「パートタイマーの有給休暇、どう規定すれば…」「年5日の取得義務って、パートさんも対象?」就業規則の有給休暇に関する規定、特にパート・アルバイトの扱いは多くの経営者様、労務担当者様が悩むポイントです。複雑に思える有給休暇のルールも、ポイントを押さえれば正しく整備し、労務リスクを回避できます。この記事では、社労士事務所altruloopが、中小企業で最も重要な「パートタイマーの有給休暇」に焦点を当て、具体的な記載例から法改正への対応までを分かりやすく解説します。
まず確認:有給休暇の基本と就業規則への記載義務
有給休暇のルールを正しく設定する第一歩は、その基本的な仕組みと、なぜ就業規則に記載しなければならないのかを理解することです。ここが曖昧だと、後の規定すべてが揺らいでしまいます。
年次有給休暇が発生する2つの条件
年次有給休暇(以下、有給休暇)は、正社員だけの権利ではありません。パートタイマーやアルバイトを含め、すべての労働者に与えられる法律上の権利です 。その権利は、以下の2つの条件を両方満たしたときに自動的に発生します。
- 雇入れの日から6か月間、継続して勤務していること
- その6か月間の全労働日の8割以上出勤していること
この2つの条件を満たせば、雇用形態にかかわらず、原則として10日の有給休暇が付与されます 。
ここで重要なのが「8割以上の出勤率」の計算方法です。以下の期間は、出勤率を計算する上で「出勤したもの」として扱わなければなりません 。
- 業務上の負傷や疾病により療養のために休業した期間
- 産前産後の休業期間
- 育児・介護休業法に基づく育児休業・介護休業期間
- 年次有給休暇を取得した期間
これらの日を欠勤として扱ってしまうと、不当に労働者の権利を侵害することになるため、正確な勤怠管理が不可欠です。
なぜ就業規則への記載が「絶対的必要記載事項」なのか?
有給休暇に関するルールは、常時10人以上の従業員を使用する事業場で作成が義務付けられている就業規則に、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」の一つです 。これは労働基準法第89条で定められています。
もし就業規則に休暇に関する規定がなければ、法律の原則がそのまま適用されるだけでなく、有給休暇の申請手続きなど会社独自のルールを定めることができません。例えば「有給休暇の申請は〇日前までに」といったルールも、就業規則に根拠がなければ法的な効力を持ちません。
就業規則は、単なる法律上の義務ではなく、会社の秩序を維持し、労使間の無用なトラブルを防ぐための「会社のルールブック」であり、経営を守るための重要なツールなのです。
就業規則の作成や変更の基本的な流れについては、こちらの記事も参考にしてください。
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【記載例】すべての従業員に共通する基本条文
まずは、正社員やパートタイマーなど、すべての従業員に適用される有給休暇の基本ルールを就業規則に定めます。厚生労働省のモデル就業規則を参考に、以下のような条文を設けるのが一般的です 。
(年次有給休暇) 第〇条
採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した従業員に対しては、10日の年次有給休暇を与える。 2.前項の後、1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した従業員に対しては、次の表のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
継続勤務年数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
3.年次有給休暇は、従業員があらかじめ請求する時季に取得させる。ただし、従業員が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。
4.付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。
- 第1項・第2項:法律で定められた有給休暇の付与条件と日数を明記します 。
- 第3項:有給休暇の取得時季は原則として労働者が自由に決められること(時季指定権)と、会社が事業運営に著しい支障が出る場合に限り、取得日を変更してもらえる権利(時季変更権)があることを定めます 。
- 第4項:有給休暇の時効が2年であり、未消化分は翌年度に繰り越せることを明記します 。
【最重要】パートタイマーの有給休暇|比例付与の規定方法
中小企業で最もトラブルになりやすいのが、パートタイマーの有給休暇の扱いです。特に「比例付与」のルールを正しく理解し、就業規則に規定することが極めて重要です。
「比例付与」とは?週所定労働日数に応じた付与日数の決め方
比例付与とは、所定労働日数が少ないパートタイマーなどに対して、その労働日数に比例して有給休暇を付与する制度です 。しかし、
すべてのパートタイマーが比例付与の対象になるわけではありません。
比例付与の対象となるのは、以下の両方の条件を満たす従業員です 。
- 週の所定労働時間が30時間未満であること
- かつ、週の所定労働日数が4日以下(または年間の所定労働日数が216日以下)であること
この「かつ」という条件が非常に重要です。例えば、週4日勤務でも1日の労働時間が8時間(週32時間)のパートタイマーは、条件1(30時間未満)を満たさないため、比例付与の対象にはなりません。この場合、正社員と同じ日数の有給休暇(初年度10日)を付与する必要があります。この点を誤解していると、法律違反になるため注意が必要です。
【記載例】パートタイマー向け条文と付与日数の一覧表
上記の基本条文に加え、パートタイマー向けの比例付与に関する条文を就業規則に明記します。これにより、「うちのパートさんは何日?」という疑問に、就業規則を根拠として明確に答えられるようになります。
(年次有給休暇の比例付与) 第〇条の2
前条の規定にかかわらず、週所定労働時間が30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める従業員については年間所定労働日数が216日以下)の従業員に対しては、次の表のとおり所定労働日数および勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
週所定労働日数 | 1日 | 2日 | 3日 | 4日 |
---|---|---|---|---|
年間所定労働日数 | 48~72日 | 73~120日 | 121~168日 | 169~216日 |
継続勤務年数 | ||||
6か月 | 1日 | 3日 | 5日 | 7日 |
1年6か月 | 2日 | 4日 | 6日 | 8日 |
2年6か月 | 2日 | 4日 | 6日 | 9日 |
3年6か月 | 2日 | 5日 | 8日 | 10日 |
4年6か月 | 3日 | 6日 | 9日 | 12日 |
5年6か月 | 3日 | 6日 | 10日 | 13日 |
6年6か月以上 | 3日 | 7日 | 11日 | 15日 |
この条文と表を就業規則に含めることで、パートタイマーの有給休暇日数が一目瞭然となり、従業員への説明もスムーズになります 。
もう少しパートタイマー向けの就業規則について興味のある方は下記記事も参考にしてください。

シフト制など勤務日が変動する従業員への具体的な対応
シフト制で週の勤務日数や時間が変動するパートタイマーの扱いは、特に悩ましい点です。しかし、これもルールに沿って対応すれば問題ありません。ポイントは2つです。
1. 年間の所定労働日数を算出して付与日数を決定する
週の所定労働日数が決まっていない場合、有給休暇を付与する日(基準日)の直前の実績に基づいて年間の所定労働日数を算定します 。
【計算例:入社後初めて有給を付与する場合】
- 状況:入社後6か月間の実績で、勤務日数が75日だったシフト制のパートタイマーAさん。
- 計算:75日(6か月間の実績) × 2 = 150日(年間の所定労働日数とみなす)
- 判断:上記の比例付与表で「150日」が該当する区分を探します。「121日~168日」の区分に該当するため、Aさんは「週3日勤務」の従業員と同じ扱いになります。
- 結論:Aさんには、入社6か月時点で5日の有給休暇が付与されます。
このように、実績に基づいて客観的な日数を算出すれば、公平な運用が可能です。
2. 有給休暇を取得した日の賃金計算方法を定めておく
シフト制の場合、日によって労働時間が異なるため、「有給休暇1日分」の賃金をいくらにするかをあらかじめ就業規則で定めておくことがトラブル防止の鍵となります。法律で認められている主な計算方法は以下の3つですが、中小企業の実務では①か②が一般的です 。
通常の賃金で支払う方法
- 計算:有給休暇を取得した日に予定されていたシフト時間 × 時給
- メリット:計算がシンプルで分かりやすい。
- デメリット:労働時間の長い日を狙って有給申請が集中する可能性がある。
平均賃金で支払う方法
- 計算:過去3か月間に支払われた賃金総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)
- メリット:日々の労働時間の長短にかかわらず支払額が一定になり、公平感がある。
- デメリット:計算がやや複雑になる。
標準報酬日額で支払う方法
社会保険の標準報酬月額を基に計算する方法。導入には労使協定が必要です。
どの方法を選択しても法的には問題ありませんが、重要なのは、会社としていずれかの方法を就業規則に明記しておくことです。規定がないと、従業員に最も有利な方法で計算するよう求められる可能性があります。
年5日取得義務への対応と罰則リスク
2019年4月から、すべての企業で「年5日の有給休暇取得」が義務化されました。このルールはパートタイマーにも適用されるため、正しい知識と管理体制が不可欠です。
パートタイマーも年5日取得義務の対象になる?
結論から言うと、パートタイマーも年5日取得義務の対象になります。ただし、すべてのパートタイマーが対象ではありません。
この義務の対象となるのは、年次有給休暇が10日以上付与されるすべての労働者です 。比例付与の対象となるパートタイマーの場合、勤続年数が長くなるにつれて付与日数が10日に達するタイミングがあります。
以下の表は、週の所定労働日数ごとに、年5日の取得義務がいつから発生するかを示したものです。
週所定労働日数 | 年5日取得義務の対象となる勤続年数 |
---|---|
4日 | 3年6か月以上 |
3日 | 5年6か月以上 |
2日以下 | 対象外(付与日数が10日に達しないため) |
※上記は出勤率8割以上を満たし続けた場合の最短期間です 。
自社のパートタイマーがいつから対象になるのかを正確に把握し、取得状況を管理する必要があります。
対応必須の「年次有給休暇管理簿」とは?
年5日の取得義務を遵守していることを証明するために、企業には**「年次有給休暇管理簿」**の作成と保存が義務付けられています 。
これは、年10日以上の有給休暇が付与される従業員一人ひとりについて、取得状況を管理するための台帳です。
- 記載必須の3項目:①基準日(有給を付与した日)、②日数(取得した日数)、③時季(取得した具体的な日付)の3つを必ず記載する必要があります 。
- 様式:法律で定められた様式はなく、Excelや市販の勤怠管理システムなどで管理して問題ありません 。
- 保存期間:作成した管理簿は、3年間保存する義務があります 。
実務上のポイントとして、有給休暇の基準日を全社で統一することをお勧めします 。従業員の入社日ごとに基準日がバラバラだと管理が非常に煩雑になります。例えば「毎年4月1日」を全社一斉の基準日と定めることで、管理業務を大幅に効率化できます。
知らないと危険!違反した場合の罰則
年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、会社が年5日の有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法違反となります。
その場合の罰則は、対象となる従業員1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります 。5人の対象者が義務を果たせなかった場合、最大で150万円の罰金となる計算です。これは会社にとって非常に大きなリスクであり、適切な管理がいかに重要かを示しています。
よくある質問
Q. 時間単位の有給休暇は導入すべきですか?
時間単位の有給休暇は、従業員の柔軟な働き方をサポートする有効な制度ですが、導入は企業の任意です。導入するには、①就業規則への規定と②労使協定の締結の両方が必要になります 。注意点として、取得できるのは年5日分までであり、
時間単位で取得した時間は、年5日の取得義務の日数にはカウントされません 。
Q. 退職予定者からまとめて有給申請されたら拒否できますか?
原則として拒否できません。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に取得日を変更してもらう「時季変更権」がありますが、これはあくまで「別の日に変更してもらう」権利です 。退職予定の従業員の場合、退職日以降に「別の日に変更」することは不可能なため、会社の時季変更権は行使できず、申請を認めなければなりません 。
Q. 会社が有給の取得日を変更できる「時季変更権」とは?
時季変更権は、従業員から申請された日に有給休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる」場合に限り、例外的に行使できる権利です 。単に「繁忙期だから」「人手が足りないから」といった恒常的な理由だけでは認められず、代替人員の確保に努めたがどうしても調整がつかないなど、客観的かつ具体的な支障がある場合に限られます 。権利の濫用と判断されないよう、慎重な運用が求められます。
Q. 有給休暇の買取りは違法ですか?
はい、原則として違法です。有給休暇は労働者の心身のリフレッシュを目的とするため、お金で買い上げて休暇を与えないことは法の趣旨に反します 。
ただし、例外的に以下の3つのケースでは、すでに休暇を取得する権利が消滅しているため、買取りが認められています 。
- 時効で消滅した有給休暇(付与から2年経過したもの)
- 法律の基準を上回って会社が独自に付与した休暇
- 退職時に消化しきれず残った有給休暇
重要なのは、これらの例外ケースでも会社に買取りの義務はないということです。あくまで労使の合意に基づき、恩恵的に行われるものと理解してください 。
まとめ
この記事では、就業規則における有給休暇の定め方、特に複雑でトラブルになりやすいパートタイマーの規定方法と、年5日の取得義務化への対応に絞って解説しました。重要なポイントは、①全従業員に適用される基本ルールに加え、②パートタイマー向けの比例付与を明確に規定し、③年次有給休暇管理簿で取得状況を確実に管理することです。就業規則は一度作って終わりではなく、法改正や会社の状況に合わせて見直すことが不可欠です。自社の運用に少しでも不安があれば、ぜひ専門家にご相談ください。
社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。