就業規則を自分で作成するデメリットとは?自作するための作成手順も合わせて解説

企業経営において最も法的リスクが高い「ヒト」の管理において、就業規則は会社を守る「職場の憲法」であり唯一の防波堤です。

近年は10人未満の企業でも作成が進んでいますが、無料テンプレートの安易な流用は、未払い残業代や解雇トラブルなど致命的な経営リスクを招きかねません。

本記事では、専門家に頼らず自作することの「巨大なリスク」と、それでも自作を選択する場合に必要な「法適合性の担保手順」について、最新の法改正や助成金要件を網羅し徹底解説します。

この記事でわかること
  • 就業規則を自分で作成する場合とプロに依頼する場合の具体的な判断基準
  • 法的に有効な就業規則を自作するための5つのステップと必須記載事項
  • テンプレートをそのまま使うことで生じる業種別の実務リスク(物流・建設・IT)
  • 助成金申請やトラブル予防を目的とする場合に社労士へ依頼すべき理由
  • 従業員10人未満の場合の対応など、よくある質問への回答

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目次

就業規則は自分で作成できる?「自作」と「依頼」の判断基準

就業規則の作成は、特別な資格がなくてもできる業務です。
しかし、それは「誰でも簡単に作れる」ということではありません。

ここでは、就業規則を作る際に「自作」か「依頼」かを判断するための基準を解説していきます。

【結論】作成自体は可能だが「法適合性」の担保が壁

インターネット上には多くの「モデル就業規則」が存在し、形だけであれば誰でも作成可能です。

しかし、最大の問題は、その規則が最新の法律に適合しているか、そして自社の実態に合っているかという「法適合性」の担保です。

作成義務があるのは「常時10人以上の労働者」がいる事業場

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。 

ここで言う「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイトも含まれます。

また、稼働人数ではなく「在籍人数」でカウントするため、休職中の社員も含まれる点に注意が必要です。

社労士:野澤惇

以下の記事にて、労働者数のカウント方法を解説しています。

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自作最大のメリットは「コスト削減」だが、学習コストは見落とされがち

自作を選択する最大の動機は、社労士への報酬(相場20万円〜50万円程度)を節約できる「金銭的コストの削減」でしょう。 

しかし、専門知識がない状態で法的に正しい規則を作るには、労働基準法、労働契約法、育児介護休業法など多岐にわたる法律を理解する必要があります。

経営者や担当者がこれらを学ぶために費やす数十時間の「時間的コスト(学習コスト)」は、結果として外部委託費用を上回る可能性があることを見落としてはいけません。

自分で作成するメリット・デメリットの比較表

自作する場合と専門家に依頼する場合の違いを整理しました。

スクロールできます
比較項目自作のメリット自作のデメリット(リスク)
コストと法適合性外部委託費用がかからないため、実質0円で作成可能。頻繁な法改正に対応しきれず、知らないうちに「違法状態」になるリスクがある。
理解度と防衛力条文を一行ずつ自分で検討するため、ルールや法律への理解が深まるテンプレートの一般的な記述では、トラブル発生時に会社を守る具体的根拠として機能しない。
柔軟性と実効性打ち合わせの手間がなく、自分のペースでいつでも修正・変更ができる。実態と乖離したルールを作ってしまい、誰も守らない形骸化した規則になりやすい。

メリット:費用0円、自社のルールを深く理解できる

就業規則を自作することには、単なる費用の節約だけでなく、経営者自身が自社のルールを再認識できるという側面があります。

コスト:外部委託費用がかからないため、実質0円で作成可能
最大のメリットは、社労士などの専門家へ支払う報酬をゼロに抑えられることです。
一般的に就業規則の作成を依頼すると20万円〜50万円程度の費用がかかりますが、自作であればその資金を他の設備投資や採用活動に充てることができます。
特に創業間もない時期など、キャッシュフローを優先したい企業にとっては大きな魅力です。

理解度:条文を一行ずつ自分で検討するため、自社のルールや法律への理解が深まり、運用時の自信につながる
厚生労働省のモデル規則などを参考にしながら自分の手で条文を書き進めることで、労働基準法の基礎知識が自然と身につきます。
どの条文が何を根拠にしているのかを把握しているため、従業員からルールについて質問を受けた際にも、経営者自らの言葉で自信を持って説明できるようになります。

柔軟性:打ち合わせの手間がなく、自分のペースでいつでも修正・変更ができる
専門家に依頼する場合、複数回の打ち合わせやヒアリングが必要になり、完成までに数ヶ月を要することも珍しくありません。
自作であれば、思い立った時に作業を進められ、社内の状況に合わせて即座に加筆・修正が可能です。
外部とのスケジュール調整が不要なため、スピード感を持って規則を整備できます。

デメリット:法改正対応の遅れ、労働トラブル時の防衛力不足、運用の形骸化

一方で、自作には専門知識が不足しているがゆえの「目に見えないリスク」が潜んでいます。
これらは将来的に、コスト削減分を大きく上回る損失を招く恐れがあります。

法改正対応:頻繁な法改正に対応しきれず、知らないうちに「違法状態」になるリスクがある

労働関連の法律は、働き方改革以降、驚くほどの頻度で改正されています。
育児・介護休業法や残業時間の上限規制など、最新の情報を常にキャッチアップし、規則に反映させるのは至難の業です。

古いテンプレートを使い続けていると、無意識のうちに法律違反(無効な規定)となり、労働基準監督署からの是正勧告を受ける対象になってしまいます。

防衛力:テンプレートの一般的な記述では、会社を守るための具体的根拠として機能しない場合がある

無料のテンプレートは「万人に当てはまる」ように作られており、自社特有のトラブル(問題社員への対応や機密保持など)を想定していません。

社労士:野澤惇

いざ解雇や懲戒処分を検討する事態になった際、規定が曖昧だと「不当解雇」として訴えられるリスクが高まります。
裁判になれば、専門家が設計した「守りの条項」がないことが致命傷となり、多額の賠償金を支払うことにもなりかねません。

形骸化:実態と乖離したルールを作ってしまい、誰も守らない形骸化した規則になりやすい

「とりあえず形だけ作っておこう」とネット上の文面をコピー&ペーストすると、実際の業務フローと規則の内容が矛盾してしまうことが多々あります。
実態に合わないルールは従業員の不信感を招き、誰も守らない「お飾り」の規則となります。

一度形骸化してしまうと、組織の規律が乱れ、労使間の信頼関係を損なう原因となってしまいます。

社労士以外(弁護士・コンサル)に依頼する場合との違い

就業規則の作成を「業」として行えるのは、社会保険労務士と弁護士のみです。
無資格のコンサルタントが作成を請け負うことは社会保険労務士法違反となります。   

  • 社会保険労務士:労務管理の専門家であり、助成金申請との連動や、日常的な運用のアドバイスに強みがあります。
  • 弁護士:紛争解決の専門家であり、すでに労使トラブルが発生している場合や、訴訟リスクが高いケースでの規定作成に強みがあります。    
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就業規則を自分で作成する5つの手順

就業規則の作成手順に入る前に、まず「何を書かなければならないか」を正確に理解する必要があります。

法的な不備を防ぐために以下の手順を確実に踏んでください。

ステップ1:記載事項の洗い出し(絶対的・相対的必要記載事項)

法律上、就業規則には必ず書かなければならない項目があります。

絶対的記載事項:労働時間、賃金、退職に関する事項

これらが欠けていると就業規則として認められません。

  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇: シフト制の場合はそのルールも必須。
  • 賃金: 決定方法、計算方法、支払方法、締切日、支払日、昇給に関する事項。
  • 退職: 退職の申し出期限、解雇事由(懲戒解雇を含む)。

ポイント:就業規則に「解雇事由」を詳細かつ論理的に規定しておくことで、万が一の裁判の際に会社側の正当性を主張する土台ができます。

勤務態度が著しく不良で、数回の指導を行っても改善が見られない場合
協調性を欠き、業務遂行に重大な支障をきたす場合
など

こうした具体的なプロセスを含んだ規定がないまま、「社長の感情」だけで解雇を行えば、不当解雇として地位確認請求訴訟を起こされ、バックペイ(解雇期間中の賃金)として数百万円〜一千万円の支払いを命じられることになります。

相対的記載事項:退職金、賞与、安全衛生など(制度がある場合のみ)

制度として設ける場合は記載義務が発生します。

  • 退職金: 支給要件、計算方法など。
  • 賞与: 支給対象者、査定期間など。
  • 表彰・制裁: どのような行為が懲戒対象になるか。ここが曖昧だと懲戒処分が無効になります。

ステップ2:厚生労働省「モデル就業規則」のダウンロードとカスタマイズ

まず、ゼロから条文を書くのは不可能に近いため、信頼できるベース(ひな形)を用意します。

Word形式でのダウンロード方法と、自社実態に合わせた修正の必須性

厚生労働省の公式サイトから最新版の「モデル就業規則」をWord形式でダウンロードできます。
ただし、モデル就業規則はあくまで「標準的」かつ「労働者保護」に重点を置いた内容です。

例えば、「退職金規定」や「休職期間」などが自社の体力に見合わない内容になっていないか確認し、必要に応じて(法を下回らない範囲で)修正する必要があります。
そのまま使うことは推奨されません。

  1. 厚生労働省「モデル就業規則」の入手:最も法的に安全で標準的な内容です。Word形式でダウンロード可能です。
  2. 現状(As-Is)の洗い出し:自社の現在のルールを書き出します。
    • 始業9時、終業18時、休憩12:00〜13:00?
    • 残業代はどう払っている?
    • 休日は土日祝?
    • 有給休暇は法定通り?
    • 定年は何歳?
  3. ギャップ分析:モデル就業規則と現状を照らし合わせ、修正が必要な箇所を特定します。
    特に「モデル就業規則」は労働者側に有利な記述(休職期間が長い、退職金がある前提など)になっていることが多いため、自社の体力に合わせて修正(※法を下回らない範囲で)する必要があります。

次に、Word上で条文を修正していきます。
この際、以下の「リスク条項」について特に慎重に検討します。

  • 休職規定:メンタルヘルス不調による長期休職が増えています。
    中小企業の場合、休職期間を「3ヶ月〜6ヶ月」程度とし、勤続年数に応じて期間を変える設計が推奨されます。
    また、「休職期間満了時に治癒していない場合は、自然退職とする」という規定を必ず入れます。これがないと、解雇手続きが必要になりトラブルの元です。
  • 副業・兼業:厚労省は推進していますが、無制限に認めると過重労働による労災リスク(本業と副業の労働時間は通算される)が生じます。
    「許可制」または「届出制」とし、労務提供に支障がある場合は禁止できる根拠を残します。
  • ソーシャルメディア規定:従業員がSNSで会社の悪口を書いたり、機密情報を漏洩したりするリスクに対し、具体的な禁止事項と懲戒対象であることを明記します。
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ステップ3:労働者代表の選出と意見書の作成

法律は、就業規則の作成・変更にあたり、労働者の代表から「意見を聴く」ことを義務付けています。

これは非常に厳格なプロセスが求められます。

管理監督者ではない「過半数代表者」を民主的手続き(投票・挙手)で選ぶ重要性

労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者を選出します。
この代表者は、労働基準法上の「管理監督者(部長や工場長など)」であってはなりません。

また、選出方法は投票や挙手など民主的な方法である必要があり、会社が指名することはできません。

  1. 過半数代表者の選出:
    • 事業場に労働者の過半数で組織される労働組合がある場合はその組合。
    • ない場合は、「労働者の過半数を代表する者」を選出します。
    • 重要: 管理監督者(部長や工場長など労基法上の管理職)は代表者になれません。
    • 選出方法: 挙手、投票、回覧による信任など、民主的な手続きが必要です。
      「社長が指名」「親睦会の幹事が自動的に就任」などは無効とされ、就業規則自体の効力が否定される判例もあります。
    • パート・アルバイトの扱い: 分母となる「労働者」には、正社員だけでなく、パート、アルバイト、休職中の者も含まれます。
      これら全員の過半数の信任が必要です。
  2. 意見書の作成:
    • 作成した就業規則案を代表者に提示し、意見を求めます。
    • 代表者は「意見書」に署名・押印します。
    • 同意は不要: 法律は「意見を聴く」ことまでしか求めていません。
      仮に代表者が「反対」であっても、意見書に「反対である」と記載して提出すれば、手続きとしては完了し、就業規則は有効に成立します(不利益変更の場合は別論点)。
    • 意見書の様式は任意ですが、厚労省のテンプレート等が利用可能です。

会社指名は無効となるリスク

会社が特定の従業員を指名(「君がやって」)したり、社員親睦会の幹事を自動的に代表者にしたりするケースは、民主的な選出とは認められず無効となります。
実際に、親睦会代表者が自動的に過半数代表者となった事案で、協定の効力が否定された判例トーコロ事件など)が存在します。 

選出が無効と判断されると、その代表者が関与した就業規則の意見聴取や36協定の締結自体も「無効」となります。

結果として、36協定がない状態で残業をさせていたことになり、労働基準法違反(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)を問われるほか、民事訴訟においても「適法な残業命令権がない」として会社側が圧倒的に不利な立場に追い込まれる重大な経営リスクとなります。   

【参考リンク】

ステップ4:労働基準監督署への届出(原本・写し・意見書)

完成した就業規則と意見書をセットにして、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。

方法A:窓口持参・郵送

  • 就業規則(本則+賃金規程など)2部
  • 意見書 2部
  • (変更の場合)就業規則変更届 2部

これらを持参し、受付印をもらって1部を会社控えとして持ち帰ります。
郵送の場合は返信用封筒を同封します。

方法B:電子申請(e-Gov)

近年はe-Govを利用した電子申請が推奨されています。

  1. 準備: e-Govアカウント(GビズID等)と、就業規則・意見書の電子ファイル(PDF、Word等)。
  2. 作成: e-Govの「手続検索」から「就業規則(変更)届」を選択し、申請書を作成します。
  3. 添付: 意見書や就業規則ファイルをアップロードします。
  4. 送信: 電子署名を付して送信します。公文書(受付印付きの控えに相当)も電子的に発行されます。

ステップ5:従業員への周知徹底(法的効力の発生要件)

届出が終わっても、金庫にしまっておいては効力が発生しません。
労働契約法および判例により、「労働者に周知させていること」が就業規則の効力発生要件とされています。

  • 周知の方法:
    • 常時各作業場の見やすい場所への掲示、または備え付け。
    • 書面での交付。
    • 社内イントラネット、共有フォルダ等に保存し、従業員がいつでも閲覧できる状態にする。
  • リスク: 周知されていない就業規則に基づいて行った懲戒解雇は、裁判で「無効」とされます(フジ興産事件など)。
    「見たいと言えば見せる」という状態では不十分であり、「いつでも見られる」状態が必要です。
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雛形(テンプレート)をそのまま使う際の実務リスク

汎用的なテンプレートは「最大公約数」的な内容であり、個別具体的なリスクには対応していません。

ここでは、特に法規制が強化されている「運送・物流業」「建設業」「IT業界」について詳しく説明します。

業種ごとの特殊事情が反映されていない

運送・物流業:2024年問題(拘束時間、休息期間)への対応不足

2024年4月から適用された「改善基準告示」により、トラック運転者等の拘束時間(原則月284時間以内)や休息期間(継続11時間以上推奨)が厳格化されました。

古いテンプレートではこの規制に対応しておらず、そのまま運用すると労働基準法違反および是正勧告の対象となります。

建設業:現場への移動時間の扱いや、天候による休業補償の規定

2024年4月から、自動車運転業務に対して時間外労働の上限規制(年960時間)が適用され、同時に「改善基準告示」も改正されました。
これに伴い、運送業の就業規則は抜本的な見直しが必要です。

拘束時間と休息期間の厳格化

トラック運転手等の労働条件は、「労働時間」だけでなく「拘束時間(労働時間+休憩時間)」で管理されます。

スクロールできます
項目旧基準(〜2024.3)新基準(2024.4〜)就業規則への反映ポイント
1年の拘束時間原則3,516時間原則3,300時間(最大3,400時間)変形労働時間制の協定届と整合性を取る記述が必須。
1ヶ月の拘束時間原則293時間原則284時間(最大310時間)月ごとのシフト作成ルールを厳格化。
1日の休息期間継続8時間以上継続11時間以上を基本(下限9時間)「勤務終了後、次の始業までに最低9時間のインターバルを設ける」旨の規定。

これらの基準は法律(告示)で決まっているため、就業規則がこれに違反している(または古いまま)だと、是正勧告の対象となります。

また、万が一過労死等が発生した場合、基準違反は会社側の重過失とみなされ、巨額の損害賠償責任を負います。

移動時間の労働時間性と直行直帰

建設業特有の課題として、「現場までの移動時間は労働時間か?」という問題があります。

判例(総設事件など)によれば、移動時間が労働時間と認められる要素は以下の通りです。

  • 会社の指示で一度事務所等に集合しなければならない。
  • 移動中に資材の積み込みや、当日の打ち合わせを行っている。
  • 会社代表者が運転する車両に同乗し、指揮命令下にある。
  • 現場への直行直帰が事実上認められていない。

これらに該当する場合、移動時間は「労働時間」となり、残業代の対象となります。

就業規則では、リスク回避のために以下の規定を整備する必要があります。

  • 直行直帰の原則:「業務の性質上可能な限り直行直帰を原則とする」と明記。
  • 移動の自由度:「会社車両への同乗は便宜的なものであり、強制ではない」「移動中は自由時間である(睡眠や読書可)」といった実態を作り、規定する。
  • 手当での解決:移動時間が労働時間とみなされるリスクを考慮し、「運転手当」や「現場手当」を設け、万が一の未払い賃金請求に対する充当合意を結んでおく。

IT・テレワーク:情報セキュリティ、デバイス私的利用、副業規定の甘さ

デスクワーク中心で裁量性が高いIT業界では、メンタルヘルス不調と労働時間管理が課題です。

テレワーク規定

テレワークを導入する場合、通常の就業規則とは別に「テレワーク勤務規程」を作成するか、就業規則本則に章を追加する必要があります。

  • 労働時間の把握:「始業・終業時にチャットやメールで報告する」「勤怠管理ツールで打刻する」等のルール化。
  • 費用負担:通信費や光熱費を誰が負担するか。
    一般的には「在宅勤務手当」として月額数千円を支給し、実費精算の手間を省くケースが多いです。
  • 中抜け時間:私用(育児や通院)による中抜け時間の扱い(休憩とするか、時間単位有給とするか、終業を後ろ倒しするか)。

メンタルヘルス不調と休職・復職

ITエンジニア等は特定技術への依存度が高く、代替が効きにくい一方で、高ストレスによる離脱も多い傾向にあります。

  • 復職の定義:単に「病気が治った」だけでなく、「従前の業務を通常の程度に行える状態に回復したこと」を復職の要件と定義します。
  • リハビリ出勤:正式復職前に、短時間勤務や軽作業を行う「試し出勤制度」を規定し、スモールステップでの復帰を支援する仕組みを整えます。

労働者に「有利すぎる」規定による経営圧迫

厚生労働省が公開しているモデル就業規則は、労働者保護の観点から非常に手厚い内容となっており、実質的に「大企業向け」の基準で書かれています。

資金力や人員に余裕のない中小企業が、内容を吟味せずにこれをそのまま採用すると、自社の体力に見合わない重い債務(退職金や社会保険料負担など)を背負い込むことになり、経営そのものを圧迫するリスクがあります。   

休職期間の長さや、退職金規定がモデル規則のままだと中小企業には重荷になるケース

モデル就業規則では、休職期間が「1年6ヶ月」など長期間に設定されている場合があります。
これは実質的に企業体力のある「大企業向け」と言えます。

中小企業で長期間人員を補充できずに籍だけ残すのは経営上の大きな負担です。
実態に合わせて「3ヶ月〜6ヶ月」程度に調整するなどの検討が必要です。

法改正の未反映による「無自覚な違法状態」

インターネット上で入手できる無料テンプレートの多くは、作成時点での法律に基づいているため、最新の法改正が反映されていません。

労働基準法や育児・介護休業法は頻繁に改正が行われており、数年前の雛形であっても、現在の法律には適合せず「違法」となっている可能性が極めて高いのが実情です。   

有給休暇の年5回取得義務化や、育児介護休業法の改正漏れ

「年5日の有給休暇取得義務」や、2025年4月からの改正育児介護休業法(残業免除対象の拡大など)は、古い雛形には反映されていません。

これらを無視した規定は無効であり、トラブルの元凶となります。

社労士に依頼すべきケース

助成金申請を視野に入れている場合

助成金の受給には、就業規則が最新の法令に適合していることだけでなく、各助成金の支給要件(「正社員」の定義や賃金規定など)を厳密に満たしていることが求められます。

自作の就業規則ではこの「要件の適合性」が欠けてしまいがちで、申請段階になって初めて「就業規則の不備」を理由に不支給が確定するケースが後を絶ちません。

キャリアアップ助成金などは就業規則の厳格な文言が審査対象となる

キャリアアップ助成金(正社員化コース)では、「昇給」および「賞与または退職金」の制度が正社員に適用されていることが支給要件です。

社労士:野澤惇

曖昧な「原則として支給する」といった表現では不支給となるケースが多発しており、一言一句の正確性が数百万円の受給可否を分けます。

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トラブル予防と「会社を守る」規定を作りたい場合

「会社を守る」就業規則とは、単に法律をなぞったものではなく、モンスター社員やメンタルヘルス不調といった現代的な労務リスクから企業を防衛するための戦略的な規定です。

ネット上の雛形は「労働者保護」の色彩が強く、会社側が懲戒処分や休職命令を下す際の根拠条項が欠落しているケースが大半です。

いざトラブルになった際に「規定がないので処分できない」という事態を避けるため、専門家によるオーダーメイドの条文設計が不可欠です。

問題社員への懲戒処分や、メンタルヘルス不調時の休職・復職フローの整備

問題社員を解雇・懲戒するには、就業規則に具体的かつ限定列挙された事由が必要です。

また、メンタルヘルス不調者の復職判定において「医師の診断書だけでなく会社指定医の受診を命じる」といった規定を入れておかないと、完治していない状態での復職を拒否できなくなるリスクがあります。

「自分で作成」から「プロ仕様」へ:最終品質チェックリスト

ここまで読み進めて、「やはり自分で作成するのはリスクが高い」と感じた方は、専門家への依頼を検討してください。

しかし、予算等の事情でどうしても自作せざるを得ない場合は、以下のチェックリストを用いて、作成した就業規則のクオリティを向上させましょう。

1. 形式・必須項目の完全性チェック

2. リスク回避条項のチェック

3. 賃金・労働時間の実効性チェック

4. 助成金・法改正対応チェック


【Q&A】就業規則の自作に関するよくある質問

従業員が10人未満でも作成したほうがいいですか

義務はないが、助成金申請やトラブル防止のために作成を強く推奨します。

法律上の作成義務はありませんが、助成金の受給要件となることが多く、また、少人数であっても解雇や残業代のトラブルは発生するため、リスク回避の観点から作成を強く推奨します。   

古い就業規則をそのまま使い続けても有効ですか

法改正により一部無効となる可能性があるため、定期的な見直しが必要です。

法律に違反する部分は自動的に無効となり、法律の基準が適用されます。

古い規定を放置することは、会社が誤った運用を続ける原因となり、未払い賃金等のリスクを増大させます。

変更した場合も届出は必要ですか

作成時と同様に、意見書を添付して労基署への届出が必要です。

就業規則の一部でも変更した場合は、新規作成時と同様に労働者代表の意見書を添付し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。


まとめ:自作は「学習」には良いが「リスクヘッジ」なら専門家へ

本記事のまとめ
  • 就業規則の自作は可能だが、法改正への対応や実態との整合性を取る難易度が高い。
  • 無料テンプレートの安易な利用は、未払い残業代や解雇無効などの経営リスクを招く。
  • 2024年問題や助成金要件など、専門知識がないと対応できない落とし穴が多い。
  • コスト削減よりも「会社を守る防波堤」としての機能を重視するなら専門家への依頼が安全。
  • 自作する場合は、労働者代表の選出や周知など、民主的・法的手続きを厳守すること。

就業規則の作成を専門家(社会保険労務士)に依頼する場合、相場として20万円〜50万円程度の費用がかかります。

しかし、この費用は単なる事務代行費ではありません。

  • 数百万の助成金を受給できる可能性を生み出す投資(キャリアアップ助成金だけで1人あたり最大80万円※生産性要件等含む)。
  • 数百万〜一千万の未払い残業代リスクや不当解雇訴訟リスクを回避する保険
  • 従業員が安心して働ける環境を整備し、生産性を向上させるための基盤投資

このように考えれば、専門家への依頼費用は十分にペイする(元が取れる)投資と言えます。

特に、以下のいずれかに該当する企業は、自作のリスクが極めて高いため、専門家の依頼を推奨します。

  • 従業員が10名を超え、組織化が進んでいる企業
  • 助成金の活用を積極的に考えている企業
  • 変形労働時間制やシフト制など、複雑な勤務体系を採用している企業
  • 過去に労務トラブルを経験したことがある、または予感がある企業

本記事を参考に、貴社の実態に即した、会社と社員を守れる「強い就業規則」を整備してください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士
就業規則作成・労務監査・労務DD等の人事労務のコンサルティング領域を得意とする。前職の戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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