就業規則の作成、費用が気になりますよね。初めて作成するとなると、誰に頼めばいいのか、そもそも費用がいくらかかるのか見当もつかない、という方も多いのではないでしょうか。しかし、費用だけで安易に作成方法を選ぶと、将来的に会社を揺るがす大きなリスクを抱える可能性があります。
この記事では、就業規則作成の費用相場と、価格差の背景にある「リスク」について徹底解説します。貴社にとって最適な選択をするために、ぜひ最後までご覧ください。
結論:就業規則作成の費用相場は依頼先で大きく変わる
就業規則の作成費用は、誰に依頼するかで大きく異なります。まずは結論として、それぞれの費用相場を把握しておきましょう。この価格差が、後述する「将来のリスク」に直結します。
しっかりした社労士に依頼する場合:100,000円~300,000円
労働法務の専門家である社労士に新規作成を依頼する場合、費用相場は100,000円~300,000円程度です。事務所によっては、より詳細なコンサルティングを含む場合、50万円程度になることもあります 。
この価格には、単に書類を作るだけでなく、以下のような専門的なサービスが含まれます。
- 徹底したヒアリング:貴社の事業内容、従業員構成、働き方の実態を深く理解します。
- オーダーメイドでの条文作成:ヒアリング内容に基づき、貴社特有のリスクを洗い出し、会社を守るための最適な条文を設計します。
- 法改正への完全対応:頻繁に行われる労働関連法の改正に漏れなく対応し、法的に万全な状態を確保します。
- 助成金活用を見据えた提案:就業規則の整備を要件とする助成金の活用を視野に入れ、将来的な利益につながる規定を盛り込みます。
この費用は、目先の出費ではなく、未来の安心と成長への「投資」と捉えることが重要です。 当事務所のサービス内容や料金体系の詳細は、以下のページでご確認いただけます。
格安の士業事務所などの場合:30,000円~100,000円
格安の士業事務所が提供する格安の代行サービスでは、30,000円~100,000円程度が相場です 。
この価格帯のサービスは、多くの場合、既存のテンプレートをベースに、社名などを変更して納品する形式が中心です。一見すると非常に安価で魅力的ですが、個別の事情が十分に反映されず、後述する法的なリスクを抱える可能性が高い点に注意が必要です。
自分で作成する場合(テンプレート利用):0円~数千円
厚生労働省が提供するモデル就業規則などを利用すれば、費用は実質0円で作成することも可能です 。
しかし、これは最もリスクが高い選択肢と言えます。法改正への追随、自社の実態に合わせたカスタマイズ、潜在的な労務リスクの洗い出しなどを、すべて経営者自身が行わなければなりません。専門知識なしにこれらを完璧に行うことは、極めて困難です。
なぜ価格が違う?社労士と「自作・格安代行」の3つの決定的リスク
「なぜ社労士に頼むと高くなるのか?」その答えは、見えないリスクにどこまで対処できるかという「品質」の違いにあります。安い選択肢には、必ず価格相応のリスクが潜んでいます。ここでは、その決定的な3つのリスクを、具体的な事例を交えて解説します。
リスク①:法改正に対応できず「知らないうちに法律違反」
労働関連法は、社会情勢の変化に合わせて毎年のように改正されます 。無料テンプレートや更新されていない格安サービスでは、これらの法改正に追随できず、気づかぬうちに「違法な就業規則」を運用してしまうリスクが極めて高いのです。
【具体例1】2025年4月施行の育児・介護休業法改正
例えば、2025年4月から育児・介護休業法が大きく改正されます。主な変更点には以下のようなものがあります 。
- 子の看護休暇の対象が「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に拡大
- 育児中の柔軟な働き方を支援するため、テレワークが選択肢として追加
- 3歳から小学校就学前の子を持つ従業員への柔軟な勤務制度の導入(努力義務)
これらの新しいルールに対応した規定がなければ、法律違反となります。古いテンプレートを流用した場合、これらの規定はまず含まれていません。法律違反は、労働基準監督署の調査で指摘されるだけでなく、従業員からの信頼を失う原因にもなります。
【具体例2】残業代の割増賃金率
2023年4月から、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられました 。就業規則の賃金規程に古い料率が記載されたままだと、法律違反であると同時に、未払い残業代請求のリスクを抱えることになります。
社労士は、こうした法改正の動向を常に把握し、先回りして就業規則に反映させます。この「知らずに違法状態になる」リスクを未然に防ぐことこそ、専門家の価値の一つです。
リスク②:会社を守れない条文で「トラブル時に機能しない」
就業規則は「会社のお守り」です。平時はその価値を感じにくいかもしれませんが、問題が発生したときにこそ真価が問われます。テンプレートや格安サービスの就業規則は、この「いざという時」に会社を守る力が圧倒的に不足しています。
実際に、不適切な就業規則運用が原因で、企業が多額の支払いを命じられるケースは後を絶ちません。過去の裁判では、不当解雇と判断され約3,000万円の支払いを命じられた事例や、不当な懲戒処分で賃金の支払いを命じられた事例など、深刻な経営ダメージにつながる判例が多数存在します 。
【具体例1】問題社員への対応ができない
「勤務態度が著しく悪い」「業務命令に従わない」といった問題社員に対応しようとしても、就業規則の懲戒規定が曖昧だと、有効な処分ができません。
- テンプレートの規定:「服務規律に違反したときは、懲戒処分を行うことがある」といった漠然とした記載のみ。
- 社労士が作成した規定:懲戒の種類(けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)を明確に定義し、それぞれに該当する具体的な事由を列挙。さらに、処分に至るまでの適正な手続き(弁明の機会の付与など)も定めます。
この差が、トラブル時に「処分は妥当」と主張できるか、「不当処分」として訴えられるかの分かれ道になります。
【具体例2】休職・復職のルールが曖昧でトラブルに
メンタルヘルスの不調で休職する従業員が増える中、休職・復職に関する規定の不備は大きなリスクです。例えば、「会社が休職命令を出さないまま休職扱いとした」ことが違法と判断された判例もあります 。
テンプレートでは、休職期間や復職の判断基準、復職後の処遇などが具体的に定められていないことがほとんどです。社労士は、休職命令の手続き、主治医と産業医の連携、試し出勤制度、復職可否の判断基準などを具体的に盛り込み、スムーズで公平な運用を可能にする規定を作成します。
リスク③:助成金の要件を満たせず「もらえるはずが不支給に」
これは経営者の方に特に知っていただきたい、最ももったいないリスクです。国は、雇用の安定や労働環境の改善に取り組む企業を支援するため、様々な助成金を用意しています。そして、多くの助成金が、申請要件として「特定の条文が就業規則に定められていること」を求めているのです 。
安価な就業規則では、これらの助成金に対応した規定がまず含まれていません。結果として、本来なら数十万~数百万円受給できたはずの助成金を逃す「機会損失」が発生します。

【具体例】キャリアアップ助成金(正社員化コース)
これは、有期雇用の従業員(パート・契約社員など)を正社員に転換した際に支給される、非常に人気の高い助成金です。2024年度現在、1人あたり最大80万円が支給されます。
この助成金を申請するには、「就業規則に正社員への転換制度に関する規定が、転換を実施する前に明記されていること」が絶対条件です 。
よくある失敗例が、「従業員を正社員にしてから、慌てて就業規則に規定を追加する」ケースです。これでは1円も受給できません。社労士に作成を依頼すれば、こうした助成金の活用を最初から視野に入れ、必要な規定を漏れなく整備できます。就業規則の作成費用を、助成金の受給によって十分に回収し、さらに利益を生むことさえ可能なのです。
キャリアアップ助成金については、こちらの記事で詳しく解説しています。

社労士への依頼費用を賢く抑える2つの方法
「専門家に頼む価値はわかった。でも、やはり費用は抑えたい」というのが本音だと思います。ご安心ください。社労士への依頼費用を賢く抑える、真っ当な方法が2つあります。
方法①:顧問契約とセットで割引価格で依頼する
多くの社労士事務所では、日々の労務相談や社会保険手続きなどを包括的にサポートする「顧問契約」を用意しています。この顧問契約とセットで就業規則の作成を依頼すると、作成費用が割引になることが一般的です 。
例えば、通常20万円の作成費用が、顧問契約とセットなら15万円になる、といった形です。就業規則は作って終わりではなく、法改正や会社の成長に合わせてメンテナンスしていく必要があります。長期的な視点で見れば、信頼できる社労士と顧問契約を結び、継続的なサポートを受ける方が、結果的にコストパフォーマンスは高くなります。
方法②:助成金を活用して作成費用を実質的に補う
前述のリスク③の裏返しですが、これは最も賢い方法です。就業規則の作成と助成金の申請をセットで社労士に依頼するのです。
例えば、キャリアアップ助成金を活用すれば、受給額で就業規則の作成費用を十分に賄える可能性があります。社労士に支払う費用が、助成金という形で会社に戻ってくるため、実質的な負担を大幅に軽減、あるいはゼロにすることも可能です。
これは、助成金制度と労働法務の両方に精通した社労士だからこそできる提案です。費用を「支払う」のではなく、「投資して回収する」という発想の転換が、賢い会社経営の第一歩です。
よくある質問
最後に、就業規則に関して経営者の皆様からよくいただく質問にお答えします。
Q. 従業員が10人未満でも作成は必要ですか?
A. 法律上の作成・届出義務は、常時10人以上の従業員を使用する事業場に課せられています 。しかし、従業員が10人未満であっても、作成しておくことを強く推奨します。労働条件や服務規律といった社内のルールを明文化しておくことは、従業員との無用なトラブルを防ぎ、安心して働ける環境を作るための「会社のお守り」になります。
Q. 作成しなかった場合の罰則はありますか?
A. 常時10人以上の従業員を使用する事業場で、就業規則を作成しなかったり、労働基準監督署へ届け出なかったりした場合は、労働基準法違反となります。この場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります 。
Q. 依頼から完成までの期間はどのくらいですか?
A. 会社の規模や、ヒアリングでお伺いする内容の複雑さにもよりますが、一般的にはご依頼から1ヶ月~2ヶ月程度が完成までの目安となります。従業員代表からの意見聴取など、必要な手続きも含まれます。お急ぎの場合は、ご相談いただければ可能な限り対応いたします。
Q. 相談だけでも料金はかかりますか?
A. 多くの社労士事務所では、初回の相談を無料で受け付けています。当事務所も同様です。まずは貴社の現状をお聞かせいただき、どのような就業規則が必要か、費用はどのくらいか、活用できそうな助成金はあるか、といった点についてお話しさせていただきます。見積もりを取るだけでも全く問題ありませんので、お気軽にご連絡ください。
まとめ
就業規則の作成費用は、依頼先によって大きく異なります。しかし、目先の費用だけで判断するのは非常に危険です。安価なテンプレートや代行サービスは、法改正への未対応、トラブル時のリスク、助成金の機会損失といった、後から何倍にもなって返ってくる「隠れたコスト」を抱えています。
就業規則は、単なるルールブックではありません。それは、変化の激しい時代において、会社と、そこで働く大切な従業員双方を守るための重要な「保険」であり「投資」です。適切な投資は、未来の不要な損失を防ぎ、新たな利益を生み出します。貴社の10年後を見据えたとき、どちらの選択が賢明でしょうか。
社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。