【社労士が解説!】中小企業が知るべき社員トラブルの対応方法と予防策

企業経営において、社員トラブルは避けて通れない課題の一つです。しかし、その対応を誤ると、経営資源の浪費、他の社員への悪影響、さらには法的リスクへと発展しかねません 。特に中小企業にとっては、一つ一つのトラブルが経営の根幹を揺るがす可能性も否定できません。社員が問題行動を起こした場合、その影響は単に業務の遅延に留まらず、職場全体の士気低下や生産性の悪化、最悪の場合には訴訟問題に発展することもあります 。  

本記事では、労務の専門家である社会保険労務士(社労士)が、社員トラブルの具体的な対応方法から、トラブルを未然に防ぐための就業規則の重要性、そして専門家である社労士を活用するメリットに至るまで、中小企業の経営者や人事労務担当者が知っておくべきポイントを網羅的に解説します。

この記事を読むことで、社員トラブル発生時の具体的な対応手順を理解し、法的リスクを回避しながら、健全な職場環境を構築するための実践的な知識を得ることができます。社員トラブルは、初期対応と予防策が何よりも重要です。本記事が、貴社の安定的な成長と発展の一助となれば幸いです。

目次

社員トラブルが企業に与える深刻な影響

社員トラブルを軽視し、対応を放置することは、企業にとって多岐にわたる深刻な影響を引き起こす可能性があります。その影響は、単に問題を起こした社員個人に留まらず、職場環境全体、企業の業績、さらには法的な問題にまで波及することが少なくありません。

まず、職場環境の悪化と社員のモチベーション低下が挙げられます。問題社員の言動や行動が放置されると、他の真面目に働く社員にとっては大きなストレスとなり、不公平感や不信感を生み出します 。このような状況は、社員間のコミュニケーション不和を招き、チームワークを阻害し、結果として組織全体の生産性を著しく低下させることにつながります。特に中小企業では、一人の問題社員の存在が職場全体の雰囲気を悪化させ、優秀な人材の離職を引き起こす要因ともなり得ます 。  

次に、企業の業績悪化と信用の失墜です。社内のトラブルは、顧客対応の質の低下や、取引先との関係悪化に繋がる可能性があります。例えば、問題社員が顧客に対して不適切な対応を取った場合、企業の信用は大きく損なわれ、最悪の場合、取引停止といった事態も考えられます。また、社員の離職率の高さや社内の雰囲気の悪さが外部に伝われば、企業イメージの低下を招き、新たな人材採用も困難になるでしょう 。  

さらに深刻なのは、法的リスクとそれに伴う金銭的損失です。不適切な対応、例えば不当解雇や未払い残業代の放置、ハラスメントへの対応の遅れなどは、労働審判や訴訟といった法的紛争に発展するリスクを格段に高めます 。実際に、成績不良を理由に従業員を解雇したところ訴訟を起こされたり、パートタイマーから退職金を請求されたりするケースも存在します 。また、労働基準監督署による調査が入り、是正勧告を受けることもあり、これに従わない場合は罰則が科されることもあります。これらの法的手続きには、弁護士費用や解決金、場合によっては賠償金といった直接的な金銭的負担に加え、対応に要する時間や労力といった間接的なコストも発生します。  

中小企業にとって、これらの影響は特に深刻です。限られた経営資源の中で、社員トラブルによって生じる無形の損害(社員のモチベーション低下、企業イメージの悪化)と有形の損害(訴訟費用、生産性低下による利益減少)は、事業の継続そのものを脅かすことにもなりかねません。社員トラブルを単なる個人的な問題と捉えず、企業全体のリスクマネジメントの一環として、早期かつ適切に対応することの重要性を認識する必要があります。

社員トラブルの種類と初期対応の重要性

社員トラブルと一口に言っても、その内容は多岐にわたります。それぞれのトラブルの特性を理解し、特に初期対応を適切に行うことが、問題の拡大を防ぎ、早期解決に繋げるための鍵となります。

よくある社員トラブルの類型

企業で発生しやすい社員トラブルには、以下のようなものがあります。

  • 勤務態度・能力不足に関するトラブル
    欠勤や遅刻の繰り返し、正当な理由のない業務命令違反、期待される業務遂行能力の不足などが挙げられます。これらは他の社員の業務負担増加や職場規律の乱れに繋がることがあります 。  
  • ハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラなど)
    職場におけるいじめや嫌がらせは、被害者の心身の健康を害するだけでなく、職場環境を著しく悪化させます。パワーハラスメント防止措置は現在、企業の義務となっています 。  
  • メンタルヘルス不調と休職・復職トラブル
    長時間労働や職場のストレスが原因でメンタルヘルス不調に陥る社員への対応、休職中のケア、復職支援の進め方に関するトラブルは増加傾向にあります 。  
  • 解雇・退職に関するトラブル
    解雇の有効性を巡る争い(不当解雇)、退職勧奨の進め方、退職届と退職願の法的な違いの誤解から生じるトラブルなどがあります。解雇には厳格な法的要件があり、安易な対応は大きなリスクを伴います 。  
  • 残業代未払いなどの賃金トラブル
    固定残業代制度の不適切な運用や、労働時間の不正確な把握による残業代の未払いは、労働基準監督署の調査対象
    となりやすく、遡っての支払いを命じられるケースも少なくありません 。  
  • 情報漏洩・SNSトラブル・副業関連トラブル: 社員による機密情報の漏洩、SNSへの不適切な投稿による企業イメージの毀損、無許可の副業が本業に支障をきたすケースなど、新たな形のトラブルも増えています 。  
  • 労働組合とのトラブル
    団体交渉の申し入れや不当労働行為の主張など、労働組合との間で発生するトラブルも、対応を誤ると長期化する可能性があります 。  

初期対応の誤りが招くリスク

社員トラブルが発生した際の初期対応は、その後の展開を大きく左右します。初期対応を誤ると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 問題の長期化・深刻化
    初動が遅れたり、不適切な対応を取ったりすると、当事者間の感情的な対立が深まり、問題がより複雑化・深刻化する恐れがあります。
  • 証拠収集の困難化
    時間が経過するほど、客観的な証拠(メール、記録、関係者の記憶など)の収集が難しくなり、事実関係の正確な把握が困難になります。
  • 法的対応の選択肢の限定
    初期対応の不備により、企業側が法的に不利な立場に置かれ、取り得る対応策が限られてしまうことがあります。
  • 他の社員への悪影響
    トラブル対応が不透明であったり、不公平であると他の社員が感じた場合、職場全体の士気低下や不信感の増大に繋がります 。  

特にハラスメント事案などでは、厚生労働省の指針でも迅速かつ適切な対応が求められており 、顧客からのハラスメント(カスタマーハラスメント)においても、初期対応の巧拙が被害の大きさを左右するとされています 。  

トラブル発生時の初動ステップ

社員トラブルが発生した場合、以下のステップで冷静かつ迅速に対応することが重要です。

STEP
事実確認の徹底

まず、何が起こったのか、客観的な事実を正確に把握することが最も重要です。当事者双方からだけでなく、必要に応じて目撃者など第三者からも事情を聴取します。その際、先入観を持たず、中立的な立場で話を聞くことが求められます 。メールやチャットの履歴、監視カメラの映像、関連書類など、客観的な証拠の収集も並行して行います 。  

STEP
当事者の言い分を公平に聴取する

一方の言い分だけを鵜呑みにせず、必ず双方に弁明の機会を与え、それぞれの主張を公平に聞きます。聴取の際は、高圧的な態度を避け、相手が話しやすい環境を作るよう努めます 。  

STEP
記録の重要性

いつ、どこで、誰が、何をしたのか、どのような経緯でトラブルに至ったのか、そして会社としてどのような対応を取ったのか、時系列で詳細に記録します。これらの記録は、後の紛争解決や法的措置の際に重要な証拠となります 。  

STEP
社労士など専門家への早期相談

事案が複雑であったり、法的な判断が求められる場合は、初期段階で社労士などの専門家に相談することを検討しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、適切な対応方針を立て、リスクを最小限に抑えることができます

初期対応の段階で、当事者の感情に配慮しつつも、毅然とした態度で事実確認を進めることが、問題の早期解決と拡大防止に不可欠です。

社員トラブル予防の鍵!就業規則の戦略的作成と見直し

社員トラブルを未然に防ぎ、万が一発生した場合にも適切に対応するための最も重要な基盤となるのが「就業規則」です。就業規則は、単に法律で定められた義務を果たすためだけでなく、企業の秩序を維持し、社員が安心して働ける環境を作るための「社内のルールブック」としての戦略的な役割を担います。

なぜ就業規則が重要なのか?

就業規則の重要性は多岐にわたります。

  • 社内の明確なルールブックとしての役割
    労働時間、休日、賃金、服務規律、懲戒処分など、働く上での基本的なルールを明文化することで、社員の行動規範を明確にし、社内の秩序を維持します 。これにより、何をすべきか、何をしてはいけないかが全社員に共有され、認識の齟齬によるトラブルを減らすことができます。  
  • 労使双方が安心して働ける環境の基盤
    公平で透明性のあるルールが整備されていることは、社員にとっては安心して働ける環境であり、会社にとっては安定した労務管理の基盤となります 。これにより、社員のエンゲージメント向上も期待できます。  
  • トラブル発生時の解決の根拠
    万が一、社員トラブルが発生した場合、就業規則は会社がどのような対応を取るかの正当な根拠となります 。特に懲戒処分や解雇といった重大な判断を下す際には、就業規則の規定が法的な判断基準の一つとなります。  
  • 助成金申請の要件となる場合
    キャリアアップ助成金など、一部の助成金では、就業規則の整備や特定の規定の導入が申請要件となっている場合があります 。  

中小企業においては、経営資源が限られているからこそ、就業規則を整備し活用することで、無用なトラブルを避け、安定した経営を目指すことが極めて重要です。

就業規則作成・変更の基本プロセス

就業規則の作成および変更は、法的に定められた手続きに則って行う必要があります。

STEP
原案作成

まず、会社の規模、業種、実態に合わせて就業規則の原案を作成します。労働基準法で定められた絶対的必要記載事項(労働時間、賃金、退職に関する事項)や相対的必要記載事項(退職手当、賞与、安全衛生など、制度を設ける場合に記載が必要な事項)を網羅し、企業独自のルールも盛り込みます 。

STEP
従業員代表の意見聴取

作成した就業規則(または変更案)について、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者から意見を聴取し、意見書を作成してもらう必要があります 。この意見聴取は、就業規則の内容を決定する上で重要なプロセスです。  

STEP
労働基準監督署への届出

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成または変更した就業規則を、意見書を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります 。この届出を怠ると罰則の対象となる可能性があります 。

STEP
社員への周知

作成・変更した就業規則は、事業場内の見やすい場所への掲示・備え付け、書面での交付、社内イントラネットへの掲載など、適切な方法で全社員に周知しなければなりません 。周知されていない就業規則は、法的な効力が認められない可能性があるため、非常に重要な手続きです 。  

【項目別】就業規則に盛り込むべきトラブル予防条項

効果的な就業規則は、法律で定められた事項を網羅するだけでなく、企業の実情に合わせてトラブルを予防するための具体的な条項を盛り込むことが重要です。

総則・適用範囲

就業規則がどの範囲の従業員(正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど)に適用されるのかを明確に定義します。雇用形態ごとに労働条件が異なる場合は、それぞれの就業規則を作成するか、本則とは別にパートタイム労働者就業規則などを設けることを検討します 。中小企業では多様な雇用形態が混在することが多く、適用範囲の曖昧さがトラブルの原因となるケースが散見されます。例えば、正社員向けの退職金規定が、意図せずパートタイマーにも適用されると解釈されるリスクなどがあります 。

  • 記載例:「本規則は、第○条に定める手続きにより採用された従業員に適用する。ただし、パートタイマー、契約社員等の非正規従業員については、別途定める就業規則を適用し、当該規則に定めのない事項については本規則を準用する。」

服務規律

従業員が遵守すべき職場のルールを具体的に定めます。職務専念義務、ハラスメント(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント等)の禁止、会社の機密情報や個人情報の保持、SNSの私的利用に関する注意点、副業・兼業に関するルールなどが含まれます 。特にSNS利用や副業については、近年トラブルが増加しており、企業のリスク管理の観点から明確な指針を示すことが求められます。

  • 記載例(SNS利用):「従業員は、ソーシャルメディアの利用にあたり、会社の信用を毀損する情報、業務上知り得た秘密情報、顧客や他の従業員の個人情報を発信してはならない。私的な利用であっても、会社に不利益を与える可能性のある投稿は慎むこと。」  

労働時間・休憩・休日

始業・終業時刻、休憩時間、休日(法定休日と所定休日を区別)、休暇(年次有給休暇、産前産後休業、育児休業、介護休業、慶弔休暇など)について、労働基準法等の法令を遵守しつつ、具体的に定めます 。年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合は、その旨も明記が必要です。

  • 記載例(休日):「休日は次のとおりとする。1.毎週土曜日および日曜日(法定休日は日曜日とする) 2.国民の祝日 3.年末年始(12月○日~1月○日) 4.その他会社が指定する日」

賃金

賃金の構成(基本給、諸手当)、決定方法、計算方法、支払方法、支払日、昇給に関する事項を明確に定めます 。固定残業代制度を導入している場合は、その計算根拠(固定残業時間、固定残業代の金額、それを超える残業代は別途支給する旨など)を詳細に記載しないと、制度自体が無効と判断されるリスクがあります 。また、欠勤、遅刻、早退時の賃金控除のルールも明確にしておく必要があります。

  • 記載例(固定残業代):「月給には、○時間分の時間外労働に対する手当として、固定残業代○○円を含む。○時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対しては、別途割増賃金を支給する。」

退職・解雇

自己都合退職の手続き(退職願の提出時期など)、定年制度、解雇事由(普通解雇、懲戒解雇)を具体的に列挙し、解雇予告に関する手続きも明記します 。解雇事由は、客観的に合理的で社会通念上相当と認められるものでなければならず、曖昧な表現は避けるべきです。

  • 記載例(普通解雇事由の一つ):「心身の故障のため、業務の遂行に堪えられないと会社が認めたとき。」  

懲戒

懲戒処分の種類(譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)、それぞれの懲戒事由、懲戒手続き(弁明の機会の付与など)を明確に定めます 。懲戒事由は、服務規律違反や不正行為など、具体的に列挙することが重要です。中小企業では懲戒委員会の設置が現実的でない場合も多いため、手続きは実態に合わせて規定します 。

  • 記載例(懲戒の種類):「従業員が懲戒事由に該当した場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒処分を行う。1.譴責 2.減給 3.出勤停止 4.降格 5.諭旨解雇 6.懲戒解雇」

休職・復職

私傷病による休職の条件(欠勤期間、診断書の提出)、休職期間(勤続年数に応じた設定も可)、休職中の待遇(社会保険料の取り扱いなど)、復職の手続き(復職願、医師の診断書、試し出勤制度など)、復職可否の判断基準を定めます 。特にメンタルヘルス不調による休職が増加しているため、復職支援に関する規定の整備が重要です。

  • 記載例(復職):「休職期間が満了するまでに休職事由が消滅した従業員は、原則として元の職務に復帰する。ただし、元の職務への復帰が困難な場合は、他の職務に配置転換することがある。復職にあたっては、医師の診断書を提出し、会社が指定する医師の判断も踏まえて復職の可否を決定する。」  

安全衛生・職業訓練

従業員の安全と健康を確保するための措置(健康診断の実施、安全衛生教育など)や、職業能力の開発・向上のための教育訓練に関する事項を定めます 。  

秘密保持・個人情報保護

従業員が業務上知り得た会社の機密情報や顧客情報、個人情報を在職中および退職後も漏洩しない義務を定めます 。  

育児・介護休業

育児・介護休業法に基づく休業制度、子の看護休暇、介護休暇、短時間勤務制度などについて、法改正(2025年施行の改正内容を含む)に対応した規定を整備します 。  

テレワーク

テレワーク勤務を導入する場合、対象者、勤務場所、労働時間管理の方法、通信費等の費用負担、情報セキュリティに関するルールなどを定めます 。  

就業規則の不備が招くトラブル事例

就業規則の内容が不十分であったり、法的に問題があったりすると、様々な労務トラブルを引き起こす可能性があります。

賃金規定の不備による未払い残業代請求

固定残業代の規定が曖昧、残業代の計算基礎となる賃金に含めるべき手当が除外されている、などの不備があると、従業員から未払い残業代を請求されるリスクが高まります。裁判では、過去に遡って高額な支払いを命じられることもあります 。  

解雇事由の不明確さによる不当解雇訴訟

解雇事由が抽象的であったり、就業規則に定められていない理由で解雇したりすると、従業員から不当解雇として訴訟を起こされる可能性があります 。解雇が無効と判断されれば、解雇期間中の賃金支払いや復職を命じられることもあります。  

懲戒規定の不備による処分無効

懲戒事由や手続きが就業規則に明確に定められていない場合、行った懲戒処分が無効とされることがあります 。例えば、懲戒解雇という最も重い処分を下したにもかかわらず、その根拠となる規定が不十分であれば、裁判で争われた際に会社側が敗訴するリスクがあります。  

特に中小企業では、インターネット上の雛形をそのまま使用したり、長年見直しをしていなかったりすることで、法改正に対応できていない、あるいは自社の実態に合わない就業規則となっているケースが少なくありません 。このような「名ばかり就業規則」は、いざという時に会社を守る盾とならず、かえってリスクを増大させることになりかねません。  

定期的な見直しと法改正への対応

労働関連法規は頻繁に改正されるため、就業規則も定期的に見直し、最新の法令に対応させることが不可欠です 。  

近年では、働き方改革関連法をはじめ、2024年、2025年にも重要な法改正が施行または予定されています。主なものとしては、無期転換ルールへの対応、労働条件明示ルールの変更、時間外労働の上限規制(建設業・運送業・医師等への適用猶予終了)、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(中小企業への猶予措置終了)、育児・介護休業法の改正(子の看護休暇の対象拡大、柔軟な働き方の措置義務化、介護離職防止のための個別周知・意向確認義務化など)が挙げられます 。  

これらの法改正に対応するためには、就業規則の関連条項を見直し、必要に応じて追加・修正する必要があります。例えば、育児・介護休業法改正に伴い、「子の看護等休暇」の対象範囲や取得事由の拡大、「柔軟な働き方の措置」に関する規定の新設、従業員への「個別周知・意向確認」の手続きなどを盛り込む必要があります 。  

法改正への対応を怠ると、意図せず法令違反を犯してしまうリスクがあり、労働基準監督署からの是正勧告や罰則の対象となる可能性もあります。専門家である社労士に相談し、定期的な就業規則の診断や見直しを行うことが、企業防衛の観点からも極めて重要です。

【ケース別】社員トラブルへの具体的な対応方法

社員トラブルは多種多様であり、それぞれのケースに応じた適切な対応が求められます。ここでは、代表的なトラブル事例ごとに、具体的な対応方法と法的留意点を解説します。

問題社員への対応(勤務態度不良、能力不足、協調性欠如など)

勤務態度が悪い、業務遂行能力が著しく低い、あるいは他の社員との協調性に欠けるといった「問題社員」への対応は、多くの企業が頭を悩ませる問題です。対応を誤ると、他の社員のモチベーション低下や職場環境の悪化を招くだけでなく、不当な処分として法的紛争に発展するリスクもあります。

  1. 事実確認と証拠収集の徹底
    まず、問題とされる行動や言動について、客観的な事実確認が不可欠です。いつ、どこで、どのような問題行動があったのか、具体的な日時、場所、内容を記録します。可能であれば、メールのやり取り、業務日報、同僚や上司からのヒアリング内容など、証拠となるものを収集・保全します 。  
  2. 段階的な指導・注意と記録
    問題行動が確認された場合、いきなり懲戒処分を下すのではなく、まずは当該社員に対して具体的な問題点を指摘し、改善を促すための指導・注意を行います。指導・注意は、複数回にわたり、段階的に行うことが望ましいです。そして、指導・注意を行った日時、内容、社員の反応などを詳細に記録しておくことが極めて重要です(指導記録、面談記録など)。この記録は、後の懲戒処分や解雇の正当性を判断する上で重要な証拠となります。安易な口頭注意のみでは、指導の実績として認められない場合があるため注意が必要です。  
  3. 改善が見られない場合の懲戒処分
    度重なる指導・注意にもかかわらず改善が見られない場合、就業規則の懲戒規定に基づき、譴責、減給、出勤停止といった懲戒処分を検討します 。処分の重さは、問題行動の内容や程度、会社の被った損害などを考慮し、相当な範囲で決定する必要があります。懲戒処分を行う際も、本人に弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏むことが求められます。  
  4. 配置転換や教育訓練の検討
    問題行動の原因が、本人の能力や適性と現在の業務とのミスマッチにあると考えられる場合、配置転換によって他の業務への適性を試すことや、必要なスキルを習得させるための教育訓練を実施することも有効な手段です 。
     
  5. 最終手段としての退職勧奨・解雇の検討と注意点
    上記の対応を尽くしても改善が見られず、雇用契約の継続が困難であると判断される場合には、最終手段として退職勧奨や解雇を検討することになります。
    • 退職勧奨: 会社から社員に対して自主的な退職を促す行為です。あくまでも「勧奨」であり、強要にならないよう注意が必要です。執拗な退職勧奨や威圧的な言動は、退職強要として違法と判断されるリスクがあります 。退職勧奨に応じてもらうためには、退職条件(退職金の増額など)を提示することも有効です。合意に至った場合は、必ず退職届を提出してもらい、合意内容を書面(退職合意書など)で残します。  
    • 解雇: 解雇は、労働契約法第16条により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と厳しく制限されています 。解雇を行うには、就業規則に解雇事由が明記されていること、解雇事由に該当する客観的な事実があること、解雇という手段が社会通念上相当であること、そして解雇予告(または解雇予告手当の支払い)など法定の手続きを遵守することが不可欠です 。安易な解雇は、不当解雇として訴訟に発展し、企業に多大な金銭的・時間的負担を強いることになるため、極めて慎重な判断が求められます。  

問題社員への対応は、一律の正解があるわけではありません。個々の状況を正確に把握し、法的なリスクを理解した上で、段階的かつ慎重に進める必要があります。特に、懲戒処分や解雇といった重大な措置を検討する際には、事前に社労士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが賢明です。

ハラスメント(パワハラ・セクハラ)への対応

職場におけるハラスメントは、被害者の尊厳を傷つけ、心身に深刻な影響を与えるだけでなく、職場環境を悪化させ、企業の生産性や社会的信用をも低下させる重大な問題です。2022年4月からは中小企業においてもパワーハラスメント防止措置が義務化されており 、企業はハラスメントの防止と発生時の適切な対応体制を整備する責任を負っています。  

  1. 相談窓口の設置と機能
    企業は、ハラスメントに関する相談窓口を設置し、従業員に周知することが義務付けられています 。相談窓口は、人事部門の担当者や外部の専門機関などが考えられます。相談者が安心して相談できるよう、プライバシー保護に配慮し、相談したことによって不利益な扱いを受けないことを明確にする必要があります。相談窓口の担当者は、相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう、研修等を通じて知識やスキルを習得しておくことが望ましいです 。  
  2. 事実関係の迅速かつ正確な調査
    ハラスメントの相談があった場合、まずは相談者および行為者とされる者、必要に応じて第三者からも事情を聴取し、事実関係を迅速かつ正確に調査します 。調査の過程では、関係者のプライバシー保護に最大限配慮し、客観的な証拠(メール、録音、目撃証言など)の収集に努めます。  
  3. 被害者への配慮措置
    調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、被害者の心身の状況に配慮し、行為者からの隔離(配置転換など)、メンタルヘルスケアの提供、有給休暇の取得勧奨など、適切な配慮措置を速やかに講じます 。  
  4. 加害者への適切な措置
    ハラスメント行為が確認された加害者に対しては、就業規則の懲戒規定に基づき、行為の態様や程度に応じて、厳正な措置(注意指導、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇など)を行います 。処分にあたっては、加害者にも弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏むことが重要です。  
  5. 再発防止策の実施
    ハラスメントの再発を防止するため、全従業員に対するハラスメント防止研修の実施、ハラスメントに関する社内方針の再周知、職場環境の改善など、実効性のある再発防止策を講じます 。事実確認ができなかった場合でも、職場環境改善の観点から何らかの対策を検討することが望ましいです。  

ハラスメント問題は、初期対応の誤りが被害を拡大させ、企業に深刻なダメージを与える可能性があります。相談窓口の担当者の対応によっては、かえって被害が大きくなることもあるため 、専門知識を持った社労士に相談し、適切な対応体制を構築・運用することが重要です。  

メンタルヘルス不調者への対応と復職支援

従業員のメンタルヘルス不調は、現代の職場において避けて通れない課題の一つです。企業には、従業員の安全配慮義務の一環として、メンタルヘルス不調の予防、不調者への適切な対応、そして円滑な職場復帰支援が求められます。

  1. 休職制度の整備
    就業規則には、私傷病(業務外の病気やケガ)による休職に関する規定を設けることが一般的です。具体的には、休職の開始条件(例:連続〇日以上の欠勤、医師の診断書の提出)、休職期間の上限(勤続年数に応じて設定することも可能)、休職中の給与・社会保険料の取り扱い、復職の条件・手続きなどを明確に定めます 。休職期間については、企業の規模や体力を考慮し、現実的な範囲で設定することが重要です。  
  2. 休職中の連絡体制と情報提供
    休職中の従業員とは、定期的に連絡を取り、状況を把握するとともに、会社からの必要な情報提供(傷病手当金の手続き案内など)を行います 。ただし、過度な連絡はプレッシャーとなるため、頻度や方法には配慮が必要です。
     
  3. 復職判断のプロセス
    従業員から復職の申し出があった場合、企業は慎重に復職の可否を判断する必要があります。主治医の診断書だけでなく、必要に応じて会社が指定する産業医や専門医の意見も聴取します 。診断書の内容が「復職可」であっても、直ちに元の業務に完全復帰できるとは限りません。復職の可否は、最終的には会社が業務遂行能力の回復状況などを総合的に判断します。 試し出勤制度(リハビリ出勤)を導入し、段階的に業務に慣れてもらうことも有効な手段です 。  
  4. 復職後のフォローアップと再発防止: 復職後も、定期的な面談や業務量の調整、必要に応じた配置転換など、当該従業員が無理なく働き続けられるよう配慮します 。また、職場環境の改善や他の従業員への啓発などを通じて、メンタルヘルス不調の再発防止に努めます 。  

メンタルヘルス不調者への対応は、医学的な知見と法的な知識の両方が求められるデリケートな問題です。就業規則に復職に関する詳細な規定を設けるとともに 、産業医や社労士などの専門家と連携し、個々のケースに応じたきめ細やかな対応を心がけることが重要です。  

解雇・退職勧奨の進め方と法的留意点

従業員の雇用契約を終了させる解雇や退職勧奨は、従業員の生活に重大な影響を与えるため、法的に厳格なルールが定められています。これらの手続きを不適切に行うと、不当解雇として訴訟に発展し、企業が大きなダメージを受ける可能性があります。

解雇の種類と要件

解雇には、主に「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3種類があります 。

  • 普通解雇
    従業員の能力不足、勤務態度の不良、傷病による就業不能など、従業員側の事情による解雇です。労働契約法第16条により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効となります 。  
  • 整理解雇
    企業の経営不振など、使用者側の経営上の理由による人員削減のための解雇です。整理解雇の有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④手続の相当性という4つの要素(いわゆる整理解雇の四要素)を総合的に考慮して厳格に判断されます 。  
  • 懲戒解雇
    従業員が重大な規律違反(横領、重大なハラスメント、長期間の無断欠勤など)を犯した場合に、制裁として行われる最も重い解雇です。就業規則に懲戒事由と懲戒解雇に関する規定が明確に定められていることが前提となります 。普通解雇以上に、その有効性は厳しく判断されます。  
  • 解雇予告・解雇予告手当
    従業員を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません 。解雇予告手当の計算方法は、直近3ヶ月間の賃金総額をその期間の総日数で割った「平均賃金」に基づいて行われます 。就業規則には、この解雇予告に関する規定を明記する必要があります 。  
解雇の種類主な理由手続きのポイント解雇予告手当退職金
普通解雇能力不足、勤務態度不良、傷病による就業不能など客観的合理的理由、社会的相当性、解雇回避努力、指導・教育の実施原則必要就業規則・退職金規程による
整理解雇経営不振による人員削減など人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性(説明・協議)原則必要就業規則・退職金規程による(会社都合として扱われることが多い)
懲戒解雇重大な規律違反(横領、悪質なハラスメント、長期間の無断欠勤など)就業規則に明確な懲戒事由と懲戒解雇の規定、証拠に基づく事実認定、弁明の機会付与、処分の相当性労働基準監督署長の認定があれば不要な場合あり 就業規則・退職金規程により不支給または減額されることが多い
  • 解雇理由証明書の交付
    解雇された従業員から請求があった場合、会社は遅滞なく解雇理由を記載した証明書を交付する義務があります 。
     
  • 退職勧奨の進め方
    退職勧奨は、会社が従業員に自主的な退職を促す行為です。あくまで従業員の自由な意思に基づく退職を目指すものであり、執拗な勧奨や威圧的な言動は「退職強要」として違法となる可能性があります 。退職勧奨を行う際は、その方法や回数、時間などに注意し、従業員がプレッシャーを感じないよう配慮する必要があります。合意に至った場合は、退職届を提出してもらい、退職条件などを記載した合意書を取り交わすことが望ましいです。  
  • 退職届と退職願の法的違い
    「退職届」は、労働者が一方的に労働契約の解約を通知するもので、原則として会社が受理した時点で効力が発生し、撤回は困難です。「退職願」は、労働者が会社に合意退職を申し入れるもので、会社の承諾があるまでは労働契約は終了せず、撤回が可能です 。会社としては、従業員の意思を正確に把握し、適切な書面を受理することが重要です。  

解雇や退職勧奨は、法的なリスクが非常に高い分野です。特に中小企業では、専門知識を持つ担当者がいない場合も多く、対応を誤ると深刻な紛争に発展しかねません。これらの措置を検討する際には、必ず事前に社労士などの専門家に相談し、法的に問題のない適切な進め方について助言を受けるべきです。

従業員間のトラブル(人間関係の対立など)への対応

職場における従業員同士の人間関係の対立やいざこざは、放置すると職場全体の雰囲気を悪化させ、生産性の低下や他の従業員の離職にも繋がりかねません。企業としては、早期に状況を把握し、適切な介入を行うことが求められます。

STEP
中立的な立場での事情聴取と事実確認

トラブルが発生した場合、まずは当事者双方から、個別に事情を聴取します。その際、どちらか一方の肩を持つことなく、中立的な立場で客観的な事実確認に努めることが重要です 。感情的な対立に発展している場合は、冷静に話を聞き、それぞれの言い分を正確に把握します。

STEP
当事者双方への個別対応と解決策の模索

事実関係が明らかになったら、当事者それぞれに対して個別に面談を行い、問題解決に向けた話し合いを促します。会社が一方的に解決策を押し付けるのではなく、当事者自身が納得できる形での解決を目指すことが望ましいです。必要に応じて、社労士などの第三者が仲介役として間に入り、円滑なコミュニケーションを支援することも有効です 。

STEP
必要に応じた配置転換などの環境調整

当事者間の関係修復が困難な場合や、同じ職場で働き続けることが双方にとって大きなストレスとなる場合は、配置転換や業務分担の見直しといった環境調整を検討します 。ただし、配置転換は本人の意向も考慮し、不利益な取り扱いとならないよう注意が必要です。

STEP
職場環境改善とコミュニケーション活性化策

特定のトラブル解決だけでなく、職場全体のコミュニケーション不和を解消し、より良い人間関係を構築するための取り組みも重要です。定期的なミーティングの実施、社内イベントの開催、コミュニケーションツールの導入、1on1ミーティングの推奨など、風通しの良い職場環境を作るための施策を検討・実施します 。  

従業員間のトラブルは、初期の段階で適切に対応することで、深刻化を防ぐことができます。会社としては、相談しやすい窓口を設けるなど、従業員が問題を抱え込まずに済むような体制づくりも重要です。

社員トラブル対応における社労士活用のメリットと選び方

社員トラブルの予防や解決において、労働法規や人事労務管理の専門家である社会保険労務士(社労士)の活用は、特に専門部署を持たないことが多い中小企業にとって非常に有効な手段となります。

社労士に相談できることとは?

社労士は、労働社会保険諸法令に基づく専門家として、企業の人事労務管理全般にわたる幅広いサポートを提供します。具体的には以下のような業務について相談・依頼が可能です 。  

  • 労働法関連のアドバイス
    労働基準法、労働契約法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法など、複雑な労働関連法規の解釈や運用に関する専門的なアドバイス。
  • 社会保険・労働保険の手続き代行
    従業員の入退社に伴う資格取得・喪失手続き、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届など、煩雑な事務手続きの代行。
  • 就業規則等の作成・変更
    法令を遵守し、かつ企業の実情に合った就業規則、賃金規程、育児・介護休業規程などの作成や見直し、労働基準監督署への届出。
  • 給与計算業務
    毎月の給与計算、賞与計算、年末調整など。
  • 助成金の申請代行
    雇用関連の各種助成金の情報提供、申請書類の作成、申請手続きの代行。
  • 労使紛争の予防・解決支援
    個別労働関係紛争のあっせん代理(特定社労士のみ)、団体交渉への対応助言など、労使トラブルの未然防止策の提案や、発生時の解決に向けたサポート。
  • 人事制度・労務管理コンサルティング
    募集・採用、人事評価制度の構築、労働時間管理、メンタルヘルス対策、ハラスメント対策など、企業の「人」に関する課題解決のためのコンサルティング。

なぜ中小企業にこそ社労士が必要なのか?

中小企業は、大企業に比べて人事労務に関する専門知識を持つ人材や部門が不足しているケースが多く、法改正への対応遅れや労務トラブル発生時のリスクが高くなりがちです。このような状況において、社労士の活用は以下のような点で特に重要となります。

法改正への迅速な対応と専門知識の不足をカバー

労働関連法規は頻繁に改正されます。社労士は最新の法改正情報を把握しており、企業が適切に対応できるようサポートします 。これにより、知らないうちに法令違反を犯してしまうリスクを回避できます。  

人事労務担当者の業務負担軽減とコア業務への集中

中小企業では、経営者や少数の担当者が人事労務業務を兼任していることが多く、本来のコア業務に支障をきたすことがあります 。社労士に専門的な業務を委託することで、担当者の負担を軽減し、企業が本来注力すべき業務に集中できる環境を整えることができます。  

結果的なコスト削減

問題社員への対応の遅れや不適切な解雇などが原因で訴訟に発展した場合、多額の解決金や弁護士費用が発生する可能性があります 。社労士に相談し、就業規則の整備や適切な労務管理を行うことで、こうしたトラブルを未然に防ぎ、結果的に大きなコスト削減に繋がることが期待できます 。また、労務担当者を新たに雇用・育成するコストと比較しても、社労士との顧問契約の方が費用を抑えられる場合もあります 。  

人材不足や賃上げといった課題に直面する中小企業にとって 、適切な労務管理と良好な労使関係の構築は、人材の確保・定着、ひいては企業の持続的な成長に不可欠です。社労士は、そのための強力なパートナーとなり得ます。  

失敗しない社労士の選び方:中小企業経営者向けチェックポイント

適切な社労士を選ぶことは、トラブル解決や労務管理体制の改善において非常に重要です。以下の点をチェックポイントとして参考にしてください。

専門分野と実績の確認

社労士にも得意分野があります。自社の業種(例:飲食業、運送業など特有の労務管理が必要な業種 )や、抱えている課題(例:就業規則作成、ハラスメント対応、助成金申請など)に関する実績が豊富か確認しましょう 。  

料金体系の明確さとコストパフォーマンス

顧問料やスポット料金の体系が明確で、提供されるサービス内容に対して納得感のある費用設定かを確認します 。単に料金が安いという理由だけで選ぶと、期待したサポートが得られない可能性もあるため注意が必要です 。  

コミュニケーションの取りやすさ、レスポンスの速さ

経営者や人事担当者が気軽に相談でき、質問に対して迅速かつ的確な回答が得られるかどうかも重要なポイントです 。相性の良し悪しも、長期的な関係を築く上で影響します。  

セキュリティ体制

マイナンバーをはじめとする個人情報を多く扱うため、情報セキュリティ対策がしっかりと講じられている事務所か確認することも大切です 。  

事務所の体制

個人事務所か法人組織か、スタッフの体制なども、対応の迅速さや専門性の幅広さに関わってくる場合があります 。  

顧問契約とスポット契約の違いと選び分け

社労士との契約形態には、主に「顧問契約」と「スポット契約」があります。

特徴顧問契約スポット契約
契約期間月単位・年単位など継続的特定業務の完了までなど単発的
業務範囲労務相談、手続き代行、情報提供など包括的(契約内容による)就業規則作成、助成金申請など特定の業務に限定
費用月額顧問料(従業員規模やサービス範囲で変動)業務ごとの個別見積もり(一般に顧問契約より割高になる傾向
メリット継続的なサポート、迅速な相談対応、法改正情報の定期的な入手、トータルコストの抑制可能性必要な時だけ利用可能、特定の課題に集中
デメリット相談頻度が低い場合のコスト割高感、契約範囲外業務は別途費用緊急時の対応が難しい場合がある、継続的な視点でのアドバイスは得にくい
適したケース日常的な労務相談や手続き代行が必要な企業、法改正対応やトラブル予防に力を入れたい企業、人事労務体制を強化したい企業特定の課題解決(就業規則作成、助成金申請など)が目的の企業、顧問契約を結ぶほどではない小規模企業

どちらの契約形態が良いかは、企業の規模、課題の頻度や内容、予算などを総合的に考慮して判断する必要があります。まずはスポットで相談し、相性や専門性を確認した上で顧問契約を検討するという方法も有効です。

緊急時の社員トラブル!社労士による迅速対応と解決事例

社員トラブルは、時として迅速な対応が求められる緊急事態に発展することがあります。そのような状況下で、社労士は専門家として冷静かつ的確な対応を支援し、問題の拡大を防ぎ、早期解決に導く重要な役割を果たします。

緊急相談が必要となるケースとは?

以下のようなケースでは、速やかに社労士に相談し、対応を協議することが推奨されます。

労働基準監督署の調査・是正勧

労働基準監督署から突然の調査通知が届いた、あるいは既に調査が入り是正勧告を受けた場合。法令違反の指摘に対して、どのように対応すべきか、是正報告書をどう作成すべきかなど、専門的な知識が不可欠です 。  

従業員からの突然の訴訟・労働審判の申し立て

解雇した元従業員から不当解雇で訴えられた、未払い残業代を請求する労働審判が申し立てられたなど、法的な紛争に発展した場合。迅速な対応と適切な反論準備が必要です 。  

重大なハラスメント事案の発覚

職場内で悪質なハラスメント(セクハラ、パワハラなど)が発生し、被害者から深刻な訴えがあった場合。事実確認、被害者・加害者への対応、再発防止策の策定など、慎重かつ迅速な対応が求められます 。  

従業員の逮捕や行方不明など

従業員が刑事事件で逮捕された、あるいは無断欠勤が続き行方不明になったなど、雇用契約の取り扱いや他の従業員への影響を考慮し、適切な対応が必要な場合。

これらのケースでは、初期対応の誤りが企業に大きな不利益をもたらす可能性があるため、早期に専門家である社労士の助言を仰ぐことが賢明です。

社労士による緊急対応の具体例

緊急時において、社労士は以下のような具体的なサポートを提供できます。

労働基準監督署調査への立ち会い・対応サポート

監督署の調査に同席し、事業主側の主張を適切に伝え、是正勧告に対する具体的な改善策の策定と報告書の作成を支援します 。  

あっせん・調停による紛争解決支援

労働者との間で発生した紛争(解雇、賃金未払い、ハラスメントなど)について、裁判外紛争解決手続(ADR)である「あっせん」や「調停」を通じて、円満な解決を目指すサポートを行います。特定社労士であれば、代理人としてあっせん手続きに参加することも可能です 。  

解雇トラブルにおける交渉代理(特定社労士)

不当解雇を主張する従業員との交渉において、特定社労士が代理人として法的根拠に基づいた交渉を行い、和解を目指します。

就業規則に基づく緊急時の対応助言

問題発生時に、就業規則のどの規定に基づいてどのような対応が可能か、あるいは就業規則の不備がリスクとなるかなどを具体的に助言します。

まとめ

社員トラブルは、どの企業においても起こり得る経営リスクの一つです。しかし、その影響を最小限に抑え、健全な職場環境を維持するためには、「予防」と「迅速かつ適切な対応」が不可欠です。

本記事で解説してきたように、社員トラブルの予防において最も重要な役割を果たすのが就業規則です。就業規則は、単に法律で定められた義務を果たすためのものではなく、企業の理念や方針を反映し、従業員との間の明確なルールを定めることで、無用な誤解や対立を未然に防ぐ「企業を守る盾」となり得ます。そのため、就業規則は、法的な要件を満たすことはもちろん、企業の実態に合わせてカスタマイズされ、定期的に見直されるべき経営戦略の一部と捉えることが重要です。

しかし、労働関連法規は複雑であり、頻繁な法改正への対応も求められます。2024年から2025年にかけても、無期転換ルール、育児・介護休業法、労働条件明示ルールなど、企業実務に大きな影響を与える改正が目白押しです。これらの法改正に的確に対応し、就業規則を最新の状態に保つこと、そして実際に発生してしまった複雑な社員トラブルを適切に解決するためには、専門家である社会保険労務士の活用が極めて有効です。

社労士は、法的な知識と実務経験に基づき、就業規則の作成・見直しから、ハラスメント対策、メンタルヘルス対応、解雇・退職勧奨の進め方、労働基準監督署調査への対応まで、幅広いサポートを提供します。特に中小企業においては、専門の人事労務部門を持たないケースも多く、社労士は頼れるパートナーとなり得ます。

社員トラブルは、初期対応の遅れや誤りが問題を深刻化させ、企業に多大な時間的・金銭的コストを強いることになりかねません。「まだ大丈夫だろう」「自社で何とかなる」と問題を先送りせず、些細なことであっても、早期に専門家である社労士に相談することが、問題の早期解決と企業の持続的な成長への第一歩です。多くの社労士事務所では初回相談を無料で受け付けている場合もありますので、まずは気軽に相談してみることをお勧めします。

社員一人ひとりが安心して能力を発揮できる職場環境を整備し、企業と社員が共に成長していくために、本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

目次