YouTubeやネット記事で「民間の医療保険はいらない」という意見を見かけ、鵜呑みにして万が一のときに後悔しないか不安を感じる方は少なくありません。確かに日本の公的医療保険は優秀で、すべての人に手厚い民間保険が必要なわけではありません。しかし我々士業の実務現場では、無保険のまま重病に倒れ、経済的に困窮して後悔するケースを数多く目の当たりにしています。
公的制度には「全額をカバーできない」「支給までにタイムラグがある」という実務上の落とし穴があります。この記事では、医療保険が不要と言われる理由や、入らないと後悔する人の特徴をプロの視点から徹底解説します。ご自身の現在の貯蓄額や家族構成、働き方に照らし合わせ、医療保険に入るべきか判断するための材料としてお役立てください。
- 「医療保険は不要」と言われる根拠となる公的制度の具体的な仕組み
- 医療保険に入ってない世間の割合と年代別のリアルな加入状況
- 医療保険に入らずに後悔する代表的な3つのケース
- 自分の働き方や貯蓄において、医療保険が必要かどうかの判断基準
- 実務家目線で語る、公的保険の申請手続きに潜む落とし穴と対策

【西山 尚志 | ファイナンシャルプランナー】
株式会社altruloopフィナンシャルパートナーズ マネージャー
個人・法人保険及びファイナンシャルプランナーとして、個人のライフプランニングから法人の経営課題解決まで、多角的な視点でトータルサポートを提供している。保険商品の販売にとどまらず、保険募集人として、高度な専門性と倫理観を持ち、客観的かつ公正な立場から、顧客の最善の利益を追求する。
「医療保険はいらない」と言われる3つの理由
「医療保険はいらない」と言われる背景には、日本の充実した公的医療保険制度と自己資金による備えという考え方があります。代表的な3つの根拠を解説します。
高額療養費制度で医療費の自己負担には上限がある

公的保険の「高額療養費制度」を利用すれば、月々の自己負担額に上限が設けられるため、医療費が青天井に膨らむ心配はありません。
具体的にいくら負担するかは、年収(所得区分)に応じて以下の表のように決定されます。例えば、年収約370万〜770万円の方が医療費100万円の治療を受けた場合、3割負担(30万円)のうち約21.3万円が還元され、最終的な自己負担は約8.7万円に収まります。
| 所得区分(70歳未満) | ひと月の上限額の計算式 |
|---|---|
| 年収約1,160万円〜 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万〜1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万〜770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 |
ただし、医療費の増大を背景に制度は見直され続けています。令和8年(2026年)8月以降は所得区分が細分化されるなど、高所得層を中心に負担増の方向へシフトしている点には注意が必要です。
会社員には休業中の収入を補償する傷病手当金がある
会社員などの健康保険加入者は、病気やケガで連続4日以上働けなくなった場合、最長1年6か月にわたり「傷病手当金」を受け取れます。
- 支給額の目安直近の給料の約3分の2が補償されます(例:平均月収30万円の場合、月約20万円)。
この手厚い公的補償があるため、就業不能保険などの医療保険に入る必要性は低くなります。
一定の貯蓄があれば万が一の医療費はカバーできる
高額療養費制度を前提とすれば、医療費は貯蓄で十分にカバー可能です。直近の入院における自己負担費用の平均は約18.7万円(1日平均約2.4万円)にとどまります。
| 傷病名 | 1入院あたりの医療費総額 | 自己負担の目安(3割負担時) |
|---|---|---|
| 急性心筋梗塞 | 約2,027,700円 | 約608,300円 |
| 脳梗塞 | 約1,829,600円 | 約548,800円 |
| 気管支・肺の悪性新生物 | 約863,600円 | 約259,000円 |
| 胃の悪性新生物 | 約1,034,600円 | 約310,400円 |
脳梗塞などの重病でも高額療養費制度を使えば自己負担は数十万円に収まります。生活費の半年分に加えて100万〜200万円程度の貯蓄があれば、毎月保険料を払うよりも自己資金で対応する方が合理的です。
医療保険に入ってない割合と実際の加入率データ
「世間の人々は実際どれくらい医療保険に入っているのか」と疑問を持つ方も多いはずです。公的な統計データから、加入状況のリアルな実態を把握できます。
生命保険文化センターの「令和4年度 生活保障に関する調査」によれば、疾病入院給付金が支払われる生命保険(医療保険)の全体加入率は65.7%となっています。
このデータを年代別に見ると、ライフステージに応じた明確な傾向が浮かび上がります。
| 年代 | 医療保険の加入率 |
|---|---|
| 20代 | 40.3% |
| 30代 | 70.4% |
| 40代 | 75.6% |
| 50代 | 74.7% |
| 60代 | 88.7% |
20代の加入率は約40%にとどまっており、半数以上が無保険の状態です。若年層は病気のリスク自体が低く、経済的な余裕も少ないことが主な理由です。しかし、30代になると加入率は約70%へと急激に上昇します12。
これは結婚や子どもの誕生を機に、「自分が倒れたら家族の生活が立ち行かなくなる」という責任感が芽生えるためです。その後、年齢を重ねて健康リスクが高まるにつれ加入率は上がり、60代では約88%もの人が備えを固めているのが現実です。
医療保険に入らないと後悔するよくあるケース
理論上は「公的保険と貯蓄で十分」でも、現実には計算通りにいかないことが多々あります。ここでは、医療保険に入らず後悔しがちな3つのケースを解説します。
貯蓄が少ないタイミングで長期入院・手術となった
貯蓄が十分にない時期(20代や住宅購入直後など)に重病にかかると、高額療養費制度を使っても毎月数万〜10万円弱の自己負担が続き、家計が苦しくなります。
貯蓄が50万円しかない状態でがん治療により3か月入退院を繰り返した場合、医療費だけで資金が底を突き、生活費のために借金に頼らざるを得なくなります。
差額ベッド代や先進医療を希望した
公的保険の対象外となる費用は全額自己負担となり、高額療養費制度も適用されません。
- 先進医療の技術料:がんの陽子線治療(約278万円)や重粒子線治療(約314万円)は全額自己負担です。特約がないと経済的理由で治療を断念するケースもあります。
- 差額ベッド代・食事代:個室(平均8,625円/日)に1か月入院するとベッド代だけで約25万円が発生。1食510円の食事代も別途かかります。
| 部屋タイプ | 1日あたりの平均徴収額 |
|---|---|
| 1人部屋(個室) | 8,625円 |
| 2人部屋 | 3,149円 |
| 3人部屋 | 2,780円 |
| 4人部屋 | 2,724円 |
1か月の入院で個室を利用すれば、差額ベッド代だけで約25万円の手出しが発生します。また、入院中の食事代(入院時食事療養費)も自己負担であり、令和7年(2025年)4月以降は1食あたり510円へと引き上げられ、負担が増加しています。
さらに、最先端のがん治療など「先進医療」を選択した場合の費用負担は絶望的です。陽子線治療の技術料は約278万円、重粒子線治療は約314万円という莫大な費用がかかります。医療保険の先進医療特約に加入していなければ、経済的な理由で最善と思われる治療法を諦めるしかありません。
自営業・フリーランスで休業中の収入が完全に途絶えた
国民健康保険には「傷病手当金」がないため、病気やケガで働けなくなると収入が即座にゼロになります。
- 具体例:1か月休業した場合、医療費(20万円)の支払いに加え、見込んでいた月収(30万円)も途絶えるため、実質50万円のマイナスとなります。民間保険での補填がないと生活自体が成り立ちません。
結論、医療保険は必要か?不要な人と入るべき人の特徴
これまでの解説を踏まえ、結局のところ医療保険に入るべきか白黒はっきりさせます。万人に共通する正解はなく、ご自身の属性によって結論は異なります。
医療保険がいらない人・入らない方がいい人の特徴
以下の条件に当てはまる方は、民間の医療保険に加入する必要性は低く、無理に入らない方がいい人です。
- 手元に十分な流動資産(貯蓄)がある人
生活費6か月分+医療費予備(150万〜200万円)の現金をすぐ動かせれば、自己資金で十分にカバー可能です。 - 充実した福利厚生がある会社員・公務員
健康保険組合の「付加給付」により毎月の自己負担が2万〜3万円程度に抑えられる大企業社員などは、必要性が大きく下がります。 - 扶養する家族がいない単身者
自分が一時的に働けなくなっても他人の生活に影響しないため、手厚い保障を備える必要はありません。
これらの特徴を持つ方は、毎月の保険料を支払う代わりに、その分をインデックス投資や貯蓄に回して資産形成を加速させる方が理にかなっています。
医療保険の必要性が高い人・入るべきかの判断基準
一方で、以下に該当する方は医療保険への加入を前向きに検討すべきです。医療保険必要性を強く認識し、備えを固めることが求められます。
- 貯蓄が少なく突発的な出費に耐えられない人
手元資金が100万円未満の方は、十分な貯蓄ができるまでの「つなぎ」として保険を活用すべきです。 - 自営業・フリーランス(国民健康保険加入者)
傷病手当金がなく休業が収入ゼロに直結するため、医療費と収入減の両方をカバーする備えが不可欠です。 - 家族を養う家計の主柱
自分が倒れた際の影響が甚大なため、治療中も家族の生活費を維持できるよう一時金などで資金を確保する必要があります。 - 先進医療など最新治療の選択肢を残したい人
全額自己負担(数百万〜)の技術料に不安がある方は、月数百円で付加できる「先進医療特約」目的での加入価値があります。
「公的保険だけで十分」に潜む実務上の落とし穴
制度上は公的保険でカバーできても、士業の実務現場では「給付までのタイムラグ」や「申請の手間」による資金ショートのリスクを数多く目にします。
高額療養費や傷病手当金は「後払い」のため一時的な手出しが発生する
高額療養費:事前に認定証を取得しないと窓口で3割負担となり、差額の還付まで約3か月かかります。
傷病手当金:申請から初回振込まで1〜2か月を要するため、給付までの間を無収入で耐える「魔の期間」が発生します。
病床での複雑な申請と「書類差し戻し」のリスク
公的制度は自分から申請しないと1円も受け取れません。体調不良の中で医師の意見書や会社証明を揃える必要があり、日付の記載ミスなどで書類が差し戻されると、給付がさらに数週間〜1か月遅れる恐れがあります。
働き方やライフプランに合わせた最適なリスクへの備え方とは
「要・不要」の二元論に惑わされず、以下の手順で不足している部分だけを民間保険で補うのが最も合理的な方法です。
- 現状の把握:自分が加入している社会保険の給付内容と、手元の貯蓄額・生活費を可視化する。
- 不足分の算出:「公的保障+貯蓄」でカバーしきれない医療費や休業中のリスクを特定する。
- ピンポイント補填:足りないリスクに対してのみ、民間の医療保険を活用する。
ネット上の一般的な情報だけで判断せず、実務に詳しい専門家に自身の状況を診断してもらうことが、無駄な保険料を削りつつ確実な安心を得る近道です。
良くある質問
医療保険を途中で解約しても後悔しませんか?
十分な貯蓄(150万円〜)があり、傷病手当金が出る会社員なら後悔する可能性は低いです。
ただし、差額ベッド代などは全額自己負担となり、解約後に持病ができると再加入しにくくなる点には注意が必要です。
高額療養費制度を使えば、病院で支払うお金は本当に数万円で済みますか?
いいえ、事前に手続きをしないと窓口で一旦3割負担分を全額払う必要があります。
払い戻しまで約3か月かかるほか、1食510円の食事代や差額ベッド代は制度の対象外のため手出しが発生します。
持病があっても医療保険に入り直すことはできますか?
可能ですが、条件が緩い保険は毎月の保険料が高くなる点に注意が必要です。
持病があっても入れる「引受基準緩和型」などの保険がありますが、一般的な保険より毎月の負担は大きくなります。
自営業やフリーランスは、医療保険にどれくらい入っておくべきですか?
傷病手当金がないため、医療費だけでなく働けない期間の生活費もカバーできる備えが必要です。
病気で収入が即ゼロになるリスクに備え、医療保険と併せて就業不能保険の活用や多めの預貯金確保をおすすめします。
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- 保険の見直し・新規加入まで無料サポート
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まとめ
- 高額療養費制度や傷病手当金など、公的保険の充実が「医療保険不要論」の最大の根拠である
- 医療保険の未加入割合は約34%だが、30代以降は責任感から加入率が70%以上に急増する
- 差額ベッド代や先進医療費は全額自己負担であり、長期療養時のキャッシュアウトは防げない
- 潤沢な貯蓄がある会社員には不要なケースが多いが、貯蓄の少ない人や自営業者には必須の備えとなる
- 公的制度は「後払い」や「煩雑な手続きによる遅延」という落とし穴があり、資金繰りには注意が必要である
医療保険の必要性は、世間の一般論ではなく、あなた自身の現在の経済状況と将来のライフプランによって決まります。本記事の判断基準を参考に、ご自身の備えが本当に適切な状態にあるか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。専門家の知見を活用し、後悔のない選択をされることをお勧めします。

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