パート(アルバイト)の社会保険の加入条件とは?加入義務が発生する要件や106万、130万の壁と合わせて解説

アルバイトやパート(以下、アルバイト等)を雇用する企業の労務担当者様にとって、社会保険の加入手続きは複雑で悩ましい問題の一つです。「うちの会社はアルバイトにも社会保険を適用する義務があるのだろうか?」「よく聞く106万円の壁とは具体的に何を指し、会社としてどう対応すべきか?」といった疑問は尽きないでしょう。

社会保険制度は年々改正が重ねられ、特に2024年10月からは短時間労働者に対する社会保険の適用範囲がさらに拡大されます。これにより、これまで対象外だった企業も新たに対応が必要となるケースが増えてきます。

本記事では、多くの企業様の人事労務サポート実績を持つ社会保険労務士事務所altruloopが、企業の労務担当者様が押さえておくべきアルバイト等の社会保険加入要件、そして「年収の壁」と呼ばれる問題に対する実務的な対応策を、専門家の視点から分かりやすく解説します。

この記事を通じて、正確な知識を身につけ、適切な労務管理を実現するための一助となれば幸いです。

目次

【簡単診断】そもそも、あなたの会社に加入義務はありますか?

このセクションでは、まず自社がアルバイト等に対して社会保険の加入義務を負う「適用事業所」に該当するかどうか、そして個々のアルバイト等が加入対象となるかの基本的な判断ステップを解説します。

多くの企業、特に中小企業では、自社が社会保険の「適用事業所」であるという認識が曖昧な場合があります。また、従業員数のカウント方法を誤解しているケースも散見されます。このステップを正確に理解することが、全ての始まりです。社会保険の加入義務は、まず「事業所」単位で判断され、その事業所の規模(従業員数)が最初の関門となります。この「従業員数」の定義が一般的に使われる「従業員数」と異なるため、ここで間違うと後続の判断全てが狂う可能性があります。したがって、最初のステップとして、自社の正しい「厚生年金保険の被保険者数」を把握することが不可欠です。

ステップ1:会社の規模を確認する(従業員数の数え方)

社会保険の適用事業所となるか否かは、まず「常時使用する従業員の数」で判断されます。特に2024年10月からの法改正では、この従業員数の基準が重要になります。

従業員数の基本的な考え方

社会保険の適用拡大における「従業員数」とは、厚生年金保険の被保険者数を指します 。これは、いわゆる正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートタイマー等も含む点に注意が必要です。具体的には、「フルタイムで働く従業員数」と「週労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数」の合計でカウントします 。  

カウントのタイミングと注意点

原則として、厚生年金保険の被保険者の総数が常時基準を超えるかどうかで判断します。具体的には、直近12ヶ月のうち6ヶ月以上基準を上回る場合、日本年金機構において適用対象となります 。企業としては、基準を超えることが見込まれる段階で自主的に判断し、速やかに届け出る必要があります。

  • 法人の場合: 法人番号が同一の全事業所(本社、支社、営業所など)の厚生年金保険の被保険者数を合計して判断します 。  
  • 個人事業所の場合: 個々の事業所ごとにカウントします 。  
  • 役員の取り扱い: 常勤の役員も厚生年金保険の被保険者であれば、この数に含まれます 。ただし、非常勤役員で加入していない場合は含まれません。  
  • 出向者の取り扱い: 在籍出向の場合は出向元、転籍出向の場合は出向先の従業員としてカウントされるのが一般的です 。契約実態に基づき判断が必要です。  

従業員数のカウントミスは、適用事業所であることを見逃す最大の原因の一つです。特に法改正のタイミングでは、これまで対象外だった企業が対象となるため、正確なカウントがより一層重要になります。例えば、法改正により適用範囲が101人以上から51人以上に拡大された場合、企業が自社の正確な厚生年金被保険者数を把握していなかったり、カウント方法を間違えたりする(例:短時間労働者を除外してしまう、役員を含めない)と、法改正により適用事業所になったことを見逃してしまう可能性があります。その結果、対象従業員の社会保険加入手続きを行わず、年金事務所の調査等で発覚し、過去に遡って保険料の追徴と延滞金が発生するという事態に繋がりかねません。これは労務トラブルのリスクにも直結します 。  

ステップ2:アルバイト個別の加入要件(4つの条件)をチェック

会社が適用事業所である場合、次にアルバイト等一人ひとりが以下の加入要件をすべて満たすかどうかを確認します。これらの条件は、いわゆる「4分の3基準」(正社員の所定労働時間・日数の4分の3以上働く者)を満たさない短時間労働者に対するものです。

週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること

  • 所定労働時間とは: 雇用契約書や就業規則で定められた、残業時間を含まない通常の労働時間です。
  • 実態との乖離: 契約上20時間未満でも、実労働時間が恒常的に2ヶ月連続で週20時間以上となり、その後も続くと見込まれる場合は、3ヶ月目から加入対象となることがあります 。この「恒常的」か「一時的」かの判断が実務上難しいポイントです。年金事務所の調査では、過去の勤務実績や今後の見込みが確認されます 。  

月額賃金が88,000円以上(年収約106万円以上)であること

  • 算定対象となる賃金: 基本給および諸手当(役職手当、資格手当など毎月固定的に支払われるもの)の合計額です 。  
  • 算定対象外の賃金: 残業代、賞与(年3回以下の支給)、通勤手当、精皆勤手当、家族手当、臨時的な賃金(結婚祝金など)は含みません 。 ここで注意すべきは、「月額賃金88,000円」の算定基準と、後述する社会保険料計算の基礎となる「標準報酬月額」の算定基準では、通勤手当などの扱いが異なる点です。「標準報酬月額」には通勤手当が含まれますが 、「月額賃金8.8万円」の判定には含まれません。労務担当者は「賃金」という言葉から給与明細に載る全ての支払いを合算しがちですが、社会保険加入資格判定時の「月額賃金8.8万円」は所定内賃金がベースであり、通勤手当や残業代は除外されます。一方で、実際に社会保険に加入した後の保険料算定基礎となる「標準報酬月額」には、通勤手当や一定の残業代が含まれます。この二つの「賃金」の定義を区別せず、例えば通勤手当を含めて8.8万円を超えたから加入対象だと判断したり、逆に標準報酬月額の考え方で8.8万円を判定しようとすると誤りが生じます。正確な判定のためには、それぞれの算定ルールを正しく適用することが不可欠です。  
  • 固定残業代の扱い: 毎月定額で支払われる固定残業代も、名目が時間外労働に対するものであるため、原則としてこの「月額賃金8.8万円」の算定には含まれないという見解が一般的です 。ただし、固定残業代の性質や就業規則の定め方によっては判断が分かれる可能性もあるため、専門家への確認が推奨されます。  

継続して2ヶ月を超える雇用の見込みがあること

  • 当初の雇用契約期間が2ヶ月以内であっても、契約更新が明示されている場合や、同様の契約で2ヶ月を超えて雇用された実績がある場合は、この要件を満たすと判断されます 。  
  • 試用期間中であっても、本採用が前提であれば原則として入社初日からこの要件を満たすと考えられます 。

学生ではないこと

ただし、休学中の学生や夜間学生、定時制・通信制の学生は加入対象となる場合があります 。卒業見込み証明書があり、卒業後も引き続き勤務する予定の学生も対象となることがあります 。  

これらの条件は、一つでも満たさなければ原則として短時間労働者としての社会保険加入義務は発生しません。しかし、企業が意図的にこれらの条件を回避するような雇用契約(例:実態は週20時間以上なのに契約書だけ19時間にする)を結んでいると、年金事務所の調査などで実態に基づいて指導されるリスクがあります 。企業は社会保険料の会社負担を避けたい、または従業員が手取り減を嫌がるため、加入させたくないと考えがちです。そこで、名目上の契約条件を加入要件ギリギリで下回るように設定するケースがあります(例:週19.5時間契約)。しかし、実際の勤務時間が恒常的に週20時間を超えている場合、契約内容と実態が乖離します。年金事務所の調査(総合調査など)では、タイムカードや賃金台帳などから実態の労働時間を確認します 。実態が加入要件を満たしていると判断されれば、契約書の内容に関わらず、遡って加入指導と保険料徴収が行われる可能性があります。これは、形式ではなく実質で判断するという社会保険の原則に基づきます。  

アルバイト等 社会保険加入4条件チェックリスト

条件はいいいえ
1. 週の所定労働時間が20時間以上か?
2. 月額賃金(除外賃金を除く)が88,000円以上か?
3. 2ヶ月を超える雇用見込みがあるか?
4. 学生ではないか?(夜間学生・休学中などの例外規定も考慮)

結果:上記4つすべて「はい」の場合、原則として社会保険の加入対象です。

このチェックリストは、複雑な4つの条件を簡潔な「はい/いいえ」形式で確認できるため、労務担当者が個々の従業員の加入資格を判断する際に役立ちます。各条件を見落とすことなく確認することで、誤判断のリスクを減らし、迅速かつ正確な対応を支援します。

2024年10月法改正で「従業員51人以上」の企業がすべきこと

2024年10月1日から、短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が、厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業にまで拡大されます 。これまでは101人以上の企業が対象でしたが、この変更により、より多くの中小企業が影響を受けることになります。  

対象となる企業

前述の「ステップ1:会社の規模を確認する」の方法で算出した厚生年金保険の被保険者数が、2024年10月以降、常時51人以上となる企業です。法改正前に既に101人以上の企業は引き続き対象です。

企業が取るべき対応

  • 自社の被保険者数の再確認: まず、最新の正確な厚生年金保険の被保険者数を把握します。特に、これまで51人~100人規模で対象外だった企業は注意が必要です。
  • 加入対象となるアルバイト等の洗い出し: 「ステップ2:アルバイト個別の加入要件(4つの条件)をチェック」に基づき、新たに加入対象となる可能性のあるアルバイト等をリストアップします 。  
  • 従業員への説明と周知: 法改正の内容、社会保険加入のメリット・デメリット(手取り額の変動など)、手続きについて、対象となる従業員へ丁寧に説明します 。厚生労働省提供の資料(チラシやQ&A集)を活用するのも有効です 。  
  • 就業規則・雇用契約書の見直し: 必要に応じて、社会保険加入に関する記載を整備します。労働条件通知書や雇用契約書については、こちらの記事(会社設立直後に必要な人事労務手続き )もご参照ください。  
  • 社会保険加入手続きの準備: 対象者の「被保険者資格取得届」の準備を進めます。
  • 給与計算システムの確認・改修: 新たに社会保険料の控除対象者が増えるため、給与計算システムの設定変更や、手計算の場合は計算方法の確認が必要です。給与計算に関する詳細は、こちらの記事(給与計算ミスが起きる主な原因と防止策・対処法を社労士が解説 )を参考にしてください。  

社会保険の適用拡大は段階的に進められており、過去にも501人以上から101人以上へと対象が拡大された経緯があります。国の財政状況や働き方の多様化を背景に、今後さらに小規模な事業所へも拡大される可能性があります(一部では2025年以降「70万円の壁」の可能性も指摘されています )。企業は、法改正の動向を注視し、長期的な視点で労務管理体制を整備していく必要があります。

今回の改正を機に、アルバイト等の処遇や働き方について、会社としての方針を再検討する良い機会とも言えます。これは、企業にとって社会保険料負担の増加という直接的な影響だけでなく、短時間労働者の採用戦略や人件費予算にも影響を及ぼします。従業員側も、より少ない収入でも社会保険に加入することになるため、働き方の調整やキャリアプランの見直しを迫られる可能性があります。企業は、これらの変化に対応できるよう、今のうちから情報収集と準備を進め、従業員とのコミュニケーションを密にすることが求められます。  

「106万円の壁」と「130万円の壁」、会社が知るべき本質的な違い

労務担当者様が従業員から最もよく質問を受けるのが、いわゆる「年収の壁」の問題です。特に「106万円の壁」と「130万円の壁」は混同されがちですが、これらは全く異なる制度の基準であり、会社としての関わり方も大きく異なります。この違いを正確に理解することが、従業員への適切な説明と、会社の法的義務を果たす上で非常に重要です。

このセクションは、そのギャップを埋めるための知識を提供します。従業員は「106万の壁」「130万の壁」という言葉を聞き、自身の働き方や手取りにどう影響するのか不安に感じ、質問してきます。特に「106万円の壁」は会社の社会保険加入義務に直結するため、従業員の意向だけでは左右できない法的拘束力があることを理解させなければなりません。一方で「130万円の壁」は主に従業員の配偶者の税金や健康保険の扶養に関わる問題であり、会社が直接手続きするものではありませんが、従業員の働き方に影響するため、知識として持っておくべきです。これらの違いを明確にすることで、従業員との無用な誤解を防ぎ、スムーズな労務管理に繋げることができます。

「106万円の壁」は「社会保険」の壁(会社の義務に関わる)

「106万円の壁」とは、短時間労働者が勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じる年収の目安を指します 。月額賃金88,000円(88,000円×12ヶ月=1,056,000円、約106万円)がその基準です。  

  • 対象者: 前述の「ステップ2:アルバイト個別の加入要件(4つの条件)」を全て満たす短時間労働者です。
    • 週の所定労働時間が20時間以上
    • 月額賃金が88,000円以上
    • 2ヶ月を超える雇用見込み
    • 学生ではない
    • 勤務先の企業規模が一定以上(2024年10月からは従業員数51人以上)  
  • 会社への影響:
    • 加入義務の発生: 対象となる従業員がいる場合、会社はその従業員を社会保険に加入させる法的義務を負います。従業員本人が加入を希望しなくても、要件を満たせば加入手続きを行わなければなりません 。  
    • 社会保険料の負担: 会社は、従業員の社会保険料の半額を負担します 。これは会社にとって人件費の増加に繋がります。  
  • 従業員への影響: 社会保険に加入することで、将来の年金受給額が増えたり、手厚い医療保障(傷病手当金、出産手当金など)を受けられたりするメリットがあります 。一方で、給与から社会保険料が天引きされるため、手取り額が減少します。これが、従業員が加入をためらう主な理由です 。  

「106万円の壁」は、従業員の選択の問題ではなく、会社の法的責任の問題であるという点が最も重要です。従業員が「手取りが減るから社会保険に入りたくない」と申し出ることがありますが、加入要件を満たしている場合、社会保険への加入は法律で定められた会社の義務です。会社が従業員の意向を優先して未加入のままにすると、健康保険法や厚生年金保険法に違反する可能性があります。年金事務所の調査などで未加入が発覚した場合、過去2年分に遡って保険料(従業員負担分も含む全額を会社が一時的に立て替えることが多い)と延滞金を追徴されるリスクがあります 。悪質な場合は罰金や懲役刑の対象となる可能性もゼロではありません 。したがって、会社は従業員に制度の趣旨と法的義務を説明し、適切に加入手続きを進める必要があります。  

「130万円の壁」は「税金の扶養」の壁(従業員の家族に関わる)

「130万円の壁」とは、主に配偶者の税法上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除)や、社会保険(健康保険・国民年金第3号被保険者)の扶養から外れる年収の目安を指します 。  

  • 対象者: 主に、配偶者(多くは夫)の扶養に入っているパートタイマーの妻などです。
  • 会社への直接的な影響: 「130万円の壁」は、従業員本人とその家族(主に配偶者)の税金や社会保険料負担に関わる問題であり、従業員が勤務する会社が直接的に社会保険の加入手続きを行う義務とは異なります(ただし、従業員が自身の勤務先で社会保険の加入要件を満たせば、それは「106万円の壁」の問題として会社が対応します)。会社は、従業員の年収が130万円を超えたからといって、自動的に何か手続きをするわけではありません。従業員やその配偶者が、自身の加入する健康保険組合や税務署に対して手続きを行います 。  
  • 従業員(とその家族)への影響:
    • 税法上の扶養: 年収が一定額(一般的に103万円や150万円など、所得の種類や控除額により複数の壁が存在)を超えると、配偶者の所得税・住民税の計算において配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなったり、減額されたりします。これにより、世帯全体の手取りが減少する可能性があります 。  
    • 社会保険上の扶養: 年収が130万円以上(60歳以上または障害者の場合は180万円以上)になると、原則として配偶者の健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者ではいられなくなります 。その結果、従業員自身が国民健康保険と国民年金に加入し保険料を全額自己負担するか、または勤務先の社会保険の加入要件(前述の106万円の壁の条件など)を満たしていれば、勤務先の社会保険に加入することになります。  
  • 「106万円の壁」との関係: 勤務先の企業規模が大きく(従業員51人以上など)、かつ他の加入要件(週20時間以上など)を満たす場合、年収が106万円を超えた時点で勤務先の社会保険に加入するため、130万円を待たずに扶養から外れることになります 。企業規模が小さいなどの理由で106万円の壁の対象とならない従業員の場合、130万円の壁が社会保険の扶養から外れるかどうかの判断基準となります。  

会社は「130万円の壁」について従業員から相談を受けることはあっても、会社が主導して何か手続きをするものではありません。しかし、従業員の働き方(労働時間や収入の調整希望)に影響を与えるため、制度の概要を理解し、適切な情報提供や相談窓口(例:社労士)への案内ができると、従業員の不安解消に繋がります。例えば、従業員Aさん(夫の扶養に入っているパート)が「130万円を超えると扶養から外れると聞いたのですが、どうすればいいですか?」と労務担当者に相談してきた場合、労務担当者はまずAさんの勤務状況(週労働時間、月収、会社の規模)を確認し、Aさん自身が勤務先の社会保険(106万円の壁)の加入対象になるかを判断します。もしAさんが106万円の壁の対象であれば、その旨を伝え、会社の社会保険に加入する手続きを進めます。この場合、130万円を待たずに扶養から外れます。もしAさんが106万円の壁の対象でない場合、「130万円の壁は、主に旦那様の税金や健康保険の扶養に関するもので、Aさんご自身が国民健康保険・国民年金に加入するか、旦那様の扶養から外れる手続きを旦那様の会社を通じて行う必要があります。当社の手続きとは直接関係ありませんが、働き方のご相談には応じます」と説明することが考えられます。会社が直接関与しないものの、従業員のライフプランや就労意欲に影響するため、無関係とは言い切れません。政府も「年収の壁・支援強化パッケージ」などで対応策を講じています 。  

「106万円の壁」と「130万円の壁」の比較

項目106万円の壁130万円の壁
主な内容勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務配偶者の税法上の扶養、社会保険の扶養から外れる目安
根拠法規健康保険法、厚生年金保険法所得税法、健康保険法、国民年金法
誰の義務/権利会社の加入義務、従業員の被保険者資格主に被扶養者本人と扶養者(配偶者)の税金・社会保険料負担、第3号被保険者資格の喪失
主な影響者従業員本人、会社(保険料半額負担)従業員本人、その配偶者(世帯収入に影響)
会社の手続き必須(資格取得届の提出など)原則なし(従業員・配偶者が各自手続き)
年収基準約106万円(月額8.8万円)約130万円(被扶養者の収入基準)
他の条件週20時間以上、2ヶ月超雇用見込、非学生、企業規模等扶養者の所得要件、被扶養者の年齢等

この比較表は、「106万円の壁」と「130万円の壁」の主な違いを明確にし、労務担当者や従業員が抱える混同を解消するのに役立ちます。特に「会社の義務」か「従業員や家族への影響」かという点が重要なポイントです。

手続き漏れで慌てない!社会保険加入の実務3ステップ

アルバイト等が社会保険の加入要件を満たした場合、会社は速やかに加入手続きを進める義務があります。ここでは、実務上の具体的な3つのステップを解説します。

手続き漏れは後々大きな問題に発展する可能性があるため、正確な対応が求められます。社会保険の手続きは、事後対応になると非常に手間がかかり、追徴金や従業員との信頼関係悪化のリスクも伴います。年金事務所の調査 や従業員からの指摘で加入漏れが発覚した場合、遡及して保険料を納付する必要があり、時には2年分にもなることがあります 。これは会社にとって大きな財務負担です。さらに、従業員負担分も会社が一時的に立て替える必要が生じ、退職した従業員からは回収困難な場合もあります 。このような事態を避けるためには、加入対象者を正確に把握し、遅滞なく手続きを行う予防的なアプローチが不可欠です。この3ステップは、その予防的アプローチを具体化したものです。  

ステップ1:対象となる従業員の正確な洗い出し

まず、自社で雇用しているアルバイト等の中から、社会保険の加入対象となる可能性のある従業員を正確に特定します。

確認すべき情報

全アルバイト等の雇用契約書、労働条件通知書、タイムカード、給与台帳などを準備します。各従業員の週の所定労働時間、月額の所定内賃金、雇用期間の見込み、学生か否かを確認します。

洗い出しのポイント
  • 契約と実態の確認: 雇用契約上の労働時間・賃金だけでなく、実際の勤務状況も考慮します。特に、契約時間は短いが恒常的に長時間勤務している場合は注意が必要です 。  
  • 月額賃金8.8万円の計算: 通勤手当、残業代、賞与などを除いた所定内賃金で計算します 。  
  • 法改正への対応: 2024年10月からは従業員数51人以上の企業が対象となるため、これまで対象外だった企業も、このタイミングで全アルバイト等の加入要件を再チェックする必要があります 。  
  • ツールの活用: 厚生労働省が提供する「社会保険適用拡大特設サイト」には、対象従業員を管理するための一覧表のひな形(Excel)などがあり、活用できます 。また、労務管理システムを導入している場合は、システム上で対象者を抽出できる機能があるか確認しましょう 。  

従業員の労働条件は変動することがあります。入社時は加入対象外でも、昇給や勤務時間の増加により途中から対象となるケースを見逃しがちです。例えば、アルバイトAさんは入社時、週18時間勤務、月収8万円で社会保険非加入でした。半年後、本人の希望と会社の状況が合致し、週22時間勤務、月収9万5千円に契約変更されたとします。この時点でAさんは社会保険の加入要件を満たしますが、労務担当者がこの変更を社会保険加入の観点からチェックするプロセスがなかった場合、見逃される可能性があります。結果として未加入状態が続き、後日問題となるリスクがあります。これを防ぐには、雇用契約変更時や定期的なタイミング(例:年1回、法改正時)で全従業員の加入要件をレビューする仕組みが必要です。

ステップ2:従業員への通知と意思確認のポイント

加入対象となる従業員が特定できたら、本人へ社会保険への加入が必要になる旨を通知し、制度について説明します。

通知・説明の内容
  • 加入の根拠: なぜ加入が必要になるのか(法律上の義務、会社の規模、本人の労働条件など)。
  • 加入日: いつから社会保険に加入するのか。
  • 社会保険加入のメリット:
    • 将来の年金額が増える(老齢厚生年金の上乗せ)。  
    • 医療保険の給付が手厚くなる(傷病手当金、出産手当金など)。  
    • 万が一の障害状態や死亡時の保障(障害厚生年金、遺族厚生年金)がある 。  
  • 社会保険加入のデメリット(従業員視点):
    • 給与から社会保険料が天引きされるため、手取り額が減少する 。  
    • 配偶者の扶養に入っている場合、扶養から外れることになる。
    • 配偶者の会社から支給されていた家族手当等がなくなる可能性がある 。  
  • 保険料の概算: 本人負担分の社会保険料がいくらくらいになるか、手取り額がどう変わるかの目安を伝える。厚生労働省の「手取りかんたんシミュレーター」 や「公的年金シミュレーター」 の活用を促すのも有効です。  
  • 必要な手続き: マイナンバー、年金手帳(基礎年金番号通知書)、被扶養者がいる場合はその情報などを提出してもらう必要があることを伝える。
説明のポイント
  • 個別面談の実施: 一律の説明だけでなく、個別の状況や懸念に対応するため、個別面談の機会を設けることが望ましいです 。  
  • 資料の活用: 厚生労働省が提供している従業員向けの説明用チラシやQ&A集を活用すると、客観的で分かりやすい説明ができます 。  
  • 丁寧なコミュニケーション: 特に手取り額の減少については、従業員の不安が大きいため、メリットと合わせて丁寧に説明し、質問には誠実に回答します。
  • 「加入拒否」への対応: 従業員が「扶養から外れたくない」「手取りが減るのは困る」といった理由で加入を拒否する場合があります。しかし、加入要件を満たしている場合、本人の希望に関わらず会社は加入手続きを行う法的義務があります 。この点を毅然と、しかし丁寧に説明する必要があります。説得ではなく、法的義務であることを理解してもらうことが重要です。 従業員の抵抗は、多くの場合、制度への無理解や手取り減への不安から生じます。会社としては、まず従業員がなぜそう思うのかを傾聴し、不安や誤解を特定します。社会保険加入のメリット(将来の年金増、傷病手当金など)を具体的に説明し 、手取り額のシミュレーションなどを一緒に確認して具体的な影響を把握してもらいます 。その上で、「これらのメリットがあり、また法律で定められた会社の義務でもあるため、加入条件を満たしている以上、お手続きを進めさせていただきます」と伝えます。どうしても働き方を調整したい(例:週20時間未満にしたい)という希望があれば、業務に支障のない範囲で検討の余地があるか相談に応じることも考えられますが、加入逃れを助長するものであってはなりません。最終的に加入を拒否し続ける場合でも、会社は粛々と手続きを進める必要があります。拒否を理由に手続きを怠ると会社が法的責任を問われます 。  

意思確認の記録

説明内容や従業員の意向(特に加入に難色を示した場合の経緯など)は記録として残しておくことが望ましいです。

ステップ3:資格取得届の作成と提出

従業員への説明と必要書類の回収が済んだら、管轄の年金事務所または健康保険組合へ「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出します。

提出書類
  • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届: 必須書類です。日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます 。  
  • 添付書類:
    • 従業員のマイナンバーカードのコピーまたは通知カードのコピーと本人確認書類。
    • 基礎年金番号通知書または年金手帳のコピー(マイナンバーを記載する場合は原則不要なこともありますが、確認が必要です)。
    • 被扶養者がいる場合は「健康保険被扶養者(異動)届」と、その続柄や収入を証明する書類 。  
    • その他、状況に応じて求められる書類(例:雇用契約書のコピーなど)。
記入時の注意点
  • 資格取得年月日: 原則として**入社日(雇用契約開始日)**です。試用期間であっても、加入要件を満たしていれば入社日からとなります 。試用期間終了後ではない点に注意してください(これはよくある誤りとして指摘されています )。  
  • 報酬月額:
    • 通貨によるものの額(㋐): 基本給、役職手当、通勤手当、住宅手当、家族手当など、毎月固定的に支払われる賃金の合計額を記入します。残業代は見込み額を算出して含めます。この点が、加入資格判定時の「月額賃金8.8万円(残業代等を含まない)」の考え方と異なるため、特に注意が必要です(基本給のみで届け出る誤りが指摘されています )。  
    • 現物によるものの額(㋑): 食事、社宅、通勤定期券(金銭で支給せず現物支給の場合)なども報酬として評価し、金額換算して記入します 。  
    • 合計(㋒): ㋐と㋑の合計額。
  • 備考欄: 短時間労働者(週20時間以上30時間未満で加入する者)の場合は、その旨を記載する必要がある場合があります。様式の指示に従ってください 。  
  • その他: 氏名、生年月日、基礎年金番号、マイナンバーなどの個人情報は正確に記入します。フリガナの記入漏れや誤りも散見されます 。
提出期限と提出先
  • 提出期限: 事実発生日(通常は入社日)から5日以内です 。非常にタイトなため、迅速な対応が必要です。  
  • 提出先: 事業所の所在地を管轄する年金事務所または事務センター、加入している健康保険組合 。電子申請(e-Gov)も可能です。

資格取得届の記入ミス、特に報酬月額の誤りは、社会保険料の誤徴収に繋がり、後日訂正や精算が必要になります。例えば、資格取得届に報酬月額を低く記載(例:通勤手当を入れ忘れる)した場合、標準報酬月額が低く決定され、毎月の社会保険料が本来より少なく徴収されます。従業員の手取りは一時的に多くなりますが、将来受け取る年金額が減る、または会社が差額を後で追徴されることになります。逆に高く記載すると、保険料が高くなり手取りが減ります。どちらの場合も、後で訂正手続きが必要となり、従業員への説明や給与の再計算など、追加の事務負担が発生します。これは従業員の給与計算にも影響し、不信感を生む原因ともなり得ます 。また、資格取得日の誤りは、保険給付の権利に影響する可能性もあります。正確な届出が、将来のトラブルを防ぐ第一歩です。  

被保険者資格取得届 提出チェックリスト

項目確認
資格取得届の様式準備 (最新版か確認)
従業員のマイナンバー・基礎年金番号確認
資格取得年月日(入社日)の正確な記入
報酬月額の正確な算定(通勤手当・残業代見込み等を含む)と記入
被扶養者がいる場合、被扶養者(異動)届と必要書類の準備
事業主印の押印
提出期限(事実発生から5日以内)の確認
提出先の確認(管轄年金事務所/健保組合)

このチェックリストは、被保険者資格取得届の提出にあたり、特に間違いやすいポイントや忘れがちな項目を網羅しています。正確な資格取得日、報酬月額の算定内容、そして厳格な提出期限などを再確認することで、手続きのミスを防ぎ、円滑な事務処理を支援します。

よくある質問

ここでは、アルバイト等の社会保険加入に関して、労務担当者様から特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 月収が88,000円を超えたり超えなかったり。どう判断しますか?

A. 社会保険の加入判断における月額賃金88,000円は、原則として雇用契約書や労働条件通知書に定められた所定内賃金(基本給や毎月固定的に支払われる手当)に基づいて判断します 。  

  • 一時的な変動: たまたま繁忙で残業が増え、結果的にその月の給与総額が88,000円を超えたとしても、契約上の所定内賃金が88,000円未満であれば、直ちに加入対象とはなりません 。逆も同様で、契約上は88,000円以上だが、欠勤等で一時的に下回った場合でも、加入資格がすぐに失われるわけではありません。  
  • 恒常的な変動(実態重視): ただし、契約上の所定労働時間や所定内賃金が加入基準未満であっても、実際の労働時間や支払われる賃金が継続して2ヶ月以上連続で基準額(週20時間以上、月額8.8万円以上)を超え、今後もその状態が続くと見込まれる場合は、3ヶ月目から社会保険の加入対象となることがあります 。この判断は、実態を重視するため、契約書の内容だけでなく、タイムカードや給与明細などの実態を示す資料に基づいて総合的に行われます。

「一時的」か「恒常的」かの判断は実務上非常に難しく、行政(年金事務所)の判断に委ねられる部分も大きいです。例えば、パートAさんの契約が週18時間、月収8万円だとしても、人手不足で3ヶ月連続して週25時間勤務、月収10万円超えが続いたとします。会社が「一時的なもの」と考えていても、4ヶ月目以降も同様の勤務が続く見込みであれば、3ヶ月目から社会保険の加入義務が発生していたと判断される可能性が高いです。年金事務所の調査で指摘されれば、遡及加入と保険料追徴のリスクがあります 。企業としては、従業員の勤務実態を適切に把握し、契約内容と大きく乖離している状態が続くようであれば、契約内容の見直しや、専門家(社労士)への相談を検討すべきです。  

Q. 従業員本人が「扶養から外れたくない」と加入を拒否できますか?

A. いいえ、従業員本人の希望によって社会保険への加入を拒否することはできません 。  

社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は、法律で定められた事業主及び従業員の義務です。加入要件(会社の規模、個人の労働時間・賃金など)を満たしている場合、会社はその従業員を社会保険に加入させる法的な責任があります。従業員が「手取り収入が減る」「配偶者の扶養から外れたくない」といった理由で加入を拒否したとしても、会社がその意向を汲んで未加入のままにしておくことは法律違反となります。

会社が取るべき対応

  • まずは従業員に対し、社会保険制度の趣旨、加入のメリット(将来の年金増、医療保障の充実など)、そして法律上の加入義務があることを丁寧に説明します 。  
  • それでも従業員が納得しない場合でも、会社は法令に基づき、加入手続きを進めなければなりません。
  • 手続きを怠った場合、年金事務所の調査などで指摘を受け、過去に遡って保険料(延滞金含む)を追徴される可能性があります。この際、従業員負担分も会社が一時的に全額納付しなければならないケースが多く、既に退職した従業員からは回収が困難なこともあります 。悪質な場合は罰則(懲役や罰金)の対象となることもあります 。  

従業員の加入拒否は労務トラブルの元です 。例えば、従業員が加入を強く拒否し、会社が「本人が嫌がっているから」と手続きをしなかったとします。数年後、その従業員が病気で長期休業したが、健康保険未加入のため傷病手当金が受け取れない、あるいは退職後に年金額が少ないことが判明した場合、元従業員が「会社が加入させてくれなかった」として、損害賠償を請求する訴訟を起こす可能性があります 。会社は法的義務を怠ったとして、賠償責任を負う可能性があるほか、行政からの指導や追徴も免れません。会社としては、法的義務を果たす毅然とした態度と、従業員の心情に配慮した丁寧な説明の両方が求められます。説明の経緯や内容は記録に残しておくことが、万が一のトラブルの際に会社を守る上で重要になります。  

Q. 交通費や残業代は、年収の壁を計算する際に含めますか?

A. 「年収の壁」の計算において、交通費や残業代の扱いは、どの「壁」の話か、また何の目的の計算かで異なります。

「106万円の壁」(社会保険加入資格の月額8.8万円判定)

この判定に使われる「月額賃金」には、通勤手当(交通費)や残業代(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)は原則として含まれません 。あくまで基本給や役職手当など、毎月決まって支払われる「所定内賃金」が基準となります。  

「130万円の壁」(社会保険の扶養判定)

被扶養者の収入認定においては、通勤手当も収入として含まれます。残業代も恒常的に発生し、年収見込みに含まれる場合は算入されます。この基準は、加入している健康保険組合によって細かな取り扱いが異なる場合があるため、詳細は扶養者が加入する健康保険組合に確認が必要です。

社会保険料算定の基礎となる「標準報酬月額」

実際に社会保険に加入した後、毎月の保険料を計算する基礎となる「標準報酬月額」には、基本給のほか、通勤手当、残業代、家族手当、住宅手当なども原則として含まれます 。この点が、106万円の壁の「月額8.8万円」の判定基準と大きく異なるため、混同しないよう注意が必要です。  

「賃金」「報酬」「収入」という言葉が様々な文脈で使われ、それぞれに含まれるものが異なるため、労務担当者も従業員も混乱しやすいポイントです。

例えば、従業員から「交通費と残業代を入れると月収10万円くらいになるけど、社会保険に入らないといけないの?」と質問された場合、労務担当者はまず、この従業員が短時間労働者としての加入要件(週20時間以上など)の他の条件を満たしているか確認します。次に「106万円の壁(月額8.8万円)」の判定を行います。

この計算では、交通費と残業代は除外します。除外した結果、所定内賃金が8.8万円未満なら、この基準では加入義務はありません。もし、所定内賃金が8.8万円以上なら加入義務があります。加入義務がある場合、次に保険料算定のための「標準報酬月額」を決定しますが、この際には交通費や見込みの残業代も報酬に含めて計算します。この区別を従業員に説明する際は、「社会保険に入れるかどうかの最初のチェック(8.8万円)では交通費や残業代は基本的に見ませんが、もし入ることになったら、毎月の保険料を決める計算では交通費なども入ってきます」といった具合に、段階を分けて説明すると分かりやすいでしょう。

Q. 週20時間未満でも、例外的に加入対象となるケースはありますか?

A. 原則として、健康保険・厚生年金保険(いわゆる狭義の社会保険)の短時間労働者への適用は、週の所定労働時間が20時間以上であることが要件の一つです。そのため、契約上の週の所定労働時間が20時間未満であれば、通常は加入対象外です 。  

しかし、以下の点に留意が必要です。

実労働時間による判断(健康保険・厚生年金保険)

雇用契約書で週20時間未満とされていても、実際の労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、かつ、その後も同様の状態が続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から被保険者資格を取得するものとして扱われることがあります 。これは、契約内容よりも実態を重視する考え方に基づきます。「一時的な繁忙」なのか「恒常的な状態」なのかの判断が重要となり、年金事務所の調査ではこの点が確認されます 。  

雇用保険の場合

雇用保険の加入要件は、週の所定労働時間が20時間以上であることに加え、「31日以上の雇用見込みがあること」です 。賃金額の要件はありません。学生であっても、夜間学生、通信制、定時制の学生や、休学中の者、卒業見込証明書があり卒業後も勤務予定の者は加入対象となる場合があります 。

  • マルチジョブホルダー制度(65歳以上): 2022年1月から、65歳以上の方で、複数の事業所で勤務し、そのうち2つ以上の事業所での勤務時間を合計して週20時間以上となる場合、本人が申し出ることで雇用保険に加入できる制度(マルチ高年齢被保険者)があります 。これは健康保険・厚生年金保険にはない、雇用保険特有の制度です。  
労使合意による任意適用(健康保険・厚生年金保険)

従業員数50人以下の事業所であっても、従業員の半数以上と事業主が合意し、申し出ることにより、51人以上の事業所と同様の基準(週20時間以上など)で短時間労働者を社会保険に加入させることができます(任意特定適用事業所)。この場合、週20時間未満の者は対象外ですが、企業規模の要件が緩和される形です。  

契約と実態の乖離はリスク要因です。例えば、会社がパートBさんと週15時間で契約したものの、慢性的な人手不足でパートBさんが毎月のように週20時間を超えて勤務し、これが3ヶ月以上継続したとします。会社が契約書を盾に「週15時間契約だから社会保険は関係ない」と認識していても、年金事務所の調査で実態として週20時間以上の勤務が常態化していると判断されれば、遡って社会保険加入指導と保険料追徴の可能性があります。企業としては、従業員の労働時間を適切に管理し、実態が契約と大きく異なる状態が続くようであれば、契約内容の見直しを検討すべきです。意図せず社会保険の加入義務が発生している状態を放置すると、後々問題となる可能性があります。

まとめ

アルバイト等の社会保険加入は、法で定められた企業の義務です。加入条件や「年収の壁」と呼ばれる制度の内容は複雑ですが、これらを正しく理解し、対象となる従業員を適切に社会保険へ加入させることは、将来的な労務トラブル(未払い保険料の追徴、従業員からの損害賠償請求など)を防ぎ、企業の社会的信頼を守ることに繋がります 。  

特に、2024年10月からは社会保険の適用範囲が従業員51人以上の企業へと拡大されるため、これまで対象外だった企業も対応が求められます。法改正が迫る中、自社だけで判断に迷うケースや、従業員への説明に苦慮する場面も増えてくるかと存じます。

従業員任せにせず、会社が主体となって正しい知識を従業員に伝え、適切な手続きを進めることが、結果として会社と従業員双方を守るための最も確実な道です。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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