【テンプレート付】パート就業規則の作り方|同一労働同一賃金のトラブル防止策を社労士が解説

パートタイマーの就業規則、正社員用の流用や何年も前の雛形で済ませていませんか?特に「同一労働同一賃金」への対応が不十分だと、思わぬ労務トラブルに発展しかねません。この法原則は、大企業だけでなく、2021年4月からはすべての中小企業にも適用されています 。

この記事では、法改正に準拠し、紛争リスクを未然に防ぐためのパートタイマー向け就業規則の作り方を、社労士事務所altruloopが実践的なテンプレート付きで解説します。  

目次

なぜ今、パートタイマー就業規則が重要なのか?よくある3つのトラブル事例

就業規則の不備は、単なる書類上の問題ではありません。それは、経営者が考える以上に深刻な労務トラブルの火種となります。特に、ルールが曖昧な場合に発生する「言った・言わない」の争いは、解決に多大な時間とコストを要し、職場の士気を著しく低下させます。ここでは、就業規則がなかったり、内容が不十分だったりした場合に起こりがちな3つの典型的なトラブル事例をご紹介します。

事例1:「私だけ賞与がないのは違法では?」同一労働同一賃金をめぐるトラブル

長年勤務し、店舗の売上に大きく貢献してきたパートタイマーのBさん。ある日、同じような仕事をしている正社員には賞与が支給されていることを知りました。上司に理由を尋ねると、「正社員とは役割への期待が違うから」という曖昧な説明しか得られませんでした 。納得できないBさんは、労働局に相談し、会社は「同一労働同一賃金」の原則に違反している可能性があるとして、指導を受けることになりました。  

このケースの問題点は、雇用形態の違いだけを理由に、賞与を「支給する・しない」と安易に判断してしまったことです。パートタイム・有期雇用労働法では、賞与のように会社の業績への貢献に応じて支給するものについて、貢献度が同じであれば同一の、違いがあればその違いに応じた支給求めています 。会社側は、正社員とパートタイマーの貢献度の違いを客観的かつ具体的に説明できなければ、「不合理な待遇差」と判断されるリスクが非常に高いのです。  

同一労働同一賃金の考え方についてはこちらの記事を参考にしてください。

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事例2:「聞いていません」有給休暇の付与日数をめぐるトラブル

週3日で勤務するパートタイマーのCさんが、年次有給休暇の取得を申請しました。Cさんは、正社員と同じ日数がもらえるものと思い込んでいましたが、会社側は所定労働日数に応じた比例付与を想定していました。しかし、会社には正社員用の就業規則しかなく、パートタイマーの有給休暇に関する個別の規定がありませんでした 。  

この場合、従業員に有利な条件が適用される原則から、就業規則に定められた正社員と同じ日数の有給休暇を付与せざるを得なくなる可能性があります。パートタイマーの働き方は多様であるため、務日数や時間に応じた有給休暇の付与ルールを就業規則で明確に定めておくことが、無用な混乱とコスト増を防ぐために不可欠です。

事例3:「いきなりクビ?」契約更新(雇い止め)をめぐるトラブル

1年契約で働き、これまで2回契約を更新してきたパートタイマーのDさん。当然、次も更新されるものと思っていた矢先、突然「次の契約更新はない」と告げられました。契約書には更新の有無や判断基準について具体的な記載がなく、Dさんは「事実上の解雇ではないか」と反発し、紛争に発展しました。

有期労働契約において、契約更新が形式的な手続きになっていたり、従業員が更新を期待する合理的な理由があったりする場合、安易な雇止め(契約を更新しないこと)は「無効」と判断されることがあります 。トラブルを避けるためには、就業規則や労働条件通知書で「契約更新の有無」「更新する場合の判断基準」「契約期間の上限」などをあらかじめ明示し、従業員の期待を適切に管理することが極めて重要です 。  

【最重要】「同一労働同一賃金」違反にならない規定の作り方

「同一労働同一賃金」の原則は、パートタイマーの就業規則を作成する上で最も重要な核心部分です。この原則は、「雇用形態が違うから待遇も違う」という安易な考え方を否定します。待遇差を設ける場合は、「職務内容(業務の内容や責任の範囲)」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の違いに基づいた、客観的で合理的な理由がなければなりません。

そして、法律は事業主に対して、パートタイマーから待遇差の理由について説明を求められた際に、その理由を説明する義務を課しています 。つまり、待遇差の根拠を就業規則に明記し、いつでも説明できるように準備しておくことが、法的な義務であり、リスク管理の要となるのです。  

基本給:職務内容・責任の範囲を明確に規定する方法

基本給は、賃金の根幹をなす最も重要な要素です。「パートだから時給は一律〇〇円」といった決め方は非常に危険です。基本給の違いを合理的に説明するためには、その決定基準を明確に規定する必要があります。厚生労働省のガイドラインでは、基本給を構成する要素として、主に以下の3つが挙げられています 。  

能力または経験に応じて支給するもの

正社員の職務には特定の資格や高度な専門知識、豊富な実務経験が求められる一方、パートタイマーの職務にはそれらが求められない場合、基本給に差を設けることは合理的と判断されやすいです。

【規定例】

第〇条(基本給)
基本給は、本人の職務内容、職務遂行能力、経験、資格、勤続年数等を総合的に勘案して、各人別に決定する。 2.職務内容の詳細は、別途定める「職務等級規程」によるものとする。

業績または成果に応じて支給するもの

正社員にはノルマが課され、その達成度が人事評価や給与に反映される一方、パートタイマーにはそれが無い場合、その違いを根拠に待遇差を設けることが可能です。

【規定例】

第〇条(人事評価)
会社は、従業員の能力、貢献度、勤務成績等を評価するため、年1回人事評価を行う。 2.評価結果は、昇給および賞与の決定に反映させるものとする。ただし、パートタイマーについては、原則として人事評価に基づく賞与・昇給はないものとする。

勤続年数に応じて支給するもの

勤続によって習熟度が向上することを期待して昇給制度を設ける場合、その制度はパートタイマーにも適用されなければなりません。正社員だけに自動的な定期昇給があり、パートタイマーには一切ない、という制度は不合理と判断される可能性が高いです。

これらの違いを客観的に示すためにも、正社員とパートタイマーそれぞれの職務内容を具体的に記述した「職務記述書(ジョブディスクリプション)」を整備しておくことを強く推奨します。

賞与・退職金:貢献度に応じた支給基準をどう定めるか

賞与や退職金は、特にトラブルになりやすい項目です。ここでも重要なのは「会社への貢献度」という考え方です。

賞与(ボーナス)

「パートタイマーには賞与なし」という規定は、直ちに違法ではありませんが、非常にリスクが高い状態です。会社の業績に貢献しているパートタイマーに対して、一切賞与を支給しないことの合理的な理由を説明するのは困難だからです 。  

安全な対応としては、貢献度に応じて支給額に差を設ける方法があります。

【リスクの高い規定例】

第〇条(賞与)
賞与は、正社員に限り、会社の業績等を勘案して支給することがある。

【推奨される規定例】

第〇条(賞与)
会社は、会社の業績および従業員の勤務成績、会社への貢献度等を勘案し、夏季(7月)および冬季(12月)に賞与を支給することがある。 2.支給対象者、算定基準、算定期間等は、その都度定める。正社員とパートタイマーとで、職務内容や責任の範囲が異なることから、貢献度に応じた算定基準を別途設ける場合がある。

退職金

退職金についても、賞与と同様の考え方が適用されます。勤続年数や貢献度が同等であるにもかかわらず、雇用形態だけを理由にパートタイマーを退職金制度の対象外とすることは、不合理と判断されるリスクがあります。 特に、無期転換したパートタイマーや、長年勤務しているパートタイマーを対象外とすることは慎重に検討すべきです。対応策としては、正社員とは別の基準でパートタイマー向けの退職金制度(例えば、勤続年数や貢献度に応じたポイント制など)を設けることが考えられます。

各種手当(通勤・精皆勤等):正社員との不合理な格差をなくすには

各種手当については、その手当の趣旨・目的に照らして判断されます。同じ条件を満たすのであれば、原則として正社員とパートタイマーで同一の支給をしなければなりません。以下の表で、典型的な手当ごとの判断ポイントを確認しましょう。

スクロールできます
手当の種類不合理と判断されやすい例合理的な説明が可能な例
通勤手当正社員には実費全額を支給するが、パートタイマーには1日500円など低い上限を設ける。全従業員に共通の規定(例:公共交通機関利用の場合は実費を支給、上限月3万円)を適用する。
精皆勤手当業務内容が同じにもかかわらず、正社員にのみ支給する。全従業員に同じ基準(例:1ヶ月間の無遅刻・無欠勤者に対し月額5,000円を支給)で支給する。
役職手当パートの店長と正社員の店長の職務内容・責任が全く同じなのに、正社員店長にのみ支給する 。  役職の責任の範囲(部下の人数、決裁権限、トラブル対応の責任など)の違いに応じて、手当額に差を設ける 。  
特殊作業手当同じ危険度・作業環境で業務に従事しているのに、正社員にのみ支給する 。  業務の危険度や作業環境に応じて、全従業員に同じ基準で支給する。
住宅手当・家族手当雇用形態のみを理由に、パートタイマーには一切支給しない。(判例は分かれるが)転勤の有無など、生活基盤への影響度合いの違いを根拠に差を設ける。例えば、転勤の可能性がある正社員にのみ支給するなど 。  

【テンプレート付】トラブルを防ぐパートタイマー就業規則の基本構成

ここでは、就業規則に定めるべき基本的な項目と、トラブル防止のために特に注意すべきポイントを解説します。ただし、テンプレートはあくまで雛形です。自社の実態に合わせてカスタマイズすることが不可欠であることを念頭に置いてください。

必ず定めるべきこと(労働時間・賃金・退職)の重要ポイント

これらは「絶対的必要記載事項」と呼ばれ、就業規則に必ず記載しなければならない項目です。

  • 労働時間・休憩・休日:始業・終業時刻、休憩時間、休日を定めます。パートタイマーの場合は、「個別の労働契約で定める」とした上で、シフトの決定方法や通知時期に関するルールを明記することが重要です。
  • 賃金:賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締切日・支払日、昇給に関する事項を定めます。基本給の決定根拠については、前述の「同一労働同一賃金」のセクションを参考に、明確に規定します。
  • 退職・解雇:自己都合退職の手続き(何日前に申し出るか等)や、解雇事由を定めます。有期契約のパートタイマーについては、契約期間、更新の有無、更新の判断基準もここに含めます。

トラブル防止の要(賞与・休暇・休職)で差がつくポイント

これらは「相対的必要記載事項」と呼ばれ、社内に制度がある場合に記載が必要となる項目です。明確なルール作りがトラブル防止の鍵となります。

  • 賞与・退職金:支給する制度がある場合は、支給対象者、支給時期、計算方法などを定めます。ここでも「同一労働同一賃金」の原則を踏まえた規定が必要です。
  • 休暇制度:年次有給休暇以外に、慶弔休暇などの特別休暇を設ける場合、対象者、日数、有給か無給かなどを定めます。パートタイマーにも適用するのか、適用する場合の条件などを明確にします 。  
  • 休職制度:私傷病による長期欠勤の場合の休職制度を設ける場合、その適用対象者、期間、復職の手続きなどを定めます。パートタイマーを完全に適用除外とすると、不合理と判断される可能性があるため注意が必要です 。  

【altruloop監修】今すぐ使える!パートタイマー就業規則テンプレート

パートタイマー向け就業規則(雛形)

【テンプレート利用の注意点:貴社に合わせたカスタマイズが不可欠です】
のテンプレートは、法的な要件を満たすための一般的な枠組みを提供するものです。しかし、貴社の業務内容、働き方の実態、企業文化などを反映させなければ、意味のないものになってしまいます。 例えば、テンプレート上の休日規定が自社のシフト実態と異なっていたり、手当の規定が自社の支給実態と合っていなかったりすると、かえってトラブルの原因になりかねません。テンプレートはあくまで「たたき台」として活用し、必ず専門家である社労士に相談の上、自社に最適な形にカスタマイズしてください。

よくある質問

パートタイマーの就業規則に関して、経営者や人事担当者の方からよく寄せられる質問にお答えします。

Q. パートが10人未満でも就業規則は作ったほうがいいですか?

はい、強く推奨します。 常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律で義務付けられています 。しかし、10人未満の場合でも、作成するメリットは非常に大きいです。ルールを明文化することで、労働条件をめぐる「言った・言わない」のトラブルを未然に防ぎ、公平な職場環境の基礎を築くことができます。これは、将来の労務リスクに対する最も効果的な投資の一つです 。  

Q. 労働条件通知書と就業規則、どちらが優先されますか?

原則として、従業員にとって有利な条件が記載されている方が優先適用されます 。例えば、就業規則では賞与「なし」とされているのに、個別の労働条件通知書で「賞与あり」と記載されていれば、その従業員には賞与を支払う義務が生じます。  

ただし、重要な例外があります。労働条件通知書の内容が、就業規則で定める基準を下回っている場合、その部分は無効となり、就業規則の基準が適用されます(労働契約法第12条)。無用な混乱を避けるためにも、両者の内容を一致させておくことが極めて重要です。  

労働条件通知書の交付義務については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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Q. 正社員用の就業規則と別に作るべきですか?

はい、別に作成することを推奨します。 正社員とパートタイマーでは、労働時間、休日、賃金体系、適用される制度(賞与、退職金、休職制度など)が異なるケースがほとんどです 。就業規則を分けることで、それぞれの雇用形態に応じたルールが明確になり、管理がしやすくなります。また、従業員自身も自分の労働条件を理解しやすくなり、誤解やトラブルの防止につながります。  

Q. 就業規則を作った後、従業員にどう周知すればいいですか?

作成・変更した就業規則は、全従業員に周知する義務があります(労働基準法第106条)。周知されていない就業規則は、たとえ労働基準監督署に届け出ていても法的な効力が認められません 。周知方法は、以下のいずれかの方法で行う必要があります。  

  • 事業所の見やすい場所(休憩室や更衣室など)への掲示、または備え付け  
  • 各従業員へ書面で交付する  
  • 社内サーバーやイントラネットなどにデータで保存し、全従業員がいつでも閲覧できる状態にしておく

この周知義務は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトを含むすべての労働者が対象です 。  

まとめ

パートタイマー向けの就業規則は、単なる法律上の義務ではなく、企業の労務リスクを管理し、従業員が安心して働ける環境を作るための重要な経営ツールです。特に「同一労働同一賃金」の原則を踏まえ、基本給や賞与、各種手当の規定について、なぜそのような待遇になるのかを合理的に説明できるよう整備することが、将来のトラブルを未然に防ぐ最大の鍵となります。本記事で提供したテンプレートは第一歩に過ぎません。自社の状況に合わせた最適な就業規則の作成や見直しに少しでも不安がある場合は、専門家のサポートを活用することが、結果的に会社を守ることに繋がります。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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