「評価の基準がなく、社長の感覚で昇給を決めている」「評価シートは作ったが、給与にどう反映すればよいか分からない」「制度を変えたいが、給与が下がる社員が出るのが心配」。人事評価制度は、評価シートを作れば完成するものではありません。評価の結果を賃金にどう反映するかを決め、就業規則(賃金規程)に定めて、はじめて制度として動きます。
この記事では、人事評価制度を作る8つのステップを、会社の規模別の作り方、評価と昇給の連動、移行時の調整給、就業規則への反映と手続きまで、社会保険労務士が解説します。
- 人事評価制度は、等級制度・評価制度・報酬制度の3つを連動させて作る。評価だけを作っても、昇給や賞与の根拠にならない。
- 作り方は、①目的と現状の把握、②等級、③評価項目と基準、④評価のルール、⑤報酬との連動、⑥移行シミュレーション、⑦規程化と手続き、⑧運用開始の8ステップ。
- 評価の結果で昇給・降給する場合は、就業規則(賃金規程)に定める必要がある。降給を新たに設けるなど労働者に不利な変更は、原則として労働者との合意か、変更の合理性と周知が必要になる。
- 等級の数や評価の仕組みは会社の規模で変わる。少人数の会社は最小構成から、大企業は職種別・複線型の等級や労使協議を前提に設計する。

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloopホールディングス 代表
人事労務DD(人事労務デューデリジェンス)・IPO準備の労務監査/労務是正を強みとする社会保険労務士。建設・介護・医療・IT・製造・飲食・小売・人材・不動産など多業種の労務顧問、就業規則作成、人事評価制度構築にも対応。
登録番号:13250298
人事評価制度とは(等級・評価・報酬の3つの柱)
| 制度 | 役割 | 決めること |
|---|---|---|
| 等級制度 | 社員に期待する役割・能力の段階を決める | 等級の数、等級ごとの役割(定義)、昇格・降格の基準 |
| 評価制度 | 一定期間の成果や行動を基準に照らして判定する | 評価項目、評価基準、評価の段階、評価者、評価期間 |
| 報酬制度 | 評価と等級を給与・賞与に反映する | 賃金表(等級ごとの上限・下限)、昇給額、賞与の係数 |
3つのうち一つでも欠けると、評価をしても給与が変わらない、等級の違いを説明できない、といった不満につながります。人事評価制度の全体像は人事評価制度とはで解説しています。
人事評価制度の作り方8ステップ

| ステップ | やること | 成果物 |
|---|---|---|
| ①目的と現状の把握 | 制度で解決したい課題を決め、現在の賃金・人員構成を把握する | 目的、賃金の一覧(年齢・勤続・役職ごと) |
| ②等級 | 等級の数と、各等級に期待する役割を決める | 等級定義書 |
| ③評価項目と基準 | 等級ごとの評価項目と、何ができれば何点かを決める | 評価基準書、評価シート |
| ④評価のルール | 評価の段階、期間、評価者、調整の方法、面談を決める | 評価の手順書 |
| ⑤報酬との連動 | 評価ごとの昇給額、賃金表、賞与の係数を決める | 賃金表、昇給表 |
| ⑥移行シミュレーション | 全員を新制度に当てはめ、人件費と給与の増減を確認する | 移行表、調整給の案 |
| ⑦規程化と手続き | 人事評価規程・賃金規程を作り、意見聴取・届出・周知をする | 規程、意見書、説明会の資料 |
| ⑧運用開始 | 評価者研修、試行評価をしてから本格運用し、毎年見直す | 研修資料、年間スケジュール |
ステップ① 目的と現状を把握する
最初に、制度で何を解決したいかを1〜2つに絞ります。たとえば「若手の離職を減らしたい」「管理職を育てたい」「賃上げの根拠を示したい」です。目的によって、評価で重く見る項目が変わります。
あわせて、全社員の基本給・手当を、年齢・勤続年数・役職と並べて一覧にします。同じ役割なのに給与に大きな差がある、勤続だけで給与が上がっている、といった現状のゆがみが、新しい制度で解決すべき点になります。
ステップ② 等級を決める
等級は、社員がどの段階を経て成長していくかの「育成のステップ」です。一般社員・リーダー・管理職のように、役割の違いで分けます。各等級には、「どんな仕事を任せるか」「どこまで判断するか」を短い文章で定義します。
等級の考え方には、能力で分ける職能資格制度、職務で分ける職務等級制度(ジョブ型)、役割で分ける役割等級制度があります。職務を一つひとつ定義しにくい会社では役割等級制度が、専門職の採用や報酬を市場水準に合わせたい会社では職務等級制度が向いています。詳しくは等級制度とはで解説しています。
ステップ③ 評価項目と評価基準を決める
評価項目は、大きく次の3つに分けて考えます。
- 業績(成果):売上、生産数、目標の達成度など、数字で測れる成果
- 能力・行動:業務に必要な知識・技能を発揮したか、成果につながる行動をとったか
- 情意(姿勢):規律、協調性、責任感など仕事への姿勢
等級が上がるほど業績の比重を大きく、下の等級ほど行動・情意の比重を大きくするのが一般的です。評価基準は「積極的に取り組んだ」のような抽象的な言葉ではなく、「月1件以上、業務改善の提案を出した」のように、誰が評価しても同じ判断になる行動で書きます。評価シートの項目例は人事評価シートのテンプレートと評価項目の例で紹介しています。
ステップ④ 評価のルールを決める
- 評価の段階:S・A・B・C・Dの5段階が一般的。真ん中(B)を「期待どおり」と定義する
- 評価期間:半年ごと(賞与に反映)と1年ごと(昇給に反映)の組み合わせが多い
- 評価者:一次評価は直属の上司、二次評価はその上の役職者。社員が少ない会社は社長が二次評価を担い、大企業は部門ごとの調整会議を加える
- 調整:評価者ごとの甘い・辛いの差を、評価者会議でそろえる
- 面談:期初に目標を決める面談、期末に結果を伝える面談を必ず行う
ステップ⑤ 報酬と連動させる

評価ランクごとに、昇給額と賞与の係数を決めます。昇給は、等級ごとの「標準評価(B)の昇給額」を基準に、評価ランクの倍率を掛ける方法が分かりやすく、社員にも説明しやすい方法です。
| 評価 | 昇給の倍率(例) | 標準昇給額5,000円の場合 | 賞与の係数(例) |
|---|---|---|---|
| S | 2.0倍 | 10,000円 | 1.3 |
| A | 1.5倍 | 7,500円 | 1.15 |
| B | 1.0倍 | 5,000円 | 1.0 |
| C | 0.5倍 | 2,500円 | 0.85 |
| D | 0倍 | 0円 | 0.7 |
昇給額は、先に昇給の予算(原資)を決め、評価の分布の見込みから逆算すると、人件費が会社の負担できる範囲に収まります。下の昇給シミュレーターで、予算と評価ランクごとの人数・倍率から、標準評価(B)の昇給額を逆算できます。賃金表の作り方は賃金テーブルの作り方で解説しています。
昇給シミュレーター
昇給の予算と、評価ランクごとの倍率・人数の見込みから、標準評価(B)の昇給額を逆算します。
| 評価 | 倍率 | 人数の見込み | 1人あたり昇給額 | 昇給額の合計 |
|---|
※ 昇給額は100円未満を切り捨てています。会社負担の社会保険料・残業代・賞与への影響は含みません。
ステップ⑥ 移行シミュレーションをする

全社員を新しい等級と賃金表に当てはめ、今の給与と比べます。新しい賃金表の上限を超える社員や、下限に届かない社員が出るのが普通です。
- 下限に届かない社員:移行時に下限まで引き上げるか、数年かけて引き上げる
- 上限を超える社員:超える部分を「調整給」として当面支給し、昇給・昇格に合わせて段階的に縮める
移行をきっかけに給与を下げると、不利益変更の問題になります。調整給で今の給与を守りながら、新しい制度に寄せていく設計が、トラブルを防ぐ現実的な方法です。
ステップ⑦ 規程にして、手続きをする

労働基準法では、賃金の決定・計算の方法と昇給に関する事項は、就業規則に必ず記載する事項です(労働基準法第89条)。評価の結果で昇給額や賞与が決まる制度にするなら、その仕組みを賃金規程と人事評価規程に定めます。
| 手続き | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 規程の作成・変更 | 人事評価規程(評価の対象・基準・方法・時期)、賃金規程(賃金表・昇給・降給・賞与) | 労働基準法第89条 |
| 意見聴取 | 労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付する | 労働基準法第90条 |
| 労使協議 | 労働組合がある会社は、労働協約や労使協議の手続きに沿って制度の変更を協議する | 労働協約・労使の取り決め |
| 届出 | 常時10人以上の労働者を使用する事業場は、労働基準監督署に届け出る | 労働基準法第89条 |
| 周知 | 社員がいつでも見られる状態にする。説明会で目的と仕組みを説明する | 労働基準法第106条 |
評価の結果で基本給が下がる仕組み(降給)を新たに設けることは、労働者に不利な変更にあたる可能性があります。就業規則の不利益変更は、原則として労働者との合意が必要で、合意がない場合は、変更の必要性や不利益の程度、代わりの措置(調整給など)、労働者との話し合いの状況などから変更が合理的で、周知されていることが必要です(労働契約法第9条・第10条)。詳しくは就業規則の不利益変更で解説しています。

なお、評価による降給は、懲戒としての「減給の制裁」(労働基準法第91条)とは別のものです。評価による降給を行う場合も、規程にあらかじめ根拠と基準を定めておく必要があります。
ステップ⑧ 運用を始めて、毎年見直す
いきなり給与に反映せず、半年〜1年は試行評価として運用し、評価者の判断のばらつきや、項目の分かりにくさを直します。評価者には、評価のしかたと面談の進め方の研修を行います。運用を始めてからは、年1回、評価の分布や社員アンケートをもとに項目と基準を見直します。
会社の規模別の作り方

| 規模 | 等級の数 | 評価項目 | 評価の流れ | 作る期間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 10〜30名 | 3〜4段階(一般・リーダー・管理職) | 全社共通で10前後 | 上司(または社長)が評価し、社長が最終決定 | 3〜6か月 |
| 30〜100名 | 5〜6段階 | 等級別に10〜15。職種で業績項目を分ける | 一次・二次評価と評価者会議 | 6か月〜1年 |
| 100〜1,000名 | 6〜9段階。管理職と専門職の複線型も | 等級別・職種別に設計 | 多段階の評価と全社の調整会議、評価システムの導入 | 1年前後 |
| 1,000名以上 | 職種・職務ごとの等級(ジョブ型の導入も)。グループ会社の制度統一 | 職種別に設計し、全社共通の行動評価と組み合わせる | 評価システムでの運用、労使協議、段階的な移行 | 1年以上 |
会社の規模に合わない制度は、少人数の会社では評価の手間で運用が止まり、大企業では職種ごとの違いを評価できずに不満が出ます。少人数の会社は最小構成で始めて成長に合わせて広げ、大企業は職種別の設計と、労使協議を含めた段階的な移行を前提に計画します。
外部に依頼する場合の費用
| 従業員数 | 費用の目安 |
|---|---|
| 100名未満 | 50万〜200万円 |
| 100〜500名 | 200万〜500万円 |
| 500〜1,000名 | 500万〜1,000万円 |
| 1,000名以上 | 1,000万〜3,000万円以上 |
評価の設計だけでなく、賃金表・規程・評価者研修・運用の支援まで含めるかで費用は変わります。自社で作る場合も、規程の作成と労使の手続きは専門家に確認すると、後のトラブルを防げます。
依頼先の選び方と各社の費用は人事評価制度コンサルのおすすめ15社で比較しています。
よくある失敗と対策
| 失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 評価しても給与が変わらない | 評価と賃金の連動を決めていない | 評価ランクごとの昇給額・賞与係数を規程に定める |
| 移行で給与が下がる社員が続出した | 移行シミュレーションをしていない | 調整給で今の給与を守り、段階的に移行する |
| 評価者によって甘い・辛いがばらつく | 基準があいまい、評価者研修がない | 行動で書いた基準、評価者会議、研修 |
| 忙しくて評価されなくなった | 項目が多すぎる、手順が複雑 | 項目を絞る。評価の時期を年間スケジュールに固定する |
| 規程がないまま降給して争いになった | 就業規則に降給の根拠がない | 降給の基準と手続きを規程に定め、不利益変更の手続きをとる |
人事評価制度に使える助成金
人事評価制度を新たに導入して離職率を下げた場合、人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)の対象になることがあります。ただし、全員を対象にすることや、降給・降格をしない制度であることなどの条件があり、導入前に計画を提出する必要があります。詳しくは人事評価制度に使える助成金で解説しています。
よくある質問
社員10人以下でも人事評価制度は必要ですか?
必要です。人数が少ない会社ほど、昇給の理由を社長が一人ひとりに説明できるかが定着を左右します。等級3段階・評価項目10前後の最小構成で十分です。
大企業が人事評価制度を見直すときの注意点は?
職種ごとに評価項目を分けること、評価システムで運用できる設計にすること、労働組合との協議や移行措置の期間を計画に組み込むことが重要です。グループ会社がある場合は、共通の等級と会社ごとの違いをどこまで認めるかを先に決めます。
評価シートだけ作って運用してもよいですか?
評価シートだけでは、評価の結果をどう給与に反映するかが決まらず、社員の納得につながりません。少なくとも、評価ランクごとの昇給額と賞与の係数を決め、賃金規程に定めます。
評価が低い社員の給与を下げてもよいですか?
評価による降給は、就業規則(賃金規程)に根拠と基準を定めていれば可能です。ただし、降給を新たに設けることは労働者に不利な変更にあたる可能性があり、合意や変更の合理性が必要です。
作るのにどのくらいの期間がかかりますか?
10〜30名の会社で3〜6か月、30〜100名で6か月〜1年、100名以上で1年前後が目安です。これに、試行評価の期間(半年〜1年)を見込みます。
人事評価規程は必ず作る必要がありますか?
評価の結果で昇給や賞与が決まるなら、その仕組みは就業規則の記載事項(賃金の決定・計算の方法、昇給)にあたるため、賃金規程や人事評価規程として定めます。常時10人以上の事業場は、労働基準監督署への届出も必要です。
まとめ
- 人事評価制度は、等級・評価・報酬の3つを連動させて作る。
- 作り方は、目的と現状の把握から規程化・運用開始までの8ステップ。
- 評価と昇給・賞与の関係を決め、移行シミュレーションで給与が下がる社員が出ないかを確認する。
- 評価で賃金が決まる仕組みは、就業規則(賃金規程)に定め、意見聴取・届出・周知を行う。降給を新設するときは不利益変更の手続きに注意する。
社労士事務所altruloopでは、戦略コンサルティングの経験をもつ社会保険労務士が、等級・評価・賃金の設計から、賃金規程・人事評価規程への反映、労使の手続き、社員説明会、評価者研修、運用の定着まで一貫して支援しています。初めての制度づくりから、大企業・グループ会社の制度の見直しまで対応しています。