仮眠は労働時間?休憩時間?判例から読み解く判断と企業が取るべき対応

夜勤や宿直業務を伴う企業、特に警備業、運送業、医療・介護業などの事業主様や人事労務担当者の皆様にとって、「仮眠時間」の法的な取り扱いは、非常に悩ましい問題の一つではないでしょうか。「仮眠時間は労働時間に含まれるのだろうか?」「仮眠時間中にも給料を支払う必要があるのだろうか?」といった疑問は、多くの企業が抱える共通の課題です。

これらの疑問を曖昧なまま放置してしまうと、後々、従業員からの未払い残業代請求や、労働基準監督署からの是正勧告といった、企業経営に深刻な影響を及ぼしかねない労務リスクに発展する可能性があります。問題が顕在化してからでは対応が難しくなるケースも少なくありません。

この記事では、労働基準法や重要な判例、特に仮眠時間の労働時間性に関するリーディングケースとされる「大星ビル管理事件」などを基に、仮眠時間と労働時間の法的な考え方、具体的な判断基準、企業が直面する可能性のあるリスク、そしてそれらに対する実務的な対策について、人事労務の専門家である社労士が分かりやすく解説します。社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)は、貴社の適正な労務管理をサポートします。

この記事をお読みいただくことで、自社の仮眠時間の運用が法的に問題ないか、どのような点に注意すべきかを判断する一助となり、潜在的なリスクを未然に回避し、従業員が安心して働ける環境を整備することで、健全な企業経営に繋がる知識を得ていただければ幸いです。

目次

そもそも仮眠時間と労働時間の関係とは?

仮眠時間の法的な取り扱いを理解する上で、まず基本となる「労働時間」の定義、そして仮眠時間がどのような場合に「労働時間」または「休憩時間」と判断されるのかを正確に把握することが不可欠です。

労働時間の定義:使用者の指揮命令下にあるかないか

労働時間に関する問題で最も根本的な原則は、その時間が労働者が「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるか否かという点です。この原則を理解することが、仮眠時間の問題を考える上での出発点となります。

労働基準法における「労働時間」の考え方

意外に思われるかもしれませんが、労働基準法には「労働時間」という言葉の明確な定義規定は存在しません。しかし、長年にわたる行政解釈や数多くの裁判例を通じて、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と解釈・運用されています 。この解釈が、労働時間に関するあらゆる判断の基礎となります。  

重要なのは、この「指揮命令下」には、使用者が口頭や書面で明確に業務を指示した場合(明示的な指示)だけでなく、明確な指示がなくとも、状況からみて業務を行わざるを得ない場合(黙示の指示)も含まれるという点です 。つまり、会社が「これは業務指示ではない」と主張したとしても、実態として従業員が業務を強制されていると客観的に評価できれば、それは労働時間とみなされる可能性があるのです。  

法律に「労働時間」の具体的な定義が明記されていないことは、裏を返せば、個々のケースにおける「指揮命令下」の解釈が非常に重要になることを意味します。企業側は自社に都合の良いように解釈しがちですが、裁判所や労働基準監督署は、契約書や就業規則の文言だけでなく、客観的な業務の実態を重視して判断します。この認識のずれが、後に労務トラブルを引き起こす大きな要因となり得ます。このような法解釈の背景があるからこそ、企業は常に最新の判例や行政解釈の動向を注視し、自社の就業規則等で労働時間管理に関する具体的な規定を整備し、従業員に周知徹底することが、紛争を未然に防ぐ上で極めて重要になるのです。

「指揮命令下」とは具体的にどのような状態か

では、「使用者の指揮命令下」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。これは、労働者が使用者の指示に基づき、業務に従事している時間、または業務への参加が事実上強制されていると評価できる時間を意味します 。  

具体例としては、以下のような時間が挙げられます。

  • 使用者の明示的な指示によって行われる作業時間
  • 使用者の指示があれば直ちに業務に従事しなければならない状態で待機している時間(いわゆる「手待ち時間」)
  • 業務上、参加が義務付けられている研修や教育訓練の受講時間  
  • 使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間  

ここでの重要なポイントは、就業規則や雇用契約書にどのように書かれているか、といった形式的な取り決めだけでは判断されないという点です。あくまでも、客観的に見て、その労働者の行為が使用者から義務付けられたものと評価できるかどうか、その実態によって個別具体的に判断されます 。  

「事実上強制されている」という状態の判断は、特に注意が必要です。例えば、会社側が「任意参加の研修」と説明していても、参加しないことによって人事評価で不利益な扱いを受ける可能性があったり、職場内で孤立してしまうような雰囲気があったりすれば、従業員にとっては実質的な強制となり、「黙示の指示」があったと評価されることがあります。このような企業側と従業員側の認識のギャップが、後々のトラブルの火種となることは少なくありません。企業としては、形式的な自由だけでなく、従業員が感じる心理的なプレッシャーや、職場内のパワーバランスなども考慮に入れ、より慎重な運用を心がける必要があります。特に、契約社員やパートタイム労働者など、比較的立場が弱い従業員に対しては、誤解を招かないような明確な指示や、参加・不参加が本人の自由な意思決定に委ねられていることを保証するような配慮が求められます。

仮眠時間が「労働時間」と判断される場合とは?

仮眠時間であっても、その実態が使用者の指揮命令下に置かれていると評価される場合には、労働時間に該当します 。単に「仮眠」という名称が付けられているだけで、実際には労働からの完全な解放が保障されていないのであれば、それは法的には労働時間とみなされ、賃金支払いの対象となるリスクがあります。  

警報や電話対応など実作業への従事が義務付けられているケース

仮眠時間中に、警報が作動した場合の対応や、顧客からの電話応対などが義務付けられている状況は、仮眠時間が労働時間と判断される典型的なケースです 。このような場合、労働者は心身ともに完全に休息することができず、常に業務への即応体制を維持していると評価されます。そのため、仮眠時間全体が労働時間とみなされる可能性が高くなります。後のH2で詳述する「大星ビル管理事件」という有名な判例でも、この点が非常に重視されました 。  

「義務付けられている」という言葉の範囲は、企業が考えているよりも広い場合があることに注意が必要です。就業規則に明記されていなくても、例えば過去に仮眠中の電話対応を怠った従業員が人事考課で不利益な扱いを受けた事例があったり、対応するのが当然という職場の慣行があったりすれば、それは実質的な義務付けと解釈される可能性があります。

仮眠場所からの離脱が制限されているケース

会社によって仮眠場所が指定され、その場所からの離脱が原則として禁止されている場合(場所的拘束)、仮眠時間は労働時間と認定されやすくなります 。例えば、仮眠時間中の外出が一切認められない、あるいは許可制で、許可されたとしても事業所のごく近隣に限られるなど、行動の自由が著しく制限されている場合も同様の判断がなされる傾向にあります。これは、労働者がその時間を自由に利用できず、依然として使用者の管理下に置かれていると評価されるためです。  

場所的拘束の強弱は、労働時間性の判断において重要な要素となります。単に「仮眠室で寝てください」という指示だけでは直ちに労働時間とはなりませんが、その仮眠室が実質的に「待機場所」としての機能を持ち、緊急時の業務対応と密接に結びついている場合には、労働時間性が強く肯定されることになります。例えば、自宅での仮眠が許容されている場合は労働時間性が弱まる傾向にあるのに対し 、事業所内の特定の場所での待機が求められる場合は、その場所が「業務遂行のための待機場所」としての性格を帯びるため、指揮命令下にあると判断されやすくなるのです。  

労働からの解放が実質的に保障されていないその他のケース

上記のケース以外にも、仮眠時間が労働時間と判断される要因は存在します。例えば、仮眠時間中に実際の業務対応が頻繁に発生する場合 や、仮眠時間を自由に利用できない状況(例:仮眠中も定期的な巡回業務が義務付けられている、仮眠中でも来客があれば対応しなければならないなど) も、労働時間と判断される可能性を高めます。  

厚生労働省が示しているガイドラインにおいても、「仮眠室などにおける仮眠の時間について、電話等に対応する必要はなく、実際に業務を行うこともないような場合には、労働時間に該当しません」とされています 。この記述は裏を返せば、電話対応の必要性があったり、実際に業務を行う可能性があったりする場合には、労働時間性が高まることを示唆していると言えます。  

「労働からの解放」とは、単に作業をしていない状態を指すのではなく、精神的にも業務から完全に離れ、労働者が自分の意思で自由に時間を使える状態を意味します。たとえ物理的に作業をしていなくても、いつ呼び出されるか分からないという緊張状態や、業務に関する指示を待っている状態は、精神的に解放されているとは言えません。このような状態は、使用者の指揮命令下にあると評価されるのです。

企業が仮眠時間を設ける際には、単に「寝ても良い時間」と指示するだけでなく、「その時間に何をしても良いのか」「緊急時の対応義務はあるのか、あるとすればどの程度か」といった点を具体的に定め、それを従業員に明確に周知することが、後のトラブルを避ける上で極めて重要です。曖昧な運用は、従業員の不信感を招き、万が一紛争になった際に「実質的には労働時間だった」と主張されるリスクを高めることになります。明確なルール設定とその周知徹底が、労使双方の認識の齟齬を防ぎ、無用な紛争を回避するための第一歩となります。

仮眠時間が「休憩時間」と判断される場合とは?

一方で、仮眠時間が法的に「休憩時間」として扱われるケースもあります。休憩時間の本質は、「労働者が労働から完全に解放されることを保障されている時間」であるという点にあります 。この「労働からの解放」が実質的に保障されていれば、仮眠時間も法的には休憩時間として扱われ、原則として賃金支払いの対象とはなりません。  

労働からの完全な解放が保障されているケース

仮眠時間が休憩時間と判断されるためには、労働者が使用者の指揮命令から完全に離れ、その時間を自己の裁量で自由に利用できることが保障されていなければなりません 。具体的には、仮眠中に電話対応や警報対応といった業務を行う義務が一切なく、実際に業務が発生することも想定されていない状態を指します 。  

厚生労働省のガイドラインでも、「仮眠室などにおける仮眠の時間について、電話等に対応する必要はなく、実際に業務を行うこともないような場合には、労働時間に該当しません」と明記されています 。この「完全な解放」という要件は、企業が考えている以上にハードルが高い場合があることに留意が必要です。例えば、「緊急時以外は対応不要」というルールを設けていたとしても、その「緊急時」の判断基準が曖昧であったり、実質的に緊急時に備えた対応準備が求められたりするような状況では、完全な解放とは言えないと判断される可能性があります。  

自由な利用が保障されている仮眠室での仮眠

仮眠場所が会社によって指定されていたとしても、その場所の利用が自由であり、かつ労働からの解放が実質的に保障されていれば、休憩時間と判断される余地があります。例えば、仮眠室への出入りが自由で、仮眠中に業務上の指示を受ける可能性がなく、読書やスマートフォンの利用といった私的な行為が明確に許容されている場合などです(労働基準法第34条第3項の「休憩時間の自由利用の原則」を参照 )。  

ただし、この休憩時間の自由利用の原則には、運輸交通業や商業など特定の業種に対する例外や、労使協定による別途の定めが許容される場合もあるため、自社の業種や労使協定の内容を確認することが重要です 。  

また、仮眠室の設備や環境も、「自由な利用」や「労働からの解放」の判断に間接的に影響を与える可能性があります。単に横になれるスペースがあるというだけでなく、プライバシーが確保され、騒音などから遮断されているなど、質の高い休息が取れる環境が提供されているかどうかという点も、実質的な休息が保障されているかの判断材料となり得ます。過去の裁判例(日本ビル・メンテナンス事件 )でも、仮眠室の状況が判断要素の一つとされたケースがあります。劣悪な環境での「仮眠」は、実質的な休息とは言えず、労働からの解放が不十分と評価されるリスクも念頭に置くべきでしょう。  

企業が仮眠時間を休憩時間として法的に有効に扱いたいのであれば、単に「仮眠してよい」と指示するだけでは不十分です。労働からの完全な解放を、制度的にも物理的にも保障し、その旨を就業規則等で明確に規定し、従業員に周知徹底することが不可欠です。休憩時間であることの立証責任は、原則として使用者側が負うことになるため、曖昧な運用は避け、就業規則の具体的な規定や、実際の運用状況を示す客観的な記録(例:仮眠室の利用ルール、緊急時対応が不要であることの明確な指示など)を整備しておくことが、万が一の紛争に備える上で重要となります。

ここで、これまで説明してきた労働時間、手待ち時間、仮眠時間(労働時間となる場合/休憩時間となる場合)、休憩時間の違いを整理するために、以下の表にまとめます。

表1: 仮眠時間・休憩時間・労働時間(手待ち時間含む)の比較

特徴労働時間(実作業)労働時間(手待ち時間)仮眠時間(労働時間と判断される場合)仮眠時間(休憩時間と判断される場合)休憩時間
法的性質労働時間労働時間労働時間休憩時間休憩時間
指揮命令下あり(明示・黙示の指示に基づく業務遂行)あり(指示があれば即時対応可能な状態で待機)あり(警報対応義務、場所的拘束、実質的な待機状態など)なし(労働からの完全な解放)なし(労働からの完全な解放)
労働からの解放なしなし(業務への即応性が求められる)なし(実質的に業務から解放されていない)あり(自由に利用可能)あり(自由に利用可能)
賃金支払義務ありありありなしなし
具体例通常の業務遂行、会議、指示された作業タクシー運転手の客待ち、店舗での来客待ち、次の指示待ち緊急対応義務のある仮眠、外出禁止の仮眠室での待機業務命令なく自由に過ごせる仮眠室での仮眠、自宅での仮眠(指示なし)昼休み、業務と無関係な休憩

この表は、各時間の法的な位置づけや特徴を概観するものであり、実際の判断は個別の事案の具体的な状況に基づいて行われます。しかし、この比較を通じて、自社の仮眠の取り扱いがどのカテゴリに該当しそうか、大まかな当たりをつけることができるでしょう。これにより、潜在的な法的リスクへの意識が高まり、具体的な対策の必要性を感じやすくなるはずです。

【重要判例】大星ビル管理事件から学ぶ仮眠時間の判断基準

仮眠時間の労働時間性について語る上で避けて通れないのが、「大星ビル管理事件」(最高裁判所 平成14年2月28日第一小法廷判決)です。この判例は、仮眠時間が労働時間に該当するか否かの判断基準を示したリーディングケースとして、その後の多くの裁判例や企業の労務管理実務に大きな影響を与え続けています。

事件の概要:何が争点となったのか?

大星ビル管理事件は、ビルメンテナンス会社の従業員(警備員)が、24時間交替勤務の中で与えられていた仮眠時間(実作業に従事していない不活動時間を含む)が、労働基準法上の労働時間に該当するのか、それとも休憩時間に該当するのかが争われた事案です 。  

従業員側は、仮眠時間も実質的には会社の指揮命令下に置かれた労働時間であると主張し、時間外手当等の支払いを求めました。これに対し、会社側は、仮眠時間は労働から解放された休憩時間であり、賃金支払いの対象とはならないと反論しました。この事件は、仮眠時間の法的な性質を巡る典型的な対立構造を示しています。

裁判所の判断ポイント:労働時間と認められた理由

最高裁判所は、この事件において、問題となった仮眠時間は労働基準法上の労働時間に該当すると判断しました。その判断の核心にあったのは、「仮眠時間中、労働者は労働からの解放が保障されていなかった」という点です 。具体的には、以下の要素が重視されました。  

不活動時間(仮眠時間)も待機時間として指揮命令下にあった

裁判所は、従業員が仮眠時間中であっても、指定された仮眠室での待機が義務付けられていた事実を重視しました 。これは、たとえ実際に作業をしていなくても、使用者の指示があれば直ちに業務に従事できる状態で待機している「手待ち時間」と同様の性質を持つと評価されたことを意味します。つまり、従業員は場所的な拘束を受け、完全に業務から解放されて自由な時間を過ごせる状態ではなかったと判断されたのです。  

この判断は、「何もしていない時間=休憩時間」という単純な図式を明確に否定しました。企業が「仮眠時間」と名付けていても、その実態が「次の指示や緊急事態に備えた待機」であるならば、それは従業員の自由な時間ではなく、使用者の業務遂行のために拘束されている時間であり、労働時間と評価され得ることを示しています。この実質的な拘束性が、労働時間性の判断において極めて重要な要素となるのです。

実作業への即時対応義務と場所的拘束

さらに裁判所は、仮眠時間中に警報が鳴った場合や電話連絡があった場合には、従業員が直ちに相当の対応をすることが義務付けられていた点を、労働時間に該当すると判断する上で重要な理由としました 。また、仮眠場所からの外出が原則として禁止されており、場所的な拘束も強かったことが、労働からの解放が保障されていなかったと判断される大きな要因となりました 。加えて、仮眠時間中に実際に業務対応が必要となる事態が皆無に等しいといった特段の事情も認められなかったことも考慮されました 。  

「即時対応義務」と「場所的拘束」は、労働者が使用者の指揮命令下から離脱していないことを示す強力な証拠となります。これらの要素が組み合わさることにより、仮眠時間は労働時間であるとの判断が導かれる可能性が飛躍的に高まります。いつ起こるかわからない業務に備えて特定の場所に待機し、実際に業務が発生した際にはすぐに対応しなければならないという状態は、労働者が自由に時間を使える「休憩」とは対極にあると言えるでしょう。この判例は、企業が仮眠時間を休憩時間として扱いたいのであれば、これらの拘束を実質的に排除する措置を講じる必要があることを強く示唆しています。単に「仮眠」と呼称するだけでは不十分であり、実態として労働からの解放が保障されていなければならないのです。それが難しい場合には、労働時間として扱い適切な賃金を支払うか、あるいは後述する宿直許可といった別の法的な枠組みを検討する必要が出てきます。

ここで、大星ビル管理事件などで重視された、仮眠時間が労働時間と判断される主な要因を以下の表にまとめます。

表2: 仮眠時間が労働時間と判断される主な要因(大星ビル管理事件等を踏まえ)

判断要因具体的状況例労働時間と判断される可能性
実作業への従事義務仮眠中の警報対応、電話対応、緊急出動などが義務付けられている高い
場所的拘束指定された仮眠場所からの離脱が禁止または著しく制限されている高い
労働からの解放の程度仮眠時間中の自由な利用が保障されておらず、常に業務への即応性が求められる高い
実作業の発生頻度・時間仮眠時間中に実際に業務が発生する頻度が高く、または一定時間の実作業が見込まれる高い
業務との関連性・代替性のなさ仮眠が業務遂行上不可欠な待機と評価され、他の手段で代替できない高い

この表は、自社の仮眠時間の運用をこれらの要素に照らしてセルフチェックする際の一助となるでしょう。これらの要素に複数該当する場合、労働時間と判断されるリスクが高いと考えられます。

この判例が実務に与える影響と教訓

大星ビル管理事件の判決は、その後の企業の労務管理実務に多大な影響を与え、重要な教訓を残しました。

形式的な区別ではなく実態が重視される

最も重要な教訓は、就業規則や雇用契約書で「仮眠時間」や「休憩時間」と形式的に定めていたとしても、その実態が伴っていなければ法的には労働時間と判断される、という原則を明確に示した点です 。企業は、名称や形式にとらわれることなく、労働者が実際にどのように時間を過ごしているのか、どの程度の指揮命令下に置かれているのかを客観的に評価し、管理する必要があります。  

多くの企業が、人件費削減の観点から仮眠時間を安易に休憩時間として扱おうとする傾向が見受けられますが、この判例はそのような形式論を退け、実質的な判断の重要性を強調しました。企業が「休憩」というラベルを貼れば賃金支払い義務を免れると考えがちであるのに対し、裁判所はラベルではなく、その中身、すなわち労働の実態を精査します。この認識のギャップが、労務紛争の大きな原因の一つとなっています。

安易な「休憩時間」扱いの危険性

大星ビル管理事件以降も、同様の判断基準に基づき、仮眠時間が労働時間と認定されるケースが後を絶ちません 。仮眠時間を安易に休憩時間として処理することは、未払い残業代請求のリスクや、労働基準監督署からの是正勧告・指導を受けるリスクを抱えることになります。  

特に、警備業 、医療・介護業 、あるいは長距離運送業といった、夜間勤務や宿直業務が多く、緊急時の対応が求められる可能性のある業種では、この判例の射程が広く及ぶことに注意が必要です。  

「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。大星ビル管理事件の判例は、労働法の分野では広く知られており、これを無視した労務管理は、企業のコンプライアンス意識の欠如を露呈するものと見なされかねません。判例は法規範として機能するため、企業はこれに従う義務があります。判例を軽視した運用は、訴訟リスクだけでなく、企業の社会的評価を損なうリスクも伴うことを理解しておくべきです。企業は、大星ビル管理事件を単なる過去の一判例としてではなく、自社の労務管理体制を見直すための「生きた教材」として捉え、定期的なチェックと、必要に応じた運用改善を行うことが求められます。判例の趣旨を深く理解し、自社の仮眠時間の運用が判例の示す基準に照らして問題がないか、定期的に検証するプロセスを社内に組み込むことが、継続的なコンプライアンス確保と健全な企業経営に繋がるのです。

【業種別注意点】大星ビル管理事件以外の関連判例と実務への示唆

大星ビル管理事件で示された判断枠組みは基本的なものですが、これを各業種の具体的な業務実態に当てはめて考えることが重要です。特に、経営者や人事労務担当者の皆様が関わることが多い警備業、運送業、医療・介護業について、関連する判例や実務上の注意点を補足します。

警備業における仮眠時間の判断ポイントと判例

警備業務は、その性質上、「待機」そのものが業務の重要な要素となります。そのため、仮眠時間とされていても、警報対応、定期・不定期の巡回、緊急時の出動などが求められることが多く、労働時間性が肯定されやすい傾向にあります。

関連する判例としては、例えば**イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日)**が挙げられます。この事件では、24時間勤務の警備員について、仮眠時間が労働時間に当たると判断されました。判断のポイントとしては、警備業務が1人体制であったこと、警報作動時には「即応」が求められていたこと、仮眠中も寝巻き等に着替えることはなく、実際に緊急出動した実績もあったことなどが考慮され、仮眠時間全体が労働からの解放が保障されておらず、使用者の指揮命令下にあると評価されました 。  

また、**ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)**では、夜間警備員の仮眠時間について、1人で業務を行った時期は労働時間と認められましたが、2人体制の時期については、仮眠中でももう1人が対応可能であり、警備の発報もほとんどなかったことなどから、労働からの解放が保障されていたと判断され、労働時間性が否定されました 。このように、勤務体制(1人か複数か)も判断に影響を与えることがあります。  

これらの判例から、警備業においては、仮眠時間とされていても実質的には「仮眠を伴う待機勤務」と評価されるケースが多く、雇用契約の内容や実際の業務指示、運用実態が極めて重要になると言えます。警備員の仮眠は、単なる休息ではなく、次の業務や突発事態に備えるための「業務の一環」と見なされやすく、そのため労働からの完全な解放が認められにくい業種特性があることを理解しておく必要があります。

運送業(特に長距離トラック運転手など)における仮眠時間の判断ポイントと判例

長距離トラック運転手などの運送業においては、車中での仮眠や、荷物の積み下ろし前後における荷待ち時間中の仮眠が問題となることがあります。これらの時間について、荷物の監視義務が課せられていたり、出発時刻が厳格に指定されていて自由な行動が制限されたりする場合には、労働時間性が高まります。

例えば、**三村運送事件(東京地判令和元年5月31日)**では、トラック運転手が高速道路のサービスエリア等で滞在していた時間について、運転手側は顧客対応や荷物の常時監視を行っていたと主張しましたが、裁判所は、運転手が車内で睡眠や飲酒をしたり、外へ出て入浴や食事をするなど、業務から解放されて自由に利用できる状態であったと認定し、労働時間性を否定しました。この判断では、会社から貨物を監視する具体的な指示や規定がなく、荷物が重量物で盗難の可能性も低かったことなどが考慮されました 。  

一方で、**K社事件(東京高判平成30年8月29日)**では、夜行バスの交代運転手が仮眠できるリクライニング座席が設けられており、国土交通省の定める運転者の配置基準を満たしていることなどから、仮眠できる状態で労働から離れることが保障されていると判断され、労働時間性が否定されました 。  

これに対し、**井上運輸・井上自動車整備事件(大阪高判昭和57年12月10日)**では、勤務中における停車時間や折返しによる待合せ時間等の待機時間中に適宜休息を取る時間は、労働者が権利として労働から離れることを保障されておらず休憩時間とはいえないとして、労働時間に含まれると判断されています 。  

また、運送業に関しては、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)において、連続運転時間と休憩(または運転の中断)に関する規定が設けられており 、車両内の仮眠設備に関する規定も存在します 。これらの行政上の基準も、労働時間管理において考慮すべき要素となります。  

運送業においては、「手待ち時間」と「休憩時間」の区別が特に重要です。荷物の監視義務の有無、会社からの具体的な出発指示の有無、場所的拘束の程度などが総合的に判断されます。荷物を積んだまま自由にどこへでも行けるわけではなく、次の指示を待っている時間は、実質的に使用者の指揮命令下にあると評価されやすいと言えます。ただし、完全に業務から解放され、自由に時間を使える場合は休憩時間と判断されることになります。

医療・介護業における仮眠時間の判断ポイントと判例

医師、看護師、介護福祉士といった医療・介護専門職の夜勤や宿直勤務における仮眠時間の取り扱いは、特に慎重な判断が求められます。これらの職種では、仮眠時間中であっても、患者や入所者の容態急変への対応、ナースコールや緊急呼び出しへの対応などが義務付けられている場合が多く、労働時間性が強く肯定される傾向にあります 。  

例えば、**社会福祉法人A事件(東京高判令和6年7月4日)**では、グループホームで泊まり勤務する生活支援員の夜勤について、夜勤手当の扱いが争点となりましたが、東京高裁は、夜勤の不活動時間(仮眠時間を含む)も労働時間であると判断しました 。  

また、ある介護職員の未払い残業代請求事件では、宿直業務中の仮眠時間について、「徘徊者がいた場合にはその都度対応することを余儀なくされていた」として、仮眠時間も含めて労働時間と認めた裁判例があります 。  

医療・介護の現場では、仮眠中であっても患者や利用者の安全確保という重い責任が伴うため、「いつ何が起きるかわからない」という緊張感が常に存在し、労働からの完全な解放が難しいという業種特有の事情があります。たとえ仮眠室で休んでいたとしても、ナースコールが鳴れば即座に対応しなければならない義務がある場合、それは休憩ではなく、待機業務の一環と評価される可能性が高いのです。

これらの業種別判例を通じて、大星ビル管理事件で示された「指揮命令下にあるか」「労働からの解放が保障されているか」という基本的な判断原則が、各業種の具体的な業務実態に即してどのように適用され、判断されるのかを理解することが、企業にとって極めて重要です。抽象的な法原則だけでは自社のケースに当てはめることは困難です。具体的な判例、特に自社の業種に近い判例を参考にすることで、労務リスク判断の精度を高めることができるでしょう。また、医療・介護業においては、後述する「宿直・日直許可」との関連も重要な検討事項となります。

仮眠時間か休憩時間か?判断に迷うケースと注意点

仮眠時間の法的な位置づけは、しばしば「手待ち時間」との比較や、「宿直・日直許可」との関連で問題となります。また、労働密度が低い業務における仮眠の取り扱いも、企業にとっては判断に迷うポイントです。これらのケースについて、具体的な注意点を解説します。

「手待ち時間」と仮眠時間の違いとは?

「手待ち時間」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、労働時間の判断において非常に重要な概念であり、仮眠時間の労働時間性とも深く関わってきます。

手待ち時間の定義と具体例(タクシー運転手の客待ちなど)

手待ち時間とは、実際に具体的な作業はしていないものの、使用者の指揮命令下にあり、使用者からの指示があれば直ちに業務に従事できるように待機している時間のことです 。労働からの完全な解放が保障されていないため、労働基準法上の労働時間に該当します 。  

具体的な例としては、以下のような時間が挙げられます。

  • タクシー運転手が乗客を待っている時間  
  • 飲食店の店員が客の来ない時間に店内で待機している時間  
  • トラック運転手が荷物の積み込みや荷降ろしの順番を待っている時間
  • 建設作業員が次の作業指示を待っている時間

これらの時間は、一見すると何もしていないように見えるかもしれませんが、労働者は自由にその場を離れたり、完全に私的な用事を済ませたりすることができず、実質的には使用者のために待機している状態です。そのため、休憩時間とは明確に区別され、労働時間として扱われます。過去の裁判例でも、すし処「杉」事件 や中央タクシー事件 などで、このような待機時間が労働時間と判断されています。  

手待ち時間は、外見上は労働者が「休んでいる」ように見えることがあるため、休憩時間と誤認されやすいという特徴があります。しかし、法的には明確に区別されるべきものであり、この誤認が未払い賃金問題の温床となるケースが後を絶ちません。従業員が何も作業をしていないように見えても、それが「会社の指示待ち」や「次の業務への備え」であるならば、それは会社の業務のための時間であり、労働者の自由な時間ではありません。この本質を見誤ると、企業は大きな法的リスクを抱えることになります。

仮眠時間が手待ち時間と判断される要件

では、仮眠時間が「手待ち時間」と判断されるのはどのような場合でしょうか。これは、仮眠という名目であっても、その実態が実質的な待機状態にあると評価されるケースです。

具体的には、以下のような状況が重なると、仮眠時間は手待ち時間(待機時間)と判断され、労働時間となる可能性が高まります。

  • 仮眠中に電話や警報に対応する義務が課せられている  
  • 仮眠場所からの離脱が厳しく制限されている(場所的拘束)  
  • 緊急時には即座に業務に復帰しなければならない体制が取られている

まさに、前述の「大星ビル管理事件」がこの典型例と言えます 。この事件では、ビル警備員の仮眠時間は、警報等への即時対応義務や場所的拘束があったことから、実質的な待機時間(手待ち時間)と評価され、労働時間に該当すると判断されました。また、日本貨物鉄道事件では、仮眠時間を含む休憩時間について、使用者が労働者に労務遂行義務を課し、場所的に拘束するなど、実質的に使用者の指揮命令下に置いていると認められる場合には、その時間は労働時間に当たると判断されています 。  

企業が「仮眠時間」と称していても、その実質的な目的が従業員の疲労回復よりも、業務の継続性確保や緊急時への即応体制の維持にある場合、その時間は手待ち時間としての性格を帯びることになります。企業は、仮眠時間を設ける際に、その目的と従業員に求める義務(対応義務の有無、場所的拘束の程度など)を明確にし、それが手待ち時間に該当する可能性があるのか、それとも純粋な休憩時間として運用できるのかを慎重に検討する必要があります。目的が曖昧なまま「仮眠時間」を設定すると、従業員は「いつ呼び出されるかわからない」という実質的な待機状態を強いられ、後日「あの時間は労働時間だった」と主張されるリスクを抱えることになります。

宿直・日直許可と仮眠時間の関係性

夜間や休日に、事業場に待機して電話対応や緊急時の対応などを行う「宿直・日直勤務」は、多くの業種で見られる勤務形態です。この宿直・日直勤務については、労働基準監督署長の許可(いわゆる「断続的労働の許可」)を得ることで、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定の適用が除外される制度があります 。しかし、この許可制度と仮眠時間の労働時間性については、しばしば企業側に誤解が生じやすい点があるため注意が必要です。  

宿直・日直許可基準の概要

宿直・日直の許可を得るためには、一定の基準を満たす必要があります。主な基準としては、以下のようなものが挙げられます 。  

  • 勤務の態様: 常態としてほとんど労働する必要がない勤務であること(定時的な巡視、緊急の文書・電話の収受、非常事態に備えての待機など)。通常の労働の継続であってはなりません。
  • 宿日直手当: 許可を得ようとする宿日直勤務に従事する予定の同種の労働者に対して支払われている1人1日平均賃金額の3分の1以上の手当が支払われること。
  • 宿直・日直の回数: 原則として、宿直は週1回、日直は月1回が限度です(ただし、人員不足等のやむを得ない事情があり、労働密度が薄い場合はこの限りではありません)。
  • 睡眠設備: 宿直勤務の場合は、相当の睡眠設備が設けられていること。

許可申請の際には、対象労働者の労働条件通知書や雇用契約書の写し、宿日直のシフト表、宿日直勤務中に行われる業務の頻度や内容、所要時間がわかる資料(業務日報など)の提出が求められます 。また、医師や看護師等の医療従事者については、これらの一般基準に加えて、別途詳細な許可基準が定められています 。  

宿直・日直許可制度は、その趣旨からして、「ほとんど労働実態がない」ことを前提としています。したがって、許可を得た宿直・日直勤務中の仮眠時間は、原則として労働からの解放が保障された時間、すなわち労働時間とは扱われないことになります。

許可があっても労働時間性が否定されないケース

しかし、重要なのは、宿直・日直の許可を得ていたとしても、その許可の条件から逸脱するような勤務実態がある場合には、その時間は労働時間として扱われ、別途、時間外労働としての割増賃金の支払いが必要になるという点です。例えば、許可基準では「ほとんど労働する必要がない」とされているにもかかわらず、実際には宿直・日直中に頻繁な業務対応が発生していたり、通常の業務と変わらない内容の業務を行わせていたりするような場合です 。  

つまり、宿直・日直許可は「万能の免罪符」ではなく、あくまでも許可基準に合致した運用がなされていることが前提となります。実態が伴わなければ、許可の効力は及ばないのです。過去の裁判例の中には、宿直許可の有無にかかわらず、仮眠時間の実態から労働時間性を判断したものもあります 。例えば、大星ビル管理事件では、労働基準監督署長の許可を得ていない夜間仮眠時間の取り扱いが問題となりましたが、仮に許可があったとしても、あの事件のような勤務実態であれば、許可の範囲を逸脱していると判断された可能性が高いでしょう 。  

企業は、宿直・日直許可はあくまで「形式」であり、最も重要なのは「実態」であることを肝に銘じるべきです。許可を取得したからといって、どのような勤務実態でも許容されるわけではありません。許可基準を逸脱するような業務量を宿直・日直中に行わせている場合、それはもはや許可された「断続的労働」ではなく、通常の「労働」と評価され、労働時間規制がフルに適用されることになります。その結果、許可があるにもかかわらず、未払い残業代等の法的リスクを抱えることになるのです。

したがって、企業は、宿直・日直許可を取得した後も、定期的にその業務実態をモニタリングし、許可基準を逸脱していないかを確認する必要があります。もし逸脱している、あるいは逸脱する可能性が生じた場合には、速やかに業務内容の見直し、人員体制の強化、または許可の再申請や許可の返納といった対応を検討しなければなりません。許可取得はゴールではなく、あくまでも適正な労務管理のスタートラインです。運用実態が変化すれば、許可の前提条件も変わるという認識を持ち、放置すれば、許可があるにもかかわらず違法状態に陥るリスクがあることを常に意識しておく必要があります。

労働密度が低い業務における仮眠の取り扱い

監視業務や一部の待機業務など、実作業時間は少ないものの、一定の時間拘束される「労働密度が低い」とされる業務において、仮眠時間がどのように扱われるのかは、企業にとって判断に迷うことが多いポイントです。

監視業務や待機が主となる業務の場合

これらの業務では、仮眠時間が設けられていたとしても、完全に業務から解放されているとは言えないケースが多く見られます。例えば、警備員が監視業務中に仮眠を取る場合でも、異常発生時には即座に対応する義務があれば、その仮眠時間は労働時間と判断されやすくなります 。  

労働密度が低いからといって、自動的に仮眠時間が休憩時間になるわけではありません。ここでもやはり、その時間が「使用者の指揮命令下」にあるかどうかが基本的な判断基準となります。労働密度が低い業務であっても、その「待機」自体が業務の核心であり、重要な目的である場合、仮眠はその待機業務を継続するための一環と見なされることがあります。例えば、ダムの監視員が夜間に仮眠を取る場合を考えてみましょう。その仮眠は、「ダムの安全を守るための待機」という業務から完全に切り離されているわけではありません。万が一、異常が発生すれば対応する義務が残っている限り、その仮眠時間も労働時間性が認められる余地があるのです。

労働契約や就業規則での明確化の重要性

労働密度が低い業務における仮眠時間の取り扱いについては、特に誤解や紛争が生じやすいため、労働契約や就業規則において、その法的性質(労働時間なのか休憩時間なのか)、仮眠中の具体的な義務(緊急時対応の有無、対応する場合の範囲など)、そして賃金の取り扱いなどを明確に定めておくことが極めて重要です 。  

曖昧な規定や口頭での指示のみでは、後日、「言った、言わない」の水掛け論になったり、従業員が「実質的には働かされていた」と主張したりするリスクが高まります。このような事態を避けるためにも、専門家である社労士に相談し、自社の実態に即した適切な規定を整備することを強く推奨します。

就業規則等で仮眠時間の取り扱いを明確化することは、単に法的なリスクを回避するだけでなく、労使双方の認識を合わせ、予測可能性を高める上でも不可欠です。何が労働時間で何が休憩時間なのか、どのような場合に賃金が発生し、どのような場合は発生しないのかを事前に明確にすることで、従業員は安心して働くことができ、企業は無用な紛争を避けられる可能性が高まります。

特に労働密度が低い業務では、従業員が「実作業をしていないのに給料をもらっていて申し訳ない」という罪悪感を感じたり、逆に企業側が「何もしていないのに給料を支払っている」という不満を感じたりすることがあります。就業規則で仮眠時間の法的な位置づけとその対価(賃金または手当)を明確にすることで、このような心理的な問題を緩和し、良好な労使関係を維持する効果も期待できます。明確なルールは、公平感と透明性を生み出し、労使間の信頼関係を構築する基盤となるのです。

企業が取るべき仮眠時間の適切な管理方法と労務リスク対策

仮眠時間の労働時間性を巡る問題は、企業にとって大きな労務リスクとなり得ます。しかし、適切な管理方法を導入し、予防策を講じることで、これらのリスクを大幅に軽減することが可能です。ここでは、企業が具体的に取るべき対策について解説します。

就業規則・労働契約における仮眠時間の明確な規定

労務リスクを回避するための最も基本的かつ重要な対策は、就業規則や個別の労働契約において、仮眠時間の取り扱いを明確に定めることです。これが曖昧なままでは、従業員の解釈と会社の解釈が食い違い、紛争の火種となりかねません。

仮眠時間の定義、場所、利用ルールなどを明記する

まず、就業規則に、仮眠時間とは何か(法的に労働時間として扱うのか、休憩時間として扱うのか)、仮眠を取る場所はどこか、仮眠中の行動制限(例えば、外出の可否、業務対応義務の有無など)、仮眠室を設ける場合はその利用ルールなどを具体的に記載する必要があります 。  

厚生労働省が提供しているモデル就業規則 には、一般的な仮眠時間に関する包括的な規定例は必ずしも多くありませんが、自動車運転者の拘束時間に関する規定や、休憩時間の原則に関する条項は参考になります。これらを基に、自社の業種や業務の実態に合わせて、専門家のアドバイスを受けながらカスタマイズしていくことが求められます。  

就業規則への明記は、単なる形式的な手続きではありません。それは、企業が仮眠時間に対してどのような基本的なスタンスを取るのかを内外に示すものであり、労使間の共通認識を形成する上で不可欠なプロセスです。この規定が曖昧であったり、実態と乖離していたりすると、従業員の不信感を招き、紛争のリスクを高めることになります。就業規則は労使間の重要なルールブックであり、そのルールが不明確であれば、日々の運用も場当たり的にならざるを得ず、不公平感や不信感を生む原因となることを理解しておくべきです。

労働時間とする場合、休憩時間とする場合のそれぞれの記載例

仮眠時間を法的に「労働時間」として扱う場合と、「休憩時間」として扱う場合では、就業規則上の規定の仕方が異なります。以下にそれぞれのポイントと記載例の方向性を示します。

仮眠時間を「労働時間」として扱う場合の記載例のポイント:

  • 「第X条(仮眠時間)
    1. 業務の都合により命じられた仮眠時間は、使用者の指揮命令下に置かれているものとし、労働時間に算入する。
    2. 従業員は、仮眠時間中であっても、警報対応、電話対応、その他緊急の業務が発生した場合には、直ちにこれに従事しなければならない。
    3. 仮眠場所は、原則として事業所内の指定された場所とし、管理者の許可なく当該場所を離れることを禁ずる。」

仮眠時間を「休憩時間」として扱う場合の記載例のポイント:

  • 「第Y条(仮眠時間)
    1. 所定の休憩時間とは別に、業務の特性に応じて仮眠時間を設けることがある。この仮眠時間は、労働者が労働から完全に解放されることを保障された休憩時間とし、労働時間には算入しない。
    2. 従業員は、前項の仮眠時間中、一切の業務指示を受けず、また、緊急時の対応義務も負わないものとし、その時間を自由に利用することができる。
    3. 仮眠場所の利用については、別途定める仮眠室利用規程に従うものとする。 (注:労働基準監督署長の断続的労働の許可を得た宿直・日直勤務中の仮眠については、別途定める)」 (参考: 仮眠が指揮命令下にある場合は労働時間となり、別途休憩が必要との考え方)  

宿直・日直許可を得ている場合の仮眠時間については、その許可の範囲内であることを前提とした規定を別途設けることが考えられます 。  

これらの記載例はあくまで一般的な方向性を示すものであり、実際の就業規則作成にあたっては、企業の具体的な状況(業種、業務内容、勤務体制など)を十分に踏まえ、専門家である社労士に相談の上、適切な文言で規定することが不可欠です。抽象的な説明だけでなく、具体的な文例の方向性を示すことで、企業は自社の状況に合わせてどちらの方向に就業規則を整備すべきか、具体的なイメージを持つことができます。

そして、最も重要なのは、就業規則の規定が実際の運用と完全に一致していることです。規定だけが立派に整備されていても、日々の運用が伴っていなければ、その就業規則は「絵に描いた餅」に過ぎず、法的な効力を持ちません。むしろ、規定と実態の乖離は、かえって企業の法的リスクを高めることになりかねません。社労士は、就業規則の条文作成だけでなく、その規定が実務で適切に運用されるための具体的なアドバイスも提供できます。

勤怠管理の徹底:仮眠の実態を正確に記録する

厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」 を策定し、使用者には労働者の労働時間を適正に把握する責務があることを明確に示しています。仮眠時間も、その実態によっては労働時間に該当する可能性がある以上、その運用実態を正確に記録・管理することが不可欠です。  

仮眠開始・終了時刻、実作業発生時の記録方法

企業が仮眠時間を設ける場合、まずその開始時刻と終了時刻を正確に記録することが基本となります。さらに、仮眠時間中に実際に業務(例えば、電話対応、機械の監視、緊急出動など)が発生した場合には、その作業の開始時刻、終了時刻、そして具体的な作業内容を別途記録する方法を確立する必要があります 。  

これにより、仮に後日、仮眠時間の法的な性質が争われた場合でも、

  1. 仮眠時間全体が労働時間と判断されるケース
  2. 仮眠時間中の実作業時間のみが労働時間と判断されるケース のいずれの判断が下されたとしても、それに対応できる客観的な基礎データが手元にあることになります。

正確な勤怠記録は、万が一労務トラブルが発生した際に、企業が自らの正当性を主張し、防御するための重要な証拠となります。逆に、記録が不正確であったり、存在しなかったりすると、従業員側の主張に対抗することが著しく困難になる可能性があります。「記録がない=適切な管理をしていない」と見なされるリスクを常に意識しておくべきです。

客観的な記録方法の導入(ICカード、システムなど)

労働時間の記録は、従業員の自己申告制だけに頼るのではなく、タイムカード、ICカードリーダー、パソコンの使用時間のログ、あるいは専用の勤怠管理システムなど、客観的な方法によって行うことが強く推奨されています 。  

特に、仮眠時間中に突発的な業務が発生した場合の記録については、手書きの業務日報と併せて、勤怠管理システム上で特定の作業コードを入力したり、作業実績をリアルタイムで記録できるような仕組みを導入することが望ましいと言えます 。  

客観的な記録システムを導入することは、単に改ざんを防止し、記録の正確性を向上させるだけでなく、労働時間の集計作業を自動化・効率化し、人事労務担当者の業務負担を大幅に軽減することにも繋がります。手作業による記録・集計は、ヒューマンエラーや不正のリスクが常に伴います。システム化することで、これらのリスクを低減し、より信頼性の高い勤怠管理体制を構築することが可能になります。

勤怠管理システムを選定する際には、単に始業・終業時刻の打刻機能だけでなく、自社の業態や勤務形態に特有のニーズ(例えば、複雑なシフトパターンへの対応、仮眠時間や宿直勤務の管理機能、割増賃金の自動計算機能など)に対応できるか否かを慎重に確認することが重要です。安価なシステムでも基本的な機能は備わっていますが、自社の複雑な勤怠ルールに柔軟に対応できなければ、結局手作業での修正や二重管理が必要となり、システム導入の効果が薄れてしまう可能性があります。

仮眠の運用実態の確認と見直し

就業規則を整備し、客観的な勤怠管理体制を構築したとしても、それらが時間と共に形骸化してしまっては意味がありません。労務管理は一度行ったら終わりではなく、運用実態を定期的に確認し、必要に応じて見直しを行うという継続的な取り組みが不可欠です。

従業員へのヒアリングやアンケートの実施

実際に仮眠時間を取得している従業員に対して、その時間の実際の過ごし方、仮眠中に業務指示を受けることの有無、仮眠場所からの離脱の自由度、緊急対応の頻度や内容などについて、定期的にヒアリングや匿名アンケートを実施することを推奨します 。  

これにより、就業規則の規定と実際の運用との間に乖離が生じていないか、従業員が仮眠時間の運用に対して不満や不安を抱えていないかを早期に把握することができます。アンケートの具体的な質問例としては、「仮眠時間中に上司や他の従業員から業務に関する指示を受けることがありますか?」「仮眠場所から自由に離れることができますか?また、実際に自由に離れていますか?」「仮眠時間中に、電話対応や来客対応、その他の業務が発生する頻度はどの程度ですか?」「仮眠時間中に十分な休息が取れていると感じますか?」などが考えられます。

従業員の生の声に耳を傾けることは、経営層や人事担当者が把握している運用実態と、現場の従業員が実際に感じている実態との間に存在するかもしれないギャップを埋め、潜在的な労務リスクを早期に発見し、未然に防ぐための非常に有効な手段です。

業務内容の変更に伴う仮眠ルールの再検討

企業の事業内容の変更、組織再編、人員体制の変動、新たな業務プロセスの導入などがあった場合、それに伴って仮眠時間の運用ルールも影響を受ける可能性があります。そのため、事業環境や業務内容に変化があった際には、適宜、仮眠時間の取り扱いについても見直しを行う必要があります。

例えば、以前はほとんど発生しなかった緊急対応が、新しい顧客層の獲得やサービス内容の変更によって頻繁に発生するようになった場合、それまで休憩時間として扱っていた仮眠時間の労働時間性が高まる可能性があります。このような変化を見逃してしまうと、いつの間にか法令違反の状態に陥っているという事態も起こり得ます。

労務管理は、一度制度を整備したらそれで終わりというものではなく、企業の成長や事業環境の変化に合わせて継続的に見直し、最適化していく必要のある「生き物」のようなものであると認識することが重要です。

労働時間と判断される場合の賃金計算と割増賃金

万が一、仮眠時間が労働時間であると法的に判断された場合、企業は従業員に対して適切な賃金を支払う義務を負います。この支払いを怠っていた場合、未払い賃金として後日請求され、企業にとって大きな金銭的リスクとなる可能性があります。

仮眠時間分の基礎賃金の支払い

仮眠時間が労働時間であると認められれば、その時間に対しては、通常の労働時間と同様に、基礎賃金(時間給に換算した金額)を支払う必要があります 。  

「仮眠時間は実際の作業よりも楽だから」といった理由で、企業が一方的に通常の賃金よりも低い単価を設定することは、原則として認められません。ただし、労働契約において、仮眠時間中の労務内容が通常の作業時間中の労務内容と明確に異なり、その内容の相違に着目して別途の賃金単価を定めること自体は、直ちに違法となるわけではありません。しかし、その場合でも、設定された賃金額が最低賃金法に抵触しないように十分な注意が必要です 。  

「労働時間=賃金発生」という労働契約の基本原則を改めて確認する必要があります。仮眠時間が労働時間と判断された場合、過去に遡って未払い賃金を請求されるリスクがあることを十分に認識しておくべきです。労働の対価として賃金は支払われなければならず、仮眠が労働と評価されれば、その分の対価も当然支払う必要があるのです。

法定労働時間を超える場合の割増賃金の計算方法

仮眠時間が労働時間として算定された結果、その時間が1日8時間・週40時間という法定労働時間を超える部分に該当する場合には、通常の賃金に加えて、2割5分以上の時間外割増賃金を支払う必要があります 。  

さらに、その仮眠時間が深夜(原則として午後10時から午前5時まで)にかかる場合には、2割5分以上の深夜割増賃金も加算して支払わなければなりません。つまり、仮眠時間が法定時間外労働であり、かつ深夜労働にも該当する場合には、合計で5割(2割5分+2割5分)以上の割増賃金が必要となるのです。

また、仮眠時間が法定休日の労働と重なる場合には、3割5分以上の休日割増賃金が発生し、それが深夜に及べばさらに深夜割増が加算されるなど、割増率は複雑に変動します。

割増賃金の計算は非常に複雑であり、特に深夜労働や休日労働、複数の割増条件が重複する場合などには誤りが生じやすいポイントです。正確な計算と適切な支払いがなされていない場合、労働基準監督署の是正勧告の対象となりやすく、また、従業員からの未払い賃金請求額も高額になりやすい傾向があります。

未払い割増賃金には、支払いが遅延した日数に応じた遅延損害金が付加されるほか、裁判所の判断によっては、企業が悪質であると認められた場合に、未払い額と同額の「付加金」の支払いを命じられる可能性もあります。これは、企業にとって当初の未払い額の2倍以上の金銭的負担となり得るため、極めて大きな経営リスクと言えます。仮眠時間の労働時間性に関する問題を軽視することなく、早期に法的に適正な状態へと是正することが強く求められます。

ここで、割増賃金の種類と基本的な割増率について、以下の表にまとめます。

表3: 割増賃金の種類と割増率(労働基準法第37条等に基づく)

労働の種類割増率備考
時間外労働(法定労働時間超)2割5分以上
時間外労働(1ヶ月60時間超)5割以上中小企業への猶予措置は2023年3月末で終了
深夜労働(午後10時~午前5時)2割5分以上
時間外労働 かつ 深夜労働5割以上(時間外2割5分 + 深夜2割5分)
時間外労働(1ヶ月60時間超)かつ 深夜労働7割5分以上(時間外(60時間超)5割 + 深夜2割5分)
休日労働(法定休日)3割5分以上
休日労働 かつ 深夜労働6割以上(休日3割5分 + 深夜2割5分)

※上記は最低基準であり、これを超える率を就業規則等で定めることは可能です。 ※割増賃金の計算基礎となる賃金には、一部除外できる手当があります(家族手当、通勤手当など)。

この表は、経営者や人事労務担当者の皆様が、仮眠時間が労働時間と判断された場合のコストインパクトを具体的に把握する一助となるでしょう。正確な知識を持つことが、未払い賃金リスクの予防と、適切な給与計算体制の構築に繋がります。

判断に迷う場合は社労士へ相談を

これまで見てきたように、仮眠時間の労働時間性の判断は、労働基準法や関連法規の解釈、数多くの判例の理解が不可欠であり、かつ、個々の企業の具体的な業務内容や運用状況によって結論が大きく左右される非常にデリケートな問題です。そのため、専門的な知識を持たない方が自己判断で対応するには限界があり、誤った判断は大きな労務リスクに繋がりかねません。

このような複雑な問題に直面した際には、労働法務の専門家である社会保険労務士(社労士)に相談することを強くお勧めします。

よくある質問 (Q&A)

ここでは、仮眠時間と労働時間に関して、経営者や人事労務担当者の皆様から特によく寄せられるご質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

Q. 仮眠時間中に電話番をさせた場合、その時間は労働時間になりますか?

A. はい、原則として労働時間になると考えられます。仮眠時間中であっても、電話番として待機し、電話がかかってくれば対応することが義務付けられている場合、その従業員は使用者の指揮命令下にあり、労働から完全に解放されているとは言えません 。たとえ実際に電話が一本も鳴らなかったとしても、電話に対応できる状態で待機している時間全体が労働時間として評価される可能性が高いです。  

Q. 宿直許可があれば、仮眠時間は一切労働時間として扱わなくても良いのですか?

A. いいえ、必ずしもそうとは限りません。労働基準監督署長による宿直・日直の許可は、その勤務が「常態としてほとんど労働する必要がない」ことを前提としています。もし、許可を得ていたとしても、実際には宿直・日直中に頻繁な業務対応が発生していたり、通常の勤務時間と変わらないような内容・密度の業務を行わせていたりした場合は、その時間はもはや許可の範囲内の「断続的労働」とは言えず、通常の労働時間として扱われ、別途賃金の支払い(場合によっては割増賃金も)が必要になることがあります 。許可は万能ではなく、あくまでも許可基準に沿った運用がなされていることが大前提です。  

Q. 仮眠時間が労働時間と判断された場合、過去の分も遡って請求されますか?

A. はい、その可能性があります。賃金請求権の消滅時効は、法改正により原則5年とされましたが、当分の間の経過措置として3年とされています(2024年5月現在)。したがって、従業員は、過去3年分の未払い賃金(仮眠時間が労働時間に該当する場合の基礎賃金及び法定の割増賃金)を会社に対して請求することができます 。これは、企業にとって多額の金銭的負担となる可能性があるため、注意が必要です。  

Q. 当社は警備業ですが、仮眠時間の取り扱いで特に注意すべき点は何ですか?

A. 警備業の場合、その業務の性質上、仮眠時間中であっても緊急時の対応義務や継続的な監視義務が残っていると判断されやすく、仮眠時間が労働時間に該当すると認定された判例が多く見られます 。特に、1人体制での警備業務や、警報装置への即応が求められるような状況では、労働時間性が強く肯定される傾向にあります。就業規則での仮眠時間の取り扱いに関する明確な規定、実態に即した正確な勤怠管理、そして労働時間と判断される場合にはそれに見合った適切な賃金支払いが不可欠です。  

Q. 仮眠時間を休憩時間として運用したい場合、最低限何をすべきですか?

A. 仮眠時間を法的に有効な休憩時間として運用するためには、「労働からの完全な解放」を従業員に対して保障することが絶対的な条件となります。具体的には、最低限、以下の4つの点を実施し、かつ、その証拠を残せるようにしておく必要があります。

  1. 仮眠時間中には、一切の業務指示を行わないこと。
  2. 仮眠時間中に、警報対応や電話対応などの業務遂行義務を負わせないこと。
  3. 仮眠場所からの離脱を自由とし、仮眠時間の過ごし方についても従業員の自由に委ねること(ただし、事業場の規律保持に必要な合理的範囲内での制約は許容される場合があります)。
  4. これらの点を就業規則に明確に規定し、全従業員に対して周知徹底すること 。 これらの条件が一つでも欠けていると、休憩時間とは認められず、労働時間と判断されるリスクが高まります。  

まとめ:仮眠時間の適正な管理で健全な企業経営を

本記事で詳細に解説してまいりましたように、仮眠時間の労働時間性は、企業の業種や具体的な業務内容、そして実際の運用状況によって、その判断が大きく左右される、非常にデリケートかつ複雑な法律問題です。

「大星ビル管理事件」をはじめとする数多くの裁判例が示している重要なポイントは、就業規則や契約書における形式的な名称や区分(「仮眠時間」「休憩時間」など)ではなく、従業員が実質的に使用者の指揮命令下に置かれ、労働からの完全な解放が保障されていない時間は、法的に労働時間と判断されるリスクが高いということです。

企業経営者や人事労務担当者の皆様におかれましては、仮眠時間を安易に「休憩時間」として取り扱うことの危険性を十分に認識していただく必要があります。そのような運用は、将来的に従業員からの未払い残業代請求という形で、企業経営に大きな打撃を与える可能性を秘めているのです。

最も重要なのは、労働基準法や関連する判例の考え方を正しく理解し、自社の仮眠時間の運用状況を客観的かつ冷静に分析した上で、適切な労務管理体制を構築・運用することです。具体的には、実態に即した就業規則の整備、労働時間の正確な把握と記録(勤怠管理)、そして労働時間と判断される場合にはそれに見合った適正な賃金計算と支払いが不可欠となります。

もし、貴社の仮眠時間の取り扱いに少しでも不安や疑問を感じられる点がございましたら、決して自己判断で済ませることなく、労働法務の専門家である社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めいたします。専門家のアドバイスを受けることは、潜在的な労務リスクを未然に回避し、従業員が安心してその能力を最大限に発揮できる職場環境を整備し、ひいては企業の持続的かつ健全な経営を実現するための、最も賢明な選択の一つと言えるでしょう。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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