【社労士解説】月の途中で入社した社員の社会保険料、いつから引く?計算ミスを防ぐポイント

月の途中で社員が入社した時、「社会保険料は日割り?」「いつの給与から引くの?」と悩んでいませんか。特に月末入社の場合、従業員から「数日しか働いていないのに、なぜ1ヶ月分の保険料が引かれるのか」と質問され、明確に答えられないと、会社の信頼に関わることもあります。

この記事では、人事担当者が抱える社会保険料の疑問、特に「なぜ満額かかるのか」という核心に絞って専門家が解説します。社会保険手続きにお悩みの際は、社労士事務所altruloopにご相談ください。

目次

結論:月の途中入社でも社会保険料は1ヶ月分【日割り計算なし】

社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)は、月の途中で入社した場合でも日割り計算されません。たとえ月の最終日である31日に入社したとしても、その月の1ヶ月分の保険料が満額かかるのが原則です。  

これは、社会保険制度が月単位で運営されているためです。日々変動する加入状況に合わせて日割り計算を行うことは、企業にとっても、保険を運営する日本年金機構や健康保険組合にとっても、事務処理が非常に煩雑になります。月単位での計算は、このような事務負担を軽減し、制度全体の効率的な運営を支えるための仕組みと言えます。

なお、雇用保険料は実際に支払われた賃金に基づいて計算されるため、社会保険料とは考え方が異なりますが、この記事では健康保険・厚生年金・介護保険の社会保険料について主に解説します。  

理由は「資格取得日」にあり

社会保険料が日割りにならない理由は、保険料の発生が**「資格取得日」**という基準日に基づいているためです。 原則として、従業員を雇用した日(入社日)が社会保険の「資格取得日」となります。  

そして、この資格取得日が含まれる月から、被保険者としての資格が発生し、保険料の納付義務が生じます。 つまり、その月に1日でも資格取得者として在籍していれば、その月分の保険料がかかる、という考え方です。これが、「日割り計算がない」ことの直接的な理由です。重要なのは「何日間勤務したか」ではなく、「その月に被保険者資格があったか」という点になります。  

月末31日に入社しても保険料は満額発生する

例えば、3月31日に入社した場合、資格取得日は3月31日です。したがって、3月が社会保険料の発生する最初の月となり、3月分の社会保険料が1ヶ月分満額で発生します。  

従業員にとっては、特に月末近くの入社の場合、「数日しか勤務していないのに1ヶ月分は納得がいかない」と感じやすいポイントです。そのため、企業の人事担当者としては、入社手続きの際や最初の給与明細を渡す前に、この仕組みを丁寧に説明し、理解を求めることが重要です。

従業員への説明ポイント例

「社会保険制度では、月の途中でご入社された場合でも、入社された月の1ヶ月分の保険料をお支払いいただくことになっています。これは、入社日がその月の保険の資格を得た日となり、その月全体が保険期間として扱われるためです。日割り計算とはならない国の制度ですので、ご了承ください。」

逆に入社月の月末に退職した場合はどうなる?

では、月の途中、例えば4月15日に入社し、その月の末日である4月30日に退職した場合はどうなるでしょうか。

この場合、資格取得日は4月15日です。退職日は4月30日ですが、社会保険の資格を失う日(資格喪失日)は、退職日の翌日である5月1日となります。  

社会保険料は、資格喪失日が含まれる月の前月分まで納付義務があります。このケースでは資格喪失日が5月1日なので、その前月である4月分の保険料までが発生します。つまり、4月に入社し4月末に退職した場合でも、4月分の社会保険料は1ヶ月分納める必要があるのです。 この「資格喪失日」がいつになるかが、保険料の負担期間を決定する上で非常に重要なポイントとなります。  

社会保険料は、いつの給与から天引き(控除)するのか?

月の途中入社の場合、社会保険料がいつの給与から天引き(控除)されるのかは、人事担当者にとって正確に把握しておくべき重要な実務です。控除のタイミングは、主に会社の給与計算の締め日・支払日と、採用している控除方法によって決まります。  

原則は「翌月控除」

多くの企業で採用されているのが**「翌月控除」**という方法です。これは、当月分の社会保険料を、翌月に支払われる給与から控除する方式です。  

例えば、4月分の社会保険料は、5月に支払われる給与から控除されます。

  • 例1:月末締め・翌月10日払いの場合 4月1日に入社した社員の4月分の社会保険料は、5月10日に支払われる給与から控除します。
  • 例2:20日締め・当月25日払いの場合 4月1日に入社した社員の4月分の社会保険料は、4月25日の給与ではなく、翌月の5月25日に支払われる給与から控除します。  

入社した月の給与からは社会保険料が引かれず、翌月の給与から初めて引かれるため、新入社員にとっては「なぜ最初の給与で引かれないのか」「なぜ翌月に引かれるのか」という疑問が生じやすいポイントです。企業は、入社手続きや給与計算の仕組みを説明する際に、この控除タイミングの「ずれ」についても明確に伝える必要があります。これは、会社が新入社員の社会保険加入手続きを行い、保険料額が確定するまでに一定の時間を要するため、実務上の運用として合理的だからです。

「当月控除」を採用している会社もある

少数派ではありますが、「当月控除」を採用している企業もあります。これは、当月分の社会保険料を、当月中に支払われる給与から控除する方式です。  

例:20日締め・当月25日払いの場合 4月1日に入社した社員の4月分の社会保険料は、4月25日に支払われる給与から控除します。

ただし、この当月控除には注意点があります。例えば、給与計算の締め日(例:4月20日)後に入社し、その月の給与支払日(例:4月25日)までに入社した場合(例:4月22日入社)、その月の給与計算に間に合わず、4月分の保険料を4月の給与から控除できないことがあります。このような場合、翌月の給与(5月25日支給)から、4月分と5月分の2ヶ月分の社会保険料をまとめて控除することになる可能性があります。 従業員にとっては一度に2ヶ月分の負担となるため、事前に丁寧な説明が不可欠です。当月控除を採用している場合は、特に新入社員の入社日と給与計算サイクルの関係を慎重に確認する必要があります。  

自社の控除タイミングを確認する方法

自社がどちらの控除方法を採用しているか、また具体的な控除タイミングを正確に把握するためには、以下の方法で確認しましょう。

  • 就業規則や給与規程を確認する:社会保険料の控除に関する記載があるか確認します。
  • 先輩社員や給与計算担当者に確認する:過去の運用実績や社内ルールを把握している担当者に聞くのが確実です。
  • 過去の給与明細を確認する:過去に入社した社員の給与明細で、いつから社会保険料が控除されているかパターンを確認します。

いずれの方法であっても、社内で一貫した取り扱いをすることが重要です。

社会保険料の控除タイミング:給与計算期間と支払日に応じた具体例

入社月給与計算期間の例給与支払日の例控除方法初回保険料控除が行われる給与月控除対象保険料
4月4月1日~4月30日(末日締め)5月10日(翌月10日払い)翌月控除5月支給給与4月分保険料
4月3月21日~4月20日(20日締め)4月25日(当月25日払い)翌月控除5月支給給与4月分保険料
4月3月21日~4月20日(20日締め)4月25日(当月25日払い)当月控除4月支給給与4月分保険料
4月(4月22日入社)3月21日~4月20日(20日締め)4月25日(当月25日払い)当月控除5月支給給与4月分と5月分の保険料(※)

(※)4月22日入社の場合、4月25日支給の給与計算に間に合わないため、5月給与から4月分と5月分をまとめて控除するケースや、4月分の給与が保険料より少ない場合は別途調整が必要になることがあります。

月をまたいだ入社・退職時に注意すべきポイント

入社や退職が月をまたぐ場合、社会保険料の取り扱いには特に注意が必要です。人事担当者が間違いやすいポイントや、従業員への説明が求められるケースを解説します。

月末退職と月中退職:社会保険料の扱いの違いと従業員への影響

退職時の社会保険料は、資格喪失日(退職日の翌日)が含まれる月の前月分まで発生します。この原則を理解することが重要です。  

  • 月中退職の場合 例えば、4月15日に退職した場合、資格喪失日は4月16日です。資格喪失日が4月にあるため、社会保険料は3月分まで発生し、4月分の保険料はかかりません。  
  • 月末退職の場合 例えば、4月30日に退職した場合、資格喪失日は翌日の5月1日です。資格喪失日が5月にあるため、社会保険料は4月分まで発生します。  

このように、退職日が月の末日か、それより1日でも前かによって、1ヶ月分の社会保険料の負担が変わってきます。従業員が退職日を検討する際には、この違いが本人負担額に影響することを伝えておくと、後のトラブルを避けやすくなります。特に、退職後に国民健康保険に加入する場合や、家族の扶養に入る場合など、退職後の保険料負担にも関わってくるため、丁寧な情報提供が望まれます。  

月末退職の従業員への説明ポイント例

「退職日が4月30日ですので、社会保険の資格は4月30日まで継続し、翌日の5月1日が資格喪失日となります。そのため、制度上4月分の社会保険料までご負担いただくことになります。」

退職手続きに関する詳細はこちらの記事もご確認ください。

同月得喪とは?入社月に退職した場合の特例と注意点

同月得喪(どうげつとくそう)とは、社会保険の資格取得日(入社日など)と資格喪失日(退職日の翌日など)が同じ月内にある場合を指します。  

  • 例:4月10日に入社し、4月20日に退職した場合(資格喪失日は4月21日)。これは同月得喪に該当します。
  • 注意点:月の末日に退職した場合は、資格喪失日が翌月1日となるため、同月得喪には該当しません。  

同月得喪の場合、社会保険料の取り扱いは以下のようになります。

同月得喪の場合の社保の取り扱い

  • 健康保険料・介護保険料: 1ヶ月分の保険料が徴収されます。還付の仕組みはありません。  
  • 厚生年金保険料: 原則として1ヶ月分の保険料が徴収されます。 ただし、その同じ月内に、従業員が国民年金(第1号被保険者)に加入したり、別の会社で厚生年金保険の被保険者資格を取得したりした場合は、先に徴収された厚生年金保険料が後日還付されます。 この場合、会社は日本年金機構からの通知に基づき、本人負担分を従業員へ返金する手続きが必要です。これは、年金保険料の二重払いを防ぐための措置です。  

同月得喪の場合、勤務日数が少なく給与額も低いことが想定されます。1ヶ月分の社会保険料が給与額を上回ってしまう場合は、不足分を別途従業員から徴収する必要が生じることもあります。 このようなケースでは、退職前に従業員へ状況を説明し、徴収方法について合意を得ておくことが重要です。  

同月得喪の従業員への説明ポイント例(保険料徴収時)

「ご勤務期間が短かったのですが、社会保険制度のルールにより、入社された月の1ヶ月分の健康保険料と厚生年金保険料をご負担いただくことになります。厚生年金保険料については、もし今月中に国民年金にご加入されたり、次のお勤め先で社会保険に加入されたりした場合には、後日、今回お預かりした保険料が戻ってくることがあります。その際は改めてご連絡いたします。」

従業員への説明トーク例:なぜ数日の勤務で1ヶ月分の保険料が引かれるのか?

月末近くに入社した従業員から、給与明細を見て「なぜ数日しか働いていないのに1ヶ月分の保険料が引かれているのか」と質問されることは少なくありません。このような場合の具体的な説明トーク例をご紹介します。

人事担当者: 「田中さん、給与明細の社会保険料についてですね。3月は数日間のご勤務だったのに、1ヶ月分の保険料が引かれているのはなぜか、というご質問ですね。ごもっともな疑問だと思います。」

人事担当者: 「実は、社会保険料(健康保険や厚生年金など)は、法律で日割り計算がされないルールになっているんです。月の途中で入社された場合でも、その月の1ヶ月分の保険料がかかります。」  

人事担当者: 「これは、田中さんの社会保険の『資格を取得した日』が3月29日となり、3月分の保険料が発生するためです。そして、月末(3月31日)にも在籍していらっしゃったので、3月分の納付義務が生じる、という仕組みです。」  

人事担当者: 「この保険料をお支払いいただくことで、3月29日から健康保険証が使えたり、年金の加入期間としてカウントされたりと、保障は入社日から適用されていますのでご安心ください。」

人事担当者: 「この扱いは、弊社独自のルールではなく、日本全国どの会社でも同じように適用される国の制度です。」

人事担当者: 「もし他に分かりにくい点があれば、遠慮なくおっしゃってください。」

このように、従業員の疑問に共感を示しつつ、制度のルールとその理由、そして従業員が得られる保障について丁寧に説明することが、信頼関係を損なわないための鍵となります。

よくある質問

月の途中入社と社会保険料に関して、人事担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 入社してすぐ退職した場合も社会保険料はかかりますか?

A. はい、原則としてかかります。社会保険の資格を取得した月(入社月)に退職した場合でも、その月の社会保険料1ヶ月分を納める必要があります。これを「同月得喪」と言います。ただし、厚生年金保険料については、同月内に国民年金や別の会社の厚生年金に加入した場合など、一定の条件を満たせば後日還付されることがあります。健康保険料は還付されません。  

Q. 賞与(ボーナス)からも社会保険料は引かれますか?

A. はい、賞与(ボーナス)も社会保険料の対象となります。毎月の給与から引かれる保険料と同様に、支給される賞与の額に応じて計算された健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上の場合)が控除されます。ただし、年4回以上支給される賞与は、給与(標準報酬月額の対象)として扱われる場合があります。 賞与計算や役員報酬に関する社会保険料については、こちらの記事も参考になるかもしれません。  

Q. 同月内に2つの会社で被保険者資格を取得した場合はどうなりますか?

A. 健康保険については、原則として主たる勤務先を選択し、そこで加入します。保険料が重複してかかることは通常ありません。厚生年金保険については、両方の会社で被保険者となり、それぞれの会社で支払われた給与・賞与に応じて保険料を按分して納付するために「二以上事業所勤務届」という手続きが必要になります。詳細な手続きについては、管轄の年金事務所にご確認ください。

Q. 試用期間中でも社会保険の加入は必要ですか?

A. はい、試用期間中であっても、社会保険の加入条件(週の所定労働時間や雇用契約期間など、当初の雇用契約が2ヶ月を超える見込みであることなど)を満たしていれば、原則として入社初日から加入義務があります。試用期間は通常、本採用を前提とした雇用契約期間の一部と見なされるためです。「試用期間だから加入しなくてよい」ということはありませんのでご注意ください。  

まとめ

今回は、月の途中入社における社会保険料の取り扱いについて、特に人事担当者がつまずきやすいポイントに絞って解説しました。

重要なポイントは以下の通りです。

この記事のまとめ

  • 月の途中で入社した場合でも、社会保険料は日割り計算されず、1ヶ月分が発生します。これは、入社日(資格取得日)が属する月から保険料の納付義務が生じ、その月の末日に在籍している場合に確定するためです。  
  • 社会保険料を給与から控除するタイミングは、原則として「翌月控除」ですが、企業によっては「当月控除」を採用している場合もあります。自社のルールを正確に把握することが不可欠です。  
  • 月末に退職した場合は、退職月分の社会保険料が発生します。一方、月の途中で退職した場合は、退職月分の社会保険料は発生しません(資格喪失日が属する月の前月分まで)。  
  • 入社した月に退職する「同月得喪」の場合でも、原則1ヶ月分の保険料(健康保険・厚生年金)が発生しますが、厚生年金保険料については一定条件下で還付されることがあります。  

これらのルールを正しく理解し、従業員へ丁寧に説明することが、給与計算のミスを防ぎ、労務トラブルを未然に防ぐための鍵となります。 給与計算業務全般でお困りの場合は、当事務所の給与計算サポートサービスもご検討ください。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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