社会保険未加入の会社が直面するリスク|罰則・遡及支払い・解決策を社労士が徹底解説

「社会保険の未加入、うちの会社は大丈夫だろうか…」「もし未加入だったら、どんなリスクがあるのだろう?」 中小企業の経営者様や人事担当者様の中には、このような不安を抱えながらも、日々の業務に追われ、具体的な確認や対策を後回しにしてしまっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

社会保険の未加入は、単に「手続きを忘れていた」では済まされない、経営の根幹を揺るがしかねない重大な問題です。罰金や過去に遡っての保険料支払いといった直接的な金銭的負担はもちろんのこと、従業員からの信頼失墜、採用活動の困難化、さらには会社の対外的な信用低下に至るまで、そのリスクは多岐にわたります。

本記事では、人事労務の専門家である社労士が、社会保険未加入がもたらす具体的なリスクの内容、ご自身の会社が加入義務の対象かどうかの確認方法、そして万が一未加入だった場合に取るべき行動や解決策について、専門的な知見に基づき、分かりやすく徹底的に解説します。

目次

社会保険未加入、放っておくとどうなる?

社会保険への加入は、多くの企業にとって避けては通れない法的義務です。しかし、その重要性や未加入の場合に生じる影響について、正確に理解されている経営者様や人事担当者様は意外と少ないかもしれません。このセクションでは、まず社会保険加入の基本的な義務と、ご自身の会社がその対象となるか否かを確認する方法について解説します。

そもそも、なぜ会社の社会保険加入は義務なのか?

会社の社会保険加入が義務である背景には、国の社会保障制度の根幹をなす法的な定めがあります。社会保険制度は、健康保険、厚生年金保険、介護保険(40歳以上の場合)、雇用保険、労災保険といった複数の保険制度の総称であり、これらは労働者とその家族の生活を守り、社会全体の安定を図ることを目的としています。

これらのうち、特に健康保険と厚生年金保険については、健康保険法および厚生年金保険法に基づき、一定の条件を満たす事業所(「強制適用事業所」といいます)は、事業主や従業員の意思に関わらず、法律によって加入が義務付けられています 。具体的には、健康保険法第13条や厚生年金保険法第6条・第9条などがその根拠条文として挙げられます 。  

この法的義務は、単なる行政手続きの一つではなく、労働者のセーフティネットを確保するという社会的な責任を企業が負うことを意味します。したがって、この義務を怠ることは、単なる手続きの遅延やコスト削減といった問題ではなく、法規範への違反行為とみなされ、様々な不利益を招く原因となるのです。強制適用事業所に該当する場合、対象となる従業員を社会保険に加入させることは企業の責任であり、加入しないという選択肢は原則として存在しません 。この「義務」としての性格を理解することが、未加入リスクを正しく認識する第一歩となります。  

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会社が社会保険の適用事業所か確認する方法

自社が社会保険の加入義務を負う「適用事業所」に該当するかどうかを正確に把握することは、コンプライアンス経営の基本です。適用事業所には、法律上当然に加入義務が生じる「強制適用事業所」と、一定の要件のもと任意で加入できる「任意適用事業所」の2種類があります。

強制適用事業所

以下のいずれかに該当する場合、強制適用事業所となります。

  1. 法人事業所(株式会社、合同会社など): 業種や従業員数に関わらず、社長1人しかいない場合でも強制適用となります 。  
  2. 常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所: ただし、農林漁業、飲食業、理美容業、旅館業などのサービス業の一部は、当面の間、強制適用の対象外とされています(これらの業種でも任意適用は可能です)。  

任意適用事業所

強制適用事業所以外の事業所であっても、従業員の半数以上の同意を得て、厚生労働大臣の認可を受けることで社会保険の適用事業所となることができます 。例えば、従業員4人以下の個人事業所や、強制適用対象外の業種の個人事業所などがこれに該当します。  

自社の加入状況を確認する方法

最も確実な方法は、日本年金機構が提供している「厚生年金保険・健康保険 適用事業所検索システム」を利用することです 。このシステムでは、事業所の名称、所在地、または法人番号を入力することで、その事業所が厚生年金保険・健康保険に加入しているか(現存事業所)、過去に加入していて現在は脱退しているか(全喪事業所)、そして短時間労働者への適用が拡大される「特定適用事業所」に該当するかどうかなどを確認できます 。  

この検索システムは誰でも利用できるため、自社だけでなく、取引先や求人を出している企業の加入状況も確認可能です 。これは、社会保険への加入状況が公にされていることを意味し、未加入の状態が外部に露見する可能性を高める一因とも言えるでしょう。情報の更新は毎月行われていますが、届出内容の反映には時間がかかる場合がある点に留意が必要です 。  

また、特に個人事業主で従業員数が5人前後で変動する場合や、パートタイマー・アルバイトの雇用が多い事業所では、「常時使用する従業員」の定義や、パートタイマーが社会保険の加入要件(週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上など )を満たすかどうかの判断が複雑になることがあります。このような判断の誤りが意図しない未加入状態を招くリスクもあるため、専門家である社労士に相談し、正確な状況把握を行うことが賢明です。  

社会保険未加入の具体的なリスク

社会保険への未加入は、経営者が考えている以上に深刻かつ多岐にわたるリスクを企業にもたらします。法的な罰則や金銭的な負担はもちろんのこと、従業員との関係悪化や社会的な信用の失墜など、事業の継続そのものを脅かす可能性も否定できません。ここでは、社会保険未加入によって具体的にどのような不利益が生じるのかを、詳細に解説します。

法的な罰則・罰金が発生するリスクとは?

社会保険への加入義務を怠った場合、法律に基づく罰則が科される可能性があります。これは単なる行政指導に留まらず、刑事罰に至るケースも存在するため、経営者はその内容を正確に理解しておく必要があります。

健康保険法第208条および厚生年金保険法第102条には、社会保険の加入義務違反や保険料の納付義務違反などに対して、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される旨が規定されています 。また、雇用保険法第83条や労働者災害補償保険法第51条においても、同様に「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が定められています 。  

これらの罰則は、単に未加入であるという事実だけでなく、行政からの度重なる指導に従わない、虚偽の申告を行う、あるいは立入検査を拒否するといった悪質なケースにおいて適用される可能性が高まります 。例えば、督促状で指定された期限までに保険料を納付しない場合なども、罰則の対象となり得ます 。  

懲役刑まで規定されているという事実は、社会保険への加入が単なる企業の任意な福利厚生ではなく、国の社会基盤を支えるための重大な法的責務であることを示しています。たとえ実際に懲役刑に至らず罰金刑であったとしても、経営者個人や法人に前科が付くことになれば、その影響は罰金の金額以上に深刻です。将来的な融資審査や許認可取得、さらには経営者個人の信用情報にも影響を及ぼす可能性があり、事業運営における長期的な足枷となりかねません。

年金事務所等からの調査・指導・立入検査のリスク

「うちは小規模だから大丈夫だろう」「黙っていればバレないのでは?」といった考えは非常に危険です。年金事務所などの管轄行政機関は、社会保険の未加入事業所を特定し、加入を促すための調査・指導体制を年々強化しています。

近年、マイナンバー制度の導入や国税庁との情報連携の強化により、行政が企業の雇用実態や所得情報を把握しやすくなっています 。厚生労働省は、国税庁から源泉徴収義務のある企業情報の提供を受ける回数を増やし、未加入企業の調査を進めています 。また、飲食業や理容業など、従来未加入が多かった業種に対しても、事業許可申請時などに加入状況の確認を徹底し、未加入の場合は日本年金機構へ通報する体制が敷かれています 。  

調査が開始されるきっかけは様々です。年金事務所による定期的な「総合調査」のほか、従業員や退職者からの申告(いわゆる「駆け込み訴え」)に基づいて行われる「適用調査」もあります 。調査の通知(「来所要請通知書」など)が届いた場合、賃金台帳、出勤簿、源泉所得税領収証書、労働者名簿、雇用契約書といった書類の提出を求められます 。  

行政からのアプローチは段階的に進められることが一般的です。

  1. アンケート(照会文書)の送付:まず、事業所の状況を確認するための照会文書が送られてくることがあります 。  
  2. 加入指導:未加入が疑われる場合、年金事務所から加入を促す指導が行われます 。  
  3. 警告文書の送付:指導に従わない場合、より強い警告文書が送られることがあります 。  
  4. 来所要請・通知:年金事務所への出頭を求める通知がなされることもあります 。  
  5. 立入検査:再三の指導にも応じない悪質なケースでは、事業所への立入検査が実施されます 。立入検査では、職員が事業所に立ち入り、帳簿書類などを直接調査します。

    これらの調査や指導を無視し続けると、事態はさらに悪化し、後述する遡及適用や罰則のリスクが現実のものとなります。行政による調査体制の強化は、未加入事業所がいずれ発覚する可能性が極めて高いことを意味しており、「見つからないだろう」という安易な期待は通用しないと認識すべきです。また、一度調査対象となれば、その対応には多大な時間と労力を要し、経営者や人事担当者の業務に大きな支障をきたすこと自体が、間接的な経営リスクと言えるでしょう。

    過去に遡って加入させられる「遡及適用」のリスク

    社会保険の未加入が発覚した場合に経営者が最も恐れる事態の一つが、過去に遡って社会保険に加入させられ、未払い分の保険料を一括で請求される「遡及適用」です。

    法律上、社会保険料の徴収権の時効は2年と定められています(例:厚生年金保険法第92条)。そのため、行政指導や立入検査の結果、悪質な未加入と判断された場合などには、最大で過去2年分の社会保険料の納付を求められる可能性があります 。  

    この遡及適用による保険料の負担は、企業にとって極めて大きなものとなります。

    • 会社負担分と従業員負担分の一括納付:本来、社会保険料は会社と従業員が折半で負担しますが、遡及適用の場合、会社は過去の従業員負担分も含めて一時的に全額を立て替えて納付しなければならないケースが多く見られます。特に、既に退職した従業員の負担分は回収が困難なため、実質的に会社が全額負担することになるリスクがあります 。  
    • 賞与からも徴収:社会保険料は月々の給与だけでなく、賞与からも徴収されるため、遡及適用の対象期間に賞与の支払いがあれば、その分の保険料も加算されます 。  
    • 延滞金・追徴金の発生:納付すべきであった保険料を期限までに支払っていなかったことに対するペナルティとして、延滞金や追徴金が課されることがあります。

    延滞金(えんたいきん)と追徴金(ついちょうきん)の違い

    遡及適用に伴い発生しうる追加の金銭的負担として「延滞金」と「追徴金」があります。これらは混同されがちですが、性質が異なります。

    特徴延滞金 (Entaikin – Late Payment Fees)追徴金 (Tsuichokin – Additional Collection Charges/Penalties)
    定義・性質確定した保険料が納付期限を過ぎて支払われた場合に、その遅延日数に応じて課される利息に類似した金銭。社会保険の未加入や不正な届出などが発覚した場合に、本来納付すべきだった保険料に加えてペナルティとして課される金銭。
    法的根拠(例)健康保険法、厚生年金保険法など各保険法における保険料徴収に関する規定。利率は法令で定められ、経済状況により変動することがある 健康保険法や厚生年金保険法など。例えば、未加入期間の保険料の10%と規定される場合がある
    典型的な発生条件督促状で指定された納付期限までに保険料が納付されない場合など、納付の遅延に対して発生 年金事務所の調査などで過去の未加入が発覚し、遡及加入となった場合や、悪質な未加入と判断された場合などに、未納保険料に対する加算金として発生
    計算根拠・率(例)未納保険料額に対し、納付期限の翌日から納付の前日までの日数に応じて、法令で定められた年率(日割り計算)で計算される。利率は遅延期間によって段階的に高くなることがある 未納保険料総額や遡及して徴収される保険料総額に対して、一定の割合(例:10% )で計算されることが多い。
    管轄・徴収機関日本年金機構日本年金機構

    重要なのは、遡及加入の指導を受けたタイミングです。日本年金機構から「加入指導」を受け、本格的な「立入検査」が入る前に自主的に手続きを行えば、新規加入として扱われ、過去2年分の遡及支払いを免れる可能性があるとの指摘もあります 。しかし、立入検査後に強制的に加入手続きが取られた場合は、原則として過去2年分の遡及適用となる可能性が高いです 。  

    この2年分の保険料は、企業にとってはまさに「隠れた負債」であり、ある日突然、数百万、数千万円単位の支払いを求められることもあり得ます。これは資金繰りに深刻な影響を与え、最悪の場合、経営破綻の引き金にもなりかねません。この「遡及適用の爆弾」を抱え続けないためには、早期の状況確認と専門家への相談が不可欠です。

    従業員との信頼関係悪化・トラブル発生リスク

    社会保険の未加入は、法律違反であると同時に、従業員の権利を侵害する行為でもあります。従業員が本来受けられるはずの医療給付や年金給付の機会を奪うことになり、これが発覚した場合、従業員との信頼関係は大きく損なわれ、様々なトラブルを引き起こす可能性があります。

    • 従業員からの不信感・不満の増大:自身が社会保険に加入していないことを知った従業員は、会社に対して強い不信感を抱きます。これは労働意欲の低下や職場全体の士気低下につながります。
    • 行政機関への申告:不満を抱いた従業員や退職者が、年金事務所や労働基準監督署に未加入の事実を申告することがあります。これは行政調査の直接的な引き金となり得ます 。  
    • 退職者の増加・採用難:社会保険が整備されていない企業は、従業員にとって魅力的な職場とは言えません。優秀な人材の流出を招き、新たな人材獲得も困難になります。特に、ハローワークでは社会保険未加入事業所の求人を受け付けないため、公的な採用ルートが閉ざされることになります 。  
    • 損害賠償請求のリスク:
      • 退職した従業員が、年金事務所で老齢年金の手続きをしようとした際に初めて未加入であったことを知り、本来受け取れるはずだった年金額との差額などを求めて会社に損害賠償を請求するケースがあります 。過去の判例でも、社会保険未加入を理由とした労働契約上の債務不履行として、損害賠償請求が認められた事例が存在します 。  
      • 「ジャパンレンタカー事件」では、社会保険未加入に関する従業員からの損害賠償請求が争われました。この事件では時効や従業員の認識可能性などが考慮され一部請求棄却となりましたが、企業側の責任が完全に否定されたわけではなく、同様の紛争が起こりうることを示唆しています 。  
      • 従業員が業務外の病気やケガで長期間働けなくなった場合、健康保険に加入していれば受給できる「傷病手当金」(給与のおおむね3分の2が最長1年6ヶ月支給)が受けられません 。また、出産時には「出産手当金」も同様です。これらの給付を受けられないことによる経済的困窮を理由に、会社に対して補償を求めるトラブルに発展する可能性も考えられます。  
      • 将来受け取る老齢厚生年金額も、未加入期間分は当然ながら算定されず、生涯にわたる不利益となります 。  

    従業員は会社の最も重要な財産です。その従業員からの信頼を失い、法的紛争にまで発展するような事態は、企業の存続にとって大きな打撃となります。特に人手不足が深刻化する現代において、社会保険という基本的な法的義務を果たさない企業が、従業員を惹きつけ、定着させることは極めて困難と言えるでしょう。

    会社の対外的な信用・イメージ低下リスク

    社会保険の未加入問題は、社内だけでなく、社外に対する会社の信用やイメージにも深刻な悪影響を及ぼします。コンプライアンス意識が低い企業という烙印を押されかねず、様々な場面で不利益を被る可能性があります。

    • 金融機関からの評価低下・融資への悪影響:金融機関は融資審査の際、企業の財務状況だけでなく、コンプライアンス遵守状況も重視します。社会保険の未加入や保険料の滞納は、資金繰りの悪化や法令遵守意識の欠如を示すものと見なされ、新規融資や追加融資が困難になることがあります 。銀行は、決算書の「未払費用」や「預り金」、あるいは「法定福利費」の不自然な変動などから、社会保険料の未納・滞納を察知することが可能です 。  
    • 取引先との関係悪化・取引停止リスク:近年、企業間の取引においても、相手方のコンプライアンス体制を重視する傾向が強まっています。社会保険未加入という事実は、取引先からの信用を損ない、既存取引の見直しや新規取引の機会損失につながる可能性があります 。特に大企業との取引や公共事業の入札などでは、社会保険への加入が取引条件や参加資格となっている場合も少なくありません。  
    • 行政処分や報道によるイメージダウン:悪質な未加入が発覚し、行政処分を受けたり、それが報道されたりした場合、会社の社会的信用は大きく失墜します 。一度損なわれた信用を回復するには、多大な時間と労力が必要です。  
    • 採用活動への支障:前述の通り、ハローワークに求人を出せないだけでなく 、企業の評判はインターネットを通じて瞬時に広まるため、社会保険未加入の事実は求職者にも伝わりやすく、採用活動に大きな支障をきたします。  
    • M&Aや事業承継への障害:将来的にM&A(企業の合併・買収)や事業承継を検討する際、社会保険の未加入は重大なマイナス要因となります。デューデリジェンス(買収監査)の過程で必ず発覚し、取引価格の減額や、最悪の場合は取引自体が破談になる可能性もあります。

    社会保険への加入は、企業が社会の一員として最低限果たすべき責任の一つです。この責任を疎かにする企業は、金融機関や取引先、そして社会全体から「信頼できない企業」と見なされ、事業運営に必要な様々なリソースへのアクセスが困難になります。これは、単なるイメージの問題ではなく、企業の成長と存続を直接的に脅かすリスクなのです。

    こんな時どうする?社会保険未加入に関する疑問と解決策

    社会保険未加入のリスクを理解した上で、次に経営者様や人事担当者様が直面するのは、「具体的にどうすれば良いのか?」という疑問でしょう。従業員が加入を渋るケース、過去の未加入期間が発覚したケースなど、状況に応じた適切な対応が求められます。このセクションでは、そのような疑問に対する具体的な解決策と取るべき行動について解説します。

    従業員が社会保険への加入を希望しない場合の対応は?

    「手取りが減るのは困る」「扶養の範囲内で働きたい」といった理由で、従業員から社会保険への加入を希望しない旨を伝えられることがあります。しかし、企業としてはどのように対応すべきでしょうか。

    まず大前提として、社会保険の加入要件(勤務時間・日数など)を満たす従業員がいる場合、その従業員を社会保険に加入させることは事業主の法的義務です 。従業員本人や事業主の希望によって、加入の有無を選択できるものではありません 。たとえ従業員が「加入したくない」と申し出たとしても、企業がその意向を汲んで未加入のままにすることは、法律違反となります。  

    企業が取るべき対応は以下の通りです。

    1. 加入義務の再確認:まず、当該従業員が本当に社会保険の加入要件を満たしているのかを正確に確認します。
    2. 加入義務と制度のメリット説明:従業員に対し、社会保険への加入が法律上の義務であること、そして加入することによるメリット(将来の年金受給額の増加、手厚い医療保障、傷病手当金や出産手当金の受給資格、保険料の半額は会社負担であることなど)を丁寧に説明し、理解を求めます 。  
    3. 未加入の場合の事業主リスクの説明:従業員を説得する際には、会社が加入手続きを怠った場合に罰則を受けたり、遡って保険料を請求されたりするリスクがあることも伝える必要があるかもしれません 。  
    4. 毅然とした対応:説明を尽くしても従業員が納得しない場合でも、企業は法律に基づき、加入手続きを進める必要があります。その際、なぜ加入が必要なのかを書面で交付するなど、丁寧な対応を心がけることが望ましいでしょう。

    従業員の意向を無視するようで心苦しいと感じるかもしれませんが、法を遵守し、後々のより大きなトラブルを避けるためには、企業として毅然とした態度で臨むことが重要です。実際、従業員を未加入のままにした結果、後に従業員が不利益を被り(例:病気で休業した際に傷病手当金が受け取れないなど)、会社がその責任を問われるケースも考えられます。その場合、会社が従業員の保険料負担分を遡って支払わなければならなくなる可能性もあり、その金銭的ダメージは刑事罰よりも大きくなることさえあります 。  

    過去の未加入、今からでも間に合う?取るべき行動とは

    「過去に遡って社会保険に加入していなかった期間があるかもしれない…」と気づいた場合、不安に感じるのは当然です。しかし、問題を認識した今こそ、積極的に行動を起こすことが重要です。

    結論から言えば、過去の未加入状態を解消することは可能ですし、むしろ放置するよりも遥かに賢明な選択です。日本年金機構などから指導を受ける前に自主的に未加入状態を解消しようと努める姿勢は、一般的に好意的に受け止められ、結果としてペナルティが軽減される可能性もあります。例えば、社会保険の適用事業所としての届出が遅れた場合でも、適切な手続きを踏めば遡って加入することは可能です 。  

    取るべき行動のステップは以下の通りです。

    1. 現状の正確な把握:まず、いつから、どの従業員が、どのような理由で未加入だったのか、事実関係を正確に調査・把握します。給与台帳や出勤簿、雇用契約書などの関連書類を整理しましょう。
    2. 専門家(社労士)への相談:状況を把握したら、速やかに社会保険労務士に相談することを強くお勧めします。社労士は、個別の状況に応じた最適な対応策(自主的な届出の進め方、年金事務所との折衝方法、潜在的な法的リスクの評価など)をアドバイスしてくれます。年金事務所から既に何らかの照会文書が届いている場合は、特に早期の相談が肝心です 。  
    3. 是正措置の実施:社労士の助言のもと、必要な届出(「被保険者資格取得届」の提出など)を行い、未納保険料があればその納付計画についても検討します。

    重要なのは、「バレなければ大丈夫」と問題を先送りしないことです。前述の通り、行政の調査能力は向上しており、未加入状態が長引けば長引くほど、遡及適用の期間が延び、延滞金や追徴金のリスクも高まります。また、年金事務所などから社会保険の加入に関する通知が届いた場合、速やかに対応すれば、遡及加入による保険料の支払いや罰則などを免れる可能性も指摘されています 。  

    自主的に問題を是正しようとする姿勢は、万が一の際に情状酌量の余地を生む可能性もあります。過去の過ちを認め、誠実に対応することが、結果的に企業へのダメージを最小限に抑える道となるのです。

    適正な社会保険加入手続き・未加入解消の進め方

    社会保険の加入手続きや未加入状態の解消は、正確な知識と慎重な手順が求められる複雑な業務です。手続きの誤りは、さらなる問題を引き起こしかねません。

    基本的な手続きの流れ

    • 会社が初めて適用事業所となる場合(新規適用)
      • 「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を管轄の年金事務所に提出します。
      • 同時に、加入対象となる全従業員の「被保険者資格取得届」を提出します。
      • 添付書類として、法人事業所の場合は登記事項証明書、個人事業所の場合は事業主の住民票などが必要となります。  
    • 適用事業所だが、一部従業員が未加入だった場合(資格取得漏れ)
      • 未加入だった従業員の「被保険者資格取得届」を提出します。
      • この際、資格取得年月日をいつにするか(事実発生日まで遡るか、届出日とするか)は、状況や行政の指導によって異なるため、社労士と相談の上、慎重に判断する必要があります。自主的な届出であれば、原則として届出が認められた日から加入となり、遡及適用されないのが一般的ですが、悪質と判断される場合は2年前まで遡る可能性もあります 。

      手続きの複雑さと注意点

      社会保険の手続きは、以下のような点で非常に煩雑であり、専門知識が求められます。

      • 加入対象者の正確な判断:正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員のおおむね4分の3以上であるなど、一定の要件を満たせば加入義務が生じます 。この判断を誤り、加入漏れが発生するケースは少なくありません。  
      • 資格取得日・喪失日の正確な届出:試用期間中であっても採用日から資格取得となりますし、退職の場合は退職日の翌日が資格喪失日となるなど、日付の取り扱いには注意が必要です 。  
      • 標準報酬月額の正確な算定:資格取得時や毎年の算定基礎届、月額変更届において、基本給だけでなく各種手当を含めた報酬月額を正しく算定し届け出る必要があります 。この算定誤りは、保険料の誤徴収や将来の年金額にも影響します。  
      • 頻繁な法改正への対応:社会保険制度は法改正が頻繁に行われるため、常に最新の情報をキャッチアップし、適切に対応していく必要があります 。  
      • 書類作成の煩雑さ:提出書類は多岐にわたり、記入項目も複雑です。従業員の入退社や扶養家族の変更、賞与の支払いなど、事象が発生するたびに届出が必要となり、管理が煩雑になりがちです 。  

      これらの手続きを自社だけで完璧に行うのは、特に人事労務の専任者がいない中小企業にとっては大きな負担です。手続きのミスは、保険料の追徴や延滞金、さらには従業員からの不信感につながるリスクを伴います。未加入状態の解消や適正な加入手続きをスムーズに進めるためには、やはり社会保険労務士のような専門家のサポートを受けることが最も確実で安心な方法と言えるでしょう。

      よくある質問

      社会保険の未加入に関して、経営者様や人事担当者様から寄せられることの多いご質問とその回答をまとめました。

      Q1: 社会保険の未加入は、具体的にどのようにして発覚するのですか?

      A: 社会保険の未加入が発覚する経緯は様々です。主なものとしては、日本年金機構による定期的な調査や、マイナンバー制度を活用した国税庁との情報連携によるものがあります 。また、従業員や退職者からの年金事務所への相談や申告、取引先からの指摘、あるいは法人の設立や許認可申請の際に確認されることもあります。近年、これらの調査体制は強化される傾向にあります。  

      Q2: 遡及加入で過去2年分の保険料を支払う場合、従業員がすでに退職していたら、その負担はどうなりますか?

      A: 原則として、社会保険料は会社と従業員が折半で負担しますが、遡及して保険料を納付する場合、既に退職した従業員の負担分については、会社がその分も立て替えて納付する必要が生じることが一般的です。退職者からの保険料の回収は事実上困難なケースが多く、結果的に会社が全額を負担するリスクがあります 。  

      Q3: 罰金や懲役といった重い罰則は、どのような場合に科される可能性が高いですか?

      A: 罰金や懲役といった刑事罰は、単に未加入であったというだけでなく、特に悪質と判断されるケースで科されるリスクが高まります。具体的には、年金事務所などからの度重なる加入指導や督促を無視し続けた場合、虚偽の申告や書類の偽造・隠蔽を行った場合、あるいは正当な理由なく立入検査を拒否したり妨害したりした場合などが該当します 。  

      Q4: 従業員が5人未満の個人事業主ですが、社会保険に加入する必要はありますか?

      A: 常時使用する従業員が5人未満の個人事業所(一部のサービス業などを除く)は、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制適用事業所には該当しません。ただし、従業員の半数以上の同意を得て、事業主が申請し認可を受けることで、任意で適用事業所となることができます(任意適用)。なお、法人(株式会社や合同会社など)の場合は、従業員数に関わらず、社長1人でも強制適用となります。ご自身の事業所がどちらに該当するか正確に判断するためには、専門家である社労士にご相談いただくことをお勧めします。  

      Q5: 社会保険の手続きは自社でもできますか?社労士に依頼するメリットは何ですか?

      A: 社会保険に関する各種手続きを自社で行うこと自体は可能です。しかし、手続きは非常に複雑で多岐にわたり、関連法令も頻繁に改正されるため、正確かつ遅滞なく行うには専門的な知識と多くの時間が必要です 。社労士に依頼するメリットとしては、まず手続きの正確性と迅速性が担保される点です。これにより、手続きミスによる追徴金や従業員トラブルといったリスクを回避できます。また、法改正にも適切に対応でき、経営者様や人事担当者様は煩雑な事務作業から解放され、本業に専念できます。さらに、未加入リスクの根本的な解決策の提案や、将来的な労務リスクを予防するための体制構築まで、専門的なサポートが期待できます 。社労士事務所altruloopでは初回のご相談は無料ですので、まずはお気軽にご利用ください。  

      Q6: 年金事務所から社会保険に関する調査の通知が届きました。どうすれば良いですか?

      A: 年金事務所から調査の通知(来所要請や照会文書など)が届いた場合は、決して無視せず、誠実かつ迅速に対応することが最も重要です。まずは通知の内容を正確に理解し、指定された期日までに、求められている書類(賃金台帳、出勤簿、労働者名簿など)を準備する必要があります 。もし、社会保険の未加入や手続き漏れに心当たりがある場合や、どのように対応すべきか不安な場合は、すぐに社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めします 。専門家が早期に関与することで、問題を最小限に抑え、適切な対応を導くことができます。  

      まとめ

      社会保険未加入のリスクは深刻です。放置せず専門家へ相談を。

      社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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      監修者(社労士)

      社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
      労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
      現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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