建設業における時間外労働の上限規制が適用された2024年4月から2年が経過しました。2026年現在、労働基準監督署の調査や指導は年々厳格さを増しています。
本記事では「休日労働の算定ルール」「元請け企業との単価交渉」等、建設業の現場の実態に即した具体的な働き方改革について社会保険労務士が解説します。
- 【2026年最新】勘違いしやすい上限規制のルール(休日労働の扱いの違い)と、厳格化する労基署調査の実態
- 建設業の働き方改革が「無理」と言われる4つの構造的課題と、下請け企業でも明日から取り組める現実的な対策
- 従業員の離職を防ぐ「給与体系の変更(月給制への移行など)」に伴う法的リスク(不利益変更)と正しい進め方
- 国交省の「建設業働き方改革加速化プログラム」や厚労省の「助成金」を活用し、資金負担を抑えて改革を進めるステップ

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloop代表
社会保険労務士として、建設・介護・医療・IT業界など累計100社以上の労務顧問を担当。 労務DD・就業規則作成・人事評価制度構築・給与計算/社会保険手続きなどの実務に精通し、高難易度な労務DD案件も多数対応。
現在は全国対応で、大手からスタートアップまで幅広く支援しています。
登録番号:13250298
時間外労働の上限規制の経緯
働き方改革関連法とは、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための法律です。2019年に大企業から順次施行されましたが、業務の特殊性を考慮し、建設業には5年間の猶予期間が設けられていました。しかし、2024年4月に猶予期間は終了し、現在は他業種と同じく罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されています。
施行から2年が経過した2026年現在、働き方改革は単なる「努力目標」ではなく「企業の存続条件」となりました。
対応できた企業とそうでない企業の間で、公共工事の受注や若手採用において明確な二極化が進んでいます。
現在の建設業の長時間労働の実態
現場での急な仕様変更や天候による工期の遅れなど、建設業特有の要因によって長時間労働が常態化しやすい実態は依然として残っています。
さらに、高齢化によるベテラン層の引退と若手人材の不足が重なり、現場の負担は増しています。しかし、現在では「業界の慣習だから」等の理由で、労働基準監督署の指導を逃れることはできなくなっています。
上限規制の具体的なルールと罰則
まずは、労働時間の上限規制に「休日労働」を含めるか否かの違いを整理します。
ここでは法定休日(労働基準法で定められた週1回の休日)の労働時間を、残業時間にカウントするかどうかが重要なポイントになります。

原則ルール
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働は、36協定(法定労働時間を超えて残業させるために必要な労使協定)を締結して届け出た場合でも、残業時間は以下に収めるのが原則です。(※これらに休日労働は含みません)
原則のルール
- 月間45時間以内
- 年間360時間以内
特別条項(特別な事情がある場合)の上限
特別条項付きの36協定とは、突発的なトラブルなどで原則の限度時間を超えて働かせる必要がある場合に結ぶ特別な協定です。

「天候不良による大幅な工程遅延の挽回」など、通常予見できない特別な事情がある場合に限り、特別条項付きの36協定を結ぶことで上限を延長できます。ただし、以下の限度時間は絶対に守らなければなりません。
| 規制内容 | 上限 | 休日労働の扱い |
|---|---|---|
| 年間の時間外労働 | 720時間以内 | 含まない |
| 複数月(2~6ヶ月)の平均 | 80時間以内 | 含む |
| 単月の時間外労働 | 100時間未満 | 含む |
| 月45時間を超える回数 | 年間6ヶ月まで | – |
違反が発覚するリスクと労基署の調査
労働基準監督署の調査で上限超過や虚偽の打刻が発覚した場合、まず是正勧告(改善の指導)の対象となります。
2026年現在、悪質な違反に対しては労働基準法違反として「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科され、書類送検される事例も実際に出ています。企業名が公表されれば、公共工事の指名停止や採用活動への致命的なダメージに直結します。
建設業における労働基準法の考え方
労働基準法における労働時間とは、一言で言うと「使用者の指揮命令下にある時間」を指します。
たとえ工具を握って作業をしていなくても、上司や会社から「何かあったらすぐ動け」と指示されていたり、自由な行動が制限されていたりすれば、それは労働時間とみなされます。
① いわゆる「手待時間(てまちじかん)」
「次の資材が届くまで待機してくれ」「急なトラブルに備えて現場近くで待機して」と言われている時間は、労働時間にあたります。
自由に現場を離れて休憩することが保障されておらず、指示があれば即座に業務に戻らなければならない状態は、立派な仕事の一部です。
② 移動時間の扱い
基本として、単なる「通勤」は労働時間ではありません。しかし、以下のようなケースは労働時間に含まれる可能性が高いです。
- 会社に集合してから、社用車に乗り合わせて現場へ向かう(その間に打ち合わせ等がある)場合。
- 現場へ行く前に、会社で資材の積み込みを行うよう指示されている場合。
- 移動中に上司から業務の具体的な指示を受けている場合。
③ 着替え・作業準備・後片付けの時間
現場に入る前の「準備」も、業務に不可欠であれば労働時間です。
- 会社指定の作業着や保護具への着替え。
- 作業開始前の朝礼や、準備体操の時間。
- 作業終了後の清掃や、道具の整理・点検。 これらは「自己研鑽」ではなく、業務を遂行するために必要なプロセスであるため、労働時間に該当します。
④ 安全教育・研修の時間
建設現場で欠かせない安全教育も、参加が義務付けられている場合は労働時間です。
- 新規入場者教育の時間。
- KY(危険予知)ミーティングの時間。
- 会社が参加を命じた技術研修やセミナー。
手続きのフローチャートと36協定の記載例について
労働基準法による許可・届出を行うか否かは下記フローで判断をします。

36協定の記載例①:限度時間を超える時間外労働が見込まれず、災害時の復旧・復興の対応が見込まれない場合

36協定の記載例②:限度時間を超える時間外労働が見込まれ、災害時の復旧・復興の対応が見込まれない場合

36協定の記載例③:限度時間を超える時間外労働が見込まれず、災害時の復旧・復興の対応が見込まれる場合

36協定の記載例④:限度時間を超える時間外労働が見込まれ、災害時の復旧・復興の対応が見込まれる場合

建設業の働き方改革が「無理」と言われる4つの課題と対策
課題①:短工期の発注慣行
発注者からの厳しい納期要請により「短工期」が常態化していることが、長時間労働の根本原因です。
課題②:日給制技能者の収入減問題
週休2日制を導入すると、日給で働く職人の収入が直接的に下がってしまうジレンマがあります。
課題③:重層下請構造
建設業特有の下請構造では、末端の企業ほど利益率が低く、無理な工期を押し付けられやすい傾向があります。
課題④:勤怠管理の実態把握困難
現場への直行直帰が多く、正確な労働時間の把握が困難です。
社会保険労務士 野澤惇企業ごとにとれる対策は異なりますので、労務に関する課題がある方はぜひ一度相談してください。
建設業働き方改革加速化プログラムを経営に生かす


加速化プログラムとは何か
国土交通省が中心となって推進している、建設業の環境改善に向けた総合的な取り組みです。以下の3つの柱で構成されています。
①長時間労働の是正
週休2日制の導入を後押しするため、公共工事における週休2日対象工事の拡大や、適切な工期設定の推進が行われています。


②給与・社会保険の改善
建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及を促進し、技能者の経験やスキルに応じた適正な賃金支払いと、社会保険の加入徹底を図っています。


③生産性向上
ICTを活用したi-Construction(建設現場の生産性向上施策)の推進により、プロセスを効率化しています。
近年ではBIM/CIM(3次元モデルを活用した業務効率化)や、遠隔臨場カメラによる現場監督の省力化など、少ない人数で高い成果を出せる体制づくりを支援しています。
週休2日を導入した場合の経費補正の仕組み
公共工事において週休2日を実施した場合、工期延長による現場管理費の増加や労務費の増加を補うため、発注金額を割増しする「経費補正」の仕組みが用意されています。


これにより、利益を削らずに週休2日制を推進しやすくなっています。
働き方改革推進支援助成金との組み合わせ活用
勤怠管理システムの導入や就業規則の改定、社労士への相談費用には、厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」が活用できる場合があります。国交省の施策と組み合わせることで、資金面のリスクを抑えて改革を進められます。
建設業の働き方改革の進め方
まずはクラウド勤怠管理システムを導入し、どの現場・工程で残業が発生しているか正確な実態をデータで把握します。その際、曖昧になりがちな「現場への移動時間」の取り扱いルールを社内で統一します。
洗い出した課題に対し、無駄な事務作業や現場間の移動時間を削減します。施工管理アプリの導入や、BIM/CIMを活用した図面共有など、ITツールを駆使して現場全体の生産性向上を図ります。
休日増加による収入減で離職が起きないよう、日給制から月給制への移行や各種手当の創設を検討します。移行の際は、法的トラブル(不利益変更:労働条件が従業員にとって不利に変更されること)を避けるため、従業員への丁寧な説明と同意取得を確実に行います。このタイミングで就業規則を見直し、近年厳しく問われる「ハラスメント防止規定」等も併せて整備することで、よりクリーンで若手が定着しやすい職場環境を構築できます。
【第12条 職場のパワーハラスメントの禁止】
職場におけるパワーハラスメントを防止するために、事業主は、雇用管理上必要な措置
を講じなければならないこととされています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の
雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労働施策総合推進法」といいます。)第30条の2)。
参考:モデル就業規則(令和7年12月)
社内体制を整えるのと同時に、発注者や元請企業との交渉に踏み出します。いきなり全面的な単価交渉が難しければ、まずは見積書での「法定福利費」の明示から始め、段階的に適正な工期と請負代金の確保に向けて協議を行います。
建設業の働き方改革に関するよくある質問
2024年4月以降も残業時間の上限を超えた場合、どのような罰則がありますか?
労働基準法違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。2026年現在、度重なる行政指導に従わない企業が書類送検されたり、企業名公表により公共工事の指名停止処分を受けたりするなど、企業活動の存続に関わる重大なペナルティを受ける事例が実際に起きています。
週休2日制を導入すると給与が下がる従業員への対応はどうすればいいですか?
基本給のベースアップや月給制への移行、各種手当の創設で収入水準を維持することが重要です。ただし、日給から月給への一方的な変更は労働トラブルの原因になり得ます。元請との単価交渉を進めつつ、十分な経過措置を設けて労使で合意形成を図る必要があります。
下請業者が「無理な工期」を強いられた場合、元請の責任はありますか?
建設業法違反として、元請企業に対して国や都道府県から勧告や指導が行われる可能性が高いです(著しく短い工期による請負契約の締結は禁止されています)。下請業者は泣き寝入りせず、まずは天候リスク等の客観的な根拠を持って元請と交渉し、必要に応じて建設業取引適正化センター等へ相談することが推奨されます。
建設業の特別条項(災害復旧)はどのような場合に使えますか?
災害時の復旧・復興事業に該当する場合のみ、「単月100時間未満」などの一部上限が適用除外となります。しかし、あくまで一部の規制が外れるだけであり、年間の時間外労働の上限(720時間以内)や、月45時間を超えられるのは年6ヶ月までといった大原則は守らなければなりません。
働き方改革推進支援助成金は建設業でも使えますか?
はい、要件を満たす建設業の中小企業であれば幅広く活用が可能です。就業規則の変更に伴う専門家へのコンサルティング費用や、クラウド機器の導入費用など、経費の一部が助成されます。(※要件は年度ごとに変わるため最新情報をご確認ください)


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まとめ
本記事では、2「建設業の時間外労働の上限規制」について、最新の現状と具体的な解決策を解説しました。
- 「年720時間」の特例は休日労働を含まず、「単月100時間未満」は含む点に注意
- 法定福利費を明示した単価交渉と、IT活用による生産性向上が重要
- 月給制移行などの給与体系変更は、不利益変更リスクに配慮し慎重に行う
- 国の支援プログラムや助成金を活用し、資金負担を抑えて環境整備を進める
2026年現在、働き方改革は人材確保と受注において必須の経営課題となっています。具体的な対応でお困りの際は、一度ぜひ社会保険労務士にご相談ください。











