フレックスタイム制と変形労働時間制の違いとは?制度を選び方や導入ステップも解説

企業の成長と従業員の働きがい向上を実現する柔軟な働き方として注目される「フレックスタイム制」と「変形労働時間制」。しかし、その導入・運用は複雑で、法的な知識も不可欠です。

本記事では、人事労務の専門家である社会保険労務士が、両制度の正しい導入手順、メリット・デメリット、就業規則・労使協定のポイントから残業代計算、さらには導入失敗例と対策まで、労務の専門家である社会保険労務士がわかりやすく徹底解説します。

目次

なぜ今、柔軟な労働時間制度が求められるのか?

現代の企業経営において、柔軟な労働時間制度の導入は避けて通れない課題となっています。その背景には、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法による多様な働き方の推進要請があります 。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックを経た働き方の変化や、ダイバーシティ推進の潮流も、企業に柔軟な対応を迫る大きな要因となっています 。  

従業員のワークライフバランス向上は、単に福利厚生の充実という側面だけでなく、企業の生産性向上、優秀な人材の新規獲得、そして定着率の向上に直結する重要な経営戦略です 。特に中小企業においては、深刻化する人手不足に対応するため、魅力的な労働条件を提示し、多様な人材が活躍できる環境を整備することが、持続的な成長のための鍵となります 。  

働き方改革関連法の施行やコロナ禍は、単に制度変更を促しただけでなく、従業員の「働き方」に対する価値観を根本から変容させました。かつての「仕事第一主義」から、個人の生活や家庭、ワークライフバランスを重視する考え方が広まりました 。この価値観の変化は、企業が従来の画一的な労働時間制度のままでは、優秀な人材を惹きつけ、維持することが困難になっている状況を生み出しています。つまり、柔軟な労働時間制度の導入は、もはや「選択肢の一つ」ではなく、「企業が競争力を維持し、成長するための戦略上必要な要素」へとその位置づけを変えたと言えるでしょう。  

中小企業が多様な働き方を導入する主な動機に目を向けると、直接的なコスト削減(例えば、オフィス賃料や光熱費の削減 )よりも、人材獲得・定着 、従業員満足度の向上 、そしてそれに伴う生産性の向上 といった、より間接的ではあるものの持続的な経営効果への期待が大きいことがうかがえます。これは、大企業に比べて採用競争で不利になりがちな中小企業が、「働きやすさ」を競争力の源泉とし、人材という経営資源を確保・強化しようとする戦略の現れと解釈できます。  

フレックスタイム制と変形労働時間制の基本的な違いとは?

柔軟な働き方を実現する代表的な制度として「フレックスタイム制」と「変形労働時間制」がありますが、両者はその目的と仕組みにおいて根本的な違いがあります。この違いを正確に理解することが、自社に最適な制度を選択するための第一歩となります。

最大の違いは、労働時間帯の決定権が誰にあるかという点です。

  • 変形労働時間制: 業務の繁閑に合わせて、会社側(使用者)が各日・各週の労働時間を設定します 。主な目的は、業務量の変動に対応し、労働時間を効率的に配分することです 。  
  • フレックスタイム制: 一定の期間(清算期間)における総労働時間の枠内で、従業員(労働者)が日々の始業時刻と終業時刻を自主的に決定します 。主な目的は、従業員のワークライフバランスを向上させ、自主性を尊重することです 。  

この労働時間決定権の違いは、単に「誰が決めるか」という点に留まりません。それは、勤怠管理の複雑さ、社内コミュニケーションのあり方、従業員に求められる自己管理能力の度合い、さらには残業の概念や計算方法に至るまで、制度運用上のあらゆる側面に影響を及ぼします 。したがって、どちらの制度を導入するか、あるいは両制度をどのように組み合わせるか(併用は原則不可 )といった判断は、単に労働時間管理の問題としてだけでなく、企業の人事戦略全体の整合性を考慮して行う必要があります。  

以下の表は、両制度の主な違いをまとめたものです。自社の状況と照らし合わせながら、どちらの制度がより適しているか検討する際の参考にしてください。

提案テーブル1:フレックスタイム制 vs 変形労働時間制 比較早見表

比較項目フレックスタイム制変形労働時間制
労働時間の決定権者従業員(労働者) 会社(使用者)
コアタイムの有無(概念)任意で設定可能(必ず勤務すべき時間帯) 原則としてなし(会社が労働時間を指定)
残業の考え方清算期間における総労働時間の超過、または月ごと週平均50時間超(清算期間1ヶ月超の場合) 日ごと・週ごと・変形期間ごとの所定労働時間または法定労働時間の超過
主な導入目的ワークライフバランス向上、従業員の自主性尊重 業務の繁閑への対応、労働時間の効率的配分
時間管理の主体従業員による自己管理が基本 会社による管理・指示が基本
向いている業種・職種例SE、研究職、企画職など個人の裁量が大きい業務 繁閑の差が大きい製造業、小売業、宿泊業、飲食業など
法的要件の主な違い就業規則への規定必須、労使協定締結必須(清算期間1ヶ月超の場合は届出も必要) 就業規則または労使協定で規定(種類により労使協定と届出が必須な場合あり)

フレックスタイム制 徹底解説

フレックスタイム制とは?

フレックスタイム制は、一定の期間(これを「清算期間」といいます)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業時刻および終業時刻を自らの意思で決定して働くことができる制度です 。この制度の大きな特徴は、労働者の自主性を尊重し、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を図りながら効率的に働くことを可能にする点にあります 。  

制度の運用にあたっては、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」を設定することが一般的です。

  • コアタイム: 1日のうちで、労働者が必ず勤務しなければならない時間帯です 。  
  • フレキシブルタイム: コアタイム以外の時間帯で、労働者がその選択によりいつ出勤し、いつ退勤してもよい時間帯です 。 ただし、コアタイムの設定は任意であり、コアタイムを設けない「スーパーフレックスタイム制」の導入も可能です 。  

2019年4月の労働基準法改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限が、従来の1ヶ月から3ヶ月に延長されました 。これにより、企業と従業員双方にとって、より柔軟な労働時間の調整が可能となりました。例えば、月をまたいだ業務量の繁閑に対応しやすくなったり、従業員がより長期的な視点で自身の働き方を計画しやすくなったりするメリットが生まれました 。  

しかし、この清算期間の延長は、新たな管理上の課題も生んでいます。清算期間が1ヶ月を超える場合には、

  1. 1ヶ月ごとに週平均50時間を超える労働時間は時間外労働として清算する義務
  2. 労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出る義務

が発生するようになりました 。これらの変更点は、制度を運用する上で正確に理解し、遵守する必要があります。  

    フレックスタイム制の根幹は、あくまで**「労働者の自主的な決定」**に始業・終業時刻を委ねる点にあります 。したがって、形式的にフレックスタイム制を導入していても、コアタイムが労働時間の大部分を占め、フレキシブルタイムが極端に短い場合や、実質的に会社が始業時刻や終業時刻を指示しているような場合は、フレックスタイム制とは認められず、違法な運用と判断されるリスクがあります 。導入企業は、この制度の本質を十分に理解し、労働者の自主性を尊重した運用を心掛けることが重要です。  

    フレックスタイム制のメリット・デメリット

    フレックスタイム制の導入は、企業と従業員の双方に様々な影響を与えます。メリットを最大限に活かし、デメリットを最小限に抑えるためには、それぞれの内容を正確に把握しておくことが不可欠です。

    企業側のメリット

    • 優秀な人材の確保・定着:柔軟な働き方を提供することで、ワークライフバランスを重視する優秀な人材にとって魅力的な職場となり、採用競争において有利になります。また、既存従業員の満足度向上にも繋がり、離職率の低下が期待できます 。  
    • 生産性の向上:従業員が自身の最も集中できる時間帯や、業務の状況に合わせて働くことができるため、個々の生産性向上が見込めます。これが組織全体の生産性向上に寄与する可能性があります 。  
    • 残業代削減の可能性:従業員が清算期間内で効率的に業務を遂行し、総労働時間を適切に管理することで、不要な残業を削減し、結果として残業代の抑制に繋がる可能性があります 。  

    企業側のデメリット

    • 勤怠管理の複雑化:従業員ごとに出退勤時刻が異なるため、労働時間の正確な把握や集計、残業時間の計算などが複雑になります。適切な勤怠管理システムの導入や運用ルールの整備が不可欠です 。  
    • コミュニケーション不足のリスク:従業員が同じ時間帯にオフィスにいないことが増えるため、部門内や部門間のコミュニケーションが希薄になる可能性があります。情報共有の遅れや認識の齟齬が生じやすくなるため対策が必要です 。  
    • 顧客対応の難しさ:特に取引先が固定時間制で勤務している場合、連絡が取りにくくなったり、迅速な対応が難しくなったりする可能性があります。顧客満足度の低下を招かないための工夫が求められます 。  
    • 光熱費増加の可能性:従業員の在社時間が分散することで、オフィスの空調や照明などの稼働時間が長くなり、光熱費が増加する可能性があります 。  

    企業が享受できる「残業代削減」というメリットは、必ずしも自動的に得られるものではありません。むしろ、従業員の労働時間が夜間にシフトしたり、深夜労働が増えたりすることで「割増賃金が増える可能性」 や、清算期間内の総労働時間の管理が不十分な場合に予期せぬ時間外労働が発生し、結果として人件費が増加するリスクと表裏一体です。制度設計と厳格な運用管理が、このメリットを享受できるかどうかの分かれ道となります。  

    また、コミュニケーション不足 は、単に「情報共有が滞る」という業務上の非効率に留まらず、より深刻な問題を引き起こす可能性があります。例えば、チームの一体感の喪失、従業員の孤立感の増大、ひいてはメンタルヘルスへの悪影響や、新しいアイデアが生まれにくい組織風土の醸成といった、広範な組織的課題に発展しかねません。これを防ぐためには、チャットツールやWeb会議システムといったツールの導入だけでなく、定期的なチームミーティングの実施や1on1ミーティングの機会を設けるなど、意識的なコミュニケーション機会の創出が不可欠です 。  

    従業員側のメリット

    • ワークライフバランスの向上: 育児や介護、通院、自己啓発など、個人の事情に合わせて柔軟に働く時間を調整できるため、仕事と私生活の両立がしやすくなります 。  
    • 通勤ストレスの軽減: 通勤ラッシュの時間帯を避けて出退勤できるため、満員電車のストレスや通勤時間の浪費を軽減できます 。  
    • 自己裁量によるメリハリのある働き方: 自身の業務状況や体調に合わせて、集中して働く時間と休息する時間をコントロールしやすく、メリハリのある働き方が可能になります 。  

    従業員側のデメリット

    • 高い自己管理能力が求められる:労働時間の管理を自身で行うため、計画性や自律性が低い場合、かえって生産性が低下したり、だらだらと長時間労働になったりする可能性があります 。  
    • コミュニケーションの取りづらさによる孤立感:他の従業員と働く時間が合わないことで、気軽に相談したり雑談したりする機会が減少し、孤立感を感じることがあります 。  
    • コアタイムへの業務集中:コアタイムが設定されている場合、会議や打ち合わせなどがその時間帯に集中し、かえって業務が非効率になることがあります 。  

    フレックスタイム制の恩恵を従業員が最大限に享受するためには、従業員自身に高度な「自己管理能力」 と「計画性」が不可欠であるという前提があります。これらの能力が不足している従業員の場合、期待された生産性の向上どころか、むしろ生産性が低下したり 、意図せず長時間労働に陥ったりするリスクも否定できません 。企業側としては、導入前に従業員の適性を見極めるか、あるいは研修などを通じてこれらの能力開発を支援するといった対策を検討する必要があります 。  

    また、「コアタイムへの業務集中」 というデメリットは、コミュニケーション不足 や会議設定の難しさ から派生する二次的な問題である可能性も考えられます。全従業員が確実に揃う時間がコアタイムに限られるため、必然的にその時間帯に業務連絡や会議が集中しやすくなります。その結果、コアタイムが非常に慌ただしくなり、フレキシブルタイムで調整できるはずの柔軟性が実質的に損なわれたり、かえって業務効率が悪化したりする危険性も潜んでいます。対策としては、Web会議ツールを積極的に活用してコアタイム以外でも円滑なコミュニケーションを図る 、あるいは、そもそも対面での実施が必須ではない業務や会議のあり方を見直すといった工夫が求められるでしょう。  

    フレックスタイム制 導入5ステップ

    フレックスタイム制を適法かつ効果的に導入するためには、計画的な準備と段階的な手続きが不可欠です。以下に、主要な5つのステップを解説します。

    ステップ1:導入目的の明確化と対象者の選定

    フレックスタイム制導入の最初のステップは、なぜこの制度を導入するのかという目的を明確にすることです 。例えば、「従業員のワークライフバランスを支援し、多様な人材が活躍できる環境を整備する」「個々の生産性を高め、創造性を促進する」「通勤ラッシュを回避させ、従業員のストレスを軽減する」など、具体的な目的を設定します。この目的が、その後の制度設計(対象者の範囲、コアタイムの有無や長さ、フレキシブルタイムの範囲など)の基本的な方向性を決定づけるため、非常に重要なプロセスです。目的が曖昧なまま制度を導入すると、形骸化してしまったり、意図しない問題が発生したりするリスクが高まります。  

    次に、フレックスタイム制を適用する従業員の範囲を決定します 。全従業員を対象とすることも、特定の部署や職種、あるいは個々の従業員に限定することも可能です。しかし、フレックスタイム制はどのような職種にも適しているわけではありません。例えば、顧客との対面対応が常時必要な業務、チームメンバーとの密な連携が不可欠な業務、あるいは常にオフィスに待機している必要がある受付業務などには不向きな場合があります 。一方で、個人の裁量で仕事を進めやすい営業職、システムエンジニア、プログラマー、研究職、デザイナーといった職種は、フレックスタイム制との親和性が高いと考えられます 。  

    対象者の選定は、単に「制度に適している職種」を選ぶという技術的な側面だけでなく、企業がどの部門や従業員層の生産性向上や満足度向上を優先課題と捉えているかという、戦略的な判断を反映するものでもあります。一部の従業員のみを対象とする場合には、選定基準の公平性や透明性を確保し、対象外となった従業員に対しても丁寧な説明を行うことが、社内の不公平感を防ぎ、円滑な制度移行のためには不可欠です(の「従業員に説明して周知させる」というステップの重要性からも類推できます)。  

    ステップ2:就業規則への規定(記載例とポイント)

    フレックスタイム制を導入する場合、就業規則に「始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる」旨を必ず規定しなければなりません 。これは労働基準法上の要請であり、この規定がなければフレックスタイム制の導入は法的に認められません。  

    就業規則には、具体的に以下の事項を盛り込むことが一般的です。

    • フレックスタイム制を適用する旨
    • 対象となる労働者の範囲(労使協定で別途定める場合はその旨)
    • 清算期間及びその起算日
    • 清算期間における総労働時間(所定労働時間)
    • 標準となる1日の労働時間
    • コアタイムを設ける場合は、その開始時刻及び終了時刻  
    • フレキシブルタイムを設ける場合は、その開始時刻及び終了時刻  

    【就業規則 記載例1】

    (フレックスタイム制)
    第〇条 会社は、労使協定の定めるところにより、フレックスタイム制を適用する従業員の始業及び終業の時刻については、当該労使協定で定める始業及び終業の時間帯の範囲内において、従業員の自主的な決定に委ねるものとする。
    2 フレックスタイム制に関するその他の事項(対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム、フレキシブルタイム等)については、別途締結する労使協定の定めるところによる。  

    【就業規則 記載例2】

    (始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム)
    第○条 労使協定により、毎月1日を起算日とするフレックスタイム制を実施する。
    2 フレックスタイム制の適用を受ける従業員の始業及び終業の時刻については、労使協定の定めにしたがい、その自主的決定に委ねるものとする。
    3 コアタイムは、午前10時から午後3時まで(休憩時間を除く)とする。
    4 フレキシブルタイムは、始業については午前7時から午前10時まで、終業については午後3時から午後10時までとする。

    就業規則への規定は、単なる手続きではなく、労働契約の内容となり、会社と従業員の双方を法的に拘束します。そのため、曖昧な表現を避け、後述する労使協定の内容と完全に整合性の取れた、具体的かつ明確な記述が求められます。万が一、労使間でトラブルが発生した場合、就業規則の記述が法的な判断材料となるため、その作成・変更にあたっては社会保険労務士などの専門家によるレビューを受けることが賢明です 。  

    就業規則には制度の骨子を定める一方で、詳細な運用ルール(例えば、中抜けの具体的な手続き方法や、日々の労働時間の記録方法など)については、別途労使協定や社内規程で補完する形も考えられます。ただし、就業規則本体には、フレックスタイム制の根幹に関わる「始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる」という事項は必ず記載する必要があります 。この法的要件と運用上の柔軟性のバランスをどのように取るかが、実務上の重要なポイントとなります。  

    ステップ3:労使協定の締結(必須記載事項、コアタイム・フレキシブルタイム設定)

    フレックスタイム制を導入するためには、就業規則への規定と並行して、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で、書面による協定(労使協定)を締結する必要があります 。  

    労使協定で定めるべき必須事項は以下の通りです 。  

    • 対象となる労働者の範囲: フレックスタイム制を適用する従業員の範囲を具体的に定めます(例:「営業部員」「研究開発職の者」「勤続1年以上の全従業員」など)。
    • 清算期間: 労働時間を清算する期間を定めます。期間の長さは3ヶ月以内で設定し、その起算日(例:毎月1日、毎週月曜日など)も明確にする必要があります 。  
    • 清算期間における総労働時間(所定労働時間): 清算期間において労働すべき総時間を定めます。この時間は、清算期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則週40時間)の範囲内になるように設定しなければなりません 。
      • 計算式:週の法定労働時間(40時間) × 清算期間の暦日数 ÷ 7日 
    • 標準となる1日の労働時間: 年次有給休暇を取得した際に、その日に労働したものとみなされる時間を定めます。通常、清算期間における総労働時間を、その期間の所定労働日数で割った時間とすることが一般的です 。  

    上記の必須事項に加え、以下の項目も任意で定めることができます。

    • コアタイム: 労働者が必ず勤務しなければならない時間帯を設ける場合、その開始時刻と終了時刻を定めます 。  
    • フレキシブルタイム: 労働者がその選択により労働することができる時間帯を設ける場合、その開始時刻と終了時刻を定めます 。  
    • その他(休憩時間、休日、遅刻・早退の取り扱いなど): 運用上の混乱を避けるために、これらの事項も労使協定で明確にしておくことが望ましいです 。  

    【労使協定 記載例】 (清算期間1ヶ月、コアタイムありの場合)

    フレックスタイム制に関する労使協定
    
    株式会社〇〇(以下「会社」という。)と株式会社〇〇従業員代表△△(以下「従業員代表」という。)は、労働基準法第32条の3の規定に基づき、フレックスタイム制の実施に関し、次のとおり協定する。
    
    (対象となる労働者の範囲)
    第1条 本協定は、本社に勤務する正社員(ただし、試用期間中の者を除く。)に適用する。
    
    (清算期間)
    第2条 清算期間は、毎月1日を起算日とし、同日から当月末日までの1ヶ月間とする。
    
    (清算期間における総労働時間)
    第3条 清算期間における総労働時間は、次の計算式により算定された時間とする。
     40時間 × 清算期間における暦日数 ÷ 7日
     (例:暦日数31日の月は177.1時間、暦日数30日の月は171.4時間)
    
    (標準となる1日の労働時間)
    第4条 標準となる1日の労働時間は8時間とする。年次有給休暇を取得した場合は、1日につき8時間労働したものとして取り扱う。
    
    (コアタイム)
    第5条 必ず労働しなければならない時間帯(コアタイム)は、午前10時00分から午後3時00分まで(うち正午から午後1時までは休憩時間)とする。
    
    (フレキシブルタイム)
    第6条 労働者がその選択により労働することができる時間帯(フレキシブルタイム)は、次のとおりとする。
     始業時刻:午前7時00分から午前10時00分まで
     終業時刻:午後3時00分から午後10時00分まで
    
    (有効期間)
    第7条 本協定の有効期間は、令和〇年〇月〇日から令和△年△月△日までの1年間とする。ただし、期間満了の1ヶ月前までに会社または従業員代表から書面による別段の申し出がないときは、本協定はさらに1年間更新されるものとし、以降も同様とする。
    
    令和〇年〇月〇日
    
    会社 株式会社〇〇
       代表取締役社長 □□ □□ 印
    
    従業員代表 株式会社〇〇従業員代表
          △△ △△ 印  

    労使協定は、労使自治の原則に基づいてその内容を決定することができますが、労働基準法で定められた必須記載事項 を欠いていたり、内容に不備があったりすると、協定自体が無効と判断されるリスクがあります 。特に、清算期間における総労働時間は、法定労働時間の総枠を超えないように厳密に計算・設定する必要があり 、ここでの計算誤りや設定ミスは、将来的に未払い残業代問題に直結する可能性があります。  

    コアタイムやフレキシブルタイムの設定は任意ですが 、これらの設定内容が、制度の実効性や従業員の利便性、さらには業務運営の円滑さに大きく影響します。例えば、社内コミュニケーションの確保を重視するならば、全員が顔を合わせるための短めのコアタイムを設定する 、あるいは逆に、最大限の自由度を従業員に与えるためにコアタイムを設けない「スーパーフレックスタイム制」 を採用するなど、企業の導入目的や業務特性に応じた戦略的な設計が可能です。  

    ステップ4:労働基準監督署への届出(清算期間1ヶ月超の場合)

    フレックスタイム制を導入するにあたり、清算期間を1ヶ月を超える期間(例:2ヶ月、3ヶ月)で設定する場合には、締結した労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります 。一方、清算期間が1ヶ月以内であれば、この労使協定の届出は不要です 。  

    提出書類

    • フレックスタイム制に関する協定届(様式第3号の3)
    • 締結した労使協定の写し  

    提出時期:清算期間が1ヶ月を超える協定内容で実際に運用を開始するに提出する必要があります 。  

    罰則:この届出義務に違反した場合、労働基準法に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります 。  

    なお、常時10人以上の従業員を使用する事業場においては、フレックスタイム制の導入に伴い就業規則を変更した場合、その変更届も別途、労働基準監督署へ提出する必要があります 。  

    2019年の労働基準法改正により清算期間の上限が3ヶ月まで延長されたことに伴い、この「清算期間が1ヶ月を超える場合の届出義務」が新たに設けられました 。法改正以前は、フレックスタイム制の労使協定について届出義務はありませんでした。そのため、法改正の内容を十分に認識していない企業や、清算期間を延長したものの届出を失念している企業は、意図せず法令違反を犯している可能性があります。これは、社会保険労務士として特に注意喚起すべき重要なポイントです。  

    労使協定の届出は、単なる行政手続きに留まらず、労働基準監督署がその協定内容の適法性を間接的に確認する機会ともなり得ます(ただし、具体的な審査基準は明示されていません )。協定内容に不備があれば、行政指導を受ける可能性も考えられます。したがって、届出を正しく行うことは、企業のコンプライアンス体制を構築する上での一環として非常に重要です。労働基準監督署がフレックスタイム制の適正な運用を注視しているという認識を持つべきでしょう 。  

    ステップ5:従業員への周知と運用開始

    フレックスタイム制を導入する最終ステップは、制度の内容を従業員に十分に説明し、周知徹底することです 。就業規則や労使協定で定めたルールはもちろんのこと、制度導入の目的、具体的な労働時間の管理方法、時間外労働や割増賃金の取り扱い、コミュニケーションに関する注意点などを丁寧に説明する必要があります。  

    従業員の理解と協力を得ることが、制度の円滑な運用と期待される効果を発揮するための鍵となります 。特に、フレックスタイム制は従業員の働き方に大きな変化をもたらすため、導入前にトライアル期間を設け、従業員からのフィードバックを収集し、それを制度設計に反映させることも有効な手段です 。  

    周知は、単に「制度が変わります」と一方的に通達するだけでは不十分です。「なぜこの制度を導入するのか(目的)」、「具体的に日々の働き方はどう変わるのか(ルール)」、「従業員にとってどのようなメリットがあり、どのような点に注意すべきか」 を、誤解や不安が生じないように丁寧に説明する双方向のコミュニケーションが求められます。特に、残業代の考え方や日々の労働時間の管理方法など、従業員の処遇に直接関わる部分は誤解が生じやすいため、Q&Aセッションを設けるなどして、従業員からの疑問に真摯に答える姿勢が重要です 。  

    そして、「運用開始」はゴールではなく、むしろスタート地点と捉えるべきです 。導入後も、制度が適切に機能しているか、従業員が不便を感じていないかなどを定期的にモニタリングし、必要に応じてルールの見直しや改善を行うといった継続的なエンゲージメントが、制度を形骸化させず、真に効果的なものとして企業文化に定着させるために不可欠となります 。相談窓口の設置や定期的なアンケート実施なども有効でしょう。  

    フレックスタイム制における残業代計算と注意点

    フレックスタイム制における残業代の計算は、通常の固定時間制とは考え方が異なるため、正確な理解が不可欠です。誤った計算は未払い残業代問題に直結するため、特に注意が必要です。

    基本的な考え方: フレックスタイム制では、清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働(残業)となります 。1日の労働時間が8時間を超えたり、1週間の労働時間が40時間を超えたりしても、それだけでは直ちに残業とはなりません 。  

    清算期間における法定労働時間の総枠の計算

    法定労働時間の総枠は、以下の計算式で算出します。

    週の法定労働時間(原則40時間) × (清算期間の暦日数 ÷ 7日)
    (例:清算期間が31日の月の場合:40時間×(31日÷7日)≈177.1時間) (例:清算期間が30日の月の場合:40時間×(30日÷7日)≈171.4時間)  

    清算期間が1ヶ月を超える場合の特例

    清算期間が1ヶ月を超える場合(例:2ヶ月や3ヶ月)は、上記の清算期間全体での時間外労働の考え方に加え、以下のルールが適用されます。

    • 1ヶ月ごとに、週平均50時間を超えて労働した時間:この時間は、その月の時間外労働として清算(割増賃金の支払い)が必要です 。  
    • 上記1.で時間外労働として処理した時間を除き、清算期間全体を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間:この時間は、清算期間の最終月の時間外労働として清算します 。  

    割増賃金率:時間外労働に対する割増賃金率は、以下の通りです 。  

    • 法定時間外労働(月60時間まで):25%以上
    • 法定時間外労働(月60時間超):50%以上(中小企業も2023年4月1日より適用)
    • 深夜労働(22時~翌5時):25%以上
    • 法定休日労働:35%以上

    注意点:

    • 法定休日労働:法定休日に労働させた場合は、清算期間における総労働時間の計算とは別に、休日労働として割増賃金の支払いが必要です 。  
    • 労働時間の過不足の処理:
      • 不足時間:清算期間内の実労働時間が総労働時間に満たなかった場合、不足時間分を賃金から控除する方法と、法定労働時間の総枠を超えない範囲で次の清算期間に繰り越して労働させる方法(賃金は全額支払う)があります 。  
      • 超過時間:清算期間内の実労働時間が総労働時間を超えた場合、その超過時間分は時間外労働として当該清算期間で清算(割増賃金の支払い)しなければならず、次の清算期間に繰り越すことはできません 。  
    • 36協定と上限規制:フレックスタイム制であっても、法定労働時間を超える労働(時間外労働)を行わせるためには、36協定の締結・届出が必須です。また、時間外労働の上限規制(原則として月45時間・年360時間、特別条項付きの場合でも年720時間以内、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)など)も適用されます 。清算期間が長くなると、月々の労働時間の凸凹で見えにくくなりがちですが、この上限規制を遵守するための労働時間管理が一層重要になります。  

    フレックスタイム制における残業の考え方は、通常の固定時間制と大きく異なり、従業員だけでなく管理者も誤解しやすいポイントです。「1日の労働時間が8時間を超えても直ちに残業とはならない」 という点は特に重要で、残業はあくまで「清算期間における総労働時間」または「月ごと週平均50時間」の超過で判断されます。この誤解は未払い残業のリスクに繋がるため、正確な知識の習得と、必要に応じて勤怠管理システムの活用が推奨されます 。  

    【要注意】フレックスタイム制 導入失敗事例と成功のための対策

    フレックスタイム制は、適切に導入・運用されれば多くのメリットをもたらしますが、準備不足や運用方法の誤りから失敗に終わるケースも少なくありません。ここでは、よくある失敗事例とその対策について解説します。

    よくある失敗事例

    • コミュニケーション不足による業務連携の悪化
      • 従業員の勤務時間がバラバラになることで、必要な情報共有が滞ったり、チーム内での連携が取りにくくなったりするケースです。「誰がいつ出社しているかわからない」「会議の日程調整が困難」「ちょっとした相談がしにくい」といった状況は、業務効率の低下や従業員の孤立感を招きます 。
    • 自己管理できない従業員の生産性低下
      • 労働時間の管理を従業員の自主性に委ねるため、自己管理能力が低い従業員の場合、かえって時間にルーズになったり、集中力が持続せず生産性が低下したりすることがあります 。  
    • 顧客対応の遅延・質の低下
      • 取引先や顧客からの問い合わせに対し、担当者が不在で迅速に対応できない、あるいは対応できる時間が限られてしまうといった問題が発生し、顧客満足度の低下や信頼失墜に繋がる可能性があります 。  
    • 勤怠管理の煩雑化と管理コストの増大
      • 従業員ごとに出退勤時刻や休憩時間が異なるため、手作業での勤怠管理は非常に煩雑になり、人事労務担当者の負担が増大します。また、不正確な労働時間把握は、未払い残業代のリスクも高めます 。  
    • コアタイムへの業務集中による非効率
      • コアタイムを設定した場合、会議や打ち合わせ、重要な連絡などがその時間帯に集中しすぎてしまい、かえってコアタイム中の業務効率が低下したり、従業員の負担が増したりすることがあります 。  
    • 適用対象外の従業員からの不満
      • 一部の部署や職種のみにフレックスタイム制を導入した場合、適用対象外の従業員から不公平感を訴える声が上がることがあります 。

      多くの失敗事例の根底には、「制度の性善説への過度な依存」と「導入前の準備・検討不足」という共通の原因が見え隠れします。フレックスタイム制は従業員の自主性や自己管理能力に期待する部分が大きい制度ですが 、それを支えるための明確なルールの設定、コミュニケーション基盤の整備、適切な管理ツールの導入といった企業側の努力を怠ると、前述のようなデメリットが顕在化しやすくなります 。  

      成功のための対策

      • 導入目的の明確化と共有
        • なぜフレックスタイム制を導入するのか、その目的を全従業員で共有し、制度への理解と協力を得ることが第一歩です。
      • コミュニケーションルールの設定とツールの活用:
        • コアタイムの適切な設定:必要に応じて、全員が揃うべきコアタイムを設定し、その時間帯に会議や重要なコミュニケーションを行うようにします。ただし、コアタイムが長すぎるとフレックスタイム制のメリットが損なわれるため、バランスが重要です 。  
        • 情報共有ツールの導入:チャットツール、スケジュール共有ツール、Web会議システムなどを活用し、時間や場所を選ばずに円滑なコミュニケーションが取れる環境を整備します 。
      • 勤怠管理システムの導入
        • フレックスタイム制に対応した勤怠管理システムを導入し、労働時間を正確かつ効率的に把握・管理します。これにより、管理部門の負担軽減と法令遵守を両立できます 。  
      • 業務体制の見直しと工夫
        • 複数担当制の導入:顧客対応など、常時対応が必要な業務については、複数人で担当する体制を組むことで、担当者不在のリスクを軽減します 。  
        • 業務の標準化・マニュアル化:誰でも一定の業務を遂行できるように、業務プロセスを標準化し、マニュアルを整備しておくことも有効です。
      • 就業規則・労使協定の整備と丁寧な説明
        • 制度の運用ルール(中抜けのルール、時間外労働の申請方法など)を就業規則や労使協定で明確に定め、メリットだけでなくデメリットや注意点も含めて従業員に丁寧に説明し、誤解を防ぎます 。  
      • 従業員の適性判断と教育・サポート
        • フレックスタイム制に適性のある従業員を見極めたり、自己管理能力を高めるための研修を実施したりすることも検討します 。  
      • トライアル導入と継続的な改善
        • 最初から全社的に導入するのではなく、一部の部署で試験的に導入し、課題を洗い出して改善策を講じた上で本格導入する、といった段階的なアプローチも有効です 。また、導入後も定期的に従業員の声を聞き、運用状況を評価し、必要に応じて制度を見直していく姿勢が重要です 。  

      フレックスタイム制の成功は、「従業員の自由な働き方」と「企業組織としての規律・生産性維持」という、一見すると相反する要素のバランスをいかに巧みに取るかにかかっています。この最適なバランスは、企業の文化や業務の特性によって異なるため、画一的な正解はありません。導入後も継続的に状況を注視し、柔軟に調整を加えていくことが、制度を自社に適合させ、その効果を最大限に引き出すための鍵となります 。  

      変形労働時間制 徹底解説

      変形労働時間制とは?(概要、種類:1ヶ月単位・1年単位・1週間単位)

      変形労働時間制とは、業務の繁閑に合わせて、あらかじめ労使で定めた一定期間(変形期間)を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則週40時間)を超えない範囲内であれば、特定の日や特定の週において法定労働時間を超えて労働させることができる制度です 。この制度の主な目的は、季節や曜日によって業務量に大きな変動がある事業場において、労働時間を効率的に配分し、全体の総労働時間の短縮や不要な残業の削減を目指すことにあります 。  

      重要な点は、労働時間の決定権は会社側(使用者)にあるということです 。使用者は、業務の繁閑に応じて、変形期間内の各日・各週の所定労働時間を具体的に設定します。  

      変形労働時間制には、主に以下の3つの種類があります。

      • 1ヶ月単位の変形労働時間制:1ヶ月以内の期間を平均して、週40時間を超えない範囲で労働時間を設定します 。月末や月初が特に忙しい、あるいは特定の曜日だけ業務が集中するといった、月内での繁閑に対応しやすい制度です。  
      • 1年単位の変形労働時間制:1ヶ月を超え1年以内の期間を平均して、週40時間を超えない範囲で労働時間を設定します 。季節によって業務量が大きく変動する業種(例:リゾート業、農業、一部の製造業など)に適しています。  
      • 1週間単位の非定型的変形労働時間制:常時使用する労働者数が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店に限り導入できる制度です 。1週間の労働時間を40時間以内とし、各日の労働時間を10時間まで設定できますが、その週の開始前に各日の労働時間を労働者に通知する必要があります。日々の繁閑の予測が難しい小規模事業所向けの制度です。  

      変形労働時間制を導入する際には、業務の繁閑がある程度予測可能であることが重要な前提となります。予測が困難な状況で安易に導入してしまうと、かえって労働時間管理が複雑化し、従業員の負担が増加するリスクがあります。例えば、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、まさに日々の繁閑予測が難しい業種向けに設けられていますが、それでも週単位での計画と通知が必要です 。  

      また、制度の目的として「総労働時間の短縮」 が掲げられることがありますが、これは制度導入によって自動的に達成されるものではありません。単に労働時間を付け替えるだけでは、繁忙期における長時間労働が常態化し、従業員の疲弊を招く可能性があります。実質的な総労働時間の短縮を実現するためには、変形労働時間制の導入と並行して、業務プロセスの見直しや効率化の取り組みが不可欠であり、変形労働時間制はそのための「手段」の一つとして捉えるべきでしょう。  

      変形労働時間制のメリット・デメリット

      変形労働時間制は、業務の特性に合わせて労働時間を柔軟に設定できる一方で、導入・運用には注意すべき点も存在します。

      企業側のメリット

      • 残業代の削減:業務の繁閑に合わせて所定労働時間を設定できるため、繁忙期に法定労働時間を超えて労働させても、変形期間全体で平均して週40時間以内であれば、その超過分が直ちに時間外労働とはならず、結果として残業代の支払いを抑制できる可能性があります 。  
      • 業務量に応じた効率的な人員配置:繁忙期には労働時間を長く、閑散期には短く設定することで、無駄な手待ち時間を削減し、必要な時に必要な労働力を集中させることができ、業務効率の向上が期待できます 。  
      • 生産性の向上:労働時間を業務量に最適化することで、従業員の集中力を高め、生産性の向上に繋がる可能性があります 。  

      企業側のデメリット

      • 勤怠管理・賃金計算の複雑化:日ごと、週ごとに所定労働時間が変動するため、労働時間の集計や残業代の計算が非常に複雑になります。正確な管理のためには、対応した勤怠管理システムの導入や、担当者の専門知識の習得が不可欠です 。  
      • 導入・運用の手間とコスト:就業規則の変更、労使協定の締結・届出といった導入手続きに加え、従業員への説明・周知、シフト作成・管理など、運用にも相応の手間とコストがかかります 。  
      • 従業員への周知徹底の必要性:制度の仕組みや労働条件の変更について、従業員に十分に説明し、理解を得ることが不可欠です。不十分な説明は、不満や混乱を招く原因となります 。  
      • 他部署との連携の難しさ:特定の部署のみに変形労働時間制を導入した場合、他の部署との勤務時間がずれ、会議の設定や業務連携に支障が生じる可能性があります 。  

      変形労働時間制による「残業代削減」効果は、あくまで「あらかじめ設定した所定労働時間の範囲内」での話です。その設定された所定労働時間を超えて労働させれば、当然のことながら残業代が発生します 。また、各変形労働時間制には、1日の労働時間の上限(例:10時間)や1週間の労働時間の上限(例:52時間)、連続労働日数の制限などが設けられているため 、無制限に労働時間を設定できるわけではありません。この点を誤解したまま制度を導入すると、期待したほどの残業代削減効果が得られないばかりか、最悪の場合、違法な長時間労働や未払い残業といった問題を引き起こす可能性があります。  

      勤怠管理の複雑化 は、単に人事労務担当者の手間が増えるという問題に留まりません。対応するための勤怠管理システムの導入・改修費用、担当者の教育研修費用、場合によっては人員の増強といった、具体的な「運用コストの増加」 に直結する可能性があります。制度導入を検討する際には、これらの隠れたコストを事前に試算し、期待される効果(残業代削減など)との費用対効果を慎重に比較検討する必要があります。  

      従業員側のメリット

      • メリハリのある働き方:繁忙期には集中的に働き、閑散期には労働時間が短縮されるため、仕事と休息のメリハリをつけやすくなります 。  
      • 閑散期のプライベート充実:閑散期には所定労働時間が短くなったり、休日が増えたりすることで、趣味や自己啓発、家族との時間など、プライベートを充実させやすくなります 。  

      従業員側のデメリット

      • 繁忙期の長時間労働による負担増:繁忙期には1日の労働時間が長くなったり、連続勤務が続いたりする可能性があり、心身への負担が増加することが懸念されます 。  
      • 収入減の可能性:従来、繁忙期に残業代として得ていた収入が、変形労働時間制の導入により所定労働時間内と扱われることで減少し、全体の収入が減る可能性があります 。  
      • 会社都合で運用されるリスク:制度の運用が会社の都合の良いように行われ、従業員の希望や健康への配慮がなされない場合、働きやすさが損なわれる可能性があります 。  
      • 労働時間と残業時間の区別がつきにくい:日によって所定労働時間が異なるため、どの時間が残業にあたるのかが分かりにくく、自身で正確に把握することが難しい場合があります 。  

      「閑散期にまとめて休める」「プライベートが充実する」 といったメリットは魅力的ですが、実際にその通りに運用されるかは、企業の文化や実際の業務状況に大きく左右されます。会社側の都合により、閑散期の労働時間が十分に短縮されなかったり、計画的な休暇取得が奨励されなかったりする場合 、従業員は繁忙期の負担だけを強いられることになり、結果としてワークライフバランスが悪化してしまう可能性すらあります。制度の恩恵を従業員が確実に受けるためには、企業の適切な運用と、従業員の健康や生活への配慮が不可欠です。  

      特に、繁忙期における長時間労働 は、従業員の心身の健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。1年単位の変形労働時間制のように、長期間にわたって繁閑の差が大きい制度を導入する場合には、従業員の健康管理への配慮(例えば、育児や介護を行う従業員に対する配慮義務 )が極めて重要になります。これを怠ると、生産性の低下はもちろんのこと、過労による健康障害や労災リスクの増大といった深刻な事態を招きかねません 。  

      変形労働時間制 導入7ステップ

      変形労働時間制の導入は、法定の手続きを確実に踏むとともに、従業員の理解と協力を得ながら慎重に進める必要があります。以下に、一般的な導入ステップを7段階で解説します。

      ステップ1:自社の労働実態調査

      変形労働時間制導入の最初のステップは、自社の労働実態を正確に把握することです。従業員の勤怠管理表や業務日報などを基に、以下の点を調査・分析します 。  

      • 月別、週別、日別の業務量の繁閑パターン
      • 時間外労働(残業)の発生状況(どの部署で、誰が、いつ、どの業務で、どの程度発生しているか)
      • 有給休暇の取得状況
      • 従業員の勤務時間に関する希望や不満

      この調査結果は、どの種類の変形労働時間制が自社に適しているか、対象期間や労働時間配分をどのように設定すべきかといった、制度設計の基礎となる重要な判断材料となります 。単なる現状把握に留まらず、客観的なデータに基づいて制度設計を行うことが、実効性のある制度導入には不可欠です。勘や経験だけに頼った制度設計は、実際の業務実態と乖離し、導入効果が得られないばかりか、従業員の不満を招く原因となり得ます 。  

      また、実態調査においては、単に「いつ忙しいか」といった定量的な情報だけでなく、「なぜその時期に特定の業務が集中するのか(業務プロセス上のボトルネックなど)」、「その業務を遂行するために、実際にどの程度の労働時間が必要なのか」といった質的な情報も収集することが、より実効性のある制度設計に繋がります。これにより、変形労働時間制の導入と併せて、業務プロセスの見直しや効率化といった、より根本的な課題解決に繋がる可能性も視野に入れることができます。

      ステップ2:対象者・労働時間等の決定

      労働実態調査の結果を踏まえ、変形労働時間制を適用する対象者、対象期間、労働時間等を具体的に決定します 。  

      決める内容詳細
      対象労働者の範囲全従業員とするか、特定の部署や職種(例:製造部門、店舗スタッフなど)に限定するかを決定します。繁忙期と閑散期の労働時間の差が大きい従業員や部署を選定することが一般的です 。  
      対象期間及び起算日導入する変形労働時間制の種類に応じて、対象期間(例:1ヶ月、3ヶ月、1年など)とその起算日(例:毎月1日、毎年4月1日など)を定めます。
      特定期間(1年単位の場合)1年単位の変形労働時間制を導入する場合で、特に業務が繁忙な期間がある場合は、その期間を「特定期間」として設定することができます。特定期間中は、連続労働日数の上限が緩和されるなどの特例があります 。  
      労働日及び労働日ごとの労働時間変形期間内の各労働日と、それぞれの日の所定労働時間(始業・終業時刻、休憩時間を含む)を具体的に定めます。これは、年間カレンダーや勤務シフト表といった形で明確にする必要があります。
      労使協定の有効期間労使協定を締結する場合、その有効期間を定めます。

      労働時間の設定にあたっては、管理部門だけで決定するのではなく、実際にそのシフトで働く現場の従業員や管理者の意見を十分に聴取し、現実的な運用が可能かを確認するプロセスが不可欠です 。現場の納得感が低いまま制度を導入すると、形骸化してしまったり、かえって不満が高まったりするリスクがあります。  

      さらに、労働時間を決定する際には、単に業務の繁閑に対応するだけでなく、人件費のシミュレーションを行い、導入による効果(特に残業代削減効果など)を事前に検証することが重要です 。これにより、制度導入が経営的に見て合理的であるかどうかの判断が可能となり、投資対効果を意識した制度設計ができます。  

      ステップ3:就業規則の見直し・規定(各制度の記載例とポイント)

      常時10人以上の従業員を使用する事業場では、変形労働時間制の導入に伴い、就業規則を変更し、必要な事項を規定する必要があります 。就業規則は労働条件の根幹をなすものであり、変形労働時間制の導入は「始業及び終業の時刻」という絶対的必要記載事項に関わる重要な変更となるためです 。  

      就業規則に規定すべき主な事項は以下の通りです 。  

      • 変形労働時間制を適用する旨
      • 適用する変形労働時間制の種類(1ヶ月単位、1年単位など)
      • 対象となる労働者の範囲
      • 対象期間及びその起算日
      • 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(始業・終業時刻、休憩時間を含む)
        • 具体的な労働日や労働時間を年間カレンダーやシフト表で別途定める場合は、その旨と、それらを労働者に周知する方法・時期を明記します。
      • (労使協定で定める場合)労使協定の有効期間

      【就業規則 記載例:1ヶ月単位の変形労働時間制】

      (労働時間及び休憩時間)
      第〇条 毎月1日を起算日とする1ヶ月単位の変形労働時間制とし、1ヶ月を平均して1週間の所定労働時間は40時間以内とする。
      2 各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は、原則として次のとおりとする。
       (1) 通常勤務日:始業 午前9時00分、終業 午後6時00分、休憩 正午から午後1時00分まで
       (2) 月末繁忙日(毎月25日から月末まで):始業 午前9時00分、終業 午後7時00分、休憩 正午から午後1時00分まで
      3 前項にかかわらず、業務の都合上必要な場合には、1ヶ月の所定労働時間の範囲内で、各日の始業・終業時刻及び休憩時間を変更することがある。この場合、会社は少なくとも前日までに変更後の勤務シフトを労働者に通知する。  

      【就業規則 記載例:1年単位の変形労働時間制】

      (労働時間及び休日)
      第〇条 会社は、労使協定の定めるところにより、毎年4月1日を起算日とする1年単位の変形労働時間制を採用する。
      2 1年単位の変形労働時間制の適用を受ける労働者の所定労働時間は、1年を平均して1週間あたり40時間以内とし、1日の所定労働時間は原則として8時間とする。
      3 各労働日の始業・終業時刻、休憩時間及び休日は、労使協定で定める年間カレンダーによるものとする。当該年間カレンダーは、対象期間の開始30日前までに労働者に周知する。 

      変形労働時間制の種類によっては、就業規則への定めのみで導入可能な場合(例:1ヶ月単位の変形労働時間制で、就業規則に各日の労働時間を具体的に特定し、労使協定を締結しない場合 )と、労使協定の締結が法的に必須となる場合があります(例:1年単位の変形労働時間制 )。就業規則と労使協定のどちらに何をどこまで詳細に規定するかは、制度の安定的な運用と将来的な変更の柔軟性を考慮して慎重に決定する必要があります。一般的には、就業規則に制度の基本的な枠組みを定め、具体的な運用方法(例えば、1年単位の場合の年間カレンダーなど)は労使協定で定めるという形が多く見られます 。  

      就業規則や労使協定で労働日・勤務時間を定める際には、可能な限り全てのシフトパターンを網羅的に記載することが求められる点に注意が必要です。過去の裁判例(日本マクドナルド事件 )では、就業規則に記載されていないシフトパターンによる運用が変形労働時間制として無効と判断されたケースがあります。安易に「詳細は別途通知する」といった規定にすると、法的なリスクを伴う可能性があります。特に1ヶ月単位の変形労働時間制においては、変形期間内の各日の労働時間を具体的に特定することが強く求められています 。  

      ステップ4:労使協定の締結(各制度の必須記載事項、記載例)

      1年単位の変形労働時間制や1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合には、必ず使用者と労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で、書面による労使協定を締結しなければなりません 。1ヶ月単位の変形労働時間制の場合は、就業規則への具体的な規定によって導入することも可能ですが、労使協定を締結する方法も認められています 。  

      労使協定で定めるべき主な事項は、導入する変形労働時間制の種類によって異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます 。  

      • 対象となる労働者の範囲
      • 対象期間(変形期間)及びその起算日
      • 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの所定労働時間(始業・終業時刻、休憩時間を含む)
        • 1年単位の場合、対象期間を1ヶ月以上の期間ごとに区分するときは、最初の期間を除く各期間については、労働日数と総労働時間のみを定め、各日の労働時間は当該期間の初日の少なくとも30日前までに労働者代表の同意を得て書面で特定することも可能です 。  
      • 特定期間(1年単位の変形労働時間制で、特に業務が繁忙な期間を設ける場合)  
      • 労使協定の有効期間(自動更新条項を設けることも可能)

      【労使協定 記載例:1年単位の変形労働時間制】

      1年単位の変形労働時間制に関する協定書
      
      株式会社〇〇(以下「会社」という。)と株式会社〇〇従業員代表△△(以下「従業員代表」という。)は、労働基準法第32条の4の規定に基づき、1年単位の変形労働時間制の実施に関し、次のとおり協定する。
      
      (対象となる労働者の範囲)
      第1条 本協定は、製造部に所属する正社員に適用する。
      
      (対象期間及び起算日)
      第2条 対象期間は、毎年4月1日を起算日とし、翌年3月31日までの1年間とする。
      
      (特定期間)
      第3条 対象期間のうち、特に業務が繁忙な期間(特定期間)は、毎年10月1日から12月20日までとする。
      
      (労働日及び労働時間)
      第4条 対象期間における労働日及び各労働日の所定労働時間(始業・終業時刻、休憩時間を含む)は、別紙「年間カレンダー」のとおりとする。
      2 年間カレンダーは、対象期間の開始30日前までに従業員代表の同意を得て会社が作成し、労働者に周知する。
      
      (有効期間)
      第5条 本協定の有効期間は、令和〇年4月1日から令和△年3月31日までの1年間とする。ただし、期間満了の1ヶ月前までに会社または従業員代表から書面による別段の申し出がないときは、本協定はさらに1年間更新されるものとし、以降も同様とする。
      
      令和〇年〇月〇日
      
      会社 株式会社〇〇
         代表取締役社長 □□ □□ 印
      
      従業員代表 株式会社〇〇従業員代表
            △△ △△ 印  

      労使協定を締結する際の「労働者代表」の選任は、民主的かつ公正な手続き(挙手、投票など)によって行われなければならず、使用者が一方的に指名することはできません。選任方法に不備があると、労使協定自体が無効と判断される可能性があるため、細心の注意が必要です 。  

      労使協定の有効期間については、1ヶ月単位の変形労働時間制の場合で3年以内が目安とされ 、1年単位の場合は「長すぎない期間」とされています 。この有効期間を適切に設定することは、定期的に制度の運用状況を見直し、労使双方にとってより良い形に改善していく機会を確保する上で戦略的に重要です。自動更新条項を設ける場合であっても、定期的な見直しを怠り、制度が形骸化しないような工夫が求められます(フレックスタイム制の協定例 も参考になります)。  

      ステップ5:労働基準監督署への届出(必要なケースと書類)

      1年単位の変形労働時間制および1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合には、締結した労使協定を、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります 。  

      1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、就業規則に各日の労働時間を具体的に特定して導入する場合は、労使協定の届出は不要です。ただし、労使協定によって1ヶ月単位の変形労働時間制を導入する場合は、その労使協定の届出が必要となるケースがあります 。  

      提出書類の例(1年単位の変形労働時間制の場合)

      • 1年単位の変形労働時間制に関する協定届(様式第4号)
      • 締結した労使協定の写し
      • 対象期間中の労働日及び各労働日の労働時間が記載された年間カレンダー  
      • 就業規則(変形労働時間制の導入に伴い変更した場合)及び労働者代表の意見書

      届出を怠った場合、労働基準法違反として罰則(30万円以下の罰金など)の対象となる可能性があります 。また、労使協定には有効期間があるため、制度の運用を継続する場合には、有効期間が満了する前に新たに労使協定を締結し、再度届け出る必要があります 。  

      時間外労働や休日労働を行わせる可能性がある場合は、別途、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、届け出る必要がある点も忘れてはいけません 。  

      1年単位の変形労働時間制の届出においては、特に「対象期間中の労働日及び各労働日の労働時間がわかる年間カレンダー」 の提出が重要です。このカレンダーが、締結した労使協定の内容と一致し、かつ労働基準法で定められた各種労働時間の上限(例:1日10時間、1週52時間、年間総労働時間、年間労働日数280日など )を遵守しているかどうかが、届出の受理および制度の適法性を判断する上での重要なポイントとなります。カレンダーの内容に不備があれば、労働基準監督署から指導を受けたり、最悪の場合、届出が受理されなかったりする可能性もあります。  

      通常、常時10人未満の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成・届出義務はありません。しかし、1年単位の変形労働時間制を導入する場合には、事業場の規模にかかわらず、就業規則(またはそれに準ずる書面)への規定と、労使協定の届出が必要となる点に特に注意が必要です 。これは小規模事業所が見落としやすい重要な法的要件であり、1年単位の変形労働時間制が労働者に与える影響の大きさを考慮し、小規模事業場であっても一定の法的保護を確保しようとする労働基準法の趣旨が背景にあると考えられます。  

      ステップ6:労働者への周知

      変形労働時間制を導入するにあたっては、制度の内容、変更後の就業規則や締結した労使協定の内容、制度導入の目的や従業員にとってのメリット・デメリットなどを、対象となる労働者に対して十分に説明し、周知徹底する必要があります 。  

      労働時間や賃金といった労働条件の根幹に関わる大きな変更となるため、丁寧なコミュニケーションを通じて従業員の理解と協力を得ることが、制度の円滑な導入と定着には不可欠です 。  

      周知は、単に書類を配布したり、掲示したりするだけでなく、説明会を開催したり、Q&Aセッションを設けたり、具体的な勤務シフトの例を示したりするなど、従業員が制度内容を具体的にイメージでき、疑問点をその場で解消できるような双方向のコミュニケーションを伴う形で行うことが効果的です 。特に、残業代の考え方や休日の設定方法など、誤解が生じやすい点については、時間をかけて丁寧に説明することが求められます。  

      従業員への周知と同時に、管理職に対しても、制度の正しい理解と適切な運用方法(特に勤怠管理、残業時間の考え方、部下への指示方法など)について十分な教育を行う必要があります。管理職が制度を誤解していたり、不適切な運用をしたりすると、現場での混乱やトラブルの原因となり、制度導入のメリットが損なわれる可能性があります 。管理職は、部下の労働時間を適切に管理し、健康にも配慮する重要な役割を担うため、その教育は不可欠です。  

      ステップ7:制度の適正な運用と勤怠管理

      変形労働時間制を導入した後は、就業規則や労使協定で定めた内容に従って、制度を適正に運用していく必要があります 。特に、日ごと、週ごとに所定労働時間が変動するため、労働時間と残業時間の区別を明確にし、勤怠管理を徹底することが極めて重要です 。  

      変形労働時間制では、一度設定した各日の所定労働時間や年間カレンダー(勤務シフト)は、原則として期間の途中で使用者の都合によって任意に変更することはできません 。これは、労働者が事前に勤務計画を把握し、生活設計を立てる上での予測可能性を保護するためです。この「一度決めたら変更不可」という原則の重みを理解し、導入時の計画策定には細心の注意を払う必要があります。安易な計画で導入してしまうと、後に経営環境が変化しても柔軟に対応できず、かえって業務運営に支障をきたす可能性があります。  

      日々の勤怠管理においては、各従業員の始業・終業時刻、休憩時間を正確に記録し、実労働時間を把握します。その上で、あらかじめ定めたその日の所定労働時間と比較し、時間外労働が発生しているかどうかを確認します。残業代の計算も複雑になるため、計算ミスや未払いを防ぐためにも、変形労働時間制に対応した勤怠管理システムの導入・活用が強く推奨されます 。  

      変形労働時間制、特にシフト勤務を伴う場合には、シフト作成・管理が煩雑になるだけでなく 、従業員間で不公平感が生じないような配慮も求められます 。特定の従業員に負担が偏らないような公平なシフトローテーションの実施や、従業員の希望をある程度反映する仕組み作り(ただし、業務運営に支障が出ない範囲で)などが、従業員のモチベーション維持と労使トラブルの未然防止に繋がります。  

      各変形労働時間制のポイントと注意点

      変形労働時間制は、その種類によって対象期間や労働時間の上限、導入手続きなどが異なります。ここでは、主な3つの制度(1ヶ月単位、1年単位、1週間単位)について、それぞれのポイントと特に注意すべき点を解説します。

      1ヶ月単位の変形労働時間制

      1ヶ月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則週40時間、特例措置対象事業場は週44時間)を超えない範囲内で、特定の日や特定の週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です 。  

      導入手続き

      就業規則に具体的に定めるか、または労使協定を締結することによって導入できます 。労使協定を締結した場合でも、その届出は原則として不要ですが、就業規則に包括的に委任する形ではなく、労使協定によって具体的に労働日や労働時間を定める場合は届出が必要となることがあります。  

      適したケース

      月末や月初、あるいは特定の曜日など、1ヶ月の中で業務の繁閑の差が比較的明確な事業場に適しています。例えば、小売業の特売日や飲食店の週末などが考えられます。

      ポイントと注意点
      • 労働時間の特定:変形期間内の各労働日および各労働日ごとの所定労働時間を、あらかじめ具体的に特定する必要があります 。この特定が不十分な場合(例えば、就業規則に全てのシフトパターンが網羅的に記載されていない場合など)は、変形労働時間制が無効と判断されるリスクがあります(日本マクドナルド事件判例 )。  
      • 変更の制限:一度特定した労働日や労働時間は、原則として使用者が任意に変更することはできません。やむを得ない理由で変更する場合でも、就業規則等にその手続きを定めておく必要があります。
      時間外労働の計算

      1日については、就業規則等で8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えて労働した時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間。

      1週間については、就業規則等で40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えて労働した時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(上記1.で時間外労働となる時間を除く)。

      変形期間全体については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間  

      1ヶ月単位の変形労働時間制は、他の変形労働時間制と比較して導入手続きが簡便な場合があるため、比較的採用しやすい印象を受けるかもしれません。しかし、その反面、各日の労働時間を事前に「特定」するという要件が厳格であり、この「特定」の要件を軽視すると、制度自体が無効と判断され、結果として未払い残業代が発生する大きなリスクを抱えることになります。

      1年単位の変形労働時間制

      1ヶ月を超え1年以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、特定の日や特定の週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です 。  

      導入手続き

      労使協定を締結し、それを所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります 。また、就業規則にも関連規定を設ける必要があります。  

      適したケース

      季節によって業務量が大きく変動する業種(例:建設業、製造業の一部、観光業、農業など)や、年間を通じて特定の時期に繁忙期が集中する事業場に適しています。

      労働時間・日数の上限
      • 1日の労働時間:原則10時間まで 。  
      • 1週間の労働時間:原則52時間まで 。  
      • 対象期間が3ヶ月を超える場合
      • 労働日数の上限:原則として1年あたり280日 。  
      • 週48時間を超える所定労働時間を設定できる週は連続3週以内、かつ3ヶ月ごとに区切った各期間において初日から数えて3回以内 。  
      • 連続労働日数の上限:原則として6日まで。ただし、労使協定で「特定期間」(特に業務が繁忙な期間)を定めた場合は、その特定期間中は1週間に1日の休日が確保できる範囲で最長12日まで連続勤務が可能 。  
      ポイントと注意点
      • 年間カレンダーの作成と周知:対象期間における労働日および各労働日ごとの労働時間を具体的に定めた年間カレンダーを作成し、事前に労働者に周知する必要があります 。  
      • 対象期間中の変更不可:原則として、一度定めた対象期間中の労働日や労働時間を途中で変更することはできません 。  
      • 育児・介護等への配慮:育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるよう配慮しなければなりません 。  

      時間外労働の計算: 1ヶ月単位と同様に、1日単位、1週間単位、対象期間全体での3段階で時間外労働を判断します。計算方法は複雑なため、正確な理解が必要です。 (参考:)  

      1年単位の変形労働時間制は、長期間にわたる労働時間の調整が可能である反面、労働者への影響も大きいため、導入・運用には慎重な検討と厳格な管理が求められます。特に、年間労働日数や連続労働日数、週48時間超の週の制限など、多岐にわたる上限規制を遵守する必要があります。これらの規制は、労働者の過度な負担を防ぎ、健康を確保するためのものです。

      1週間単位の非定型的変形労働時間制

      常時使用する労働者数が30人未満小売業、旅館、料理店、飲食店に限り導入できる制度です 。1週間の労働時間を40時間以内とし、各日の労働時間を10時間までとすることができます。  

      導入手続き

      労使協定を締結し、それを所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります 。就業規則にも関連規定を設ける必要があります。  

      適したケース

      日々の天候や客足によって業務量が大きく変動し、事前に1ヶ月単位や1年単位での詳細な勤務計画を立てることが困難な小規模事業場に適しています。

      ポイントと注意点
      • 事前の書面通知: その週の開始前に、各日の労働時間を労働者に書面で通知しなければなりません 。  
      • 労働者の意思尊重: 各日の労働時間を定めるにあたっては、労働者の意思を尊重するよう努めなければならないとされています 。  
      時間外労働の計算

      1日については、事前に通知された所定労働時間が8時間を超える場合はその時間を超えた時間、8時間以下の場合は8時間を超えた時間。

      1週間については、40時間を超えた時間(上記1.で時間外労働となる時間を除く)。 (参考:)  

      この制度は、対象事業と事業規模が限定されている点、そして週ごとに労働時間を特定し通知するという運用上の手間がある点が特徴です。小規模な店舗などで、柔軟な人員配置を行いたい場合に検討される制度と言えるでしょう。

      変形労働時間制における残業代計算と注意点

      変形労働時間制における残業代の計算は、通常の固定時間制とは異なり、制度の種類や設定された期間によって計算方法が変わるため、非常に複雑です。正確な計算のためには、各制度のルールを正しく理解することが不可欠です。

      基本的な考え方

      変形労働時間制であっても、法定労働時間を超える労働や、あらかじめ定めた所定労働時間を超える労働に対しては、割増賃金(残業代)を支払う義務があります 。  

      各制度における残業時間の考え方

      1ヶ月単位の変形労働時間制

      • 1日単位
        • 就業規則等で1日の所定労働時間を8時間と定めた日:その定めた所定労働時間を超えた時間 。  
        • 就業規則等で1日の所定労働時間を8時間以下と定めた日:実労働時間が8時間を超えた時間 。
      • 1週間単位
        • 就業規則等で1週間の所定労働時間を40時間と定めた週:その定めた所定労働時間を超えた時間(上記1.で算定された時間外労働時間を除く)。  
        • 就業規則等で1週間の所定労働時間を40時間以下と定めた週:実労働時間が40時間を超えた時間(上記1.で算定された時間外労働時間を除く)。  
      • 変形期間全体
        • 変形期間(1ヶ月以内)における法定労働時間の総枠(週40時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて労働した時間(上記1.および2.で算定された時間外労働時間を除く)。

      1年単位の変形労働時間制

      計算の考え方は1ヶ月単位の場合と基本的に同様で、1日単位、1週間単位、そして対象期間(1年以内)全体での3段階で時間外労働を判断します 。

      • 1日単位
        • 労使協定で1日の所定労働時間を8時間と定めた日:その定めた所定労働時間を超えた時間。
        • 労使協定で1日の所定労働時間を8時間以下と定めた日:実労働時間が8時間を超えた時間。
      • 1週間単位
        • 労使協定で1週間の所定労働時間を40時間と定めた週:その定めた所定労働時間を超えた時間(上記1.で算定された時間外労働時間を除く)。
        • 労使協定で1週間の所定労働時間を40時間以下と定めた週:実労働時間が40時間を超えた時間(上記1.で算定された時間外労働時間を除く)。
      • 対象期間全体
        • 対象期間における法定労働時間の総枠(週40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて労働した時間(上記1.および2.で算定された時間外労働時間を除く)。

      1週間単位の非定型的変形労働時間制:

      • 1日単位
        • 事前に通知された1日の所定労働時間が8時間の場合:その通知された所定労働時間を超えた時間 。  
        • 事前に通知された1日の所定労働時間が8時間以下の場合:実労働時間が8時間を超えた時間 。
      • 1週間単位
        • 実労働時間が40時間を超えた時間(上記1.で算定された時間外労働時間を除く)。  

      割増賃金率:時間外労働に対する割増率は、通常の労働時間制と同様です。法定時間外労働に対しては25%以上、法定休日労働に対しては35%以上、深夜労働(22時~翌5時)に対しては25%以上の割増賃金が必要です 。月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の割増率が適用されます(中小企業も2023年4月より適用)。  

      注意点

      • 所定労働時間の変更不可: 一度定めた所定労働時間は、原則として期間の途中で変更できません。変更した場合は、変更前の所定労働時間を基準に時間外労働を計算する必要があります 。  
      • 相殺の禁止:ある日の残業時間を、別の日の労働時間を短縮することで相殺するような扱いは認められません 。同様に、ある日の労働時間不足分を、別の日に長く働かせることで相殺することもできません。  
      • 36協定と上限規制:変形労働時間制を導入していても、法定労働時間を超えて労働させる場合には、36協定の締結・届出が必要です。また、時間外労働の上限規制(1ヶ月単位の場合は月45時間・年360時間、1年単位で対象期間が3ヶ月超の場合は月42時間・年320時間など)も遵守しなければなりません 。  
      • 期間の途中で退職・入社した労働者の扱い:変形労働時間制の期間の途中で退職または入社した労働者については、実際に労働した期間を平均して週40時間を超えて労働した時間分について、割増賃金を支払う必要があります 。繁忙期だけ法定労働時間以上に労働させて、割増賃金を支払わずに退職させるような運用は認められません。  

      変形労働時間制における残業代計算は、その複雑さから誤りが生じやすく、未払い残業代のリスクが高い領域です。勤怠管理システムを導入し、専門家(社会保険労務士など)に相談しながら正確な運用を心掛けることが重要です。

      【要注意】変形労働時間制 導入失敗事例と成功のための対策

      変形労働時間制は、適切に導入・運用されれば残業削減や業務効率化に繋がる有効な手段ですが、計画の不備や運用方法の誤りにより、期待した効果が得られないばかりか、かえって労務リスクを高めてしまうケースも散見されます。

      よくある失敗事例

      • 不適切な労働時間設定による長時間労働の常態化:業務の繁閑予測が不正確であったり、人員配置が不適切であったりすると、繁忙期に過度な長時間労働が集中し、従業員の健康を害したり、モチベーションを低下させたりする可能性があります 。  
      • 勤怠管理の複雑化と管理不備による未払い残業の発生:日々の所定労働時間が変動するため、正確な労働時間の把握や残業時間の計算が難しく、意図せず未払い残業が発生してしまうケースです 。  
      • 従業員への説明不足・理解不足による不満の発生:制度の趣旨や労働条件の変更点(特に残業代の考え方など)について、従業員への説明が不十分な場合、不公平感や不信感を招き、労使トラブルに発展することがあります 。  
      • 安易なシフト変更による混乱:一度定めた勤務カレンダーやシフトを、使用者の都合で頻繁に変更すると、従業員の生活設計に影響を与え、制度への信頼が失われます。原則として期間途中の変更は認められません 。  
      • 「残業代ゼロ」の誤解と悪用:変形労働時間制を導入すれば残業代が一切発生しなくなると誤解し、実質的なサービス残業を強いるような悪質なケースも見られます 。  

      これらの失敗の多くは、導入前の計画・準備不足、制度への理解不足、そしてコミュニケーション不足に起因しています。

      成功のための対策

      • 綿密な労働実態調査と正確な繁閑予測:制度導入前に、客観的なデータに基づいて業務の繁閑を正確に予測し、無理のない労働時間設定を行うことが最も重要です 。  
      • 適切な制度選択と法的要件の遵守:自社の業種や業務特性、繁閑のパターンに最も適した変形労働時間制の種類を選択し、就業規則への規定、労使協定の締結・届出といった法的要件を確実に遵守します 。  
      • 従業員への丁寧な説明と合意形成:制度導入の目的、具体的な運用方法、労働条件の変更点、メリット・デメリットなどを従業員に丁寧に説明し、質疑応答の機会を設けるなどして、十分な理解と納得を得ることが不可欠です 。  
      • 勤怠管理体制の整備:変形労働時間制に対応した勤怠管理システムを導入し、労働時間を正確に記録・集計できる体制を構築します。残業時間の計算方法についても、担当者が正しく理解しておく必要があります 。  
      • 健康確保措置の実施:繁忙期に長時間労働が続く場合には、医師による面接指導の実施や、連続勤務日数の制限、勤務間インターバルの確保など、従業員の健康を守るための措置を講じます 。  
      • 運用状況のモニタリングと定期的な見直し:制度導入後も、運用状況を定期的に確認し、従業員からの意見も聞きながら、必要に応じて制度の見直しや改善を行います。形骸化させないための継続的な取り組みが重要です。
      • 専門家(社労士)の活用:制度設計から導入、運用に至るまで、専門家である社会保険労務士のアドバイスを受けることで、法的なリスクを回避し、より実効性の高い制度運用が期待できます 。  

      変形労働時間制の導入は、単に労働時間を調整するだけでなく、企業の生産性や従業員の働きがいにも影響を与える重要な経営判断です。失敗を避け、成功に導くためには、法令遵守はもちろんのこと、従業員との良好なコミュニケーションと、実態に即した丁寧な制度設計・運用が求められます。

      自社に最適な制度を選ぶための比較検討ポイント

      フレックスタイム制と変形労働時間制、どちらの制度が自社に適しているのか、あるいはどのように組み合わせるのが最適なのか。この選択は、企業の業種、業務特性、従業員のニーズ、そして管理体制など、多くの要因を総合的に考慮して行う必要があります。特に従業員100名規模の中小企業においては、限られたリソースの中で最大限の効果を発揮できる制度設計が求められます。

      【100名規模の中小企業向け】労働時間制度 導入判断 診断チェックリスト

      以下のチェックリストは、100名規模の中小企業の人事労務担当者様が、自社に最適な労働時間制度を検討する際の判断材料としてご活用いただけます。各項目について、自社の状況を客観的に評価してみてください。

      No.チェック項目はいいいえどちらとも言えない関連する制度の方向性(目安)
      A. 業務特性・繁閑について
      A-1季節や特定の時期によって、業務量に大きな繁閑の差があるか? はい → 変形労働時間制(特に1年単位)向き
      A-2月の中で、月末月初や特定の曜日に業務が集中する傾向があるか? はい → 変形労働時間制(特に1ヶ月単位)向き
      A-3日々の業務量が予測しにくく、突発的な業務が多いか? はい → 1週間単位の変形労働時間制(小規模小売等)、または柔軟なシフト管理が必要
      A-4個々の従業員の裁量で仕事の進め方やスケジュールを調整しやすい業務が多いか? はい → フレックスタイム制向き
      A-5チームでの協働作業や、顧客とのリアルタイムな連携が常に必要な業務が多いか? はい → コアタイムのあるフレックスタイム制、または固定時間制を検討
      B. 従業員のニーズ・働き方について
      B-1従業員から、育児・介護との両立支援や、柔軟な働き方への要望が高いか? はい → フレックスタイム制向き
      B-2従業員の多くが、通勤ラッシュを避けた出退勤を希望しているか? はい → フレックスタイム制向き
      B-3従業員の自己管理能力や計画性は比較的高いと言えるか? はい → フレックスタイム制向き
      B-4従業員間で、特定の時期にまとめて休暇を取得したいというニーズがあるか? はい → 変形労働時間制(閑散期に休日増)向き
      C. 管理体制・企業文化について
      C-1従業員ごとの詳細な労働時間管理(始業・終業時刻、休憩、中抜け等)を行う体制やシステムが整備されているか、または整備可能か? はい → フレックスタイム制導入の前提/いいえ → まず体制整備が必要
      C-2変形労働時間制に対応した複雑なシフト作成や残業代計算を行う能力・リソースがあるか? はい → 変形労働時間制導入の前提/いいえ → システム導入や専門家支援を検討
      C-3従業員とのコミュニケーションを密に行い、制度変更への理解と協力を得る企業文化があるか? はい → スムーズな導入が期待できる
      C-4経営層や管理職が、柔軟な働き方や労働時間管理の重要性を理解し、推進する意識があるか? はい → 制度の定着が進みやすい
      C-5過去に労働基準監督署から労働時間管理に関する指導や是正勧告を受けたことがあるか? はい → 専門家(社労士)への相談を強く推奨

      <チェックリストの活用にあたっての注意点>

      • このチェックリストはあくまで目安であり、最終的な制度選択は、各企業の個別具体的な状況を詳細に分析した上で決定する必要があります。
      • 「はい」が多い制度が必ずしも最適とは限りません。メリット・デメリット、導入・運用のコストや手間を総合的に比較検討することが重要です。
      • 複数の項目で「はい」が付く場合、例えば「コアタイムを設定したフレックスタイム制」や、「一部の部署に変形労働時間制、他の部署にフレックスタイム制」といった組み合わせも考えられます(ただし、同一従業員への同時適用は原則不可)。
      • 「いいえ」や「どちらとも言えない」が多い項目は、制度導入にあたっての課題や検討事項を示唆しています。これらの課題をどのようにクリアしていくかを具体的に計画する必要があります。
      • 厚生労働省の資料 や専門家のアドバイスも参考に、慎重な判断を心がけてください。  

      労働時間制度 導入・運用における管理負担の実際とシステム活用の重要性

      フレックスタイム制や変形労働時間制といった柔軟な労働時間制度は、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらす可能性がある一方で、導入・運用における管理負担の増加は避けられない課題です。特に、勤怠管理と給与計算の複雑化は、人事労務担当者にとって大きな負担となります。

      フレックスタイム制における管理負担

      • 従業員ごとに出退勤時刻、休憩開始・終了時刻、中抜けの有無などが異なるため、各人の労働時間を正確に把握・集計する作業が煩雑になります 。  
      • 清算期間内の総労働時間の管理、時間外労働の計算(特に清算期間が1ヶ月を超える場合)は、通常の固定時間制よりも複雑です 。  
      • 労働時間の過不足の管理と、それに応じた賃金計算(控除や繰り越し)も正確に行う必要があります 。  

      変形労働時間制における管理負担

      • 日ごと、週ごとに所定労働時間が変動するため、各従業員のその日の所定労働時間を正確に把握した上で、実労働時間と比較し、時間外労働を算出する必要があります 。  
      • 年間カレンダーや月間シフト表の作成・管理、そしてそれに基づいた労働時間の集計は、手作業では膨大な時間を要し、ミスも発生しやすくなります。
      • 1年単位の変形労働時間制など、長期間にわたる計画と実績の管理は、特に複雑です。

      これらの管理負担は、特にリソースの限られる中小企業にとっては深刻な問題となり得ます 。手作業やExcelなどでの管理には限界があり、ヒューマンエラーによる計算ミスや法令違反のリスクも高まります。  

      勤怠管理システムの活用の重要性

      このような管理負担を軽減し、適法かつ効率的な制度運用を実現するためには、フレックスタイム制や変形労働時間制に対応した勤怠管理システムの導入・活用が不可欠です。

      • 正確な労働時間の記録・集計:ICカード打刻、PC・スマートフォン打刻などにより、正確な出退勤時刻を記録し、複雑な労働時間計算(総労働時間、時間外労働、深夜労働、休日労働など)を自動で行うことができます 。  
      • 法令遵守のサポート:各種労働時間制度の法的要件(労働時間の上限、割増賃金率など)に基づいた設定が可能であり、アラート機能などによって法令違反を未然に防ぐことができます 。  
      • 業務効率の大幅な向上:勤怠データの自動集計により、人事労務担当者の手作業が大幅に削減され、給与計算ソフトとの連携によって、給与計算業務全体の効率化も図れます 。  
      • リアルタイムな状況把握:管理者は、従業員の勤務状況や残業時間をリアルタイムで把握でき、必要に応じて迅速な対応(業務量の調整指示など)が可能になります 。  

      勤怠管理システムを選定する際には、自社の導入する労働時間制度への対応はもちろんのこと、操作のしやすさ、他のシステム(給与計算ソフトなど)との連携性、カスタマイズ性、サポート体制、そしてセキュリティなどを総合的に比較検討することが重要です 。クラウド型のシステムであれば、初期コストを抑えつつ、法改正への自動アップデートなどのメリットも期待できます 。  

      柔軟な労働時間制度の導入は、勤怠管理方法の変革とセットで考えるべきであり、適切なシステム投資は、制度の恩恵を最大限に引き出し、管理負担とリスクを最小化するための鍵と言えるでしょう。

      導入・運用を成功させるための留意点

      フレックスタイム制や変形労働時間制を導入し、そのメリットを最大限に引き出すためには、労働基準法をはじめとする関連法規を遵守することが大前提となります。ここでは、導入・運用における法的な留意点と、専門家である社会保険労務士(社労士)を活用するメリットについて解説します。

      就業規則・労使協定作成・変更時の法的チェックポイント

      就業規則および労使協定は、これらの労働時間制度を導入・運用する上での法的根拠となる極めて重要な書類です。その作成・変更にあたっては、以下の点に特に注意が必要です。

      • 就業規則への必須記載事項の網羅
        • フレックスタイム制:「始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨」は必ず記載しなければなりません 。清算期間、総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム・フレキシブルタイム(設ける場合)なども、労使協定との整合性を保ちつつ規定します 。  
        • 変形労働時間制:適用する制度の種類、対象労働者の範囲、対象期間と起算日、各労働日・各週の所定労働時間(またはその決定方法と周知方法)などを具体的に記載する必要があります 。  
      • 労使協定の必須記載事項の遵守と適法性
        • フレックスタイム制:対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間は必須です 。清算期間における総労働時間は、法定労働時間の総枠を超えてはなりません 。  
        • 変形労働時間制:対象労働者の範囲、対象期間と起算日、労働日及び労働日ごとの労働時間、有効期間などを定めます 。1年単位の場合は、労働日数や労働時間の上限(1日10時間、週52時間、年間280日など)を遵守する必要があります 。  
        • 労働者代表の選任手続きが民主的かつ公正に行われているかどうかも、協定の有効性に影響します 。  
      • 厚生労働省のガイドライン・様式の参照:厚生労働省は、各種労働時間制度に関する詳細な解説資料や労使協定のモデル様式(例:フレックスタイム制の協定届 、1年単位の変形労働時間制の協定届 )を提供しています。これらを参考に、自社の状況に合わせて適切に作成・変更することが求められます。
      • 判例の動向の注視:労働時間制度に関する裁判例(例:日本マクドナルド事件における1ヶ月単位変形労働時間制のシフト特定要件 )は、実務上の運用に大きな影響を与えます。最新の判例動向を把握し、自社の規定が法的に問題ないか定期的に見直す必要があります。  
      • 労働条件の不利益変更への配慮:既存の労働条件を従業員にとって不利益に変更する場合には、原則として個別の同意を得るか、就業規則の変更が合理的であると認められる必要があります。変形労働時間制の導入が、実質的に労働時間の延長や賃金の不利益に繋がらないよう慎重な検討が求められます。

      これらの法的チェックポイントは専門的な知識を要するため、誤った解釈や対応は大きな労務リスクに繋がりかねません。

      労働基準監督署への届出・調査対応のポイント

      特定の労働時間制度を導入・運用する際には、労働基準監督署への届出が義務付けられています。

      • 届出が必要なケースと書類
        • フレックスタイム制:清算期間が1ヶ月を超える場合、労使協定の届出(様式第3号の3+協定写し)が必要です 。  
        • 1年単位の変形労働時間制:労使協定の届出(様式第4号+協定写し+年間カレンダー等)が必須です 。  
        • 1週間単位の非定型的変形労働時間制:労使協定の届出が必須です 。  
        • 就業規則の変更:常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則(変更)届と労働者代表の意見書が必要です 。  
      • 届出のタイミングと有効期間:届出は、制度の運用開始前に行う必要があり 、労使協定には有効期間があるため、更新の都度、再届出が必要です 。  
      • 労働基準監督署の調査(臨検監督)への対応
        • 調査の際には、就業規則、労使協定、賃金台帳、タイムカード等の勤怠記録など、労働時間管理に関する書類の提出を求められます。日頃からこれらの書類を適切に整備・保管しておくことが重要です。
        • 調査官からの質問には誠実かつ正確に回答し、指摘事項があった場合には速やかに是正措置を講じる必要があります。是正勧告を受けた場合、その対応を怠ると企業名が公表されたり、悪質な場合は送検されたりする可能性もあります 。  

      労働基準監督署への届出は、単なる事務手続きではなく、法令遵守の意思を示す重要な行為です。また、調査は企業の労務管理体制が問われる機会であり、日頃からの適切な対応が求められます。

      トラブル未然防止と発生時の対応策

      柔軟な労働時間制度の導入・運用においては、従業員との間で認識の齟齬や不満が生じ、トラブルに発展する可能性があります。

      トラブル未然防止策

      • 丁寧な説明と合意形成:制度導入の目的、内容、メリット・デメリット、労働条件の変更点などを従業員に十分に説明し、質疑応答の機会を設けるなどして、理解と納得を得ることが最も重要です 。  
      • 明確なルール設定と周知徹底:就業規則や労使協定で運用ルールを明確に定め、全従業員に周知徹底します。特に、残業時間の考え方、賃金計算方法、休憩時間の取得ルールなどは誤解が生じやすいため、具体的に示す必要があります。
      • 相談窓口の設置:従業員が制度に関する疑問や不安を気軽に相談できる窓口を設けることで、不満が大きくなる前に対処できます 。  
      • 公平性の確保:特定の従業員に負担が偏らないようなシフト作成や業務配分を心がけ、不公平感が生じないように配慮します 。  
      • 定期的な運用状況の確認と見直し:制度導入後も、従業員の意見を聞きながら運用状況を定期的に確認し、必要に応じてルールを見直す柔軟性が求められます 。  

      トラブル発生時の対応策

      • 事実確認と当事者からのヒアリング:まずは客観的な事実関係を正確に把握し、関係する従業員から丁寧に事情を聴取します。
      • 誠実な対話と解決策の模索:会社として誠実に対応し、従業員の意見に耳を傾け、双方にとって納得のいく解決策を模索します。
      • 専門家(社労士・弁護士)への相談:労使間の話し合いで解決が難しい場合や、法的な判断が必要な場合は、速やかに社労士や弁護士といった専門家に相談し、適切なアドバイスや対応を依頼することが賢明です 。労働基準監督署のあっせん制度などを利用することも選択肢の一つです 。  

      【2024-2025年】労働時間制度に関する法改正・最新動向と企業が取るべき対策

      労働時間制度を取り巻く法環境は、働き方改革の進展とともに常に変化しています。企業はこれらの最新動向を的確に捉え、適切な対応を行っていく必要があります。

      働き方改革関連法の進捗と今後の見通し

      2019年4月から順次施行されている働き方改革関連法は、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、公正な待遇の確保を三本柱としています 。これまでに、時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇取得義務化、フレックスタイム制の清算期間延長、高度プロフェッショナル制度の創設、同一労働同一賃金の原則などが導入・強化されてきました 。  

      今後も、この働き方改革の流れは継続し、より一層、労働者一人ひとりの事情に応じた柔軟な働き方の実現や、生産性向上に向けた取り組みが求められると予想されます。企業は、法改正の動向を注視しつつ、自社の労働環境を継続的に見直し、改善していく必要があります。

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      2024年問題(建設・運輸・医療)と労働時間管理の重要性

      2024年4月からは、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた建設業、自動車運転の業務(運輸業)、医業に従事する医師などに対しても、新たな上限規制が適用開始となりました 。これにより、これらの業種においても、より厳格な労働時間管理と、長時間労働を前提としない業務運営への転換が急務となっています。  

      これらの業種では、業務の特性上、長時間労働が常態化しやすいという課題がありましたが、上限規制の適用により、36協定の範囲内であっても、原則として月45時間・年360時間、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)といった上限を遵守しなければなりません 。  

      この「2024年問題」への対応は、単に労働時間を短縮するだけでなく、業務プロセスの見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による生産性向上、そして適切な労働時間制度(変形労働時間制やフレックスタイム制など)の導入・活用が鍵となります。企業は、上限を超えないようにするだけでなく、積極的に残業を減らすための具体的な取り組みを進める必要があります 。  

      育児・介護休業法改正と柔軟な働き方の推進

      育児・介護と仕事の両立支援は、働き方改革の重要なテーマの一つです。育児・介護休業法は近年、段階的に改正が進められており、2025年4月および10月にも改正法が施行される見込みです 。  

      これらの改正では、子の看護休暇の見直しや、3歳以上小学校就学前の子どもを養育する労働者を対象とした「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化などが盛り込まれています 。具体的には、事業主がテレワーク、短時間勤務、フレックスタイム制、始業時刻変更措置などの選択肢を設け、労働者に対して個別に周知し、その意向を確認することが求められます。  

      企業は、これらの法改正に対応するため、就業規則や社内制度の整備を早期に進める必要があります。フレックスタイム制や変形労働時間制といった柔軟な労働時間制度は、育児や介護を担う従業員が働き続けやすい環境を提供する上で、ますますその重要性を増していくでしょう。

      企業が今から準備すべきこと

      これらの法改正や社会動向を踏まえ、企業が今から準備すべきことは多岐にわたります。

      • 自社の労働時間の実態把握と課題の明確化:まずは、自社の従業員の労働時間、残業時間、有給休暇の取得状況などを正確に把握し、どこに課題があるのかを明確にします。
      • 労働時間管理体制の強化:客観的な労働時間の把握が義務化されています 。勤怠管理システムを導入・活用し、正確な労働時間管理を行う体制を構築します。  
      • 就業規則・労使協定の見直しと整備:最新の法改正に対応した内容になっているか、自社の実情に合った柔軟な労働時間制度(フレックスタイム制、変形労働時間制など)が導入・運用されているかを確認し、必要に応じて見直しを行います。
      • 業務プロセスの見直しと生産性向上策の実施:長時間労働を是正し、限られた時間で成果を出すためには、業務プロセスの見直し、DXの推進、従業員のスキルアップなど、生産性向上に向けた具体的な取り組みが不可欠です 。  
      • 多様な人材が活躍できる環境整備:育児や介護を担う従業員だけでなく、様々な事情を抱える従業員が能力を発揮できるよう、テレワーク、時短勤務、フレックスタイム制など、多様な働き方の選択肢を整備し、利用しやすい風土を醸成します。
      • 従業員とのコミュニケーション強化:制度変更や新たな取り組みについては、従業員に対して丁寧な説明を行い、理解と協力を得ることが重要です。定期的な意見交換の場を設けることも有効です。
      • 専門家(社労士)との連携:法改正への対応や複雑な制度設計・運用については、専門家である社労士に相談し、適切なアドバイスやサポートを受けることを検討しましょう。

      これらの準備を計画的に進めることが、法改正へのスムーズな対応と、持続可能な企業経営の実現に繋がります。

      フレックスタイム制、変形労働時間制に関するよくある質問(Q&A)

      制度導入時や運用中に従業員から寄せられる可能性のある質問を想定し、事前にQ&A集を作成・共有しておくことも、誤解を防ぎ、円滑なコミュニケーションを促進する上で有効です 。  

      Q1: フレックスタイム制で、コアタイムに遅刻したらどうなりますか?

      A1: コアタイムは必ず勤務すべき時間帯ですので、遅刻や早退は原則として認められません。ただし、賃金控除については、清算期間全体の総労働時間との関係で判断されます。就業規則や労使協定で別途ペナルティを定めている場合はそれに従いますが、その内容が法的に妥当であるか確認が必要です 。  

      Q2: 変形労働時間制で、事前に知らされていたシフトが急に変更されることはありますか?

      A2: 原則として、一度特定された労働日や労働時間は使用者が任意に変更できません。やむを得ない理由で変更する場合でも、就業規則等にその手続きが定められ、かつ労働者の不利益にならないような配慮が必要です 。  

      Q3: フレックスタイム制の清算期間の途中で退職した場合、給与や残業代はどうなりますか?

      A3: 退職日までの実労働時間と、その期間に対応する法定労働時間の総枠を比較し、超過分があれば割増賃金の支払いが必要です。不足している場合は、賃金控除の対象となることがあります 。  

      Q4: 1年単位の変形労働時間制で、年次有給休暇を取得した日の労働時間はどう扱われますか?

      A4: その日に予定されていた所定労働時間分労働したものとして扱われます。

      まとめ~戦略的人事労務で持続的成長を~

      本記事では、企業の成長と従業員の働きがい向上に不可欠な「フレックスタイム制」と「変形労働時間制」について、その概要、導入手順、メリット・デメリット、法的留意点、そして最新動向に至るまで、網羅的に解説してまいりました。

      現代の企業経営において、少子高齢化による労働力人口の減少、働き方に対する価値観の多様化、そして絶え間ない法改正への対応は、避けて通れない喫緊の課題です。このような状況下で、企業が持続的に成長を遂げるためには、従業員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できるような、柔軟かつ生産性の高い働き方を実現することが不可欠です。

      フレックスタイム制は、従業員の自主性とワークライフバランスを重視し、創造性や生産性の向上を促す可能性を秘めています。一方、変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせた効率的な労働時間配分を可能にし、残業時間の削減やコスト管理に貢献します。どちらの制度も、その特性を正しく理解し、自社の業種、業務内容、企業文化、そして従業員のニーズに合わせて適切に設計・運用することで、大きな効果を発揮します。

      しかしながら、これらの制度導入は、単に就業規則や労使協定を変更するだけでは成功しません。導入目的の明確化、周到な準備、従業員への丁寧な説明と合意形成、そして導入後の継続的な運用改善とフォローアップが伴わなければ、かえって混乱を招き、意図した成果を得られないばかりか、新たな労務リスクを生み出すことにもなりかねません。

      特に、勤怠管理の複雑化、コミュニケーションの課題、残業代計算の正確性確保といった運用上のハードルは、多くの企業が直面する共通の課題です。これらの課題を克服し、制度を円滑に運用するためには、適切な勤怠管理システムの導入や、社内コミュニケーションルールの整備といった具体的な対策が不可欠です。

      本記事が、貴社における柔軟な労働時間制度の導入検討、そして戦略的な人事労務管理の推進の一助となれば幸いです。

      社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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      監修者(社労士)

      社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
      労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
      現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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