |
| 2等級 | 自分の担当業務(定型・一部非定型) | 前例がある業務は1人で判断する。前例のない業務は進め方を提案して了承を得る | 新人に手順を教える |
| 3等級 | 自分の業務とチームの一部の業務 | 前例のない業務も、関係者に確認したうえで進め方を決める | 後輩の指導役として育成計画に沿って指導する |
| 4等級 | チーム(3〜8名程度)の業務 | チーム内の優先順位を決め、利害が対立する場合は調整案を作って上司と決める | 業務の割り振りと進捗管理、日常の指導 |
| 5等級 | 部門(課)の業務 | 部門の方針を決め、他部門と利害が対立する場合も調整して決める | 部下の評価・育成・労務管理(労働時間・休暇の把握) |
| 6等級 | 複数の部門・事業 | 経営方針を踏まえて戦略を決め、全社に影響する判断を行う | 管理職の育成と登用 |
こう書くと、昇格の判断が「その行動があったか」という事実の確認になります。等級定義と評価項目(行動評価・コンピテンシー)は、別々に作ると二重管理になるため、設計の段階で対応させておきます。評価項目の例は人事評価シートのテンプレートで紹介しています。

昇格・降格の基準
昇格の要件
| 要件 | 例 |
|---|---|
| 評価結果 | 直近2回の評価がA以上 |
| 役割の実績 | 上位の等級の役割を、一定期間担った実績がある |
| 経験・資格 | 必要な資格の取得、研修の修了 |
| 推薦・面接 | 上司の推薦、昇格面接(管理職への昇格など) |
在籍年数は「最低限必要な年数」として使い、在籍年数だけで昇格させないようにします。昇格(等級が上がる)と昇進(役職に就く)は分けて考え、昇格したときの賃金の格付けのルールも決めておきます。賃金との関係は賃金テーブルの作り方で解説しています。

降格の2つの種類と法的な扱い

降格には、役職を外す降格と、等級を下げる降格があり、法的な扱いが異なります。
| 種類 | 内容 | 法的な扱い |
|---|---|---|
| 役職の降格(降職) | 課長から係長へなど、役職を外す・下げる | 人事権の行使として、就業規則に明確な根拠がなくても会社の裁量で行える。ただし、裁量の範囲を逸脱すると違法・無効になる |
| 等級の降格(降級) | 職能資格や等級を下げ、基本給が下がる | 就業規則などで降格・減給の可能性と基準を定め、会社の権限として根拠づけておく必要がある |
裁判例では、次のような判断が示されています。
- アーク証券事件(東京地裁 平成8年12月11日決定):職能資格の等級を引き下げて減給するには、就業規則などの職能資格制度の定めで、降格・減給の可能性が予定され、会社にその権限が根拠づけられていることが必要とされ、降格・減給が無効とされた
- バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件(東京地裁 平成7年12月4日判決):課長職から受付業務の担当にまで降格させたことが、人事権の裁量の範囲を逸脱したと判断された
- 日本HP事件(東京地裁 令和5年6月9日判決):管理職から非管理職への降格に伴う基本給の減額について、降給のルールを定めた社内資料が就業規則や労働契約の一部とは認められず、減額が無効とされた
等級を下げて賃金が下がる仕組みにするなら、降格の基準・手続き・賃金の扱いを賃金規程に定めておくことが前提です。等級制度を新しく導入して降格の仕組みを設けることは、就業規則の不利益変更にあたる可能性もあります。詳しくは就業規則の不利益変更で解説しています。

複線型の等級制度(管理職コースと専門職コース)

複線型は、一定の等級から、部下を持って組織を動かす管理職コースと、専門性で貢献する専門職コースに分ける設計です。管理職のポストが限られていても、専門性の高い社員を管理職と同じ等級・賃金の範囲で処遇できます。
専門職コースが「管理職になれなかった人の受け皿」にならないよう、専門職の等級定義に、社内で担う難しい案件や技術の伝承など、管理職とは別の期待役割を具体的に書くことが必要です。
等級制度の導入・見直しの手順
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①目的と現状の整理 | 制度で解決したい課題を決め、全社員の役職・基本給・勤続年数を一覧にする |
| ②種類と等級数を決める | 職能・職務・役割のどれを軸にするか、階層ごとに組み合わせるかを決め、等級数を決める |
| ③等級定義と昇格要件 | 担う範囲と判断の難しさで等級を定義し、昇格・降格の要件を決める |
| ④評価・賃金とつなぐ | 等級ごとの評価項目と賃金の範囲を決める |
| ⑤格付けと移行 | 全社員を新しい等級に当てはめ、賃金が下がる社員の扱いを決める |
| ⑥規程化と説明 | 賃金規程・人事評価規程に定め、意見聴取・届出・周知を行い、社員に説明する |
移行で起きやすい2つの問題
- 新しい定義では今の等級に届かない社員:等級を下げると賃金も下がるため、移行時は今の等級と賃金を据え置く経過措置を設ける。ただし期間を決める
- 上位の等級に人がたまる:年功的に上がってきた層が上位等級に集まり、若手の昇格枠がなくなる。移行時の格付けは、役職名ではなく今担っている役割で判断する
この2つの扱いを設計の段階で決めておかないと、移行直前に全員を現状維持にする判断になり、制度を変えた意味が薄れます。全体の進め方は人事評価制度の作り方で解説しています。

パート・有期社員と等級制度
パートタイム・有期雇用労働法では、正社員と短時間・有期雇用の社員との間の不合理な待遇差が禁止され、求められたときは待遇差の内容と理由を説明する義務があります(同法第14条第2項)。正社員だけに等級制度を設ける場合も、パート・有期社員の役割や時給と正社員の等級との関係を整理し、待遇差の理由を説明できるようにしておきます。役割が近いパート・有期社員を、正社員と同じ等級の枠組みに乗せる設計もあります。
よくある質問
等級制度とは、簡単に言うと何ですか?
社員を能力・職務・役割などの基準で段階に分け、評価・賃金・昇格を決める土台にする仕組みです。
等級と役職は同じものですか?
同じではありません。等級は処遇の段階、役職は組織上の地位(ポスト)です。職能資格制度では、役職に就いていなくても能力に応じて上位の等級に格付けできます。役割等級制度では、等級と役職を対応させることが多くなります。
等級はいくつに分ければよいですか?
組織の階層と標準在籍年数から逆算し、多くの会社は6〜8等級に落ち着きます。前の等級との違いを1〜2文で説明できる数にとどめます。
等級制度は就業規則に書く必要がありますか?
賃金の決定・計算の方法と昇給に関する事項は、就業規則の必要記載事項です(労働基準法第89条)。等級によって基本給や昇給が決まるなら、その仕組みを賃金規程に定めます。等級を下げて賃金が下がる降格を行う場合は、その根拠と基準も定めておく必要があります。
職能資格制度から役割等級制度に変えるときの注意点は?
移行で等級や賃金が下がる社員の扱いを先に決めることです。今の賃金を守る経過措置を期間を決めて設け、変更の必要性と内容を社員に説明します。賃金が下がる変更は、就業規則の不利益変更の問題になります。
まとめ
- 等級制度は人事制度の土台。職能資格・職務等級・役割等級の3種類があり、階層ごとに組み合わせることもできる。
- 等級の数は、組織の階層と標準在籍年数から逆算する。
- 等級定義は、担う範囲と判断の難しさで書き、隣り合う等級の違いを説明できるようにする。
- 役職の降格と等級の降格は法的な扱いが違う。等級を下げて賃金が下がる仕組みは、賃金規程に根拠を定める。
- 移行で等級が下がる社員と、上位に人がたまる問題の扱いを、設計の段階で決めておく。
社労士事務所altruloopでは、社会保険労務士が、等級制度の設計から等級定義書の作成、評価・賃金との連動、移行時の格付けと経過措置、賃金規程への反映まで一貫して支援しています。初めての等級制度づくりから、大企業・グループ会社の等級の統一やジョブ型の部分導入まで対応しています。