中庸企業の就業規則作成で定める項目や見直しの正しい手順を社労士が解説

中小企業の経営者様、人事労務ご担当者様。「うちの会社は従業員が少ないから就業規則はまだいいか」「昔作ったきり、見直していないな」…そうお考えではありませんか?実は、その油断が思わぬ労務トラブルや経営リスクを招く火種となることがあります。従業員との認識の齟齬、曖昧なルールによる不公平感、そして法改正への未対応。これらはすべて、企業の成長を妨げる要因となり得ます 。  

本記事では、労務の専門家である社労士が、中小企業における就業規則の重要性から、具体的な作成・見直しのポイント、そして近年注目される法改正への対応まで、経営者様が知っておくべき情報を網羅的に解説します。就業規則は、単なる「決まりごと」ではなく、会社を守り、従業員が安心して働ける環境を築くための「経営の羅針盤」です。

また当事務所は全国対応、初回相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。

目次

中小企業こそ就業規則が重要!その理由とは?

大企業には専門の人事部が存在し、労務管理に注力できる体制が整っていることが多いですが、中小企業では必ずしもそうではありません。むしろ、経営者様ご自身が人事労務を兼任されているケースも多く、日々の業務に追われる中で、労務管理まで手が回らないという実情もおありでしょう。しかし、そのような中小企業こそ、就業規則の整備が不可欠です。なぜなら、就業規則は、労務トラブルという見えない経営リスクから会社を守り、従業員が安心して働ける職場環境の基盤となるからです。従業員数が少ないからといって就業規則の重要性が薄れるわけではなく、むしろ、一つ一つのトラブルが経営に与える影響が大きい中小企業にとって、予防的なアプローチは極めて重要と言えます 。  

労務トラブルを未然に防ぐ「盾」となる

中小企業において頻発する労務トラブルには、解雇をめぐる紛争、賃金や残業代の未払い、ハラスメント問題などが挙げられます 。これらのトラブルは、一度発生すると解決に多大な時間と費用を要し、企業の評判にも傷がつきかねません。就業規則は、これらのトラブルを未然に防ぐための強力な「盾」となります。 例えば、従業員の解雇に関しては、就業規則に解雇事由や手続きが明確に定められていなければ、たとえ会社側に正当な理由があったとしても、不当解雇として訴訟に発展するリスクがあります 。就業規則に客観的で合理的な解雇事由を明記し、適切な手続きを踏むことで、解雇の有効性が高まります。

また、賃金に関しても、基本給の決定方法、諸手当の種類や計算根拠、昇給のルール、残業代の計算方法などを就業規則(または付属の賃金規程)で明確に定めておくことで、従業員との認識の齟齬を防ぎ、未払い残業代請求といった紛争を予防することができます 。 近年増加しているハラスメント問題についても、就業規則でセクシャルハラスメントやパワーハラスメントの禁止を明記し、相談窓口の設置や懲戒処分に関する規定を設けることで、発生を抑止し、万が一発生した場合でも迅速かつ適切に対応するための根拠となります 。 就業規則を作成し、従業員に周知するプロセス自体が、従業員の権利意識と会社のルール遵守意識を高める効果も期待できます。ルールが不明確な状態では、従業員は憶測や誤った情報に基づいて行動してしまったり、経営者側も場当たり的な対応に終始してしまいがちです 。

就業規則という形でルールを明文化し、全従業員がその内容を認識することで 、労使双方の誤解や認識のズレが減り、トラブルの芽を早期に摘むことにつながるのです。厚生労働省の統計によれば、個別労働紛争の相談件数は依然として高い水準で推移しており、特に「いじめ・嫌がらせ」や「労働条件の引下げ」に関する相談が増加傾向にあります 。これらの現代的な労務問題に対しても、就業規則に明確な基準を設けることが、企業を守る上で極めて重要な予防策となります。  

会社の成長と安定経営の「羅針盤」

就業規則は、単にトラブルを防ぐだけでなく、会社の成長と安定経営を導く「羅針盤」としての役割も果たします。従業員の労働条件や服務規律、評価制度などを明確に定めることで、公平で透明性の高い職場環境が実現します。これは従業員の安心感と信頼感に繋がり、結果としてモチベーションの向上や生産性の向上に貢献します 。 また、就業規則に企業理念や行動規範を盛り込むことで、従業員一人ひとりが会社の目指す方向性を理解し、一体感のある組織文化を醸成する助けとなります 。

特に中小企業の場合、現在は従業員数が少なくても、将来的に事業規模が拡大し、従業員数が増加する可能性があります。その際に、場当たり的にルールを追加したり変更したりするのではなく、初期の段階からしっかりとした就業規則を整備しておくことで、会社の成長に合わせた制度変更をスムーズに行うための強固な基盤となります 。 求職者の立場から見ても、就業規則が整備されている企業は、組織としてしっかりしており、従業員を大切にする姿勢があるという印象を与えます。これは、特に採用競争が激化する現代において、優秀な人材を確保し、定着させる上で有利に働く要素です 。

中小企業が大企業と給与水準だけで競争するのは難しい場合でも、働きがいのある公正な職場環境を提供することで、魅力的な選択肢となり得るのです。 さらに、経営リスク管理の観点からも、就業規則は極めて重要です。就業規則を作成する過程で、自社に潜む様々な労務リスク(例えば、長時間労働、メンタルヘルス問題、情報漏洩など)を洗い出し、それらに対応するための規定を盛り込むことができます。これにより、万が一問題が発生した場合でも、就業規則に基づいて適切に対応することで、企業が受ける損害を最小限に抑えることが可能になります 。  

知っておきたい!助成金申請の前提条件にも

企業の成長や職場環境の改善を後押しするために、国や地方自治体は様々な助成金制度を設けています。これらの助成金を活用することは、中小企業にとって大きなメリットとなりますが、多くの助成金制度において、就業規則の作成・整備が申請の前提条件の一つとなっていることをご存知でしょうか 。 例えば、非正規雇用労働者のキャリアアップを支援する「キャリアアップ助成金」では、正社員転換制度や賃金規定の共通化、賞与・退職金制度の導入などを就業規則に明記することが求められる場合があります 。また、働き方改革を推進するための助成金などでも、労働時間管理や休暇制度に関する規定が就業規則に整備されていることが要件となることがあります。 助成金申請における就業規則の要件は、単なる形式的なものではありません。これは、公的な資金が投入される以上、企業が法令を遵守し、適切な労務管理を行っていることを確認するという意味合いがあります。就業規則は、企業が公正で透明性のある労働条件を設定し、従業員との間で明確なルールを共有していることの証となるのです 。 したがって、適切な就業規則を整備することは、法令遵守や労務トラブル防止に繋がるだけでなく、助成金を活用して人材育成や職場環境改善への投資を行い、企業のさらなる成長を実現するための重要なステップとも言えるのです 。  

就業規則には何を定めるべき?中小企業がおさえるべき必須項目と注意点

就業規則は、会社の憲法とも言える重要なものです。では、具体的にどのような内容を定めればよいのでしょうか。労働基準法では、就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、会社が特定の制度を設ける場合に記載が必要となる「相対的必要記載事項」、そして会社が任意に定めることができる「任意記載事項」の3つに区分しています 。これらの項目を正しく理解し、自社の実情に合わせて適切に定めることが、実効性のある就業規則を作成する上での第一歩となります。  

就業規則の記載事項一覧

区分記載事項例具体例(一部)法的根拠(主なもの)
絶対的必要記載事項始業・終業時刻、休憩、休日、休暇・始業午前9時、終業午後6時、休憩1時間
週休2日制(土日)、
・祝日、年末年始休暇
・年次有給休暇、産前産後休業
労働基準法第89条1号
賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給・基本給、諸手当の構成と計算方法
・毎月25日払い(当月末日締め)
・昇給は年1回、業績・能力を勘案
労働基準法第89条2号
退職に関する事項(解雇事由を含む)・自己都合退職の手続き(1ヶ月前申告)<
・定年(満60歳、65歳までの再雇用制度あり)
・普通解雇、懲戒解雇の具体的理由
労働基準法第89条3号
相対的必要記載事項退職手当・支給対象者、計算方法、支払時期労働基準法第89条3号の2
臨時の賃金(賞与等)、最低賃金額・賞与は年2回(夏・冬)、業績により支給
・最低賃金は法令に基づく
労働基準法第89条4号
食費、作業用品等の費用負担・社員食堂利用料の一部負担
・制服貸与(クリーニング費用は自己負担)
労働基準法第89条5号
安全衛生・健康診断の実施(年1回)
・安全衛生教育の実施
労働基準法第89条6号
職業訓練・新入社員研修、OJT
・資格取得支援制度
労働基準法第89条7号
災害補償、業務外の傷病扶助・業務災害は労災保険法に基づき補償
・私傷病による休職制度
労働基準法第89条8号
表彰・制裁・永年勤続表彰、業務改善表彰
・譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇の種類と事由
労働基準法第89条9号
その他全労働者に適用される定め・休職(私傷病、自己都合等)
・福利厚生(慶弔見舞金等)
・テレワーク、副業に関するルール
労働基準法第89条10号
任意記載事項企業理念、服務規律の詳細、ハラスメント防止・企業理念、行動指針
・SNS利用ガイドライン
・ハラスメント相談窓口
労働基準法第89条の範囲外

必ず記載すべき「絶対的必要記載事項」とは?

「絶対的必要記載事項」とは、その名の通り、就業規則を作成する際に法律上必ず記載しなければならない事項です。これらの記載が漏れていると、就業規則そのものが法的に不備があると見なされ、最悪の場合、効力が認められない可能性もあります 。従業員の基本的な労働条件を定めるものであり、労使双方にとって最も重要な部分と言えるでしょう。 具体的には、次の3つのカテゴリーに関する事項が含まれます。

始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

日々の働き方の基本ルールです。例えば、「始業午前9時、終業午後6時、休憩時間は正午から午後1時までの1時間」といった具体的な時刻の明記が必要です。休日についても、「毎週土曜日及び日曜日、国民の祝日」などと具体的に定めます。年次有給休暇や産前産後休業といった法定休暇はもちろん、会社独自の特別休暇を設ける場合もここに記載します 。  

賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

給与に関するルール全般です。基本給や各種手当の決定方法、計算方法、支払方法(銀行振込など)、給与の締日と支払日(例:毎月末日締め、翌月25日払い)、昇給に関する規定(時期や基準など)を明確に定めます 。  

退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

従業員が会社を辞める際のルールです。自己都合退職の場合の手続き(退職願の提出時期など)や、定年制を設ける場合はその年齢、そして最も重要な解雇事由を具体的に記載する必要があります 。 これらの絶対的必要記載事項は、いわば労働契約の骨格をなす部分です。これらが曖昧であったり、記載されていなかったりすると、労働条件の不明確さから労使間のトラブルが生じやすくなります。例えば、労働時間の定めがなければ残業代の計算根拠が不明確になり、賃金の支払いルールが曖昧であれば給与遅配などの問題が起こりかねません。また、解雇事由が明記されていなければ、会社が従業員を解雇する際の正当性が問われることになります。法律がこれらの事項の記載を義務付けているのは、労働者の基本的な権利を保護し、公正な労働条件を確保するためです。

中小企業においても、これらの項目を具体的かつ明確に定めることが、安定した労使関係の第一歩となります。 特に、変形労働時間制やフレックスタイム制といった特殊な労働時間制度を導入している場合には、それぞれの制度の適用条件、対象となる従業員の範囲、具体的な運用方法などを就業規則に詳細に規定する必要があります 。これらの制度は、適切に運用されれば労使双方にメリットがありますが、就業規則上の規定に不備があると、制度自体が無効と判断されるリスクもあるため注意が必要です。  

会社によって定める「相対的必要記載事項」とは?

「相対的必要記載事項」とは、会社が特定の制度を設ける場合に限り、就業規則への記載が法律上義務付けられる事項を指します 。つまり、これらの制度が会社に存在しないのであれば、就業規則に記載する必要はありません。しかし、一度制度として設けた以上は、その内容を就業規則に明確に定めることで、従業員への周知と公平な運用を担保する意味合いがあります。 代表的な相対的必要記載事項には、以下のようなものがあります。

退職手当に関する事項

退職金制度を設ける場合、適用される従業員の範囲、退職金の決定方法、計算方法、支払方法、支払時期などを定めます 。  

臨時の賃金等(賞与など)及び最低賃金額に関する事項

賞与(ボーナス)を支給する場合、その支給対象者、算定期間、支給基準、支払時期などを定めます。また、会社として最低賃金額を定める場合も記載が必要です 。  

労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

従業員に社宅費や制服代などを負担させる場合に、その内容や金額、徴収方法などを定めます 。  

安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

職場の安全衛生に関するルールや健康診断の実施などを定めます 。  

職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

従業員に対する教育訓練制度を設ける場合に、その種類、対象者、実施方法などを定めます 。  

災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

業務上の災害に対する補償や、業務外の病気やケガに対する見舞金制度などを設ける場合に定めます 。  

表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項

従業員の功績を表彰する制度や、規律違反行為に対する懲戒処分の種類(譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)とその具体的な事由を定めます 。 これらの相対的必要記載事項は、会社の福利厚生や人事管理の方針を具体化するものです。例えば、退職金制度は従業員の長期勤続を促すインセンティブとなり得ますし、明確な懲戒規定は企業秩序の維持に不可欠です。これらの制度を設けること自体は会社の任意ですが、一度設けたからには、そのルールを就業規則に明記することで、従業員に対する透明性を高め、恣意的な運用を防ぐことができます 。特に賞与や懲戒処分のように従業員の関心が高い事項については、誤解や不公平感が生じないよう、適用範囲、条件、手続きなどを詳細かつ具体的に規定することが、後のトラブルを回避する上で非常に重要です。  

近年重要度が増す規定(テレワーク、副業、SNS利用など)

近年の働き方の多様化、ICT技術の急速な進展、そして社会全体の価値観の変化に伴い、従来の就業規則ではカバーしきれない新たな課題やリスクが生じています。これらに対応するため、テレワーク、副業・兼業、従業員のSNS利用といった事項に関する規定の重要性が急速に高まっています。これらの規定を適切に整備することは、現代の企業経営において不可欠なリスクマネジメントの一環と言えるでしょう。

就業規則の作成・変更 正しい手順と中小企業が陥りやすい「落とし穴」

就業規則は、一度作成すれば終わりというものではありません。法改正への対応や、会社の成長、事業内容の変化、従業員の働き方の多様化などに合わせて、定期的な見直しと適切な変更手続きが不可欠です。しかし、この作成・変更の手順を誤ると、せっかく整備した就業規則が無効になったり、かえって労務トラブルを招いたりする可能性があります。特に中小企業においては、専門知識を持つ担当者がいない、あるいは日々の業務に追われて手が回らないといった理由から、手続きが疎かになりがちなケースも見受けられます。ここでは、就業規則を有効に機能させるための正しい作成・変更ステップと、中小企業が特に注意すべき「落とし穴」について解説します。

就業規則作成・変更の基本ステップ(届出・周知まで網羅)

就業規則を新たに作成する場合、または既存の就業規則を変更する場合には、労働基準法に定められた以下の基本的なステップを踏む必要があります 。これらの手続きを一つでも欠くと、就業規則の効力に影響が出る可能性があるため、慎重に進めることが重要です。  

STEP
原案の作成・変更案の検討

まず、自社の現状の労働条件、勤務体系、社内ルールなどを整理し、就業規則の原案を作成します。既存の就業規則を変更する場合は、どの部分をどのように変更するのか、その理由や目的を明確にします 。法改正があった場合は、その内容を正確に反映させる必要があります。この段階で、経営者や関係部署間で十分に議論し、会社としての方針を固めておくことが肝心です。

STEP
従業員代表からの意見聴取

作成または変更した就業規則の案について、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(以下「従業員代表」)の意見を聴かなければなりません 。意見を聴いた結果は、「意見書」として書面にまとめ、従業員代表の署名または記名押印をもらいます。労働基準法で義務付けられているのは「意見を聴くこと」であり、必ずしも従業員代表の「同意」を得る必要はありませんが、一方的な押し付けではなく、誠実に説明し、可能な範囲で意見を反映させる姿勢が、良好な労使関係の構築には望ましいと言えます 。

STEP
労働基準監督署への届出

常時10人以上の従業員を使用する事業場では、作成または変更した就業規則を、従業員代表の意見書を添付して、所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります 。届出は、就業規則の変更届(様式あり)と変更後の就業規則、意見書の3点セットで行います。  

STEP
従業員への周知

成または変更した就業規則は、その内容を全従業員に周知しなければなりません。周知の方法としては、事業場の見やすい場所への掲示または備え付け、書面での交付、社内イントラネットや共有フォルダへのデータ保存などが挙げられます 。この周知義務を怠ると、たとえ労働基準監督署に届け出ていたとしても、その就業規則は効力を生じないと判断される可能性が非常に高いため、最も重要なステップの一つです 。従業員がいつでも内容を確認できる状態にしておくことが求められます。

これらのステップは、就業規則が法的に有効であり、かつ社内で実効性を持つための土台となります。意見聴取は労使間のコミュニケーションを促し、届出は行政による一定のチェック機能を果たし、そして周知によってはじめて従業員がルールを認識し遵守することが期待できるのです。一つ一つの手続きを丁寧に行うことが、将来の無用なトラブルを避ける鍵となります。

ひな形利用の危険性とは?中小企業が見落としがちな不備とリスク

就業規則の作成や見直しを検討する際に、手軽さやコスト削減の観点から、インターネット上で無料公開されている就業規則のひな形(テンプレート)を利用しようと考える経営者様もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらのひな形を安易に利用することには、多くの危険性が潜んでいます 。特に中小企業においては、専門知識を持つ担当者が不足している場合が多く、ひな形の問題点に気づかないまま導入してしまうケースが散見されます。  

リスク1:自社の実態との乖離

ひな形は、あくまで一般的な内容で構成されているため、特定の業種や企業規模、独自の社風や勤務体系といった、各企業固有の実情に合致しない規定が含まれていることが多々あります 。例えば、従業員数名の会社に、大企業向けの詳細な役職制度や複雑な懲戒委員会の規定がそのまま記載されていても、実態として運用できません 。このような実態と乖離した就業規則は、いざという時に役に立たないばかりか、かえって混乱を招く原因となります 。  

リスク2:法改正への未対応・法令違反

労働関係法令は頻繁に改正されます。ひな形が作成・公開された時期によっては、最新の法改正の内容が反映されておらず、古い法律に基づいた規定のままになっている可能性があります 。法令に違反する就業規則の条項は無効となるため 、知らないうちに法違反を犯しているという事態になりかねません。

リスク3:規定の意味・運用の誤解

ひな形の条文をコピー&ペーストしただけで、その法的な意味や運用上の注意点を十分に理解しないまま就業規則を導入してしまうと、後々大きな問題を引き起こすことがあります 。例えば、ある条文が自社にとって有利に働くと思い込んでいても、判例などでは異なる解釈がされている場合、トラブル発生時に会社側の主張が認められない可能性があります。  

リスク4:不利益変更のリスクと修正の困難さ

就業規則は、一度従業員に周知されると、労働契約の内容となります。そのため、後から従業員にとって不利益な内容に変更(不利益変更)しようとする場合、原則として従業員一人ひとりの個別の同意を得るか、変更に合理的な理由があり、かつ変更後の就業規則を周知するなどの厳格な手続きが必要となります 。安易にひな形を導入し、後から「これは自社に合わないから変えたい」と思っても、簡単には修正できないケースがあるのです。  

中小企業でよく見られるひな形利用による不備の具体例としては、社員区分の定義が曖昧なため、正社員向けの退職金規定がパートタイマーにも適用されると解釈されかねないケース 、固定残業代制度の規定が不十分で、制度自体が無効とされ多額の未払い残業代を請求されるケース 、休職規定が実態に合わず、休職と復職を繰り返す従業員への対応に苦慮するケース 、懲戒規定の事由や手続きが曖昧で、問題社員に対して有効な懲戒処分が下せないケース などが挙げられます。
これらのリスクを回避するためには、ひな形はあくまで参考程度に留め、必ず自社の実情に合わせて内容を精査し、必要に応じて専門家である社労士に相談することが賢明です。一見コスト削減に見えるひな形の利用が、結果的に大きな損失に繋がる可能性があることを認識しておく必要があります。  

法改正への対応は万全ですか?定期的な見直しが不可欠

労働関係の法律は、社会情勢の変化や働き方の多様化、労働者保護の観点から、非常に頻繁に改正が行われます。特に近年は、「働き方改革関連法」 、「育児・介護休業法」 、「無期転換ルール」の導入 など、企業実務に直接的な影響を及ぼす重要な改正が相次いでいます。

例えば、2023年4月からは中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられました 。また、2025年4月および10月には、育児・介護休業法の大幅な改正が予定されており、「子の看護等休暇」の対象拡大や取得事由の追加、「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化(3歳から小学校就学前の子を養育する従業員対象)、「介護離職防止のための個別周知・意向確認」の義務化などが盛り込まれ、中小企業もこれらの新制度への対応が求められます 。

さらに、雇用保険法についても、適用範囲の拡大などが予定されています 。 これらの法改正に対応せず、古い内容のままの就業規則を運用していると、知らないうちに法令違反を犯してしまうリスクが非常に高くなります。例えば、改正後の割増賃金率で残業代を支払っていなければ未払い賃金の問題が発生しますし 、育児・介護休業法で新たに義務付けられた措置を講じていなければ、従業員からの申し出に対応できず、紛争に発展する可能性もあります 。したがって、就業規則は一度作成したら終わりではなく、定期的な見直しが不可欠です。少なくとも2~3年に一度は見直しを行い 、法改正の内容はもちろん、社会情勢の変化や自社の経営状況、従業員の構成やニーズの変化などを踏まえて、常に最新かつ最適な状態に保つ努力が求められます 。法改正への対応の遅れは、企業にとって大きな経営リスクとなり得ることを十分に認識しておく必要があります 。  

就業規則の整備・見直しは信頼できる社労士にご相談ください

就業規則の作成や見直しは、法的な専門知識と実務経験が不可欠な業務です。特に中小企業においては、経営者様や人事ご担当者様が日々の業務に追われる中で、複雑な法令を正確に理解し、自社に最適な就業規則を整備することは容易ではありません。そこで、労働法務の専門家である社会保険労務士(社労士)への相談・依頼が、最も確実で効率的な選択肢となります。

なぜ専門家(社労士)への依頼がベストな選択なのか

社労士に就業規則の作成や見直しを依頼することには、多くのメリットがあります。

専門知識と最新情報への対応

社労士は、労働基準法をはじめとする労働関係法令、頻繁に行われる法改正、そして最新の裁判例に至るまで、専門的な知識と情報を常にアップデートしています 。これにより、法的に不備がなく、かつ実務に即した実効性の高い就業規則を作成・維持することが可能です。自社だけでこれらの情報を網羅的に把握し、適切に反映させることは非常に困難です。

企業ごとの最適なカスタマイズ

社労士は、企業の業種、規模、従業員構成、企業文化、経営方針といった個別の状況を丁寧にヒアリングし、それぞれの企業に最も適したオーダーメイドの就業規則を提案します 。インターネット上のひな形では対応できない、きめ細やかな配慮と専門的な視点からのアドバイスが期待できます。

時間と労力の大幅な削減

就業規則の作成や変更には、関連法令の調査、条文の作成、意見聴取、届出といった多くの煩雑な作業が伴います。これらを社労士に委託することで、経営者様や人事ご担当者様は本来注力すべきコア業務に専念することができます 。就業規則の作成期間は、内容や企業の規模によって異なりますが、一般的には数週間から2~3ヶ月程度が目安とされています 。

労務トラブルの予防と円滑な解決支援

社労士は、過去の労働紛争事例や判例にも精通しているため、将来起こり得る潜在的な労務リスクを予見し、それを未然に防ぐための条項を就業規則に盛り込むことができます 。万が一、労務トラブルが発生してしまった場合でも、適切に整備された就業規則は、会社側の正当性を主張し、紛争を有利に進めるための重要な証拠となり得ます。  

社労士に依頼する費用は、確かに初期投資として発生します 。しかし、不適切な就業規則が原因で発生する可能性のある労務トラブルの解決費用(弁護士費用、和解金、損害賠償金など)や、企業の評判低下、従業員の士気低下といった目に見えないコストと比較すれば、専門家への依頼は長期的に見て非常に合理的な投資と言えます。例えば、不当解雇と判断された場合には数百万円単位の支払いが必要になることもありますし 、未払い残業代の請求も企業にとって大きな負担となり得ます 。社労士への依頼は、これらのリスクを未然に防ぐための「保険」のような役割を果たすのです。 信頼できる社労士を選ぶ際のポイントとしては、自社の業種や規模に対する理解度、就業規則作成の実績、料金体系の明確さ、そして何よりも経営者様やご担当者様とのコミュニケーションの取りやすさ(相性)などが挙げられます 。複数の社労士と面談し、比較検討することも有効です。

当事務所の強み:全国対応・初回相談無料で安心サポート

当事務所は、労務の専門家である社会保険労務士が、中小企業の皆様の就業規則作成・見直しを、全国どこでも強力にサポートさせていただきます。

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当事務所は、単に法律に適合した就業規則を作成するだけでなく、貴社の企業文化や経営戦略、将来のビジョンを深く理解した上で、それぞれの企業様に最適な「生きた就業規則」作りを追求します。最新の法改正にも迅速に対応し、潜在的な労務リスクを洗い出し、会社を守り、従業員が安心して能力を発揮できる職場環境の構築をサポートすることで、貴社の持続的な成長に貢献いたします。

まとめ

中小企業にとって、就業規則は単なる「作成義務」のある書類ではなく、労務トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心してその能力を最大限に発揮できる職場環境を整備し、ひいては企業の持続的な成長と発展を支えるための不可欠な経営ツールです。法改正が頻繁に行われ、働き方も多様化する現代においては、その重要性はますます高まっています 。  

就業規則の作成や見直しは、専門的な法律知識と豊富な実務経験が求められる複雑な作業です。自社だけで完璧に対応しようとすると、多大な時間と労力がかかるだけでなく、法的なリスクを見逃してしまったり、実態にそぐわない規定を作ってしまったりする可能性も否定できません。ぜひ、この機会に貴社の就業規則を見直し、専門家である社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めいたします。

私たち「社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)」は、就業規則の作成・見直しに強みを持っています。最新の法改正への迅速な対応はもちろんのこと、貴社の企業理念や経営戦略を深く理解し、それを反映した「会社を守り、従業員の成長を後押しする就業規則」の実現を全力でサポートいたします。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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