解雇のリスクとは?よくあるトラブル事例と失敗しないための対策【社労士解説】

中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、「従業員の解雇」は非常にデリケートで、できれば避けたい問題ではないでしょうか。しかし、残念ながら、企業の経営状況や従業員の状況によっては、解雇を検討せざるを得ない場面も起こり得ます。その際、多くの方が抱えるのは、「解雇にはどんなリスクがあるのだろうか?」「万が一、トラブルになったらどうしよう…」といった漠然とした不安や、失敗できないというプレッシャーかもしれません。

この記事では、そのような経営者様や人事担当者様の不安に寄り添い、従業員の解雇に伴う多岐にわたるリスクを具体的に解説します。さらに、それらのリスクを最小限に抑えるための具体的な予防策、そして、専門家である社会保険労務士(社労士)に相談するタイミングやメリットについて、分かりやすくお伝えします。

この記事を最後までお読みいただくことで、解雇に関する「うちの会社は大丈夫だろうか…」という切実な問いに光を当て、具体的な対策を講じるための一歩を踏み出すためのお手伝いができれば幸いです。

目次

解雇が抱える“目に見えないリスク”とは?

従業員の解雇を検討する際、多くの経営者様がまず懸念されるのは、解雇そのものの手続きや、解雇する従業員との関係性かもしれません。しかし、解雇には、それ以外にも企業経営に深刻な影響を与えうる、いわば“目に見えないリスク”が数多く潜んでいます。これらのリスクを事前に理解し、対策を講じることが、企業を守る上で極めて重要です。

知っておくべき!解雇の法的な定義と種類

まず基本として、解雇の法的な意味合いと、その種類を正確に把握しておく必要があります。この理解が曖昧なまま進めてしまうと、思わぬ法的トラブルに発展する可能性があります。

解雇の法的定義と労働契約法第16条

解雇とは、使用者(会社側)からの一方的な意思表示によって、労働契約を終了させることを指します 。しかし、日本の労働法では、使用者が自由に解雇できるわけではありません。労働契約法第16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています 。これは「解雇権濫用の法理」と呼ばれ、解雇が有効と認められるためには、誰もが納得できるような正当な理由と、社会の常識に照らして妥当であると判断されることが必要であることを意味します。  

中小企業の経営者様や人事担当者様が陥りやすいのが、この「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の判断の難しさです。例えば、「期待したほど仕事ができない」「他の社員と上手くやっていけない」といった主観的な理由だけでは、法的に正当な解雇理由とは認められにくいのが実情です。専門的な知識がないまま安易に解雇を進めてしまうと、後々「不当解雇」として大きな問題に発展するケースが後を絶ちません。

解雇の主な種類とそれぞれの特徴

解雇は、その理由や性質によって、主に以下の種類に分けられます。それぞれの特徴を理解し、自社の状況がどれに該当する可能性があるのかを見極めることが重要です。

普通解雇とは?

普通解雇は、従業員側に起因する理由により、労働契約の継続が困難と判断される場合に行われる解雇です 。典型的な理由としては、従業員の著しい能力不足、成績不良、協調性の欠如、度重なる職務怠慢、私傷病による長期間の就労不能などが挙げられます 。ただし、これらの理由があるからといって直ちに解雇が認められるわけではなく、改善のための指導や機会提供、他の職務への配置転換の検討など、企業側が解雇を回避するための努力を尽くしたかどうかが問われます 。  

整理解雇とは?

整理解雇は、企業の経営不振や事業再編など、経営上の理由によって人員削減が必要となった場合に行われる解雇です 。いわゆる「リストラ」がこれに該当します。整理解雇が有効と認められるためには、判例上、以下の4つの要素(または要件)を総合的に考慮して判断されます 。

  1. 人員削減の必要性(本当に人員削減が必要な経営状態か)
  2. 解雇回避努力義務の履行(配置転換、希望退職者の募集など、解雇を避けるために十分な努力をしたか)
  3. 被解雇者選定の合理性(解雇対象者の選び方に客観的で合理的な基準があるか)
  4. 手続の相当性(労働組合や従業員に対して十分な説明・協議を行ったか)
懲戒解雇・諭旨解雇とは?

懲戒解雇は、従業員が企業の秩序を著しく乱すような重大な規律違反や非違行為(例:業務上横領、重大なハラスメント、機密情報の漏洩、正当な理由のない長期間の無断欠勤、重要な経歴詐称など)を犯した場合に、懲戒処分として行われる最も重い解雇です 。懲戒解雇を行うためには、就業規則に懲戒事由と懲戒解雇に関する規定が明確に定められており、その規定が従業員に周知されていることが前提となります 。また、解雇予告手当の支払いが不要となる場合がありますが、そのためには労働基準監督署長の認定が必要です(労働基準法第20条第1項ただし書、同条第3項)。 諭旨解雇(または諭旨退職)は、懲戒解雇に相当する重大な規律違反があったものの、本人の反省の度合いやこれまでの貢献度などを考慮し、企業が情状酌量して懲戒解雇よりも一段階軽い処分として行うものです 。通常、従業員に退職届の提出を促し、それに応じて解雇するという形を取ります。

 

これら解雇の種類を正確に区別せず、例えば「能力不足」を理由に懲戒解雇を試みるなど、誤った手続きを選択してしまうと、それだけで解雇が無効となるリスクが高まります。中小企業では、専門の人事・法務部門がないことも多く、経営者や人事担当者がこれらの法的ニュアンスを十分に理解しないまま判断してしまう「カテゴライズの罠」に陥りがちです。どの種類の解雇に該当し得るのか、慎重な検討が必要です。

解雇の種類別 特徴と主な解雇理由

解雇の種類法的性質・定義主な解雇理由例特に注意すべき点
普通解雇従業員側の個人的な理由による労働契約の継続困難能力不足、成績不良、協調性欠如、職務怠慢、私傷病による就労不能改善指導、配置転換等の解雇回避努力が求められる。客観的・合理的理由と社会的相当性が厳格に判断される
整理解雇会社側の経営上の理由による人員削減経営不振、事業縮小、事業所の閉鎖整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性)を満たす必要がある
懲戒解雇従業員の重大な規律違反に対する制裁処分業務上横領、重大なハラスメント、長期間の無断欠勤、経歴詐称就業規則に明確な根拠規定と周知が必要。弁明の機会付与など適正な手続きが不可欠
諭旨解雇懲戒解雇に相当するが情状酌量により処分を軽減懲戒解雇事由に該当するが、反省の情が見られる場合など従業員に退職届の提出を促す形を取ることが多い。懲戒処分の一種であることに変わりはない。

不当解雇と訴訟リスクの深刻度

従業員の解雇が「不当解雇」であると裁判所などに認定された場合、企業は計り知れないほど大きなダメージを被る可能性があります。これは、単に金銭的な問題に留まらず、企業の存続そのものに関わる事態に発展しかねないため、経営者が最も恐れるリスクの一つと言えるでしょう。

不当解雇と認定された場合の法的帰結

不当解雇と判断されると、その解雇は法的に無効となります 。これは、解雇された従業員が依然としてその企業の従業員としての地位を有していることを意味します(地位確認)。企業は、解雇した従業員を原則として元の職場に復職させなければならない義務を負うことになります 。  

訴訟に発展した場合の企業側の負担

従業員が解雇の有効性を争う場合、労働審判や訴訟といった法的手続きに発展することがあります 。これらの手続きに対応するためには、多大な時間と費用、そして経営者や人事担当者の精神的なエネルギーが費やされます。特に訴訟は長期化しやすく、数年に及ぶことも珍しくありません 。中小企業にとって、このような長期にわたる紛争は、経営資源の著しい消耗を意味し、本業への集中を妨げる大きな要因となります。  

大企業であれば、訴訟費用やそれに伴う時間的コストを「事業運営上のコスト」としてある程度吸収できる体力があるかもしれません。しかし、リソースの限られる中小企業にとっては、一つの解雇紛争が経営の根幹を揺るがすほどの負担となり得るのです。経営者自身が訴訟対応に忙殺され、事業戦略や日々のオペレーションが疎かになるケースも少なくありません。この「法的紛争における規模の非対称性」は、中小企業が特に解雇リスクの予防に注力すべき理由の一つです。

バックペイ(未払い賃金)と復職の二重苦

不当解雇と認定された場合、企業は解雇期間中に支払われるべきであった賃金、いわゆる「バックペイ」を遡って支払う義務を負います 。紛争が長期化すれば、バックペイの金額は数年分に及び、数百万円から場合によっては1千万円を超える高額な支払い命令が下されることもあります 。  

さらに深刻なのは、この金銭的負担に加えて、不当解雇とされた従業員を復職させなければならないという点です 。一度解雇した従業員を再び職場に受け入れることは、企業にとっても、他の従業員にとっても、そして復職する本人にとっても複雑な感情や困難を伴うことがあります。職場の雰囲気の悪化、他の従業員の士気低下、そして復職した従業員のマネジメントの難しさなど、金銭では解決できない問題が生じる可能性があります。この「バックペイ支払い」と「復職義務」という二重の負担は、特にチームワークや従業員間の信頼関係が重視される中小企業にとって、経営の安定性を著しく損なう「ダブルジョパディ」と言えるでしょう。  

金銭的な負担 | 解雇予告手当や解決金の発生

解雇に伴う金銭的な負担は、バックペイだけに限りません。たとえ解雇が法的に有効であったとしても、あるいは紛争を避けるために和解に至ったとしても、様々な費用が発生する可能性があります。

解雇予告と解雇予告手当

労働基準法第20条により、企業が従業員を解雇する場合には、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があります 。もし30日前に予告をしない(またはできない)場合には、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません 。例えば、即日解雇する場合には、30日分の解雇予告手当の支払いが必要です。この解雇予告手当は、解雇の有効性とは別に発生する、法律で定められた企業の義務です。  

解雇予告手当の計算は、解雇日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数で割った「平均賃金」を基準に行われます 。  

解決金という名のコスト

解雇を巡って従業員と紛争になった場合、労働審判や訴訟の過程で、あるいはそれ以前の交渉段階で「和解」によって解決を図るケースが多くあります。その際、企業側から従業員に対して「解決金」が支払われるのが一般的です 。解決金の相場は、一般的に従業員の賃金の3ヶ月分から6ヶ月分程度と言われていますが、事案の悪質性や解雇理由の正当性の度合い、紛争の長期化の見込みなどによっては、賃金の1年分以上の高額な解決金が支払われるケースも少なくありません 。  

解雇予告手当は、ある意味で予測可能で、即時解雇を選択した場合の計画的なコストと言えます。しかし、不当解雇を巡る紛争の結果として生じる解決金や、前述のバックペイは、当初は予測しづらく、かつ非常に高額になる可能性がある「予見不可能なコスト」です。重要なのは、これらの高額なコストの多くは、解雇手続きの不備や客観的・合理的理由の欠如など、適切な知識と対応によって「予防可能」であったケースが少なくないという点です。つまり、初期段階での専門家への相談や慎重な手続きといった「予防への投資」が、結果的に大きな金銭的損失を防ぐことに繋がるのです。

社内外の信用失墜と採用活動への悪影響

解雇を巡るトラブルは、企業の内部問題に留まらず、社外的な評判や信用、さらには将来の人材獲得にも深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。

「ブラック企業」の烙印と社会的信用の低下

不当解雇や劣悪な労務管理の実態が明るみに出ると、企業は「ブラック企業」という不名誉なレッテルを貼られかねません 。現代はインターネットやSNSを通じて情報が瞬時に拡散される時代です。元従業員や関係者によるネガティブな情報発信は、企業の社会的信用を大きく傷つけ、その回復には多大な時間と労力を要します。一度失墜した信用を取り戻すことは容易ではありません。  

このような企業の評判低下は、既存の顧客や取引先との関係悪化を招き、最悪の場合、取引停止や契約解除といった事態に至る可能性も否定できません 。特に地域社会との繋がりが深い中小企業にとっては、信用の失墜は死活問題となり得ます。  

採用活動への深刻なダメージ

企業の評判は、採用活動にも直結します。不当解雇の噂や「ブラック企業」のイメージが広がると、優秀な人材はもちろんのこと、そもそも応募者自体が集まらなくなる可能性があります 。求職者は、入社前に企業の評判をインターネットの口コミサイトなどで入念に調べるのが一般的です。そこで解雇トラブルに関する情報が見つかれば、敬遠されるのは必至でしょう。  

特に懲戒解雇の場合、その事実が元従業員の再就職活動に影響を与えるだけでなく、業界内で情報が共有され、企業の採用ブランドに長期的なダメージを与えることも考えられます 。デジタルタトゥーとして残り続けるネガティブな情報は、まさに「消えない烙印」となり、企業の成長を阻害する要因となり得るのです。  

一つの不適切な解雇が、採用市場における企業の魅力を著しく低下させ、結果として人材獲得コストの増大や、事業拡大に必要な人材の確保が困難になるという「採用の負の連鎖」を引き起こすリスクを認識する必要があります。

従業員の士気低下と組織全体の生産性への影響

解雇問題は、法務・財務リスクだけでなく、企業の最も重要な資源である「人」の心、すなわち従業員の士気や組織全体の生産性にも深刻な影響を及ぼします。

残された従業員の不安と不信感

不適切な解雇や、説明の不十分な人員整理は、会社に残った従業員たちに大きな動揺と不安を与えます 。「次は自分が解雇されるのではないか」「会社は従業員を大切にしてくれないのではないか」といった疑心暗鬼や不信感が広がり、会社へのエンゲージメントや忠誠心が著しく低下する可能性があります。  

特に、解雇された同僚が不当な扱いを受けたと感じられた場合、残された従業員は罪悪感や経営陣への憤りを感じることがあります。このような心理状態は「サバイバー・シンドローム(生存者症候群)」とも呼ばれ、目には見えにくいものの、組織の活力を確実に蝕んでいきます。

職場環境の悪化と生産性の低下

従業員の士気が低下すると、職場全体の雰囲気は悪化し、コミュニケーションは停滞しがちになります 。チームワークが阻害され、部門間の連携もスムーズに行かなくなり、結果として組織全体の生産性が著しく低下するリスクがあります 。  

また、やる気のない社員や問題行動を起こす社員を適切な手続きを踏まずに放置したり、逆に拙速に解雇したりするような対応は、他の真面目に働く従業員の不公平感を増大させ、モチベーションを削ぐことにも繋がります 。ネガティブな感情や態度は組織内で伝染しやすく、一部の問題が組織全体のパフォーマンスを低下させる「モチベーションの伝染」を引き起こすこともあります。  

このように、解雇問題の取り扱い方を誤ると、法的な紛争や金銭的な損失だけでなく、組織内部から経営パフォーマンスが低下していくという、深刻な事態を招きかねないのです。

よくある解雇トラブル事例

解雇を巡るトラブルは、様々な状況で発生し得ます。ここでは、特に中小企業で起こりがちな典型的な解雇トラブルの事例を挙げ、どのような点に注意すべきかを具体的に解説します。他社の失敗事例から学ぶことで、自社が同様の轍を踏むことを避ける一助となるはずです。

事例1:能力不足を理由にした解雇の難しさ

「期待したような働きをしてくれない」「何度教えてもミスが多い」といった理由で、従業員の能力不足を問題視する経営者様は少なくありません。しかし、これを理由に従業員を解雇することは、法的に非常に難しいのが実情です。

「能力不足」の客観的証明の壁

単に「能力が低い」「期待した成果が出ない」といった主観的な評価だけでは、解雇の正当な理由として裁判所等に認められることはほとんどありません 。企業側には、従業員の能力不足が客観的な基準に照らして著しいものであること、そしてそれが企業経営に具体的な支障を与えていることを証明する責任があります。この「証明のハードル」は、多くの中小企業が想像する以上に高いものです。  

具体的には、以下の点が厳しく問われます。

  • 明確な職務基準と期待値の提示
    従業員に対して、どのような業務遂行能力や成果が求められているのか、具体的かつ明確に伝えていたか。
  • 十分な指導・教育機会の提供
    能力向上のための具体的な指導、研修、フィードバックなどを十分に行ったか 。  
  • 改善の機会と期間の付与
    問題点を指摘し、改善のための具体的な目標と期間を設定し、その達成度合いを客観的に評価したか。
  • 配置転換など他の手段の検討
    能力不足が現在の職務に起因する可能性を考慮し、他の部署や職務への配置転換によって問題が解決できないか検討したか 。  

これらの点を網羅的に、かつ客観的な証拠(指導記録、面談記録、業績評価記録など)をもって立証できなければ、能力不足を理由とする解雇は不当解雇と判断されるリスクが非常に高くなります。

裁判例に見る厳しい判断

過去の裁判例では、能力不足を理由とした解雇に対して、企業側に厳しい判断が下されるケースが目立ちます。 例えば、セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁平成11年10月15日決定) では、ゲーム機メーカーが従業員の英語力不足や取引先からの苦情を理由に解雇しましたが、裁判所は企業側が十分な教育・指導を行っておらず、改善の余地があったとして不当解雇と判断しました 。 また、ミリオン運輸事件(大阪地裁平成8年7月31日判決) では、運送会社が寝過ごしによる延着事故を起こしたドライバーを解雇しましたが、不当解雇と判断され、会社は約1180万円の支払いを命じられました 森下仁丹事件(大阪地裁平成14年3月22日判決) でも、販売職従業員の業績不振を理由とした解雇が無効とされ、約600万円の支払いが命じられています 。  

これらの判例は、企業が従業員の「能力不足」を安易に解雇理由とすることの危険性を示しています。

新卒・未経験者の場合、さらに慎重な判断が求められる

特に新卒採用者や業務未経験者については、企業側に育成責任があるという考え方が強く、能力不足を理由とした解雇は一層認められにくい傾向にあります 。裁判所は、新卒者等の能力が不足しているのであれば、まずは企業が十分な教育・指導を行うべきであり、それを怠って解雇することは許されないと判断する傾向があります。企業は新しい従業員を「投資」として捉え、その成長を支援する義務があるとも言えます。十分なサポートを提供せずに「期待外れ」として早々に見限ることは、法的に大きなリスクを伴うのです。  

事例2:問題行動のある従業員への不適切な対応

遅刻や欠勤を繰り返す、業務指示に従わない、職場で他の従業員とトラブルを起こす、あるいはハラスメント行為を行うなど、いわゆる「問題社員」への対応に苦慮されるケースも少なくありません。しかし、このような問題行動があるからといって、直ちに解雇できるわけではありません。不適切な対応は、かえって企業を不利な立場に追い込むことになります。

段階的な指導と懲戒処分の重要性(指導の流れ)

問題行動のある従業員に対して、企業がまず行うべきは、いきなり解雇という最終手段ではなく、段階的な注意指導です 。  

STEP
具体的な問題行動の指摘と口頭注意

まずは、いつ、どのような問題行動があったのかを具体的に指摘し、改善を促します。

STEP
書面による注意・指導

口頭での注意にもかかわらず改善が見られない場合は、注意書や指導書といった書面で、再度問題点と期待する改善内容、改善期限などを明確に伝えます。

STEP
就業規則に基づく懲戒処分

それでも改善が見られない、あるいは問題行動が悪質な場合には、就業規則に定められた懲戒処分(譴責、減給、出勤停止など)を検討します。懲戒処分を行う際には、就業規則にその根拠規定があり、従業員に周知されていることが前提となります。

STEP
最終手段としての解雇

上記のような段階的な対応を尽くしてもなお改善が見られず、就業規則上の解雇事由に該当する場合に、初めて解雇を検討することになります。

この一連の「エスカレーション・ラダー(段階的措置)」を踏むことが、解雇の正当性を担保する上で非常に重要です。途中のステップを省略したり、記録を残さなかったりすると、たとえ従業員に問題行動があったとしても、解雇が無効と判断されるリスクが高まります。

記録の作成と弁明の機会の付与

問題行動に対する注意指導や面談の内容、従業員の反応、改善状況などは、日時と共に詳細に記録し、書面として保管しておくことが不可欠です 。これらの記録は、万が一紛争になった場合に、企業側が適切な対応を行ってきたことを示す客観的な証拠となります。  

また、懲戒処分、特に懲戒解雇を検討する際には、対象となる従業員に対して弁明の機会(言い分を述べる機会)を与えることが重要です 。弁明の機会を与えずに一方的に処分を決定すると、手続きの公正さを欠くとして、処分が無効と判断される可能性があります。  

就業規則の適切な運用

就業規則は、問題社員への対応や懲戒処分の根拠となる重要なものです。しかし、就業規則に規定があるからといって、どんな場合でも解雇が認められるわけではありません。例えば、就業規則に「素行不良」といった抽象的な解雇事由しか記載されていない場合や、軽微な規律違反に対して、いきなり最も重い懲戒解雇を選択するような場合は、処分のバランスを欠くとして無効とされる可能性が高いです(例:横浜地裁令和元年10月10日判決 )。  

就業規則は、企業が従業員を規律するための「武器」であると同時に、企業自身もその規定に拘束される「両刃の剣」でもあります。就業規則に定められた手続きを企業自身が遵守しない場合、その処分は無効とされるリスクがあることを理解しておく必要があります。

事例3:傷病休職者や産休・育休取得者の解雇

病気や怪我で長期間休んでいる従業員や、産前産後休業・育児休業を取得している従業員の処遇は、特に慎重な対応が求められます。これらの従業員は、法律によって手厚く保護されているため、安易な解雇は重大な法的リスクを伴います。

法律で解雇が禁止されるケース

労働基準法第19条では、従業員が業務上の傷病(仕事が原因の病気や怪我)により療養のために休業する期間およびその後30日間、ならびに産前産後休業(産前6週間・産後8週間)の期間およびその後30日間の解雇を原則として禁止しています 。これに違反した解雇は、当然無効となります。  

また、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、妊娠・出産、育児休業や介護休業の申し出や取得を理由とする解雇、その他不利益な取り扱いを禁止しています 。たとえ企業側に他の解雇理由があったとしても、これらのタイミングでの解雇は、妊娠・出産や育休取得を理由とする不当な解雇であると強く推認されるため、企業側がそれを覆すだけの極めて客観的かつ合理的な理由を証明できない限り、無効とされる可能性が非常に高いです。このような「保護された立場」にある従業員の解雇は、特に慎重な判断が求められます。  

私傷病休職者の復職と解雇

従業員が業務外の私的な病気や怪我(私傷病)で休職している場合、就業規則に休職制度や復職に関する規定を整備し、それに基づいて適切に運用することが不可欠です 。  

休職期間が満了しても従業員が復職できない場合、就業規則の定めに従って自然退職または解雇となることが一般的です。しかし、その判断は慎重に行わなければなりません。

医師の診断の尊重

従業員が復職可能かどうかは、まず主治医の診断書や産業医の意見を元に判断します 。医師が「復職可能」と判断しているにもかかわらず、企業が一方的に「復職不能」として解雇した場合は、不当解雇となるリスクがあります。

復職可能性の検討(合理的配慮)

たとえ元の職務への完全な復帰が難しい場合でも、企業は従業員の状況に応じて、業務内容の軽減、配置転換、リハビリ出勤制度の活用など、復職を支援するための合理的配慮を検討する義務があります 。このような検討を一切行わずに解雇した場合、解雇権の濫用と判断される可能性があります。

企業は、休職中の従業員と定期的にコミュニケーションを取り、状況を把握するとともに、復職に向けたプロセスを誠実に進める姿勢が求められます。

事例4:試用期間中の安易な本採用拒否

「試用期間だから、合わなければ簡単に辞めさせられる」と考えている経営者様や人事担当者様もいらっしゃるかもしれませんが、これは大きな誤解です。試用期間中の解雇(本採用拒否)も、法的には通常の解雇と同様の制約を受けます。

試用期間の法的性質

試用期間は、法的には「解約権留保付労働契約」と解釈されています 。これは、本採用するか否かの最終判断を一定期間留保しているものの、既に労働契約は成立している状態を意味します。したがって、試用期間中であっても、企業が一方的に、かつ自由に解雇(本採用拒否)できるわけではありません。本採用後の解雇と同様に、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければ、その解雇は無効となります 。  

本採用拒否が認められるケースと手続き

試用期間開始後14日を超えて従業員を解雇(本採用拒否)する場合には、原則として30日前の予告、または30日分の解雇予告手当の支払いが必要です 。  

本採用拒否の理由としては、採用選考時には知り得なかった従業員の著しい能力不足、勤務態度の著しい不良、重大な経歴詐称などが挙げられます。しかし、これらの理由がある場合でも、企業側が試用期間中に十分な指導・教育を行い、改善の機会を与えたにもかかわらず、改善が見られなかったという客観的な事実が必要です 。  

特に新卒採用者の場合、企業側の教育・指導責任がより重く見なされるため、単に「期待したレベルに達しなかった」という理由だけでの安易な本採用拒否は、無効とされるリスクが非常に高いです(例:福岡地方裁判所平成25年9月19日判決 )。  

企業は、試用期間中の従業員に対しても、その評価基準や期待する能力・行動を明確に伝え、定期的なフィードバックや指導を行う必要があります。試用期間を単なる「お試し期間」と捉えず、適格性を見極めるための重要なプロセスとして位置づけ、慎重に対応することが求められます。期待と現実のギャップが生じないよう、採用段階での丁寧な説明と、試用期間中の適切なコミュニケーションが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。

解雇リスクを最小限に抑える具体的な対策

これまで見てきたように、従業員の解雇には様々なリスクが伴います。しかし、これらのリスクは、適切な知識と事前の対策によって、その多くを回避または軽減することが可能です。ここでは、解雇トラブルを未然に防ぐために企業が取り組むべき具体的な予防策を解説します。

対策1:就業規則・雇用契約書の整備と運用の徹底

解雇を含む労働トラブルを予防するための最も基本的な対策は、就業規則と雇用契約書を法的に有効かつ実態に即した形で整備し、それを適切に運用することです。これらは、万が一の紛争時において、企業の正当性を主張するための重要な法的根拠となります。

就業規則の重要性と整備ポイント

就業規則は、職場のルールブックであり、従業員の労働条件や服務規律、そして懲戒処分(解雇を含む)の根拠となるものです 。  

解雇事由の明確化

普通解雇事由(例:著しい能力不足、継続的な勤務不良など)や懲戒解雇事由(例:業務上横領、重大なハラスメント、無断欠勤など)を、具体的かつ明確に規定する必要があります 。曖昧な表現は解釈の余地を生み、紛争の原因となり得ます。  

懲戒処分の種類と手続きの明記

懲戒処分の種類(譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)と、それぞれの処分に至る手続き(弁明の機会の付与など)を具体的に定めます。

法令遵守と周知徹底

労働基準法などの関連法規を遵守した内容であることはもちろん、作成・変更した就業規則は、従業員に周知徹底する義務があります(労働基準法第106条)。周知されていない就業規則は、法的な効力が認められない可能性があります。

定期的な見直し

就業規則は一度作成したら終わりではありません。法改正や社会情勢の変化、自社の事業内容や組織体制の変更などに合わせて、定期的に内容を見直し、必要に応じて改訂することが重要です 。いわば「生きている文書」として管理する意識が求められます。  

適切に整備され、周知された就業規則は、従業員に対する期待行動を明確にし、問題行動を抑止する効果も期待できます。まさに、トラブルを未然に防ぐ「予防の盾」としての役割を果たすのです。

雇用契約書(労働条件通知書)の役割

雇用契約書または労働条件通知書は、個々の従業員との間で労働条件を明確にするための重要な書類です 。職務内容、労働時間、賃金、契約期間(有期契約の場合)などを具体的に記載し、双方の合意のもとで締結・交付します。これにより、後々の「言った・言わない」といったトラブルを防ぐことができます。  

運用の徹底

どれほど立派な就業規則や雇用契約書を作成しても、それが実際に運用されていなければ意味がありません。規定されたルールに則って日々の労務管理を行い、問題が発生した場合には、就業規則の手続きに従って公平かつ迅速に対応することが、信頼される企業風土の醸成とトラブル予防に繋がります。

対策2:問題社員への段階的な指導と記録の重要性

問題行動が見られる社員や、期待される能力を発揮できない社員に対して、企業は即座に解雇を検討するのではなく、まず改善に向けた段階的な指導を行う必要があります。そして、その過程を詳細に記録することが、万が一の事態に備える上で極めて重要です。

段階的な指導プロセス

STEP
現状把握と問題点の特定

まず、従業員のどのような行動や能力が問題となっているのかを具体的に把握します。

STEP
口頭での注意・指導

初期段階では、上司から直接、具体的な問題点を指摘し、期待する行動や改善点を伝えます。この際、威圧的にならないよう、あくまで教育的な観点から行うことが重要です。

STEP
書面による注意・指導(注意書・指導書)

口頭での指導後も改善が見られない場合や、問題の程度が重い場合には、書面(注意書、指導書、業務改善命令書など)を作成し、交付します 。書面には、以下の内容を具体的に記載します 。

  • 問題となっている具体的な行動や事実(日時、場所、内容など)
  • それによって会社や他の従業員にどのような影響が出ているか
  • 会社として期待する具体的な改善内容や目標
  • 改善のための具体的な指示やサポート内容
  • 改善期限
  • 期限までに改善が見られない場合に、懲戒処分を含む次の措置を検討する可能性があること
  • 本人からの弁明や意見を述べる機会があること
STEP
面談とフィードバック

定期的に面談を行い、改善状況を確認し、フィードバックを行います。

STEP
改善が見られない場合の次のステップ

指導にもかかわらず改善が見られない場合は、就業規則に基づき、懲戒処分(譴責、減給など)や、さらなる指導、配置転換などを検討します。

この段階的な指導プロセスは、従業員に「改善のための公正な機会」を与えることを意味します。これにより、従業員自身が問題点を認識し、改善努力をするきっかけとなることが期待できます。

指導記録の徹底的な作成と保管

上記の指導プロセスにおけるすべてのやり取り、指導内容、従業員の反応、改善の進捗状況(またはその欠如)などを、日時と共に客観的かつ詳細に記録し、関連資料(メール、作成物など)と共に保管することが極めて重要です 。  

  • 指導記録(面談記録、業務日誌など)
    いつ、誰が、誰に対して、どのような指導を行い、従業員がどのように反応したかを具体的に記録します。
  • 注意書・指導書のコピーと受領サイン
    交付した書面のコピーを保管し、可能であれば本人から受領サインをもらいます。
  • 客観的な証拠
    問題行動を裏付ける客観的な証拠(例:勤怠記録、顧客からのクレームメール、不良品の記録など)も併せて保管します。

これらの記録は、万が一、解雇という最終手段に至った場合に、企業が適切な指導と改善の機会を十分に与えてきたこと、そして解雇がやむを得ない判断であったことを示す「沈黙の証人」となります。記録が不十分であると、たとえ企業側の主張が正しくても、それを客観的に証明することが困難になり、紛争時に不利な状況に立たされる可能性があります。

弁明の機会の付与

懲戒処分、特に解雇を検討する際には、対象となる従業員に対して、自身の行為について弁明する機会(言い分を述べる機会)を必ず与えなければなりません 。これは、適正手続きの観点から非常に重要です。  

対策3:解雇以外の選択肢(退職勧奨、配置転換など)の検討

従業員の解雇は、企業にとっても従業員にとっても最終的な手段であるべきです。解雇を検討する前に、他の選択肢によって問題を解決できないか、あるいは影響を緩和できないかを真摯に検討する姿勢が求められます。これらの「解雇回避努力」は、特に整理解雇の有効性を判断する上で重要な要素となるだけでなく、他の種類の解雇においても、企業の対応の相当性を示すものとなります 。  

退職勧奨

退職勧奨とは、企業が従業員に対して、自主的に退職するように促す行為です 。あくまで従業員の自由な意思に基づく合意退職を目指すものであり、解雇とは異なります。  

  • 進め方の注意点
    退職勧奨を行う際には、従業員に心理的なプレッシャーを与えたり、退職を強要したりするような言動は厳に慎まなければなりません 。面談の回数や時間、場所、同席者などに配慮し、従業員が冷静に判断できる環境を整えることが重要です。執拗な退職勧奨は、違法な「退職強要」とみなされ、損害賠償請求の対象となる可能性があります。

  • 条件提示
    退職勧奨に応じてもらうために、退職金の割り増し、再就職支援、有給休暇の買い取りなどの有利な条件を提示することがあります 。これらの条件は、紛争リスクを回避するための「投資」と捉えることもできます。

  • 合意書の作成
    退職勧奨により従業員が合意退職に至った場合は、後日の紛争を避けるため、退職日、退職理由、解決金の支払い(もしあれば)、守秘義務、清算条項などを明記した「退職合意書」を作成し、双方が署名捺印することが望ましいです。

配置転換・降格

従業員の能力不足や適性の問題が現在の職務に起因していると考えられる場合、他の部署や職種への配置転換を検討します 。本人の能力や経験、健康状態などを考慮し、現実的に遂行可能な業務があるかを探ります。また、職責や役職を引き下げる「降格」も、解雇を回避するための一つの手段となり得ます。ただし、配置転換や降格が懲罰的な意味合いを持つ場合や、従業員に著しい不利益を与える場合には、その合理性が問われます。  

希望退職者の募集

主に整理解雇(リストラ)の場面で用いられる手法ですが、企業が経営上の理由で人員削減を行う必要がある場合、解雇対象者を一方的に選定する前に、希望退職者を募ることが解雇回避努力の一環として評価されます 。通常よりも有利な退職条件を提示することで、自主的な退職を促します。  

これらの解雇以外の選択肢を検討し、実行したという事実は、万が一解雇に至った場合に、企業が解雇を回避するために最大限の努力を尽くしたことを示す重要な証拠となります。特に中小企業においては、従業員との関係性を考慮し、できる限り円満な解決を目指すことが、組織全体の安定にも繋がります。

対策4:法令に基づいた正しい解雇手続きの流れ

従業員を解雇する場合、その理由の正当性もさることながら、法令に定められた正しい手続きを踏むことが極めて重要です。手続きに不備があれば、たとえ解雇理由に正当性があったとしても、解雇そのものが無効と判断される可能性があります。

解雇手続きの一般的な流れ

以下は、普通解雇や懲戒解雇を念頭においた一般的な手続きの流れです。整理解雇の場合は、これに加えて、人員削減の必要性の説明、解雇回避努力の実施、人選基準の協議、労働組合や従業員代表との誠実な協議といったプロセスが特に重要となります。

STEP
解雇理由の検討と客観的証拠の収集・整理
  • 解雇を検討するに至った具体的な理由(能力不足、勤務態度不良、規律違反など)を明確にします。
  • その理由を裏付ける客観的な証拠(人事考課表、指導記録、注意書、勤怠記録、メール、顧客からのクレーム、目撃者の証言など)を収集・整理します。
STEP
就業規則の確認
  • 自社の就業規則に、該当する解雇事由(普通解雇事由、懲戒解雇事由)が明記されているか確認します。
  • 懲戒解雇の場合は、懲戒処分の種類や手続きに関する規定も確認します。
STEP
弁明の機会の付与(特に懲戒解雇の場合)

解雇(特に懲戒解雇)を検討している従業員に対し、解雇理由となる事実について説明し、それに対する従業員の言い分を聞く機会(弁明の機会)を設けます 。この手続きを怠ると、解雇が無効とされるリスクが高まります。

STEP
解雇の決定と解雇予告または解雇予告手当の支払い
  • 上記を踏まえ、最終的に解雇を決定した場合、原則として解雇日の30日以上前に従業員に解雇を予告します(解雇予告)。  
  • 即時に解雇する場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払います。解雇予告手当を支払うことで、予告期間を短縮することも可能です。
  • ただし、労働者の責に帰すべき事由(重大な規律違反など)による解雇で、労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けた場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となることがあります 。
STEP
解雇通知書の作成と交付
  • 解雇する従業員に対し、「解雇通知書」を作成し、交付します 。  
  • 解雇通知書には、解雇する旨、解雇日、具体的な解雇理由(就業規則の該当条項も明記)、会社名、代表者名などを記載します。
  • 交付方法は、直接手渡して受領サインをもらうのが確実ですが、郵送の場合は内容証明郵便を利用するなど、通知が到達したことを証明できるようにします。
STEP
解雇後の諸手続き
  • 離職票の発行: 従業員が失業保険を受給するために必要な「離職票(雇用保険被保険者離職証明書)」を作成し、ハローワークへの届出を経て、本人に交付します 。  
  • 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き: 健康保険、厚生年金保険、雇用保険の資格喪失手続きを行います 。  
  • 源泉徴収票の交付: その年の1月1日から退職日までの給与に対する源泉徴収票を作成し、本人に交付します 。  
  • 住民税の手続き: 特別徴収から普通徴収への切り替え手続きなどを行います 。  
  • 最終給与・退職金の支払い: 未払い賃金や、就業規則・退職金規程に基づく退職金を支払います。
  • 貸与品の回収: 社員証、パソコン、制服など、会社からの貸与品を回収します。
STEP
解雇理由証明書の交付(従業員から請求があった場合)

解雇された従業員から請求があった場合には、解雇理由を記載した「解雇理由証明書」を遅滞なく交付する義務があります(労働基準法第22条)。

これらの手続きを一つ一つ正確に行うことが、法的なリスクを回避し、円滑な解雇処理を実現するための基本です。手続きの煩雑さや法的な判断に迷う場合は、専門家である社労士に相談することを強くお勧めします。

表2: 解雇手続き実践チェックリスト

項目具体的な実施内容確認ポイント/注意点関連法令/参考資料
1. 解雇理由の明確化と証拠収集解雇事由の特定、客観的証拠(人事考課、指導記録、メール等)の収集・整理主観的判断を避け、具体的な事実に基づく。証拠の信憑性。労働契約法第16条
2. 就業規則の確認解雇事由、懲戒規定、手続き規定の確認。周知状況の確認。規定が現状に即しているか。周知が不十分な場合は効力が問題となる可能性。労働基準法第89条、第106条
3. 弁明の機会の付与対象従業員に解雇理由を伝え、言い分を聞く機会を設定(面談等)。記録の作成。一方的な通告は避ける。形式的ではなく実質的な機会提供。判例法理
4. 解雇予告または解雇予告手当解雇日の30日前までに予告、または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払い。平均賃金の正確な計算。除外認定の要件確認(該当する場合)。労働基準法第20条
5. 解雇通知書の作成・交付解雇日、具体的な解雇理由(就業規則条項含む)、会社名等を明記した書面を作成し交付。理由は具体的に。交付方法(手渡し+受領サイン、内容証明郵便等)。労働基準法第22条(解雇理由証明書との関連)
6. 社会保険・雇用保険手続き資格喪失届の提出(健康保険・厚生年金は5日以内、雇用保険は10日以内)。離職票の交付。提出期限の遵守。離職理由の正確な記載。健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法
7. 税務関連手続き源泉徴収票の交付(退職後1ヶ月以内)。住民税の特別徴収から普通徴収への変更手続き。交付期限の遵守。所得税法、地方税法
8. 最終給与・退職金の支払い未払い賃金、残業代、退職金の計算と支払い。賃金支払の5原則。退職金規程の確認。労働基準法第24条
9. 貸与品の回収社員証、PC、携帯電話、制服、資料等の回収。回収漏れがないかリストで確認。情報セキュリティの確保。
10. 解雇理由証明書の交付従業員から請求があった場合、遅滞なく交付。解雇通知書と整合性のある理由を記載。労働基準法第22条

「自社だけでこれらの対策を完璧に行うのは難しい、あるいは自社のケースが法的に問題ないか不安だ…」そう感じた経営者様・人事担当者様は少なくありません。

「解雇のリスク、うちの会社は大丈夫?」と感じたら、まずは社労士事務所altruloopの初回無料相談でお気軽にご相談ください。

よくある質問 (FAQ)

解雇にはどんなリスクがありますか?

解雇には、法的な紛争リスク(不当解雇での訴訟)、金銭的リスク(バックペイや解決金)、信用的リスク(企業の評判低下、採用難)、組織的リスク(従業員の士気低下、生産性悪化)など、多岐にわたる重大なリスクが伴います。詳細は本記事の「解雇が抱える“目に見えないリスク”とは?」の章で解説しています。

不当解雇と判断されると、会社はどうなりますか?

解雇が無効となり、従業員を復職させる義務や、解雇期間中の賃金(バックペイ)を支払う義務が生じることがあります。場合によっては多額の解決金が必要になることもあり、企業の経営に深刻な影響を与える可能性があります 。  

問題行動を繰り返す社員がいます。すぐに解雇できますか?

いいえ、すぐに解雇することは非常にリスクが高いです。まずは就業規則に基づき、段階的な注意指導(口頭および書面)を行い、改善の機会を与える必要があります 。その過程を全て記録し、弁明の機会も設けることが重要です 。それでも改善が見られない場合に、初めて解雇を検討できますが、専門家への相談を強く推奨します。  

解雇の相談は、弁護士と社労士、どちらにすべきですか?

状況によります。解雇を未然に防ぐための予防策や適法な手続き、就業規則の整備については社労士が適しています 。既に訴訟になっている、あるいは訴訟を検討している場合は弁護士の領域です 。多くの場合、紛争を未然に防ぐ「予防」の観点から、まずは社労士にご相談いただくのが有効です。  

社労士に解雇リスクについて相談する場合、費用はどのくらいかかりますか?

相談費用は事務所や相談内容によって異なります。社労士事務所altruloopでは、解雇リスクに関する初回のご相談は無料で承っております。まずはお気軽にお問い合わせいただき、貴社の状況をお聞かせください。全国対応しておりますので、どちらの地域からでもご相談いただけます。

まとめ

従業員の解雇は法的・金銭的リスクが非常に高く、企業の存続にも関わります。安易な判断は避け、就業規則整備や適切な手続き、そして何よりも予防が肝心です。お悩みの中小企業経営者・人事担当者様、解雇リスクの専門家である社労士にご相談ください。

社労士事務所altruloopへの解雇リスク相談は、全国対応・初回相談無料です。複雑な解雇問題を一人で抱え込まず、まずは今すぐお問い合わせください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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