確定拠出年金とは、毎月定額を自ら運用して将来受け取る年金制度です。強い税制優遇があり、退職金の代わりとして導入企業が急増しています。
本記事では厚生年金や退職金との違いから、社会保険料を削減できる「選択制DC」、就業規則の改定実務までプロが分かりやすく解説します。
- 確定拠出年金の仕組みと2つの種類
- 厚生年金や従来の退職金との決定的な違い
- 選択制DCのメリットと社会保険料への影響
- 自社導入の手順と必要な就業規則改定の実務

【西山 尚志 | ファイナンシャルプランナー】
株式会社altruloopフィナンシャルパートナーズ マネージャー
個人・法人保険及びファイナンシャルプランナーとして、個人のライフプランニングから法人の経営課題解決まで、多角的な視点でトータルサポートを提供している。保険商品の販売にとどまらず、保険募集人として、高度な専門性と倫理観を持ち、客観的かつ公正な立場から、顧客の最善の利益を追求する。
確定拠出年金とは?

確定拠出年金(DC:Defined Contribution)は、いわば「自分で育てて受け取る自分年金」です。ここでは、制度の基本的な仕組みと注目される背景、そして2つの種類について解説します。
確定拠出年金(DC)の仕組み
毎月一定額の掛金を拠出し、加入者自身が選んだ金融商品(投資信託や定期預金など)で運用して、原則60歳以降に受け取る仕組みです。
掛金(拠出)は確定していますが、将来の受取額(給付)は運用成績によって変動します。運用次第で元本を上回る金額を受け取れる一方、元本変動型の商品では元本割れのリスクも伴う点には注意が必要です。
最大のメリットは税制優遇にあります。掛金の全額が所得控除の対象となるほか、運用益は非課税、受取時にも各種控除が適用されます。この強力な優遇措置により、極めて効率的な資産形成が可能となります。
なぜ今、確定拠出年金が注目されているのか?
公的年金制度を補完する「自助努力による資産形成」を国が強力に推し進めているためです。少子高齢化により、公的年金だけでは老後の生活資金を十分にカバーできないという懸念が広がっていることから、政府は継続的に制度拡充を行っています。
具体例として、2024年(令和6年)12月に施行された法改正が挙げられます。
従来、確定給付企業年金(DB)等の他制度を実施している企業の従業員は、個人型(iDeCo)の拠出限度額が一律月額1万2,000円に制限されていました。これが「月額5万5,000円から企業型DCと他制度の掛金を控除した額(上限2万円)」へと引き上げられました。これにより、企業年金とiDeCoを併用しやすくなり、より柔軟に制度を活用できる環境が整いつつあります。
個人型(iDeCo)と企業型(企業型DC)の2つの種類
確定拠出年金には、大きく分けて「個人型」と「企業型」の2種類が存在します。
| 比較項目 | 個人型(iDeCo) | 企業型(企業型DC) |
|---|---|---|
| 対象者 | 国民年金被保険者(自営業、会社員、公務員等) | 制度を導入している企業の従業員 |
| 掛金の負担者 | 加入者本人 | 企業(※従業員が上乗せするマッチング拠出等もあり) |
| 口座管理手数料 | 加入者本人が全額負担 | 企業が負担することが一般的 |
| 掛金の上限 | 職業や他制度の加入状況により月額1.2万〜6.8万円 | 他の年金制度の有無により月額2.75万円または5.5万円 |
個人型(iDeCo)は、個人が自身の判断で金融機関を選び、自分自身の資金で掛金を拠出します。一方、企業型DCは企業が福利厚生として導入し、原則として企業が掛金および口座管理手数料を負担します。福利厚生の拡充や人材定着を目的に、企業型DCを導入する会社が増えています。
厚生年金・退職金と確定拠出年金はどう違う?
制度の立ち位置を正確に理解するため、私たちが加入している「厚生年金」や従来の「退職金」との違いを整理します。
公的年金と確定拠出年金の違い
| 比較項目 | 公的年金(厚生年金など) | 確定拠出年金(DC) |
| 財政方式 | 賦課方式(現役世代の保険料を現在の受給者へ充てる) | 積立方式(自分の掛金と運用益が自身の年金原資になる) |
| 将来の給付額 | 現役時代の給与などに基づき、法令に従って決まる | 加入者自身の運用成績によって変動する |
| 人口動態の影響 | 少子高齢化の影響を受けやすい | 少子高齢化の影響を直接受けにくい |
厚生年金と確定拠出年金の違いは、主に「財政方式」と「給付額が確定しているか」の2点にあります。
厚生年金などの公的年金は「賦課方式(ふかほうしき)」を採用しています。現役世代が支払った保険料を、そのまま現在の高齢者の年金給付に充てる世代間扶養の仕組みです。現役時代の給与などに基づき、法令に従って将来の受給額が決まります。
対して確定拠出年金は「積立方式(つみたてほうしき)」です。自分が拠出した掛金とその運用益が、そのまま将来の自分自身の年金原資となります。少子高齢化による人口動態の影響を直接受けにくい反面、運用結果に対する自己責任が求められる点が特徴です。
従来の退職金と確定拠出年金の違い
| 比較項目 | 従来の退職金(退職一時金・確定給付企業年金) | 確定拠出年金(DC) |
| 将来の受取額 | あらかじめ約束されている | 加入者自身の運用成績によって変動する |
| 運用責任 | 企業(積立不足が生じた場合は企業が補填する) | 従業員(企業は毎月の掛金を拠出するまでが責任範囲) |
| ポータビリティ(持ち運び) | なし(自己都合退職や転職で勤続年数がリセット・減額) | あり(転職先やiDeCoへ非課税で移換可能)※自動移換に注意 |
従来型の退職金制度(退職一時金や確定給付企業年金=DB)との比較において、最も重要なのは以下の2点です。
運用責任は誰にあるか
従来の制度は、将来支払う退職金の額があらかじめ約束されています。運用責任は「企業側」にあり、万が一積立不足が生じた場合は企業が不足分を補填する義務を負います。
一方、確定拠出年金では、運用責任は「従業員(加入者)側」です。企業は毎月決められた掛金を拠出するまでが責任範囲にとどまります。将来の予期せぬ積立不足リスクを完全に遮断できる点は、企業にとって大きな利点といえます2。
ポータビリティの有無
従来の退職金は会社ごとの制度です。自己都合退職や転職をすると勤続年数がリセットされ、退職金が大幅に減額される傾向がありました。
確定拠出年金には「ポータビリティ(持ち運び)」機能が備わっています。転職先に企業型DCがあればその口座へ、なければ自身のiDeCo口座へ資産を非課税で移換し、運用を継続することが可能です。 ただし、移換手続きを放置すると「自動移換」となり、資産の運用が停止されます。高い管理手数料が差し引かれ続け、受給可能年齢が遅くなるなどの不利益が生じるため注意が必要です。
確定拠出年金は「退職金の代わり」になる?
企業型DCは、従来の退職金に代わる制度として急速に普及しています。
退職金制度の代わりとして企業型DCを導入する会社が増加
結論として、確定拠出年金は退職金の代わりとして十分に機能します。
長引く低金利環境下において、従来の退職金制度を維持することは企業にとって運用利回りの確保という大きなプレッシャーとなってきました。そこで、将来の退職金原資を「毎月の掛金」としてDC口座に前払いし、退職金規程を企業型DCへ移行する動きが活発化しています。
企業は財務リスクを回避でき、従業員は税制優遇を受けながら老後資金を準備できるため、労使双方のニーズが合致しているのです。
企業側が退職金代わりにするメリット・デメリット
企業側の最大のメリットは「運用リスクからの解放」と「将来の積立不足が生じないこと」にあります。掛金を支払った時点で費用として確定するため、経営計画が立てやすくなります。また、中途採用の際にも「退職金制度あり」とアピールできるため、採用競争力の強化や定着率向上にも寄与します。
デメリットは、金融機関への初期費用や毎月の口座管理手数料といったランニングコストが発生する点が挙げられます。また、法令に基づき従業員へ継続的な投資教育を実施する義務があるため、人事労務担当者の業務負荷が増える点には留意が必要です。
従業員側が退職金代わりとして受け取るメリット・デメリット
従業員側の最大のメリットは、運用益の非課税による「複利効果の最大化」に尽きます。通常、金融商品の利益には約20%の税金がかかりますが、DC口座内の運用益は全額非課税で再投資されます。掛金の全額所得控除によって毎年の税負担が軽減され、受取時にも控除が適用されるため、極めて効率的な資産形成が可能です。
デメリットは、運用成績次第で将来受け取る総額が従来の退職金予想額を下回る可能性がある点に注意が必要です。また、老後資金を目的とするため、原則60歳まで資産を引き出せない資金拘束の厳しさも伴います。
経営者必見!「選択制確定拠出年金」とは?
現在、とくに中小企業の経営者から高い関心を集めているのが「選択制確定拠出年金(選択制DC)」です。税制優遇に加えて、社会保険料の適正化という経営上のメリットを秘めています。
選択制確定拠出年金の分かりやすい仕組み
現在の給与の一部を切り分け「そのまま給与として受け取るか」「非課税のDC掛金として積み立てるか」を、従業員自身が自由に選べる仕組みです。
具体的には、基本給の一部を減額し、同額を「生涯設計手当(ライフプラン手当)」などの名目で新設します。従業員はこの手当を以下のどちらかで受け取るかを選択します。
- 現金で受け取る:従来通り、所得税や社会保険料の対象となります。
- DC掛金として拠出する:事業主掛金と同等の扱いになり、税金や社会保険料の算定基礎から外れます。
ライフスタイルに合わせて選べるため、導入ハードルが低い点が特徴といえます。
社会保険料の削減に繋がる?企業・従業員双方のメリット
最大のメリットは、一定条件下で労使双方の社会保険料削減が期待できる点にあります。
手当をDC掛金として拠出すると、その額は税務上・社会保険上の「給与」とはみなされません。社会保険料の計算基礎である「標準報酬月額」から掛金分が除外されるため、等級が下がる可能性があります。
社会保険料は労使折半のため、等級が下がれば従業員の手取りへの影響を抑えつつ負担が軽減されるだけでなく、企業の法定福利費も同時に削減される相乗効果が生まれます。掛金分は所得税・住民税の対象からも外れるため、高い節税効果を発揮します。
導入時に気をつけたい注意点とデメリット
社会保険料が下がる反面、公的な保障も連動して下がる点には注意が必要です。
第一のデメリットは、将来受け取る「老齢厚生年金」や休業時の給付金が減少するリスクが挙げられます。標準報酬月額が下がると、将来の厚生年金受給額も目減りします。傷病手当金や出産手当金、育児休業給付金といった公的な給付額が減少する恐れもあります。
以下は、標準報酬月額の低下が将来の老齢厚生年金に与える影響のシミュレーション例です。
| 平均標準報酬月額 | 1年あたりの年金額(概算) | 25年間受給した場合の総額 | 差額(25年間) |
|---|---|---|---|
| 36万円(掛金拠出なし) | 約94.7万円 | 約2,368万円 | – |
| 34万円(毎月2万円拠出) | 約89.4万円 | 約2,236万円 | 約132万円の減少 |
第二に、制度導入に伴う「労働条件の不利益変更」となるリスクです。基本給を減額して手当に切り替える給与体系の変更を伴うため、労働契約法上のトラブルになり得ます。将来の給付額減少といったデメリットも含めて従業員へ丁寧に説明し、真摯な同意を得ることが不可欠といえるでしょう。
企業が確定拠出年金を導入する流れ
実際に制度を導入する際の手続きは、法令に則って厳密に進められます。
制度設計から導入までの具体的なステップ
掛金の上限額、対象者の範囲などを決定し、運営管理機関(金融機関)を選定します。
制度のメリット・デメリット(特に社会保険給付への影響)を十分に説明し、従業員の過半数代表者の同意を得ます。個別の選択を伴う場合は、一人ひとりから書面で同意を得ることが強く推奨されます。
確定拠出年金規約を作成し、管轄の地方厚生局へ承認申請を行います。
承認後、従業員への初期投資教育を実施し、掛金の拠出がスタートします。
就業規則や退職金規程の見直しが必要不可欠
制度導入時は社内規程の法的整備が必須です。
- 規程の改定: 制度に応じた退職金規程・給与規程の見直し
- 残業代の注意: 現金受取者の割増賃金単価を下げる違法リスクの回避
- 労基署への届出: 規程変更後の届出手続き
賃金トラブルを防ぐため、社会保険労務士などの専門家と連携して進めましょう。
良くある質問
確定拠出年金で元本割れすることはありますか?
はい、投資信託などを選んだ場合は元本割れする可能性があります。
リスクを避けたい場合は定期預金などの「元本確保型」も選べます。インフレリスク等とのバランスを考慮して選択することが大切です。
積み立てたお金を60歳になる前に引き出すことはできますか?
いいえ、原則60歳まで引き出すことはできません。
老後資金作りを目的とした制度のため、急な出費であっても途中で解約は不可能です。生活に支障のない金額で設定しましょう。
従業員数が少ない中小企業でも導入できますか?
はい、従業員1名の企業から導入可能です。
小規模向けの「iDeCo+」や「総合型DC」を活用すれば、コストを抑えて導入できます。中小企業の採用力や福利厚生の強化に有効です。
選択制確定拠出年金を導入すると、将来もらえる公的年金が減りますか?
はい、掛金額によっては将来の老齢厚生年金が減る場合があります。
給料から掛金を出すと標準報酬月額が下がり、毎月の社会保険料が安くなる反面、将来の年金額や傷病手当金などの受給額も減少します。
転職や退職をした場合、これまで積み立てた資産はどうなりますか?
転職先の企業型DCや個人型(iDeCo)へ資産を持ち運んで継続できます。
ただし、退職後6か月手続きを怠ると資産が自動移換され、運用が停止するうえ余計な手数料がかかるため注意が必要です。
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まとめ
確定拠出年金は、自分で資産を運用する積立型の年金制度です。特に「選択制DC」は社会保険料の削減と福利厚生の拡充を両立できる有効な手段ですが、導入には就業規則の変更や説明義務などの労務管理が欠かせません。
- DCは自己運用で老後資金を作る積立型の制度
- 企業のリスクを減らし持ち運びも可能
- 選択制DCは労使の社会保険料軽減に有効
- 導入時は規程変更や労務の専門家連携が重要
法的リスクを防ぎ円滑に導入するためにも、社労士などの専門家と連携しながら自社に最適な制度構築を目指しましょう。

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