近年、「男性育休」は企業の規模を問わず、対応が不可欠なテーマとなっています。特に中小企業の経営者様や人事ご担当者様にとっては、「産後パパ育休って何?」「男性社員から育休の申し出があったけど、どうすれば…?」といった疑問や、制度の複雑さ、人手不足への懸念など、頭を悩ませる課題も多いのではないでしょうか。しかし、男性育休への適切な対応は、法令遵守はもちろんのこと、従業員の満足度向上、ひいては企業の持続的な成長にも繋がる重要な取り組みです。
本記事では、人事労務の専門家である社労士の視点から、最新の男性育休制度の基本、企業が行うべき具体的な手続き、男性育休を企業の成長に繋げるための戦略的なポイント、そして育休を取得しやすい職場環境の整備方法まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。社労士事務所altruloopは、貴社の男性育休導入・運用を円滑に進め、企業の成長をサポートするお手伝いをいたします。
「男性育休」の基礎知識
男性の育児休業制度は、近年の法改正により大きく変化しています。特に「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設は、企業対応において重要なポイントです。これらの制度は日々更新されており、企業は常に最新の情報を把握し、適切に対応することが求められます。ここでは、これらの制度の基本を正確に理解し、適切な対応の土台を築きましょう。
「産後パパ育休(出生時育児休業)」とは?従来の育休との違いは?
産後パパ育休(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)取得可能な、従来の育児休業とは別の制度です 。これら二つの制度は、対象期間、申出期限、分割取得のルール、休業中の就業可否など、多くの点で異なります 。これらの制度を正しく理解し、組み合わせることで、男性従業員はより柔軟に育児に参加できるようになります。企業としては、これらの違いを明確に認識し、従業員へ正確な情報提供を行うことが不可欠です。
対象期間と申し出期限
産後パパ育休の対象期間は、子の出生後8週間以内に最大4週間(28日)です 。申し出期限は、原則として休業開始予定日の2週間前までですが、労使協定で定めた場合は1ヶ月前までとすることも可能です 。
一方、従来の育児休業の対象期間は、原則として子が1歳に達するまで(保育所に入所できないなどの一定の理由がある場合は最長2歳まで延長可能)です 。申し出期限は、原則として休業開始予定日の1ヶ月前までとなります 。
企業は、これらの制度内容、申出先、必要書類などを、対象となる従業員へ個別に周知し、取得意向を確認する義務があります 。この個別周知・意向確認は、2022年の法改正で企業に課された重要な責務であり、確実な履行が求められます。
分割取得の可否と回数
産後パパ育休は、2回まで分割して取得可能です。ただし、この2回の休業は初めにまとめて申し出る必要があります 。
従来の育児休業も、2022年10月の法改正により、2回まで分割して取得可能となりました。こちらは、取得の都度申し出る形となります 。
これらの制度を組み合わせることで、例えば産後パパ育休を2回、従来の育児休業を2回取得し、合計で最大4回の分割取得が可能になるケースも考えられます 。この柔軟性は従業員の多様なニーズに応えるものですが、企業側はそれぞれの申し出ルールを正確に管理する必要があります。
休業中の就業は可能か?
産後パパ育休中の就業は、労使協定を締結しており、かつ労働者本人が合意した場合に限り、休業期間中の所定労働日数・所定労働時間の半分を上限として認められています 。これは、育児休業を取得しつつも、完全に業務から離れることが難しい場合の選択肢となり得ます。
一方、従来の育児休業中は、原則として就業することはできません 。ただし、会社との合意のもと、一時的・臨時的に就労が認められるケースもありますが、その判断は慎重に行う必要があります。
この就業可否のルールの違いは、両制度の大きな特徴の一つであり、企業は労使協定の整備を含め、適切に対応する必要があります。
2025年4月改正のポイント
2025年4月からは、男性の育児休業制度に関してさらに重要な改正が施行されます。
- 給付金の拡充: 両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、子の出生後8週間以内の最大28日間について、**「出生後休業支援給付」**が創設され、育児休業給付金と合わせて給付率が実質手取り10割相当に引き上げられます 。これは、育休取得に伴う経済的な不安を大幅に軽減し、特に男性の育休取得を強力に後押しすることが期待されます。
- 男性育休取得率の公表義務拡大: 現在、従業員1,000人超の企業に義務付けられている男性の育児休業等取得率の公表が、従業員300人超の企業にも拡大されます 。これにより、より多くの企業が男性育休の推進に積極的に取り組むことが求められ、社会全体の機運醸成にも繋がります。
- 企業の対応強化の必要性: これらの改正に伴い、企業は就業規則の改定、新たな給付金制度に対応した給付金実務の整備、従業員への社内周知の徹底、そして育休取得者が安心して休業できるよう業務フォロー体制の構築が一層重要になります 。
これらの法改正は、企業にとって男性育休への取り組みを一層強化する契機となるでしょう。
特徴 | 産後パパ育休(出生時育児休業) | 従来の育児休業 |
---|---|---|
制度名 | 出生時育児休業 | 育児休業 |
対象期間 | 子の出生後8週間以内に最大4週間(28日) | 原則として子が1歳に達するまで(最長2歳まで延長可能) |
申出期限 | 原則、休業開始予定日の2週間前まで(労使協定により1ヶ月前も可) | 原則、休業開始予定日の1ヶ月前まで |
分割取得 | 2回まで(初めにまとめて申し出る必要あり) | 2回まで(取得の都度申し出る) |
休業中の就業 | 労使協定を締結し労働者が合意した場合、上限の範囲内で可能 | 原則として就業不可 |
2025年改正影響 | 出生後休業支援給付(給付率13%上乗せ)の対象となり得る(条件あり) | 育児休業給付金の対象。出生後休業支援給付と合わせて給付率が実質手取り10割相当になる場合あり(条件あり) |
支援内容:給付金と社会保険料免除
育児休業期間中の従業員の生活を支える経済的支援は、主に「育児休業給付金」と「社会保険料の免除」の二本柱です。これらの制度は、従業員が安心して育児に専念できるようにするために非常に重要であり、企業はこれらの仕組みを正しく理解し、従業員に適切に案内する責任があります。経済的な不安は育休取得の大きな障壁となるため 、これらの支援制度を丁寧に説明することが取得促進に繋がります。
出生時育児休業給付金・育児休業給付金の計算方法と受給要件
育児休業給付金は、育児休業を取得した雇用保険の被保険者に対して支給されます。支給額の計算方法は以下の通りです 。
- 支給額:原則として【休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%】
- ただし、育児休業開始から181日目以降は給付率が50%となります。
- 休業開始時賃金日額:原則として、育児休業開始前6ヶ月間に支払われた賃金(賞与や臨時の賃金は除く)の総額を180で割った額です 。
主な受給要件は以下の通りです 。
- 育児休業期間中の各1ヶ月ごとに、休業開始前の1ヶ月あたりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと。
- 就業している日数が各支給単位期間(1ヶ月ごと)ごとに10日以下(10日を超える場合は就業していると認められる時間が80時間以下)であること。
- 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上ある月)が12ヶ月以上あること。
出生時育児休業給付金は、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合に支給される給付金です。基本的な計算方法や受給要件は育児休業給付金に準じますが、支給日数は最大28日となります。2025年3月までは育児休業給付金の一部として整理されていることが多いですが、詳細については管轄のハローワークにご確認ください。
これらの給付金の計算は複雑に感じるかもしれませんが、具体的な計算例を見ることで理解が深まります。
項目 | 内容 |
---|---|
月給例 | 300,000円(賞与除く、各種手当込み) |
休業開始時賃金日額の計算 | 300,000円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 10,000円 |
育休開始から180日間の給付額 | 日額: 10,000円 × 67% = 6,700円 <br> 月額(30日として): 6,700円 × 30日 = 201,000円 |
181日目以降の給付額 | 日額: 10,000円 × 50% = 5,000円 <br> 月額(30日として): 5,000円 × 30日 = 150,000円 |
2025年4月以降のポイント | 出生後8週間以内に両親共に14日以上育休取得等の条件を満たせば、最初の最大28日間は「出生後休業支援給付金」(賃金の13%相当)が上乗せされ、実質給付率80%となる。 |
【2025年4月~】給付率最大8割へ!出生後休業支援給付金とは
2025年4月より、「出生後休業支援給付金」が新たに創設されます 。これは、従来の育児休業給付金に上乗せされる形で支給され、特に男性の育休取得直後の経済的支援を手厚くし、取得を一層促進することを目的としています。
具体的には、子の出生後8週間以内に両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合(一定の例外あり)、休業開始前の賃金の13%相当額が最大28日間支給されます 。これにより、既存の育児休業給付金(67%)と合わせて実質80%の給付率となり、さらに社会保険料が免除されることを考慮すると、実質的な手取り額は休業前の10割程度となることが見込まれます 。
この制度変更は、育休取得の経済的ハードルを大きく下げるものであり、企業は従業員への正確な情報提供とともに、給与計算や社会保険手続きへの影響を理解し、適切に対応準備を進める必要があります 。
社会保険料が免除される期間
育児休業期間中は、健康保険料および厚生年金保険料の被保険者負担分および事業主負担分の双方が免除されます 。これは従業員だけでなく、企業にとっても大きな経済的メリットとなります。
免除期間については、以下のルールがあります 。
- 月々の給与にかかる保険料: 育児休業等を開始した日の属する月から、その育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間。
- また、同一月内(育児休業等を開始した日の属する月)に14日以上育児休業等を取得した場合も、その月の社会保険料が免除されます。
- 賞与にかかる保険料: 賞与が支払われた月の末日を含んで、連続した1ヶ月を超える育児休業等を取得した場合に限り、その賞与にかかる保険料が免除されます(2022年10月改正により要件が厳格化されました)。
手続き
手続きは、事業主が「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構(管轄の年金事務所または事務センター)に提出することで行われます 。この申出書の提出をもって免除が適用されるため、企業は従業員から育休の申し出があった際には速やかに手続きを行う必要があります。
重要な点として、社会保険料の免除期間中も被保険者資格は継続し、将来の年金額を計算する際には、保険料を納付したものとして扱われますので、従業員の不利益になることはありません 。
免除対象 | 月々の給与にかかる保険料 | 賞与にかかる保険料 |
---|---|---|
従業員側の条件 | 育児休業(産後パパ育休含む)を取得すること | 育児休業(産後パパ育休含む)を取得すること |
会社側の手続き | 「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出 | 「育児休業等取得者申出書」に賞与支払届の提出と合わせて、または別途賞与に関する申出を行う(詳細は要確認) |
免除期間ルール | ・育休開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月まで<br>・育休開始日の属する月内に14日以上育休を取得した場合、当該月の保険料も免除(休業中の就業日除く) | 賞与月の末日を含み、連続して1ヶ月を超える育休を取得した場合に免除 |
ポイント | ・従業員負担分だけでなく、会社負担分も免除される<br>・免除期間中も被保険者資格は継続し、将来の年金額計算において保険料納付済期間として扱われるため、従業員に不利益はない | ・2022年10月より要件が厳格化 |
男性社員の育休の具体的な手続き内容
男性従業員から育児休業取得の申し出があった場合、企業は育児・介護休業法に基づき、適切かつ迅速に対応する必要があります。申し出の受付から始まり、休業中の業務調整、社会保険手続き、そしてスムーズな職場復帰支援に至るまで、一連のプロセスを円滑に進めることが求められます。ここでは、企業が行うべき具体的なステップと、各段階での注意点を詳細に解説します。中小企業においては、こうした手続きの標準化が遅れているケースも見られるため 、明確なフローを確立することが特に重要です。
ステップ1:従業員からの育休申し出の受付と個別面談の実施
従業員からの育児休業取得の申し出は、原則として書面(育児休業申出書など)で受け付けます。企業によっては電子申請システムを導入している場合もあります。申し出を受けたら、企業は対象従業員と個別面談を実施することが法律で義務付けられています 。この面談は、単に申し出内容を確認するだけでなく、従業員の意向を丁寧にヒアリングし、必要な情報提供を行う重要な機会です。
申し出内容の確認と取得意向のヒアリングポイント
個別面談では、まず従業員が提出した申出書に基づき、以下の内容を確認します。
- 取得希望期間: 具体的な開始日と終了日。
- 分割取得の希望: 産後パパ育休や育児休業を分割して取得したいか、その場合の具体的なプラン。
- 休業中の連絡方法・頻度の希望: 会社からの情報提供や連絡について、どの程度の頻度や方法を希望するか。
さらに、以下のヒアリングポイントを参考に、従業員の状況や考えを深く理解するよう努めます 。
- 育休取得の目的や育児への関わり方についての考え(任意で、本人が話せる範囲で)。
- 業務の引き継ぎに関する懸念や希望:どの業務を誰に引き継ぎたいか、資料作成の状況など。
- 復帰後の働き方に関する現時点での希望:時短勤務の利用希望、担当業務の調整希望など 。
- 制度利用に関する不安な点:収入面、キャリアへの影響、職場の雰囲気、他の従業員への影響など 。
- 会社として特に配慮してほしい事項。
これらのヒアリングを通じて、従業員が安心して育休を取得し、円滑に職場復帰できるようサポートするための情報を収集します。
育休制度の説明と必要書類のアナウンス
個別面談は、企業が従業員に対して育休制度に関する正確な情報を改めて提供する絶好の機会です。以下の内容を分かりやすく説明しましょう 。
- 利用可能な育休制度の種類: 産後パパ育休(出生時育児休業)と従来の育児休業の違い、それぞれの特徴。
- 対象期間、申し出期限、分割取得のルール。
- 育児休業給付金制度: 支給要件、給付額の目安、申請手続きの流れ。2025年4月からの出生後休業支援給付金についても触れる。
- 社会保険料免除制度: 免除対象となる保険料、免除期間、手続き。
- 社内申請フロー: 育休申出書以外の社内手続き、提出先、期限。
- ハラスメント防止に関する会社の方針: パタニティハラスメントの禁止、相談窓口の案内。
説明の際には、厚生労働省が発行しているリーフレットやQ&A集などを活用すると、従業員の理解を助けることができます 。また、育休取得に必要な社内様式の育児休業申出書や、育児休業給付金申請や社会保険料免除手続きのために会社が提出する書類に従業員が記載・提出すべき情報(マイナンバー、振込先口座情報など)についても、この時点で明確にアナウンスします。
ステップ2:休業期間中の業務調整と代替要員の検討
従業員の育休取得が決定したら、次に重要なのは休業期間中の業務体制の整備です。特に中小企業では、一人ひとりの従業員が担う業務範囲が広く、代替要員の確保が難しいケースも少なくありません 。しかし、適切な業務調整と計画的な対応により、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。
引き継ぎ計画の作成と関係部署との連携
育休取得者本人、上司、そして関連部署の担当者が協力し、詳細な引き継ぎ計画書を作成します 。この計画書には、以下の項目を具体的に明記することが望ましいです。
- 担当業務一覧: 日常業務、定期業務、プロジェクト業務など。
- 各業務の手順・マニュアル: 未整備の場合は、この機会に作成を奨励。
- 関係先連絡リスト: 顧客、取引先、社内関連部署の担当者など。
- 進行中の案件の状況と今後のスケジュール: 各案件の進捗、課題、期限。
- 休業中の対応担当者と連絡体制: 各業務の一次対応者、エスカレーション先。
- 参照すべき資料やデータの保管場所。
引き継ぎには十分な期間を設け、可能であればOJT(On-the-Job Training)形式で実際に業務を行いながら引き継ぐことで、スムーズな移行が期待できます。関係部署との連携を密にし、休業期間中の業務が滞らないよう協力体制を構築します。
他の従業員への配慮と情報共有
育休取得者の業務を分担することになる他の従業員への配慮は、職場全体の士気を維持し、育休制度への理解を深める上で非常に重要です。
- 業務量の適正化: 特定の従業員に過度な負担が集中しないよう、業務分担を公平に行い、必要に応じて一時的な増員や外部リソースの活用(派遣社員、業務委託など)も検討します 。
- 情報共有: 育休取得の事実、休業期間、主要な業務の担当変更について、関係する従業員に速やかにかつ適切に情報共有します 。誰がどの業務を担当するのかを明確にすることで、混乱を防ぎます。
- 感謝と協力の呼びかけ: 育休取得者をサポートする周囲の従業員に対し、会社として感謝の意を伝え、協力的な雰囲気づくりを促します。
- 業務効率化の推進: 育休取得を機に、チーム全体の業務プロセスを見直し、無駄な作業の削減や効率化を図ることで、残る従業員の負担軽減に繋げることができます 。
これらの配慮を通じて、育休取得者も周囲の従業員も気持ちよく働ける環境を目指します。
ステップ3:社会保険・雇用保険関連の手続き
従業員が育児休業を取得する際には、企業は社会保険(健康保険・厚生年金保険)および雇用保険に関するいくつかの重要な手続きを行う必要があります。これらの手続きは、従業員が経済的な支援を確実に受けられるようにするため、また企業が法令を遵守するために不可欠です。手続きには期限が設けられているものも多いため、迅速かつ正確な対応が求められます。
育児休業等取得者申出書の提出
従業員が育児休業(産後パパ育休を含む)を開始したら、事業主は「育児休業等取得者申出書(新規・延長)」を、事業所の所在地を管轄する年金事務所または事務センターに提出しなければなりません 。この申出書の提出により、育児休業期間中の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が被保険者本人負担分および事業主負担分の両方について免除されます。
提出期限は、原則として従業員が育児休業等を開始した後、速やかに(例えば、休業終了予定日の属する月の月末まで、または休業終了後1ヶ月以内など、状況に応じて確認が必要)とされています 。
夫婦で育児休業を取得する場合に利用できる「パパママ育休プラス制度」を利用する際には、申出書の記載方法に注意が必要です 。具体的には、備考欄の「パパママ育休該当」に印をつけ、配偶者の育児休業取得状況などを記載します。
この手続きは、従業員だけでなく企業にとっても保険料負担が軽減される重要なものですので、忘れずに実施しましょう。
給付金申請における会社の協力事項
育児休業給付金の申請は、原則として事業主を経由してハローワークに行われます(従業員本人が希望すれば個人申請も可能ですが、多くの場合は事業主経由です)。企業は、この申請手続きにおいて重要な役割を担います。
具体的には、以下の書類の準備・作成に協力する必要があります。
- 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書: 従業員が記載する部分と事業主が記載する部分があります。事業主は、被保険者番号、事業所番号、休業開始年月日、休業期間中の賃金支払状況などを正確に記入します。
- 賃金台帳: 休業開始時賃金日額の算定基礎となる、休業開始前6ヶ月間の賃金の支払い状況を証明するために必要です。
- 出勤簿(タイムカードなど): 休業期間や休業開始前の就労状況を確認するために必要です。
これらの書類をハローワークに提出することで、従業員は育児休業給付金を受給できます。申請には、従業員のマイナンバーや振込先金融機関の口座情報なども必要となるため、事前に従業員からこれらの情報を提供してもらうようアナウンスしておくことがスムーズな手続きに繋がります。
ステップ4:休業中の従業員との適切なコミュニケーション
育児休業中の従業員が職場から孤立していると感じたり、復帰に対する不安を募らせたりしないよう、企業は適切なコミュニケーションを継続することが望ましいです。しかし、その連絡の頻度や方法は、従業員本人の希望を最大限に尊重し、育児に専念している期間の負担にならないよう細心の注意を払う必要があります 。休業に入る前の面談で、休業中の連絡について本人の意向を確認しておくことが重要です。
ステップ5:職場復帰支援プランの作成とスムーズな復帰へ
従業員が育児休業から円滑に職場へ復帰できるよう、企業は「育休復帰支援プラン」の策定と実施を検討することが推奨されます 。厚生労働省も中小企業向けのマニュアルを公開しており 、これを参考に自社の規模や状況に合わせたプランを作成できます。このプランは、休業前から復帰後までの一貫した支援体制を構築し、従業員の不安を軽減するとともに、企業の戦力としての早期の活躍を促すことを目的とします。
復帰前面談の実施と業務内容の再確認
職場復帰の1~2ヶ月前を目安に、育休中の従業員本人と上司(または人事担当者)が復帰前面談を実施します 。この面談は、復帰に向けた双方の意思疎通を図り、準備を整えるための非常に重要な機会です。
面談での主な確認・共有事項 :
- 健康状態と育児の状況: 本人の体調や、保育園の状況など。
- 復帰後の働き方に関する希望:
- 勤務時間(短時間勤務制度の利用希望など)。
- 担当業務内容や業務量に関する希望。
- テレワークやフレックスタイム制度の利用希望。
- その他、会社に配慮してほしい事項(子の急な病気時の対応など)。
- 休業中に変更があった社内情報や業務内容の共有: 組織変更、新しいプロジェクト、ツールの導入など、復帰後の業務に必要な情報をアップデートします 。
- 復帰に関する不安な点のヒアリングと解消: キャリア継続への不安、ブランクへの懸念などを丁寧に聞き取り、必要なサポートを検討します。
原則として、育児休業からの復帰は原職または原職相当職への復帰が基本です 。しかし、本人の希望や育児の状況、会社の業務状況などを総合的に勘案し、必要に応じて業務内容や配置を柔軟に調整することも検討します。
必要に応じた短時間勤務制度などの活用
育児・介護休業法では、3歳に満たない子を養育する従業員が希望した場合、事業主は1日の所定労働時間を原則として6時間とする短時間勤務制度を設けなければならないと定められています。これは従業員の権利であり、企業はこれに応じる義務があります。
その他にも、企業が独自に設けている、あるいは法律で利用が認められている以下のような制度があれば、復帰前面談などを通じて従業員に積極的に案内し、活用を促します。
- フレックスタイム制度: 始業・終業時刻を従業員が自主的に決定できる制度。
- テレワーク(在宅勤務): 通勤時間の削減や、育児と仕事の両立支援に有効です 。
- 子の看護休暇: 小学校就学前の子が病気や怪我をした場合に取得できる休暇。
- 時間外労働の制限・深夜業の制限: 育児中の従業員が申し出た場合に適用される制度。
これらの制度の利用についても、復帰前面談で従業員の希望を確認し、業務への影響を考慮しながら、可能な限り柔軟に対応することが、従業員の定着と活躍に繋がります。
「男性育休」を企業が積極的に推進するメリット
男性の育児休業推進は、単に法令を遵守するという受動的な対応に留まらず、企業にとって多くの戦略的なメリットをもたらします。変化の激しい現代において、企業が持続的に成長し、競争力を維持するためには、多様な人材が活躍できる環境づくりが不可欠です。男性育休への積極的な取り組みは、その重要な一翼を担うと言えるでしょう。ここでは、企業が男性育休を積極的に推進すべき理由と、それによって得られる具体的な効果について多角的に解説します。
メリット1:法令遵守と企業リスクの低減
育児・介護休業法は、企業に対して、従業員が育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、育児休業の申し出や取得を理由とした不利益な取扱いの禁止などを明確に義務付けています 。これらの法的義務を怠った場合、企業は行政からの指導や勧告を受けるだけでなく、悪質なケースでは企業名が公表されるといった重大なリスクを負うことになります 。企業名の公表は、特に地域社会との信頼関係やブランドイメージを重視する中小企業にとって、計り知れないダメージとなり得ます。
法令を遵守することは、企業の社会的責任を果たす上での最低限のラインであり、従業員との無用な労務トラブルを未然に防ぎ、安定した経営基盤を維持するための基本的な対応と言えます。
育児・介護休業法の改正と企業の義務
育児・介護休業法は、社会情勢の変化に合わせて度々改正が行われています。近年の主な改正ポイントと、それに伴う企業の義務は以下の通りです。
- 2022年4月施行の主な改正点:
- 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備義務: 企業は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口設置など)
- 自社の労働者の育児休業取得事例の収集・提供
- 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
- 妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置義務: 企業は、対象労働者に対し、育休制度の内容や申し出先などを個別に説明し、取得意向を確認しなければなりません。
- 産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設。
- 育児休業の分割取得が可能に(2回まで)。
- 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備義務: 企業は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 2025年4月施行予定の主な改正点:
- 育児休業等の取得状況の公表義務の対象企業拡大: 現在の「常時雇用する労働者数が1,000人超」から**「300人超」**の企業にまで拡大されます 。
これらの法改正は、企業に対してより積極的な育休推進への取り組みを求めており、継続的な情報収集と対応が不可欠です。
違反した場合のリスク
育児・介護休業法に定められた企業の義務に違反した場合、企業は以下のような様々なリスクに直面する可能性があります。
- 不利益取扱いの禁止違反: 育児休業の申し出や取得を理由とした解雇、雇止め、契約更新拒否、降格、減給、不利益な配置転換、不利益な人事考課などは法律で固く禁じられています 。これに違反した場合、当該措置は無効と判断される可能性があります。
- ハラスメントの発生と企業の責任: 育休取得者に対する嫌がらせや、取得を妨げるような言動(パタニティハラスメント)が発生した場合、企業は使用者責任を問われる可能性があります。企業にはハラスメント防止措置を講じる義務があります。
- 行政からの指導・勧告: 法違反が認められた場合、管轄の労働局から是正指導や勧告が行われます。
- 企業名公表: 勧告に従わないなど、特に悪質と判断された場合には、企業名が公表されることがあります 。これは企業の社会的信用を著しく損なう可能性があります。
- 訴訟リスクと損害賠償: 従業員から不利益取扱いやハラスメントを理由に訴訟を起こされ、損害賠償責任を負うリスクがあります。
- 企業イメージの低下と採用への悪影響: 法令違反や労務トラブルが明るみに出れば、企業のイメージは大きく低下し、優秀な人材の採用が困難になるなど、事業運営にも悪影響を及ぼします。
これらのリスクを回避するためにも、法令遵守の徹底と、専門家である社労士への相談が重要となります。
メリット2:従業員エンゲージメント向上と優秀な人材の確保・定着
男性育休を積極的に推進する企業は、従業員のワークライフバランスを真摯に支援する姿勢を示すことになり、結果として従業員の会社に対する信頼感や愛着(エンゲージメント)を高める効果が期待できます 。エンゲージメントの高い従業員は、自律的に仕事に取り組み、組織への貢献意欲が高い傾向があるため、生産性の向上やイノベーションの創出にも繋がり得ると指摘されています 。
厚生労働省の調査によれば、男性の育休取得率向上のための取り組みがもたらした影響として、「職場風土の改善」に次いで「従業員満足度・ワークエンゲージメントの向上」が挙げられています 。また、エンゲージメントの向上は、従業員の心身の健康増進や、離職意向の低下にも寄与するとされています 。人手不足が深刻化する現代において、既存の優秀な人材を維持し、定着させることは企業の持続的成長にとって極めて重要です。
特に注目すべきは、若い世代の価値観の変化です。18歳から25歳の男性の約76%が、就職先を選ぶ際に企業の育休取得状況が影響すると回答しており 、男性育休への取り組みは、もはや福利厚生の一環というだけでなく、優秀な人材を獲得し、リテンションするための重要な経営戦略の一つと言えるでしょう。
メリット3:企業イメージ向上と社会からの評価(ESG経営への貢献)
男性育休への積極的な取り組みは、企業の社会的評価を大きく向上させる要素となります 。近年、投資家や金融機関、さらには一般消費者からも注目が集まっているESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点からも、男性育休の推進は重要な意味を持ちます。
具体的には、ESGの「S(Social:社会)」の側面において、従業員のウェルビーイング向上、ジェンダー平等の推進、ダイバーシティ&インクルージョンの実現といった項目で高く評価される可能性があります 。企業が従業員の働きやすさや人権に配慮し、社会全体の課題解決に貢献する姿勢を示すことは、持続可能な企業価値の向上に不可欠です。
このような取り組みは、機関投資家からの投資判断に好影響を与えるだけでなく、金融機関からの融資条件が有利になる可能性、さらには製品やサービスを選択する際の消費者からの信頼獲得、優秀な人材の採用における競争力強化、そして取引先との良好な関係構築にも繋がることが期待されます。男性育休の推進は、もはや単なる人事施策ではなく、企業価値全体を高める経営戦略の一環として位置づけられるべきです。
メリット4:活用できる助成金制度も!両立支援等助成金(出生時両立支援コースなど)
国は、仕事と育児の両立支援に積極的に取り組む企業を後押しするため、様々な助成金制度を設けています。その代表的なものが「両立支援等助成金」であり、男性の育児休業取得を支援するコースも含まれています 。これらの助成金を効果的に活用することで、企業は制度導入や運用、代替要員の確保などにかかる経済的な負担を軽減し、より積極的に男性育休を推進することが可能になります。特にリソースに限りのある中小企業にとっては、非常に心強い支援策と言えるでしょう。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)の詳細
「両立支援等助成金」の中でも、特に男性の育児休業取得促進に特化したのが**「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」**です 。このコースは、男性従業員が子の出生後8週間以内に開始する連続した一定日数以上の育児休業を取得した場合などに、事業主に対して助成金が支給されるものです。
具体的な支給額や要件は年度によって見直されるため、常に最新情報を確認する必要がありますが、一般的には以下のような内容が含まれます 。
- 第1種助成金: 男性従業員が一定期間以上の育児休業を取得した場合に支給されます。例えば、1人目の取得で20万円、さらに育休取得を促進するための雇用環境整備措置(研修実施、相談窓口設置など)を複数実施した場合には加算がある、といったケースです。
- 第2種助成金: 第1種を受給した事業所において、男性の育児休業取得率が一定の目標値以上に向上した場合に、追加で支給されるものです。例えば、取得率が30ポイント以上上昇した場合に60万円が支給される、といった内容です。
主な要件としては、育児休業取得計画の策定と従業員への周知、男性従業員の実際の育児休業取得実績、そして第2種の場合は育児休業取得率の向上が求められます。申請手続きは、計画届の提出から始まり、育休取得実績に基づく支給申請など、段階的に行う必要があります。
これらの助成金は、男性育休を推進する企業にとって大きなインセンティブとなり得ます。
助成内容 | 支給額(例) | 主な要件(例) | 中小企業のポイント |
---|---|---|---|
男性従業員の育児休業取得(第1種) | 20万円~(取得人数や雇用環境整備の取り組みに応じて加算あり) | ・男性従業員が子の出生後8週間以内に連続5日(または14日)以上の育児休業を取得<br>・育休取得のための雇用環境整備措置の実施(研修、相談窓口設置等) | 育休取得推進の初期費用負担を軽減。環境整備への取り組みも評価される。 |
男性の育児休業取得率の向上(第2種) | 60万円~(目標達成度合いに応じて変動の可能性あり) | ・第1種を受給後、男性の育休取得率が一定以上(例:30ポイント)上昇 | 継続的な取り組みを奨励。取得率向上という成果が具体的な助成に繋がる。 |
代替要員確保加算(コースによる) | 代替要員の新規雇用や業務代替手当の支給に対して一定額を加算 | ・育休取得者の業務を代替するための人員を確保、または既存従業員に手当を支給 | 人手不足が課題の中小企業にとって、代替要員確保のコスト負担を軽減できる。 |
個別支援加算(コースによる) | 育休復帰支援プランの策定・実施など、個別の支援に対して加算 | ・育休復帰支援プランに基づき、面談実施や情報提供、研修機会の提供などを行う | 従業員一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな支援を後押し。 |
申請手続き | 計画届の提出 → 育休取得・取り組み実施 → 支給申請(コースにより詳細は異なる。電子申請も可能な場合あり ) | 各コースの定める期間内に、必要な書類を添付して申請 | 複雑な場合もあるため、社労士など専門家のサポートを活用することで、申請漏れや書類不備を防ぎ、円滑な受給に繋げられる。 |
(注:支給額や要件は執筆時点の情報や一般的な例であり、年度や具体的な状況により異なります。必ず厚生労働省の最新情報をご確認ください。)
その他の中小企業が活用しやすい助成金
「出生時両立支援コース」以外にも、中小企業が男性育休を含む両立支援の取り組みで活用しやすい助成金コースがあります。
- 育児休業等支援コース: 従業員がスムーズに育児休業を取得し、職場復帰できるよう支援する事業主に対して助成されます 。具体的には、「育休復帰支援プラン」を策定し、プランに沿って従業員が3ヶ月以上の育児休業を取得し、その後職場に復帰した場合などが対象となります。育休取得時と職場復帰時にそれぞれ助成金が支給される場合があります 。
- 育休中等業務代替支援コース: 育児休業を取得した従業員の業務を代替する他の従業員に対して手当を支給したり、代替要員を新たに雇用(派遣を含む)したりした場合に、その費用の一部が助成されます 。これは、育休中の人員不足に対応するための企業の負担を直接的に軽減するもので、特に人員に余裕のない中小企業にとっては有効な支援策です。
これらの助成金も、それぞれ詳細な支給要件や申請手続きが定められています。自社の状況や取り組み内容に合わせて最適なコースを選択し、有効に活用するためには、やはり人事労務の専門家である社労士に相談し、アドバイスや申請サポートを受けることが推奨されます。
「男性も育休を取りやすい」。企業の環境整備策
育児休業制度を法的に整備するだけでは、男性従業員が実際に育休を取得するには不十分です。最も重要なのは、従業員が上司や同僚に気兼ねすることなく、安心して育休を申し出、取得できる**「職場風土」**を醸成することです 。この風土は一朝一夕に作れるものではなく、経営トップのコミットメントから管理職の意識改革、そして全従業員の理解と協力があって初めて実現します。ここでは、企業が取り組むべき具体的な環境整備策を多角的に解説します。
経営トップからの明確なメッセージ発信と率先垂範
職場風土改革の第一歩は、経営トップが男性育休の重要性を深く理解し、その取得を積極的に推奨する明確なメッセージを社内外に発信することです 。朝礼や社内報、経営会議などの場で、男性育休が従業員のウェルビーイング向上、企業の持続的成長に繋がるという認識を共有し、会社として全力でサポートする姿勢を示すことが求められます。
さらに強力なのは、経営トップや役員自らが育休を取得する(あるいは過去の取得経験を積極的に語る)といった**「率先垂 Bahkan (leading by example)」**です 。特に男性の経営層が育休を取得する姿は、「育休は特別なことではない」「キャリアに影響しない」という無言のメッセージとなり、他の男性従業員が後に続く勇気を与えます。これにより、社内の意識改革が加速し、育休を取得しやすい雰囲気が自然と醸成されていくでしょう。
管理職への研修実施と意識改革の重要性
管理職は、部下からの育休取得申請を最初に受ける立場であり、日々の業務指示や評価を通じて職場の雰囲気に大きな影響力を持つキーパーソンです。そのため、管理職の意識改革は、男性育休推進の成否を左右すると言っても過言ではありません 。
企業は、管理職を対象とした研修を定期的に実施し、以下の点を徹底的に理解させる必要があります 。
- 育児・介護休業法の最新の改正内容と企業の法的義務
- 男性育休がもたらす個人(部下)および組織へのメリット
- 部下から育休の相談・申し出があった場合の適切な対応方法(ヒアリング、業務調整、サポート)
- パタニティハラスメントの防止と、万が一発生した場合の対処法
- 自身のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見、例:「育児は女性の役割」「重要な仕事は男性が」など)への気づきと対処
研修を通じて、管理職が「イクボス(部下のワークライフバランスを応援する上司)」としての役割を自覚し、部下が安心して育休を取得できるような言動や配慮を実践できるよう促すことが重要です。
管理職が理解すべきことと部下への対応
管理職は、男性育休に関して具体的に以下の点を理解し、部下に対して適切な対応を心がける必要があります。
理解すべきこと :
- 法的義務の認識: 育休申し出を拒否できないこと、不利益な取り扱いをしてはならないこと。
- 制度のメリット: 部下のモチベーション向上、家庭円満、ひいてはチームの生産性向上に繋がる可能性。
- キャリアへの配慮: 育休取得が部下のキャリアにとってマイナスではなく、多様な経験を積む機会となり得る視点。
- 業務調整の責務: 部下が安心して休めるよう、チーム内の業務分担や代替要員の確保を計画的に行うのは管理職の重要な役割であること。
- チーム運営への影響: 一時的な人員減を乗り越えるための工夫(業務の標準化、多能工化など)の必要性。
部下への具体的な対応 :
- 受容的態度: 育休取得の意向を真摯に受け止め、快く送り出す姿勢を示す。「おめでとう」「しっかり育児に参加してきてください」といった前向きな言葉かけ。
- 建設的な対話: 取得希望期間、業務の引き継ぎ方法、休業中の連絡頻度などについて、部下の意向を尊重しながら現実的な計画を一緒に立てる。
- 業務分担の明確化: 休業中の業務を誰がどのようにカバーするのかを明確にし、関係者に周知する。
- 休業中のサポート: 事前に取り決めた範囲で、必要な情報共有や状況確認を行う(過度な連絡は避ける)。
- 復帰後のサポート: 復帰前面談の実施、スムーズな業務再開への配慮、必要に応じた業務量の調整。
- ハラスメントの防止: 自身がハラスメントを行わないことはもちろん、チーム内で育休取得者に対する否定的な言動がないか注意を払い、あれば毅然と対応する。
また、チーム内で「カエル会議®」(業務の無駄をなくし働き方を見直す会議手法)のような、業務効率化や働き方についてオープンに話し合える場を設けることも、育休を取得しやすい環境づくりに繋がります 。
育休取得者・周囲の従業員双方への理解促進と情報共有
男性育休を円滑に進めるためには、育休を取得する本人だけでなく、その業務を一時的にカバーする周囲の従業員の理解と協力が不可欠です。企業は、全従業員を対象とした研修や説明会、社内イントラネットなどを通じて、以下の情報を共有し、理解を深める努力をすべきです 。
- 育児休業制度(産後パパ育休含む)の概要、取得要件、メリット
- 男性が育児に参加することの社会的意義、家庭への好影響
- 会社として男性育休を推進する方針とその理由
- 育休取得者が出た場合の業務カバー体制に関する基本的な考え方
特に重要なのは、育休取得者の業務を分担する同僚たちへの配慮です。彼らの貢献に感謝の意を示すとともに、一時的な業務負荷増に対しては、適切な人員配置や業務量の調整、あるいはインセンティブ(評価への反映など)を検討することも有効です。
また、育休取得者本人と、業務を引き継ぐ担当者や関係部署との間では、必要な情報が過不足なく共有されることが重要です。誰が休むのか、いつからいつまでか、主要な業務は誰がどのように引き継ぐのか、といった情報をオープンにすることで、憶測や混乱を防ぎ、チーム全体の協調性を高めることができます 。
育休取得事例の積極的な社内共有とロールモデルの提示
実際に男性従業員が育児休業を取得した具体的な事例を社内で積極的に共有することは、後に続く従業員にとって非常に有効な後押しとなります 。社内報、イントラネットの特設ページ、ランチミーティング、座談会などの形式で、以下のような内容を発信すると良いでしょう。
- 育休取得を決意した経緯
- 育休取得に向けた準備(業務の引き継ぎ、上司や同僚とのコミュニケーション)
- 休業中の過ごし方、育児で大変だったこと、喜びを感じたこと
- 職場復帰後の変化(仕事への向き合い方、時間管理スキル向上など)
- 育休経験が現在の仕事にどう活きているか
- これから育休を考える同僚へのメッセージ
これらの体験談は、育休取得を漠然と考えている従業員にとって、具体的なイメージを掴む助けとなり、漠然とした不安(「仕事はどうなるのか」「周囲に迷惑をかけるのではないか」など)を軽減する効果があります 。
特に、管理職や先輩社員が自らの育休取得体験を語ることは、非常に強いロールモデル効果を生み出します 。彼らが育休を取得してもキャリアに支障がなく、むしろ人間的に成長し、仕事にも良い影響があったと示すことができれば、組織全体の育休に対する心理的なハードルを大きく下げることができるでしょう。
育休取得に関する相談窓口の設置と利用しやすい組織づくり
従業員が育児休業に関する疑問や不安、あるいはハラスメントの懸念などを気軽に相談できる専門の相談窓口を設置することは、安心して制度を利用できる環境整備の基本です 。この窓口は、人事部門の担当者や、契約している社労士などが担うことが考えられます。
相談窓口を設ける際には、以下の点が重要です。
- 周知徹底: 相談窓口の存在、担当者、連絡方法(メール、電話、面談予約システムなど)を全従業員に明確に周知します。
- プライバシーの厳守: 相談内容や相談者の個人情報は厳格に保護され、相談したことによっていかなる不利益な取り扱いも受けないことを明言し、従業員に安心感を与える必要があります 。
- 利用しやすい雰囲気: 相談窓口が形骸化しないよう、従業員が「こんなことで相談しても良いのだろうか」と躊躇することなく、些細なことでもアクセスしやすい雰囲気を作ることが大切です。定期的なアナウンスや、相談事例(個人が特定できない形での一般化されたQ&Aなど)の共有も有効かもしれません。
このような相談体制の整備は、育児・介護休業法で企業に求められる「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」の一環でもあります 。
パタハラ(パタニティハラスメント)防止措置の徹底
育児休業の申し出や取得、あるいは育児のための短時間勤務制度の利用などを理由として、上司や同僚から行われる嫌がらせや不利益な取り扱いをパタニティハラスメント(パタハラ)と言います。企業は、このパタハラを断じて許さないという方針を明確に示し、全従業員に周知徹底するとともに、具体的な防止措置を講じる法的義務があります(育児・介護休業法第25条)。
パタハラの存在は、男性育休推進の取り組みを根底から覆し、従業員が萎縮して制度を利用できなくなる深刻な事態を招きます。
パタハラとは?企業に求められる具体的な防止策
パタニティハラスメント(パタハラ)の定義と具体例: パタハラとは、男性従業員が育児休業、産後パパ育休、子の看護休暇、育児のための時間外労働制限・深夜業制限、育児短時間勤務などの制度を利用しようとしたり、利用したりすることに関して、上司や同僚から受ける以下のような言動や取り扱いを指します。
- 制度利用を阻害する言動:
- 育休取得を相談したら「男のくせに育休なんて取るのか」「君が休んだら仕事が回らない」と威圧的な態度を取られた。
- 「育休を取ったら昇進に響くぞ」「評価を下げるしかない」などと、キャリアへの不利益を示唆された。
- 制度利用を理由とする嫌がらせ:
- 育休取得後に、無視されたり、不必要な雑務ばかりやらされたりする。
- 育休取得をからかったり、悪口を言ったりする。
- 制度利用を理由とする不利益な取扱い:
- 育休取得を理由に解雇、雇止め、降格、減給、不利益な配置転換をされた 。
- 育休取得を理由に、正当な理由なく人事考課で低い評価をつけられた。
企業に求められる具体的な防止策 :
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発:
- パタハラの内容、あってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること(就業規則への明記、社内報、ポスター、研修など)。
- パタハラを行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発すること。
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備:
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
- 相談窓口担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
- 職場におけるパタハラに係る事後の迅速かつ適切な対応:
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
- 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
- 改めてハラスメント防止策を講じるなど再発防止措置を講ずること。
- その他併せて講ずべき措置:
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
これらの措置を総合的に講じることで、パタハラの発生を未然に防ぎ、万が一発生した場合にも適切に対応できる体制を構築します。
就業規則への規定例
パタハラ防止の実効性を高めるためには、就業規則に育児休業等に関する権利、ハラスメントの禁止、そして違反した場合の懲戒事由などを明確に規定することが極めて重要です 。これにより、会社としての断固たる姿勢を示し、従業員の意識向上とハラスメントの抑止効果が期待できます。
以下は、就業規則への規定例のポイントです。
- 育児休業等に関する規定: 「第X条(育児休業等) 従業員は、育児・介護休業法その他の法令に基づき、育児休業(出生時育児休業を含む)、子の看護休暇、育児のための所定外労働の制限、育児のための時間外労働の制限、育児のための深夜業の制限、育児短時間勤務その他これらに準ずる制度を利用することができる。 2. 会社は、前項の制度の利用の申し出があった場合、これを拒むことはできない。また、これらの制度の利用を理由として、従業員に対し解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。」
- ハラスメントの禁止に関する規定: 「第Y条(ハラスメントの禁止) すべての従業員は、他の従業員に対し、性的な言動、妊娠・出産・育児休業等に関する言動、その他個人の尊厳を傷つける言動により、他の従業員の就業環境を害するようなことをしてはならない。 2. 特に、上司たる地位にある者は、部下である従業員が快適に職務を遂行できるよう、適切な注意を払い、指導監督する責務を負うものとする。」
- 懲戒事由への追加: 懲戒の種類及び事由を定める条項に、以下のような内容を追記します。 「(懲戒の事由) 従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇又は懲戒解雇に処する。 …(既存の懲戒事由)… xx. 第Y条(ハラスメントの禁止)に違反し、他の従業員に対しハラスメント行為を行ったとき、または育児休業等の制度利用を理由として不利益な取り扱いを行ったと認められるとき。」
これらの規定例はあくまでポイントであり、企業の状況や既存の就業規則との整合性を考慮し、専門家である社労士に相談の上、適切な文言で整備することが不可欠です。
よくある質問
Q. 男性従業員が育休を取得することに、会社側のデメリットはありますか?
A. 男性従業員が育休を取得することによる一時的な人員不足や業務調整の必要性は、企業にとって課題となり得ます。特に中小企業では、代替要員の確保が難しい、他の従業員への業務負担が増えるといった懸念があるかもしれません 。しかし、これらは事前の計画的な業務分担や引き継ぎ、必要に応じた外部リソースの活用(助成金対象となる場合もあり)などで対応可能です。長期的に見れば、従業員満足度の向上、離職率の低下、企業イメージの向上、採用力の強化といったメリットが、これらの一時的な課題を上回る可能性が高いと言えます 。
Q. 育休を取得する男性従業員への給与支払いはどうなりますか?
A. 育児休業期間中、原則として会社から従業員へ給与を支払う法的義務はありません。ただし、企業によっては独自の有給制度を設けている場合もあります。給与が支払われない代わりに、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。この給付金は、休業開始から180日目までは原則として休業開始時賃金日額の67%、181日目以降は50%が支給されます 。さらに、2025年4月からは、一定の条件を満たせば「出生後休業支援給付金」が上乗せされ、実質的な給付率が80%(手取り10割相当)となる期間も設けられます 。また、育休期間中は社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が従業員負担分・会社負担分ともに免除されます 。
Q. 中小企業でも男性育休を進めるべきでしょうか?進まない理由と対策は?
A. はい、中小企業こそ男性育休を積極的に進めるべきです。進まない理由としては、「人員に余裕がない」「代替要員の確保が困難」「業務が属人化している」「男性が育休を取りづらい雰囲気がある」などが挙げられます 。しかし、対策として、経営トップの明確なメッセージ発信、管理職研修による意識改革、業務の可視化と標準化による属人化の解消、育休取得事例の共有、そして何よりも「お互い様」という協力的な職場風土の醸成が重要です 。また、両立支援等助成金を活用することで、代替要員の確保や制度導入の費用負担を軽減することも可能です。男性育休の推進は、中小企業にとって人材確保・定着、生産性向上、企業イメージ向上に繋がる重要な経営戦略です。
Q. 産後パパ育休と従来の育児休業は、どのように使い分けるのが良いですか?
A. 「産後パパ育休(出生時育児休業)」は子の出生直後の8週間以内に最大4週間(2回まで分割可)取得できる制度で、特に産後の母親をサポートしたり、新生児期の大切な時期に集中的に関わったりするのに適しています 。一方、「従来の育児休業」は原則子が1歳になるまで(2回まで分割可、延長あり)取得でき、より長期間の育児参加や、配偶者の職場復帰のタイミングに合わせた取得などが考えられます 。これらは別の制度なので、組み合わせて利用することも可能です。例えば、出産直後に産後パパ育休を取得し、その後少し期間を空けて従来の育児休業を取得するといった柔軟なプランニングができます。従業員の家庭状況や仕事の状況、配偶者の意向などを踏まえ、個別面談を通じて最適な取得パターンを一緒に検討することが重要です。
まとめ
男性の育児休業取得推進は、もはや単なる福利厚生の一環ではなく、企業の持続的成長と競争力強化に不可欠な経営戦略です。最新の法改正に対応した制度の正しい理解と適切な運用、そして何よりも従業員が気兼ねなく育休を取得できる職場風土の醸成が、これからの企業には強く求められています。しかし、日々の業務に追われる中で、これらの複雑な制度対応や環境整備を全て自社のみで行うことは、特に中小企業の経営者様や人事ご担当者様にとって大きな負担となり得ます。
法改正への対応、就業規則の整備、各種申請手続き、助成金の活用、そして従業員が安心して働ける職場環境づくりに至るまで、男性育休に関する課題は多岐にわたります。これらの課題を一つひとつクリアし、男性育休を企業の成長力へと転換していくためには、人事労務の専門家である社会保険労務士のサポートが非常に有効です。
社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。