従業員の服装の乱れやSNSでの不適切な投稿に、明確なルールがなく指導に苦慮していませんか?
ネット上のひな形をそのまま使うだけでは、いざという時に会社を守ることはできません。
この記事では、判例も踏まえながら、トラブルを未然に防ぐ実用的な服務規程の作り方を社労士の視点から解説します。またトラブルを防ぐ実用的なオリジナル服務規程を作りたい方は社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)へぜひ一度ご相談ください。
【ダウンロード可】服務規程サンプル(ひな形)
【テンプレート利用の注意点:貴社に合わせたカスタマイズが不可欠です】
のテンプレートは、法的な要件を満たすための一般的な枠組みを提供するものです。しかし、貴社の業務内容、働き方の実態、企業文化などを反映させなければ、意味のないものになってしまいます。 例えば、テンプレート上の休日規定が自社のシフト実態と異なっていたり、手当の規定が自社の支給実態と合っていなかったりすると、かえってトラブルの原因になりかねません。テンプレートはあくまで「たたき台」として活用し、必ず専門家である社労士に相談の上、自社に最適な形にカスタマイズしてください。
なぜ、このサンプルをそのまま使ってはいけないのか?
厚生労働省が公開しているモデル就業規則など 、インターネットで手に入るひな形は、非常に一般的かつ網羅的に作られています。しかし、それは あらゆる企業に当てはまるように作られているため、特定の企業の個別事情には対応していないということです。
ひな形をそのまま使うのは、どんな扉でも一応は開けられる「マスターキー」のようなものです。鍵は開くかもしれませんが、あなたの家の鍵穴にぴったり合うわけではなく、本当の意味での安全は確保できません。
会社のルールも同様で、以下のような自社の状況に合わせて作らなければ、実用的なものにはなりません。
- 業種・業態:顧客と頻繁に接する小売業と、社内での作業が中心の製造業では、求められる服務規律が異なります。
- 企業文化:自由闊達な風土を目指す会社と、厳格な規律を重んじる会社では、ルールのあり方が変わります。
- 従業員の構成:正社員、パート・アルバイト、テレワーク勤務者など、多様な働き方に合わせたルールが必要です 。
カスタマイズを怠ると生じる3つのリスク
では、ひな形を安易に流用し、自社に合わせたカスタマイズを怠ると、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。
リスク1:トラブル時に「使えない」規定になる
最も大きなリスクは、いざ問題が起きた時に規程が役に立たないことです。例えば、規程に「従業員は品位を保つこと」とだけ書かれていたとします。ある従業員がダメージジーンズで出社した際に注意しても、「品位を損なっていない」と反論されれば、それ以上の指導は困難です。 曖昧なルールは、法的な強制力を持ちません。 懲戒処分などを科しても、後に裁判で「客観的な基準がなく不当だ」として無効と判断される可能性があります 。
リスク2:問題社員への対応が後手に回る
明確なルールがなければ、問題行動が起きてから場当たり的な対応をするしかありません。会社側は「常識的に考えて問題だ」と主張しても、従業員側は「規則に書かれていない」と反論するでしょう 。これでは、指導する側が疲弊するだけでなく、問題がエスカレートするのを防げません。
ルールとは、問題が起きる前に、会社の基準を明確に示しておくためのものです。
リスク3:従業員の不信感と士気の低下を招く
ルールが曖昧で、上司のその場の判断によって指導内容が変わると、従業員は「不公平だ」と感じます。なぜAさんは許されて、Bさんは注意されるのか。その基準が不明確であれば、会社や上司への不信感が募り、職場全体の士気低下につながります。明確で公平なルールを整備し、それを正しく運用することこそが、従業員の信頼を得る第一歩です。
就業規則の作成や見直しに関する基本的な考え方については、こちらの記事も参考にしてください。

【最重要】現代の2大トラブル「身だしなみ」「SNS」規定の作り込み方
ここからは、多くの人事担当者が頭を悩ませる現代的な課題、「身だしなみ」と「SNS利用」について、トラブルを防ぐための具体的な規程の作り方を判例も交えて解説します。
<条文例>どこまでOK?服装・髪型・ネイルの合理的な定め方
従業員の服装や髪型は、個人の自由が尊重されるべき領域です。しかし、会社の事業内容によっては、一定の制約を課すことが認められています。その判断基準は「業務上の必要性があり、かつ、その内容が合理的であるか」という点です 。
裁判例から学ぶ「合理性」の基準
過去の裁判例は、この「合理性」を判断する上で重要なヒントを与えてくれます。
例えば、ハイヤー運転手のひげを禁止した会社の規定が争われた裁判(イースタン・エアポート・モータース事件)では、裁判所は「顧客に不快感を与えない」という業務上の必要性を認めました。しかし、その上で、禁止されるのは「無精ひげ」や「奇異なひげ」であり、手入れされたひげまで一律に禁止するのは行き過ぎだと判断しました 。
この判例が示すのは、たとえルールを設ける必要性が認められても、その内容が従業員の自由を過度に制約するものであってはならない、という重要な原則です。
良い規程と悪い規程の具体例
この原則を踏まえて、規程の具体例を見てみましょう。
- 【悪い例:曖昧で無効になりやすい】
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第〇条(身だしなみ) 従業員は、常に清潔感を保ち、社会人として品位ある身だしなみを心がけること。
(なぜ悪いのか):「清潔感」「品位」といった言葉はあまりに主観的です。人によって解釈が異なるため、客観的な指導基準になり得ず、法的な強制力も持ちません。
- 【良い例:具体的で理由が明確】
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第〇条(身だしなみ) 1. 従業員は、勤務するにあたり、常に清潔を保ち、周囲に不快感を与えない身だしなみを心がけること。 2. 特に、顧客と直接応対する営業職および受付担当者は、会社の代表として信頼性を損なわないよう、以下の基準を遵守すること。 (1) 服装:スーツまたはそれに準ずる服装(ビジネスカジュアル)とし、Tシャツ、ジーンズ、サンダル等の軽装は避ける。 (2) 髪型・髪色:過度に奇抜な髪型や、業務にふさわしくないと客観的に判断される極端な染色は控える。 (3) 爪:業務に支障をきたす長さや、過度に華美な装飾は控える。 3. 前項の規定にかかわらず、宗教上の理由や個人の身体的特徴など、正当な事情がある場合は、会社に申し出て協議することができる。
(なぜ良いのか):対象となる職種を限定し(営業・受付)、「なぜ」そのルールが必要なのか(顧客からの信頼性)という業務上の必要性を明確にしています。 また、禁止事項を具体的に列挙しつつ、「協議できる」という例外規定を設けることで、ルールの合理性と柔軟性を担保しています。
<条文例>プライベートも対象?SNS利用の注意喚起ルール
従業員のプライベートなSNS投稿に、会社はどこまで口出しできるのでしょうか。結論から言えば、個人の私生活上の行為を包括的に規制することはできません 。
しかし、その投稿が会社の業務に直接的な悪影響を及ぼす場合には、例外的に規制が可能です。重要なのは、SNS利用そのものを禁止するのではなく、会社に損害を与える「特定の行為」を禁止するというアプローチです。
会社の信用を守るための条文例
以下に、会社のレピュテーションリスクを防ぐための具体的な条文例を挙げます。
第〇条(ソーシャルメディアの利用) 従業員は、個人のアカウントでソーシャルメディア(SNS、ブログ、動画投稿サイト等)を利用するにあたり、以下の行為を行ってはならない。 1. 会社の機密情報、顧客・取引先の非公開情報、その他業務上知り得た情報を、会社の許可なく発信すること。 2. 会社、役員、他の従業員、顧客、取引先に対する誹謗中傷や、名誉・信用を毀損する内容を発信すること。 3. 会社の制服やロゴ、社内と特定できる場所で撮影した写真・動画を、会社の許可なく公開し、会社の信用を損なうような不適切な内容(いわゆる「バイトテロ」に類する行為を含む)を発信すること 。4. 違法行為や公序良俗に反する行為を助長、または肯定する内容を発信し、会社の社会的評価を低下させること。
この規程のポイントは、あくまで「会社の信用や機密を守る」という業務上の正当な目的の範囲内で、禁止事項を具体的に定めている点です。なお、会社が調査できるのは、原則として会社所有のPCやサーバー内の情報などに限られ、合理的な必要性が認められる場合に限定されます 。
【社労士の視点】裁判で無効とされない「合理的」なルールの線引き
結局のところ、服務規程が有効か無効かを分ける線引きは「合理性」に尽きます。そして、その合理性は「会社の業務上の必要性」と「従業員の個人の自由」を天秤にかけて判断されます。
以前、あるIT企業からご相談を受けたケースです。その会社では、顧客と全く接点のないエンジニア職に対しても「金髪禁止」という服務規程がありました。社長の「規律は大事だ」という強い信念によるものでした。 しかし、あるエンジニアが金髪にしたため注意したところ、「業務に何の関係があるのか」と強く反発されました。会社は規程を根拠に懲戒処分を検討していましたが、私は「お待ちください」と止めました。
なぜなら、その規程は裁判になれば無効と判断される可能性が極めて高かったからです。そのエンジニアの業務内容と金髪であることの間に、業務上の具体的な支障や会社への損害といった合理的な関連性を説明できません。もし処分を強行すれば、不当な懲戒処分として会社が訴えられ、敗訴するリスクがありました。
このケースからわかるように、ルールは厳しいから強いのではなく、正当な理由があるからこそ強いのです。規程を作る際は、常に「このルールが必要な理由を、客観的に第三者(例えば裁判官)へ説明できるか?」と自問自答することが、会社を守るための最も重要な視点となります。
服務規程に違反した従業員への正しい対応3ステップ
どんなに素晴らしい服務規程を作っても、違反者が出た際の対応を間違えれば、トラブルは防げません。ここでは、違反した従業員への法的に安全な対応手順を3つのステップで解説します。
ステップ1:客観的な事実確認と証拠の記録
感情的に叱責する前に、まず客観的な事実確認と証拠の確保を徹底してください 。憶測や伝聞で動くのは最も危険です。
- いつ、どこで、誰が、何をしたのか(5W1H)を具体的に記録します。
- SNSの投稿であればスクリーンショット、メールであればその内容など、物的な証拠を保全します。
- 必要であれば、関係者から中立的な立場でヒアリングを行い、内容を記録に残します 。
この段階の目的は、後の指導や処分が「事実」に基づいていることを証明するための土台を固めることです。
ステップ2:注意・指導(口頭から指導書へ)
証拠が固まったら、本人への注意・指導に移ります。ここでのポイントは、段階的に対応を強めていくことです。
- 口頭での注意
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まずは、本人を個別に呼び、問題となっている行動を具体的に指摘し、改善を促します。この際、人格を非難するのではなく、あくまで「行動」に焦点を当てることが重要です 。指導した日時や内容は、必ず記録しておきましょう。
- 指導書の交付
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口頭での注意後も改善が見られない場合は、書面での指導に切り替えます。「指導書」や「注意書」といった表題で、以下の内容を記載した書面を交付します 。
- 問題となっている具体的な事実
- 違反している服務規程の条文
- 具体的な改善指示
- 改善期限
- 「改善されない場合は、就業規則に基づく懲戒処分を検討する」という予告
書面を渡すことで、会社がこの問題を重要視しているという強いメッセージを伝え、改善への真剣な取り組みを促します。
ステップ3:懲戒処分の検討と実行(けん責・減給など)
再三の指導にもかかわらず改善が見られない場合、最終手段として懲戒処分を検討します。ただし、ここで絶対に守らなければならないのが「処分の重さと行為の重さのバランス」です 。
軽い違反に対して、いきなり解雇などの重い処分を下すことは「懲戒権の濫用」として無効になります(労働契約法第15条)。処分は、軽いものから段階的に検討するのが鉄則です。
懲戒処分の種類 | 内容 | 重さ |
---|---|---|
戒告・けん責 | 将来を戒める口頭または書面での注意。始末書の提出を求める場合もある。 | 軽い |
減給 | 賃金から一定額を差し引く。法律上の上限あり(労働基準法第91条)。 | ↓ |
出勤停止 | 一定期間の出勤を禁止し、その間の賃金は支払わない。 | ↓ |
降格 | 役職や職位を引き下げる。 | ↓ |
諭旨解雇 | 退職を勧告し、応じない場合は懲戒解雇に移行する。 | ↓ |
懲戒解雇 | 最も重い処分。即時解雇。極めて悪質な場合に限られる。 | 重い |
また、懲戒処分を決定する前には、必ず本人に「弁明の機会」を与える必要があります 。本人の言い分を聞く手続きを踏むことは、処分の公正性を担保する上で不可欠です。
この一連のプロセスは、単に罰を与えるためではありません。会社が適切な手順を踏んで、公正に対応したという記録を残し、将来の法的なリスクから会社自身を守るための重要なリスクマネジメントなのです。
懲戒処分に関するより詳しい内容については、当事務所の労務相談サービスページもご覧ください。
よくある質問
Q. パートやアルバイトにも服務規程は適用されますか?
はい、適用されます。企業の秩序を維持するためのルールは、雇用形態に関わらず全ての従業員に適用されるのが原則です。ただし、勤務時間や職務内容が正社員と異なる場合は、その実態に合わせて内容を調整することが望ましいでしょう。例えば、服装規程をパートタイマーにどこまで適用するかなど、働き方に合わせた配慮が必要です。
Q. 服務規程を新設・変更する際に必要な手続きはありますか?
はい、必要です。服務規程は就業規則の一部とみなされるため、新設・変更する際は、労働基準法に定められた手続きを踏む必要があります。具体的には、①従業員の過半数代表者からの意見聴取を行い、②その意見書を添付して、③所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります 。特に、懲戒に関する規定を設けたり変更したりする場合は、従業員にとって不利益な変更とならないよう、慎重な手続きが求められます。
Q. テレワークにおける服務規程の注意点は何ですか?
テレワークはオフィス勤務と環境が大きく異なるため、特有のルールを明記する必要があります。具体的には、①始業・終業時刻の報告方法、②勤務中の離席(中抜け)のルール、③通信費用の負担、そして最も重要な④情報セキュリティの確保(私用PCの利用可否、データの取り扱いなど)に関する規定を盛り込むことが不可欠です。
Q. 作成した服務規程は、どうやって周知すれば良いですか?
作成した服務規程(就業規則)は、全従業員がいつでも閲覧できる状態にしておくことが法律で義務付けられています 。周知が不十分だと、規程自体の効力が認められない可能性もあります。具体的な方法としては、
①社内イントラネットへの掲示、②書面での配布、③入社時や研修時の説明などが挙げられます。複数の方法を組み合わせ、全従業員が内容を確実に認識できるようにすることが重要です。
まとめ
本記事で提示した服務規程のサンプルは、あくまで出発点に過ぎません。本当に会社の秩序を守り、従業員との信頼関係を築くためには、貴社の業種、規模、そして「今」直面している課題に合わせたオーダーメイドのカスタマイズが不可欠です。
自社に最適な服務規程の作成や、既存規程の見直しでお悩みの際は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
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