70歳以上の従業員の社会保険はどうなる?加入有無や手続きの流れ、ケース別の加入判断を解説

「70歳になっても、まだまだ元気に働きたい」という意欲的なシニアが増えています。企業にとっても経験豊富な人材は貴重な戦力ですが、人事担当者様にとっては「社会保険の取り扱いはどうなるのか?」という疑問がつきものですよね。特に、通常の従業員とは異なる働き方の場合は判断に迷うことも多いでしょう。

この記事では、高齢者雇用の実務に精通した社労士事務所altruloopが、70歳以上の従業員の社会保険について、特に判断が難しいケースを中心に分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、安心して高齢者雇用を進められるよう、具体的なポイントを押さえていきましょう。

目次

結論:70歳を過ぎても社会保険の加入義務はあります

多くの方が疑問に思われる点ですが、70歳を過ぎたからといって、社会保険の加入義務が自動的になくなるわけではありません。ただし、保険の種類や従業員の年齢、働き方によって取り扱いが細かく変わるため、それぞれの制度を正確に理解することが不可欠です。 ここでは、健康保険・厚生年金保険、雇用保険の基本的なルールと、75歳という年齢の節目で起こる大きな変更点について解説します。

健康保険・厚生年金保険のルール

70歳以上の従業員であっても、一定の条件を満たせば健康保険および厚生年金保険の被保険者(またはそれに準ずる扱い)となります。

健康保険

原則として75歳になるまでは、一般の従業員と同様の条件で加入が継続します。保険料も引き続き労使双方で負担します。

厚生年金保険

従業員が70歳に達すると、厚生年金保険の被保険者資格は原則として喪失します。そのため、70歳以降は厚生年金保険料の本人負担および会社負担はありません。 しかし、これで手続きが全く不要になるわけではありません。

70歳以上の方が厚生年金保険の適用事業所に勤務し、健康保険の加入基準を満たすような働き方(例:週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上など)をする場合は、「70歳以上被用者」として扱われます 。 この「70歳以上被用者」に該当する場合、企業は従業員の報酬額などを年金事務所に届け出る義務があります 。これは、70歳以降も働き続ける方の年金額(在職老齢年金)の計算や、老齢年金の受給資格期間を満たすための重要な情報となるためです 。厚生年金保険料の徴収がなくなっても、年金制度との関連が続く点を理解しておくことが重要です。

主な手続き

  • 従業員が70歳に到達した際、標準報酬月額に変更がなければ「70歳以上被用者該当届」の提出は不要です(2019年4月改正)。ただし、70歳到達時の再雇用契約などで標準報酬月額が変わる場合は提出が必要です 。提出期限は70歳到達日(誕生日の前日)から5日以内です。  
  • 70歳以上の被用者が退職する際は「70歳以上被用者不該当届」の提出が必要です 。  
  • 毎年7月に行う定時決定(算定基礎届)や、給与が大幅に変動した際の随時改定(月額変更届)も、70歳以上被用者は対象です。一般被保険者と同様の手続きが必要ですが、届出用紙には「70歳以上被用者」であることを示す記載(例:備考欄の該当項目を丸で囲む)が加わります 。  

雇用保険のルール

雇用保険については、年齢の上限なく加入対象となります。2017年1月1日の雇用保険法改正により、65歳以上の労働者も一定の要件を満たせば、「高年齢被保険者」として雇用保険が適用されるようになりました 。これは70歳以上の労働者についても同様です。  

主な加入条件

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
  • 31日以上の雇用見込みがあること。

これらの条件を満たせば、新たに70歳以上で雇用される方も、継続して雇用されている方が70歳に達した場合も、雇用保険の加入手続きが必要です 。年齢を理由に加入手続きを省略することはできませんので、採用時には必ず確認が必要です。  

雇用保険料:2020年4月1日からは、満64歳以上の高年齢被保険者についても、他の被保険者と同様に雇用保険料の納付が必要となっています 。保険料は労使双方で負担します。  

75歳になると後期高齢者医療制度へ移行

従業員が75歳に達すると、それまで加入していた会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)の資格を喪失し、自動的に「後期高齢者医療制度」に移行します 。  これは本人の意思や会社の意向にかかわらず、法律で定められた制度です。

手続き

原則として、従業員本人や会社が特別な加入手続きをする必要はありません。対象者には、お住まいの市区町村から新しい保険証(後期高齢者医療被保険者証または資格確認書)が交付されます 。会社としては、健康保険の資格喪失手続きを行います。  

保険料

後期高齢者医療制度の保険料は、個人の所得などに応じて決定され、原則として年金からの天引きまたは口座振替などにより、本人が直接市区町村に納付します。会社の給与から天引きされることはなくなります。

被扶養者の重要な注意点

従業員本人が後期高齢者医療制度に移行すると、その従業員に扶養されていた75歳未満の家族(配偶者やお子さんなど)も、それまでの健康保険の被扶養者資格を同時に失います 。これは非常に重要なポイントで、見落とすと扶養家族が無保険状態になってしまう可能性があります。該当する扶養家族は、国民健康保険に自身で加入するか、他の家族の被扶養者になるなどの手続きが速やかに必要です。企業の人事担当者としては、75歳を迎える従業員に対し、この点を事前に伝え、扶養家族の保険について確認を促す配慮が求められます。

 

保険種類70歳到達時・70歳以上75歳未満75歳到達以降備考
健康保険加入継続(一般の被保険者と同様)後期高齢者医療制度へ移行 (資格喪失)75歳で扶養家族も資格喪失の可能性あり
介護保険第2号被保険者として健康保険料と一体徴収(65歳未満)。65歳以上は第1号被保険者として原則市区町村が徴収(健康保険加入中は健康保険料と一体徴収の場合あり)。第1号被保険者として市区町村が徴収(原則年金天引)40歳から支払い義務発生
厚生年金保険被保険者資格喪失。保険料負担なし。ただし「70歳以上被用者」として届出が必要な場合あり。適用なし70歳以降も在職老齢年金の対象。報酬と年金額により年金支給調整あり。
雇用保険「高年齢被保険者」として加入(週20時間以上等の条件あり)。保険料負担あり。同左年齢上限なし。高年齢求職者給付金の対象。
労災保険全員加入(年齢・雇用形態問わず)同左業務上の災害に対する保護

【ケース別】こんな時どうする?70歳以上の社会保険加入判断

高齢者の働き方は多様化しており、正社員だけでなくパート・アルバイト、役員など様々なケースがあります。ここでは、人事担当者の方が特に判断に迷いやすいケースを取り上げ、社会保険の加入判断のポイントを具体的に解説します。

ケース1:週の所定労働時間が20時間未満のパート・アルバイト

70歳以上のパート・アルバイト従業員で、週の所定労働時間が20時間未満の場合、まず雇用保険の加入対象外となります 。これは、雇用保険の「高年齢被保険者」の主要な加入要件の一つである「1週間の所定労働時間が20時間以上」を満たさないためです。  次に、健康保険・厚生年金保険(70歳以上被用者としての届出)についてです。週20時間未満というだけでは、直ちに加入対象外と判断できません。

基本的な考え方として、1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(正社員など)のおおむね4分の3以上である場合は、加入対象となります。

この「4分の3基準」を満たさない場合でも、従業員規模が一定以上(2024年9月までは101人以上、2024年10月からは51人以上)の企業(特定適用事業所)では、以下の条件をすべて満たす短時間労働者は加入対象となります

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 月額賃金(所定内賃金)が8.8万円以上であること
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがあること(2022年10月より、従来の「1年以上の雇用見込み」から変更)
  • 学生ではないこと(休学中や夜間学生等は加入対象となる場合あり)

    したがって、ご質問の「週の所定労働時間が20時間未満」のケースでは、上記「特定適用事業所」の短時間労働者拡大の対象には該当しません(条件1を満たさないため)。 しかし、「4分の3基準」については別途検討が必要です。

    例えば、週の労働時間が18時間であっても、その会社の正社員の週所定労働時間が22時間であれば、4分の3(16.5時間)を超えています。この場合、月の所定労働日数も同様に4分の3以上であれば、健康保険(および70歳以上被用者としての厚生年金保険の届出)の対象となる可能性があります。 雇用保険は「週20時間」という明確なラインがありますが、健康保険・厚生年金保険は、週20時間未満でも他の要素で加入義務が生じることがあるため、個別の状況確認が重要です。

    ケース2:70歳以上の「非常勤役員」

    「非常勤役員」の社会保険加入については、実務上最も判断が難しく、誤解も生じやすいポイントです。役員の社会保険加入は、単に「非常勤」という名称や役員報酬の金額だけで決まるものではなく、勤務の実態(常勤性)に基づいて総合的に判断されます 。  

    「常勤・非常勤」に法律上の明確な定義はない

    法律上、「常勤役員」と「非常勤役員」を明確に区分する基準は設けられていません 。そのため、会社が「非常勤」と位置付けていても、実質的に常勤の役員と同様の働き方をしていると判断されれば、社会保険の加入義務が生じます。

    「勤務実態(常勤性)」の判断基準

    年金事務所などが常勤性を判断する際には、主に以下の要素を総合的に勘案します 。

    • 事業所への定期的な出勤:定期的に事業所へ出勤し、業務を遂行しているか。
    • 業務内容・権限:法人の経営方針の決定に参画しているか、または具体的な業務執行権を有し、他の役職員への指揮監督を行っているか。
    • 役員会等への出席と役割:取締役会など重要な会議に継続的に出席し、意思決定に積極的に関与しているか。単に意見を求められる立場に留まっていないか。
    • 他の職務との兼任状況:他に主たる職業を持たず、当該法人の業務に多くの時間を費やしているか。
    • 報酬の性質と水準:受領している役員報酬が、その業務内容や拘束時間に見合った労務の対価としての性格を有しているか。会議出席ごとの謝金や実費弁償程度の水準に留まっていないか。
    代表取締役や常勤取締役との比較

    代表取締役や、会社が「常勤」と定めている取締役は、役員報酬が支払われている限り、原則として社会保険の加入対象です 。肩書きが「非常勤」であっても、これらの役員に近い勤務実態や経営への関与度合いが認められれば、同様に加入が必要と判断される可能性が高まります。

    役員報酬の額だけでは決まらない

    「報酬が低いから非常勤」あるいは「報酬が高いから常勤」と短絡的に判断はできません。例えば、高額な報酬を得ていても、実質的な勤務がほとんどなければ加入義務は生じない場合があります。逆に、報酬が低くても、日常的に経営に関与し、常勤性が認められれば加入が必要です 。ただし、社会通念上、労務の内容に比して著しく低い報酬は、その労務対価性を疑われる一因となることもあります。  

    過去の判断事例からの示唆

    過去の行政通達や疑義照会回答例では、上記の複数の要素を総合的に見て実態判断がなされています 。例えば、特定の曜日に定期的に出社し、経営上の重要事項の決定に関与し、他の従業員への指示を行うような場合は、たとえ本人が「非常勤」と認識していても、社会保険上の「常勤役員」と見なされる可能性が高まります 。 中小企業においては、創業社長が会長職に就き「非常勤」扱いとしながらも、実質的に経営の重要判断に関与し続けるケースなどが見られます。このような場合、安易な自己判断は禁物です。勤務実態を客観的に評価し、疑義があれば専門家である社労士に相談することが賢明です。  

    判断要素常勤性が高い(加入義務ありの可能性大)常勤性が低い(加入義務なしの可能性大)備考
    事業所への出勤状況定期的・継続的に出勤し、執務にあたっている特定の会議等への出席のみ、または必要に応じて意見を述べる程度日常的な勤務の有無
    業務執行への関与度会社の業務執行に関する意思決定に参画、または役職員を指揮監督している経営方針等について助言・提言するに留まる経営への関与度合い
    役員会等への出席重要な会議(取締役会等)に継続的に出席し、議決権を行使しているまれに出席する程度、または議決権のない会議への参加のみ意思決定プロセスへの関与
    他の職務との兼任主たる業務として当該法人の経営に従事。他の職務は少ないか、関連性が薄い他に主たる職務があり、当該法人の業務は従たるもの業務への専従度
    報酬の性質・額職務内容や拘束時間に見合った、労務対価としての定期的な報酬会議出席ごとの謝金や、実費弁償的なもの。社会通念上、労務対価とは言い難い低額報酬の多寡自体が直接の判断基準ではないが、労務対価性は考慮される
    代表権・業務執行権の有無代表取締役、または業務執行権限を持つ取締役権限のない名誉職的な役員法的権限の有無

    ケース3:複数の会社で働いている場合

    70歳以上の従業員が複数の会社(事業所)で勤務し、それぞれの会社で社会保険(この場合は健康保険および厚生年金保険の70歳以上被用者としての適用基準)の加入要件を満たす場合、特別な手続きが必要です。

    この従業員は、主として勤務する事業所を一つ選択し、その事業所の所在地を管轄する年金事務所(または健康保険組合)に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する必要があります 。  

    • 70歳以上の方の場合、厚生年金保険については「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択・二以上事業所勤務届」という名称の届出も関連してきます 。  
    • この届出は、複数の事業所で加入要件を満たす状態になった事実が発生してから10日以内に、従業員本人が行うこととされています 。  
    • 届出が受理されると、選択した一箇所の年金事務所(または健康保険組合)が、その従業員の社会保険に関する事務(標準報酬月額の決定、保険料の通知など)を一括して行います。
    • 保険料は、すべての勤務先から受ける報酬を合算した総額に基づいて標準報酬月額が決定され、その標準報酬月額に応じた保険料総額が計算されます。そして、その保険料総額を各事業所が支払う報酬月額の割合に応じて按分し、それぞれの事業所が納付することになります。
    • 雇用保険についても、複数の事業所でそれぞれ加入要件(週20時間以上など)を満たす場合、原則として主たる賃金を受ける一つの事業所でのみ被保険者となります。ただし、一定の要件を満たす場合は、本人の申出により複数の事業所で雇用保険(マルチジョブホルダー制度)に加入できる場合があります。この制度の詳細は、ハローワークにご確認ください。

    複数の事業所で勤務する従業員の社会保険手続きは複雑になりがちです。企業としては、従業員から申し出があった場合や、他社でも勤務している情報を得た場合には、この「二以上事業所勤務届」の提出が必要かどうかを確認し、適切に案内することが求められます。

    手続きを怠った場合の「3つの重大リスク」

    70歳以上の従業員に限らず、社会保険の加入手続きを正しく行わない場合、企業には以下のような重大なリスクが発生します。これらは経営に直接的な影響を及ぼす可能性があるため、細心の注意が必要です。

    リスク1:最大2年分の保険料の追徴と延滞金

    社会保険の加入漏れが行政調査などで発覚した場合、企業は過去に遡って保険料を納付する義務が生じます。

    • 遡及期間:健康保険法や厚生年金保険法に基づき、最大で2年間遡って加入手続きを行い、その期間の保険料を納付するよう求められます 。  
    • 追徴金:労働保険(労災保険・雇用保険)の場合、納付すべきであった保険料額の10%に相当する追徴金が課されることがあります 。社会保険(健康保険・厚生年金保険)についても、悪質と判断された場合などには同様のペナルティが科される可能性があります。  
    • 延滞金:納付すべきであった保険料には、法定納期限の翌日から実際に納付した日の前日までの日数に応じて延滞金が加算されます。この利率は決して低くなく、例えば令和6年1月1日から令和7年12月31日までの期間においては、納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日までは年「2.4%」、それ以降は年「8.7%」となっています 。 これらの未納保険料(会社負担分および従業員負担分)、追徴金、延滞金は、企業にとって大きな財務的負担となります。特に注意すべきは、遡及して徴収される従業員負担分の保険料です。企業はこれを従業員の給与から控除して納付する必要がありますが、一度に2年分もの保険料を現在の給与から徴収することは、従業員の生活に大きな影響を与え、信頼関係を損なう原因にもなりかねません。計画的な手続きがいかに重要かがわかります。  

    リスク2:従業員からの損害賠償請求

    社会保険への未加入が原因で、従業員が本来受けられるはずだった給付を受けられないなどの不利益を被った場合、企業に対して損害賠償を請求される可能性があります。

    具体的な不利益の例

    • 健康保険に未加入だったために、病気やケガをした際の医療費を全額自己負担せざるを得なかった。
    • 雇用保険に未加入だったために、失業した際に高年齢求職者給付金やその他の失業等給付を受け取れなかった 。
    • 厚生年金保険に未加入だった期間があるために、将来受け取る老齢厚生年金額が減額されてしまった、あるいは障害年金や遺族年金の受給資格が得られなかった 。  

    このような場合、従業員は、逸失利益(本来得られたはずの給付金や年金額)、余分に支払った医療費、さらには精神的苦痛に対する慰謝料や、請求にかかった弁護士費用などを会社に請求する訴訟を起こすことがあります 。 裁判になった場合、金銭的な負担はもちろんのこと、企業の評判や他の従業員の士気にも悪影響を及ぼす可能性があります。従業員が安心して働ける環境を提供するという企業の基本的な責任が問われる事態と言えるでしょう。  

    リスク3:助成金の不支給やハローワーク求人の停止

    適正な労務管理、特に労働社会保険諸法令の遵守は、国が提供する各種助成金の受給要件の根幹をなすものです。

    • 社会保険の未加入などの法令違反が発覚した場合、申請中であった助成金が不支給となるだけでなく、過去に受給した助成金についても返還を求められる可能性があります。
    • また、ハローワークは、労働関係法令を遵守していないことが明らかになった企業に対して、求人の申し込みを受理しない、または既に公開されている求人を停止するといった措置をとることがあります。これにより、企業の人材採用計画に大きな支障をきたす恐れがあります。 特に中小企業にとって、助成金は経営支援の重要な柱であり、ハローワークは採用活動の主要な窓口です。これらの利用が制限されることは、事業運営そのものに影響を与えかねない重大なリスクとなります。

    よくある質問

    70歳以上の従業員の社会保険に関して、人事担当者様から多く寄せられるご質問とその回答をまとめました。

    Q. 介護保険料はいつまで支払いますか?

    A. 介護保険料は、原則として生涯にわたり支払い続けるものです。 まず、40歳から64歳までの方は「第2号被保険者」として、加入している医療保険(健康保険など)の保険料と一緒に徴収されます。 そして、65歳になると「第1号被保険者」となり、保険料の徴収方法が原則としてお住まいの市区町村から直接徴収する形に変わります。 具体的には、年金からの天引き(特別徴収)や、納付書または口座振替による納付(普通徴収)となります。 ただし、65歳以上75歳未満の方が会社の健康保険に引き続き加入している場合、健康保険組合によっては、経過措置的に健康保険料と合わせて給与から天引きされることもあります。75歳になり後期高齢者医療制度に移行すると、完全に市区町村からの徴収(主に年金天引き)に切り替わります。

    Q. 年金をもらいながら働くと、年金はカットされますか?

    A. はい、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険の適用事業所で働いている場合(70歳以上の方は「70歳以上被用者」として該当する場合を含みます)、老齢厚生年金の基本月額(年金額を12で割った額)と「総報酬月額相当額」(毎月の給与や賞与をならした額)の合計額が一定の基準額を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されることがあります。これを「在職老齢年金制度」といいます 。

    令和7年度(2025年度)の支給停止調整額は50万円です 。具体的には、基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円を超える場合、その超えた額の2分の1が年金支給額からカットされます。 重要なのは、70歳以上の方は厚生年金保険料の負担はありませんが、この在職老齢年金の仕組みは適用されるという点です 。従業員が「保険料を払っていないのになぜ年金が調整されるのか」と疑問に思うことがあるため、企業の人事担当者としては、この制度について正しく理解し、必要に応じて説明できるようにしておくことが望ましいです。 なお、老齢基礎年金は、この在職老齢年金制度による調整(カット)の対象にはなりません。収入にかかわらず全額支給されます 。  

    Q. 雇用保険に加入するメリットはありますか?

    A. はい、70歳以上で雇用保険(高年齢被保険者)に加入していると、万が一失業した場合に「高年齢求職者給付金」を受け取れるという大きなメリットがあります 。 この高年齢求職者給付金は、65歳未満の被保険者が受け取る基本手当(いわゆる失業保険)とは異なり、一時金として一括で支給されるのが特徴です 。

    支給額は、離職日以前1年間に被保険者であった期間が6ヶ月以上1年未満の場合は基本手当日額の30日分、1年以上ある場合は基本手当日額の50日分です 。基本手当日額は、原則として離職する直前6ヶ月間に支払われた賃金総額を180で割った金額のおおむね50%~80%(賃金が低い方ほど給付率が高くなる仕組み)となります 。 その他、育児休業給付金や介護休業給付金、教育訓練給付金(専門実践教育訓練など一部)の対象にもなり得ますので 、加入メリットは大きいと言えます。  

    雇用保険の被保険者期間給付日数支給形態備考
    離職日以前1年間に6ヶ月~1年未満基本手当日額の30日分一時金65歳以上の高年齢被保険者が失業し、ハローワークで求職活動を行う場合に支給。
    離職日以前1年間に1年以上基本手当日額の50日分一時金基本手当日額は、離職前6ヶ月の賃金日額(賃金総額÷180)×給付率(50~80%、賃金が低いほど高い)。年齢や離職理由による所定給付日数の区分はない。

    Q. 必要な手続きの書類は何ですか?

    A. 70歳以上の従業員に関する社会保険手続きで主に使われる書類は以下の通りです。事由によって必要な書類が異なりますので、都度確認が必要です。

    従業員が70歳に到達したとき
    • 「厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」(70歳到達時に、再雇用などで標準報酬月額が従前と変わる場合や、新たに70歳以上被用者として適用される場合など )  
    • 以前は「厚生年金保険 被保険者資格喪失届」も併せて提出していましたが、現在は「70歳以上被用者該当届」に資格喪失年月日(70歳到達日)を記載する運用が一般的です。詳細は管轄の年金事務所にご確認ください。
    70歳以上75歳未満の方を新たに雇用したとき
    • 「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(70歳以上被用者該当届)」(様式が一体化されており、健康保険の資格取得と厚生年金の70歳以上被用者該当を同時に届け出ます )  
    • 「雇用保険 被保険者資格取得届」(雇用保険の加入条件を満たす場合 )  
    70歳以上の従業員が退職したとき
    • 「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届(70歳以上被用者不該当届)」(70歳以上被用者でなくなったことを届け出ます )  
    • 「雇用保険 被保険者資格喪失届」および「離職証明書」(雇用保険に加入していた場合。離職証明書は本人が希望する場合などに作成)
    70歳以上の従業員の報酬月額が大幅に変わったとき(随時改定)

    「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届(70歳以上被用者月額変更届)」

    年に一度の定時決定(算定基礎)

    「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届(70歳以上被用者算定基礎届)」

    これらの手続きは、原則としてマイナンバーと関連付けて行われます。様式や添付書類は変更されることもあるため、実際の手続きに際しては、必ず日本年金機構やハローワークの最新情報を確認するか、専門家にご相談ください。社会保険手続きの一般的な流れや必要書類については、当事務所の別の記事でも解説していますので、そちらもご参照ください。

    まとめ

    70歳以上の従業員の社会保険は、年齢だけでなく、その方の働き方の実態(労働時間、日数、役職、収入など)によって加入義務や手続きが細かく分かれます。特に「非常勤役員」の社会保険加入の判断や、短時間労働者の適用基準は複雑で、専門的な知識が不可欠です。

    手続きを誤ると、後から高額な追徴金や延滞金が発生したり、従業員との信頼関係を損なう労務トラブルに発展したりするリスクも少なくありません。また、助成金の不支給など、経営面での間接的な影響も懸念されます。 「うちの会社の場合は具体的にどう対応すれば良いのだろうか?」「この手続きで本当に合っているだろうか?」 少しでも判断に迷う、あるいは手続きに不安がある場合は、安易な自己判断を避け、社会保険労務士などの専門家に相談することが、結果的に会社を守る最も確実なリスク回避策です。

    社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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    監修者(社労士)

    社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
    労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
    現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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