新しく従業員を雇い入れる際、必ず作成しなければならない書類があります。しかし、「労働条件通知書」と「雇用契約書」、この2つの違いを明確に理解している方は意外と少ないものです。
「どちらを作ればいいの?」「両方必要なの?」「面倒だから1つにまとめたいけれど、法的に問題はない?」といった疑問を持つ人事担当者様や経営者様も多いのではないでしょうか。
この記事では、社会保険労務士の視点から、これら2つの書類の違いと、実務で推奨される「兼用書」の作成ポイントについて解説します。
- 労働条件通知書と雇用契約書の法的な役割と違い
- 実務で「労働条件通知書兼雇用契約書」が推奨される理由
- 兼用書を作成する際の具体的なポイントと必須項目
- 片方の書類しかない場合に生じうるリスク

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労働条件通知書と雇用契約書の違い
まずは、この2つの書類がそれぞれどのような法的根拠に基づいているのか、基本的な違いを整理しましょう。名前は似ていますが、その「目的」と「役割」は大きく異なります。
比較表(法的義務・署名・交付方法)
それぞれの特徴を比較表にまとめました。大きな違いは「作成の義務があるかどうか」と「合意(署名・捺印)が必要かどうか」です。
| 項目 | 労働条件通知書 | 雇用契約書 |
|---|---|---|
| 根拠となる法律 | 労働基準法(第15条) | 民法(第623条)、労働契約法 |
| 作成の義務 | あり(法的義務) | なし(任意) |
| 主な目的 | 労働条件を会社から「通知」すること | 労働条件について双方が「合意」すること |
| 従業員の署名・捺印 | 不要 | 必要 |
| 違反時の罰則 | 30万円以下の罰金 | 特になし(ただしトラブル時のリスク大) |
| 交付のタイミング | 労働契約の締結時(入社時) | 労働契約の締結時(入社時) |
労働基準法上の義務は「労働条件通知書」
法律上、会社(使用者)が必ず作成して従業員に渡さなければならないのは「労働条件通知書」です。
労働基準法第15条により、使用者は労働契約の締結に際して、賃金や労働時間などの労働条件を明示することが義務付けられています。これは、会社側から従業員への「一方的な通知」で足りるとされており、従業員の同意や署名は法的には必須ではありません。
もしこの通知を行わなかった場合、労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。つまり、最低限のルールとして「労働条件通知書」の交付は必須です。
民法上の合意形成は「雇用契約書」
一方、「雇用契約書」の作成は法律で義務付けられてはいません。しかし、民法や労働契約法において、労働契約は「労使双方の合意」によって成立するものとされています。
雇用契約書は、会社と従業員が労働条件について「合意しました」という証拠を残すための書類です。そのため、会社側と従業員側の双方の署名・捺印(または記名・押印)が必要となります。
法律上の作成義務はありませんが、「言った・言わない」のトラブルを防ぐためには、民法上の契約原則に基づいて雇用契約書を交わすことが非常に重要です。
実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」が推奨されている
法律上の義務だけを見れば「労働条件通知書」さえあれば良いように思えますが、実務上推奨されるのは、2つの機能を併せ持った「労働条件通知書兼雇用契約書」です。なぜ兼務書とする方が良いのか、その理由を解説します。
言った言わないのトラブルを防ぐため
労働条件通知書だけでは、会社が「通知した」という事実は残りますが、従業員がその内容を「理解し、納得した」という証拠にはなりません。
後になって従業員から「こんな条件だとは聞いていない」「勝手に決められた」と言われた場合、署名のない通知書だけでは会社側の立場が弱くなってしまいます。双方の署名が入った「兼務書」を作成することで、合意形成の証拠を残し、労使トラブルを未然に防ぐことができます。
書類管理を一元化し効率を図る
「労働条件通知書」と「雇用契約書」を別々に作成すると、内容の重複が発生し、作成の手間が2倍になります。また、万が一記載内容にズレが生じてしまった場合、どちらが正しいのか分からなくなるリスクもあります。
これらを1つの書類にまとめることで、作成の手間を省き、書類管理を一元化することができます。人事担当者の事務負担を減らしつつ、法的なリスク管理も同時に行えるため、実務上は「労働条件通知書兼雇用契約書」として運用するのが効率的で安全であると考えます。
労働条件通知書兼雇用契約書の作成ポイント(テンプレート付き)
では、実際に兼用書を作成する場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか。テンプレートを自作する際や修正する際のポイントを解説します。
①タイトルと文言の工夫
まず、書類のタイトルを「労働条件通知書 兼 雇用契約書」と記載します。これにより、この書類が労働基準法上の明示義務と、民法上の契約締結の両方を兼ねていることを明確にします。
また、文末には以下のような文言を入れることで、契約書としての性質を持たせます。
- 「本契約の内容を確認し、上記労働条件に同意の上、労働契約を締結します。」
- 署名欄を設け、「使用者」と「労働者」双方が署名・捺印できるようにします。
②兼用書とする場合の必須項目
兼用書にする場合でも、労働基準法で定められた「絶対的明示事項」は必ず記載しなければなりません。以下の項目が漏れていると、法律違反となってしまうため注意が必要です。
◆必ず記載しなければならない事項(絶対的明示事項)
- 労働契約の期間(有期契約か無期契約か)
- 就業の場所・従事すべき業務(雇入れ直後だけでなく、将来の「変更範囲」も含む)
- 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇
- 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 昇給に関する事項
これらを網羅した上で、署名欄を設ける形式にしてください。
③実際の記載内容と実態が違う場合のリスク
書類を作成する際、テンプレートをそのまま流用してしまい、実際の働き方と記載内容が食い違ってしまうケースがあります。
もし「雇用契約書と実態が違う」という状況になった場合、労働基準法第15条第2項に基づき、労働者は即時に労働契約を解除することができます。さらに、実態と異なる条件で働かせたことについて損害賠償を請求されるリスクもあります。
特に「固定残業代」や「休日の定義」などはトラブルになりやすいため、必ず自社の実態に合わせて内容を修正・確認してください。
労働条件通知書兼雇用契約書 テンプレート
社労士事務所altruloop監修の、労働条件通知書兼雇用契約書テンプレートです。
実務でそのまま活用できる内容となっていますが、あくまでテンプレートのため、各企業の実態や就業規則に応じて適宜修正のうえご利用ください。
ダウンロード:労働条件通知書兼雇用契約書テンプレート
よくある質問:どちらか片方ではダメなのか?
最後に、実務の現場でよく聞かれる疑問について、Q&A形式で解説します。
- 通知書のみの場合「一方的な通知」によるリスクは?
-
結論:法的にはクリアしていますが、合意の証拠がないためトラブル時に不利になります。
労働条件通知書を交付していれば、労働基準法上の義務は果たしています。しかし、従業員が「見ていない」「同意していない」と主張した場合、会社側に対抗できる証拠がありません。信頼関係構築の観点からも、署名をもらう形式を推奨します。
- 契約書のみの場合「明示義務違反」のリスクは?
-
結論:法定の明示事項(絶対的明示事項)が網羅されていないと、法律違反になります。
一般的な「雇用契約書」は、すべての労働条件を細かく記載せず「詳細は就業規則による」と省略してしまうことがあります。しかし、先ほど挙げた「絶対的明示事項」が具体的に書かれていない場合、労働条件の明示義務違反(30万円以下の罰金対象)となる可能性があります。契約書のみで運用する場合は、必ず通知書と同等の詳細な項目を記載してください。

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まとめ:労使双方の安心のために「兼用書」の活用を
労働条件通知書と雇用契約書は、それぞれ異なる役割を持っていますが、実務上はこれらを統合した「労働条件通知書兼雇用契約書」の運用がベストと考えられます。
- 「労働条件通知書」は法的義務があり、「雇用契約書」は合意の証拠となる。
- 2つを兼ねた書類にすることで、法的義務の履行とトラブル防止を同時に実現できる。
- 作成時は「絶対的明示事項」の記載漏れがないよう注意する。
- 書類と実態が異なると、即時解除や損害賠償のリスクがあるため正確に記載する。
入社時の手続きは、会社と従業員の最初の約束です。お互いが安心して働けるよう、不備のない書類作成を心がけましょう。

