この記事では、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請方法、受給額、そして審査で不支給とならないためのポイントを徹底解説します。
- 2025年度(令和7年度)改正で導入された「重点支援対象者」の定義と、中小企業・大企業それぞれの最新受給額
- 新卒採用から1年以内の労働者が対象外となった背景と、具体的な例外ルールの判断基準
- 不支給リスクを回避するために必須となる「賃金3%アップ」の正確な計算手順と、算定から除外される手当の詳細
- GビズIDを使用した電子申請の流れと、就業規則に必ず記載すべき賞与・退職金・昇給に関する具体的な規定フレーズ
- 社労士が現場でアドバイスする、賃金台帳の不整合や事業主都合の離職による不支給を防ぐための実務チェックリスト

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キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは?
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、「雇用の安定」と「処遇の改善」を両立させるための中心的な助成金です。
企業が抱える人手不足の解消と、非正規雇用労働者のキャリア形成を同時に支援する仕組みとなっています。
キャリアアップ助成金は非正規雇用から正社員への転換を支援する制度
この制度は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる「非正規雇用労働者」を、期間の定めのない「正規雇用労働者(正社員)」に転換させた事業主に対して助成を行うことにあります。
単なる雇用区分の変更だけではなく、昇給や賞与・退職金制度の適用といった処遇改善を伴うことが受給の前提となります。
労働者の意欲と能力を高めることで企業の生産性向上を図り、優秀な人材を長期的に確保するための強力なツールとして機能します。
2025年4月〜の改正で変わった受給額と「重点支援対象者」について
2025年(令和7年)4月1日以降の転換・直接雇用分より、キャリアアップ助成金は「重点支援対象者」という新たな区分を導入し、支給構造が劇的に変化しました。
これまでは一律の助成額が設定されていましたが、改正後はキャリアアップの必要性がより高い労働者を「重点支援対象者」として手厚く支援する一方、それ以外の労働者については支給額が従来の約半分に引き下げられました。
| 区分 | 中小企業の受給額 | 大企業の受給額 |
|---|---|---|
| 重点支援対象者(有期→正規) | 80万円(40万円×2期) | 60万円(30万円×2期) |
| 重点支援対象者(無期→正規) | 40万円(20万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
| 上記以外(有期→正規) | 40万円(40万円×1期) | 30万円(30万円×1期) |
| 上記以外(無期→正規) | 20万円(20万円×1期) | 15万円(15万円×1期) |
「重点支援対象者」に該当する条件とは?
重点支援対象者は、以下のaからcのいずれかに該当する労働者を指します。
- a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
長期間にわたり有期雇用のまま据え置かれている労働者の正社員化を促進するための条件です。 - b:雇入れから3年未満で、以下の①②両方に該当する有期雇用労働者
①現在の事業所に雇い入れられた日の前日から起算して、過去5年間に正規雇用労働者(または多様な正社員、フリーランス等)であった期間が合計1年以下。
②現在の事業所に雇い入れられた日の前日から起算して、過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない(事業主都合や正当な理由のある自己都合退職を除く)。 - c:特定の属性を持つ労働者
派遣先の事業所で正社員として直接雇用される派遣労働者、母子家庭の母等または父子家庭の父、および人材開発支援助成金の特定の訓練(人材育成支援コース、リスキリング支援コース、人への投資促進コース等)を修了した労働者が含まれます。
新卒1年以内の労働者は対象外に
今回の改正により、新規学卒者(新卒者)への制限が厳格化されました。
卒業後に申請事業主に雇い入れられた日から起算して「1年未満」の労働者は、正社員転換しても支給対象外となります。
この措置は、本来最初から正社員として雇用すべき新卒者を、助成金受給の目的で意図的に有期雇用として採用するような不適切な活用を防ぐために導入されました。
ただし、雇入れから1年以上経過した後に正社員転換を行う場合は、引き続き支給対象となり得ます。
キャリアアップ助成金の対象事業者と「正社員」の定義
助成金を受給するためには、会社側が「対象事業主」の要件を満たし、かつ転換後の労働者が制度上の「正規雇用労働者」の定義を完全に満たしている必要があります。
助成対象となる事業主の要件
助成金の対象となるには、以下の共通要件をすべて満たさなければなりません。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること。
- 事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置していること(管理者と労働者代表、複数の事業所の兼任は不可)。
- 事業所ごとに、労働者の意見を聴取した上で作成したキャリアアップ計画を、コース実施日の前日までに管轄労働局長へ届け出ていること。
- 対象労働者の労働条件、勤務状況、賃金支払い状況を明らかにする書類(出勤簿、賃金台帳等)を整備し、賃金の算出方法を明確にできること。
- 支給申請日において、各コースに定めるすべての支給要件(解雇制限等)を満たしていること。
特に、労働保険料の滞納がある場合や、過去1年間に労働関係法令の違反を行った事業主は受給できません。
「正規雇用労働者(正社員)」の定義
キャリアアップ助成金における「正社員」とは、単に社内でそう呼んでいるだけでは不十分です。以下の要件をすべて満たし、就業規則に明文化されている必要があります。
- 期間の定めのない労働契約を締結していること。
- 派遣労働者として雇用されていないこと。
- 同一の事業主において雇用される「通常の労働者」と、所定労働時間、職務、転勤の範囲などが同一であること(多様な正社員を除く)。
- 「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されていること。
実務上、特に注意が必要なのが「賞与・昇給・退職金」の規定です。
例えば、就業規則に「賞与を支給しない」と明記されている場合や、「業績による」とだけあり、過去に一度も支給実態がない場合などは、正社員の定義を満たさないと判断され不支給となるリスクが高いです。
「有期」から「無期」への転換は対象?
現行の「正社員化コース」の主な目的は、非正規雇用から「正規雇用(正社員)」への引き上げです。
かつて存在した「有期から無期(非正規のまま)」への転換に対する助成メニューは、現在の制度体系では本体助成の主要な対象外となっています。
ただし、雇用期間が通算5年を超える有期雇用労働者は、制度上「無期雇用労働者」とみなされるため、正社員化する際は「無期→正規」の区分での申請となります。
また、パートタイマー等の「無期雇用労働者」から、フルタイムの正社員へ転換させる場合は、重点支援対象者以外であっても中小企業で20万円の助成対象となります。
キャリアアップ助成金の申請方法と電子申請
申請手続きには厳格な期限があり、1日でも遅れると受給権を失います。
令和7年度からは計画書の「認定」から「届出」制への変更や、電子申請の本格的な活用が求められています。
申請までの流れ(申請方法)
これまでキャリアアップ計画書は、労働局の「認定」が必要でしたが、令和7年度からは「届出制」へと簡略化されました。
ただし、正社員転換の前日までに届け出が必要な点は変わりません。早めの準備が必須です。
標準的な申請プロセス(申請方法)は以下の通りです。
申請から受給までは、最短でも約1年を要します。
電子申請の準備(約2週間)です。詳細は後述します。
正社員転換を行う前日までに、管轄の労働局へ計画書を提出します。(既にGビズIDを取得済みの場合はここからスタート)
正社員転換制度が就業規則等にない場合、面接・試験等の客観的な選考基準を規定し、労働基準監督署へ届け出ます。
届け出るにあたって法改正などに規則が追いついていなければ、このタイミングで併せて改定すると良いでしょう。

就業規則等の規定に基づき、対象者を正社員へ転換します。
転換後、正社員として6か月間雇用し、その間の賃金を支払います。
この際、転換前6か月と比較して賃金を3%以上増額させている必要があります。
転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書と添付書類を労働局へ提出します。
『雇用関係助成金ポータル』での電子申請
厚生労働省は「雇用関係助成金ポータル」を通じた電子申請を強く推奨しています。
「雇用関係助成金ポータル」とは、厚生労働省が提供する、雇用関係の助成金の電子申請・情報提供システムです。
窓口へ出向く時間や郵送コストを削減できるだけでなく、過去に入力した事業所情報の自動反映や、審査進捗状況のリアルタイム確認が可能です。
電子申請のメリットと「GビズID」について
電子申請には、政府の共通認証システムである「GビズID(プライム)」のアカウント取得が必須です。
電子申請の主なメリット
- 事務負担の軽減:一度登録した基本情報は繰り返し利用でき、手書きや押印の手間が省けます。
- 利便性の向上:24時間365日、オフィスからいつでも申請・修正が可能です。
- 不備の早期発見:入力時の自動チェック機能により、単純な記入漏れを防げます。
ただし、GビズIDの発行には通常2週間程度の期間を要するため、助成金の計画届を出す前に余裕を持って取得しておく必要があります。
キャリアアップ助成金の支給申請のタイミングは「転換後6ヶ月」が経過してから
支給申請の開始日は、正社員転換後の「6か月目の賃金」が支払われた日の翌日です。
例えば、4月1日に正社員転換し、賃金締切日が末日、支払日が翌月15日の会社の場合、9月分の給与が支払われる「10月15日」が基準となります。
この翌日である10月16日から12月15日までの2か月間が申請期間です。
※残業代が翌月払いとなっている場合は、その残業代を含む「6か月分の賃金」がすべて支払われた日が起点となる点に注意してください。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは最大いくらもらえる?
受給できる助成額は、対象労働者の区分(重点支援か否か)と企業の規模によって大きく分かれます。
中小企業と大企業での支給額の違い
助成額は、雇用の安定に寄与する度合いが大きい中小企業に対して手厚く設定されています。
| 転換区分 | 中小企業(重点支援) | 大企業(重点支援) |
|---|---|---|
| 有期 → 正規 | 80万円(1期40万円+2期40万円) | 60万円(1期30万円+2期30万円) |
| 無期 → 正規 | 40万円(1期20万円+2期20万円) | 30万円(1期15万円+2期15万円) |
重点支援対象者に該当しない一般的な有期雇用労働者の場合、中小企業では40万円(1期のみ)、大企業では30万円(1期のみ)となります。
制度を新設した際の「20万円」加算
初めて正社員転換に取り組む企業や、多様な働き方を導入する企業には加算措置が用意されています。
- 正社員転換制度の新規規定加算:
それまで自社の就業規則等に正社員転換に関する規定がなかった事業主が、新たに制度を設け、その制度に基づき初めて転換を実施した場合、1事業所当たり1回に限り20万円(大企業15万円)が加算されます。 - 多様な正社員制度の新規規定加算:
勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新たに規定し、転換を行った場合、1事業所当たり1回に限り40万円(大企業30万円)が加算されます。
これらの加算を活用することで、初回申請時には1人当たり最大100万円を超える助成を受けることが可能です。
「賃金3%以上アップ」の計算方法
正社員化コースの支給審査で最も厳格にチェックされるのが、転換後の「賃金3%以上増額」という要件です。
計算方法を誤ると、他のすべての要件を満たしていても不支給となります。
比較対象となる賃金範囲と除外される手当
賃金の比較は、原則として「基本給」と「定額で支払われる諸手当」を合計して行います。
しかし、以下の手当は、たとえ支給していても計算基礎(分子・分母ともに)から除外しなければなりません。
計算に含めることができない(除外される)主な手当
- 実費弁償的なもの:通勤手当、出張旅費等。
- 変動的なもの:時間外勤務手当(残業代)、休日手当、深夜手当、宿日直手当。
- 属人的な事情で変動するもの:家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当(ただし、全従業員に一律定額で支給される場合は含められる場合がある)。
- 臨時的なもの:賞与、結婚手当、慶弔手当、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金。
転換前後の「1時間当たりの単価」で比較
最も確実な計算方法は、賃金を「1時間当たりの単価(時給単価)」に割り戻して比較することです。
特に、パート(時給)から正社員(月給)へ転換する場合や、転換に伴い所定労働時間が変わる場合は、この方法で3%以上の伸びを確認する必要があります。
計算の考え方
- 転換前6か月の時給単価 = 転換前6か月の賃金総額 ÷ 転換前6か月の所定労働時間
- 転換後6か月の時給単価 = 転換後6か月の賃金総額 ÷ 転換後6か月の所定労働時間
- 判定 = (転換後単価 - 転換前単価) ÷ 転換前単価 ≧ 0.03(3%)
端数処理については、切り捨てで計算し、1円でも3%を下回ると不支給になります。
「賃金上昇要件確認ツール」の活用
社労士:野澤惇3%アップの計算は、多くの事業主様が自己流で計算して失敗する箇所です。
特に固定残業代が含まれている場合や、月の労働日数が変動するケースでの計算は非常に複雑です。厚生労働省が公開しているExcel版の『賃金上昇要件確認ツール』を必ず使用してください。
このツールに入力し、判定結果が『要件を満たしています』と表示されることを確認してから申請書類を作成するのが、不支給を避けるための鉄則です。
申請に必要な書類と不支給を避けるチェックリスト
支給申請で最も否認(不支給)が多いのが、この賃金上昇要件です。
申請時には多くの書類の提出が求められます。
書類間の整合性が1か所でも取れないだけで、審査落ちや実地調査の対象となるため、事前のチェックが不可欠です。
交付申請時に用意すべき主な書類
標準的な添付書類のリストは以下の通りです。
審査落ち・不支給になる注意点
助成金の審査は極めて厳格であり、以下のポイントで一つでも不備があると不支給となります。
就業規則の「賞与・退職金・昇給」規定の不備
正社員の定義として、「賞与または退職金制度」と「昇給」が規定されている必要がありますが、これが「客観的な基準」に基づいているかが重要です。
「昇給は会社の判断で行う」という曖昧な表現ではなく、「毎年4月に、勤務成績等を勘案して昇給を行う」といった具体的なフレーズが必要です。
また、退職金制度については、費用を事業主が全額負担することの明記(中退共への加入等)が必要です。


転換前後6ヶ月の賃金台帳の不整合
賃金台帳、出勤簿、雇用契約書の3つの書類の間で、1円の差異や、1分の労働時間の矛盾があっても審査が止まります。
特によくあるのが、「残業代の計算漏れ」です。
助成金の審査を通じて未払い残業代が発覚した場合、助成金が不支給になるだけでなく、労働基準監督署からの是正勧告や、過去に遡った未払い賃金の支払いを命じられるリスクがあります。
事業主都合による解雇(リストラ)がないこと
正社員転換日の前日から起算して6か月前の日から、1年を経過する日までの間に、当該事業所において雇用保険被保険者を事業主都合で離職(解雇や退職勧奨等)させていないことが必須条件です。
1人でも会社都合の退職者が発生すると、その時点で助成金の受給資格を失います。
また、特定受給資格者となる離職者の割合が全従業員の6%を超えている場合も不支給となります。
キャリアアップ助成金の申請に関する良くある質問
社労士の現場でよく寄せられる、具体的な事例に基づいたQ&Aです。
- 過去にアルバイトだった人をいきなり正社員で雇った場合は?
-
助成金の対象にはなりません。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の結論として、最初から正社員として雇用した場合は、非正規から正規への「転換」というプロセスが存在しないため、助成対象外となります。
助成を受けるためには、まず有期雇用労働者や無期パートとして雇用し、少なくとも6か月以上の継続雇用実績を作った上で、正社員へ転換させる必要があります。 - 社長の親族を正社員にしたらもらえる?
-
助成金の対象にはなりません。
事業主(個人事業主)の配偶者や、3親等以内の親族は、原則として助成金の対象労働者から除外されます。
これは、親族間での雇用は労働実態や賃金支払いの客観的な証明が難しく、公金による助成の対象として適切ではないと判断されるためです。
法人の場合でも、代表取締役や取締役の3親等以内の親族は対象外となります。
まとめ
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、2025年度の改正により、本当に支援が必要な労働者(重点支援対象者)にフォーカスした制度へと進化しました。
受給額の最大化を図るには、改正内容を正しく理解し、緻密な計画を立てることが不可欠です。
- 2025年4月から、受給額が「重点支援対象者」か否かで最大2倍の差がつくようになった
- 新卒採用1年以内の労働者は、制度の趣旨から逸脱した運用を防ぐため支給対象外となった
- 「賃金3%アップ」は手当の除外ルールが極めて複雑なため、必ず公式の計算ツールを使用すべきである
- 不支給を避ける最大のポイントは、就業規則における客観的な昇給・賞与規定と、帳簿類の完璧な整合性である
- 電子申請(GビズID)の導入により、今後の助成金申請のスピード感と透明性は飛躍的に向上する
制度の内容は年度ごとに細かくアップデートされるため、取組を開始する前には必ず最新の支給要領を確認し、不安な場合は信頼できる社会保険労務士などの専門家へ相談することをお勧めします。






