派遣契約とは?基本ルールから締結・管理の注意点、法改正まで社労士が解説

派遣社員の受け入れは、企業の状況に応じて柔軟な人材活用を可能にする一方で、複雑な法的ルールへの対応が求められます。特に中小企業においては、その柔軟性に魅力を感じて派遣社員を活用し始めるものの、労働者派遣法の詳細な規定や頻繁な改正について十分に把握しきれていないケースも少なくありません。

本記事では、人事労務の専門家である社労士が、これらの複雑なルールをわかりやすく解説し、貴社の適正な派遣活用をサポートします。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)が、経営者や人事担当者が押さえておくべき派遣契約の基本から実務上の注意点、最新の法改正情報まで網羅的に解説し、適切な派遣活用を通じて法的リスクを軽減し、企業成長に繋げるための知識を提供します。

目次

派遣契約の基本

労働者派遣を有効に活用するためには、まずその基本的な仕組みと法的枠組みを正確に理解することが不可欠です。

派遣契約とは?労働者派遣の仕組みを分かりやすく

労働者派遣の仕組みは、直接雇用とは異なる独特の形態をとっており、関係する当事者の役割と契約関係を把握することが第一歩となります。

労働者派遣の定義と3つの当事者

労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」を指します 。重要なのは、派遣先企業が派遣労働者を直接雇用することを約束して行うものではないという点です 。  

この仕組みには、主に以下の3つの当事者が関わります。

  • 派遣元事業主(派遣会社): 派遣労働者を雇用し、派遣先企業との間で締結する労働者派遣契約に基づき、労働者を派遣します。派遣労働者への給与支払いも派遣元が行います 。  
  • 派遣労働者: 派遣会社に雇用されながら、派遣先企業の事業所で、派遣先企業の指揮命令を受けて業務に従事します 。  
  • 派遣先(派遣先企業): 派遣会社から労働者の派遣を受け入れ、自社の業務について派遣労働者に具体的な指示を出し、その業務遂行を管理します 。  

    この関係性は、派遣会社と派遣先企業間の「労働者派遣契約」と、派遣会社と派遣労働者間の「労働契約(雇用契約)」という2つの異なる契約によって成り立っています 。派遣労働者は派遣会社と雇用契約を結びつつ、実際の業務は派遣先の指示で行うという、この「三角関係」が労働者派遣の最も基本的な構造です。この構造は、柔軟な人材活用を可能にする一方で、指揮命令関係や責任の所在が曖昧になりやすく、法的な問題が生じる要因ともなり得ます。例えば、派遣先企業が派遣労働者を自社の従業員と同様に扱い、契約範囲外の業務を指示したり、派遣元が介入すべき契約内容にまで直接指示を出したりするケースが見られますが、これらは不適切な対応です。  

    直接雇用との違いは?メリット・デメリット比較

    企業が人材を確保する手段として、直接雇用と労働者派遣はそれぞれ異なる特徴を持っています。どちらを選択するかは、企業の経営戦略や人事戦略に大きく関わる重要な判断です。短期的なコストや人員調整の容易さだけでなく、長期的な視点での企業文化の醸成、技術・ノウハウの蓄積、従業員の定着といった要素も考慮に入れる必要があります。

    直接雇用とは、企業が労働者と直接雇用契約を結ぶ形態です 。 メリットとしては、長期的な視点での人材育成が可能であり、従業員の企業への帰属意識や忠誠心が高まりやすい点、企業文化が浸透しやすい点などが挙げられます 。 一方、デメリットとしては、人件費が固定費化しやすいこと、採用や教育にかかるコストや時間、解雇規制による雇用の柔軟性の低さ、労務管理の負担などが挙げられます 。  

    労働者派遣は、派遣会社と雇用契約を結んだ労働者が派遣先企業で働く形態です。 メリットとしては、必要な時に必要なスキルを持つ人材を迅速に確保できる柔軟性、採用にかかる手間やコストの削減、社会保険手続きなどの労務管理負担の軽減(一部)などが挙げられます 。特に専門性の高いスキルを持つ人材を特定のプロジェクト期間だけ活用したい場合などに有効です。 しかし、デメリットとしては、派遣労働者の企業への帰属意識が育ちにくいこと、指揮命令関係の制約(契約業務の範囲内)、派遣期間の制限(いわゆる3年ルール)、そして派遣料金が発生するため、長期的にはコストが割高になる可能性も考慮すべきです 。また、派遣社員に依存しすぎると、社内にノウハウが蓄積されにくいという側面もあります。  

    以下に、企業側から見た直接雇用と労働者派遣の主なメリット・デメリットをまとめます。

    スクロールできます
    項目直接雇用労働者派遣
    主なメリット
    人材育成・定着長期的育成が可能、企業文化の醸成、技術・ノウハウの蓄積専門スキルを持つ人材を即戦力として活用可能
    コスト長期的には派遣より抑制できる可能性採用コスト・一部労務管理コストの削減、必要な期間のみの活用で人件費の変動費化が可能
    柔軟性低い(解雇規制等)高い(業務量の変動に応じた人員調整が容易)
    帰属意識高まりやすい育ちにくい傾向
    主なデメリット
    コスト固定費(給与、社会保険料等)が高い、採用・教育コスト派遣料金が発生(マージン含む)、長期利用で割高になる可能性
    柔軟性業務量の変動への対応が難しい契約業務以外の指示不可、派遣期間制限あり
    法的責任全ての雇用責任を負う派遣元と分担するが、派遣先にも安全配慮義務等の責任あり
    人材管理採用から退職まで全ての労務管理が必要指揮命令、就業環境整備は派遣先の責任。ただし、雇用主は派遣元

    この比較を通じて、自社の状況や目的に最適な雇用形態を選択することが重要です。派遣社員の活用は、単なる短期的な人員補充手段としてだけでなく、戦略的な人事施策の一環として位置づけるべきでしょう。

    押さえておくべき労働者派遣法の概要

    労働者派遣事業の適正な運営と派遣労働者の保護を目的とする「労働者派遣法」は、派遣活用の根幹をなす法律です。

    労働者派遣法の目的と企業が守るべきこと

    労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です 。その主な目的は、労働力の需給調整を適切に行うことと、雇用が不安定になりがちな派遣労働者の権利を保護することにあります 。法律の考え方として、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするという点が重要です 。  

    この法律は1986年に施行され、その後、労働市場の変化や社会の要請に応じて数々の改正が重ねられてきました 。当初の「就業条件の整備」から「保護」へと法律の名称に含まれる文言が変わったことからも、派遣労働者の保護を強化する方向性がうかがえます 。  

    派遣先企業が遵守すべき主な事項(派遣先が講ずべき措置)には、以下のようなものがあります。

    • 労働者派遣契約の遵守(契約外業務の指示禁止など)  
    • 派遣先責任者の選任
    • 派遣先管理台帳の作成・保管  
    • 安全衛生管理措置の実施
    • 派遣労働者からの苦情の適切な処理  
    • 派遣元事業主との連携による適切な雇用管理
    • 派遣期間制限の遵守
    • 「同一労働同一賃金」実現のための情報提供義務

    これらの義務は、派遣労働者が適正な環境で就業できるよう、派遣先企業に課せられたものです 。法律は、派遣元と派遣先の双方にそれぞれ講ずべき措置を定めており、両者が連携してこれを遵守することが求められます。企業は、これらの法的義務を単に罰則回避のためと捉えるのではなく、派遣労働者に対する社会的責任を果たすという観点から取り組むことが、結果として派遣会社や派遣労働者との良好な関係構築にも繋がります。  

    最近の主な法改正のポイント(概略)

    労働者派遣法は頻繁に改正されており、企業は常に最新情報を把握し対応する必要があります。近年の主な改正ポイントは以下の通りです。これらは後の章で詳述しますが、ここでは概略を押さえておきましょう。

    • 同一労働同一賃金の徹底:派遣労働者と、派遣先で同種の業務に従事する正社員等との間の不合理な待遇差を解消するためのルールです 。基本給や賞与だけでなく、各種手当や福利厚生も対象となります。派遣先企業には、派遣元事業主に対して比較対象となる労働者の待遇に関する情報を提供する義務が課されています 。この改正は、派遣先企業が自社の正社員の待遇情報を派遣元に開示する必要があるため、実務への影響が大きいものの一つです。  
    あわせて読みたい
    「同一労働同一賃金」完全ガイド:中小企業経営者・人事担当者が知るべき全てを解説 I. はじめに:「同一労働同一賃金」とは? なぜ今、企業対応が急務なのか A. 「同一労働同一賃金」の基本原則と目的 「同一労働同一賃金」とは、同じ労働を行っているに...
    • 雇用安定措置の強化:派遣契約期間の終了が見込まれる派遣労働者に対し、派遣元事業主が雇用継続のための措置(派遣先への直接雇用の依頼、新たな派遣先の提供など)を講じる義務が強化されました 。派遣先企業も、直接雇用の検討などで協力を求められることがあります。  
    • 派遣労働者からの苦情対応の強化:派遣労働者からの苦情に対し、派遣元事業主だけでなく、派遣先企業も誠実かつ主体的に対応することが求められるようになりました 。  
    • 派遣契約関連書面の電子化容認:労働者派遣契約書などの電子データによる作成・保存が認められました 。  

    これらの改正は、派遣労働者の保護を一層強化し、より公正な待遇を確保することを目的としています。企業は、これらの法改正が自社の派遣活用にどのような影響を与えるかを理解し、適切な対応をとる必要があります。派遣労働者を単なる一時的な労働力としてではなく、その権利やキャリア形成にも配慮すべき存在として捉える意識改革が求められています。

    派遣契約にはどんな種類がある?

    労働者派遣には、いくつかの種類があり、それぞれ特徴や活用場面が異なります。

    一般派遣(登録型派遣)の特徴と活用場面

    一般派遣(登録型派遣)とは、派遣労働者がまず派遣会社に登録し、派遣先が見つかった時点で派遣会社との間に雇用契約が結ばれる形態を指します 。派遣期間が終了すると、派遣会社との雇用契約も一旦終了することが一般的です。  

    • 特徴:労働者にとっては、勤務地や勤務時間、業務内容など、自分の希望に合った仕事を比較的選びやすい柔軟性があります。企業にとっては、産休・育休代替、繁忙期の増員、短期プロジェクトなど、一時的な人材ニーズに迅速に対応できる点がメリットです。
    • 活用場面
      • 社員の育児休業や病気療養などによる一時的な欠員補充
      • 季節的な業務量の増加や、特定のプロジェクト期間中の人員補強
      • 専門的なスキルを持つ人材を短期間だけ必要とする場合

    一般派遣は企業にとって柔軟性が高い反面、派遣労働者にとっては雇用が不安定になりやすい側面も持つため、労働者派遣法による期間制限や雇用安定措置といった保護規定が特に重要となります。企業はこれらのルールを遵守し、適正な活用を心がける必要があります。

    特定派遣(常用型派遣)の特徴と活用場面(※制度廃止と現行の扱い)

    かつて存在した特定労働者派遣事業(特定派遣)は、派遣会社が労働者を正社員などとして常時雇用し、その社員を顧客企業に派遣する形態でした 。これは届出制であり、許可制の一般派遣とは区別されていました。  

    しかし、2015年の労働者派遣法改正により、一般派遣と特定派遣の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業が許可制に一本化されました 。これにより、特定派遣という制度自体はなくなりましたが、「派遣会社に無期雇用されながら派遣先で働く」という働き方自体は、「無期雇用派遣」として現在も存在します。  

    • 無期雇用派遣の特徴:
      • 派遣労働者は派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結んでいます。
      • 最大のメリットは、派遣期間制限(事業所単位・個人単位のいわゆる3年ルール)の対象外となる点です 。  
    • 無期雇用派遣の活用場面:
      • 専門性の高い業務で、長期にわたり同一の派遣労働者に業務を任せたい場合
      • プロジェクトの継続性や業務の安定性が重視される場合
      • 3年ルールを気にせずに派遣を活用したい場合

    特定派遣制度の廃止は、派遣業界全体の質の向上や労働者保護の強化を目的としたものでした。特にIT業界など、旧特定派遣を多く利用していた企業にとっては、取引先の派遣会社が許可を取得できたか、あるいはSES(システムエンジニアリングサービス)契約のような別の契約形態に移行したかなど、影響がありました 。SES契約は労働者派遣とは異なり、指揮命令関係のあり方などに注意が必要で、安易な利用は偽装請負と見なされるリスクも伴います。企業は、契約形態の違いを正しく理解し、適切な人材活用を行う必要があります。  

    紹介予定派遣の仕組みとメリット

    紹介予定派遣とは、派遣期間(最長6ヶ月)終了後、派遣労働者と派遣先企業の双方が合意すれば、派遣労働者が派遣先の正社員や契約社員などとして直接雇用されることを前提とした派遣の形態です 。  

    • 仕組み:
      • 派遣期間は、いわば「お試し期間」や「相互評価期間」としての意味合いを持ちます。
      • 通常の労働者派遣では禁止されている、派遣開始前の派遣先企業による面接や履歴書の確認が、紹介予定派遣の場合は例外的に認められています 。これは、将来的な直接雇用を前提としているためです。  
    • 派遣先企業のメリット:
      • 実際に業務を遂行する能力や職場への適性、人柄などを派遣期間中に見極めた上で採用を決定できるため、採用後のミスマッチを大幅に減らすことができます 。  
      • 書類選考や短時間の面接だけでは判断しにくい実務能力や協調性を確認できます。
    • 派遣労働者のメリット:
      • 実際に働いてみることで、仕事内容や職場の雰囲気、企業文化などを理解した上で、直接雇用の話を進めるかどうかを判断できます 。  
      • 未経験の職種や業界に挑戦するきっかけにもなり得ます。

    紹介予定派遣は、企業にとっては確実な人材確保の手段として、労働者にとっては自分に合った職場を見つける機会として、双方にメリットのある制度です。ただし、派遣期間終了後の直接雇用は保証されているわけではなく、双方の合意が必要です。企業は、直接雇用を検討する際には、その条件などを事前に明確にしておくことが望ましいでしょう。

    自社の状況や求める人材像に応じて、これらの派遣の種類を適切に使い分けることが、効果的な人材戦略に繋がります。詳細な活用方法や留意点についてご不明な場合は、専門家にご相談ください。

    労働者派遣(個別)契約書に記載すべき必須項目とは?

    労働者派遣を利用する際、派遣会社と派遣先企業の間で締結される契約には、大きく分けて「労働者派遣基本契約」と「労働者派遣(個別)契約」があります。

    労働者派遣基本契約書は、継続的な取引を行う上での基本的な条件(派遣料金の算定方法、守秘義務、損害賠償など)を定めるもので、法律上の作成義務はありませんが、トラブル防止の観点から締結しておくことが推奨されます 。  

    一方、労働者派遣(個別)契約書(以下、個別契約書)は、個々の派遣労働者を受け入れる都度、具体的な就業条件等を定めるもので、労働者派遣法第26条に基づき、締結及び法定記載事項の記載が義務付けられています 。この個別契約書に記載すべき主な必須項目は以下の通りです 。これらの項目は、派遣労働者の権利保護と紛争予防のために極めて重要であり、曖昧な記載は避けなければなりません。  

    業務内容・就業場所・就業時間・休憩時間

    これらの基本的な労働条件は、派遣労働者が実際に働く上での根幹となるため、極めて具体的に定める必要があります。

    派遣労働者が従事する業務の内容

    派遣労働者が行う具体的な業務内容を、詳細かつ明確に記載します 。例えば「一般事務」といった抽象的な記載ではなく、「伝票作成、データ入力、電話応対(社内取次ぎのみ)」のように、誰が見ても業務範囲がわかるように特定します。曖昧な記載は、契約範囲外の業務を指示されるといったトラブルの原因となります。  

    派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位

    派遣労働者が実際に就業する事業所の正式名称、住所、そして就業する部署名(例:〇〇株式会社 本社営業部 営業第一課)まで具体的に記載します 。特に「組織単位」の特定は、後述する個人単位の期間制限(3年ルール)の適用に不可欠です。  

    派遣就業の開始及び終了の時刻ならびに休憩時間

    始業時刻、終業時刻、1日の所定労働時間、休憩時間を具体的に記載します 。時間外労働(残業)や休日労働の可能性があるのであれば、その旨と上限時間なども明記しておく必要があります。もちろん、労働基準法を遵守した内容でなければなりません。  

    これらの項目が曖昧であったり、実態と乖離していたりすると、派遣労働者の不満や労務トラブルに発展しやすいため、契約締結時に細心の注意を払う必要があります。

    派遣料金・安全衛生に関する事項

    派遣料金と安全衛生に関する取り決めも、個別契約における重要な要素です。

    労働者派遣に関する料金の額その他労働者派遣に関する事項

    派遣料金は派遣先企業が派遣会社に支払う費用であり、派遣労働者の賃金や派遣会社の諸経費、利益などが含まれます。料金設定は派遣会社と派遣先企業の交渉によりますが、不当に低い料金は派遣労働者の待遇にしわ寄せがいく可能性も否定できません。近年、派遣会社にはマージン率等の情報公開が義務付けられており 、透明性の確保が求められています。  

    安全衛生に関する事項

    派遣労働者の安全と健康を確保するための措置について定めます 。労働安全衛生法上、派遣労働者に対する安全衛生管理責任は、派遣元と派遣先の双方が負う部分があります。特に、派遣先は実際の就業場所における設備や作業方法に関する安全配慮義務を負うため、具体的な措置内容を契約で確認しておくことが重要です 。  

    派遣料金は契約の根幹であり、安全衛生は労働者の生命と健康に関わる最重要事項です。これらについてもしっかりと確認し、合意形成を図る必要があります。

    苦情処理に関する体制と窓口

    派遣労働者が就業する中で抱える様々な苦情に適切に対応するための体制も、契約に明記しなければなりません。

    • 派遣労働者からの苦情の申出を受けた場合の処理に関する事項:苦情処理の具体的な手順や担当者を定めます 。  
    • 苦情の申出を受ける者:派遣元と派遣先の双方に苦情処理の窓口(担当部署、役職、氏名、連絡先など)を設置し、それを明記する必要があります 。  
    • 派遣先の主体的対応:近年の法改正により、派遣先企業も派遣労働者からの苦情(特に労働基準法関連やハラスメント関連など)に対して、誠実かつ主体的に対応することが義務付けられています 。  

    派遣労働者は、立場上、直接派遣先に言いにくい不満や問題を抱えることがあります。そのため、派遣元・派遣先の両方に相談しやすい窓口を設け、迅速かつ適切に対応できる体制を整えておくことが、トラブルの未然防止や早期解決に繋がります。

    その他の必須記載事項

    上記以外にも、個別契約書には以下の事項などを記載する必要があります。

    • 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日  
    • 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度(与えられている権限の範囲など)  
    • 派遣元の指揮命令者及び派遣先の指揮命令者に関する事項(所属、役職、氏名)  
    • 労働者派遣契約の解除にあたって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項(新たな就業機会の確保、休業手当等の費用負担など)  
    • 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項  
    • 紹介予定派遣である場合には、その旨及び関連事項  
    • 派遣労働者を労使協定方式の対象とするか否かの別  
    • 派遣労働者を無期雇用派遣労働者又は特定の者に限るか否かの別

    これらの詳細な記載事項は、派遣労働者の保護を強化し、派遣元と派遣先の責任範囲を明確にするために設けられています。派遣先企業は、これらの項目が網羅され、かつ内容が具体的で正確であることを確認する責任があります。

    派遣契約書作成時のチェックリスト

    派遣契約書、特に個別契約書は法的に重要な書類です。派遣会社から提示された契約書を鵜呑みにせず、以下のチェックリストを参考に、自社にとって不利な点や法的に問題のある点がないかを確認しましょう。これにより、多くの企業が陥りがちな「契約内容をよく確認せずにサインしてしまい、後でトラブルになる」という事態を避けることができます。

    禁止業務に該当しないか

    まず、派遣労働者に依頼する業務が、法律で禁止されている業務に該当しないかを確認する必要があります。

    主な禁止業務

    • 港湾運送業務  
    • 建設業務(建設現場における直接の建設作業)
    • 警備業務(警備業法に定めるもの)  
    • 病院・診療所等における医療関連業務の一部(医師、歯科医師、看護師等の業務。ただし、紹介予定派遣の場合や、へき地への派遣、産休代替などの一部例外あり)  
    • 弁護士、社会保険労務士など一部の士業の業務

    これらの業務は、その専門性、危険性、あるいは公共性などの観点から、労働者派遣には適さないとされています。契約書上の業務内容だけでなく、実際の業務指示においてもこれらの禁止業務に抵触しないよう注意が必要です。万が一、禁止業務に派遣労働者を従事させた場合、派遣先企業も罰則の対象となる可能性があります。

    派遣先が講ずべき措置は明記されているか

    労働者派遣法では、派遣先企業が講ずべき措置(労働時間管理、安全衛生確保、苦情処理、福利厚生施設の利用機会提供など)が定められています 。これらは派遣労働者の適正な就業環境を確保するための重要な義務です。  

    • 契約書(または関連覚書など)において、これらの派遣先の義務がどのように取り扱われるか、あるいは派遣元とどのように連携して実施するかが明確になっているかを確認します。
    • 特に、派遣先責任者の選任、派遣先管理台帳の作成・通知、同一労働同一賃金に関する情報提供協力などは、派遣先が主体的に行うべき措置です 。  
    • これらの措置は単なる努力目標ではなく、法的な義務であるため、契約内容がこれらを曖昧にしていたり、派遣先に不当に重い負担を強いるものでないかを確認する必要があります。

    契約期間と更新の条件は明確か

    派遣契約の期間(開始日と終了日)は、最も基本的な契約条件の一つです。

    • 契約期間が明確に記載されているか。
    • 契約更新の可能性がある場合、更新の条件(例:業務評価、双方の合意など)、更新手続き、更新回数の上限(期間制限との関連で)などが具体的に定められているかを確認します。
    • 特に、有期契約である一般派遣の場合、契約更新に関する取り決めが曖昧だと、派遣労働者の雇用の安定を損なうだけでなく、いわゆる「雇止め」に関するトラブルに発展するリスクもあります。

    契約期間や更新条件の明確化は、派遣先企業にとっても計画的な人員配置や予算管理に不可欠です。曖昧な表現は避け、具体的な条件を定めるよう派遣会社と協議しましょう。

    これらのチェックポイントに加えて、自社の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な場合は、専門家にご相談ください。

    派遣契約における禁止事項

    労働者派遣法では、派遣労働者の保護や適正な雇用の実現のため、いくつかの行為が禁止されています。派遣先企業はこれらの禁止事項を正しく理解し、抵触しないよう細心の注意を払う必要があります。

    日雇い派遣の原則禁止とその例外

    日雇い派遣、すなわち日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者を派遣することは、原則として禁止されています 。これは、日雇い派遣が労働者の雇用を不安定にしやすく、適切な雇用管理が行き届かないケースが多かったため、労働者保護の観点から導入された規制です 。  

    ただし、この原則には例外が設けられており、以下の場合には日雇い派遣が認められます。

    • 例外的に認められる業務(政令で定める業務)
      • ソフトウェア開発、機械設計、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、取引文書作成、デモンストレーション、添乗、受付・案内、研究開発、事業の実施体制の企画・立案、書籍等の制作・編集、広告デザイン、OAインストラクション、セールスエンジニアの営業・金融商品の営業など、専門性の高い18業務。 これらの業務は、日雇い派遣が常態であり、かつ労働者の保護に問題がないと判断されたものです。
    • 例外的に認められる労働者
      • 60歳以上の者:高齢者の雇用機会確保の観点から例外とされています。
      • 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる昼間学生):学業が本分である学生が対象です。
      • 副業として日雇い派遣に従事する者:生業収入(本業の年収)が500万円以上ある場合に限ります。
      • 主たる生計者以外の者:世帯収入の合計額が500万円以上あり、かつ本人が主たる生計者でない場合に限ります。 これらの労働者は、日雇い派遣に頼らなくても一定の生活基盤があると見なされるため、例外的に認められています。

    派遣先企業が30日以内の契約で派遣労働者を受け入れる際には、上記の例外事由に該当するかどうかを派遣会社を通じて確実に確認する必要があります。安易な判断は法令違反に繋がるため、注意が必要です。

    事前面接や履歴書要求の禁止

    派遣先企業が、派遣契約締結前に派遣労働者候補と面接を行ったり、履歴書の提出を求めたり、その他派遣労働者を特定することを目的とする行為(年齢や性別を指定するなど)は、原則として禁止されています 。  

    • 理由:派遣労働者の選考・採用は、雇用主である派遣会社の責任において行われるべきであり、派遣先が選考に関与することは、職業安定法が禁じる労働者供給事業に近い行為と見なされたり、派遣労働者に対する差別的な選別につながる恐れがあるためです。
    • 「顔合わせ」との違い:実務上、派遣開始前に派遣労働者が派遣先の職場を訪問し、業務内容の確認や簡単な自己紹介を行う「顔合わせ(職場見学、業務説明)」が行われることがあります 。これは、選考目的でなければ直ちに違法とはなりませんが、その内容はあくまで業務遂行能力の確認や職場環境の紹介に留めるべきであり、候補者を選別するような質疑応答は許されません。この線引きは非常に微妙であり、慎重な対応が求められます。  
    • 例外:紹介予定派遣の場合は、将来的な直接雇用を前提としているため、例外的に事前の面接や履歴書による選考が認められています 。  

    派遣先企業の担当者は、派遣労働者のスキルや経験が業務に適しているかを確認したいという気持ちは理解できますが、上記の禁止事項を遵守し、適法な範囲での情報収集に努める必要があります。

    離職後1年以内の元従業員の派遣受け入れ制限

    派遣先企業は、自社を離職した元従業員を、離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることは原則として禁止されています 。この「自社」とは、事業所単位ではなく、法人(事業者)単位で判断されます。  

    • 目的:この規制は、企業が正社員を一旦退職させた後、すぐに派遣社員として再雇用することで、人件費を抑制したり、労働法の規制を回避したりすることを防ぐために設けられました。直接雇用から派遣への安易な切り替えを防止し、労働者の雇用安定を図る狙いがあります。
    • 例外:60歳以上の定年退職者については、この制限の対象外となります 。定年退職後の再雇用の一環として、本人の希望に応じて派遣という形で働くことを可能にするための配慮です。  
    • 派遣先の通知義務:派遣会社から派遣労働者の氏名等の通知を受けた際、その労働者がこの制限に該当することが判明した場合は、派遣先企業は速やかにその旨を派遣会社に通知しなければなりません 。  

    派遣先企業は、派遣労働者を受け入れる際に、この「離職後1年ルール」に抵触しないかを確認する体制を整えておく必要があります。派遣会社と連携し、適切な情報共有を行うことが重要です。

    これらの禁止事項を遵守することは、コンプライアンス経営の基本です。違反した場合には、行政指導や罰則の対象となる可能性もあるため、社内での周知徹底が求められます。自社の運用に不安がある場合は、速やかに専門家にご相談ください。

    派遣契約の期間制限ルール

    労働者派遣法には、派遣労働者の雇用安定とキャリアアップを促進するため、派遣契約の期間に関する厳格な制限(いわゆる「3年ルール」)が設けられています。これには「事業所単位」と「個人単位」の2つの側面があり、派遣先企業はこれらのルールを正確に理解し、適切に対応する必要があります。

    事業所単位の期間制限(3年ルール)とは?

    派遣先企業は、同一の事業所において、派遣労働者を3年を超えて継続して受け入れることは原則としてできません 。これは「事業所単位の期間制限」と呼ばれます。  

    • 対象: この制限は、個々の派遣労働者が入れ替わったとしても、その事業所全体として派遣労働者を受け入れることができる期間の上限を定めるものです。
    • 目的: 企業が特定の業務を恒常的に派遣労働者に依存することを防ぎ、長期的な業務については直接雇用を促すことにあります。
    • 期間の延長: この3年間の制限は、派遣先の過半数労働組合(または過半数代表者)からの意見聴取手続きを経ることで、さらに3年間延長することが可能です 。この延長手続きは繰り返し行うことができ、延長回数に上限はありません。  

    このルールは、派遣先企業が戦略的な人員計画を立てる上で非常に重要です。どの業務に、どの程度の期間、派遣労働者を活用するのかを検討し、必要に応じて延長手続きを計画的に行う必要があります。

    期間制限の起算日と抵触日の考え方

    事業所単位の期間制限を管理する上で、「起算日」と「抵触日」の正確な理解が不可欠です。

    • 起算日(きさんび)
      • その事業所において、2015年9月30日以降に締結(または更新)された労働者派遣契約に基づき、最初に派遣労働者を受け入れた日が起算日となります 。  
      • 同一事業所で複数の派遣契約がある場合や、複数の派遣会社から派遣労働者を受け入れている場合でも、最も早い派遣開始日がその事業所全体の起算日となります 。  
      • 起算日は、途中で派遣労働者が交代しても変わりません 。
    • 抵触日(ていしょくび)
      • 起算日から3年(または延長された期間)が経過した翌日を指します 。  
      • 例えば、起算日が2024年4月1日の場合、3年後の2027年3月31日まで派遣可能で、抵触日は2027年4月1日となります。
      • 抵触日以降は、原則としてその事業所で同じ業務について派遣労働者を受け入れることはできません(延長手続きまたはクーリング期間を経ない限り)。

      抵触日の誤認は法令違反に直結するため、派遣先企業は起算日を正確に把握し、抵触日を厳格に管理する必要があります。特に、複数の部署で異なる時期に派遣を受け入れ始めた場合でも、事業所としての最初の受け入れ日が全体の起算日となる点に注意が必要です。

      抵触日通知の義務と方法

      派遣先企業には、事業所単位の抵触日を、労働者派遣(個別)契約の締結前に、あらかじめ派遣会社に通知する義務があります 。派遣会社は、この通知がなければ派遣契約を締結できません 。  

      • 目的:派遣元・派遣先の双方が派遣可能期間を正確に認識し、期間制限を超えた違法な派遣を防ぐためです 。  
      • 通知方法:書面の交付、FAX送信、または電子メールのいずれかの方法で行う必要があり、口頭での通知は認められません 。記録が残る方法で通知することが重要です。  
      • 通知内容:以下の情報を明記する必要があります 。
        1. 事業所の名称
        2. 事業所の所在地
        3. 事業所単位の抵触日
      • 期間延長後の通知:意見聴取手続きにより派遣可能期間を延長した場合は、延長後の新たな抵触日を速やかに派遣会社に通知しなければなりません 。  

      この抵触日通知は、派遣先企業が主体的に行うべき重要な法的義務であり、派遣活用の初期段階でのコンプライアンス確保に不可欠です。

      個人単位の期間制限(3年ルール)とは?

      事業所単位の期間制限とは別に、「個人単位の期間制限」も存在します。これは、同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位(いわゆる「課」など)に対し、3年を超えて派遣することはできないというルールです 。

      • 対象:この制限は、個々の派遣労働者と、その人が働く特定の部署(組織単位)に適用されます。
      • 目的:特定の派遣労働者が長期間同じ部署で固定化され、実質的に正社員と同様の業務に従事しながらも不安定な雇用状態に置かれることを防ぎ、キャリアアップや直接雇用の機会を促すためです。
      • 事業所単位の期間制限との関係:たとえ事業所単位の期間制限が意見聴取により延長されたとしても、この個人単位の期間制限は別途適用されます。つまり、ある派遣労働者が同じ課で3年間勤務した場合、その課ではそれ以上働くことはできません 。  
      • 組織単位の変更:もし派遣労働者が同一企業内の別の組織単位に異動して業務に従事する場合は、異動先の組織単位で新たに3年間の派遣が可能となります 。ただし、これは実質的な業務内容や指揮命令系統の変更を伴うものでなければならず、名目上の異動は認められません。  

      同一組織単位での期間制限

      個人単位の期間制限を理解する上で、「同一組織単位」の解釈が重要となります。

      • 「組織単位」の定義:一般的には、部、課、グループなど、業務上の関連性や組織上のまとまりがあり、相当程度の独立性をもって業務を遂行する単位を指します 。具体的には、その単位の業務内容、指揮命令系統、責任体制などを総合的に勘案して判断されます。  
      • 判断基準:派遣先企業における組織図や業務分掌規程などが参考になりますが、形式だけでなく実態に即して判断されるべきです。単に名称を変更しただけでは、同一の組織単位と見なされる可能性があります。

      派遣先企業は、自社の組織構造を正確に把握し、どの範囲を「組織単位」として個人単位の期間制限を管理するかを明確にしておく必要があります。この判断に迷う場合は、社労士などの専門家に相談することが賢明です。

      クーリング期間とは

      事業所単位または個人単位の期間制限(3年)に達した場合でも、一定の「クーリング期間」を設けることで、再び同じ事業所(同じ業務)や同じ派遣労働者(同じ組織単位)を受け入れることが可能になります。

      • クーリング期間の長さ:3ヶ月と1日以上の空白期間が必要です 。つまり、派遣が終了した日から起算して、3ヶ月を超える期間、当該派遣労働者がその組織単位で就業しない、または当該事業所でその業務に関する派遣が行われない状態が続けば、期間制限がリセットされます。  
      • 適用対象:このクーリング期間の考え方は、事業所単位の期間制限と個人単位の期間制限の双方に適用されます 。  
      • 具体例:ある派遣労働者AさんがX課での個人単位の期間制限(3年)を2024年3月31日に迎えたとします。この場合、2024年4月1日から少なくとも2024年7月1日(3ヶ月と1日)までの期間、AさんがX課で派遣就業しなければ、2024年7月2日以降、再びAさんをX課に最大3年間派遣することが可能になります。
      • 注意点:労働契約法における有期労働契約の通算契約期間に関するクーリング期間(原則6ヶ月)とは異なるものですので、混同しないように注意が必要です 。  

      クーリング期間は、期間制限を回避するための安易な手段として利用されるべきではありません。あくまで、一時的な派遣の原則を維持しつつ、一定の条件下で再度の派遣を認めるための制度です。

      期間制限の例外となるケース

      上記の事業所単位および個人単位の期間制限には、いくつかの例外が設けられています。これらの例外に該当する場合、3年の期間制限は適用されません。

      スクロールできます
      例外ケース条件・詳細注意点
      無期雇用派遣労働者派遣会社と期間の定めのない雇用契約を締結している派遣労働者 派遣元が無期雇用していることが条件。派遣先での雇用形態ではない。
      60歳以上の労働者派遣労働者が満60歳以上である場合 派遣期間中に60歳に達した場合、その時点から期間制限の対象外となる
      有期プロジェクト業務事業の開始、転換、拡大、縮小または廃止のための業務で、終了時期が明確に定められているプロジェクト(通常3年以内完了見込み)に従事する場合 単なる繁忙対応ではなく、明確な期限付きプロジェクトであること。
      日数限定業務1ヶ月間の勤務日数が、派遣先の通常の労働者の所定労働日数の半分以下であり、かつ月10日以下の業務に従事する場合 勤務日数が極めて少ない業務が対象。
      産休等代替業務派遣先の労働者が産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得している間の代替業務に従事する場合 代替対象となる労働者の休業期間に限定される。

      これらの例外は、その性質上、期間制限の趣旨(常用雇用の代替防止や不安定雇用の長期化防止)に馴染まないと考えられるため設けられています。ただし、例外規定の適用にあたっては、その要件を厳密に満たしているかを確認する必要があります。例えば、「有期プロジェクト業務」に該当するか否かは、プロジェクトの目的、内容、期間設定の合理性などを総合的に判断します。安易な解釈は法令違反のリスクを伴うため、慎重な検討が求められます。

      期間制限を超えて派遣社員を受け入れるためには?

      事業所単位の期間制限(3年)を超えて派遣労働者を受け入れたい場合には、法に定められた手続きを適切に行う必要があります。

      労働組合等への意見聴取手続き

      事業所単位の期間制限を延長するためには、抵触日の1ヶ月前までに、その事業所の過半数で組織する労働組合(労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)に対して、意見聴取を行う必要があります 。

       

      • 手続きの流れ:
      • 通知: 派遣先は、過半数労働組合等に対し、延長しようとする期間や対象となる事業所などを記載した書面で通知します 。その際、当該事業所における派遣労働者の受け入れ状況や正社員数の推移などの参考資料も提供する必要があります 。  
      • 意見聴取: 過半数労働組合等から意見を聴取します。
      • 異議への対応: もし過半数労働組合等から異議が述べられた場合、派遣先は、延長前の抵触日の前日までに、延長の理由や期間、異議への対応方針などを説明しなければなりません 。  
      • 記録・周知: 意見聴取の内容(聴取日、意見内容、説明内容など)を記録し、3年間保存するとともに、事業所内の労働者に周知します(掲示など) 。  

      この意見聴取手続きは、単なる形式的なものではなく、派遣先の労働者の意見を反映させるための重要なプロセスです。手続きを怠ったり、不適切な方法で行ったりした場合は、期間延長の効力が認められない可能性があります。特に、過半数代表者の選出方法が民主的で適正であるか(管理監督者でないこと、投票・挙手等による選出など)も重要なポイントです。

      派遣労働者への雇用安定措置

      派遣労働者の雇用安定措置は、主に派遣元の義務ですが、派遣先もその趣旨を理解し、協力することが期待されます。特に、同一の組織単位で3年間派遣される見込みがある有期雇用の派遣労働者などが、派遣終了後も継続して働くことを希望する場合、派遣元は以下のいずれかの措置を講じなければなりません(または努力義務) 。  

      雇用安定措置詳細
      派遣先への直接雇用の依頼最も優先されるべき措置とされています。派遣元は派遣先に対し、当該派遣労働者を直接雇用するよう依頼します。
      新たな派遣先の提供合理的な労働条件(能力、経験等に照らしたもの)で、新たな派遣先を紹介します。
      派遣元事業主での(派遣労働者以外としての)無期雇用派遣会社の社員として無期雇用します。
      その他安定した雇用の継続を図るための措置有給の教育訓練の実施、紹介予定派遣の活用などが含まれます。

      派遣先企業は、派遣元から直接雇用の依頼があった場合、誠実に検討することが求められます。直接雇用に至らない場合でも、派遣元が他の措置を講じられるよう、早めに意向を伝えるなどの協力が望ましいでしょう。

      期間制限ルールの理解と適切な対応は、コンプライアンス上非常に重要です。自社の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な場合は、専門家にご相談ください。

      派遣契約の中途解約・契約終了時の手続きと注意点

      派遣契約は、期間の定めのある契約が一般的です。契約期間中の解約(中途解約)や、期間満了時の契約終了にあたっては、派遣労働者の雇用に大きな影響を与えるため、法に則った慎重な手続きと配慮が求められます。

      派遣先からの中途解約は原則できない?

      労働者派遣契約について、派遣先企業の都合による中途解約は、原則としてできません 。派遣契約は派遣会社との間のBtoB契約ですが、その解約は派遣労働者の雇用契約に直接影響を及ぼすため、労働者派遣法および関連指針(派遣先が講ずべき措置に関する指針)において、派遣労働者の保護を目的とした厳しい制約が課されています。  

      やむを得ない理由とは?具体的なケース

      中途解約が例外的に認められるのは、「やむを得ない理由」がある場合に限られます。この「やむを得ない理由」は非常に限定的に解釈されるべきです。

      具体的なケースの例

      • 派遣先企業の倒産、事業所の大幅な縮小・閉鎖など、客観的に見て事業継続が著しく困難な状況 。単なる業績不振や受注減だけでは、直ちに「やむを得ない理由」とは認められにくい傾向にあります。  
      • 派遣労働者側に、契約解除に相当する重大な責めに帰すべき事由がある場合(例:無断欠勤の長期化、重大な経歴詐称、著しい能力不足で改善の見込みがないなど)。ただし、この場合でも、まずは派遣会社に報告し、改善指導や交代などの措置を求めるのが通常の手順です 。単に「期待した能力に達しない」「社風に合わない」といった理由での一方的な解約は困難です。    

      「やむを得ない理由」の判断は慎重に行う必要があり、安易な中途解約は法的な紛争に発展するリスクを伴います。

      解約申し入れの適切な手順と注意点

      派遣先がやむを得ない理由により中途解約を申し入れる場合でも、以下の手順と注意点を守る必要があります 。  

      1. 派遣会社への事前の申し入れと協議: まず、派遣会社に対し、解約の意向を相当の猶予期間をもって(通常、少なくとも30日前)申し入れ、十分に協議し、合意を得るよう努めなければなりません。
      2. 解約理由の明示: 派遣会社から求められた場合、中途解約の具体的な理由を明らかにしなければなりません。
      3. 派遣労働者の新たな就業機会の確保: これが最も重要な措置の一つです。派遣先は、自社の関連会社での就業をあっせんするなど、当該派遣労働者の新たな就業機会の確保を図らなければなりません 。  
      4. 損害賠償等に係る適切な措置: 上記の就業機会の確保ができない場合は、派遣会社に対し、少なくとも派遣契約で定められた残りの期間に派遣労働者が得るはずだった賃金相当額以上の額について損害賠償を行う必要があります。また、解約予告が解約日の30日未満であった場合は、その不足日数分の平均賃金相当額以上の補償も考慮されます 。  

      これらの措置は、派遣労働者への影響を最小限に抑えるためのものであり、派遣先企業は誠実に対応する責任があります。

      派遣労働者の新たな就業機会の確保義務

      中途解約時の派遣先の責務として特に強調されるのが、派遣労働者の新たな就業機会の確保です 。これは、単に派遣会社に任せるだけでなく、派遣先企業自身が主体的に努力すべき事項とされています。  

      • 自社内での別ポジションの検討
      • 関連会社や取引先への紹介あっせん
      • その他、派遣労働者の経験やスキルを活かせる就業先の情報提供

      これらの努力は、具体的な行動として記録に残しておくことが望ましいでしょう。この義務を怠った場合、損害賠償額の算定等で不利になる可能性もあります。

      派遣契約終了(満了)時の手続き

      契約期間が満了し、契約を更新しない(雇止め)場合の手続きも重要です。

      契約更新の判断と通知

      派遣契約が期間満了を迎えるにあたり、派遣先企業は契約を更新するか否かを判断し、その意向を十分に余裕をもって(一般的には契約終了の1ヶ月以上前が望ましい)派遣会社に通知する必要があります 。  

      派遣会社は、派遣労働者に対して契約を更新しない旨を通知する義務を負う場合があります。特に、有期労働契約が3回以上更新されている場合や、1年を超えて継続して雇用されている派遣労働者に対しては、契約期間満了の少なくとも30日前までに雇止めの予告をしなければならないとされています(労働契約法・雇止めに関する基準) 。派遣先からの連絡が遅れると、派遣会社がこの法的義務を履行できなくなる可能性があるため、早めの連絡が不可欠です。  

      派遣労働者への終了理由の明示

      派遣契約を更新せず雇止めとする場合、派遣労働者から理由の開示を求められた際には、派遣会社(雇用主)はこれを明示する義務があります。その際、派遣先企業が更新しない理由(例:プロジェクトの終了、業務量の減少、予算の都合など)を正確かつ具体的に派遣会社に伝えることが重要です 。  

      理由は客観的な事実に基づき、派遣労働者の人格や能力を不当に貶めるものであってはなりません。

      契約終了に伴うトラブルと未然防止策

      派遣契約の終了は、時としてトラブルの原因となります。これを未然に防ぐためには、適切な対応が求められます。

      不当な解約と判断されないために

      • 中途解約の場合:上述の「やむを得ない理由」の厳格な判断、適切な手順の遵守(事前協議、就業機会確保努力、損害賠償)、そして全てのプロセスにおける誠実な対応と記録の保持が不可欠です。
      • 期間満了による雇止めの場合
        • 雇止めの理由が客観的に合理的であり、社会通念上相当であると認められる必要があります。特に長期間更新を繰り返してきた場合や、派遣労働者が契約更新を期待することに合理的な理由がある場合は、慎重な判断が求められます(雇止め法理)。
        • 派遣労働者の能力や適格性に問題がある場合は、契約期間中に具体的な指導や注意を行い、改善の機会を与えた記録を残しておくことが重要です。いきなり契約終了時に問題点を指摘するのは不適切です。
        • 更新の期待を持たせるような言動は慎むべきです。

      派遣会社との連携の重要性

      契約の開始から終了に至るまで、特に契約終了や中途解約といったデリケートな局面においては、派遣会社との緊密な連携が極めて重要です。

      • 派遣会社は派遣労働者の直接の雇用主であり、労働法上の様々な責任を負っています。派遣先の判断や行動は、派遣会社のこれらの責任遂行に直接影響します。
      • 問題が発生しそうな場合や、契約条件の変更、終了の意向などが生じた場合は、早期に派遣会社に相談し、共同で対応策を検討することが、トラブルを未然に防ぎ、円滑な解決に繋がります。
      • 契約終了後も、派遣会社との良好な関係を維持することは、将来的な人材確保の観点からも有益です 。    

      派遣契約の終了は、法的な側面だけでなく、関わる人々の感情にも配慮した対応が求められます。自社の対応に不安がある場合は、専門家にご相談ください。

      法改正に対応するための社内体制整備

      頻繁な法改正に的確に対応するためには、付け焼き刃の対応ではなく、継続的な社内体制の整備が不可欠です。

      規程の見直しと情報共有

      • 労働者派遣に関する社内規程(派遣先責任者の職務、派遣先管理台帳の作成・管理方法、苦情処理体制、情報提供ルールなど)を整備し、法改正に合わせて定期的に見直します。
      • 法改正の内容や社内規程の変更点について、人事担当者だけでなく、派遣労働者を受け入れる各部署の管理職や指揮命令者にも研修などを通じて情報共有を徹底します。特に、現場の指揮命令者が最新のルールを理解していないと、意図せず法違反を犯してしまうリスクがあります。

      派遣会社との連携強化

      法改正への対応は、派遣先企業単独では完結しません。派遣元事業主との緊密な連携が不可欠です。

      • 定期的な情報交換の場を設け、法改正に関する認識の共有や、対応策の協議を行います。
      • 同一労働同一賃金に関する情報提供や、雇用安定措置への協力など、法的に求められる連携事項については、円滑に実施できるようなコミュニケーション体制を構築します。
      • 信頼できる派遣会社を選定し、パートナーとして協力関係を築くことが、コンプライアンス遵守と効果的な派遣活用の両立に繋がります。

      法改正は企業にとって負担となる側面もありますが、これを機に派遣労働者の就業環境や待遇を見直し、より良い活用方法を模索する機会と捉えることもできます。自社の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な場合は、専門家にご相談ください。

      【重要】法違反した場合の罰則・リスク

      労働者派遣法に違反した場合、派遣先企業は様々な罰則やリスクを負うことになります。これらは企業の経営に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、法令遵守の徹底が不可欠です。

      行政指導・勧告・公表

      労働者派遣法に違反する事実が認められた場合、まず労働局などから行政指導助言が行われることがあります 。これに従わない場合や、違反が悪質であると判断された場合には、改善命令事業停止命令(これは主に派遣元に対してですが、派遣先も関連して影響を受ける場合があります)が出されることもあります 。  

      さらに、重大な違反や改善命令に従わない場合には、厚生労働大臣から勧告を受け、その事実や企業名が公表されることがあります 。企業名が公表されると、社会的な信用が著しく低下し、取引関係や採用活動にも悪影響が及ぶ可能性があります。  

      罰金や企業イメージ低下の影響

      労働者派遣法の規定の中には、違反した場合に罰金が科されるものもあります。

      • 例:派遣先管理台帳の作成・記載義務違反、派遣先責任者の未選任など → 30万円以下の罰金  
      • 例:無許可の派遣元からの派遣受け入れ(二重派遣の受け入れも含む) → 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(職業安定法違反として)  
      • 例:違法な労働者供給事業(二重派遣など)で利益を得た場合 → 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(労働基準法違反(中間搾取の排除)として)

      これらの直接的な罰則に加え、法令違反の事実は企業のコンプライアンス意識の欠如と見なされ、企業イメージの大幅な低下を招きます。これは、顧客離れ、株価下落、優秀な人材の採用難など、長期的な経営リスクに繋がります。

      労働契約申込みみなし制度の適用

      特に注意すべきリスクとして、「労働契約申込みみなし制度」があります 。これは、派遣先企業が以下のような違法派遣を受け入れた場合に、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、派遣元と同一の労働条件で直接雇用の申込みをしたものとみなす制度です。  

      • 禁止業務への派遣を受け入れた場合
      • 無許可の派遣元から派遣を受け入れた場合
      • 期間制限に違反して派遣を受け入れた場合
      • いわゆる偽装請負の状態で派遣労働者を受け入れた場合

      この制度が適用されると、派遣労働者が承諾すれば、派遣先と派遣労働者との間に直接の労働契約が成立します。派遣先は意図せず直接雇用する義務を負う可能性があり、人員計画や人件費に大きな影響が出ます。この制度は、違法な派遣行為を抑止し、派遣労働者を保護するための強力な措置です。

      法令違反のリスクは決して軽視できません。日頃から労働者派遣法をはじめとする関連法規の理解を深め、遵守体制を構築することが、企業を守る上で極めて重要です。

      派遣契約に関するよくあるトラブル事例と解決策

      派遣契約の運用においては、様々なトラブルが発生する可能性があります。ここでは、派遣先企業が遭遇しやすい代表的なトラブル事例とその対策について解説します。

      指揮命令系統の混乱と対策

      派遣労働者に対する指揮命令は、派遣契約の根幹に関わる部分であり、しばしばトラブルの原因となります。

      誰がどこまで指示できるのか?

      • 指揮命令者
        • 派遣労働者への業務指示は、原則として派遣契約(個別契約)で定められた派遣先の指揮命令者が行います 。指揮命令者は、契約で定められた業務の範囲内で、具体的な業務の進め方や手順、時間配分などを指示します。  
      • 指示内容の範囲
        • 指示できるのは、あくまで契約で定められた業務内容に関する事項に限られます。契約外の業務を指示することはできません。また、派遣労働者の契約条件(勤務時間、休日、有給休暇の取得など)に関する事項は、雇用主である派遣元事業主の権限であり、派遣先の指揮命令者が勝手に変更したり、指示したりすることはできません。
      • 対策
        • 派遣契約締結時に、指揮命令者を明確に定め、その者の氏名・役職を契約書に記載する。
        • 指揮命令者に対し、派遣契約の内容(特に業務範囲)および労働者派遣法の基本ルールについて十分な教育を行う。
        • 派遣労働者からも、誰の指示に従うべきか、不明な点があれば確認しやすい雰囲気を作る。

      指揮命令系統の混乱は、派遣労働者の業務遂行に支障をきたすだけでなく、契約違反や二重派遣といった法的問題に発展するリスクもはらんでいます。

      二重派遣の禁止と見分け方

      二重派遣とは、派遣元から派遣された労働者を、派遣先がさらに別の企業等に派遣し、その他社の指揮命令下で業務に従事させることを指します 。これは、職業安定法で禁止されている労働者供給事業に該当し、違法です 。  

      • 二重派遣が禁止される理由
        • 派遣労働者の雇用責任の所在が不明確になる(賃金支払い、安全配慮義務など) 。  
        • 中間搾取により、派遣労働者の労働条件が悪化する可能性がある 。  
      • 見分け方のポイント
        • 派遣労働者が、派遣契約を締結している派遣先以外の企業の指揮命令を受けて業務を行っている場合、二重派遣の疑いがあります 。  
        • 例えば、派遣先A社に派遣された労働者が、A社の指示ではなく、A社の取引先であるB社のオフィスに常駐し、B社の社員から直接業務指示を受けているようなケースです。
        • 子会社や関連会社であっても、別法人であれば、そこで指揮命令を受ければ二重派遣に該当します 。  
      • 対策
        • 派遣労働者には、必ず自社の指揮命令者の下で業務を行わせる。
        • 請負契約と称していても、実態として他社に派遣労働者を指揮命令させている場合は「偽装請負」となり、二重派遣と同様に違法となるため注意する 。  
        • 契約内容を定期的に確認し、実態との乖離がないかチェックする。

      二重派遣は、関与した企業双方に罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金など)が科される可能性がある重大な法令違反です 。  

      業務内容の相違・範囲外業務の指示

      派遣契約で定めた業務内容と、実際に指示する業務内容が異なる、あるいは契約範囲を超える業務を指示してしまうケースも、よくあるトラブルの一つです。

      契約内容と実態の乖離を防ぐには

      • 契約時の具体性:派遣契約(個別契約)を締結する際に、派遣労働者が従事する業務内容を可能な限り具体的に、かつ網羅的に記載することが最も重要です。曖昧な表現は避け、想定される業務をリストアップするなど工夫します。
      • 定期的な確認:派遣開始後も、定期的に派遣労働者や指揮命令者から業務の実態についてヒアリングを行い、契約内容との間に乖離が生じていないかを確認します。
      • 派遣労働者への説明:派遣開始時に、派遣労働者本人に対しても契約上の業務範囲を明確に説明し、範囲外の業務を指示された場合は、派遣元または派遣先の苦情窓口に相談するよう伝えておくことも有効です。

      変更時の適切な手続き

      業務の都合上、どうしても契約当初の業務内容を変更したり、範囲外の業務を一時的に依頼したりする必要が生じた場合は、必ず事前に派遣元事業主と協議し、合意の上で契約内容を変更する手続きを取らなければなりません 。  

      • 派遣先の指揮命令者が独断で業務内容を変更したり、追加したりすることは契約違反となります。
      • 軽微な変更であっても、派遣元に連絡し、必要であれば覚書等で契約変更の合意を書面に残すことが望ましいです。
      • 特に、残業や出張など、当初契約になかった事項を指示する場合は、契約変更が必須です 。  

      契約内容の遵守は、派遣元、派遣先、派遣労働者の三者間の信頼関係の基礎です。

      派遣社員の能力不足・勤怠不良

      派遣労働者のスキルが期待したレベルに達していなかったり、遅刻や欠勤などの勤怠不良が見られたりする場合の対応も、慎重に行う必要があります。

      派遣会社への報告と改善要求

      • 派遣労働者の能力不足や勤怠不良に気づいた場合、まずは速やかに派遣元事業主にその事実を具体的に報告し、対応を協議します。
      • 派遣元事業主は雇用主として、派遣労働者に対する指導、教育訓練、あるいは状況によっては交代などの措置を講じる責任があります。
      • 派遣先が直接派遣労働者に対して過度な叱責や一方的な契約解除を示唆するような言動をとることは、パワハラや不当解約と見なされるリスクがあるため避けるべきです。
      • 報告の際は、具体的な事象(いつ、どのような問題があったか)、業務への支障、期待する改善点などを客観的に伝えることが重要です。

      契約更新時の判断材料

      • 派遣元への報告と改善要求を行っても、状況が改善されない場合は、その経緯や具体的な問題点を記録しておくことが重要です。
      • これらの記録は、契約更新の際に、更新しないという判断を下す場合の客観的な根拠となり得ます 。ただし、単なる能力不足を理由とした雇止めは、その程度や改善努力の機会提供の有無などによっては、法的に問題視される可能性もあるため、慎重な判断が必要です。  

      ハラスメント・人間関係のトラブル

      職場におけるハラスメント(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど)や、人間関係のトラブルは、派遣労働者にとっても深刻な問題です。

      派遣先としての安全配慮義務

      派遣先企業は、自社の従業員だけでなく、指揮命令下にある派遣労働者に対しても、安全で快適な就業環境を提供する義務(安全配慮義務)を負っています 。これには、ハラスメントのない職場環境を維持することも含まれます。  

      パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、派遣労働者に対するハラスメントについても、派遣元だけでなく派遣先も事業主としての措置義務を負うとされています 。  

      相談窓口の設置と迅速な対応

      • 派遣先企業は、派遣労働者も利用できるハラスメント等の相談窓口を明確にし、周知する必要があります 。  
      • 派遣労働者からハラスメントや人間関係のトラブルに関する相談があった場合は、プライバシーに配慮しつつ、事実関係を迅速かつ正確に調査し、加害者への指導や配置転換、被害者のケアなど、適切な措置を講じなければなりません。
      • 派遣元事業主とも連携し、情報を共有しながら対応を進めることが重要です。

      ハラスメントの放置は、派遣労働者の心身の健康を害するだけでなく、企業の法的責任や社会的信用の失墜にも繋がります。予防と発生時の迅速な対応体制の整備が不可欠です。

      これらのトラブル事例と対策を参考に、日頃から適正な派遣活用を心がけることが重要です。もし具体的なトラブルが発生し、対応に苦慮される場合は、人事労務の専門家である社労士にご相談ください。

      よくある質問

      Q. 派遣社員に契約外の業務を依頼しても良いですか?

      A. 原則として、派遣社員に依頼できる業務は、労働者派遣(個別)契約書に記載された「業務の内容」の範囲内に限られます。契約書に記載のない業務を指示することは、契約違反となる可能性があります。もし、契約外の業務を依頼する必要が生じた場合は、必ず事前に派遣元事業主と協議し、双方合意の上で契約内容を変更する手続きを行ってください。安易な口頭での指示はトラブルの原因となりますので避けるべきです 。  

      Q. 派遣社員の受け入れ期間に上限はありますか?

      A. はい、労働者派遣法により、派遣社員の受け入れ期間には上限(いわゆる3年ルール)が定められています。これには「事業所単位」と「個人単位」の2つのルールがあります。 事業所単位では、同一の事業所で3年を超えて派遣を受け入れることは原則できませんが、過半数労働組合等への意見聴取手続きを経ることで延長が可能です 。 個人単位では、同一の派遣社員を同一の組織単位(課など)で3年を超えて受け入れることはできません 。 ただし、無期雇用派遣労働者や60歳以上の労働者など、一部例外となるケースもあります 。  

      Q. 派遣社員からハラスメントの相談があった場合、派遣先としてどう対応すべきですか?

      A. 派遣先企業は、派遣社員に対しても安全配慮義務を負っており、ハラスメントのない職場環境を整備する責任があります 。派遣社員からハラスメントの相談があった場合は、まずプライバシーに配慮しながら事実関係を迅速に調査し、必要に応じて加害者への指導や配置転換、被害者のケアなどの適切な措置を講じる必要があります。また、派遣元事業主とも連携し、情報を共有しながら対応を進めることが重要です。派遣先も派遣労働者からの苦情に対し、誠実かつ主体的に対応することが法律で求められています 。  

      まとめ

      本記事では、労働者派遣契約の基本的な仕組みから、契約締結・管理上の注意点、トラブル事例、そして最新の法改正に至るまで、派遣先企業が押さえておくべき重要なポイントを網羅的に解説しました。

      派遣社員の活用は、企業にとって柔軟な人材戦略を可能にする有効な手段ですが、その運用には労働者派遣法をはじめとする複雑な法的ルールへの深い理解と適切な対応が不可欠です。特に、派遣期間の制限、同一労働同一賃金の原則、派遣先としての各種義務(安全配慮、苦情処理など)は、遵守を怠ると行政指導、罰則、さらには企業イメージの低下といった重大なリスクに繋がりかねません。

      法改正も頻繁に行われるため、常に最新情報をキャッチアップし、社内体制を整備していく必要があります。しかし、これらの対応を全て企業内部だけで行うには、専門知識やリソースの面で限界があることも事実です。

      派遣契約に関する疑問や不安、実務上の課題をお持ちの経営者様、人事ご担当者様は、ぜひ一度、人事労務の専門家である社会保険労務士にご相談ください。専門家のサポートを受けることで、法改正への確実な対応、契約書関連のリーガルリスクの低減、労務トラブルの未然防止と円滑な解決、そして煩雑な管理業務の効率化などが期待できます。

      社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

      • URLをコピーしました!
      • URLをコピーしました!

      監修者(社労士)

      社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
      労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
      現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

      目次