扶養に入らず働くとどうなる?扶養超えてしまった場合の対応と入らないとどうなるか解説

「もう少しだけ働きたいけど、扶養を超えて社会保険に入りたくない…」 パートやアルバイトで働く多くの方が、いわゆる「年収の壁」を前に悩んでいます。特に年収106万円の壁は、超えると社会保険への加入義務が発生し、手取りが減ってしまう可能性があるため、働き方を調整したいと考えるのは当然のことです。

この記事では、「社会保険に入りたくない」というお気持ちに寄り添いながら、社会保険労務士が法律上のルールと、現実的な対処法を解説します。この記事を読めば、あなたが今何をすべきか、明確な道筋が見えるはずです。 もし具体的なご相談があれば、私たち社労士事務所altruloopがお力になります。

目次

結論:「社会保険に入るか否か」は自分で選べません

「社会保険に入りたくない」という気持ちとは裏腹に、残念ながら、社会保険に加入するかどうかは個人の意思で選べるものではありません。一定の条件を満たした場合、法律によって加入が義務付けられています。まずはこの大原則を理解することが、不安を解消するための第一歩です。

年収106万円の壁|社会保険の加入義務は法律上のルール

パートやアルバイトの方が勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務が発生する目安が「年収106万円の壁」です。正確には、年収額そのものではなく、以下の5つの条件をすべて満たす場合に、本人の意思に関わらず社会保険への加入が法律で義務付けられています 。  

  • 週の所定労働時間が20時間以上  
  • 月額賃金が88,000円以上(年収約106万円)※残業代、賞与、交通費は含まない  
  • 雇用期間の見込みが2ヶ月以上  
  • 勤務先の従業員数が51人以上(2024年10月〜)  
  • 学生ではない  

これらの条件を一つでも満たさなければ、加入義務は発生しません。ご自身の雇用契約書などを確認し、現状を把握することが重要です。

「会社に黙っていれば…」は通用しない?加入義務が発覚する仕組み

「自己申告しなければバレないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、それは非常に危険な考えです。会社は従業員の労働時間や給与を正確に管理しており、定期的に行われる年金事務所の調査などで、社会保険の加入漏れが発覚するケースは少なくありません 。  

調査官は、賃金台帳やタイムカード、雇用契約書などを厳しくチェックし、加入義務があるにも関わらず未加入となっている従業員がいないかを確認します 。意図的に加入を避けていたことが発覚すれば、後から大きな問題に発展する可能性があります。  

もし加入しなかったらどうなる?|最大2年遡って保険料を請求されるリスク

万が一、加入義務があるにも関わらず未加入だった場合、その事実が発覚した時点から最大で過去2年分の社会保険料を遡って、一括で支払うよう求められる可能性があります 。  

この場合、本来毎月の給与から天引きされるはずだった本人負担分だけでなく、会社が負担する分も含めて、会社が一旦全額を立て替えて納付します。その後、会社から本人負担分を請求されることになりますが、2年分となると数十万円にのぼることもあり、家計にとって大きな打撃となります 。  

さらに、本来受けられるはずだった傷病手当金や将来の年金が受け取れないなど、ご自身にとって大きな不利益につながるため、ルールは必ず守らなければなりません。

「入りたくない」一番の理由、それは「手取りが減るから」ではありませんか?

社会保険加入をためらう一番の理由は、やはり「手取りが減ってしまう」こと、いわゆる「働き損」への不安でしょう。この漠然とした不安の正体を、具体的な数字で明らかにしていきます。そして、手取りが減るというデメリットだけでなく、長期的な視点でのメリットも冷静に比較することが大切です。

「働き損」の正体|年収125万円なのに手取りは105万円に?

いわゆる「働き損」とは、収入は増えたのに、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が給与から天引きされることで、手取り額が減ってしまう逆転現象のことです。

例えば、年収130万円で働いた場合、社会保険料や税金を引かれると、手取り額が扶養内で働いていた年収129万円の時より少なくなってしまうケースがあります 。この「働いたのに損をした」という感覚が、多くの方を悩ませる原因です。  

【シミュレーション】年収106万円を超えると手取りはどう変わる?

実際に年収の壁を越えると、手取り額はどのように変化するのでしょうか。社会保険に加入した場合としない場合を比較してみましょう。

年収(額面)社会保険加入手取り年収(目安)年収105万円の時との差額
105万円なし約104万円
106万円あり約91万円▼ 約13万円
125万円あり約104万円→ ほぼ同額に回復

※社会保険料は協会けんぽ(東京都・40歳未満)を参考に計算。税額は各種控除により変動します 。  

表が示す通り、年収106万円になった途端に手取りが大きく減少し、年収125万円あたりでようやく壁を越える前の水準に回復します 。この「手取りの谷」の存在を知っておくことが非常に重要です。  

扶養を外れる=損、とは限らない|社会保険加入の3つのメリット

一時的に手取りが減るデメリットは大きいですが、社会保険への加入は、将来の安心への「投資」という側面も持っています。扶養から外れて自分で社会保険に加入することで、主に3つの大きなメリットが得られます。

  • 将来もらえる年金が増える 国民年金(基礎年金)のみだった状態から、厚生年金が上乗せされる「2階建て」になり、生涯受け取れる年金額が増えます。例えば月収8.8万円で20年間加入すると、将来の年金が月額約8,800円(年額約10.6万円)上乗せされます 。  
  • 病気やケガで働けない時に「傷病手当金」がもらえる 業務外の病気やケガで連続4日以上仕事を休んだ場合、給与のおおよそ3分の2が最長で通算1年6ヶ月間支給されます。これは扶養に入っている状態では受けられない、万が一の時の強力なセーフティネットです 。  
  • 出産時に「出産手当金」がもらえる 産休中に給与が支払われない場合に、給与のおおよそ3分の2が支給されます。これも被保険者本人だけのメリットです 。  

目先の損得だけでなく、これらの将来にわたる手厚い保障も天秤にかけて、働き方を判断することが重要です。

【実践】扶養を超えてしまった場合の具体的な対応ステップ

うっかり、あるいは意図的に扶養の壁を超えてしまった場合、慌てずに正しい手続きを踏むことが何よりも重要です。ここでは、具体的に何をすべきかをステップごとに分かりやすく解説します。

ステップ1:自分の勤務先での手続き

扶養の壁を超え、社会保険の加入要件を満たしたことがわかったら、速やかに勤務先の人事・総務担当者にその旨を伝え、加入手続きを依頼します。会社側が「被保険者資格取得届」などの必要な手続きを進めてくれます。あなたは会社の指示に従い、マイナンバーなどの情報を提供すれば問題ありません。手続きが完了すると、あなた自身の名前が記載された新しい健康保険証が交付されます。

ステップ2:配偶者の会社での手続き【最重要】

自分の手続きと並行して、最も忘れがちで重要なのが、配偶者の会社での手続きです。あなたが扶養から外れたことを、配偶者が自身の勤務先に届け出る必要があります。

具体的には、配偶者が会社から「被扶養者(異動)届」という書類を受け取り、必要事項を記入して提出します。この際、あなたがこれまで使っていた配偶者の会社の健康保険証は返却しなければなりません。この手続きを怠ると、保険料の二重払いや後々の精算など、複雑な問題につながる可能性があるため、必ず夫婦で連携して進めましょう。

【特例】一時的な収入増なら「事業主の証明」で扶養を維持できる場合も

もし扶養を超えた原因が、繁忙期対応などによる「一時的な収入増」である場合は、すぐに扶養から外れずに済む可能性があります。これは「事業主の証明による被扶養者認定」という制度で、勤務先に「収入増が一時的なものである」という証明書を発行してもらい、それを配偶者の会社経由で健康保険組合に提出することで、引き続き扶養に入り続けられるというものです 。  

ただし、この特例は恒久的なものではなく、原則として同一人物については連続2回までしか利用できません。恒常的に収入が増える見込みの場合は、この制度の対象外となります。

「働き損」を避けるための今後の選択肢

社会保険のルールと損得勘定を理解した上で、あなたが取れる今後の具体的な選択肢は2つです。「扶養内を徹底的に維持する」か、「いっそもっと稼いで手取りを増やす」か。どちらを選ぶにしても、会社との円滑なコミュニケーションが鍵となります。

選択肢①:徹底的に「扶養内」を維持する|勤務時間の調整法

最も確実な方法は、会社に相談し、年収が壁を超えないように勤務時間を調整することです。社会保険の加入条件である「週の所定労働時間20時間未満」または「月額賃金88,000円未満」になるようにシフトを調整してもらうのが現実的です。

年末に慌てて調整するのではなく、事前に「扶養の範囲内で働き続けたいので、今後のシフトについてご相談させてください」と、前向きな相談として切り出すのがポイントです 。  

選択肢②:いっそ「年収160万円以上」を目指し、手取りを増やす

中途半端に壁を超えるのが「働き損」の最大の原因です。それならば、いっそ社会保険料の負担分を吸収して、さらに手取りを増やせるくらい収入を増やすというのも賢い選択です。

シミュレーション上では年収125万円で手取りが回復しますが、これはあくまで最低ライン。目安として年収160万円を超えると、社会保険に加入しても扶養内で働いていた頃の手取り額を大きく上回り、世帯収入の増加をはっきりと実感できるケースが多くなります 。スキルアップや勤務時間を増やすなど、より積極的に働くことを検討してみるのも一つの道です。  

会社への伝え方が重要|「〇〇したいので相談です」と切り出す

どちらの選択肢を選ぶにしても、会社への伝え方が非常に重要です。感情的に「扶養から外れたくないのでシフトを減らしてください」と伝えるのではなく、「今後の働き方について、〇〇という理由でご相談させてください」と、冷静かつ協力的な姿勢で話すことが大切です 。  

「扶養内で働きたいので、週の労働時間を20時間未満に調整いただくことは可能でしょうか」 「今後、社会保険に加入することを見据えて、より多くシフトに入れるよう調整したいのですが、可能でしょうか」

このように具体的に、そして相談ベースで話すことで、会社側も事情を理解しやすく、協力的な対応を引き出しやすくなります 。  

扶養超えに関するよくある質問

Q. うっかり1ヶ月だけ扶養を超えてしまったら、すぐ手続きが必要ですか?

A. 社会保険の扶養(130万円の壁)は、過去の実績ではなく「今後の年収見込み」で判断されます。人手不足による残業などで一時的に収入が増えただけですぐに扶養から外れるわけではありません 。その場合、勤務先に「一時的な収入変動であることの証明書」を発行してもらい、配偶者の会社に提出することで、扶養を継続できる場合があります。この特例は原則として連続2回まで利用可能です。ただし、恒常的に収入が増える見込みの場合は、速やかに扶養から外れる手続きが必要です。  

Q. ダブルワークの場合、年収や労働時間はどう計算されますか?

A. ここが非常に間違いやすいポイントです。「106万円の壁」と「130万円の壁」では計算方法が異なります。

  • 106万円の壁:それぞれの勤務先ごとに加入条件(週20時間以上、月収8.8万円以上など)を満たすかで判断します。収入は合算されません。
  • 130万円の壁すべての勤務先の収入を合算して判断します。合算した年収が130万円以上になると、どの勤務先でも社会保険の加入条件を満たしていなくても、配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険・国民年金に加入する必要があります。

Q. 社会保険に加入すると、夫の会社での手続きは何か必要ですか?

A. はい、必要です。あなたがご自身の勤務先で社会保険に加入した場合、配偶者の社会保険の「被扶養者」から外れる手続きを、配偶者の勤務先で行ってもらう必要があります。配偶者が自身の会社の人事・総務担当者に「被扶養者(異動)届」を提出し、あなたが使っていた保険証を返却します。ご自身の新しい保険証が届いたら、速やかに手続きを進めてもらいましょう。

Q. 結局、扶養内で働くのと、扶養を外れて働くのはどちらが得ですか?

A. 一概にどちらが得とは言えません。これは、ご自身のライフプランや価値観によって答えが変わるからです。

  • 目先の手取り額や、家族と過ごす時間を重視するなら、勤務時間を調整して「扶養内」で働くのが合っているかもしれません。
  • 将来の年金や万が一の保障を手厚くしたい、あるいはもっとキャリアを築きたいと考えるなら、「扶養を外れて」積極的に働くのが良い選択となるでしょう。

本記事で解説した2つの選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを参考に、ご自身やご家族にとって最適な働き方をご検討ください。

まとめ

「扶養に入らず働く」というテーマについて、「社会保険に入りたくない」というお気持ちに焦点を当てて解説しました。 社会保険の加入は法律上の義務であり、意図的に避けることはできません。大切なのは、ルールを正しく理解した上で、

  • 勤務時間を調整し、扶養内を維持する
  • いっそ収入を増やし、保険料負担をカバーする

という、ご自身にとって最適な選択をすることです。働き方のことで悩んだり、会社との調整がうまくいかなかったりする場合は、専門家である社会保険労務士にご相談ください。

あなたの状況に合わせた最善の解決策を、社労士事務所altruloopが一緒に考えます。まずはお気軽にお問い合わせください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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