フレックスタイム制とは?仕組みやメリット・デメリット、残業代の計算方法を社労士が解説

「自由な働き方」の象徴であるフレックスタイム制。
採用力の強化や離職防止に大きな効果を発揮する一方で、自己管理の徹底や複雑な残業代計算など、運用面に不安を感じる担当者様も多いのではないでしょうか。

本記事では、制度の基本からメリット・デメリット、そして実務で迷いやすい「コアタイムの遅刻扱い」や「中だるみ対策」まで、社労士の視点で徹底解説します。
自由を「放任」にせず、組織の生産性を最大化するための実践的なガイドとしてぜひご活用ください。

この記事でわかること
  • フレックスタイム制の仕組みやコアタイム、フレキシブルタイムなどの仕組み
  • フレックスタイムのメリット(ワークライフバランス向上や、採用力強化・生産性向上など)
  • フレックスタイムのデメリットと対策(自己管理の難しさ、コミュニケーション不全など)
  • 清算期間が1ヶ月から3ヶ月へ延長された背景と、残業代計算や労働時間のカウントルール
  • フレックスタイムを導入・運用する上でのポイント(就業規則の作成や労使協定の締結、管理職への適用可否など)
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目次

フレックスタイム制とは?【図解】

始業・終業時刻を従業員が自由に決められる制度

フレックスタイム制とは、労働基準法第32条の3において規定されている制度であり、一定の期間(これを清算期間と呼びます)における総労働時間をあらかじめ定めておき、その範囲内で労働者が日々の始業および終業の時刻を自らの意思で決定できる仕組みです。

従来の固定時間制では、例えば「9時出社、18時退社」といった勤務時間が会社によって一律に決められていましたが、フレックスタイム制においては、その決定権が労働者に委ねられる点が最大の特徴です。

この制度は、労働者が日々の生活(ライフ)と業務(ワーク)の調和を図りながら、最も効率的な時間配分で働くことを可能にすることにあります。

社労士:野澤惇

社会保険労務士の視点から見れば、これは単なる「自由な出勤」を許容するものではなく、労働者自身に「時間の管理責任」を委ねる高度な労働時間制度であると言えます。

労働者は仕事の繁閑やプライベートの予定に合わせて、今日は短めに働き、明日は集中して長めに働くといった調整を、上司の個別具体的な指示を待たずに行うことができます。

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項目固定時間制(原則)フレックスタイム制
始業・終業時刻の決定権使用者(会社)労働者(従業員)
1日の労働時間の長さ原則8時間などで固定日によって変動が可能
労働時間の管理単位1日・1週間単位清算期間(1ヶ月〜3ヶ月)単位
制度の目的組織的な一律管理効率性とワークライフバランスの両立

ただし、完全に無制限の自由が与えられるわけではありません。
使用者は清算期間全体の総労働時間を設定し、労働者はその時間を満たすように働く義務を負います。

また、会社は労働者の健康確保のため、各日の労働時間を把握する義務を負っており、フレックスタイム制であっても「労働時間の管理を放棄してよい」ことにはなりません。

「コアタイム」と「フレキシブルタイム」について

フレックスタイム制を運用する上で、1日の時間帯を構成する「コアタイム」と「フレキシブルタイム」というものがあります。
「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を適切に組み合わせることで、チームとしての連携を維持しつつ、個人の柔軟性を確保する設計が可能となります。

コアタイムとは、1日のうちで労働者が「必ず勤務していなければならない時間帯」を指します。
例えば「11時から15時まで」をコアタイムと設定した場合、従業員はこの時間帯には職務に従事している必要があります。
これにより、会議の開催や急ぎの相談、取引先への対応などが滞るリスクを軽減できます。

なお、コアタイム中に休憩時間を設けることも一般的です(例:12時から13時まで)。

フレキシブルタイムとは、労働者がその時間帯の範囲内であれば「いつ始業し、いつ終業してもよい時間帯」のことです。
例えば、始業のフレキシブルタイムを「6時から11時」、終業を「15時から20時」と定めた場合、早起きが得意な社員は6時に出社して15時に帰ることも、ゆっくり始動したい社員は11時に出社して20時に帰ることも可能です。

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時間帯区分内容設定の義務
コアタイム全員が揃うべき必須勤務時間任意(設定しなくてもよい)
フレキシブルタイム自由に出退勤を調整できる時間任意(設定しなくてもよい)

設定する上での注意点
フレキシブルタイムが極端に短すぎる(例:1日のうち30分しかないなど)設定は、労働者の自主的決定を阻害するものとして、フレックスタイム制としての適格性を否定される可能性があります。
自社の業務形態に合わせて最適なバランスを見極めることが重要です。

コアタイムなしの「スーパーフレックスタイム制」とは

コアタイムを一切設けず、1日の全労働時間帯をフレキシブルタイムとする運用形態は、「スーパーフレックスタイム制」「フルフレックス」と呼ばれます。
この場合、労働者は極端な話、1日に1時間だけ働く日があっても、別の日に多く働くことで清算期間内の総労働時間を満たせば、法的な問題や欠勤扱いは生じません。

スーパーフレックスタイム制は、専門性の高いクリエイティブ職や研究職、あるいは個人の裁量が大きい営業職などで導入されることが多いです。
最大のメリットは、個人のパフォーマンスが最大化される時間に業務を集中させられることや、中抜け(勤務の途中で一時的に業務を離れること)がより自由に行える点にあります。

しかし、全員がバラバラの時間に動くため、チーム内でのコミュニケーションコストは増えてしまいます。
そのため、スーパーフレックスを導入する企業では、チャットツールの活用によるコミュニケーションの強化や、オンラインカレンダーでの予定共有の徹底といった、組織としてのリテラシーが求められます。

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項目通常のフレックスタイム制スーパーフレックスタイム制
コアタイムあり(例:11:00〜15:00)なし
出退勤の自由度中〜高(コアタイムに縛られる)極めて高い
チーム連携コアタイムで調整可能ツールやルールでの調整が必須
向いている職種事務、開発、営業など幅広く専門職、高度裁量業務など

なお、スーパーフレックスであっても、深夜労働(22時〜翌5時)に対する割増賃金の支払い義務は免除されません。
また、健康管理の観点から、フレキシブルタイムの終点を深夜帯にならないよう制限する企業も多く、自由の中にも最低限の枠組みは必要とされます。

【企業・従業員別】フレックスタイム制のメリット

【従業員】通勤ラッシュの回避とワークライフバランスの向上

従業員側にとっての大きなメリットは、物理的・精神的なストレスの軽減と、私生活の充実です。
特に都心部で勤務する労働者にとって、満員電車による通勤ラッシュは避けることが難しい大きなストレス要因ですが、フレックスタイム制により出社時間をずらすことで、この混雑を回避することが可能です。

また、育児や介護などの家庭の事情がある場合、朝に子供を保育園へ送ってから出社したり、夕方の介護サービスに合わせて早めに退社したりといった柔軟な調整が可能になります。
さらに、通院や役所での手続き、資格取得のためのスクール通いなど、個人のプライベートな予定を「有給休暇を消化せず」に業務時間外に組み込むことができるため、時間の使い方の質が高まります。

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従業員側のメリット具体的なメリットの内容
通勤ストレスの解消混雑ピークを避けた移動による疲労の軽減
家族との時間の確保子供の送迎や家庭内での役割との両立が容易
健康維持と自己研鑽睡眠時間の確保や、趣味・学習への時間充当が可能
業務への集中力向上自分のバイオリズムに合わせた勤務による生産性の最大化
社労士:野澤惇

従業員が自らの意思で時間をコントロールしているという感覚は、仕事に対する責任感と満足度の向上に直結します。

【企業】優秀な人材の確保と離職防止(採用力強化)

企業にとってのメリットは、人材戦略における競争力の強化です。
労働人口の減少が続く日本において、多様な働き方を許容するフレックスタイム制の導入は、求職者に対する強力なアピールポイント(採用力)になります。

特に「育児をしながらキャリアを継続したい層」や「ワークライフバランスを重視する若手層」にとって、時間の融通が利く制度の有無は、入社を決める決定的な要因の一つになり得ます。

また、既存の優秀な従業員が、家庭の事情(結婚、出産、介護など)を理由に辞めざるを得なくなる事態を防ぐ「離職防止効果」もあります。
フレックスタイム制があることで、フルタイムでの勤務が一時的に困難になっても、形を変えて貢献し続けることが可能になります。
これは、長年培われたスキルやノウハウの流出を防ぐという意味で、企業にとって大きなメリットになります。

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企業側の採用・定着メリット期待される効果
求人応募数の増加「働きやすい会社」としてのブランドイメージ向上
離職率の低下多様な事情を持つ社員の定着率の改善
ダイバーシティの推進介護や育児と両立する多様な人材の活用促進
採用コストの削減既存社員の定着による新規採用・教育コストの抑制

優秀な人材を惹きつけ、かつ繋ぎ止めるための「投資」として、フレックスタイム制は非常に費用対効果の高い施策と言えるでしょう。

【企業】業務効率化と残業時間の削減効果

フレックスタイム制はコスト削減と生産性向上の両面でメリットがあります。
従来の固定時間制では、業務量が少ない時期であっても定時までは在社しなければならず、結果として「やることがないのに居残る」非効率な時間が発生していました。

一方で、繁忙期には定時を過ぎてからの作業がすべて「残業」として加算されていました。

フレックスタイム制では、清算期間という一定の枠の中で時間を調整するため、仕事が少ない日は早めに切り上げ、その分を忙しい日に充てるという「労働時間の最適な配分」が可能です。
これにより、無駄な待機時間を減らし、結果として期間全体の残業代を抑制することが可能になります。

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生産性に関するメリット企業にとっての恩恵
残業代の適正化清算期間内での相殺による不必要な割増賃金のカット
業務への集中従業員が自身の生産性の高い時間帯に集中して稼働
ダラダラ残業の払拭「時間ではなく成果」という意識の醸成
繁閑差の吸収季節的な業務の波に対し、追加コストを抑えて対応可能

また、従業員が「自分でスケジュールを組む」というプロセスを通じて、業務の優先順位付けや進捗管理のスキルが向上することも期待できます。
これは組織全体の自律性を高め、管理職がいちいち細かく指示を出さなくても業務が回る、レジリエンス(回復力)の高い組織へと変貌させるきっかけとなります。

フレックスタイム制のデメリットと「失敗」の原因

自己管理が苦手な社員には不向き

フレックスタイム制の最大の懸念点は、従業員の「自己管理能力(セルフマネジメント)」に依存する部分が大きいことです。
自由を与えられる一方で、自らを律して業務を遂行し、清算期間内に所定の労働時間を満たす責任が生じます。
管理が苦手な社員の場合、気づかないうちに労働時間が不足して給与が欠勤控除の対象になったり、逆に特定の日に極端な長時間労働をしてしまい、健康を損なうリスクがあります。

また、「出退勤の自由」を「職務怠慢」と混同してしまうケースも失敗の原因となります。
具体的には、「誰にも見られていないから」「後で帳尻を合わせればいいから」という甘えが生じ、実質的な稼働時間が減少したり、集中力が散漫になったりする「中だるみ」のリスクです。

例えば、朝の出勤を遅らせた分、夜に遅くまで残って帳尻を合わせるという生活が常態化すると、生活リズムが崩れ、「会社にいる時間は長いが、実質的なアウトプットが伴わない」という生産性の低下を招きます。

企業は、単に制度を導入するだけでなく、従業員のタイムマネジメントスキルを向上させるための教育や、過度な労働の偏りを防ぐ体制を整える必要があります。

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自己管理に関する課題具体的な事象
労働時間の不足月末に総労働時間が足りなくなり、給与控除が発生
過重労働の発生特定の時期への労働の過度な集中と健康被害
生活リズムの崩壊慢性的な夜型勤務による心身へのストレス増大
生産性・意欲の低下「後でやればいい」という先延ばしによる業務密度の薄れ(中だるみ)
責任感の欠如周囲との連携を無視した勝手な出退勤によるトラブル

社内コミュニケーションの希薄化(会議設定の難しさ)

第二のデメリットは、接触時間の減少によるコミュニケーションの希薄化です。
全員が異なる時間帯に働いていると、「ちょっとした相談」をしたいときに相手が席にいないことが増えます。
これにより、意思決定のスピードが落ちたり、重要な情報の共有が漏れたりといった弊害が生じやすくなります。

特に会議の調整の難しさは、フレックスタイム制で頭を悩ませるポイントの一つです。
コアタイムを設けていればその時間帯に会議を集中させることになりますが、コアタイムが短い、あるいはスーパーフレックスの場合は、全員のスケジュールを合わせることが難しくなります。
結果として、特定の日に会議が重なり、各自の作業時間を圧迫するという「会議疲れ」を引き起こすこともあります。

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コミュニケーションの課題組織への影響
相談のしにくさ現場でのリアルタイムなフィードバックの減少
チーム力の低下メンバー同士の連帯感や帰属意識が薄れる懸念
会議調整の難航設定までの工数増大と参加漏れによる情報の不備
教育・指導の停滞上司による部下の稼働把握不足とOJTの困難化
社労士:野澤惇

これらを解決するには、業務体制のルール化が不可欠です。
例えば、「会議は火曜日と木曜日の午後に行う」といった緩やかな約束事を作ったり、ビジネスチャットでの「非同期コミュニケーション(相手がいなくても要件を置いておく)」を文化として定着させたりすることが推奨されます。

顧客・取引先との連絡がつかない時間の発生

第三のデメリットは、対外的な顧客満足度の低下リスクです。
多くの顧客や取引先は「9時〜18時」といった固定の営業時間を想定しています。
急ぎの問い合わせをした際、担当者が「フレックスでまだ出社していない」「既に退社した」などの状況が頻発すると、信頼関係にヒビが入る恐れがあります。

特に、担当者制で業務を行っている場合、その人が不在の間のバックアップ体制が不十分だと、クレームへの対応が遅れる、あるいは納期に間に合わないといった致命的なミスに繋がりかねません。
これは、個人の柔軟性と組織としての責任が衝突する典型的な場面です。

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対外的な課題具体的なリスク
顧客対応の遅れ緊急時のレスポンス低下による競合他社への流出
信頼感の喪失「いつでも連絡が取れる」という安心感の欠如
窓口の不在代表電話や受付への入電に対し、適切に引き継げない不全感
スケジュールの齟齬取引先の稼働時間と自社の稼働時間のミスマッチ

回避策としては、複数人でプロジェクトを担当する「チーム体制」の構築や、部署内で交代制の早番・遅番をゆるやかに設定するといった運用が考えられます。
また、顧客に対して「弊社の勤務形態はフレックスである」ことをあらかじめ丁寧に伝え、共通の連絡ルールを合意しておくといった、透明性の高いコミュニケーションも有効です。

「自由」を「放任」にしないための3つの運用ルール例

  1. プロセスの可視化と非同期報告の徹底:「何時に始めたか」ではなく「今日何を終わらせるか」をチャットツール等で始業・終業時に共有させます。管理者の目が届かない時間を、タスクの進捗管理で補います。
  2. 評価軸を「労働時間」から「成果・役割」へシフト:フレックス下では「長く会社にいる=頑張っている」という評価は通用しません。目標設定を明確にし、時間当たりの生産性を意識させる評価制度とのセット運用が望ましいでしょう。
  3. 「適用除外」規定の明文化(社労士の視点):全ての社員に一律に適用する必要はありません。就業規則に「自己管理が著しく困難で業務に支障をきたす場合、会社は個別にフレックスタイム制の適用を解除し、通常勤務を命じることがある」といった規定を設けておくことが、制度の健全性を守る強力な抑止力となります。
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フレックスタイム制の「残業代」と「労働時間」の計算方法

「総労働時間」の考え方 | 1日8時間を超えても残業にならない?

フレックスタイム制における残業代の計算は、通常の労働時間制度とは根本的に考え方が異なります。
最大の特徴は、「1日単位での残業代が発生しない」という点です。
通常の働き方では、1日8時間を超えて働けば、その日のうちに「時間外労働」がカウントされます。
しかし、フレックスタイム制では、清算期間という一定の枠の中での合計労働時間をベースに判断します。

この際に基準となるのが「法定労働時間の総枠」です。これは以下の計算式で求められます。

計算式:法定労働時間の総枠 = 40時間 × 清算期間の暦日数 ÷ 7日

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暦日数法定労働時間の総枠
31日の月177.1時間
30日の月171.4時間
28日の月160.0時間

労働者が例えばある日に10時間働いたとしても、その清算期間(例えば1ヶ月)の合計労働時間がこの「総枠」に収まっている限り、その10時間のうちの2時間分について残業代を支払う必要はありません。
これは、労働時間の効率的な配分を認めるという制度の趣旨に基づいています。

「清算期間」とは(1ヶ月と3ヶ月の上限の違い)

清算期間とは、あらかじめ定めた労働時間をどれくらいの期間でクリアするかという「区切り」のことです。
かつてはこの期間の上限は1ヶ月とされていましたが、2019年の法改正により、ワークライフバランスの更なる推進を目的として「最長3ヶ月」まで延長されました。

清算期間が1ヶ月の場合、その月の中で発生した時間の過不足をその月で完結させます。
一方で、清算期間を2ヶ月や3ヶ月に設定した場合、月をまたいだ調整が可能になります。
例えば「6月は繁忙期なので多めに働き、その超過した時間を7月や8月に早く帰ることで相殺する」といった運用ができるようになります。

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清算期間の長さ調整の柔軟性手続き上の注意点
1ヶ月以内その月の中でのみ完結労使協定の締結のみでOK
1ヶ月超3ヶ月以内数ヶ月単位での相殺が可能労働基準監督署への届出が必須

清算期間が1ヶ月を超える場合には、「1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えていないか」という過重労働防止のためのチェックルールが加わります。
これを下回る範囲であれば、月ごとの労働時間の山谷を自由に調整できるため、季節性のある業務を行っている企業にとっては非常に有利な仕組みと言えます。

残業代(割増賃金)が発生する具体的タイミング

フレックスタイム制において残業代が発生するのは、清算期間終了時に
「実労働時間の合計 > 法定労働時間の総枠」
となった場合です。
ただし、清算期間が1ヶ月を超える(例えば3ヶ月)場合には、計算が2段階になるため注意が必要です。

STEP
各月ごとの判定

毎月、その月の労働時間が「週平均50時間」を超えていないかを確認します。

・週平均50時間となる労働時間 = 50時間 × その月の暦日数 ÷ 7日 (例:31日の月なら 221.4時間)

もしこの時間を超えて働いた場合は、清算期間の途中であっても、その月の給与で残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。

STEP
清算期間全体での判定

清算期間の最終月(3ヶ月目など)に、期間全体の合計労働時間を算出します。

・(期間中の全実労働時間)ー(ステップ1で既に支払った残業時間)

この値が「期間全体の法定労働時間の総枠」を超えている場合、その超過分が最終月の残業代として支払われます。

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状況残業代(割増賃金)の要否
実労働時間 ≦ 法定労働時間の総枠残業代は不要
実労働時間 > 法定労働時間の総枠超過分に25%以上の割増を付けて支給
深夜(22時〜5時)に労働したフレックスの総枠に関わらず25%以上の深夜割増が必要
法定休日に労働した清算期間の計算には含めず35%以上の割増が必要

このように、清算期間が長くなるほど計算は複雑になります。
ミスを防ぐためには、フレックスタイム制の複雑な計算ロジックに対応した勤怠管理システムを導入し、自動計算を行うことが実務上のスタンダードとなっています。

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裁量労働制・変形労働時間制との違い

裁量労働制との違い(労働時間の「みなす」か「実測」か)

フレックスタイム制とよく比較される制度に「裁量労働制」があります。
どちらも「時間に縛られない」というイメージがありますが、法律上の扱いは正反対と言っていいほど異なります。

最大の相違点は、労働時間の「カウント方法」です。
フレックスタイム制は、始業・終業の時刻は自由ですが、働いた時間は1分単位で「実測」します。
これに対し、裁量労働制は、実際に何時間働いたかにかかわらず、あらかじめ労使協定で定めた時間を「働いたものとみなす(擬制する)」制度です。

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比較項目フレックスタイム制裁量労働制
時間の把握方法打刻による実労働時間の集計あらかじめ決めた時間の「みなし」
対象業務制限なし(全職種可能)特定の専門業務または企画業務に限定
不足時間の扱い賃金控除や繰り越しが可能働いた時間が短くても控除できない
残業代の発生総枠を超えた実労働時間に対し発生原則発生しない(休日・深夜は除く)

フレックスタイム制は事務職から営業職まで幅広く適用できますが、裁量労働制は高度な専門性が必要な職種や、仕事の進め方を会社が指示できない性質の業務に限られます。

変形労働時間制との違い(シフト制との区別)

「変形労働時間制」も労働時間を柔軟にする制度ですが、フレックスタイム制とは「誰が時間を決めるか」という点が全く違います。

変形労働時間制(1ヶ月単位や1年単位)は、あらかじめ会社が勤務スケジュール(シフト)を作成し、「この日は10時間、この日は6時間」と事前に割り当てる制度です。
従業員はそのシフトに従って働く義務があり、個人の裁量で当日の時間を変えることはできません。
これに対してフレックスタイム制は、前述の通り、当日の始業・終業時刻を決めるのは従業員自身です。

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比較項目フレックスタイム制変形労働時間制
決定権の所在労働者(自分の都合で変えられる)使用者(シフト表に従う)
導入の目的個人の柔軟性と効率性の向上業務の繁閑に合わせた人員配置の最適化
適用場面バックオフィス、開発、企画など小売、製造、物流などの現場仕事
併用の可否併用不可(矛盾するため)

例えば、小売店などで「土日は忙しいから10時間、平日は暇だから6時間」と会社が指定するのが変形労働時間制であり、開発者が「今日は調子が良いから夜までやろう、明日は役所に行きたいから昼からにしよう」と自分で決めるのがフレックスタイム制です。
この違いを理解せずに導入すると、現場の混乱を招く原因となります。

フレックスタイム制を導入する際の手続きと流れ

フレックスタイム制を法的に有効なものとして導入し、適切に運用するためには、労働基準法に定められた一定の手続きが必要です。
単に「今日から勤務時間を自由にしていいですよ」と周知するだけでは不十分であり、書面での明確なルール化や行政への届出といったステップを確実に踏むことが、後の未払い残業代トラブルなどのリスクを防ぐ重要な鍵となります。

就業規則の変更と労使協定の締結(3ヶ月清算は届出必須)

フレックスタイム制を法的に正しく導入するには、ステップを踏んだ書面手続きが不可欠です。
これを怠ると、たとえ従業員が合意していても、法的には「固定時間制」とみなされ、1日8時間超の労働すべてに残業代の支払い義務が生じてしまうという、企業にとっての「未払い残業リスク」が発生します。

1. 就業規則等への規定
まず、就業規則(またはそれに準ずる書面)に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を明記する必要があります。
これは「会社が勝手に時間を決めるのをやめます」という宣言にあたります。

2. 労使協定の締結
次に、会社の代表者と、労働者の過半数を代表する者との間で、具体的な運用ルールを記した「労使協定」を締結します。
定めるべき事項は以下の5点です。

  • 対象となる労働者の範囲(例:営業部員全員)
  • 清算期間(例:毎月1日から末日まで)
  • 清算期間における総労働時間(所定労働時間)
  • 標準となる1日の労働時間(有給休暇取得時の計算用)
  • コアタイム、フレキシブルタイム(設定する場合)
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清算期間の期間労働基準監督署への届出
1ヶ月以内の場合締結は必要だが、届出は不要
1ヶ月を超える場合労使協定届を所轄の監督署へ提出必須

特に清算期間を3ヶ月にする場合は、届出が有効要件となりますので注意してください。

実務上の運用ルール決定(遅刻・早退・欠勤の扱い)

法的な手続きが終わったら、次は現場を回すための「実務ルール」の策定です。
フレックスタイム制であっても、「何をやっても自由」というわけではありません。特に以下のポイントを曖昧にすると、現場で必ず不満や混乱が生じます。

・遅刻、早退の定義
コアタイムを設定している場合、その開始時間に遅れる、あるいは終了時間前に帰ることは「義務違反」となります。
これをどう扱うか(例:コアタイムに1分でも遅れたら30分を欠勤控除として計算する、あるいは人事評価のマイナスにする等)を明確にします。

・欠勤の扱い
コアタイムにも全く出勤しなかった場合、またはその日の労働時間がゼロだった場合、それを「欠勤」と呼ぶのか、あるいは単に「その日は働かなかったが、別の日で埋め合わせればよい」とするのかを定めます。

・休憩時間の運用
労働基準法第34条に基づき、労働時間が6時間を超えれば45分、8時間を超えれば1時間の休憩が必要です。
フレックスタイム制では一斉に休憩を取ることが難しいため、「一斉付与の除外」に関する労使協定を併せて締結し、個々人が好きなタイミングで休憩を取れるようにするのが実務的です。

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項目検討すべきルールの例
中抜け育児や通院による一時外出の手続き(チャット連絡等)
深夜労働22時以降の勤務を原則禁止するか、承認制にするか
労働時間の過不足不足分を翌月に繰り越す上限(例:最大10時間まで)
休日出勤清算期間の計算に含めるか、単独で支払うか

こうした実務ルールは、従業員との信頼関係を築くための「ガイドライン」でもあります。
社会保険労務士としては、制度のメリットだけでなく、こうした「想定されるトラブル」に対する予防線を張っておくことを強くお勧めします。

【Q&A】フレックスタイム制に関する良くある質問

コアタイムに遅れた場合は「遅刻」になりますか?

はい。コアタイムを設定している場合、その開始時刻に遅れることは「遅刻」に該当します。

フレックスタイム制は始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる制度ですが、労使協定で「コアタイム(必ず勤務すべき時間)」を定めた場合、その時間は勤務する義務が生じます。
したがって、コアタイムの開始に遅れたり、終了前に帰宅したりすることは、「就業規則違反」として扱うことができます。

  1. 人事評価への反映: 服務規律違反として、賞与の査定や人事評価のマイナス対象にする。
  2. 懲戒処分: 遅刻が繰り返される場合、譴責(けんせき)などの対象とする。
  3. 制裁としての減給: 就業規則に基づき、労働基準法第91条(制裁規定の制限)の範囲内で「減給の制裁」を行う。

しかし、原則として、清算期間内の総労働時間が不足していない限り、欠勤控除(時給単価×遅刻時間のカット)を行うことはできません。
フレックスタイム制における賃金カットは、個別の日の遅刻に対してではなく、あくまで「清算期間全体での総労働時間の不足」に対して行うのがルールの原則だからです。

コアタイムに1時間遅刻しても、他の日に1時間多く働き、清算期間の総枠(例:1ヶ月160時間)を満たしていれば、賃金不足は発生していないため「不就労控除」は行えません。
もし不足分がないのに控除すると、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に抵触する恐れがあります。

◆コアタイムに遅刻した場合の対応まとめ

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清算期間内の総労働時間給与の「欠勤控除」人事評価・懲戒
足りている不可(全額払いの原則)可能(服務規律違反として)
不足している可能(不足時間分のみ)可能(二重のペナルティではない)
フレックスタイム制でも有給休暇は取得できますか?

はい。通常通り取得でき、取得した日は「標準となる1日の労働時間」働いたものとして計算します。

フレックスタイム制においても年次有給休暇の権利は保護されます。
有給休暇を取得した際は、労使協定であらかじめ定めた「標準となる1日の労働時間」を、その日の実労働時間としてカウントし、清算期間の総労働時間に算入します。
これにより、有給休暇を取得したからといって、後日その分を別の日に余計に働いて埋め合わせる必要はなくなります。
半日単位の有給休暇の場合も、標準労働時間の半分を充当して計算します。

管理職もフレックスタイム制の対象になりますか?

対象とすることは可能ですが、法的な意味でのメリットは少なく、実務上の適用除外とされるのが一般的です。

労働基準法上の「管理監督者」は、もともと労働時間、休憩、休日の規定が適用されないため、制度を導入しなくても自らの裁量で出退勤を決めることができます。
そのため、あえて複雑なフレックスタイム制の枠組みに含める必要性は低いです。

ただし、チームメンバーとの連携や、深夜労働の管理といった観点から、便宜上管理職もコアタイム等に準じた動きを求める運用を行っている企業は多く見られます。
法的な「フレックスタイム制」の適用対象者からは外しておく方が、労務管理上の混乱は少なくなります。

まとめ:自社の働き方に合った制度設計を

フレックスタイム制は、働き方改革が叫ばれる現代において、従業員の満足度と企業の生産性を同時に高めることができる非常に優れた制度です。
しかし、その運用の成否は、単なる「時間の自由化」に留まらず、いかに実務に即したルール(労使協定や就業規則)を丁寧に作り込み、従業員の自律性をサポートできるかにかかっています。

まずは自社の業務フローを分析し、「どの程度コアタイムが必要か」「清算期間は1ヶ月で十分か、それとも3ヶ月にすべきか」を慎重に検討することをお勧めします。
また、勤怠管理システムなどのITツールを積極的に導入し、管理者・従業員の双方にとって負担の少ない運用体制を築くことが、制度を形骸化させないための最大のポイントです。

本記事のまとめ
  • フレックスタイム制は、清算期間内の総労働時間の範囲内で、従業員が自由に始業・終業時刻を決められる柔軟な制度である。
  • 従業員にはライフスタイルの充実、企業には人材確保と生産性向上という大きなメリットをもたらすが、自己管理能力が強く求められる。
  • 残業代は1日単位ではなく清算期間(1〜3ヶ月)の合計で計算され、法定労働時間の総枠を超えた場合にのみ割増賃金が発生する。
  • 導入には「就業規則への規定」と「労使協定の締結」という法的手続きが必須であり、特に清算期間が1ヶ月を超える場合は監督署への届出を忘れてはならない。
  • 裁量労働制や変形労働時間制とは、労働時間の算出方法や時間の決定権の所在が異なるため、自社の業務性質を考慮した選択が重要となる。
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監修者(社労士)

社会保険労務士
就業規則作成・労務監査・労務DD等の人事労務のコンサルティング領域を得意とする。前職の戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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