年末調整の徹底ガイド!担当者が押さえるべき手続き・効率化・注意点のすべて

年末調整の時期が近づくと、多くの経営者様や人事・労務担当者様が頭を悩ませるのではないでしょうか。毎年のようにある制度変更、煩雑な書類準備、迫りくる期限…。私たち社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)にも、この時期多くのご相談が寄せられます。本記事では、2025年(令和7年)の年末調整について、基礎知識から最新の法改正情報、中小企業が陥りがちなミスとその対策、さらには業務効率化のポイントまで、人事労務の専門家である社労士が、経営者様および人事・労務担当者様の視点に立って分かりやすく解説します。この記事を通じて、年末調整業務への不安を解消し、スムーズな対応を実現するための一助となれば幸いです。

目次

そもそも年末調整とは?

年末調整は毎年行われる重要な手続きですが、その基本的な仕組みや目的を正確に理解しておくことが、適切な事務処理への第一歩です。ここでは、年末調整の基本について再確認しましょう。

年末調整の目的と重要性

年末調整の主な目的は、従業員が1年間に得た給与・賞与から源泉徴収された所得税額と、その年の正しい所得税額(年税額)との間に生じた過不足を精算することです。 毎月の給与から天引きされる所得税は概算であるため、年末に各種控除などを反映して正確な税額を算出し直し、差額を還付または追加徴収します。  

この手続きは、従業員一人ひとりの税負担を適正化するだけでなく、企業にとっては所得税法に定められた給与支払者の義務でもあります。 正確な年末調整は、企業のコンプライアンス遵守を示す上で非常に重要です。また、年末調整の結果は翌年度の住民税額の算定基礎ともなるため、その正確性は従業員の将来の税負担にも影響します。 このように、年末調整は単なる事務作業ではなく、従業員の生活や企業の信頼性に関わる重要な業務なのです。  

年末調整の対象となる人・ならない人の条件

原則として、年末調整の対象となるのは、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員です。  

一方で、以下のようなケースに該当する人は、原則として年末調整の対象とはなりません。

  • 年間の給与収入が2,000万円を超える人  
  • 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税および復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人  
  • 2か所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人や、年末調整を行う時までに扶養控除等申告書を提出していない人
  • 年の途中で退職した人のうち、一定の条件(例えば、年内の再就職が見込まれない、年間の給与総額が103万円以下など)に該当しない人
  • 非居住者(国内に住所を持たないか、または現在まで引き続いて1年以上居所を持たない人)  
  • 日雇労働者など、継続して同一の雇用主に雇用されていない人  

これらの条件を正確に把握し、対象となる従業員を正しく見極めることが、年末調整業務の第一歩となります。特に、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出状況は、年末調整の対象者を見極める上で基本的な確認事項です。中小企業においては、パートタイム従業員など多様な働き方が存在するため、この申告書の回収と管理が特に重要になります。

正社員・パート・アルバイトの年末調整の扱いの違い

年末調整の基本的な扱いは、正社員、パートタイマー、アルバイトといった雇用形態によって変わるものではありません。給与所得者であり、前述の年末調整の対象となる条件を満たしていれば、同様に年末調整が行われます。  

主な違いが生じるのは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」をどの勤務先に提出しているかという点です。複数の勤務先がある場合、従業員はこの申告書を主たる給与の支払を受けている1社にのみ提出します。その申告書を提出された勤務先が年末調整を行います。 したがって、パートやアルバイトであっても、その勤務先を主たる勤務先として申告書を提出していれば、年末調整の対象となります。  

ただし、パートやアルバイトで年収が低い場合、例えば所得控除(基礎控除、給与所得控除など)を差し引いた結果、所得税が非課税となる場合は、年末調整が実質的に不要となることもあります。2025年(令和7年)からは、いわゆる「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わるため、この点も考慮が必要です。 複数の勤務先がある従業員については、主たる勤務先で年末調整を行った上で、従たる勤務先の所得と合算して確定申告が必要になるケースが多いことも理解しておく必要があります。  

中小企業では多様な雇用形態の従業員が在籍していることが多いため、各従業員がどの勤務先で年末調整を受けるのか、申告書の提出状況を正確に把握することが、誤処理を防ぎ、従業員の混乱を避ける上で重要です。

年の途中で退職・就職した従業員の年末調整

年の途中で従業員が退職したり、新たに入社したりした場合の年末調整の扱いは以下の通りです。

年の途中で退職した従業員(中途退職者)
原則として、年の途中で退職した従業員については、退職時に年末調整は行いません。 企業は退職日までの給与に基づいて源泉徴収票を作成し、本人に交付します。 退職者は、その源泉徴収票をもとに、自身で確定申告を行うか、年内に再就職した場合は新しい勤務先で前職分も含めて年末調整を受けることになります。 ただし、例外的に企業が年末調整を行うケースもあります。例えば、12月中に支払うべき給与等の支払を受けた後に退職した人、死亡により退職した人、著しい心身の障害のために退職した人で年内の再就職が困難と見込まれる人、パートタイマーなどで年間の給与総額が103万円以下の人(2025年以降は123万円以下を目安とすべきでしょう)などです。  

年の途中で就職した従業員(中途就職者)
その年の12月31日時点で在籍していれば、年末調整の対象となります。この際、その従業員が年内に他の勤務先から給与の支払いを受けていた場合には、前職(またはそれ以前の職全て)の源泉徴収票を提出してもらう必要があります。 提出された源泉徴収票の情報と、現職での給与情報を合算して年末調整を行います。これにより、その年の所得税が正しく計算されます。 前職の源泉徴収票の提出がないと、現職の給与のみで年末調整を行うことになり、所得税の計算が不正確になるため、企業は中途採用者に対して、入社時に前職の源泉徴収票の提出を漏れなく促すことが重要です。この書類の回収が遅れると、年末調整の処理全体に影響を及ぼす可能性があるため、早期の対応が求められます。  

年末調整の主な流れとスケジュール感

年末調整業務は、企業にとって年に一度の大きな事務作業であり、計画的な進行が不可欠です。一般的な流れとスケジュール感は以下の通りです。

  • 10月~11月初旬:準備・アナウンス期間
    • 企業は年末調整の準備を開始します。最新の税制改正情報を確認し、社内スケジュールを策定します。
    • 従業員に対して、年末調整の実施、目的、おおまかなスケジュール、提出が必要な書類(「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」、「給与所得者の保険料控除申告書」など)についてアナウンスを行います。  
    • 各種申告書類を従業員に配布します。
  • 11月中旬~12月初旬:書類回収・チェック期間
    • 従業員から記入済みの申告書類と、生命保険料控除証明書や住宅ローン残高証明書などの添付書類を回収します。 企業は社内での提出期限を設定することが一般的です。  
    • 回収した書類の内容に不備がないか(記入漏れ、押印漏れ、添付書類の不足など)をチェックします。
  • 12月中:計算・調整期間
    • 提出された申告内容に基づき、各従業員の年間の所得税額(年税額)を計算します。  
    • 年税額と、それまでに源泉徴収した税額との過不足額を算出します。
  • 12月の最終給与支払時または翌年1月:精算
    • 算出した過不足額を、通常12月の最終給与支払い時に精算します。税金の還付または追加徴収が行われます。  
  • 翌年1月10日(納期の特例を受けている場合は1月20日):源泉所得税の納付
    • 年末調整の結果、確定した所得税額を税務署に納付します。  
  • 翌年1月31日:法定調書等の提出・源泉徴収票の交付
    • 「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」や各従業員の「給与所得の源泉徴収票」を税務署に提出します。
    • 「給与支払報告書(個人別明細書・総括表)」を各従業員の居住する市区町村に提出します。  
    • 従業員には「給与所得の源泉徴収票」を交付します。

このスケジュールはあくまで目安であり、企業の規模や状況によって調整が必要です。特に中小企業では、限られた人員で対応するため、早期からの準備と従業員への明確な指示、協力依頼がスムーズな進行の鍵となります。

【2025年(令和7年)最新情報】年末調整の主な変更点と企業が注意すべきポイント

2025年(令和7年)の年末調整においては、いくつかの重要な税制改正が影響します。これらの変更点を正確に理解し、適切に対応することが、経営者様および人事・労務担当者様には求められます。特に、定額減税の調整や各種控除制度の改正は、計算実務や従業員への説明に大きく関わってきます。

2025年施行の税制改正と年末調整への影響

令和7年度税制改正大綱に基づき、個人の所得税負担の軽減や特定層への支援を目的とした複数の改正が行われます。 これらの改正は、原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されるため、令和7年12月に行う年末調整から実務上の変更が生じます。  

国税庁からは、これらの改正に関するFAQが令和7年5月末頃、新しい申告書の様式などが令和7年6月末頃、年末調整の詳しい事務内容については令和7年8月末頃から順次情報提供される予定です。 企業としては、これらの公式情報を注視しつつ、早期に改正の概要を把握し、システム対応や従業員への周知準備を進めることが重要です。本記事が、その準備の一助となることを目指しています。  

定額減税の年末調整における調整について(該当する場合)

令和6年分の所得税について実施された定額減税(納税者本人3万円、同一生計配偶者および扶養親族1人につき3万円)は、令和6年6月以降の月次減税で控除しきれなかった場合、令和6年分の年末調整で精算(年調減税)されます。  

この年調減税の結果は、源泉徴収票の摘要欄に「年調減税額」や「控除外額(年調所得税額から控除しきれなかった定額減税額)」として記載する必要があります。  

さらに重要なのは、この情報が翌年度の住民税計算に影響する点です。令和7年度(2025年度)の給与支払報告書(令和7年1月提出)の摘要欄には、「源泉徴収時所得税減税控除済額」「控除外額」に加え、合計所得金額が1,000万円超の納税義務者で、同一生計配偶者(控除対象配偶者ではない)の分の定額減税がある場合には「非控除対象配偶者減税有」といった事項を記載する必要があります。 これらの記載が漏れると、従業員が本来受けられるべき追加給付や住民税からの減税が受けられないリスクが生じるため、正確な記載が強く求められます。  

この定額減税の処理は、月次での管理、年末調整での正確な計算、そして翌年の給与支払報告書への適切な情報連携という一連の流れを伴います。特に給与支払報告書の摘要欄への記載は、従業員の翌年度の住民税額に直接影響するため、 payroll システムがこれらの情報を正確に出力できるか、または手作業での転記が必要な場合はそのチェック体制をどうするか、といった点が実務上の課題となり得ます。「非控除対象配偶者減税有」のケースは特に見落としやすいため、制度の細部まで理解しておくことが肝要です。

令和7年分 自体 の所得税に関する定額減税については、本記事執筆時点では詳細が未確定な部分が多いため、今後の政府発表や国税庁からの情報を注視する必要があります。もし継続または新たな形で実施される場合は、同様の注意深い対応が求められるでしょう。

各種控除制度の変更点と実務への影響

2025年(令和7年)の年末調整に影響する主な控除制度の変更点は以下の通りです。これらの変更は、従業員の税負担に直接影響し、企業の年末調整実務にも対応が求められます。

  • 基礎控除の引上げ: 合計所得金額が2,350万円以下の納税者本人の基礎控除額が、現行の48万円から原則として58万円に引き上げられます。 これにより、多くの従業員の課税所得が減少し、税負担が軽減されます。給与計算システムの設定変更や、従業員への周知が必要です。  
  • 給与所得控除の最低保障額引上げ: 給与所得控除の最低保障額(給与収入が162.5万円までの場合に適用)が、現行の55万円から65万円に引き上げられます。 この結果、基礎控除(58万円)と合わせると、いわゆる「103万円の壁」が「123万円の壁」に変わります。 これは、パートタイムで働く配偶者などの働き方や、扶養控除の判定に大きな影響を与える可能性があります。  
  • 特定親族特別控除の創設: 新たに、年齢19歳以上23歳未満の特定扶養親族(大学生など)で、その親族の合計所得金額が一定額(例:123万円)以下である場合に適用される「特定親族特別控除」が創設されます。控除額は、その特定親族の合計所得金額に応じて変動し、最大で63万円(例:親族の合計所得金額が58万円超123万円以下の場合)となります。 この控除を受けるためには、従業員からの申告(「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出)が必要となり、企業側では新たな申告書の管理と扶養親族の所得確認が一層重要になります。  
  • ひとり親控除の拡充(予定): ひとり親控除の所得要件が現行の合計所得金額500万円以下から1,000万円以下に緩和され、所得税の控除額も現行の35万円から38万円に、住民税の控除額は30万円から33万円にそれぞれ引き上げられる予定です。 これにより、対象となるひとり親の範囲が広がり、税負担が軽減されます。  
  • 生命保険料控除の拡充(予定): 23歳未満の扶養親族がいる場合に限り、2012年(平成24年)1月1日以後に契約した新制度の一般生命保険料控除の適用限度額が、現行の4万円から6万円に引き上げられる予定です(一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の合計適用限度額12万円に変更はない見込み)。 該当する従業員は控除額が増加するため、申告書と控除証明書の確認が重要です。  
  • 扶養親族等の所得要件の改正: 基礎控除額の引上げなどに伴い、扶養控除や配偶者控除の対象となる扶養親族や同一生計配偶者の合計所得金額要件が、現行の48万円以下から58万円以下に改正されます。また、勤労学生控除の対象となる勤労学生の合計所得金額要件も、現行の75万円以下から85万円以下に引き上げられます。 これらの変更は、扶養控除の対象者判定に直接影響するため、従業員への正確な情報提供が不可欠です。  

これらの改正は、従業員の税負担を軽減する一方で、年末調整の計算や確認作業をより複雑にする可能性があります。特に「123万円の壁」への変更や「特定親族特別控除」の新設は、従業員からの問い合わせ増加も予想されるため、人事・労務担当者はこれらの内容を正確に理解し、分かりやすく説明できるように準備しておく必要があります。この複雑性の増加は、中小企業にとって専門家サポートの価値を一層高める要因とも言えるでしょう。

2025年(令和7年)年末調整 主な変更点まとめ

スクロールできます
項目2024年まで (参考)2025年 (令和7年) から備考
基礎控除48万円 (合計所得金額2400万円以下の場合)原則58万円 (合計所得金額2350万円以下の場合。所得に応じ段階的に加算あり、最大95万円 (合計所得132万円以下の場合) )所得制限の区分に変更あり。国税庁資料 が詳細。
給与所得控除最低保障額55万円最低保障額65万円
いわゆる「103万円の壁」103万円「123万円の壁」に (基礎控除58万円 + 給与所得控除65万円) 配偶者等の働き方に影響。
特定親族特別控除 (新設)なし19歳以上23歳未満の特定扶養親族で、合計所得金額が123万円以下の者を対象に、所得に応じ最大63万円控除 (例:合計所得58万円超123万円以下で63万円) 新しい申告書「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要
ひとり親控除 (拡充予定)所得要件500万円以下、控除額 所得税35万円/住民税30万円所得要件1000万円以下に緩和(予定)、控除額 所得税38万円/住民税33万円に増額(予定) 子の所得要件も基礎控除改正に伴い変更
生命保険料控除 (拡充予定)新一般生命保険料控除 上限4万円23歳未満の扶養親族がいる場合、新一般生命保険料控除の上限6万円に増額(予定) 全体の控除上限12万円は変更なし(予定)。
定額減税の報告令和7年度給与支払報告書の摘要欄に、令和6年分の定額減税に関する控除済額・控除外額、非控除対象配偶者減税有無の記載が必要 令和6年分の定額減税の精算・報告に関連。
扶養親族等の所得要件合計所得金額48万円以下 (例:扶養親族)合計所得金額58万円以下に改正 (例:扶養親族) 勤労学生の所得要件も75万円以下から85万円以下へ。

マイナンバーの取り扱いに関する再確認事項

年末調整手続きにおいて、マイナンバー(個人番号)の適切な取り扱いは非常に重要です。企業は、従業員本人だけでなく、控除対象となる配偶者や扶養親族のマイナンバーも、法令に基づいて収集・管理する必要があります。

確認事項詳細
収集時のルールマイナンバーを収集する際は、利用目的(年末調整手続きのためなど)を本人に明示し、厳格な本人確認(番号確認と身元確認)を行わなければなりません。
書類への記載「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」など、法令で定められた書類には、従業員本人および該当する親族のマイナンバーを正確に記載する必要があります。  
従業員への提供依頼収集したマイナンバーは、漏洩、滅失、毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じて保管しなければなりません。アクセスできる担当者を限定し、不要になったマイナンバーは速やかに、かつ安全な方法で廃棄する必要があります。 なお、源泉徴収簿や所得税徴収高計算書(納付書)にはマイナンバーの記載は不要です。
保管・管理収集したマイナンバーは、漏洩、滅失、毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じて保管しなければなりません。アクセスできる担当者を限定し、不要になったマイナンバーは速やかに、かつ安全な方法で廃棄する必要があります。 なお、源泉徴収簿や所得税徴収高計算書(納付書)にはマイナンバーの記載は不要です。
扶養親族の本人確認従業員から提出される扶養控除等申告書に記載された扶養親族等のマイナンバーについては、その従業員自身が本人確認を行うことになります。企業が直接、扶養親族の本人確認を行う必要はありません。  
外部委託時の注意点年末調整業務を外部に委託する場合でも、マイナンバーの取り扱いに関する委託先の監督責任は企業にあります。委託先が適切な安全管理措置を講じているか確認し、契約内容を明確に定めることが重要です。

マイナンバー制度は、適正な課税や社会保障の実現に不可欠なものですが、その取り扱いを誤ると法的な罰則のリスクも伴います。中小企業においては、マイナンバーの収集から保管、廃棄に至るまでのプロセス全体で、適切な管理体制を構築・維持することが求められます。不明な点があれば、専門家への相談も有効な手段です。

年末調整で「やってしまいがち」なミスとその具体的な防止策

年末調整は複雑な手続きであり、特にリソースが限られる中小企業では、意図せずミスが発生しやすい傾向があります。ここでは、中小企業が年末調整で陥りがちな代表的なミスと、その具体的な防止策について解説します。これらのミスは、税務上の問題だけでなく、従業員の不信感にも繋がりかねないため、事前の対策が重要です。

ミス事例1:控除申告書のチェック漏れと確認のポイント

よくあるミス: 従業員から提出された「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の保険料控除申告書」などの記載内容チェックが不十分で、記入漏れ、押印漏れ、計算誤り、必要書類の添付漏れなどを見逃してしまうケースです。 例えば、16歳未満の扶養親族の記載が扶養控除申告書になかったり、給与天引き以外の社会保険料(国民健康保険料など)の支払いを申告し忘れたりする従業員のミスを経理担当者が見逃すことがあります。  

具体的な防止策

  • 従業員向け説明資料の充実: 各申告書の記入例や注意点をまとめた分かりやすい資料を作成・配布し、従業員の理解を促します。特に変更点や間違いやすい箇所を強調します。
  • チェックリストの活用: 担当者向けに、申告書ごとに確認すべき項目(必須記載事項、押印、添付書類の有無、金額の整合性など)を網羅したチェックリストを作成し、確認漏れを防ぎます。
  • 提出時の一声確認: 書類回収時に、特に重要な項目(扶養親族の変更有無、保険料の支払い有無など)について従業員に口頭で確認するだけでも、単純なミスを発見しやすくなります。
  • 早期提出の奨励と余裕を持ったチェックスケジュール: 従業員に早めの書類提出を促し、担当者が余裕を持ってチェックできる時間を確保します。

これらの基本的な確認作業を徹底することで、後々の手戻りや計算誤りを大幅に減らすことができます。

ミス事例2:扶養親族等の情報の誤認と正しい確認方法

よくあるミス: 扶養控除や配偶者控除(配偶者特別控除を含む)の対象となる親族の条件を誤って解釈し、控除対象外の親族を申告したり、逆に控除可能な親族を申告し忘れたりするケースです。 例えば、配偶者の年間合計所得金額が基準額(例:令和6年分までは48万円、令和7年分からは58万円)を超えているにもかかわらず配偶者控除を申告したり、「生計を一にする」の解釈を誤り別居の親族を対象外としたりするケースが見られます。

具体的な防止策

  • 控除対象条件の分かりやすい周知: 扶養親族や配偶者の所得制限(2025年からの新しい基準を明記)、年齢要件、「生計を一にする」の具体的な意味(例:別居していても生活費を送金している学生の子など )などを、図やフローチャートを用いて分かりやすく説明します。  
  • 従業員への定期的な状況確認アナウンス: 年末調整前に、家族構成や扶養親族の所得状況に変更がないか、従業員に確認を促すアナウンスを行います。
  • 申告書提出時のヒアリング: 特に扶養状況に変動があった従業員や、判断に迷うケースについては、申告書提出時に担当者が簡単にヒアリングを行い、誤解がないか確認します。
  • 最新情報のキャッチアップ: 2025年の年末調整では、基礎控除や給与所得控除の変更に伴い扶養親族等の所得要件も変わるため 、常に最新の情報を基に対応することが不可欠です。  

扶養控除や配偶者控除は税額に大きく影響するため、正確な情報の把握と申告が求められます。特に2025年の改正は影響が大きいため、企業側からの丁寧な情報提供が従業員の誤りを防ぐ鍵となります。

ミス事例3:各種保険料控除の計算ミスと添付書類の不備

よくあるミス: 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除(国民年金保険料など従業員が直接支払ったもの)、小規模企業共済等掛金控除などの計算を誤ったり、必要な控除証明書の添付を忘れたり、証明書の内容と申告額が一致しなかったりするケースです。  

具体的な防止策

  • 保険料控除申告書の書き方ガイドの配布: 各保険料控除の種類、新制度・旧制度の区分(生命保険料)、控除額の計算方法、上限額などを分かりやすく解説したガイドを作成・配布します。
  • 控除証明書回収の徹底: 申告書提出時に、必ず対応する控除証明書(原本が必要な場合が多い)が添付されているか確認します。証明書の年度や名義人が正しいかもチェックします。
  • 計算ソフト・ツールの活用: 年末調整に対応した給与計算ソフトや専用ツールは、保険料控除額を自動計算してくれるため、計算ミスを防ぐのに有効です。
  • 従業員への注意喚起: 支払った保険料全額が控除されるわけではないこと(上限があること)、控除対象となるのは従業員本人が支払った保険料であることなどを明確に伝えます。

保険料控除は種類が多く、計算も複雑になりがちです。企業側でチェック体制を整えると共に、従業員自身が正しく申告できるようサポートすることが重要です。

ミス事例4:住宅ローン控除の適用誤りと必要書類

よくあるミス: 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を誤るケースです。特に多いのが、控除適用2年目以降の年末調整での申告漏れや、必要書類(税務署から送付される「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と金融機関発行の「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」)の提出漏れ・不備です。 また、控除適用初年度は年末調整では対応できず、従業員本人が確定申告を行う必要があることを知らずに、年末調整で申告しようとするケースも見られます。  

具体的な防止策

  • 対象者への個別リマインド: 過去の申告状況から住宅ローン控除2年目以降に該当する従業員を把握し、事前に必要書類と手続きについて個別にリマインドします。
  • 必要書類リストの事前配布: 控除適用2年目以降に必要な書類一式をリスト化し、早めに従業員に通知します。
  • 初年度と2年目以降の手続きの違いを明確に周知: 住宅ローン控除の初年度は確定申告が必要であること、2年目以降は年末調整で対応可能であることを、従業員に分かりやすく説明します。
  • 提出書類のチェック徹底: 提出された申告書と年末残高等証明書の内容(借入金残高、控除期間など)が一致しているか、申告書に漏れなく記載・押印されているかなどを丁寧に確認します。

住宅ローン控除は控除額が大きく、従業員の関心も高いため、企業として正確な情報提供と手続きのサポートを行うことが求められます。

ミス事例5:期限間際の対応による計算・納付遅延リスクと対策

よくあるミス: 年末調整の準備不足や従業員からの書類提出の遅れにより、チェックや計算作業が期限間際に集中し、焦りから計算ミスや確認漏れが発生しやすくなるケースです。最悪の場合、源泉所得税の納付遅延や法定調書の提出遅延に繋がり、延滞税や加算税といったペナルティが発生するリスクも伴います。

 

具体的な防止策

  • 早期からの計画的なスケジュール設定と周知徹底: 年末調整全体のスケジュールを早めに策定し、従業員への書類提出期限(社内期限)を明確に設定・周知します。公式の提出期限よりも余裕を持った社内期限を設定することが重要です。
  • 未提出者への段階的かつ丁寧なリマインド: 社内提出期限が近づいてきたら、未提出者に対して段階的に(例:1週間前、3日前、当日)リマインドを行います。単なる催促ではなく、困っていることがないか確認する姿勢も大切です。  
  • 業務の分散と担当者の明確化: 可能であれば、書類回収、チェック、計算といった各工程の担当者を分け、業務が特定の人に集中しないようにします。
  • 外部専門家の活用検討: 自社だけでの対応が困難な場合や、法改正への対応に不安がある場合は、早期に社労士などの専門家に相談し、サポートを依頼することも有効な対策です。
  • 年末調整システムの導入検討: 書類回収から計算までを効率化できる年末調整システムを導入することで、期限間際の業務集中を緩和できます。

年末調整は期限の定められた業務です。計画性の欠如や準備不足は、ミスを誘発し、最終的に企業のリスクに繋がります。早期からの準備と、従業員との円滑なコミュニケーションが、スムーズで正確な年末調整の鍵となります。

年末調整業務を劇的に効率化する3つのステップ

年末調整業務は、人事・労務担当者にとって年間で最も繁忙な時期の一つです。しかし、いくつかの工夫と準備によって、その負担を大幅に軽減し、業務を効率化することが可能です。ここでは、中小企業でも実践しやすい3つのステップに分けて、具体的なテクニックをご紹介します。これらの取り組みは、単に時間を短縮するだけでなく、ミスの削減や従業員満足度の向上にも繋がります。

ステップ1:事前の準備と従業員への的確なアナウンス方法

年末調整業務の効率化は、実際の作業が始まる前の「事前準備」の段階から始まっています。この段階での取り組みが、後の工程のスムーズさを大きく左右します。

まず、本格的な年末調整シーズンが始まる前の9月~10月頃から計画を立て始めることが重要です。 前年度の年末調整業務を振り返り、時間がかかった点、ミスが多かった点、従業員からの問い合わせが多かった点などを洗い出し、今年度の改善点を明確にします。また、国税庁のウェブサイトなどで最新の税制改正情報を確認し、申告書の様式変更や新たな控除制度の有無などを把握しておきます。  

次に、全従業員に対して、年末調整の意義、おおまかなスケジュール、提出が必要な書類、社内での提出期限、そして今年度の主な変更点などを、できるだけ早い段階で、かつ明確にアナウンスします。 アナウンスは、メールだけでなく、社内掲示板や朝礼など、複数のチャネルを活用すると効果的です。対象者別に必要な書類をリスト化して配布したり、前年の書類を参考にしながら変更点を具体的に伝えたりすることも、従業員の理解を助け、後の問い合わせを減らすことに繋がります。  

年末調整説明会の開催と資料配布のコツ

特に新入社員が多い場合や、2025年のように税制改正が大きい年には、従業員向けの年末調整説明会を開催することが非常に有効です。  

説明会の目的と内容: 説明会の主な目的は、年末調整の全体像を理解してもらい、申告書の正確な記入を促し、よくある間違いを未然に防ぐことです。内容は、今年度の主な変更点(特に2025年の各種控除制度の改正や定額減税の取り扱いなど)、各申告書の具体的な書き方(記入例を用いて)、扶養控除や保険料控除などの注意点、提出期限などを網羅します。

資料配布のコツ: 配布資料は、文字だけでなく図解や実際の申告書の記入例を多く盛り込み、視覚的に分かりやすいものにすることが重要です。専門用語は避け、平易な言葉で解説します。よくある質問とその回答(FAQ)を事前にまとめて資料に含めておくと、従業員が後で参照しやすくなります。説明会の資料は、社内イントラネットなどで電子的に共有し、いつでも閲覧できるようにしておくと、欠席者へのフォローや後日の確認にも役立ちます。

開催方法: 対面形式だけでなく、オンライン形式での開催も検討できます。いずれの場合も、質疑応答の時間を十分に確保し、従業員が疑問点をその場で解消できるように配慮することが大切です。説明会を録画しておけば、後から見返すことも可能になります。

このような説明会と質の高い資料は、従業員の不安を軽減し、提出される申告書の精度を高めるため、結果として人事・労務担当者のチェック作業の負担軽減に繋がります。

従業員からのよくある質問とFAQの準備

年末調整の時期には、従業員から多くの質問が寄せられることが予想されます。これらの質問に個別に対応するのは、人事・労務担当者にとって大きな負担となります。そこで、事前に「よくある質問(FAQ)」を作成し、従業員に共有することが業務効率化に繋がります。  

FAQの作成手順

  • 過去の問い合わせ内容の収集: 前年度までの年末調整で、従業員からどのような質問が多かったかをリストアップします。
  • 今年度の変更点に関する予想される質問の追加: 2025年の税制改正点(例:「123万円の壁とは?」「特定親族特別控除の対象になるのは?」など)について、予想される質問とその回答を準備します。
  • 基本的な質問の網羅: 「扶養とは具体的にどういうことか?」「この保険は控除対象になりますか?」「申告書のこの欄には何を書けばいいですか?」といった基本的な質問もカバーします。
  • 分かりやすい言葉で回答を作成: 専門用語を避け、誰にでも理解できるように平易な言葉で回答を作成します。必要に応じて図や具体例を用います。

FAQの共有方法と更新

作成したFAQは、社内イントラネット、共有フォルダ、メールなどで全従業員に周知します。年末調整に関するアナウンス資料や説明会資料にもFAQへのリンクを記載しておくと効果的です。FAQは一度作成したら終わりではなく、毎年の法改正や制度変更、新たに従業員から寄せられた質問などを踏まえて、定期的に内容を見直し、更新していくことが重要です。

充実したFAQは、従業員が自己解決できる範囲を広げ、人事・労務担当者への問い合わせ件数を大幅に削減し、担当者がより重要な業務に集中できる環境を作る上で非常に有効なツールとなります。

ステップ2:書類回収・チェック業務の効率的な進め方

年末調整業務の中で、特に時間と手間がかかるのが、従業員からの申告書類の回収と、その内容チェックです。このステップをいかに効率的に進めるかが、全体の業務負担を左右します。

まず、書類の提出期限を厳守してもらうための工夫が必要です。社内での提出期限を明確に設定し、期限が近づいてきたら未提出者に対して複数回リマインドメールを送るなどの措置を講じます。 回収方法も、単に担当者のデスクに提出するだけでなく、部署ごとにまとめて回収担当者を決めたり、可能であればオンライン提出システムを活用したりすることも検討できます。  

回収した書類は、速やかに一次チェックを行います。この一次チェックを行う担当者を事前に明確にしておくことで、作業の遅延や重複を防ぎます。

回収状況の見える化と未提出者へのリマインド

年末調整の申告書類を効率的に回収するためには、誰がどの書類をいつ提出したのか、また未提出者は誰なのか、といった回収状況を「見える化」することが非常に重要です。

回収管理表の作成・共有

Excelやスプレッドシート、あるいは専用の年末調整システムなどを活用して、従業員ごとの書類提出状況(例:扶養控除等申告書、保険料控除申告書、各種証明書の提出有無など)を一覧で管理できる「回収管理表」を作成します。この管理表は、関係者間で共有できるようにしておくと、進捗状況の把握が容易になります。

未提出者への個別フォローアップと段階的リマインド

社内提出期限を過ぎても未提出の従業員に対しては、個別にかつ段階的にリマインドを行います。  

  • 初期リマインド: 期限直後や翌日などに、まずは提出のお願いと、何か困っていることがないかを確認する比較的ソフトなリマインドを行います。
  • 中間リマインド: それでも提出がない場合は、再度提出期限を伝え、遅延理由の確認や必要なサポート(記入方法の再説明など)を申し出ます。
  • 最終リマインド: 最終的な社内デッドラインを設け、それまでに提出がない場合の影響(例:年末調整が受けられず自身で確定申告が必要になる可能性など)を具体的に伝えます。

リマインドは、単に提出を促すだけでなく、従業員が提出できない背景にある問題(書類の紛失、記入方法の不明点など)を早期に発見し、解決に繋げる機会ともなります。見える化された回収状況に基づいて、計画的かつ丁寧なフォローアップを行うことが、スムーズな書類回収の鍵です。

チェックリストの活用とダブルチェック体制

回収した申告書類の内容を正確にチェックすることは、年末調整のミスを防ぐ上で最も重要な工程の一つです。このチェック作業の精度と効率を上げるためには、チェックリストの活用とダブルチェック体制の導入が効果的です。

項目別チェックリストの作成と活用: 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」など、主要な申告書ごとに、確認すべき具体的なポイントを網羅したチェックリストを作成します。 チェックリストには、以下のような項目を含めます。

  • 従業員情報(氏名、住所、マイナンバーなど)の記載漏れ・誤りはないか。
  • 押印(または署名)はされているか。
  • 扶養親族の氏名、続柄、生年月日、所得の見積額は正しく記載されているか。
  • 各種控除証明書(保険料、住宅ローンなど)は添付されているか、また証明書の内容と申告額は一致しているか。
  • マイナンバーの記載は適切か。
  • 計算が必要な項目(保険料控除額など)に誤りはないか。

担当者はこのチェックリストに基づいて一つ一つ確認作業を行うことで、見落としを防ぎ、均質なチェックレベルを保つことができます。

ダブルチェック体制の構築: ヒューマンエラーを完全に防ぐことは難しいため、一人の担当者による一次チェックの後、可能であれば別の担当者が再度チェックを行う「ダブルチェック体制」を導入することが推奨されます。 特に、扶養人数の多い従業員や、住宅ローン控除など控除額が大きい複雑なケースについては、重点的にダブルチェックを行うと効果的です。 中小企業で人員が限られている場合でも、例えば経理担当者と人事担当者が相互にチェックし合うなど、工夫次第でダブルチェック体制を構築することは可能です。  

チェックリストとダブルチェック体制は、手間がかかるように感じるかもしれませんが、これらを導入することで、後工程での手戻りや、最悪の場合の税務署からの指摘リスクを大幅に軽減できます。結果として、年末調整業務全体の効率化と品質向上に繋がる重要な取り組みです。

ステップ3:年末調整関連ソフト・ツールの活用

年末調整業務の効率化において、ITツールの活用は非常に有効な手段です。特に近年は、クラウド型の年末調整システムや、年末調整機能を備えた給与計算ソフトが多数提供されており、中小企業でも導入しやすくなっています。  

適切なソフト・ツールを選定し活用することで、年末調整業務の大部分を自動化・効率化し、担当者はより戦略的な業務に時間を割くことが可能になります。

クラウド型年末調整システムのメリット・デメリット

クラウド型の年末調整システムは、近年のペーパーレス化や働き方改革の流れの中で、多くの企業で導入が進んでいます。その主なメリットとデメリットは以下の通りです。

メリット

  • ペーパーレス化の推進: 従業員はオンラインで申告書を作成・提出でき、企業側も紙の書類を扱う必要が大幅に減ります。これにより、印刷、配布、回収、保管にかかる手間とコストを削減できます。  
  • 場所を選ばないアクセス: インターネット環境があれば、人事担当者も従業員もどこからでもシステムにアクセスして作業が可能です。テレワーク中の従業員が多い企業には特に有効です。
  • 自動計算によるミス削減: 複雑な所得税計算や各種控除額の計算がシステムによって自動で行われるため、手計算によるミスを大幅に減らすことができます。
  • 法改正への自動アップデート: 税制改正や申告書の様式変更があった場合、クラウドサービス提供者側でシステムが自動的にアップデートされるため、企業側で個別に対応する手間が省けます。  
  • 従業員による直接入力の促進: 従業員自身がシステムに直接情報を入力するため、担当者による転記作業が不要になり、転記ミスも防げます。また、入力時にシステムがエラーチェックを行うことで、申告内容の精度向上も期待できます。
  • 進捗管理の効率化: 従業員の申告状況や書類の提出状況をリアルタイムで把握でき、未提出者へのリマインドもシステムから一括で行えるなど、進捗管理が容易になります。

デメリット

  • 月額利用料の発生: クラウドサービスであるため、一般的に月額または年額の利用料金が発生します。従業員数に応じた課金体系の場合、コストが変動する可能性もあります。  
  • インターネット環境必須: システムの利用には安定したインターネット接続環境が不可欠です。
  • セキュリティ対策の確認: 従業員の重要な個人情報を外部のサーバーに預けることになるため、サービス提供者のセキュリティ対策(データの暗号化、アクセス管理、バックアップ体制など)を十分に確認し、信頼できるサービスを選定する必要があります。  
  • 自社独自の処理への対応限界: パッケージ化されたサービスであるため、企業の非常に特殊な給与体系や独自の年末調整プロセスに完全には適合しない場合があります。カスタマイズの自由度は低い傾向にあります。  
  • 初期学習コスト: 新しいシステムを導入する際には、人事担当者および全従業員が操作方法を習得するための時間と労力(初期学習コスト)が必要です。  

これらのメリット・デメリットを総合的に比較検討し、自社の状況やニーズに最も適したクラウド型年末調整システムを選定することが、導入成功の鍵となります。

給与計算ソフトとの連携でさらに効率アップ

年末調整業務の効率を飛躍的に高めるためには、年末調整システム(または年末調整機能)と給与計算ソフトとのスムーズなデータ連携が非常に重要です。  

連携による主なメリット

  • 従業員情報の自動同期: 給与計算ソフトに登録されている従業員の氏名、住所、生年月日、入社年月日、社会保険情報などの基本情報が、年末調整システムに自動的に同期されます。これにより、年末調整のためだけに再度従業員情報を入力する手間が省け、情報の二重管理を防ぎます。
  • 給与・賞与データの自動取り込み: その年の1月1日から12月31日までに支払われた給与や賞与の金額、源泉徴収された所得税額、社会保険料などのデータが、給与計算ソフトから年末調整システムへ自動的に取り込まれます。これにより、手作業での集計や転記が不要になり、ミスが大幅に削減されます。
  • 年末調整結果の給与計算への自動反映: 年末調整システムで計算された所得税の過不足額(還付額または追徴額)が、給与計算ソフトに自動的に反映され、12月の最終給与や翌年1月の給与での精算処理がスムーズに行えます。
  • データ整合性の向上: システム間でデータが自動連携されることで、手作業による入力ミスや転記ミスがなくなり、データの正確性と整合性が向上します。
  • 作業時間の大幅な短縮: 上記のような自動化により、年末調整にかかる全体の作業時間が大幅に短縮され、人事・労務担当者は他の重要な業務に集中できるようになります。

給与計算ソフトと年末調整システムが一体型になっている製品を選ぶか、あるいはAPI連携などでシームレスにデータ連携できる製品を選ぶことが、最大限の効率化効果を得るためのポイントです。導入を検討する際には、この連携機能の有無や質を必ず確認しましょう。

年末調整、自社で対応?専門家(社労士・税理士)に依頼?メリット・デメリットを徹底比較

年末調整は、企業にとって避けて通れない重要な業務ですが、その対応方法にはいくつかの選択肢があります。自社で全ての業務を行うのか、それとも専門家である社労士や税理士に一部または全部を依頼するのか。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを比較し、中小企業がどのような基準で判断すべきかについて解説します。この判断は、単にコストの問題だけでなく、業務の正確性、担当者の負担、そして何よりも法改正への適切な対応といったリスク管理の観点からも重要です。

自社で年末調整を行う場合のメリット・デメリット

年末調整業務を完全に自社内で行う場合、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。

メリット

  • 直接的なコスト削減の可能性: 外部の専門家に委託する費用が発生しないため、短期的にはコストを抑えられる可能性があります。ただし、担当者の人件費や作業時間を考慮すると、実質的なコスト削減になるかは慎重な判断が必要です。
  • 社内ノウハウの蓄積: 自社で業務を行うことで、年末調整に関する知識や経験が社内に蓄積され、担当者のスキルアップに繋がることが期待できます。
  • 従業員情報の直接管理: 従業員の個人情報や給与情報を外部に出すことなく、自社内で直接管理できるため、情報セキュリティに関するコントロールがしやすい側面があります。
  • 柔軟な対応: 社内の事情に合わせて、業務の進め方やスケジュールを比較的柔軟に調整できます。

デメリット

  • 担当者の業務負担増大: 年末調整業務は非常に煩雑で時間を要するため、特に専任担当者がいない中小企業では、他の業務を圧迫し、担当者の残業時間増加や心身の負担増大に繋がる可能性があります。  
  • 法改正への対応の困難さ: 税法や関連法規は毎年のように改正されます。これらの最新情報を正確にキャッチアップし、実務に反映させることは専門知識がないと難しく、対応が遅れたり誤ったりするリスクがあります。  
  • 専門知識不足によるミスリスク: 複雑な控除計算や申告書のチェックには専門的な知識が求められます。知識不足や経験不足から計算ミスや申告漏れが発生し、追徴課税や加算税といったペナルティを受ける可能性があります。
  • コア業務への時間圧迫: 人事・労務担当者が年末調整業務に多くの時間を割かれることで、採用活動、人材育成、労務管理といった本来注力すべきコア業務への取り組みが疎かになる可能性があります。
  • 担当者退職時のノウハウ喪失リスク: 特定の担当者に業務が集中している場合、その担当者が退職すると社内のノウハウが失われ、業務の継続が困難になるリスクがあります。

自社で対応するかどうかは、これらのメリット・デメリットを総合的に比較し、自社の規模、担当者のスキル、業務量、そして許容できるリスクレベルを考慮して判断することが重要です。

社労士に年末調整関連業務を依頼するメリット

年末調整の業務は、税務申告という側面が強いため、税額計算や税務署への申告書類作成・提出といった中核業務は税理士の専門分野です。しかし、社会保険労務士(社労士)も、年末調整に関連する様々な側面で企業をサポートし、業務の適正化と効率化に貢献できます。社労士に年末調整「関連業務」を依頼する主なメリットは以下の通りです。

法改正への確実な対応と専門的アドバイス

社労士は労働法規や社会保険制度の専門家であり、これらの法改正が年末調整に与える影響(例えば、社会保険料控除の正しい理解、育児休業中の従業員の取り扱い、マイナンバーの適切な管理など)について的確なアドバイスを提供できます。 また、税制改正が賃金規程や手当に与える影響など、労務管理全般の視点からの助言も期待できます。これにより、企業は法改正に適切に対応し、コンプライアンスを確保することができます。  

業務負担の軽減とコア業務への集中

社労士に年末調整の準備段階のサポート(例:従業員向け説明資料の作成支援、必要書類の整理方法のアドバイス)や、関連する労務相談、プロセスの見直しなどを依頼することで、人事・労務担当者の直接的な作業負担や、制度理解にかかる時間を軽減できます。 これにより、担当者は年末調整の繁忙期であっても、採用活動や人事評価、労務トラブル対応といった、より戦略的なコア業務に集中できるようになります。  

ミス防止とコンプライアンス体制の強化

社労士は、年末調整に必要な従業員情報の収集・管理プロセス(特にマイナンバーの取り扱いなど)が、個人情報保護法や関連法規に準拠しているかといった観点からアドバイスを行うことができます。また、扶養控除等申告書の内容確認における労務的な注意点(例:扶養家族の社会保険加入状況の確認など)を指導することで、間接的にミスを防止し、企業全体のコンプライアンス体制の強化に貢献します。  

社労士は、税理士とは異なる専門性を活かし、年末調整業務を円滑に進めるための基盤づくりや、関連する労務管理上の課題解決をサポートする存在と言えるでしょう。

社労士に年末調整関連業務を依頼する際の費用感

社労士に年末調整関連のサポート業務を依頼する際には、費用感について理解しておくことが重要です。

費用感: 社労士に年末調整関連業務を依頼する場合の費用は、依頼する業務内容、企業の従業員規模、社労士事務所の方針などによって大きく異なります。一般的に、以下のような料金体系が考えられます。

  • スポット契約(プロジェクト型): 年末調整の特定のサポート業務(例:従業員向け説明会の実施、関連規程のレビューなど)に対して、個別の見積もりで費用が発生します。
  • 顧問契約の範囲内: 既に社労士と顧問契約を結んでいる場合、年末調整に関する相談や簡易なアドバイスが顧問料の範囲内で対応されることもあります。ただし、具体的な資料作成や研修実施などは別途費用が発生することが一般的です。
  • コンサルティング費用: 年末調整業務全体のプロセス改善コンサルティングなどの場合は、時間単価やプロジェクト単位での費用設定となります。

具体的な費用については、複数の社労士事務所に見積もりを依頼し、サービス内容と費用を比較検討することをお勧めします。例えば、従業員向け説明会の講師を依頼する場合は数万円~、年末調整プロセスの設計支援コンサルティングの場合は数十万円~といったケースが考えられますが、あくまで目安です。  

社労士への年末調整関連業務委託 費用目安(サポート業務の場合)

サービス内容例費用目安(スポット契約の場合)備考
年末調整プロセスに関する相談・アドバイス1回あたり ¥10,000 ~ ¥50,000相談時間や内容の複雑さによる
従業員向け年末調整説明会の企画・講師¥50,000 ~ ¥150,000参加人数、資料作成の有無、開催時間による
年末調整関連の社内規程・マニュアル作成支援¥100,000 ~作成する規程・マニュアルの範囲やボリュームによる
マイナンバーの適正な取り扱いに関する指導・監査¥50,000 ~企業の規模や現状の管理体制による

上記はあくまで一般的な目安であり、個別の状況によって費用は変動します。

年末調整に関するよくあるご質問(Q&A)

年末調整に関しては、毎年多くのご質問が寄せられます。ここでは、特に中小企業の経営者様や人事・労務担当者様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1. 年末調整を忘れた・間違えた場合、どうすればいいですか?

A1. 年末調整の申告を忘れたり、内容を間違えたりした場合の対処法は、状況によって異なります。

  • 勤務先での再調整: 原則として、翌年の1月末日(給与支払報告書の提出期限)までであれば、勤務先に申し出て年末調整をやり直してもらえる可能性があります。 企業側で対応可能かどうか、まずは速やかに人事・労務担当者に相談してください。  
  • 従業員本人による確定申告: 勤務先での再調整が間に合わない場合や、企業側で対応できない場合は、従業員本人が確定申告を行うことで正しい税額に訂正できます。確定申告の期間は、通常、年末調整の対象となった年の翌年2月16日から3月15日までです。  
  • 還付申告: 年末調整で控除漏れがあり、所得税を納め過ぎていた場合には、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間「還付申告」を行うことができます。  

いずれの場合も、放置せずに速やかに正しい手続きを行うことが重要です。

Q2. 副業をしている従業員の年末調整はどうなりますか?

A2. 副業をしている従業員の年末調整は、原則として「主たる給与」の支払者である1社(通常は最も給与収入が多い勤務先)でのみ行います。 従業員は、主たる給与の支払者に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、年末調整を受けます。  

従たる給与(副業先からの給与)については、通常、年末調整の対象とはなりません。そのため、多くのケースでは、主たる給与と従たる給与の収入を合算し、従業員本人が確定申告を行う必要があります。  

ただし、副業の所得(給与所得および退職所得以外の所得)が年間20万円以下であるなど、一定の条件を満たす場合には確定申告が不要となることもあります。 しかし、この場合でも住民税の申告は別途必要になる点に注意が必要です。  

企業としては、副業をしている従業員に対して、年末調整の基本的なルールを説明し、必要に応じて確定申告を行うよう促すことが大切です。

Q3. 医療費控除やふるさと納税は年末調整でできますか?

A3. 医療費控除とふるさと納税(寄付金控除)は、どちらも年末調整では手続きできません。これらの控除を受けるためには、従業員本人が確定申告を行う必要があります。

 

  • 医療費控除: 1年間に支払った医療費が一定額を超える場合に受けられる所得控除です。年末調整では申告できないため、会社員であっても確定申告が必要です。  
  • ふるさと納税(寄付金控除): 応援したい自治体に寄付を行った場合に受けられる控除です。これも年末調整の対象外です。 ただし、ふるさと納税には「ワンストップ特例制度」があります。これは、確定申告が不要な給与所得者で、年間の寄付先が5自治体以内であるなどの条件を満たす場合に限り、確定申告をせずに寄付金控除(住民税からの控除)を受けられる制度です。 ワンストップ特例制度を利用しない場合や、医療費控除など他の理由で確定申告を行う場合には、ふるさと納税分も合わせて確定申告で申告する必要があります。  

企業の人事・労務担当者としては、これらの控除は年末調整では扱えないことを従業員に伝え、必要な場合は確定申告を行うよう案内することが求められます。

Q4. 産休・育休中の従業員の年末調整は必要ですか?

A4. はい、産前産後休業(産休)や育児休業(育休)中の従業員であっても、その年の12月31日時点で会社に在籍していれば、原則として年末調整の対象となります。  

パターン詳細
その年に給与収入がある場合 産休・育休に入る前に給与収入があったり、休業中に一部給与が支払われたりした場合は、その収入に基づいて通常通り年末調整を行います。
社会保険料の控除産休・育休期間中は社会保険料が免除されることが多いですが、免除される前に支払った社会保険料や、休業中に従業員自身が任意継続などで支払った国民健康保険料・国民年金保険料などは、本人の申告に基づき社会保険料控除の対象となります。
その他の控除生命保険料控除、地震保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金なども、従業員が支払っていれば控除の対象として申告できます。  
非課税所得の扱い産休・育休中に受け取る出産手当金、出産育児一時金、育児休業給付金などは非課税所得ですので、年末調整の計算には含めません。  
配偶者控除・配偶者特別控除産休・育休中の従業員本人の所得が大幅に減少した結果、その配偶者が年末調整で配偶者控除や配偶者特別控除を受けられるようになる場合があります。この場合は、配偶者の勤務先で手続きが必要です。  

 企業としては、産休・育休中の従業員にも年末調整の案内を行い、申告書類の提出を促す必要があります。連絡が取りにくい場合もあるため、早めの対応が肝心です。

Q5. 年末調整の書類はいつまで保管が必要ですか?

A5. 年末調整に関連する書類の保管期間は、法律で定められています。

  • 企業(給与支払者)の保管義務: 従業員から提出を受けた「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」、「給与所得者の配偶者控除等申告書」、「給与所得者の保険料控除申告書」などの年末調整に関する申告書類は、その申告書の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する必要があります。 また、年末調整の計算の基礎となる「源泉徴収簿」についても、同様に7年間の保存義務があります。 これらの書類は、税務署から提出を求められた場合には提出しなければなりません。  
  • 従業員自身が受け取る源泉徴収票: 従業員が会社から受け取る「給与所得の源泉徴収票」については、法律上の明確な保管義務期間は定められていません。しかし、確定申告を行う場合(医療費控除、住宅ローン控除初年度など)、転職した場合の新しい勤務先への提出、住宅ローンなどの各種ローン審査、公的な手当の申請などで必要になることがあります。そのため、少なくとも5年程度は大切に保管しておくことをお勧めします。

企業は、法定保存期間を守り、これらの重要書類を適切に管理する体制を整える必要があります。紙媒体での保管だけでなく、一定の要件を満たせば電子データでの保存も認められています。

まとめ

年末調整は、毎年の法改正への対応や煩雑な事務手続きが求められる、企業にとって非常に重要な業務です。特に2025年(令和7年)の年末調整では、定額減税の調整や各種控除制度の改正など、経営者様や人事・労務担当者様が押さえておくべきポイントが多数あります。

本記事で解説した基礎知識、最新情報、中小企業特有の注意点や効率化のステップが、皆様の年末調整業務の一助となれば幸いです。正確な知識と計画的な準備が、ミスのないスムーズな年末調整を実現し、企業の信頼を守ることに繋がります。 もし、年末調整に関する具体的なお悩みや、日々の労務管理に関する課題、業務負担の軽減について専門家のアドバイスが必要でしたら、どうぞご遠慮なくご相談ください。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

目次