労働協約と労使協定の違いとは?|優先順位・効力・届出義務を一覧で解説

「労働協約」と「労使協定」

名前が非常によく似ているため、どちらがどのような役割を持っているのか、混同されている人事担当者や経営者の方は少なくありません。

この記事では、社会保険労務士の視点から、労働協約と労使協定の違いをわかりやすく整理しました。

どちらが優先されるのかという順位や、実務上の運用ポイントまで網羅していますので、ぜひ参考にしてください。

この記事で分かること
  • 「労働協約」と「労使協定」の決定的な違い(定義・当事者)
  • どちらが強い? 就業規則や労働契約との「優先順位」
  • 「規範的効力」と「免罰的効力」という法的性質の違い
  • 届出義務や有効期間など、実務運用のポイント
目次

労働協約と労使協定の5つの違い

まずは、全体像を把握するために、違いを整理します。ポイントは「誰と結ぶか」「どのような力が働くか」の2点です。

最大の違いは「労働組合」の有無と「法的効力」の種類

最もわかりやすい違いは、契約の相手方です。

労働協約は、会社と「労働組合」との間で交わされる約束事です。労働組合がない会社では、そもそも労働協約を結ぶことはできません。

一方、労使協定は、会社と「労働者の過半数代表者(または過半数労働組合)」との間で結ばれる協定です。労働組合がない会社であっても、従業員の代表を選出して結ぶことができます。代表的なものに、残業を可能にする「36(サブロク)協定」があります。

また、効力についても大きな違いがあります。

労働協約は「新しいルールを作り出し、労働者を拘束する力を持つのに対し、労使協定の多くは「法律で禁止されていることを、特例として認めてもらう(罰則を免れる)」という性質を持っています。

5つの違い 比較表(定義・当事者・効力・届出・有効期間)

労働協約と労使協定の違いを比較表にまとめました。

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項目労働協約労使協定
定義労働組合と使用者の間の合意文書労働者の過半数代表者と使用者の間の書面協定
主な当事者労働組合労働者の過半数代表者(または過半数組合)
法的効力規範的効力
(労働契約や就業規則よりも優先して適用される)
免罰的効力
(法的な禁止事項を解除し、罰則を免除する)
届出義務原則不要必要なもの※1と不要なものにわかれる
有効期間上限3年(自動更新条項あり)1年程度が望ましい(協定の種類による)
※1 労働基準監督署に届出が必要な労使協定一覧
  • 任意貯蓄(貯蓄金管理に関する協定届)
  • 1カ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • フレックスタイム制(清算期間が1ヶ月以内のときは不要)
  • 時間外・休日労働(36協定届)
  • 事業場外労働のみなし労働時間制(労働時間が法定労働時間を超えていなければ不要)
  • 専門業務型裁量労働

【効力】「ルールを作る」か「処罰を免れる」か

労働協約は労働条件の決定権を持つ「規範的効力」

労働協約には「労働協約で決めた基準は、個別の労働契約や就業規則よりも優先される」というルールがあります。これを「規範的効力」と呼びます。

例えば、就業規則に「賞与は基本給の1ヶ月分」と書いてあっても、労働組合との労働協約で「賞与は基本給の3ヶ月分」と決まれば、その組合員に関しては自動的に「3ヶ月分」という条件が適用されます。

会社と労働組合の間で合意された基準に満たない不利な個別の労働契約や就業規則は無効となり、労働協約の基準が適用されます。これが労働協約の持つ効力です。

【知っておきたい】労働協約が組合員以外にも適用される?(拡張適用)

労働協約は、会社と「労働組合」との間で交わされる約束事と説明しました。その効力は、原則的に労働組合の組合員に適用されます。しかし、一定の条件を満たすと、その効力が組合員以外の従業員にも及ぶことがあります。これを労働協約の「一般的拘束力(拡張適用)」と呼びます。

一つの事業場(工場や支店など)で働く同種の労働者のうち、4分の3以上がその労働協約の適用を受ける組合員である場合は、残りの少数派の従業員(非組合員や他の組合の組合員)にも、自動的に同じ労働協約の内容が適用されます(労働組合法第17条)。

なぜこのような仕組みがあるのか? もし「組合員は賃金アップ、非組合員は据え置き」といったバラバラの労働条件が混在すると、会社としての労務管理が複雑になるうえ、労働条件の切り下げ合戦(組合に入っていない方がコストが安いから非組合員を優遇するなど)が起きるリスクがあるためです。

労働協約は原則「組合員のみ」ですが、組合の組織率が高い会社では、就業規則よりも労働協約が全社員のルールとして優先されるケースがあることを頭の片隅に置いておきましょう。

労使協定は違法性を阻却する「免罰的効力」

一方、労使協定(特に36協定)が持つのは「免罰的(めんばつてき)効力」です。

労働基準法では本来、「1日8時間・週40時間」を超えて働かせることや、法定休日に働かせることを禁止しており、違反すれば刑事罰の対象になります。

しかし、労使協定を結んで労働基準監督署へ届け出ることで、「この範囲内であれば、残業させても法律違反として処罰しません」という免罪符を得ることができます。これを「違法性を阻却する」といいます。

ここで注意が必要なのは、労使協定を結んだからといって、それだけで従業員に残業をさせる権利が会社に生まれるわけではないという点です。あくまで「国から罰せられない」だけであり、実際に働かせるには、就業規則や雇用契約書での根拠が必要です。

【優先順位】就業規則や労働契約よりも強いのはどっち?

実務で最も迷いやすいのが、「労働協約」「就業規則」「労働契約」の内容が食い違っている場合、どれが優先されるのかという点です。

効力の優先順位:労働協約 > 就業規則 > 労働契約

労働条件に関するルールの優先順位は、法律(労働基準法など)を除けば、以下の通りになります。

  • 労働協約
  • 就業規則
  • 労働契約

もし、就業規則の内容が労働協約の基準に達していない場合、その就業規則の部分は無効となります。そして、無効になった部分は労働協約の基準がそのまま適用されます

同様に、個別に交わした労働契約書の内容が就業規則よりも悪い条件であれば、その部分は無効となり、就業規則の条件まで引き上げられます。

つまり、労働組合がある会社においては、労働協約の内容を無視して就業規則を勝手に変更しても、組合員に対してはその変更の効力が及ばないことになります。就業規則を変更する際は、労働協約との整合性を必ず確認しなければなりません。

労使協定には「労働者を従わせる力」はない

労使協定(36協定等)は、あくまで「行政からの処罰を免れるための手続き」です。

例えば、36協定を締結していても、就業規則や労働契約書に「業務の都合により時間外労働を命じることがある」という記載が全くなければ、従業員は残業命令を拒否することができます。

労使協定には、民事上の「労働者を 従わせる力(義務づける力)」はないのです。

「36協定を出しているから残業命令は絶対だ」と勘違いされているケースがありますが、残業を義務付けるには「36協定(免罰効果)」+「就業規則の規定(民事上の根拠)」のセットが必要であることを覚えておきましょう。

【運用】締結当事者・届出・有効期間

最後に、日々の運用における実務的な違いについて解説します。特に「誰と結ぶか」の選出ミスは、近年リスクが高まっています。

当事者:労働協約は「労働組合」、労使協定は「過半数代表者」

労働協約の当事者は「労働組合」一択です。

対して、労使協定の当事者は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、ない場合は「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」となります。

ここで注意したいのが過半数代表者の選び方です。

「親睦会の代表だから」「管理職が指名したから」といって選ばれた代表者は無効となるリスクがあります。必ず投票や挙手など、民主的な手続きで選出する必要があります。もし代表者の選出が無効だと判断されれば、締結した36協定そのものも無効となり、残業自体が違法状態(未払い残業代や刑事罰のリスク)となります。

選出手続きは「結果」だけでなく「プロセス」の記録が大切

過半数代表者を適正に選んだとしても、後になって従業員から「自分は投票していない」「いつの間にか決まっていた」と言われたり、労働基準監督署の調査が入ったりした際に、そのプロセスを証明できなければリスクが残ります。

「誰が代表になったか」だけでなく、「どのように選ばれたか」を示す証拠を必ず保存しておきましょう。

具体的に保存しておくべき書類の例
  • 選出通知の控え:社内イントラネットの掲示画面のスクリーンショットや、回覧した案内文書。「立候補を募ったこと」や「投票日を告知したこと」の証明になります。
  • 投票用紙や集計記録:投票を行った場合は、投票用紙そのものや、開票結果の集計表。
  • 過半数代表者の選任書(同意書):「私が過半数の支持を得て代表になりました」という本人の署名・押印がある文書。

これらの記録は、協定の有効期間中は確実に保管し、万が一の紛争や調査の際に「民主的な手続きを経て選ばれた正当な代表者である」と説明できるようにしておくことが肝要です。

届出義務:労働協約は「不要」、労使協定は「(一部)必要」

  • 労働協約
    原則として、労働基準監督署への届出は不要です。当事者同士が合意し、書面にして署名または記名押印すれば効力が発生します。
  • 労使協定
    内容によって異なりますが、代表的な「36協定」や「1年単位の変形労働時間制」などは、労働基準監督署への届出が必要です。届け出て初めて効力が発生します。
    (※休憩の特例や賃金控除に関する協定など、届出が不要な労使協定もあります。)

有効期間:自動更新が可能か、定期的な再締結が必要か

労働協約の有効期間は、法律で「最長3年」と定められています。ただし、「どちらかから申し出がない限り自動更新する」という条項を入れることが可能で、実務上は多くの会社が自動更新で運用しています。

一方、労使協定(特に36協定)は、有効期間を1年とすることが一般的です。1年ごとに労働者代表を選出し直し、過重労働の状況を見直すことが求められるためです。

よくある質問

労働組合がない会社でも「労働協約」は結べるか?

いいえ、結べません

労働協約は労働組合法に基づく契約であるため、法的に認められた労働組合が存在しない場合は締結できません。労働組合がない会社で労働条件を統一的に定めたい場合は、「就業規則」を作成・変更することで対応します。

違反した場合の罰則は?

  • 労働協約に違反した場合
    会社は民事上の責任(契約違反による損害賠償など)を負います。また、正当な理由なく交渉を拒否したりすると、不当労働行為として労働委員会から救済命令が出されることがあります。
  • 労使協定に違反した場合
    たとえば36協定で定めた上限時間を超えて働かせた場合、労働基準法違反として刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金など)の対象となります。こちらは「犯罪」として扱われるため、社会的信用に関わる重大な問題となります。

36協定(労使協定)を労働協約で代用することは可能か?

可能です。

労使協定の内容(残業の上限時間など)を労働協約に盛り込み、それを労使協定の代わりとすることは法律上認められています。

ただし、その場合でも「36協定届(様式)」を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務はなくなりません。実務的には、管理が煩雑になるため、労働協約とは別に36協定を締結するほうが望ましいといえます。

まとめ

労働協約と労使協定の違いについて解説しました。

本記事のまとめ
  • 労働協約:労働組合と結ぶ。ルールを作る力(規範的効力)」を持ち、就業規則よりも優先される。届出は不要。
  • 労使協定:過半数代表者と結ぶ。罰則を免れる力(免罰的効力)」を持つが、残業させるには就業規則も必要。36協定などは届出が必要。

どちらも会社と社員を守るための大切な取り決めですが、その性質は全く異なります。特に労使協定は原則的に1年ごとの更新が必要であり、労働協約は就業規則よりも強い効力を持つという点は、実務上非常に重要です。

自社の規定や協定書が現在どのような状態になっているか、この機会に一度見直してみてはいかがでしょうか。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
助成金申請・就業規則・労務DD等を得意とする。前職の戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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