最低賃金の引き上げが続く中、人件費の負担増は中小企業にとって大きな課題です。利益を削るだけの賃上げではなく、国が用意する強力な支援策「業務改善助成金」を活用しましょう。
本記事では、自社が対象になるかの条件確認から、購入できる設備の具体例、受給額の試算まで、制度の全貌を社労士が分かりやすく解説します。最新の変更点も網羅していますので、ぜひ参考にしてください。
- 業務改善助成金の仕組みと他制度との違い
- 申請に必要な3つの条件と2025年の拡充ポイント
- 対象となる設備投資の例と対象外経費のルール
- 賃上げ額に応じた助成上限額のシミュレーション
- 申請の4ステップと失敗しないための注意点

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業務改善助成金とは

設備投資で生産性を高め、その利益を従業員の給与アップに還元する企業を支援する制度です。基本的な仕組みと他の補助金との違いを解説します。
制度の目的と仕組みをひと言で説明すると
「生産性向上のための設備投資を行い、事業場内最低賃金を引き上げた企業に対し、その設備投資等の費用の一部を国が助成する制度」です。
会社の稼ぐ力を底上げする「設備導入」と、従業員の待遇を改善する「賃上げ」を同時に達成しようとする前向きな企業をバックアップします。
他の補助金との違い
最大の違いは「従業員の賃上げが必須条件」である点です。IT導入補助金などが売上拡大を主目的とするのに対し、本制度は厚生労働省管轄で労働環境の改善に主眼を置いています。要件を満たし正しい手順を踏めば、高い確率で支給されるのも特徴です。
対象となる事業者の条件
助成金を活用するには、企業規模や給与水準に関する3つの条件をクリアする必要があります。

条件①「中小企業・小規模事業者であること」
大企業は利用できず、以下の「資本金」または「労働者数」のいずれか一方を満たす中小企業・小規模事業者が対象です。個人事業主や医療法人なども含まれます。
| 主な業種 | 資本金の額・出資の総額 | 常時使用する労働者の数 |
|---|---|---|
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 製造業・建設業・運輸業など | 3億円以下 | 300人以下 |
条件②「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内であること」
社内で最も低い時給と、地域別最低賃金との差額が原則「50円以内」の事業場が対象です。ただし、2025年9月の拡充により「改定後の地域別最低賃金未満となる事業所」も新たに対象に追加され、利用しやすくなりました。
条件③「解雇・賃金引下げ等の不交付事由に該当しないこと」
助成金の申請前後で「解雇」や「会社都合による退職」、不当な「賃金引き下げ」がないことが厳しく求められます。また、賃上げ対象者の要件が「雇入れ後3か月以上」から「6か月以上」へ延長されたため、入社日の確認が必要です。
助成対象となる設備・経費の具体例
従業員の作業負担を軽減し、業務効率化に繋がる設備が対象となりますが、近年は対象経費のルールが厳格化しています。
通常申請で認められる設備・経費の例

生産性向上に直接寄与し、作業時間短縮などの効果が見込める「機械設備」や「ITシステム」が対象です。
| 業種 | 対象となる設備・経費の具体例 | 期待される業務改善効果 |
|---|---|---|
| 飲食店・宿泊業 | 業務用自動食洗機、セルフオーダーシステム、配膳ロボット | 洗い物やホール業務の負担軽減 |
| 小売業・卸売業 | 最新型POSレジシステム、クラウド型在庫管理ソフト | レジ締めや棚卸し作業の大幅な短縮 |
| 製造業・建設業 | CNC工作機械、特殊重機、パワーアシストスーツ | 手作業の自動化、重量物運搬の負担軽減 |
| 医療・介護福祉 | 介護用電動リフト、電子カルテシステム | 移乗介助の負担軽減、ペーパーレス化 |
| その他のサービス業 | 顧客管理システム(CRM)、予約管理システム | スケジュール調整や顧客対応の自動化 |
通常申請では対象外になるもの
単なる買い替えや、業務効率化との因果関係が薄いものは対象外です。令和8年度に向け、経費の厳格化が進んでいます。
- 汎用品(一般的なパソコン、スマホ、乗用車など)
- 広告宣伝費、決済機能のないWebサイト作成費
- 太陽光発電などの再生可能エネルギー設備
- 職員旅費以外の交通費、研修用テキストなどの印刷製本費
- 原則として中古品の購入
「特例事業者」なら対象経費が拡大

売上減少や利益率低下などの要件を満たし「特例事業者」として認定されると、通常は対象外となるパソコンや車両なども、システム専用端末などの業務に不可欠な用途に限り認められる場合があります。また、助成の上限枠も拡大されます。
特例要件は以下の通りです。
- 【特例事業者の要件】
-
以下の①または②に当てはまる場合、特例事業者となります。
① 申請事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満である
② 原材料費の高騰などの影響により、直近6か月間平均の利益率が前年度と比べ3%ポイント以上低下している
(※この②の要件を満たすとPC等の導入も対象になります)

助成上限額と助成率
助成額は「いくら賃上げするか」「何人の時給を上げるか」「助成率」の3要素で決まります。
4つのコースと助成上限額(令和7年度・一般事業者)
賃上げ額(30円、45円、60円、90円)と対象人数に応じて、上限額が高く設定されます。

助成率
引き上げ前の事業場内最低賃金に応じて、国が負担する割合(助成率)が決まります。最低賃金が低い企業ほど手厚く支援されます。

- 引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満:対象経費の「5分の4(4/5)」
(※特例事業者は「10分の9」) - 引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円以上:対象経費の「4分の3(3/4)」
試算シミュレーション
制度の計算方法を2つのケースで試算します。
【ケース①】飲食店(従業員8名)が食洗機・POSシステムを200万円で導入する場合

- 企業の現状:最低賃金が1,000円
- 賃上げ計画:4名を50円アップ(50円コース・4~5人枠)
- 助成率:4/5
- 計算:200万円 × 4/5 = 160万円
- 支給額:該当枠の上限額が70万円のため、支給額は70万円となります。
【ケース②】製造業(従業員4名)が自動化機械600万円を導入する場合
- 企業の現状:最低賃金1,060円
- 賃上げ計画:4名を90円アップ(90円コース・4~6人)
- 助成率:3/4
- 計算:600万円 × 3/4 = 450万円
- 支給額:該当枠の上限額(270万円)が適用され、270万円が支給されます。
2025年度の重要変更点
2025年9月5日より「事前の賃金引上げ計画の提出が省略可能」となりました。地域別最低賃金の改定日前日までに先行して賃上げを実施した場合でも、事後的に助成金申請ルートに乗せられるようになり、使い勝手が大きく向上しました。
ただし、先行して実施できるのはあくまで「賃上げ」のみです。設備の導入(発注・契約・支払い)については、これまで通り必ず「労働局からの交付決定後」に行う必要がある点には十分に注意してください。
申請の流れと注意点
要件を満たしていても手順を間違えると受給できません。正しいフローと注意点を確認しましょう。


申請フロー(全4ステップ)
自社の賃金を把握し、引き上げ額と対象人数を決めます。入社6か月未満の従業員は対象外です。
設備を選定して見積もりを取得し、生産性向上の見込みを記載した事業実施計画書を作成します。
必要書類を労働局へ提出し、審査結果を待ちます。
交付決定通知が届いた後で、設備の発注・支払いと賃上げを実施します。完了後に実績報告を行い、助成金を受け取ります。

申請でよくある失敗・注意点
- 事前着手の禁止:設備の契約や発注は、必ず交付決定後に行う必要があります。見積り段階での契約もNGです。
- 相見積もりと中古品ルール:中古品は原則不可。一定額以上の設備は複数社の相見積もりが必須です。
- 代理申請のペナルティ強化:令和8年度より代理申請は社労士・弁護士に限定されます。不正関与が発覚すると企業側にも5年間の申請停止ペナルティが科されます。
よくある質問
- 個人事業主でも申請できますか?
-
はい、要件を満たせば個人事業主でも申請可能です。
労働保険に加入し、中小企業の規模要件を満たす従業員を雇用していれば対象となります(家族従業員のみは不可)。
- 飲食店1店舗しか持っていない小規模店でも対象になりますか?
-
はい、対象になります。
小規模店ほど最大10分の9という高い助成率が適用されやすく、制度の恩恵を大きく受けられます。
- 同じ設備で複数年度申請することはできますか?
-
いいえ、同じ設備で二重に助成金を受け取ることはできません。
ただし、別年度に「全く別の設備」と「新たな賃上げ計画」を用意して申請することは可能です。
- PCや自動車は対象になりますか?
-
原則対象外ですが、特例事業者に認定された場合は対象となることがあります。
業務効率化に必要不可欠な専用端末や車両であると客観的に証明できるケースに限られます。
- 助成金の受給後に従業員を解雇した場合はどうなりますか?
-
不交付事由に該当し、助成金の全額返還を求められる可能性があります。
労働環境改善という趣旨に反するため、会社都合の解雇や不当な賃金引き下げは厳重なペナルティ対象です。

- 面倒な人事労務業務を全て代行
- 就業規則・給与計算・社保の手続き・助成金・採用まで幅広く対応
- 労務顧問は月々3万円〜!お得に面倒な業務を外注
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まとめ
業務改善助成金は、最低賃金アップの負担を設備投資による効率化で乗り越えるための強力な制度です。
最新の緩和ルールや厳格化された注意点を正しく理解し、自社の利益体質強化にお役立てください。まずは自社の現状を把握し、受給額のシミュレーションから始めてみましょう。
- 設備投資による生産性向上と最低賃金の引上げをセットで支援する制度
- 2025年9月より、最低賃金改定前の先行賃上げでも申請可能に
- 特例事業者に認定されれば、PCなどの汎用品も対象経費に拡大
- 設備の発注や契約は、必ず労働局の「交付決定後」に行うこと
- 令和8年度より代理申請は社労士・弁護士に限定されるため専門家選びに注意