入社が決まったのに「雇用契約書をもらってない」という状況は、働く側にとって非常に不安なものです。
また、会社側としても「忙しくてつい後回しにしている」というケースがあるかもしれません。しかし、書類の交付を怠ると、予期せぬトラブルや法的なペナルティを受ける可能性があります。
この記事では、社会保険労務士が、雇用契約書がない場合の法的な判断や、会社側が抱えるリスク、具体的な対処方法について分かりやすく解説します。
- 雇用契約書がなくても直ちに違法ではない理由と、違法になる境界線
- 「雇用契約書」と「労働条件通知書」の法的な違い
- 会社が労働条件の書面交付を怠った場合の罰則やリスク
- 従業員が雇用契約書にサインしてくれない場合の対処法

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雇用契約書がない=即違法ではないが要注意
結論から言うと、「雇用契約書」という名前の書類が存在しないこと自体は、直ちに法律違反となるわけではありません。しかし、だからといって「何も書面を渡さなくていい」というわけではないのが、この問題のややこしいところです。
口頭契約でも労働契約は成立する
民法上、契約は当事者同士の「合意」があれば成立します。
これは労働契約(雇用契約)においても同様です。
- 会社側:「月給〇〇円で、うちで働いてください」
- 労働者側:「はい、その条件で働きます」
この口頭でのやり取り(合意)があれば、紙の契約書にハンコを押していなくても、法律上、労働契約は有効に成立します。
したがって、「雇用契約書がない=無効な契約で働かされている」というわけではありません。「雇用契約書がない 正社員」の方も、口頭での合意があれば社員としての地位は確立されています。
ただし「労働条件通知書」がない場合は労働基準法違反
ここが最も重要なポイントです。
雇用契約書そのものは必須ではありませんが、労働基準法第15条では、会社に対して「労働条件の明示」を義務付けています。
具体的には、賃金や労働時間、契約期間などの重要な条件について、書面(労働条件通知書)で労働者に伝えなければなりません。
| 書類の種類 | 特徴 | 法的義務 |
|---|---|---|
| 雇用契約書 | 会社と労働者が合意し、双方が署名・押印して保管するもの | 作成義務はなし(※推奨) |
| 労働条件通知書 | 会社が労働者に一方的に条件を通知する書面 | 作成・交付の義務あり |
詳しく雇用契約書と労働条件通知書の違いを知りたい方は下記記事を参考にしてください。

つまり、「雇用契約書」というタイトルの書類がなくても、「労働条件通知書」という書類をもらっていれば、法律上は問題ありません。
逆に、「雇用契約書」も「労働条件通知書」も、どちらももらえない状態は違法となります。
一般的には、「雇用契約書 兼 労働条件通知書」として、2つの機能を兼ね備えた書類を作成し、双方が署名して控えを持つ形が多くとられています。
パート・アルバイトでも労働条件の明示は必須
「雇用契約書 パートだからない」というのは間違いです。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、日雇いなど、雇用の形態に関わらず、人を雇う以上は労働条件の明示(書面の交付)が必要です。
特にパートタイム・有期雇用労働法では、昇給の有無や退職手当の有無、相談窓口など、さらに詳しい事項の明示も求められています。勤務時間や日数が変動しやすいパート・アルバイトこそ、トラブル防止のために書面での確認が不可欠です。
【会社側】労働条件条件の明示を怠った場合のリスク
ここからは視点を変えて、会社側が「忙しいから」「面倒だから」といって契約書や通知書を作成しなかった場合のリスクについて解説します。
30万円以下の罰金対象になるケース
前述の通り、労働条件の明示は労働基準法第15条で定められた義務です。これに違反して労働条件を明示しなかった場合、30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。コンプライアンス遵守の観点から必ず交付しましょう。
「言った言わない」の労使トラブル発生のリスク
書面がない場合の最大のリスクは、退職時や給与支払い時に「言った言わない」のトラブルになることです。
- 給与額の相違:「面接のときは月給25万円と言われたのに、実際は23万円だった」
- 残業代の未払い:「固定残業代込みとは聞いていない」
- 契約期間の誤解:「長期で働けると思っていたのに、急に契約期間満了と言われた」
このような争いになった際、会社側に条件を明示した証拠がないと、労働基準監督署の調査が入った場合に不利になるだけでなく、未払い賃金の支払いを命じられるなど、金銭的なダメージも大きくなります。
助成金申請などができなくなる可能性
キャリアアップ助成金など、厚生労働省管轄の助成金を申請する際には、添付書類として「雇用契約書」や「労働条件通知書」の提出が求められることがほとんどです。
適切な契約書を作成・保管していないと、いざ助成金を活用したいと思ったときに申請できないという事態に陥ります。会社の経営戦略という面でも、書類の整備は必須事項です。
従業員が雇用契約書に署名しない場合の対処方法
会社が雇用契約書を用意しても、「内容に納得がいかない」「ハンコを持ち歩きたくない」などの理由で、従業員が署名・押印を拒むケースがあります。
対処法:労働条件通知書として交付し、交付の記録を残す
前述の通り、法律で義務付けられているのは「労働条件の明示(通知)」です。これは会社から従業員への一方的な通知でも要件を満たします。
もし従業員が契約書へのサインを拒否した場合でも、会社として以下の対応をとれば、法的な義務違反は回避できます。
- 「労働条件通知書」として書面を作成し、本人に手渡す。
- 「いつ」「誰に」「どの書類を」渡したかという記録(交付記録)を残しておく。
- 就業規則を周知させ、その内容に沿って業務を行わせる。
従業員がその条件下で実際に働いている事実があれば、黙示的に契約条件に同意したとみなされる可能性が高くなります。ただし、トラブルの種を残さないためにも、なぜ署名できないのか理由を聞き取り、粘り強く説明して合意を得ることが最善です。
よくある質問
ここでは、雇用契約書に関してよく寄せられる疑問について回答します。
- 雇用契約書はいつまでにもらえないと違法ですか?
-
労働契約を結ぶ際(入社が決まった時、または入社日まで)に明示する必要があります。
働き始めているのにまだもらっていない場合は、速やかに会社へ労働条件通知書を請求しましょう。入社後何ヶ月も放置されている場合は違法状態の可能性が高いです。
- 雇用契約書をもらえないまま退職しましたが、未払い賃金などは請求できますか?
-
契約書がなくても、実際に働いた事実があれば賃金を請求する権利はあります。
ただし、時給や労働時間の証拠がないと計算が難しくなります。求人票のコピー、シフト表、給与明細の振込額、メモや録音などが証拠になり得ますので、これらを揃えて労働基準監督署や専門家に相談してください。
- 雇用契約書に記載された内容と、実際の労働条件が違ったらどうすればいいですか?
-
労働条件通知書と事実が異なる場合、労働者は「即時に」契約を解除=退職することができます。
また、契約通りの条件にするよう会社に求めることも可能です。まずは書面の内容と実態のどこが違うのかを会社に伝えましょう。

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まとめ:信頼関係の基盤として書面交付は必須
雇用契約書や労働条件通知書は、単なる法律上の義務というだけでなく、会社と従業員が信頼関係を築くための最初のステップです。
- 「雇用契約書」へのサインがなくても、口頭合意で労働契約は成立する。
- ただし、会社には「労働条件通知書」による条件明示義務があり、これがないのは違法。
- 書面がないと「言った言わない」のトラブルや、助成金不支給のリスクがある。
- 従業員は、書面がない・もらえないときは遠慮なく会社に請求してよい。
会社側はリスク回避のために必ず書面を用意し、働く側は自分の身を守るために契約内容を書面で確認する。この基本を徹底することが、トラブルを防ぐ一番の近道です。

