残業などをさせている場合、適切に労使協定を結んでいますでしょうか。
結論から言えば、労使協定を結ばずに残業などをさせている場合、労働基準法違反となり、罰則や是正勧告の対象になりえます。
しかし今から正しく締結・届出をすれば、違法な状態は解消できます。
この記事では、労使協定を結んでいない場合に何が問題になるのか、そして今からやるべき対処までを社労士がわかりやすく解説します。
- 労使協定を結んでいないと、何が問題になるのか(違法性・罰則・リスク)
- そもそも労使協定とは何か、どんな種類があるのか
- 自社に必要な労使協定が結べているかの確認方法
- 従業員代表の選び方・締結・押印・届出・有効期間など、正しく結ぶ手順
- 不備に気づいたときに、まず何をすればよいか

【野澤 惇 | 社会保険労務士】
社労士事務所altruloop/株式会社altruloop代表
社会保険労務士として、建設・介護・医療・IT業界など累計100社以上の労務顧問を担当。 労務DD・就業規則作成・人事評価制度構築・給与計算/社会保険手続きなどの実務に精通し、高難易度な労務DD案件も多数対応。
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労使協定を結んでいないとどうなる?
まず、多くの方が一番気にしている「結んでいないと、どうなるのか」について解説します。
結んでいないと「労働基準法違反」になる場合がある
労使協定とは、本来は禁止されている働かせ方を、例外的に適法にするための取り決めです。
その代表例が、残業や休日労働を可能にする「36協定(サブロク協定)」です。労働基準法では、1日8時間・週40時間を超える労働は原則として禁止されています。この原則を超えて残業や休日労働をさせるには、36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
つまり、36協定を結ばないまま従業員に残業をさせていると、それだけで労働基準法違反になりえます。「知らなかった」では済まされないため、注意が必要です。
社労士 野澤惇多くの会社では少なからず残業があると思いますので、ほとんどの会社で労使協定が必要になります。
労使協定を結んでいないことによる3つのリスク
労使協定を結んでいない状態を放置すると、具体的に次のようなリスクがあります。
リスク1:罰則(懲役・罰金)の対象になりうる
36協定を結ばずに時間外労働をさせるなどの違反は、罰則の対象になりえます。
労働基準法では、こうした違反に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった罰則が定められています。実際に科されるかは事案によりますが、罰則の対象となる行為であること自体を、まず認識しておく必要があります。
リスク2:労基署の是正勧告・調査の対象になる
労働基準監督署の調査で不備が発覚すると、是正勧告を受けます。
是正勧告に従わずに放置した場合、より重い対応や、悪質なケースでは企業名の公表に至ることもあります。調査は、従業員からの申告や定期的な監督などをきっかけに行われます。
リスク3:従業員トラブルにつながる
労使協定の不備は、従業員とのトラブルの火種にもなります。
未払い残業代の請求や、労使間の信頼低下につながるおそれがあります。



IPOやM&Aなどを検討している会社様では特に注意しましょう。
そもそも労使協定とは?種類と必要なケース
次に労使協定そのものについて解説します。
労使協定とは「使用者と従業員代表が結ぶ取り決め」
労使協定とは、会社(使用者)と、従業員の過半数を代表する者との間で、書面で結ぶ約束です。
従業員の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合と、ない場合は従業員の過半数を代表する者(従業員代表)と結びます。労使協定は法律上原則として禁止されている取り扱いを、例外的に認めてもらうためのものです。



特にここでは従業員代表を適切に選べているかどうかが論点になります。
届出が必要な労使協定・不要な労使協定
労使協定には、労働基準監督署への届出が必要なものと、社内で保存しておけばよいものがあります。
| 区分 | 例 | 効力の要件 |
|---|---|---|
| 届出が必要 | 36協定 など | 締結+労基署への届出で効力が生じる |
| 届出は不要(社内保存) | 賃金控除に関する協定 など | 締結により効力が生じる(保存が必要) |
届出が必要な協定は、結んだだけでは足りず、提出して初めて効力を持ちます。ここを見落とすと「結んだつもり」で違法状態が続くことになります。
代表的な労使協定の種類
実務でよく登場する労使協定を挙げておきます。
36協定(時間外・休日労働)


最も重要なのが36協定です。従業員に少しでも残業や休日労働をさせるなら、締結と届出が欠かせません。
その他よくある労使協定(賃金控除・変形労働時間制など)


このほかにも、次のような場面で労使協定が必要になります。
- 給与から法定控除以外のものを天引きする場合(賃金控除の協定)
- 1か月単位・1年単位などの変形労働時間制を導入する場合
- 専門業務型裁量労働制やフレックスタイム制を導入する場合
自社の労使協定が結べているかの確認方法
次に自社がこれらを正しく結べているか確認する方法をお伝えします。
まず「残業・休日労働をさせているか」を確認する
最初に確認すべきは、残業や休日労働の有無です。
従業員が法定労働時間を超えて働いている、または休日に出勤しているなら、36協定が必要です。「少しだけだから大丈夫」ということはありません。まずは自社に残業・休日出勤があるかを確認しましょう。
協定書と届出の両方があるかを確認する
次に、協定を「結んだ書面」と「届出」の両方があるかを確認します。
具体的には、協定を締結した書面(協定書)が存在するか、そして届出が必要な協定については労働基準監督署に提出しているか、の2点です。
この両方がそろって、初めて有効な労使協定として機能します。



届け出が不要な労使協定もあるため、まずは書面が存在するか確認してみましょう。
有効期間が切れていないかを確認する
労使協定には有効期間があり、期限が切れていると「結んでいない」のと同じ状態になります。とくに36協定は、原則として1年ごとに締結・届出をやり直す必要があります。過去に一度結んだからと安心していると、いつの間にか失効していることもあります。
もし結べていない、あるいは不備があるとわかったら、今から正しく締結する手順を見ていきましょう。
労使協定を正しく結ぶ手順【締結から届出まで】
労使協定を正しく結ぶための具体的な手順を、5つのステップで解説します。
ステップ1:従業員代表を正しく選ぶ
最初のステップが、従業員代表の選出です。ここを誤ると、協定そのものが無効になりかねません。
従業員代表になれる人・なれない人
従業員代表には、誰でもなれるわけではありません。
管理監督者にあたる人は、従業員代表になることができません。また、代表は、パートやアルバイトを含む全従業員の過半数を代表する者である必要があります。一部の正社員だけを母数にするといった選び方は認められません。
正しい選び方(投票・挙手など民主的な方法)
従業員代表は、民主的な手続きで選ぶ必要があります。
投票や挙手など、従業員の過半数がその人を支持していると分かる方法で選出します。会社側が一方的に指名して選ぶことは認められません。この手続きを誤ると、せっかく結んだ協定が無効と判断されるおそれがあります。
ステップ2:協定を締結し、必要な事項を記載する
代表が決まったら、協定を締結します。
協定書には、対象となる業務や従業員の範囲、期間、時間外労働の上限時間など、必要な事項を漏れなく記載します。そのうえで、使用者と従業員代表が合意して締結します。記載すべき事項は協定の種類によって決まっているため、様式に沿って正確に作成することが大切です。
ステップ3:押印・署名のルールを確認する
締結にあたっては、押印や署名のルールも確認しておきましょう。
近年は行政手続きの見直しにより、押印が不要とされた書類もあります。ただし、協定として有効に成立させるには、署名または記名押印など、所定の要件を満たす必要があります。最新の様式と運用を確認したうえで対応しましょう。
ステップ4:労基署へ届け出る(届出が必要な協定)
届出が必要な協定は、労働基準監督署への提出まで行って完了です。
36協定などは、所轄の労働基準監督署に「労使協定届」を提出して、初めて効力を持ちます。締結しただけでは足りない点に、あらためて注意してください。提出は窓口や郵送のほか、電子申請でも行えます。
ステップ5:有効期間を管理し、更新する
最後に、有効期間の管理です。
有効期間を過ぎたら、あらためて締結・届出をやり直す必要があります。更新漏れは、「結んでいない」状態を生む最大の原因です。とくに毎年更新が必要な36協定は、期限を管理する仕組みをつくっておくと安心です。


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労使協定の不備に気づいたら、まずやるべきこと
労使協定がもし結べていなかったり、何か不備に気づいた際にはまずは下記を実施しましょう。
過去の分をさかのぼるより、まず現状を適法にする
最優先すべきは、今後の状態を適法にすることです。
まずは今から正しく協定を締結・届出し、違法な状態を解消しましょう。過去の未届出期間の扱いは、状況によって対応が変わるため、個別の判断が必要です。まずは足元の違法状態を止めることが第一歩になります。
自己判断で進めると無効になるリスクがある
労使協定は、自己判断で進めるのはとても危険です。
従業員代表の選び方、協定書の記載事項、届出のいずれかを誤ると、協定そのものが無効となり、「結んでいない」のと同じ状態になってしまいます。せっかく手続きをしても、要件を満たしていなければ意味がありません。
社労士に相談・依頼するメリット
労使協定は締結や提出などの対応が多いため、しっかり結ぶためには社会保険労務士への相談が有効です。
社労士に依頼すれば、自社に必要な協定の洗い出しから、正しい締結・届出、有効期間の管理までを任せられます。
労働基準監督署への対応や、就業規則との整合性もあわせて相談できるため、安心して任せることができます。
労使協定を結んでいないことに関するよくある質問
Q1. 労使協定を結んでいないと必ず違法になりますか?
必要な協定を結ばずに、該当する働かせ方をしていれば違法になってしまいます。
たとえば残業や休日労働をさせているのに36協定がなければ、労働基準法違反です。一方、その働かせ方をしていなければ、その協定は不要です。自社に必要な協定は何かを確認することが先決です。
Q2. 労使協定を結んでいないと、どんな罰則がありますか?
労働基準法上の罰則の対象になりえます。
36協定なしの時間外労働などには、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった罰則が定められています。
実際に科されるかは事案によりますが、罰則対象の行為であることは認識しておく必要があります。
Q3. 従業員代表は会社が指名して選んでもいいですか?
会社が一方的に指名するのは認められません。
従業員代表は、投票や挙手など民主的な方法で、過半数の支持を得て選ぶ必要があります。
会社の指名で選ばれた代表と結んだ協定は、無効と判断されるおそれがあります。
Q4. 労使協定は必ず労基署に提出しないといけませんか?
協定の種類によります。
36協定など届出が必要な協定は、労基署に提出して初めて効力を持ちます。一方、賃金控除の協定など、社内で保存しておけばよいものもあります。届出の要否は協定ごとに確認しましょう。
Q5. 労使協定の有効期間が切れていたらどうすればいいですか?
あらためて締結し、必要なものは再度届け出てください。
有効期間が切れた協定は、結んでいないのと同じ状態です。とくに36協定は毎年の更新が必要なため、速やかに再締結・再届出を行い、あわせて期限管理の仕組みを整えましょう。
まとめ
労使協定を結ばずに残業などをさせていると、労働基準法違反となり、罰則や是正勧告のリスクがあります。
労使協定は使用者と従業員代表が結ぶ取り決めで、届出が必要なものと不要なものがあり、協定書・届出・有効期間の3つがそろって初めて有効に機能します。
従業員代表の選び方や届出を誤ると協定が無効になることもあるため、不備に気づいたら、まず現状を適法な状態にするために社労士に相談することがおすすめです。
- 労使協定を結ばずに残業等をさせると労働基準法違反となり、罰則・是正勧告のリスクがある
- 労使協定は使用者と従業員代表が結ぶ取り決めで、届出が必要なものと不要なものがある
- 協定書・届出・有効期間の3つがそろって初めて有効になる
- 従業員代表の選び方や届出を誤ると、協定そのものが無効になることがある
- 不備に気づいたら、まず現状を適法化するために社労士に相談するのが確実









