従業員の給与に関するルールを定める「賃金規程」。
作成や改定の必要性に迫られているものの、具体的にどのような条文を盛り込めばよいのか、法律的に問題ない書き方はどうすべきか、お悩みではないでしょうか。
本記事では、社会保険労務士の監修のもと、実務ですぐに使える賃金規程のサンプル(ひな形)や、記載すべき重要項目、労使トラブルを回避するためのポイントを解説します。
- 賃金規程の基本的な定義と法的義務
- そのまま使える一般的な賃金規程のモデル条文構成
- 必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」の詳細
- 残業代や手当などトラブルになりやすい項目の対策
- 規程を作成・変更する際の正しい手続きフロー

- 面倒な人事労務業務を全て代行
- 就業規則・給与計算・社保の手続き・助成金・採用まで幅広く対応
- 労務顧問は月々3万円〜!お得に面倒な業務を外注
\まずはお気軽に相談/
賃金規程とは?就業規則との違いと作成義務について
まずは、賃金規程の基礎知識について解説します。就業規則との関係性や、法律で定められた作成義務について正しく理解しましょう。
賃金規程の定義と法的役割
賃金規程とは、従業員の賃金(給与)に関するルールを定めた規則のことです。
法律上、賃金に関する事項は「就業規則」の一部として位置づけられています。つまり、賃金規程は独立した別のルールブックではなく、就業規則という大きな枠組みの中にある「給与に関する章」を抜き出して詳しく定めたものと言えます。
会社と従業員の間で給与に関するトラブルが発生した際、この賃金規程の内容が判断基準となるため、非常に重要な法的役割を持っています。
常時10人以上の事業場における作成・届出義務
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。
賃金に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない項目(絶対的必要記載事項)です。
したがって、常時10人以上の従業員がいる会社では、賃金規程(または就業規則内の賃金条項)を作成・届出しなければ法律違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。なお、従業員数が10人未満であっても、助成金の申請などで作成が求められるケースが増えています。
就業規則の本則と「別規程」にするメリット
実務上は、就業規則の本則(服務規律や労働時間などを定めたもの)と、賃金規程を分けて「別規程」として作成することが一般的です。
別規程にする主なメリット
- 改定がしやすい: 賃金体系の変更やベースアップなど、給与に関する部分だけを変更したい場合に、就業規則全体を見直す必要がなくなります。
- 読みやすくなる: すべてを一本化すると条文が長くなりすぎますが、分けることで従業員にとっても内容が理解しやすくなります。
- 雇用形態ごとの管理が容易: 正社員用、パートタイム用など、雇用形態によって賃金体系が異なる場合、それぞれの規程として管理しやすくなります。
【Word版】賃金規程のサンプル・ひな形
ここでは、一般的な中小企業で利用しやすい賃金規程の構成と、基本的な条文のイメージを紹介します。自社の状況に合わせて調整してください。
一般的な賃金規程のモデル条文構成
標準的な賃金規程は、以下のような章立てで構成されます。
【賃金規程 構成案】
- 第1章 総則(目的、適用の範囲)
- 第2章 賃金の決定および構成(賃金の構成、基本給、諸手当)
- 第3章 賃金の計算および支払(計算期間、支払日、欠勤控除、端数処理)
- 第4章 割増賃金(時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率)
- 第5章 賞与(支給対象、支給時期、査定期間)
- 第6章 昇給(昇給の時期、昇給の基準)
以下は、もっとも基本的な条文のサンプルです。
賃金規程(サンプル)
第1章 総則
(目的)
第1条
この規程は、就業規則第◯条に基づき、従業員の賃金に関する事項を定めるものである。
2. この規程に定めのない事項については、労働基準法その他の法令および就業規則の定めるところによる。
(適用の範囲)
第2条
この規程は、就業規則第◯条に定める正社員に適用する。
2. パートタイム労働者、契約社員、嘱託社員等の賃金については、別途定める契約書または規程によるものとする。
【社労士のポイント】
正社員以外(パートやアルバイト)の賃金体系が異なる場合は、第2項のように「適用除外」または「別規定」であることを明記しましょう。ここが曖昧だと、正社員用の手当や賞与規定がパート社員にも適用されると解釈されるリスクがあります。
第2章 賃金の決定および構成
(賃金の構成)
第3条
賃金の構成は、次のとおりとする。
(1) 基準内賃金
① 基本給
② 役職手当
③ 資格手当
(2) 基準外賃金
① 通勤手当
② 時間外労働割増賃金
③ 休日労働割増賃金
④ 深夜労働割増賃金
(基本給)
第4条
基本給は、本人の職務内容、技能、経験、勤務成績、年齢等を考慮して各人ごとに決定する。
(通勤手当)
第5条
通勤手当は、通勤に要する実費相当額を支給する。ただし、月額【◯◯,000円】を上限とする。
2. 通勤手当は、最も経済的かつ合理的と認められる通勤経路および方法により算出する。
(役職手当)
第6条
役職手当は、管理職および指導的地位にある者に対し、その責任の度合いに応じて支給する。
2. 支給額は、役職の区分に応じて別途定める賃金テーブルによる。
第3章 賃金の計算および支払
(賃金の計算期間および支払日)
第7条
賃金の計算期間は、毎月【1日】より【末日】までとし、【翌月◯◯日】に通貨で直接その全額を支払う。
2. 前項の規定にかかわらず、従業員の同意を得た場合には、本人が指定する銀行口座への振込により支払うことができる。
3. 支払日が休日にあたるときは、【その前日】に繰り上げて支払う。
(欠勤等の扱い)
第8条
欠勤、遅刻、早退および私用外出をした時間については、賃金を支給しない。
2. 控除する額の計算式は次のとおりとする。
* (基本給 + 諸手当)÷ 1ヶ月平均所定労働時間 × 不就労時間数
(端数処理)
第9条
割増賃金の計算および欠勤控除等の計算において、1ヶ月の賃金支払額に1円未満の端数が生じたときは、これを四捨五入する。
2. 1ヶ月における時間外労働、休日労働および深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合は、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる。
【社労士のポイント】
第8条の「ノーワーク・ノーペイ」の原則を適用するための計算式は必須です。「1ヶ月平均所定労働時間」を用いるのが一般的です。
第9条の端数処理は、労働基準法で認められた方法(常に切り捨てはNG、四捨五入や30分単位の処理など)で規定する必要があります。
第4章 割増賃金
(割増賃金)
第10条
会社は、従業員に法定の労働時間を超えて労働させた場合、または休日、深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させた場合は、次の割増率で計算した割増賃金を支給する。
(1) 時間外労働(法定超):【25%】以上
(2) 休日労働(法定休日):【35%】以上
(3) 深夜労働:【25%】以上
(4) 時間外労働が深夜労働となった場合:【50%】以上
(5) 休日労働が深夜労働となった場合:【60%】以上
- 1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合、その超えた時間については【50%】以上の割増率とする。
(割増賃金の計算基礎)
第11条
割増賃金の計算基礎となる賃金は、基本給および諸手当とする。ただし、次の手当は計算基礎から除外する。
(1) 通勤手当
(2) 家族手当
(3) 別居手当
(4) 子女教育手当
(5) 住宅手当
(6) 臨時に支払われた賃金
(7) 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
【社労士のポイント】
第11条の「除外賃金」は重要です。ここに記載し、かつ実態としても「家族数に応じた支給」などの要件を満たしていれば、残業代単価の計算から外すことができ、人件費の適正化につながります。
第5章 賞与
(賞与)
第12条
賞与は、原則として年2回、【7月】および【12月】に会社の業績および本人の勤務成績等を勘案して支給することがある。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、支給時期を延期し、または支給しないことがある。
2. 賞与の支給対象者は、支給日現在在籍している者とする。
3. 前項にかかわらず、算定対象期間の全期間を欠勤、休職した者には賞与を支給しない。
【社労士のポイント】
「支給する」と断定せず「支給することがある」とし、不支給の可能性を示唆しておくことがリスク管理上非常に重要です。また、「支給日現在在籍要件」を入れることで、支給日前に退職した従業員とのトラブルを防げます。
第6章 昇給
(昇給)
第13条
昇給は、毎年【4月1日】をもって行うものとする。
2. 昇給額は、会社の業績および本人の勤務成績、能力等を勘案して決定する。
3. 会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合、または本人の勤務成績が不良の場合などは、昇給を行わないことがある。
【社労士のポイント】
賞与と同様に、必ず毎年昇給する(定期昇給)という誤解を与えないよう、第3項で「昇給を行わないケース」を明記しておくことが推奨されます。
サンプル活用時の注意点
インターネット上にあるサンプルやひな形を利用する際は、以下の点に十分注意してください。
- 実態との乖離: 「家族手当」などの記載がサンプルにあっても、実際に支給していなければ削除する必要があります。書いてあるのに払わない場合は「未払い賃金」のリスクが生じます。
- 法改正への対応: 労働基準法は頻繁に改正されます。古いひな形を使用すると、現在の法律(残業代の割増率や消滅時効など)に対応できていない可能性があります。
- 自社独自のルールの反映: インセンティブ制度や固定残業代など、会社独自のルールがある場合は、汎用的なサンプルだけでなく専門的な条文の追加が必要です。
賃金規程に記載すべき重要項目を解説
賃金規程には、法律上「必ず書かなければならないこと」と「制度があるなら書かなければならないこと」の2種類があります。これらを漏れなく記載することが重要です。
絶対的必要記載事項
これらは、どのような会社であっても必ず定めて記載しなければならない項目です。
賃金の決定方法・計算方法
基本給をどのように決めるのか(月給、日給、時給など)、また個別の金額決定要素(年齢、能力、職務内容など)を記載します。
あわせて、日割り計算や欠勤控除の計算式など、具体的な計算方法も明記する必要があります。
支払方法・賃金締切日・支払日
「通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日に支払う」という賃金支払いの5原則に基づき、いつ締め切り、いつ支払うのかを特定します。銀行振込を行う場合は、その旨と同意に関する規定も入れておくのが無難です。
昇給に関する事項
昇給があるのかないのか、ある場合はいつ(時期)、どのような条件で行われるのかを記載します。「会社の業績や本人の勤務成績により昇給を行わないことがある」といった但し書きを入れるケースが一般的です。
相対的必要記載事項
これらは、会社として制度を設ける場合に限り、記載義務が発生する項目です。
退職金・賞与(ボーナス)
退職金や賞与制度を導入する場合は、その決定方法、計算方法、支払時期などを記載しなければなりません。
逆に言えば、制度がない場合は記載する必要はありませんが、トラブル防止のために「賞与は原則として支給しない」「業績により支給する場合がある」などと明記しておくことが推奨されます。
最低賃金額・食費や作業用品の負担
法令に基づく最低賃金以外に会社独自の最低保障額を設ける場合や、社宅費、制服代などを従業員に負担させる場合は、その詳細を規定する必要があります。
【項目別】トラブルを防ぐ賃金規程の作成ポイント
賃金規程があいまいだと、未払い残業代請求などの労使トラブルに直結します。ここでは特に注意すべきポイントを項目別に解説します。
基本給の定義
基本給は賃金のベースとなる部分ですが、その性質(年齢給、職能給、役割給など)を定義しておきましょう。
ここがあいまいだと、降給を行う際や、定年後の再雇用時の賃金設定で根拠を示すことが難しくなります。
諸手当の設計ルール
手当は「誰に」「いくら」払うのか、支給要件を明確にすることが不可欠です。
通勤手当・住宅手当・家族手当の支給要件
例えば通勤手当であれば「最も経済的かつ合理的な経路で支給する」「上限額は月額〇〇円とする」といった制限を設けないと、高額な新幹線通勤費などを請求されるリスクがあります。住宅手当や家族手当も、世帯主限定などの条件を細かく設定しましょう。
同一労働同一賃金への配慮
正社員とパート社員で手当の支給有無に差をつける場合、その違いに合理的な理由が必要です(同一労働同一賃金)。
例えば「通勤にかかる費用」は雇用形態に関わらず発生するため、パート社員にだけ通勤手当を払わない運用はリスクが高いと言えます。
割増賃金(残業代)の規定
最もトラブルになりやすいのが残業代です。
割増率と計算基礎となる賃金
法定の割増率(通常残業25%以上、休日35%以上、深夜25%以上など)を下回ることはできません。
また、残業代の単価を計算する際、「家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当」などは、条件を満たせば計算の基礎から除外できます。これらを明確に分けておかないと、残業単価が高くなり、人件費を圧迫する可能性があります。
固定残業代(みなし残業)導入時の厳格な要件
固定残業代を導入する場合は、「基本給と固定残業代が明確に区分されていること」「何時間分の残業代なのか明記されていること」「超過分は別途支払うこと」が規程に明記されていなければなりません。ここが曖昧だと、固定残業代すべてが基本給とみなされ、未払い残業代が発生するリスクがあります。
欠勤・遅刻・早退時の賃金控除計算式
「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、働かなかった時間分の賃金を控除する場合の計算式(分単位なのか、時間単位なのかなど)を定めます。
このルールがないと、遅刻しても満額給与を支払わなければならないと解釈される恐れがあります。
賃金規程を変更・改定する際の手続きフロー
賃金規程を作成したり、内容を変更したりする際は、適切な法的手続きが必要です。
従業員代表からの意見書取得
作成・変更した規程案について、従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)から意見を聴き、「意見書」を作成してもらう必要があります。
同意を得る必要まではありせんが、反対意見であっても意見書を添付して届け出る義務があります。
労働基準監督署への届出
作成した賃金規程(就業規則変更届)に意見書を添付し、管轄の労働基準監督署へ届け出ます。電子申請も可能です。
従業員への周知徹底義務
届け出て終わりではありません。従業員がいつでも見られる状態にしておく「周知」を行って初めて、規程としての効力が発生します。
社内イントラネットへの掲載、書面の配布、休憩室への備え付けなどの方法で行います。
不利益変更になる場合の法的留意点
手当の廃止や減額など、従業員にとって不利になる変更(不利益変更)を行う場合は、高度な必要性と合理性が求められます。
一方的に変更すると無効になる可能性が高いため、十分な説明と従業員の同意、あるいは緩和措置の検討など、慎重な対応が必要です。
よくある質問
- 従業員が10人未満ですが、賃金規程を作成したほうがいいですか?
-
作成をおすすめします。
法律上の義務はありませんが、ルールを明確にすることで労使トラブルを未然に防げます。また、雇用関係の助成金を申請する際には、10人未満でも就業規則(賃金規程)の作成と届出が要件となるケースが大半です。
- 賃金規程のテンプレートはそのまま使っても大丈夫ですか?
-
そのまま使うのは避けてください。
テンプレートはあくまで一般的な例です。自社の実際の労働時間、締切日、手当の種類などと合致していないと、実務と規程の間に矛盾が生じ、いざという時に会社を守ることができません。必ず自社の実情に合わせて修正してください。
- 賃金規程を改定したいのですが、社長の一存で決めても良いですか?
-
従業員の意見を聞くプロセスが必要です。
従業員にとって有利な変更(ベースアップなど)であれば問題になりにくいですが、手続きとして従業員代表の意見書は必須です。不利益変更の場合は、合意のない一方的な変更は無効となるリスクが高いため、専門家への相談を推奨します。

- 面倒な人事労務業務を全て代行
- 就業規則・給与計算・社保の手続き・助成金・採用まで幅広く対応
- 労務顧問は月々3万円〜!お得に面倒な業務を外注
\まずはお気軽に相談/
まとめ
賃金規程は、会社と従業員の信頼関係を支える重要なルールブックです。
無料のサンプルやひな形は便利ですが、それらをベースにしつつ、自社の働き方や賃金体系に合わせたカスタマイズが欠かせません。
特に「残業代の計算」や「手当の支給要件」はトラブルの火種になりやすいため、曖昧さを排除した明確な記述を心がけましょう。不安な点がある場合は、社会保険労務士などの専門家にチェックを依頼することをおすすめします。
- 常時10人以上の事業場は、賃金規程(就業規則)の作成と届出が義務。
- 「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」を漏れなく記載する。
- サンプルをそのまま使わず、実態や最新の法改正に合わせて調整する。
- 固定残業代や手当の規定は、法的リスクが高いため厳密に設計する。
- 変更時は従業員代表の意見聴取と周知徹底を忘れずに行う。

