入社手続きで会社側がやるべきこと完全ガイド(正社員・バイト・新卒対応)社労士への外注で効率化

従業員の入社は喜ばしい反面、会社側には複雑な手続きが求められます。「何から始めれば…」「もし漏れがあったら…」といった不安を抱えていませんか?従業員を一人雇用するということは、社会保険や労働保険、税金に関する法的な責任を負うということです。手続きの漏れや遅れは、行政からの指導や罰則だけでなく、何よりも新しい従業員との信頼関係を損なう原因になりかねません。

この記事では、数多くの企業をサポートしてきた社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)が、入社手続きの核心となるポイントを分かりやすく解説します。このガイドを読めば、やるべきことの全体像と具体的な手順が明確になり、安心して新しい仲間を迎え入れることができるようになります。

目次

入社手続きの全体像(3つのステップで考える)

複雑に見える入社手続きも、時系列で分解すればシンプルです。まずは「入社前」「入社日」「入社後」の3つのステップで全体像を把握しましょう。この流れを理解するだけで、次に何をすべきかが明確になり、手続きの漏れを防ぐことができます。

ステップ1:入社日までに準備・回収する書類

入社手続きの成否は、入社日前の準備でほぼ決まります。この段階で必要な書類を正確にやり取りすることが、後の手続きをスムーズに進めるための鍵です。会社側が準備するものと、従業員から回収するものを明確に区別して進めましょう。

入社手続きの必要書類チェックリスト

会社が準備・送付する書類従業員に提出を依頼する書類
採用通知書年金手帳 または 基礎年金番号通知書
入社承諾書・誓約書雇用保険被保険者証(中途採用の場合)
労働条件通知書前職の源泉徴収票(中途採用の場合)
雇用契約書給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与振込先の口座情報
マイナンバー(個人番号)
健康保険被扶養者(異動)届(扶養家族がいる場合)

会社が準備する書類のポイント

  • 採用通知書:法的な発行義務はありませんが、採用が決定したことを正式に伝えるために交付するのが一般的です 。  
  • 入社承諾書・誓約書:従業員が入社意思を固め、会社のルールを遵守することを誓約してもらうための書類です。これも法的な義務はありませんが、後のトラブルを防ぐために重要です 。  
  • 労働条件通知書:これは労働基準法で交付が義務付けられている非常に重要な書類です 。賃金、労働時間、就業場所などの労働条件を明記し、必ず書面で交付しなければなりません。  
  • 雇用契約書:労働条件通知書と異なり法的な作成義務はありませんが、会社と従業員の双方が労働条件に合意した証拠として、署名・捺印を取り交わすことが強く推奨されます 。多くの場合、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として一体化させた書類が用いられます 。  

従業員から回収する書類のポイント
これらの書類は、社会保険や雇用保険の加入手続き、所得税の計算に不可欠です。入社前にリストを渡し、入社日までに準備してもらうよう明確に依頼しましょう 。特に中途採用者の「雇用保険被保険者証」と「源泉徴収票」は、手続きに必須なため、早めに提出を促すことが肝心です。  

労働条件通知書の交付についてはこちらの記事も参考にしてください。

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ステップ2:入社日当日に締結・交付する書類

入社日当日は、新しい従業員を歓迎するとともに、法的に必要な手続きを完了させる重要な日です。準備不足で慌てることがないよう、事前に段取りを整えておきましょう。

主なタスクは、雇用契約書の締結です。事前に送付した雇用契約書(または労働条件通知書 兼 雇用契約書)の内容を改めて確認し、双方が署名・捺印します。このプロセスを丁寧に行うことは、単なる事務作業ではありません。従業員に対して「この会社はルールをきちんと守る信頼できる組織だ」というメッセージを伝える最初の機会であり、良好な信頼関係を築くための第一歩となります 。  

また、このタイミングで法定三帳簿の作成を開始します。法定三帳簿とは、労働基準法で作成と保管が義務付けられている以下の3つの書類です 。  

  • 労働者名簿:従業員の氏名、生年月日、住所、履歴などを記録します。
  • 賃金台帳:給与の支払状況、労働日数、労働時間数などを記録します。
  • 出勤簿:タイムカードや勤怠管理システムの記録など、日々の出退勤時刻を記録します。

これらの帳簿は、従業員を雇用するすべての事業者に作成義務があり、未作成の場合は罰則の対象となるため、必ず整備してください 。  

ステップ3:入社後に提出する行政書類

従業員を雇用した後、会社は速やかに行政機関への届出を行わなければなりません。このステップは、提出期限が厳格に定められており、手続きの遅れが最も大きなリスクに直結する部分です。

具体的には、以下の2つの手続きが中心となります。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届:年金事務所(または健康保険組合)へ提出します。
  • 雇用保険被保険者資格取得届:ハローワークへ提出します。

これらの書類は、従業員が公的な保障を受けるための生命線です。次の章で、これらの手続きの重要性と具体的なリスクについて詳しく解説します。

最重要!社会保険・労働保険の手続きを徹底解説

入社手続きで最も重要かつ、遅延が許されないのが社会保険・労働保険の手続きです。ここを疎かにすると、法的な罰則はもちろん、企業の信頼を揺るがす大きな問題に発展しかねません。担当者として、この部分だけは絶対に押さえておく必要があります。

健康保険・厚生年金保険の手続き(資格取得届)

従業員の生活に直結するのが、健康保険と厚生年金保険です。この手続きには、非常に厳しい期限が設けられています。

  • 提出書類:健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
  • 提出先:事業所の所在地を管轄する年金事務所、または加入している健康保険組合
  • 提出期限事実発生日(=入社日)から5日以内

「5日以内」という期限は、土日祝日を含めてカウントするため、非常にタイトです。例えば、水曜日入社であれば、翌週の月曜日が期限となります。月末の入社など、連休を挟む場合は特に注意が必要です 。  

なぜこれほど期限が厳しいのでしょうか。それは、従業員の健康保険証を一日でも早く発行し、医療保障に切れ目を作らないためです。もし手続きが遅れ、従業員が入社直後に病気や怪我で病院にかかった場合、保険証が手元にないと一時的に医療費を全額(10割)自己負担しなければならなくなります 。これは従業員にとって大きな経済的・精神的負担となり、「会社は自分の健康を守ってくれない」という深刻な不信感につながります。たった数日の遅れが、取り返しのつかない信頼の失墜を招くのです。  

雇用保険の手続き(資格取得届)

雇用保険は、従業員が失業した際の生活保障や、育児休業・介護休業中の給付金、スキルアップのための教育訓練給付など、働く人を支える重要な制度です。

  • 提出書類:雇用保険 被保険者資格取得届
  • 提出先:事業所の所在地を管轄するハローワーク
  • 提出期限資格取得した日(=入社日)の属する月の翌月10日まで  

健康保険・厚生年金に比べると期限に余裕がありますが、こちらも忘れてはならない重要な手続きです。手続きを怠ると、従業員が将来、失業手当や育児休業給付金を受け取れなくなるなど、直接的な不利益を被ることになります 。  

手続きが遅れた場合の具体的なリスクとは?

「少しくらい遅れても大丈夫だろう」という安易な考えは非常に危険です。手続きの遅延や未加入が発覚した場合、企業は段階的に深刻な状況に追い込まれます。

行政からの督促

まず、年金事務所やハローワークから電話や文書で督促状が届きます 。この段階で速やかに対応すれば問題は大きくなりませんが、無視し続けると事態は悪化します。  

延滞金の発生

督促状の指定期限までに保険料を納付しない場合、納付期限の翌日から納付日の前日までの日数に応じて、年率最大14.6%もの高い延滞金が課せられます 。これは直接的なキャッシュアウトとなり、企業の資金繰りを圧迫します。  

立ち入り調査と遡及加入

悪質なケースと判断されると、年金事務所の職員による立ち入り調査が行われます 。そして、最大で過去2年分に遡って社会保険への強制加入となり、   未納だった保険料と延滞金を一括で請求されます 。従業員負担分も含めて会社が立て替えなければならない場合もあり、中小企業にとっては経営を揺るがすほどの大きな金額になることも少なくありません。  

事業経営への致命的な影響
  • 従業員の信頼失墜と離職:自分が支払ったはずの保険料が未納であったことを知った従業員の不信感は計り知れません。モチベーションは著しく低下し、優秀な人材から次々と離職していく事態を招きます 。  
  • 社会的信用の失墜:社会保険の未加入は、法令遵守意識の低い企業という烙印を押されることを意味します。金融機関からの融資が受けられなくなったり 、取引先から契約を見直されたり 、ハローワークに求人を出せなくなったり と、事業活動のあらゆる面で足かせとなります。  
  • 財産の差し押さえ:最終的には、国税滞納処分に準じて、会社の預金口座や売掛金、不動産といった財産が強制的に差し押さえられます 。こうなると事業の継続は極めて困難になり、倒産に至るケースも珍しくありません。  

社会保険手続きは、単なる事務作業ではなく、企業の存続に関わる重要なリスク管理そのものであることを、強く認識してください。

【雇用形態別】ここだけは注意!手続きのポイント

正社員、アルバイト、パート、新卒など、雇用形態によって手続きの基本は同じですが、注意すべき点が少し異なります。雇用形態ごとの特有のポイントを的確に押さえ、ミスのない手続きを行いましょう。

正社員:基本的な手続きの流れ

正社員の場合は、これまで解説してきた基本的な手続きがすべて適用されます。入社前の書類準備から、入社後の社会保険・労働保険の手続きまで、解説した通りの流れで進めてください。特に、社会保険の加入は必須であり、手続きの遅延は許されません。

アルバイト・パート:社会保険の加入義務が発生する条件

アルバイトやパートタイマーであっても、一定の条件を満たす場合は社会保険への加入が法律で義務付けられています。特に近年、この適用範囲は段階的に拡大しており、知らなかったでは済まされません。

2024年10月からは、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上の企業も対象となります 。自社が該当するかどうかを必ず確認し、以下のチェックリストで加入義務の有無を判断してください。  

パート・アルバイトの社会保険 加入義務チェックリスト(2024年10月〜)

スクロールできます
チェック項目条件
対象企業厚生年金保険の被保険者数が51人以上
条件1週の所定労働時間が20時間以上
条件2月額の所定内賃金が8.8万円以上(年収約106万円以上)
条件3雇用期間が2ヶ月を超える見込みがある
条件4学生ではない(※休学中や夜間学生は加入対象)

上記の条件をすべて満たす場合、社会保険への加入義務が発生します 。特に注意が必要なのは、「月額賃金8.8万円」には残業代や賞与、通勤手当は含まれない点と、「週20時間」は雇用契約上の所定労働時間であるという点です 。これらの条件を正しく理解し、対象となる従業員を漏れなく加入させることが重要です。  

パート・アルバイトの社会保険についてはこちらの記事も参考にしてください

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新卒:年金手帳の代わりに基礎年金番号通知書を回収

新卒者、特に大学を卒業して初めて就職する従業員の場合、年金に関する書類で少し注意が必要です。

2022年4月以降、年金制度に初めて加入する人には、従来の冊子型の「年金手帳」は発行されなくなり、代わりにA4サイズの「基礎年金番号通知書」が発行されるようになりました 。  

したがって、新入社員に基礎年金番号の確認を依頼する際は、「年金手帳、または基礎年金番号通知書を提出してください」と両方を案内するのが親切です。担当者がこの変更を知らずに「年金手帳を持ってきてください」とだけ伝えると、新入社員は「持っていません」と答え、話がこじれてしまう可能性があります。

なお、すでに年金手帳を持っている従業員(中途採用者など)については、その手帳が引き続き有効であり、基礎年金番号通知書にあらためて切り替える必要はありません 。  

よくある質問

ここでは、人事労務の実務で担当者がつまずきがちな、具体的な疑問にお答えします。

Q. マイナンバーの提出を拒否された場合はどうすればいいですか?

従業員がマイナンバーの提出を拒否するケースは、残念ながら起こり得ます。まず知っておくべきことは、従業員にマイナンバーの提出を法的に強制することはできず、提出を拒否したことによる従業員への罰則もありません 。  

しかし、会社側には、税や社会保険の行政手続き書類にマイナンバーを記載する義務があります。したがって、会社として取るべき対応は以下の通りです。

  1. 利用目的を丁寧に説明し、再度提出を依頼する:まずは、社会保険や源泉徴収票の作成といった法的に定められた目的のために必要であることを丁寧に説明し、提出を再度依頼します。
  2. 依頼した経緯を記録に残す:それでも提出を拒否された場合は、「いつ、誰が、誰に対して提出を依頼し、その結果、提供を拒否された」という事実を記録として残しておきます。この記録が、会社が義務を果たそうとした証拠になります 。  
  3. 空欄のまま書類を提出する:最終的に提出が得られない場合は、行政機関の書類のマイナンバー欄を空欄のまま提出します。提出先の行政機関からは、なぜ記載がないのか問い合わせがあるかもしれませんが、その際は記録しておいた経緯を説明してください。

提出拒否を理由に採用を取り消したり、不利益な扱いをしたりすることはできませんので、冷静に対応することが重要です。

Q. 雇用契約書はいつまでに交付すれば問題ないですか?

この質問に答えるには、「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いを正確に理解する必要があります。

  • 労働条件通知書:これは労働基準法で交付が義務付けられている書類です。交付時期は「労働契約の締結に際し」と定められており、具体的には内定時や入社日に交付する必要があります 。  
  • 雇用契約書:こちらは法律上の交付義務はありません 。しかし、労働条件について労使双方が合意したことを証明し、後の「言った、言わない」というトラブルを防ぐために、作成・締結することが強く推奨されます。  

実務上のベストプラクティスは、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として一つの書類にまとめ、入社日までに内容を説明し、入社日当日に署名・捺印を取り交わすことです 。これにより、法的な義務とトラブル予防の両方を満たすことができます。  

Q. 試用期間中ですが、社会保険への加入は必須ですか?

はい、必須です。これは非常によくある誤解ですが、法律上、試用期間は正式な労働契約期間の一部です 。したがって、「試用期間が終わってから本採用」ではなく、「入社日から本採用であり、その当初の一定期間を試用期間と定めている」というのが法的な解釈になります。  

そのため、試用期間中であっても、週の所定労働時間などの加入要件を満たしている限り、入社初日から社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)への加入義務が発生します 。  

「試用期間中は社会保険料を節約できる」といった考えは完全に間違いであり、未加入が発覚した場合は、遡って保険料を徴収されるだけでなく、罰則の対象となる可能性がある違法行為です 。  

Q. 前職の源泉徴収票がなかなか提出されません。どう対応すべきですか?

中途採用者の年末調整を行うためには、その年に支払われたすべての給与を合算する必要があるため、前職の源泉徴徴収票は不可欠です 。提出が遅れる場合の対応は、以下のステップで進めます。  

STEP
従業員本人から前職へ再度請求してもらう

まず、源泉徴収票の発行は前職の会社の義務であることを従業員に伝え、再度強く請求してもらいます。所得税法上、退職後1ヶ月以内に交付する義務があります 。  

STEP
「源泉徴収票不交付の届出書」を案内する

それでも前職が応じない、または倒産して連絡が取れないといった場合は、従業員本人が所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することができます。この届出書を提出すると、税務署から前職の会社へ行政指導が行われ、発行が促されます 。

STEP
年末調整に間に合わない場合は確定申告をしてもらう

上記の手続きを行っても、会社の年末調整の期限までに源泉徴収票の入手が間に合わない場合は、その年の年末調整は会社では行えません。その際は、従業員本人に、年明けに自分で確定申告をしてもらう必要があります。その旨を従業員に伝え、理解を求めましょう 。

まとめ

従業員の入社手続きは、会社の労務管理の第一歩であり、従業員との信頼関係を築く上で非常に重要です。複雑に見える手続きも、本記事で解説した「入社前」「入社日」「入社後」のステップに沿って進めることで、全体像を把握しやすくなります。

特に社会保険・労働保険に関する手続きは、提出期限が厳格に定められており、遅延や漏れは法的なリスクに直結します。手続きの遅れは、延滞金や罰則といった金銭的な損失だけでなく、従業員の不信感を招き、企業の社会的信用を失墜させるなど、経営の根幹を揺るがす事態に発展しかねません。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
助成金申請・就業規則・労務DD等を得意とする。前職の戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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