【労働基準監督署の調査では何を見られるのか?】調査対象・項目・対応の流れを社労士が解説!

労働基準監督署から突然「出頭要求書」が届けば、誰しも不安になり、頭が真っ白になるものです。しかし、調査の目的やポイントを正しく理解し、適切に準備すれば、過度に恐れる必要はありません。

本記事では、特に相談の多い「呼び出し調査」に焦点を当て、私たち社労士事務所altruloopが、数々の調査対応で得た実務経験に基づき、調査で何が見られ、当日までに何をすべきかを分かりやすく解説します。まずは落ち着いて、やるべきことを一つずつ確認していきましょう。

目次

なぜあなたの会社に調査が?主な3つのきっかけ

労働基準監督署の調査(「臨検監督」と呼ばれます)は、闇雲に行われるわけではありません。必ず何らかのきっかけがあります。調査の背景を理解することは、当日の対応を準備する上で非常に重要です。主に以下の3つの種類に分けられます。

労働者からの「申告(通報)」

「申告監督」とは、現在または過去に在籍していた労働者が、「法律違反がある」として労働基準監督署に相談や通報(申告)をしたことをきっかけに行われる調査です。

もし、未払い残業代やハラスメント、不当な解雇などに心当たりがある場合、この「申告監督」である可能性が非常に高いと考えられます。この場合、労働基準監督官は漠然と調査をするのではありません。「通報された内容が事実かどうか」を裏付けるという明確な目的を持って、関連書類を精査し、質問をしてきます。

特に「出頭要求書(呼び出し状)」が送られてくるケースは、この申告監督であることが多いです。労働者からの申告内容を元に、的を絞って確認を進めるため、会社へ訪問するのではなく、担当者を呼び出して集中的にヒアリングと書類確認を行うのです。

定期的な「定期監督」

「定期監督」とは、労働基準監督署が毎年度策定する監督計画に基づき、特定の業種や地域などを対象として任意に選定した企業に対して行う、いわば「定期健診」のような調査です。

この調査は、特定の申告があったわけではないため、労働基準法や労働安全衛生法などが全般的に守られているかを幅広くチェックする傾向にあります。予告なく事業場を訪問する「臨検」が基本ですが、事前に電話などで日程調整の上、呼び出し調査が行われることもあります。

労働災害の発生に伴う「災害時監督」

「災害時監督」とは、業務中に従業員が怪我をしたり、不幸にも死亡したりといった労働災害が発生した場合に、その原因究明と再発防止の指導を目的として行われる調査です。

この調査の主眼は、労働安全衛生法に基づき、事業場の安全管理体制に不備がなかったかどうかの確認に置かれます。機械や設備の安全性、安全教育の実施状況などが重点的にチェックされます。労働災害が発生した事実が明確なため、経営者としても調査の目的を把握しやすいケースと言えるでしょう。

【最重要】呼び出し調査で「見られる」3大書類とチェックポイント

労働基準監督署の調査、特に「呼び出し調査」で必ずと言っていいほど提出を求められ、厳しくチェックされるのが「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(タイムカード)」の3つです。これらは「法定三帳簿」と呼ばれ、労務管理の根幹をなす最重要書類です。

調査官はこれらの書類を突き合わせ、「契約通りの条件で」「働いた時間分の給料が」「正しく支払われているか」を徹底的に確認します。ここに矛盾や不備があると、法律違反として是正勧告を受ける可能性が極めて高くなります。ここでは、それぞれの書類で監督官が何を確認するのか、その具体的なチェックポイントを解説します。

①労働者名簿・労働条件通知書:適正な雇用契約が結ばれているか

労働者名簿と労働条件通知書は、会社と従業員の間の「約束事」を証明する書類です。調査官はまず、この入口の部分が法的に正しく整備されているかを確認します。

監督官が確認する必須記載事項

労働者を一人でも雇用する場合、会社は労働条件を明記した「労働条件通知書」を交付する義務があります。調査では、この通知書が全従業員に交付されており、かつ法律で定められた必須項目が漏れなく記載されているかが確認されます。

特に以下の「絶対的明示事項」は、一つでも欠けていると指摘の対象となります。

  • 労働契約の期間(期間の定めの有無など)
  • 就業の場所と従事すべき業務の内容
  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇など
  • 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

2024年4月からは法改正により、将来の「就業場所・業務の変更の範囲」や、有期契約労働者に対する「更新上限の有無」「無期転換申込機会」などの明示も義務化されました。こうした最新の法改正に対応できているかも、専門家である監督官は鋭くチェックします。

労働条件通知書の具体的な作成方法や最新の法改正については、会社設立後の手続きを解説したこちらの記事も参考にしてください。

【実務の視点】契約内容と実態の乖離がないか

監督官は、単に書類の有無や形式をチェックするのではありません。書類に書かれている契約内容と、実際の働き方との間に矛盾がないかという、より踏み込んだ視点で確認します。

例えば、労働条件通知書に「所定外労働をさせることはない」と記載されているにもかかわらず、タイムカードに連日残業の記録が残っていたらどうでしょうか。これは契約と実態が乖離している明らかな証拠です。監督官は「名ばかりの契約で、実態としては残業を強いているのではないか」と判断し、未払い残業代の有無について厳しく追及してくるでしょう。

労働者名簿についても同様で、記載されている情報が最新の状態に更新されているか、実際の従業員数と一致しているかといった基本的な点が確認されます。

②賃金台帳:未払い残業代がないか、最低賃金を下回っていないか

賃金台帳は、労基署調査において最も重要な書類と言っても過言ではありません。お金に直結する部分であり、労働者からの申告で最も多い「未払い残業代」の温床となりやすいため、調査官は特に時間をかけて精査します。

【最重要チェックポイント】タイムカードとの整合性

調査官が行う最も基本的な確認作業は、「タイムカードの記録」と「賃金台帳の支払い記録」を一人ひとり突き合わせることです。

具体的には、ある従業員の1ヶ月分のタイムカードを見て、出退勤時刻から客観的な労働時間(時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数をそれぞれ)を算出します。次に、同月の賃金台帳を取り出し、そこに記載されている労働時間数や支払われている各種手当の額と、タイムカードから算出した実態とを比較します。

この二つの数字が一致しない場合、それは「会社が労働時間を正確に把握していない」または「把握していながら意図的に少なく申告し、賃金を支払っていない」ことの強力な証拠となります。この矛盾が発覚した時点で、是正勧告は免れないと考えた方がよいでしょう。

具体的な確認方法:残業代の計算は正しいか?

労働時間数が一致していることを確認した後、調査官は「支払額」の計算が正しいかをチェックします。特に残業代(割増賃金)の計算は複雑で間違いが起こりやすいため、重点的に見られます。

  • 時間外労働(法定労働時間を超えた分):1.25倍以上
  • 休日労働(法定休日に働いた分):1.35倍以上
  • 深夜労働(22時~翌5時に働いた分):0.25倍以上

例えば、時間外労働が10時間、深夜労働が5時間あった従業員の場合、賃金台帳の割増賃金が「(1時間あたりの賃金 × 10時間 × 1.25)+(1時間あたりの賃金 × 5時間 × 0.25)」以上になっているか、電卓を片手に検算されます。また、支払われている給与が、地域の最低賃金を下回っていないかも当然チェックされます。

よくある不備:固定残業代(みなし残業代)の運用ミス

中小企業で特に指摘が多いのが、固定残業代制度の不適切な運用です。「毎月〇万円の残業手当を払っているから大丈夫」という認識は非常に危険です。

固定残業代制度が法的に有効と認められるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 明確区分性:通常の労働時間の対価である基本給部分と、固定残業代部分が明確に区別されていること(雇用契約書や給与明細で明示)。
  • 対価性:固定残業代が何時間分の時間外労働等に対する対価なのかが明示されていること。
  • 差額支払:実際の残業時間が、固定残業代に含まれる時間を超えた場合、その超過分について別途、割増賃金が支払われていること

調査では、タイムカード上の実残業時間が固定残業時間を超えていないか、超えている場合に差額がきちんと支払われているかが厳しくチェックされます。この差額の未払いは、典型的な賃金不払いとして是正勧告の対象となります。

③タイムカード・出勤簿:労働時間を正確に把握・管理できているか

タイムカードや出勤簿は、賃金計算の元となる「労働時間」を証明する根拠資料です。そのため、その記録自体の信頼性、つまり「客観性」が問われます。

客観的な記録と認められるための要件

労働時間の把握は、使用者の義務です。原則として、タイムカード、ICカード、PCの使用時間の記録など、客観的な方法で記録されなければなりません。

調査官は、その記録方法が客観的かどうかを評価します。例えば、ICカードや生体認証による勤怠管理システムは改ざんが困難なため、客観性が高いと評価されます。一方で、誰でも時刻を書き換えられるような手書きの出勤簿は、客観性が低いと見なされます。

また、タイムカードの打刻時刻と、PCのログイン・ログオフ時刻、オフィスの入退館記録、業務メールの送信時刻など、他の記録との間に大きな乖離がある場合、「タイムカードを押した後に仕事を続けている(サービス残業)のではないか」と疑われ、厳しく追及される原因となります。

【実務の視点】自己申告制や手書きの出勤簿のリスク

やむを得ず自己申告制で労働時間を管理している場合、その運用には細心の注意が必要です。調査官は、「従業員が上司に遠慮して、実際の労働時間よりも少なく申告せざるを得ない状況になっていないか」という点を懸念します。

そのため、会社が自己申告制の適正な運用(例:従業員への十分な説明、実態との乖離がないかの定期的チェックなど)を行っていることを証明できなければ、その記録の客観性を認めてもらえない可能性があります。毎日全従業員が定時である「9:00-18:00」と記入しているような出勤簿は、客観的な記録とは到底見なされません。

適切な勤怠管理システムの導入は、こうしたリスクを回避し、正確な給与計算の基礎を築く上で極めて重要です。当事務所では、クラウド勤怠システムの導入支援も行っておりますので、お気軽にご相談ください。

調査当日までの具体的な対応フロー【3ステップ】

「出頭要求書」を受け取ってから調査当日まで、時間は限られています。パニックにならず、冷静に、しかし迅速に行動することが重要です。ここでは、当日までにやるべきことを3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:出頭要求書(呼び出し状)の内容を正確に把握する

まずは、送られてきた出頭要求書を隅々まで正確に読み込んでください。慌てていると、調査日時と場所だけを確認してしまいがちですが、本当に重要なのは「持参する書類」のリストです。

このリストに記載されている書類こそ、調査官が今回の調査で特に確認したいと考えている項目です。例えば、「直近1年分のタイムカードと賃金台帳」とあれば、労働時間の管理と残業代の支払いが調査の主眼であると推測できます。

また、場合によっては「労働条件に関する質問票」といった書類が同封されていることもあります。その質問項目を読めば、調査の焦点がより明確になります。まずは敵(調査官)が何を知りたがっているのかを、この要求書から正確に読み取ることが第一歩です。

ステップ2:指定された書類を準備し、不備がないかセルフチェックする

要求書で指定された書類をすべて準備します。揃えるだけでなく、調査官の視点に立って、不備がないかをセルフチェックすることが、このステップの最も重要なポイントです。

前の章で解説した「3大書類のチェックポイント」を参考に、以下の点を確認してください。

  • 労働者名簿:記載事項に漏れはないか?最新の情報か?
  • 労働条件通知書:全従業員に交付しているか?必須記載事項は網羅されているか?
  • 賃金台帳とタイムカード:両者の労働時間数は完全に一致しているか?残業代の計算は正しいか?固定残業代の運用は適正か?
  • 36協定:そもそも届け出ているか?有効期限は切れていないか?協定の上限時間を超える残業はないか?
  • 就業規則:作成・届出義務のある事業場か?内容は最新の法改正に対応しているか?従業員に周知されているか?
  • 年次有給休暇管理簿:作成されているか?年5日の取得義務は果たせているか?

このセルフチェックの段階で問題点を発見できれば、まだ対策を考える時間があります。調査当日に調査官から初めて指摘される事態だけは避けなければなりません。誠実な自己点検こそが、リスクを最小化する鍵です。

ステップ3:想定される質問への回答を準備しておく

調査は、単なる書類提出の場ではありません。調査官との質疑応答、つまり「インタビュー」が必ず行われます。書類のセルフチェックで見つかった問題点や、矛盾している点について、調査官は必ず質問してきます。

  • 「なぜ、タイムカードの記録と賃金台帳の労働時間数が違うのですか?」
  • 「この月の残業時間が100時間を超えていますが、なぜですか?健康管理はどのようにしていましたか?」
  • 「固定残業代の時間を超えた分の差額が支払われていませんが、どういう認識でしたか?」

こうした厳しい質問に対して、「分かりません」「担当者に任せているので…」といった回答は、経営者としての管理責任を問われ、調査官の心証を著しく悪化させます。

事前に質問を想定し、事実をありのままに、しかし簡潔かつ誠実に説明する準備をしておきましょう。もし不備があったのであれば、その事実は率直に認め、「今後はどのように改善していくのか」という前向きな姿勢を具体的に示すことが極めて重要です。

よくある質問

Q. 調査を拒否したり、嘘の報告をしたりするとどうなりますか?

労働基準監督官には、法律(労働基準法第101条)に基づき、事業場への立入調査や帳簿・書類の提出要求、尋問を行う強力な権限が与えられています。

正当な理由なく調査を拒否したり、妨げたり、あるいは虚偽の陳述や改ざんした書類の提出を行ったりした場合、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。調査には誠実に対応することが、無用な罰則を避けるための大原則です。

Q.「是正勧告」と「指導票」の違いは何ですか?

どちらも行政指導の一環ですが、その重みが異なります。

「是正勧告書」は、調査の結果、明確な法律違反が確認された場合に交付されます。これ自体に直接的な法的強制力はありませんが、指定された期日までに違反状態を是正し、その結果を「是正報告書」として提出する義務が生じます。この報告を怠ったり、改善が見られない場合は、検察庁へ送検され、刑事罰に発展する可能性もあります。

一方の「指導票」は、法律違反とまでは言えないものの、労働者の健康確保や職場環境の観点から改善が望ましい点について交付されるものです。是正勧告書よりは緩やかな指導ですが、これも放置せず、改善に努め、報告することが求められます。

Q. 調査で不利にならないために、今すぐできることはありますか?

まずは、本記事の「【最重要】呼び出し調査で『見られる』3大書類とチェックポイント」で解説したセルフチェックを直ちに実行することです。

特に、タイムカード等で記録された客観的な労働時間の実態と、賃金台帳に記載された労働時間数および残業代の支払額に、1円・1分の矛盾もないかを確認してください。ここが最も重要なポイントです。少しでも計算が合わない、運用に不安があるといった場合は、調査日を迎える前に、私たちのような専門家へ相談することを強くおすすめします。

Q. 社労士に相談するメリットは何ですか?

社労士に相談する最大のメリットは、調査の準備から当日、そして事後対応まで、一貫した専門的サポートを受けられる点にあります。

  • 専門家による事前チェック:自社のリスクを客観的に洗い出し、調査当日の「想定問答」を準備できます。
  • 調査当日の立ち会い:専門家が同席することで、調査官とのやり取りを円滑に進め、経営者様の精神的な負担を大幅に軽減します。不必要に不利な発言をしてしまうリスクも防げます。
  • 是正報告書の作成支援:万が一是正勧告を受けた場合でも、調査官が納得する的確な是正報告書の作成をサポートし、問題を確実にクローズさせます。

これらのサポートにより、不利な結果を回避できる可能性が格段に高まります。

まとめ

労働基準監督署の調査は、多くの経営者様にとって不安な出来事です。しかし、その本質は「法律を守り、労働者のための職場環境を整備すること」にあります。調査をきっかけに自社の労務管理体制を見直し、より良い会社にしていくチャンスと捉えることもできます。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも有効な選択肢です。私たち社労士事務所altruloopでは、労基署調査への対応に関するご相談を随時受け付けておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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