就業規則にテレワーク規程を盛り込むには?中小企業が押さえるべきポイントと注意点

新型コロナ禍をきっかけにテレワーク(在宅勤務やリモートワーク)を導入する企業が増え、その後も新しい働き方として定着しつつあります。しかし、急遽テレワークを開始した企業の中には「ガイドラインの周知に留まり、就業規則の変更までは追いついていない」ケースも少なくありません。就業規則は従業員と会社双方のルールブックですから、テレワークに対応した規程を整備しておくことが重要です。テレワーク特有の課題(労働時間管理、費用負担、ハラスメント防止など)への対策を明文化しておくことで、労使間のトラブル防止や業務の円滑化につながります。本記事では、中小企業の経営者・人事担当者向けに、「就業規則 テレワーク 規程」に関する押さえるべきポイントと注意点を現役の社労士が解説します。ぜひ就業規則の作成・見直しの参考にしてください。

目次

テレワーク導入時に就業規則の見直しは必要?

テレワークを導入する際に就業規則の見直しが必要かどうかは、多くの企業担当者が直面する疑問です。結論から言えば、テレワークによって従来の勤務形態と異なるルールや取り決めが発生する場合、就業規則にその旨を記載することが望ましいです。労働基準法第89条では常時10人以上の労働者を使用する会社に就業規則の作成・届出を義務付けています。テレワーク導入に伴い労働条件を変更する場合(例:勤務場所や費用負担に関する条件追加など)は、その変更内容を就業規則にも反映させ、所定の手続きを踏む必要があります。

ただし、通常のオフィス勤務と労働時間制度や労働条件が全く同じである場合には、必ずしも直ちに就業規則を変更しなくてもテレワーク運用自体は可能です。例えば、「勤務時間帯や休憩、賃金体系、手当など一切変更せず、ただ勤務場所だけ自宅等に移すだけ」であれば既存の就業規則のままでも形式上は対応できます。しかし実際には、テレワークでは勤務状況の把握方法や設備費用の問題などオフィス勤務とは異なる事項が出てきます。これらを放置すると労使間の認識齟齬からトラブルになりかねません。就業規則の見直し・追補によってテレワークのルールを明確化することが、安全かつ円滑にテレワークを定着させる鍵です。

また、就業規則に定めることで従業員への周知徹底もしやすくなります。就業規則は法的に労働者へ周知(社内への掲示や配布など)する義務がありますので、テレワークのルールを就業規則化すれば全社員に対して公式なルールとして認識させることができます。「知らなかった」「聞いていない」といったトラブルを防ぐためにも、テレワーク導入時には就業規則を見直し、必要な規程を整備することが大切です。

テレワーク規程は就業規則にどう組み込む?(別規程とする方法も)

テレワークに関する規程を整備する方法としては、大きく (1) 現行の就業規則に追記・改訂して組み込む方法(2) 「テレワーク勤務規程」などの社内規程を新たに作成する方法 の2種類があります。厚生労働省も「①就業規則にテレワークの定めを盛り込む」「②テレワーク勤務規程を新たに作成する」どちらでもよいとしていますが、推奨されるのは分かりやすさの観点から(2)の新規程を作成する方法です。別冊の「テレワーク勤務規程」を用意し、就業規則と一体で運用する形にすると、テレワークに関する事項だけを切り出して明確に示せるため従業員にも理解させやすくなります。

既存の就業規則に追記する場合は、章立てや条項を追加してテレワークについて定めます。就業規則内に「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」等の定義やルールを盛り込むイメージです。その際、他の条項との整合性に注意が必要です。例えば就業規則に「全社員は所定の事業所で勤務する」等の記載がある場合は、テレワーク実施者は例外である旨を明記するなど矛盾が生じないよう修正します。

別途「テレワーク勤務規程」を作成する場合は、就業規則の委任規程を利用します。就業規則に「テレワーク勤務の詳細は別途定めるテレワーク勤務規程による」等の一文を入れ、詳細は切り離した規程に委ねます。この方法なら細かなルール変更もテレワーク規程側で行いやすく、運用上の柔軟性があります。厚労省が公開しているモデル規程でもテレワーク勤務規程(在宅勤務規程)の雛形が示されており、参考になります。

いずれの方法でも、就業規則(および付属規程)の変更手続きは法律に沿って行う必要があります。労働基準法第90条により、就業規則を変更する際は事前に過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴く義務があります。さらに常時10名以上の会社では所轄の労働基準監督署に就業規則(変更)の届出が必要です。テレワーク規程を新設した場合も同様で、就業規則本体と一緒に届出を行います(従業員数が10人未満の場合は届出義務はありませんが、社内ルールとして定めた以上、社員周知は徹底しましょう)。手続きを怠ると法令違反となり得ますので注意してください。

テレワーク規程に盛り込むべき内容は?

では具体的に、テレワークに関して就業規則やテレワーク規程で定めておくべき主な項目を見ていきましょう。テレワーク勤務に固有の論点を洗い出し、会社と従業員双方のルール・責任を明確化しておくことが重要です。以下に主要なポイントを挙げます。

テレワークの対象者・適用範囲

まず誰がテレワークできるのか(対象従業員や業務の範囲)を明確にします。全社員を対象とするのか、一部職種・部署に限定するのかを会社方針として決め、規程に記載します。たとえば「事務系および営業職の社員を対象とする」「製造現場従事者は対象外とする」など、業務特性に応じて適用範囲を定めます。また社員の希望で自由にテレワークを選べる制度にするのではなく、「会社が許可した場合に限りテレワークを認める」形にしておくことが望ましいとされています。初めてテレワーク制度を導入する際に、社員の希望だけで無制限にテレワーク適用を拡大してしまうと、業務運営に支障が出る恐れがあるためです。そのため会社がテレワーク許可権を持ち、許可条件を満たす者のみ対象とするよう記載するのが一般的です。

許可条件の具体例としては、「入社後一定期間(例:1年以上)経過していること」「自宅に業務に適した通信環境・執務環境があること」「テレワーク勤務について家族の理解を得ていること」「勤怠や成果に問題がないこと」等が考えられます。実際の運用に即して条件を設定し、「これらの条件をすべて満たした場合に会社はテレワーク勤務を許可できる」といった条項にします。対象者の範囲と許可条件を明確に定めておくことで、誰もが納得感を持ってテレワークを利用でき、不公平感の発生も防げます。

テレワーク実施の条件と申請・許可手続き

テレワークを実際に行う際の手続きも規程が必要です。社員からテレワーク希望を受け付ける流れや会社の許可方法を定めましょう。例えば「テレワークを利用したい場合は事前に申請書を提出し、所属長の許可を得ること」「会社が業務上必要と判断した場合は社員へ在宅勤務を命令できる」などのルールです。社労士等が作成する規程例でも、テレワークの利用申請方法や許可の取り消し、会社から命じる場合の規程などが盛り込まれています。これらを参考に、自社の運用に合わせた手続きを定めましょう。

具体的には、「利用申請は勤務予定日の○日前までに所属長に申請」「許可証またはメールで許可を通知」「業務都合や生産性に問題が出た場合は許可を取り消すことがある」といった内容が考えられます。加えて、災害時や感染症流行時など会社都合で一斉に在宅勤務を命じる場合についても触れておくと安心です。手続きルールを整えることで、テレワーク利用が恣意的にならず、公平かつ計画的に運用できます。社員にも「正式な申請・許可を経て行う業務形態」であると認識させることができるでしょう。

テレワーク中の勤務場所と設備のルール

どこでテレワーク勤務を行ってよいか、その範囲を記載します。一般的には「自宅」や「会社が認めたサテライトオフィス」が主な候補です。就業規則上、「テレワーク勤務可能な就業場所は、自宅その他会社が許可した場所とする」等と明記します。許可なくカフェや図書館など公衆の場で業務を行うことは禁止する会社もあります。情報漏洩やセキュリティリスクを減らし、在宅勤務者の就業状況を管理するために就業場所のルールを決めておくことが重要です。例えば「自宅に準じるプライベートな空間(会社の事前承認がある場合に限る)」などと記載し、不特定多数がいる場所での業務を制限することが考えられます。

また、業務に使用する機器や設備に関する取り決めも必要です。セキュリティ確保と勤怠管理の観点から、会社貸与のパソコン等のみ業務利用を許可するのが望ましいでしょう。そのため、就業規則に「テレワーク勤務に用いるPC・通信機器は会社が貸与したものとし、私物の使用は原則禁止」といった規程を設けます。会社支給のノートPCや携帯電話がある場合は貸与条件(例:セキュリティソフトのインストール義務、業務目的以外での使用禁止、退職時の返却義務など)を定めます。逆に社員の私物機器の利用を認める場合は、その要件や申請方法、セキュリティ対策(許可なくソフトをインストールしない等)を記載しておくべきです。

通信環境についても「ブロードバンド回線を用意すること」「VPNなど会社指定の接続方式を利用すること」等、必要に応じて条件を示します。自宅の作業環境(作業スペースの確保や騒音対策など)も業務に支障がないことを社員に求めるケースがあります。テレワーク勤務を行うための環境要件をあらかじめ伝え、整備してもらうことで、会社としての生産性確保と情報保護の責任を果たせます。

テレワーク中の労働時間・休憩の管理

テレワークでも労働時間や休憩のルールは基本的に通常勤務と同様です。労働基準法上、在宅勤務者であっても1日の労働時間が6時間を超えれば45分以上、8時間を超えれば1時間以上の休憩を与える義務があります(オフィス勤務者と同じ基準)。就業規則にも「テレワーク中も所定労働時間および休憩時間は通常と同じ」と記載し、在宅だからといって休憩を取らず長時間働き続けることがないよう注意喚起します。始業・終業時刻も通常勤務と同じであればその旨明記しましょう。

一方、テレワークでは労働時間の把握・管理方法が課題になります。オフィスと違い上司の目が届かないため、就業規則で適切な勤怠管理方法を定めます。例えば「毎日、始業時と終業時にメールやチャットで上司に報告する」「社内システムにログイン・ログアウトすることで出退勤記録とする」等です。また「業務中は常にMicrosoft TeamsやSlackなどのオンライン状態を維持すること」として勤務中であることを確認できるようにする会社もあります。テレワーク勤務者の労働時間を会社が適切に把握することは法的義務であり(労働安全衛生法の労働時間把握義務)、在宅であっても記録を残す仕組みが必要です。

もし業務の性質上、細かい勤怠報告が難しい場合には労働時間制度の変更も検討されます。テレワーク勤務に限ってフレックスタイム制を導入し、コアタイム以外は労働者の裁量に委ねるケースや、業務遂行時間を算定し難い場合に「事業場外みなし労働時間制」を適用するケースもあります。ただし、事業場外みなし労働時間制は「労働時間を算定しがたい場合」に限り適用でき、メールや電話で常時連絡可能な在宅勤務には通常適用できません。そのため多くの企業ではテレワークでも原則は通常の所定労働時間制とし、自己申告やシステム記録で勤怠管理する運用をとっています。いずれにせよ、「テレワーク中の労働時間管理方法」を就業規則に明記しておくことが大切です。残業や深夜労働の扱いについても次で述べるように定めておきましょう。

テレワーク中の時間外労働・残業の扱い

在宅勤務では通勤時間が無くなる分、勤務時間が長くなりがちという指摘もあります。時間外労働(残業)や休日出勤のルールを明示しておくことで、過重労働やサービス残業の発生を防止しましょう。例えば就業規則に「テレワーク勤務者は原則として時間外労働、休日労働を行ってはならない。業務上やむを得ず行う場合は事前に上長の許可を得なければならない」などと定めます。許可なくダラダラと残業することを禁止し、必要な場合は上司の指示・許可の下で行う旨を徹底します。実際にテレワーク規程の雛形でも「原則残業禁止」「やむを得ない場合は事前承認制」という文例が紹介されています。

また残業代の計算方法も通常勤務と変わりません。自宅であっても労働時間を正しく把握し、法定労働時間を超えた分には割増賃金を支払う必要があります。テレワーク中は上司や人事部が残業の実態を把握しにくいので、自己申告制の場合はきちんと報告するよう社員に求め、勤怠システム等で客観的記録を取れる場合は可能な限り活用しましょう。また、深夜(22時〜5時)の業務は禁止、どうしても必要な場合は事前届け出制にするなど、在宅勤務者が生活と仕事のメリハリを失わないための配慮も求められます。36協定(時間外労働に関する労使協定)の範囲内でしか残業はできない点も変わりませんので、テレワークだから特別に多く働かせることは許されないことを会社も認識しておきましょう。

テレワーク中の業務報告・コミュニケーション方法

テレワークでは上司や同僚とのコミュニケーションが希薄になりやすいため、業務の進捗報告や連絡ルールを決めておくと安心です。就業規則やテレワーク規程に「テレワーク勤務中は所定の方法で業務報告を行うこと」「連絡体制を維持すること」といった条項を設けます。例えば「毎日の終業時にその日の業務成果や進捗をメールで上司に報告する」「チャットツールで随時連絡を取り、指示を仰ぐこと」「オンライン会議への円滑な参加(カメラオン推奨など)の協力」等を定めておきます。こうした報告・連絡ルールを明文化しておけば、在宅勤務者が孤立せず、上司も部下の状況を把握しやすくなります。

また「急用で連絡が取れない場合は事前にその旨を伝えること」「自宅の固定電話番号や携帯番号を会社に届け出て緊急連絡先とすること」など、緊急時の連絡手段についても取り決めておくと良いでしょう。さらに、勤務時間中の私用外出の扱いも決めておく必要があります。オフィス勤務中に無断外出が認められないのと同様、自宅勤務中も許可なく私的な外出や離席(育児や介護の世話を除く)をしないことをルール化します。どうしても一時的に席を外す場合の報告方法なども決めておくと労務管理上安心です。

コミュニケーション面では、「上司・同僚はテレワーク中の社員に積極的に連絡・フォローするよう努める」等の指針も共有しておきたいところです。情報伝達の遅れや漏れが生じないよう、会社として社内コミュニケーションの確保に努める旨を就業規則の基本方針として掲げてもよいでしょう。テレワーク勤務者へのケアと職場全体での円滑な情報共有が、ハイブリッドな働き方では欠かせません。

通信費・光熱費など費用負担の取り決め

テレワークでは自宅のインターネット通信費や電気代など、誰が負担するか問題になる費用があります。会社が在宅勤務に伴う費用をどの程度負担するか、就業規則でルールを決めておくことが大切です。特に従業員に費用を自己負担させる場合は、労使で十分に話し合い就業規則に規程しなければなりません(労基法第89条5号)。労働基準法89条5号は「食費・作業用品その他の負担に関する事項」を就業規則の必須記載事項と定めています。つまり、テレワークで発生する費用の扱いを明示しておかないと法令違反になりかねません。

費用負担の方法としては様々考えられます。会社と従業員で折半する会社が定額の「テレワーク手当」を支給する全額会社負担にして精算する、逆に全額従業員負担とする等です。どれを選ぶかは各社の方針や経済状況によりますが、いずれにせよ事前にルールを定めてトラブル予防することが必要です。例えば「通信費は実費を会社負担(上限○円まで)」「光熱費は通常業務に伴う増加分として月○円のテレワーク手当を支給」「備品購入費は事前申請により会社が認めた場合は会社負担」などの規程が考えられます。

注意したいのは、テレワーク導入を理由に従業員に不利益を負わせないことです。たとえば、それまで全額支給していた通勤手当を在宅勤務日について支給しない取り扱いに変更する場合、社員にとっては収入減となります。こうした不利益変更に当たる可能性のある措置は慎重に検討しましょう。一般的に「テレワークになるから」という理由だけで給与や手当を減らすことは認められません。もしも何らかの手当廃止や費用負担増など不利益変更を行う場合は、労働者個々の同意を得るなど適切な手続きを踏む必要があります。

逆に、在宅勤務によって社員側の通勤コストや昼食代負担が減る分を考慮し、会社がテレワーク手当を新設しないケースもあります。重要なのは、その決定を就業規則に明文化して社員に周知することです。「費用は各自負担」とする場合も、その旨を書いておけば後から「費用を請求したい」と主張されても規程に基づき対応できます。いずれにしろ費用負担について曖昧にせず、会社と社員の負担範囲をはっきり取り決めておきましょう。

賃金・手当・評価の扱い

テレワーク勤務者の基本給や賞与の算定方法は原則としてオフィス勤務者と差を設けないのが通常です(同一労働同一賃金の観点からも望ましいです)。ただし、テレワーク特有の手当を支給する場合や、通勤手当の扱いを変更する場合にはその旨を就業規則に定める必要があります。たとえば「テレワーク勤務者には通勤手当を支給しない代わりにテレワーク手当○円を支給する」等です。また労働基準法89条2号では「賃金の決定・計算・支払の方法」に関する事項を就業規則に記載すべきとしています。オフィス勤務者と異なる賃金制度や手当体系を適用するなら規程が不可欠です。

評価制度については就業規則より人事制度の領域ですが、テレワーク勤務者だからといって不当に評価を下げないように注意しましょう。テレワークでは上司からの見えやすい成果物やコミュニケーションが減るため、公平な評価基準を予め定め、在宅勤務でも適切に評価する旨を社内に示すことが重要です。必要に応じて「テレワーク勤務者に対する評価上の取り扱いは他の勤務形態と同等とする」など基本方針を就業規則の中で謳っても良いでしょう。社員の安心感につながり、テレワーク活用促進にもプラスになります。

安全管理と労災(労働災害)への対応

テレワーク勤務中の安全衛生管理についても配慮が必要です。在宅勤務者であっても労働安全衛生法や会社の安全配慮義務は適用されます。業務中のケガや病気は労災保険の対象となり得ますので、労働災害を防止する観点からも自宅での安全確保に努める旨を規程します。たとえば就業規則に「労働者はテレワーク勤務を行う際、その作業環境の安全に配慮し労働災害の防止に努めなければならない」といった条文を設けます。

会社側も、必要に応じて自宅の作業環境チェックを行います。厚労省のモデル規程では、テレワーク開始前に社員自身が自宅の安全確認チェックリストを用いて点検する仕組みを例示しています。照明や椅子机の高さ、配線の整理、熱中症対策など安全に働ける環境かセルフチェックさせ、問題があれば改善してもらうことで労災予防につなげます。また定期的に産業医面談や健康診断への受診勧奨を行い、テレワーク中のメンタルヘルス不調や健康悪化を早期に発見することも大切です。

万一、在宅勤務中にケガをした場合の報告方法も決めておきましょう。就業規則に「テレワーク勤務中に負傷等した際は直ちに会社に連絡し所定の報告書を提出すること」などと明示します。労災認定ではそのケガや病気が業務起因かどうかが問題になりますが、在宅中は業務と私生活の境目が曖昧になりやすいため迅速な報告と事実確認が重要です。会社は報告を受けたら労災の可能性を判断し、必要に応じて労災申請手続きをサポートします。

さらに、安全管理の一環として長時間労働の防止適切な休養奨励もテレワーク規程で触れておくと良いでしょう。自宅だとつい休憩を取らず集中し続けてしまう社員もいるため、「1時間ごとに5分程度の小休止を推奨する」「終業後は業務用PCをオフにして休息を確保する」など健康確保策をガイドラインとして示すこともあります。社員の健康と安全を守ることは会社の責務ですので、テレワーク下でもそれを果たす姿勢を就業規則に反映させましょう。

ハラスメント防止の規程(リモートハラスメントへの対応)

テレワーク下でもハラスメント(セクハラ・パワハラ・マタハラ等)防止は重大なテーマです。場所が離れていても、オンライン上でセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが起こり得ます。最近ではこれを「リモートハラスメント(リモハラ)」とも呼び、問題視する動きがあります。2022年4月からは中小企業も含め全ての企業にパワハラ防止対策が義務付けられました。テレワークであっても例外ではなく、企業はハラスメント防止措置を講じなければなりません。

就業規則に既にハラスメント禁止規程がある場合でも、テレワーク中のハラスメントも同様に禁止されることを明示するのが望ましいです。例えば「本就業規則に定めるハラスメント禁止規程は、在宅勤務など会社以外の場所で就業する場合にも適用される」旨を追記します。厚労省モデル規程でも、「在宅勤務時におけるハラスメント防止については就業規則第○条(ハラスメント禁止)の定めるところによる。なお『職場』とは労働者が業務を遂行する場所を含む」旨が例示されています。つまり自宅など業務を行う場所も職場の一部とみなし、そこでのハラスメントも厳禁とするわけです。

リモートハラスメントの具体例としては、オンライン会議中に容姿をからかう発言をするセクハラ在宅だからと深夜や休日に業務連絡をして精神的圧力をかけるパワハラテレワーク社員を会議から意図的に外す孤立化(いじめ)などが挙げられます。こうした行為も通常のハラスメント同様に懲戒処分の対象となり得ることを社内に周知しましょう。就業規則の懲戒事由に「ハラスメント行為」が含まれていれば、テレワーク中にそれを行った社員にも適正な処分を科すことができます。

また、ハラスメントの相談窓口についてもテレワーク社員に利用しやすい形で整備することが必要です。在宅勤務で上司や同僚に直接会わない環境だからこそ、メールや電話、オンライン面談で気軽に相談できる仕組みを案内しましょう。就業規則には「ハラスメント相談窓口を設置し、テレワーク中でも利用できること」「相談者への不利益取扱い禁止」などを定めておくと万全です。会社としてリモートハラスメントにも厳格に対応する姿勢を示すことで、社員に安心して働ける環境を提供できます。

就業規則(テレワーク規程)の作成・変更手続き上の注意点

テレワーク規程を盛り込む就業規則の作成や変更にあたっては、いくつか実務上の注意点があります。まず前述のとおり、変更には労使協議(意見聴取)と労基署への届出が必要です。特に従業員にとって不利益となる変更がある場合(例:手当減額や新たな費用自己負担の導入など)は、過半数代表の意見聴取だけでなく社員個々の同意も得た方が望ましいでしょう。不利益変更は労働契約法で無効と判断される可能性もあるため慎重に対応します。

社員への周知も欠かせません。就業規則を変更したら、紙で配布したり社内掲示板・イントラネットに掲載したりして全員に周知しましょう。周知されていない就業規則の規程は原則として効力を持ちません。テレワーク規程を新設した場合は、その内容を説明する機会を設けることも有効です。社員から質問や意見が出れば真摯に答え、運用ルールへの理解を深めてもらいましょう。

さらに、関連する他の社内規程や契約書類との整合も確認します。たとえば雇用契約書に勤務場所を「本社○○部」と明記している場合、在宅勤務命令を出すことが契約上問題ないか検討が必要です。必要に応じて雇用契約書に「会社が命じる場合は在宅勤務等勤務場所を変更できる」旨を入れるか、同意書を取るなど対応します。また、情報セキュリティポリシーや勤務態度規程など別の規程類にもテレワークに絡む修正が必要かもしれません。包括的にチェックして漏れのないようにしましょう。

最後に、就業規則の専門家(社会保険労務士や弁護士)に相談することも検討してください。労働法規や助成金制度など最新情報を踏まえたアドバイスが得られ、自社に最適なテレワーク規程作りを支援してくれます。テレワーク導入時には各種助成金(テレワーク助成金等)の活用も可能な場合がありますが、申請には就業規則整備が要件となることもあります。専門家に相談すればそうした情報も得られるでしょう。就業規則は一度作れば終わりではなく、運用しながら随時見直していくものです。社内にノウハウが無い場合は外部の力を借りてでも法令を遵守したルール整備を行うことをおすすめします。

まとめ:テレワーク規程の整備で「新しい働き方」に対応しよう

テレワーク勤務に対応した就業規則の整備ポイントを見てきました。テレワークは働き方改革の一環として今後も定着が見込まれる一方、従来とは異なる労務管理上の課題も生じます。就業規則に明文化されたルールがあれば、会社と従業員双方が安心してテレワークを活用できる環境を作ることができます。労働時間管理の方法、費用負担の取り決め、ハラスメント防止策などを明確に定め、社員に周知することで、トラブル防止や生産性向上にもつながるでしょう。

自社だけで就業規則を作成・見直しするのが難しい場合は、社会保険労務士(社労士)など専門家への相談もぜひ検討してください。就業規則のプロである社労士であれば、最新の法律に準拠したテレワーク規程作成をサポートしてくれます。当事務所でもテレワーク規程整備に関する初回相談を無料で承っています。専門家の知恵を活用しながら、自社の実情に合ったテレワーク制度を整備していきましょう。就業規則をしっかり整えることで、社員が安心して柔軟な働き方に取り組める職場環境を実現し、企業としても時代に合った労務管理を進めていくことができます。ぜひこの機会に就業規則の見直しに着手し、テレワークを「働きやすい」そして「生産的な」取り組みにしていきましょう。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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