副業を認める就業規則の整備ポイントと副業規程の書き方

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副業を認める際の就業規則の必要性

副業解禁の流れと企業の対応

近年、「働き方改革」やライフスタイルの多様化を背景に、社員の副業を解禁する企業が増加しています。かつては就業規則で副業・兼業を禁止するのが一般的でしたが、政府の働き方改革実行計画で副業推進の方針が示され、モデル就業規則からも副業禁止規程が削除されました。厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、従来モデル就業規則にあった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という文言を削除しています。このような流れを受け、中小企業でも「副業を認めるべきか」「認めるならどうルール化するか」が課題となっています。自社で副業解禁に踏み切る場合、企業としては単に禁止を撤廃するだけでなく、社員が安心して副業できる環境と会社業務に支障が出ないルール整備の両面から対応する必要があります。

大企業のみならず従業員100名以下の中小企業でも、人材確保や社員のスキルアップのために副業を容認するケースが増えています。副業解禁にあたっては、まず現在の就業規則を確認しましょう。既に副業禁止の規程がある場合は見直しが必要ですし、明確な規程がない場合でも新たにルールを設けることを検討すべきです。「どの程度認めるのか」「申請は必要か」「禁止事項は何か」など、企業の実情に合わせた対応方針を決め、それを就業規則に反映させることが重要です。特に中小企業では人員に余裕がない分、一人ひとりの働き方が業務に与える影響も大きいため、明確で運用しやすい副業規程を準備することが求められます。

就業規則未整備のリスクとは

副業解禁に際して就業規則を整備しないままだと、企業にはいくつかのリスクがあります。まず長時間労働による健康被害へのリスクです。就業規則で禁止規程を削除するだけでは、副業により労働者が本業+副業で過重労働となり健康を害する恐れがあります。使用者(企業)には労働者が過重労働で健康を損なわないよう配慮する「安全配慮義務」があります。本業以外での労働についても、企業は労働時間や健康状態に目配りする責任を負うため、就業規則で何も定めずに副業を認めてしまうと、結果的に労務管理上の問題(過労や労災リスク)に対処できなくなる可能性があります。

また規程がないことで社員とのトラブルに発展するリスクも見逃せません。例えば就業規則に副業に関するルールがなければ、社員が競合他社で副業をしても現行規則上は処分できず、会社の利益が害される恐れがあります。あるいは、副業によって本業に支障が出ても明確に注意・指導する根拠がなく、職務専念義務とのバランスが取れなくなります。就業規則に何も定めがない状態では、社員に「黙認されているはずだ」と誤解を与えかねず、公平な対応も困難です。その結果、他の社員の不信感を招いたり、最悪の場合法的トラブルに発展する可能性もあります。こうしたリスクを避けるためにも、副業解禁に踏み切る際は就業規則へ副業に関する明文化した規程を設けておくことが不可欠と言えるでしょう。

副業規程に盛り込むべき要素

届出制と許可制の違い

副業を認める就業規則を作成する際、まず検討すべきは「届出制」にするか「許可制」にするかです。届出制と許可制では社員から会社への申告・承認の扱いが異なります。許可制とは社員が副業を行うにあたり会社の許可が必要な方式であり、会社が認めない限り副業はできません。一方、届出制とは社員が事前に会社へ副業内容を届け出れば副業が可能となる方式で、原則として会社の承認を待たずに副業を開始できます。簡潔に言えば、許可制は「会社のOKが出て初めて可能」となり、届出制は「社員からの申告により可能(会社は内容把握のみ)」という違いです。

昨今は副業に対する考え方が許可制(原則禁止)から届出制(原則容認)へと移行しつつあります。労働者が勤務時間外をどう使うかは本来自由であり、法律で副業自体を一律に禁止する規制はありません。そのため企業側も、よほどの支障がない限り社員の副業を認める方向に動いています。厚労省のモデル就業規則でも届出制が採用されており、副業解禁時には社員に事前に内容を届け出させる方式が推奨されています。ただし届出制の場合でも、会社は提出された副業の内容を確認し、就業規則で定めた禁止事項に該当しないかチェックする必要があります。自社でどちらの方式を採るべきかは、社員の自主性を重んじるか企業リスク管理を優先するかで判断すると良いでしょう。一般的には中小企業でも届出制を導入し、「原則自由だが問題ある副業は禁止」と定める例が増えています。許可制にする場合は、許可の判断基準や手続きを明確にしるし、恣意的な運用にならないよう注意が必要です。

業務支障・秘密保持・競業禁止のルール

副業を認める場合でも、会社として譲れない禁止事項を就業規則に盛り込むことが大切です。厚労省のモデル就業規則でも、副業を禁止または制限できるケースとして次のような事由が挙げられています。

本業に支障が出る場合(労務提供上の支障がある場合)

副業のせいで本業の勤務に支障をきたす場合です。例えば副業によって疲労が蓄積し本業での生産性が低下する、あるいは副業先での勤務時間が長引いて本業に遅刻・欠勤するといったケースが該当します。社員の健康面への悪影響や、繁忙期に残業や臨時出勤をお願いできない状況も含め、本業の遂行に明確な悪影響がある副業は会社が禁止できます。

企業秘密が漏洩する場合

本業の業務で得た機密情報が副業を通じて外部に漏れる恐れがあるケースです。副業先が本業と関連する業界だったり、社員が本業と同種の職務を副業先で行う場合などは注意が必要です。情報漏洩リスクがある副業については就業規則で守秘義務違反となる副業は禁止と明示しましょう。実際、モデル就業規則でも企業秘密の漏洩につながる副業は例外なく禁止できるとされています。

競業にあたり企業の利益を害する場合

社員が競合他社や同業種で働くことで、自社の利益が損なわれる場合です。たとえ情報漏洩がなくとも、競合関係にある企業で働く副業は自社の営業上の不利益につながるため一般的に禁止対象となります。例えば自社と同じ顧客層を持つ会社での副業や、自社の商品・サービスと競合する事業を個人で営むケースなどが挙げられます。就業規則では「競業避止義務」として、副業によって会社の利益を害する行為を禁じる旨を規程しましょう。

なお、上記以外にも「会社の名誉や信用を損なう行為」に該当する副業も禁止事由になります。これは副業の内容そのものが違法または公序良俗に反する場合や、社会的に見て企業イメージを著しく低下させるような場合です。例えば反社会的な活動に関わる仕事や、会社の信用にダメージを与えかねない副業は認めない旨をしるしておくと安心です。以上のような業務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務に反する副業は就業規則で明確に禁止事項として列挙しましょう。これらは禁止できる正当な理由として法律上も認められており、社員に周知しておくことで不要なトラブルを防止できます。

副業時間・場所・範囲の制限

副業規程を定める際には、副業を行う時間や場所、業務の範囲に関するルールも検討すべきポイントです。まず副業を行ってよい時間帯については、「本業の勤務時間外であること」が大前提です。就業時間中や所定労働時間に重なる時間帯の副業は認めない旨を明記しましょう。仮に所定外の時間であっても、本業で残業命令が出る可能性がある直前直後の時間帯に副業を入れることは、本業に支障を及ぼし得ます。そのため「本業の始業前○時間以内や終業後○時間以内は副業をしないこと」など、勤務時間に近接する時間帯の副業を制限する企業もあります。また企業によっては繁忙期以外に限定して副業を許可するケースもあります。自社の業務状況に合わせ、必要であれば副業を認める時間帯や期間を制限して運用することも可能です。

次に副業を行う場所についてもルールを設けましょう。例えば在宅勤務中に副業を同時並行で行ったり、会社のオフィスや設備を使って副業活動をすることはトラブルのもとです。本業の勤務中や職場では副業に従事しないこと、会社のPCや社用携帯など設備・資源を副業に利用しないことを規程しておくと安心です。副業は勤務時間外に自宅等の本業と無関係の場所で行うのが原則であり、その旨を社員にも理解させましょう。

さらに副業の範囲(内容や形態)にも一定の制限をかけることが考えられます。副業には他社で雇用されるケースだけでなく、フリーランスとして個人事業を行うケースや、ボランティア的な活動まで様々あります。就業規則上は「営利目的の副業」に限定して届出や許可を求めるなど、対象となる副業の範囲を定義しておくと明確になります。また、副業の契約形態によって労働時間管理の扱いが変わる点にも留意が必要です。社員が他社に雇用される副業を行う場合、企業はその副業先での労働時間を把握し、本業と通算して管理する義務があります。例えば副業先との労働時間を合計して週40時間・日8時間を超えるようなら、本業側で36協定の締結や割増賃金の支払いが必要になる場合があります。さらに複数の勤務先での時間外労働の合計が月100時間未満・2~6ヶ月平均80時間以内に収まるよう企業側でコントロールすることが求められます。このように労働時間の通算管理は企業にも労働者にも重要であり、社員には他社での労働時間を申告させ適切に管理する責任が企業側にあります。

しかし現行の労働時間通算ルールは企業にとって管理負担が大きいことから、政府も今後の制度見直しを検討しています。2025年現在、法改正の動きはあるものの確定はしていませんが、副業普及のために通算管理の簡素化策が議論されています。いずれにせよ社員の健康確保と法令遵守のため、副業時間の把握と制限は就業規則で定めておくことが望ましいでしょう。例えば「他社での勤務時間と自社での残業時間の合計が月80時間(過労死ライン)を超えないよう社員は自己管理すること」といったガイドライン的文言を規程に盛り込む企業もあります。このように、副業を許可する場合でも時間・場所・業務範囲に一定のルールを設けることで、本業への影響を最小限に抑えつつ社員の安全と会社の利益を守ることが可能です。

副業規程の記載例と注意点

モデル就業規則との違い

副業規程を作成する際は、厚生労働省のモデル就業規則を一つの参考にすると良いでしょう。モデル就業規則では、副業について「勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる」と明記し、その上で例外的に禁止できる場合(前述の業務支障・秘密漏洩・信用失墜・競業の4項目)を列挙しています。また「副業を行う際は事前に会社に所定の届出を行うこと」とし、会社が内容を把握できるよう届出制を採用しています。一方、従来の就業規則(旧モデル就業規則)では「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と副業禁止を謳っていたため、これを踏襲している会社では規程をアップデートする必要があります。

モデル就業規則は汎用的なひな型であり、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが重要です。例えば届出制でなく許可制にしたい場合、モデル規程をそのまま用いると整合しないため文言を調整します。また、モデル規程では副業禁止事由が大まかに書かれていますが、自社で特に注意すべき点があれば具体的に付記するとよいでしょう。ケースによっては「〇〇の職種に就いている者は副業禁止」など対象者を限定したり、「副業は週○日以内」等の制限を追加する会社もあります。ただし、副業禁止や制限の内容が広範すぎると労働者の自由を不当に侵害する恐れがあり、無効と判断される可能性もあります。モデル就業規則では副業禁止の条件を必要最小限に留めていますが、自社の規程でも合理的な範囲内で必要な制限だけを定めることがポイントです。必要以上に細かすぎる規制や包括的すぎる禁止条項は避け、社員が理解しやすいシンプルな記載にしましょう。

実際の規程例としては、モデル就業規則に準じた次のような書きぶりが考えられます。

(副業・兼業) 社員は、勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる。但し、事前に会社所定の様式により届出を行わなければならない。会社は、社員の副業・兼業が会社業務に支障を及ぼし、企業秘密の漏洩につながり、会社の信用を損なうか競業に当たると判断した場合は、当該副業・兼業を禁止または制限することができる。

上記は一例ですが、基本的には「原則容認+届出義務+禁止条件の明示」という形で記載するとバランスが取れています。自社の就業規則に組み込む際は、現在の規程との整合性や他の条項(職務専念義務や懲戒規程等)との関連も確認しましょう。また、副業規程を新設・変更したら労働基準監督署への届出と社員への周知が必要です。せっかく良い規程を作っても、社員が知らなければ意味がありませんので、就業規則改定時には説明会を開くなどして従業員への周知徹底を図りましょう。

不利益変更にならない書き方

就業規則の変更にあたって注意したいのが、不利益変更の問題です。就業規則を改定する際、その変更が労働者にとって不利益(不利)となる場合には、労働契約法などの観点から慎重な対応が求められます。副業規程の場合、現在就業規則に副業禁止がある企業では、禁止を緩和して副業を認める方向への変更になるため、基本的には社員にとって有利または好意的な変更と言えます。そのため副業解禁は不利益変更には当たりません。むしろ労働者の権利拡大となるため、大きな法的ハードルなく導入できるでしょう。

一方、これまで就業規則で副業について何も触れてこなかった企業が新たに副業規程を設ける場合は注意が必要です。従来明文化されていなかっただけで実質的に「黙認」状態だった場合、新たに制限や手続きを課すことは一部従業員にとって不利益となる可能性があります。例えば今まで自由に副業できていた社員に対し、「今後は必ず届出をせよ」「内容によっては禁止する」といったルールを課すわけですから、不利益変更と捉えられる余地があります。このような場合でも、就業規則の変更手続きを法に則って行い、社員へ十分に説明・同意を得ることで有効な規程とすることができます。具体的には、就業規則改定時に労働者代表の意見聴取をし(※労働基準法第90条に基づく手続き)、可能であれば社員から個別に同意書をもらうなどの対応をすると安心です。

重要なのは、副業規程の内容をできる限り社員にとって納得できる形にすることです。禁止事項もあくまで合理的な範囲に留め、「会社も社員の自主性を尊重しつつ必要最低限の制約だけ設けている」というスタンスで記載すると、不利益変更にはあたりにくくなります。表現上も、「〇〇してはならない」と禁止一辺倒にするより「原則認めるが〇〇の場合は除く」といったポジティブな書き方を心がけましょう。副業規程を整備する際には労使できちんと話し合い、会社と従業員双方が納得できるルールに練り上げることが大切です。就業規則は会社側が一方的に作成・変更できますが(合理的な範囲で)、実際の運用には従業員の協力が不可欠です。副業解禁の趣旨と規程内容を丁寧に説明し、社員から理解と協力を得ることで、スムーズな制度導入と運用につながるでしょう。

社労士に副業規程を依頼するメリット

副業規程の策定にあたっては、社会保険労務士(社労士)など労務の専門家に相談することを強くおすすめします。社労士は労働基準法や関連法令、最新の行政通達にも精通しており、会社が作成しようとしている副業規程が適法かどうかチェックしてくれます。例えば「この禁止内容は広すぎて無効の恐れがある」「届出制にするなら様式はこう用意すべき」といった具体的なアドバイスを受けられるでしょう。法的リスクを未然に防ぐことができるのは大きなメリットです。実際、副業解禁に伴う労務管理上の注意点(長時間労働の管理方法や安全配慮義務の履行など)についても専門的な視点でアドバイスが得られます。また、社労士に依頼すれば就業規則の作成・変更手続きもスムーズに進みます。労基署への就業規則届の提出や労働者代表からの意見聴取といった実務手続も代行・サポートしてもらえるため、社内の負担を大きく軽減できるでしょう。

さらに、社労士は企業実務のプロフェッショナルでもあります。多くの会社の就業規則や労務相談に対応している経験から、「他社ではどんな副業ルールを設けているか」「どのように社内周知すれば社員の理解を得られるか」など実践的なノウハウを持っています。ただ規程を作るだけでなく、策定後の運用面もしっかりサポートしてくれる点は大きなメリットです。例えば、副業の申請書フォームや管理方法について提案を受けたり、実際に社員から副業の申請があった際の審査フロー構築を手伝ってもらうこともできます。社内に労務の専門担当者がいない中小企業にとって、信頼できる社労士のサポートは心強いものです。結果として、副業解禁にまつわる会社の不安(違法にならないか、トラブルが起きないか)を解消し、安心して制度を導入・運営できるでしょう。

まとめ

社員の副業解禁にあたり、就業規則へ明確な副業規程を整備することは、会社と従業員双方の安心につながる重要なステップです。「原則は認めるが、業務に支障が出たり秘密漏洩・競業のおそれがある場合は制限する」という基本方針のもと、届出制や禁止事項、副業の時間・範囲ルールを定めておけば大きなトラブルを避けられます。就業規則の整備にあたっては社員への周知と理解も欠かせません。副業を認める背景や目的をしっかり説明し、公平で透明性のあるルールとして運用することで、社員のモチベーション向上や企業への信頼にもつながるでしょう。

本記事で述べたように、副業規程の策定には法的な検討事項も多く含まれます。不安な点がある場合は、ぜひ社会保険労務士など専門家への相談をご検討ください。

当事務所では初回相談を無料で承っており、メールやオンライン会議を通じて全国どこからでもご相談いただけます。副業規程の作成支援から就業規則の届け出代行までスピーディーに対応いたしますので、「副業を認めたいが就業規則をどう改訂すればいいか分からない」という中小企業経営者の方はお気軽にお問い合わせください。適切な副業ルールを整備し、社員も会社も安心して副業制度を活用できる環境づくりをお手伝いいたします。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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