近年、日本の労働市場において、外国人労働者の存在感は急速に増しています。深刻化する労働力不足への対応や、企業のグローバル化推進といった背景から、多くの企業が国籍を問わず優秀な人材を求めるようになりました。しかし、その一方で、外国人雇用には特有の法制度が複雑に絡み合っており、これらの理解が不十分なまま雇用を進めてしまうと、企業は深刻な法的リスクに直面することになります。
本レポートは、社会保険労務士の専門的知見に基づき、企業が外国人雇用において遵守すべき法律、留意すべき実務上のポイント、そして陥りやすい罠について網羅的に解説することを目的としています。
本レポートを通じて、外国人雇用に関わる企業の経営者や人事労務担当者が、法的リスクを正確に理解し、それを回避するための具体的な知識と手段を得ることを目指します。そして、最終的には、各企業が適法かつ円滑な外国人雇用管理体制を構築し、多様な人材が活躍できる職場環境を実現するための一助となることを願っています。
外国人雇用をする際に確認すべき主要法律
外国人雇用においては、複数の法律が複雑に関係しており、それぞれの規定を正確に理解し遵守することが求められます。特に、「知らなかった」という理由では免責されない厳しい罰則規定も存在するため、細心の注意が必要です。
出入国管理及び難民認定法(入管法):不法就労・不法就労助長罪のリスク
外国人雇用において最も根幹となる法律の一つが入管法です。この法律の規定を軽視すると、不法就労や不法就労助長罪といった重大な違反に問われる可能性があります。
- 不法就労の定義と類型
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不法就労とは、日本で就労する資格がない外国人が就労すること、または許可された範囲を超えて就労することを指します。具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 「短期滞在」や「研修」など、そもそも就労が認められていない在留資格で就労する場合 。
- 在留期間が切れたまま日本に滞在(オーバーステイ)し、就労する場合 。
- 保有する在留資格で許可されている活動範囲を超えて就労する場合。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ者が、専門知識を必要としない単純作業に主に従事するケースなどです 。
- 「留学」や「家族滞在」などの在留資格を持つ者が、資格外活動許可で認められた時間(原則週28時間以内)を超えてアルバイトをする場合 。
- 不法就労助長罪の成立要件、罰則、具体的事例
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不法就労助長罪は、不法就労の状態にある外国人を雇用したり、不法就労をあっせんしたりした場合に成立します 。この罪の重い点は、事業主が「不法就労であると知らなかった」としても、在留カードの確認を怠るなど、相当の注意を尽くさなかった(過失があった)と判断されれば処罰の対象となり得ることです 。 罰則は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、場合によってはこれらが併科されることもあります 。営利目的で不法就労を助長した場合は、さらに重く、5年以下の懲役及び500万円以下の罰金となる可能性があります 。 さらに、2025年6月からは不法就労助長罪の罰則が強化され、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)となる予定です 。これは、政府が不法就労対策を一層強化する姿勢の表れであり、企業はより一層の注意喚起が必要です。 過去の事例としては、留学生に法定時間を超えてアルバイトをさせた飲食店経営者や、在留資格で認められていない業務に外国人を従事させた食品メーカー、就労資格のない外国人を雇用した建設会社などが不法就労助長罪で摘発されています 。人材派遣会社が不法就労をあっせんし、処罰されたケースも報告されています 。
入管法違反のような初期段階での確認漏れは、その後の労働契約や社会保険手続きなど、他の法域にも連鎖的に問題を引き起こす可能性があります。例えば、不法就労状態の外国人と締結した雇用契約の有効性や、社会保険加入の適格性が問われることになりかねません。このように、各法律は密接に関連しているため、包括的なコンプライアンス意識が不可欠です。
また、不法就労助長罪の罰則には罰金だけでなく懲役刑も含まれており、企業の担当者個人が刑事責任を問われるリスクがあることを認識しなければなりません 。2025年の罰則強化は、当局がこの問題に対してより厳しい姿勢で臨むことを示しており、単なる人事労務上のコンプライアンス違反ではなく、企業存続および個人の法的責任に関わる重大な経営リスクとして捉えるべきです。
労働基準法・最低賃金法:国籍による差別禁止と公正な処遇
外国人労働者も、日本人労働者と同様に労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令によって保護されます。
- 労働基準法第3条は「均等待遇」を定めており、使用者は労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならないと規定しています 。外国人であることを理由に、日本人よりも低い賃金を設定したり、不利な労働時間としたりすることは、明確な法律違反となります。
- 最低賃金法も国籍を問わず適用され、外国人労働者に対しては、事業所の所在地がある都道府県の地域別最低賃金、または特定の産業に適用される特定最低賃金を下回る賃金で雇用することはできません 。違反した場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります 。
- 過去の裁判例では、外国人技能実習生に対し、日本人従業員よりも多くの寮費を給与から天引きしていたことが、労働基準法第3条の均等待遇違反と判断されたケースもあります(デーバー加工サービス事件)。
労働施策総合推進法(旧雇用対策法):外国人雇用状況の届出義務と怠った場合の罰則
事業主は、外国人労働者を新たに雇い入れた場合、または外国人労働者が離職した場合には、その氏名、在留資格、在留期間などをハローワークに届け出る義務があります(外国人雇用状況の届出)。これは、特別永住者や在留資格が「外交」「公用」の者などを除く、すべての外国人労働者が対象です。
この届出を怠ったり、虚偽の届出を行ったりした場合には、30万円以下の罰金が科されることがあります 。届出の主な目的は、不法就労の防止、外国人労働者の雇用管理の改善や労働条件・労働環境に関する助言・指導、離職した外国人への再就職支援、そして国全体の外国人雇用状況の把握と分析にあります 。
その他関連法規(労働安全衛生法等)の遵守
上記の法律以外にも、労働安全衛生法に基づき、外国人労働者に対しても安全衛生教育を実施する義務があります。その際、外国人労働者が理解できる言語や方法で教育を行う必要があります 。また、健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法、労災保険法といった社会保険・労働保険への加入義務も、原則として日本人と同様に発生します(詳細は後述)。
外国人を雇用するうえで最も重要なポイント
外国人を雇用する上で、最も基本的かつ重要なのが「在留資格」の確認です。在留資格は、外国人が日本に滞在し、特定の活動を行うことを法的に許可するものであり、その種類によって就労の可否や範囲が厳格に定められています。この確認を怠ると、意図せず不法就労を助長してしまうリスクがあります。
在留資格の種類と就労可否の概要
在留資格は、大きく分けて以下のカテゴリーに分類されます。
- 就労に制限のない在留資格
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「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」の4種類です 。これらの在留資格を持つ外国人は、原則として活動内容に制限がなく、日本人と同様にどのような職業にも就くことができます。
- 在留資格で許可された範囲に限り就労可能な資格
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代表的なものに「技術・人文知識・国際業務」、「技能」、「特定技能」などがあります 。これらの資格は、それぞれ定められた専門分野や業務範囲内でのみ就労が許可されます。
- 原則就労不可の在留資格
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「留学」、「家族滞在」、「短期滞在」、「研修」などが該当します 。これらの資格を持つ外国人は、原則として日本で働くことはできません。ただし、「留学」や「家族滞在」の資格を持つ者は、別
在留資格の種類は多岐にわたり、それぞれに細かいルールが定められているため、企業の人事担当者が全ての詳細を常に把握しておくことは困難です。そこで、主要な在留資格について、就労の可否、主な活動範囲、特に注意すべき点をまとめた以下の表を参考に、採用候補者の適格性を判断する第一歩としてください。
表1:在留資格別 就労可否・主な活動範囲・注意点一覧
在留資格名 | 就労制限の有無 | 主な活動内容/該当例 | 許容される業務の具体例 | 特に注意すべき点 |
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永住者 | 制限なし | 日本に永住する者 | あらゆる業務 | 特になし |
日本人の配偶者等 | 制限なし | 日本人の配偶者、実子、特別養子 | あらゆる業務 | 特になし |
永住者の配偶者等 | 制限なし | 永住者・特別永住者の配偶者、日本で出生し引き続き在留している実子 | あらゆる業務 | 特になし |
定住者 | 制限なし | 日系3世、外国人配偶者の連れ子、難民認定を受けた者など | あらゆる業務 | 個別の事情により活動内容が指定される場合あり |
技術・人文知識・国際業務 | 許可された範囲内のみ可 | 理学・工学等の技術者、法律・経済等の専門職、翻訳・通訳、デザイナー、語学教師など | ITエンジニア、機械設計、経営コンサルタント、マーケティング、貿易事務、外国語教師など | 単純労働は不可。学歴(大学卒業等)または実務経験と業務内容の関連性が必要 。 |
技能 | 許可された範囲内のみ可 | 産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務 | 外国料理の調理師、スポーツ指導者、航空機操縦者、貴金属加工職人など | 各職種で定められた実務経験年数(例:調理師10年)が必要 。 |
特定技能1号 | 許可された範囲内のみ可 | 特定産業分野(介護、建設、農業、外食等12分野+追加4分野)における相当程度の知識・経験を要する業務 | 各分野で定められた業務(例:介護業務、建設作業、農作業、接客・調理) | 対象分野・業務が限定。技能試験・日本語試験合格が必要。受入れ機関による支援計画の実施義務 。 |
特定技能2号 | 許可された範囲内のみ可 | 特定産業分野(建設、造船・舶用工業等、介護を除く11分野)における熟練した技能を要する業務 | 各分野で定められた熟練技能を要する業務 | 在留期間更新の上限なし、家族帯同可。1号からの移行が基本。 |
経営・管理 | 許可された範囲内のみ可 | 事業の経営・管理活動 | 企業の経営者、管理者 | 事業所の確保、一定規模以上の投資(資本金500万円等)、事業計画の実現性が必要 。 |
留学 | 原則不可(資格外活動許可により週28時間以内可) | 大学、専門学校等での学業 | アルバイト(学業に支障のない範囲) | 資格外活動許可必須。時間制限厳守(長期休暇中は緩和あり)。風俗営業等での就労は不可。 |
家族滞在 | 原則不可(資格外活動許可により週28時間以内可) | 就労資格等で在留する者の扶養を受ける配偶者・子 | アルバイト(家計補助目的等) | 資格外活動許可必須。時間制限厳守 。 |
短期滞在 | 不可 | 観光、商用(会議、市場調査等)、親族訪問など | 就労は一切不可 | 報酬を得る活動は禁止。 |
研修 | 不可 | 日本の公私の機関により受け入れられて行う技能等の修得活動(実務作業を伴わないもの) | 就労は一切不可 | 技能実習とは異なる。 |
この表はあくまで概略であり、個別のケースについては必ず最新の法令や出入国在留管理庁の情報を確認するか、専門家にご相談ください。
主要な就労可能資格の詳細解説
- 「技術・人文知識・国際業務」
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この在留資格は、大学等で修得した専門的知識・技術を活かす業務や、外国特有の文化・思考に基づく業務に従事する外国人に与えられます 。具体的には、ITエンジニア、機械設計者、経営コンサルタント、マーケティング担当者、翻訳・通訳者、デザイナー、企業の語学教師などが該当します 。 重要な注意点として、この在留資格では単純労働(例:工場ライン作業、清掃、データ入力のみの事務)に従事することは認められていません 。また、本人の学歴(大学卒業以上が一般的)や職務経歴と、日本で行う業務内容との間に関連性が求められます 。この「関連性」の判断が曖昧なまま採用し、後に入管から指摘を受けるケースが散見されるため、業務内容の具体性を十分に検討する必要があります。
- 「技能」
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「技能」の在留資格は、特定の産業分野において熟練した技能を必要とする業務に従事する外国人を対象としています 。代表的な職種と、それぞれに求められる実務経験年数は以下の通りです。
- 外国料理の調理師・コック:原則として10年以上の実務経験が必要です(タイ料理の調理師は5年以上)。この実務経験には、外国の教育機関で調理に関する科目を専攻した期間を含めることができる場合があります。
- スポーツ指導者:原則として3年以上の実務経験、または選手としてオリンピックや世界選手権などの国際的な大会に出場した経験が求められます 。
- 航空機の操縦者:250時間以上の飛行経歴が必要です 。
- 貴金属等の加工職人:原則として10年以上の実務経験が必要です 。 これらの実務経験は客観的な資料で証明する必要があり、単なる自己申告では認められません。
- 「特定技能」
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「特定技能」は、国内人材の確保が困難な状況にある特定の産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるために創設された在留資格です 。 対象となるのは、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の12分野に、2024年から自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野が加わった計16分野です 。 「特定技能」には1号と2号があり、1号は特定の産業分野に属する相当程度の知識または経験を要する技能を持つ者、2号は同分野で熟練した技能を持つ者が対象です 。2号は在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も可能です 。 特定技能外国人を受け入れる企業(受入れ機関)は、外国人に対する職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援計画を作成し、適切に実施する義務があります。この支援は、登録支援機関に委託することも可能です 。また、各分野で定められた業務(主たる業務)及びそれに関連する業務に従事することが求められ、全く関係のない業務に従事させることはできません 。 特に、2024年から新たに追加された自動車運送業や鉄道といった分野では、それぞれの分野特有の規制や安全基準への理解が不可欠です。これらの新分野で外国人を雇用しようとする企業は、過去の一般的な外国人雇用知識だけでは対応できず、分野別の詳細なルールや受入れ機関としての義務を速やかに習得する必要があります。これらを怠ると、「知らなかった」では済まされない事態を招きかねません。
- 「経営・管理」
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この在留資格は、日本で事業の経営を開始したり、既存の事業の経営や管理に従事したりする外国人に与えられます 。 主な要件として、①事業を営むための事業所が日本国内に確保されていること(単なるバーチャルオフィスは不可)、②事業の規模が、常勤職員を2名以上雇用しているか、資本金の額または出資の総額が500万円以上であること、またはこれらに準ずる規模であると認められること、③事業計画が具体的で実現可能であり、事業が安定的かつ継続的に運営される見込みがあること、などが挙げられます 。 特に、事業の安定継続性については、直近の決算状況が重視され、欠損金がある場合や債務超過の状態にある場合は、その理由や改善の見通しについて詳細な説明と資料(事業計画書、第三者評価書など)が求められます 。
就労に制限がある資格(留学、家族滞在等)と資格外活動許可の注意点
「留学」や「家族滞在」の在留資格は、本来の目的が学業や家族との同居であり、原則として就労は認められていません 。しかし、入国管理局から「資格外活動許可」を取得すれば、本来の活動を阻害しない範囲でアルバイトなどの就労が可能です 。 この資格外活動許可には厳格な時間制限があり、原則として1週間につき28時間以内と定められています 。留学生の場合、在籍する教育機関の学則で定められた長期休業期間中(夏休みなど)は、1日8時間以内の範囲で、週28時間を超えて働くことが例外的に認められる場合があります 。 複数のアルバイト先で働いている場合は、全ての勤務時間を合計して週28時間以内でなければなりません 。この時間制限を超過して就労させた場合、外国人本人は不法就労となり、雇用した企業側も不法就労助長罪に問われる可能性があります 。企業は、採用時に資格外活動許可の有無と内容を必ず確認し、労働時間管理を徹底する必要があります。
在留カードの確認義務:確認項目と偽変造カードへの注意
外国人を雇用する企業は、採用時に必ず本人の「在留カード」の提示を受け、その内容を確認する義務があります。在留カードは、日本に中長期間滞在する外国人に交付されるもので、身分証明書であると同時に、就労に関する重要な情報が記載されています。
確認すべき主な項目は以下の通りです 。
- 氏名、生年月日、性別、国籍・地域
- 住居地(裏面に記載変更履歴がある場合も確認)
- 在留資格の種類
- 在留期間及びその満了日(有効期限)
- 就労制限の有無(「就労不可」「在留資格に基づく就労活動のみ可」「指定書により指定された就労活動のみ可」「就労制限なし」などと記載)
- 資格外活動許可を受けている場合は、カード裏面の「資格外活動許可欄」の記載内容(許可の有無、許可されている活動内容や時間制限など)
特に「在留期間の満了日」は重要で、期限が切れている外国人を雇用し続けると不法就労助長罪に問われます 。また、近年は精巧な偽変造在留カードも出回っているため、カード表面のホログラムや透かし模様、左端の色変化模様、裏面の「MOJ MOJ」という微細文字などを注意深く確認する必要があります 。出入国在留管理庁が提供しているスマートフォン用「在留カード等読取アプリケーション」を使用すると、在留カードに内蔵されたICチップ情報を読み取り、偽変造の有無をより確実に確認できますので、積極的な活用が推奨されます 。さらに、「出入国在留管理庁在留カード等番号失効情報照会」ウェブサイトで、在留カード番号が失効していないかを確認することも有効な手段の一つです 。
在留資格の確認は、単にカードの表面を見るだけでなく、その資格が具体的にどのような活動を許可しているのか、企業の業務内容と合致しているのかを深く理解することが肝要です。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持っていても、その専門性と関係のない単純作業に主に従事させることはできません 。このようなミスマッチが、「知らなかった」では済まされない不法就労助長罪につながる大きな要因となっています。
採用から退職までの実務プロセスと法的留意点
外国人の採用から退職に至るまでの一連の実務プロセスにおいては、日本の労働法規に加え、入管法やその他の関連法規に基づく特有の留意点が存在します。これらを正確に理解し、適切に対応することが、トラブルを未然に防ぎ、円滑な雇用関係を築く上で不可欠です。
募集・選考段階での差別禁止と留意事項
- 求人広告における差別禁止:職業安定法第3条に基づき、求人募集を行う際には、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地などを理由として、均等待遇を侵害するような差別的取扱いをすることは禁止されています 。したがって、「〇〇国籍の方限定」や「△△人の方は応募不可」といった国籍を特定するような求人条件を設けることはできません。
- 選考段階での在留カード提示要求:選考の初期段階で安易に在留カードの提示を求めることは、国籍による選別と誤解され、応募者に不信感を与えたり、差別と受け取られたりするリスクがあります。在留資格の確認は非常に重要ですが、一般的には選考が進み、内定を出す段階、または内定承諾を得た後に行うのが望ましいとされています 。
- 外国人雇用の目的明確化:なぜ外国人を採用するのか、どのような役割を期待するのかといった「外国人雇用の目的」を社内で明確にし、それを候補者にも具体的に伝えることが重要です 。これにより、ミスマッチを防ぎ、候補者の入社意欲を高めることができます。
- 内定時の条件明示:内定を出す際には、就労可能な在留資格の取得または確認が雇用の前提条件であり、これが確認できない場合には内定を取り消す可能性がある旨を明確に伝えることが、後のトラブル回避のために有効です 。
雇用契約書の作成:必須記載事項、母国語での提示の努力義務
外国人労働者との間でも、日本人と同様に労働基準法に基づき、労働条件を明示した雇用契約書(または労働条件通知書)を締結する必要があります。
- 必須記載事項
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労働契約期間、就業場所、従事すべき業務内容、始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、賃金(決定、計算・支払方法、締切・支払時期)、退職に関する事項(解雇事由を含む)などは、必ず書面で明示しなければなりません。
- 母国語での提示の努力義務
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雇用契約書や労働条件通知書の内容は、外国人労働者が十分に理解できる言語(母国語や英語など、本人が最も理解しやすい言語)で作成するか、少なくとも主要な部分について翻訳を付すなどして説明するよう努めるべきです 。これは法律上の「努力義務」とされていますが、契約内容の誤解から生じる後の紛争を避けるためには極めて重要な対応です。口頭での説明だけでなく、書面で残すことで、双方の認識の齟齬を防ぎます。
- 在留資格に応じた業務内容の明記
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特に就労可能な業務範囲が限定されている在留資格(例:「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」など)の場合は、雇用契約書に記載する業務内容が、その在留資格で許可された活動範囲内であることを明確にする必要があります 。
- 就労ビザ取得・維持の条件
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採用内定後であっても、就労可能な在留資格が許可されなかったり、更新できなかったりした場合には就労できません。そのため、就労ビザの取得・維持を雇用契約の効力発生または継続の条件とする条項(停止条件付契約など)を設けることも検討に値します 。
雇用契約書を外国人労働者が理解できる言語で提供し、内容を丁寧に説明することは、単なる親切心から行うべきことではありません。これは、将来的に発生しうる賃金、業務内容、労働条件に関する誤解や紛争を未然に防ぐための、企業にとって重要なリスク管理策です。口頭での説明に終始したり、日本語の契約書を渡すだけで済ませたりすると、後日「説明されていなかった」「内容を理解していなかった」といった主張につながり、解決に多大な時間とコストを要する労務トラブルに発展しかねません。
マイナンバーの適切な取得・管理
日本に中長期間(3ヶ月を超えて)在留し、住民票を有する外国人には、日本人と同様にマイナンバー(個人番号)が付与されます 。企業は、外国人を雇用する際にも、このマイナンバーを適切に取り扱う必要があります。
- 取得・確認
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雇用する外国人がマイナンバーを有しているかを確認し、社会保険や税の手続きのためにマイナンバーの提供を求める必要があります 。マイナンバーカードを所持していない場合でも、住民票の写しや住民票記載事項証明書で個人番号を確認できます。
- 雇用可否との関連
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「短期滞在」など住民票が作成されない在留資格の外国人はマイナンバーを持たないため、原則として雇用できません 。また、「留学」や「家族滞在」のように就労が原則禁止されている在留資格の場合、マイナンバーを持っていても、資格外活動許可の範囲を超えて正社員として雇用することはできません 。
- 利用範囲の限定
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企業が従業員のマイナンバーを利用できるのは、法律で定められた社会保険、税、災害対策に関する事務に限られます。これらの目的以外でマイナンバーを収集・保管・利用・提供することは厳しく禁止されており、違反した場合には罰則が科される可能性があります 。情報漏洩が発生した場合には、企業が損害賠償責任を問われることもあります。
- 現物確認の重要性
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採用時には、在留カードと併せてマイナンバーカード(またはマイナンバーが記載された住民票)の現物を確認し、本人確認と番号の真正性を確認することが重要です 。
社会保険・労働保険の加入義務と手続き
原則として、適用事業所で働く外国人労働者は、国籍を問わず、日本人と同様に社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)および労働保険(雇用保険、労災保険)の加入対象となります 。
- 健康保険・厚生年金保険
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法人の事業所や常時5人以上の従業員を使用する個人事業所などは強制適用事業所となり、そこで働く外国人は、勤務時間や日数などの一定の要件(例:週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上、または週20時間以上勤務し月額賃金8.8万円以上で2ヶ月を超える雇用見込みがあるなど、企業規模に応じた短時間労働者の適用拡大要件に該当する場合)を満たせば加入義務が生じます 。手続きは、事業主が「被保険者資格取得届」を日本年金機構(または健康保険組合)に提出します 。
- 雇用保険
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1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用見込みがある場合は、原則として加入対象となります 。
- 労災保険
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労働者を一人でも使用する事業所は加入義務があり、雇用形態や国籍、在留資格の種類(不法就労者であっても業務上の災害は対象)を問わず、すべての労働者が適用対象となります 。保険料は全額事業主負担です。
- 介護保険
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40歳以上の外国人労働者で、日本に3ヶ月を超えて滞在し、住民票がある場合は、健康保険と併せて介護保険にも加入します 。
- 社会保障協定
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日本はいくつかの国と社会保障協定を締結しています。これは、国際的に移動する労働者が、派遣元国と派遣先国の両方で社会保険料を二重に負担することを防止したり、両国での年金加入期間を通算して年金受給資格を得やすくしたりすることを目的としています 。企業の本国から日本へ派遣されてくる場合など、一定の要件を満たせば、日本の社会保険制度への加入が免除され、本国の制度に引き続き加入できることがあります。ただし、日本で現地採用された外国人については、原則としてこの協定の対象外となり、日本の社会保険に加入する必要があります 。
- 脱退一時金制度
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国民年金または厚生年金保険に6ヶ月以上加入していた外国人が、老齢年金の受給資格期間(10年)を満たさずに日本を出国し、日本に住所を有しなくなった場合、出国後2年以内に請求することにより、納付した保険料の一部が「脱退一時金」として還付される制度があります 。
社会保険や税金の未納は、外国人従業員の在留資格更新申請時に不利な要素として審査される可能性があります 。企業がこれらの手続きを怠ることは、単に国内の行政手続き上の問題に留まらず、外国人従業員の在留資格の安定性を損ない、結果として貴重な人材を失うリスクにも繋がることを理解しておく必要があります。
在留資格の更新・変更手続きにおける企業の役割と注意点
外国人が日本で就労を継続するためには、在留期間の満了前に在留資格の更新手続きを行うか、活動内容が変わる場合には在留資格の変更手続きを行う必要があります。これらの手続きは原則として本人が行いますが、企業側も必要な書類の準備などで協力が求められます。
- 申請時期と審査期間
在留期間の更新申請は、在留期間満了日の約3ヶ月前から行うことができます 。審査には通常2週間から2ヶ月程度かかりますが、事案によってはそれ以上を要することもあるため、余裕を持った申請が不可欠です 。
- 企業の協力
企業は、雇用契約書(またはその写し)、会社の登記事項証明書、直近の決算報告書、源泉徴収票など、入国管理局から求められる各種書類を速やかに提供する必要があります。 - 不許可となる主なケース:
- 入国時や前回の更新時と職務内容が大幅に異なっている(在留資格で許可された活動範囲を逸脱していると判断される)。
- 支払われている報酬額が、同じ業務に従事する日本人従業員と比較して不当に低い 。
- 資格外活動許可の範囲を超えてアルバイトをしていた(例:留学生の週28時間超労働)。
- 税金(住民税など)や社会保険料の未納がある 。
- 素行が不良である(法令違反など)。
- 転職した場合の注意点
外国人が転職した場合、新しい会社での活動内容が従前の在留資格で認められるものであれば、在留期間更新許可申請を行うことになりますが、その前に、転職後14日以内に「所属(契約)機関に関する届出」を入国管理局に提出する義務があります 。この届出を怠っていると、更新申請が不利になることがあります。また、転職によって職種が大きく変わる場合は、在留期間更新ではなく、在留資格変更許可申請が必要となる場合があります 。
外国人雇用に関する行政手続きは多岐にわたり、それぞれに提出期限や必要書類が定められています。これらの手続きを一覧化し、社内で共有・管理することで、遺漏を防ぎ、コンプライアンス違反のリスクを低減することができます。
表2:外国人雇用に関する主な届出・手続き一覧(提出先・期限等)
手続き名 | 対象者・事由 | 主な必要書類(例) | 提出先 | 提出期限 | 根拠法等 | 備考(罰則等) |
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在留資格認定証明書交付申請 | 海外から外国人を呼び寄せて雇用する場合 | 申請書、受入機関の概要書、雇用契約書写し、学歴・職歴証明書等 | 地方出入国在留管理局 | 雇用開始前 | 入管法 | – |
在留資格変更許可申請 | 国内在住の外国人が現在の在留資格から就労可能な資格へ変更する場合(例:留学生の就職) | 申請書、受入機関の概要書、雇用契約書写し、学歴・職歴証明書等 | 地方出入国在留管理局 | 変更を希望する時 | 入管法 | 手数料4,000円(2025年4月~6,000円) |
在留期間更新許可申請 | 現在の在留資格のまま在留期間を延長する場合 | 申請書、課税証明書・納税証明書、在職証明書、受入機関の法定調書合計表等 | 地方出入国在留管理局 | 在留期間満了日まで(3ヶ月前から申請可) | 入管法 | 手数料4,000円(2025年4月~6,000円) |
資格外活動許可申請 | 「留学」「家族滞在」等の外国人がアルバイト等を行う場合 | 申請書、在留カード、パスポート | 地方出入国在留管理局 | 活動開始前 | 入管法 | 原則週28時間以内 |
外国人雇用状況の届出 | 外国人の雇入れ時・離職時(雇用保険被保険者の場合は資格取得・喪失届で兼ねる) | 様式第3号届出書(氏名、在留資格、在留カード番号等) | 管轄ハローワーク | 雇入れ・離職の翌月末日まで(雇用保険被保険者の雇入れは翌月10日まで) | 労働施策総合推進法 | 届出義務違反は30万円以下の罰金 |
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 新たに外国人を雇用し、加入要件を満たす場合 | 資格取得届、基礎年金番号通知書またはマイナンバー、ローマ字氏名届(必要な場合) | 日本年金機構または健康保険組合 | 雇用日から5日以内 | 健康保険法、厚生年金保険法 | – |
雇用保険 被保険者資格取得届 | 新たに外国人を雇用し、加入要件を満たす場合 | 資格取得届(在留資格、在留カード番号等記載) | 管轄ハローワーク | 雇用した月の翌月10日まで | 雇用保険法 | – |
所属(契約)機関に関する届出 | 就労資格を持つ外国人が転職した場合など | 届出書(氏名、生年月日、国籍、在留カード番号、旧所属機関名、新所属機関名・所在地等) | 地方出入国在留管理局 | 転職等の日から14日以内 | 入管法 | 届出義務違反は罰則の対象となる場合あり |
これらの手続きを怠ると、罰則が科されるだけでなく、外国人従業員の在留資格の更新や変更が不許可になるなど、雇用継続そのものが困難になる可能性があります。
5. 違反事例から学ぶ:企業が負うべき責任と再発防止策
過去の違反事例を検証することは、企業が外国人雇用においてどのような点に注意し、いかなる責任を負うのかを具体的に理解する上で極めて有益です。特に不法就労助長罪や労働基準法違反は、企業の存続にも関わる重大な問題となり得ます。
不法就労助長罪に問われた企業の具体的事例と判例
不法就労助長罪は、企業が「知らなかった」では済まされないケースが多く、在留資格の確認義務を怠ったこと自体が問われます。
- 在留資格で認められない業務に従事させたケース
-
- 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人を、資格で認められていない工場の単純作業員として長期間就労させたとして、大手食品メーカーが書類送検された事例があります 。この事例では、慢性的な人手不足から違法と知りつつ雇用を継続したとされています。
- ソフトウェア会社が、同様の在留資格を持つ中国人をビルメンテナンス会社に派遣し、清掃作業員として働かせたとして社長が逮捕された事例もあります 。
- 日本語学校経営者が、「留学」の在留資格を持つベトナム人を、資格外活動許可で認められる時間を大幅に超えて、自らが経営する産業廃棄物処理場で働かせていた事例も報告されています 。
- 在留資格で認められない業務に従事させたケース:
- 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人を、資格で認められていない工場の単純作業員として長期間就労させたとして、大手食品メーカーが書類送検された事例があります 。この事例では、慢性的な人手不足から違法と知りつ
- 就労資格のない外国人を雇用したケース:
- 「短期滞在」の在留資格で入国した中国人を、電気工事作業員として雇用していた電気設備会社の経営者が逮捕された事例があります 。短期滞在者は原則として就労できません。
- 在留期間を超過した不法残留状態の外国人女性をホステスとして働かせたり、売春をあっせんしたりしたスナック経営者が処罰された事例もあります 。
- フードデリバリーサービスの配達員として、在留資格を確認せずに不法滞在の外国人を働かせていた疑いで、同サービスの日本法人が書類送検された事例も注目されました 。このケースでは、アカウント取得の際の本人確認の甘さが指摘されています。
- 資格外活動許可の範囲を超過させたケース:
- 大阪の有名串カツ店が、外国人留学生を資格外活動許可で認められる週28時間を超えて働かせたとして、法人に罰金50万円、店長に罰金30万円の判決が下された事例があります 。
- 同様に、人気ラーメンチェーンがベトナム人留学生を法定時間を超えて働かせたとして、社長らが書類送検された事例も報告されています 。
- 人材派遣会社が不法就労を斡旋したケース:
- 人材派遣会社の社員が、「技能実習」等の在留資格で入国したベトナム人を、本来の目的とは異なる水産加工会社に派遣し、不法に就労させていた事例があります 。技能実習生は原則として転職や派遣が認められていません。
これらの事例は氷山の一角であり、不法就労助長罪が発覚した場合、企業は罰金だけでなく、代表者や担当者が懲役刑に処される可能性もあり、社会的信用の失墜は避けられません。
表3:不法就労助長罪・労働法違反による罰則事例
事例概要 | 違反法令 | 企業への影響・罰則 | 関係者への影響・罰則 | 事案から得られる教訓 |
---|---|---|---|---|
飲食店が留学生を週28時間超労働させた | 入管法第73条の2第1項第1号(不法就労助長罪) | 法人に罰金50万円 | 店長に罰金30万円 | 資格外活動許可の時間制限の厳格な遵守と労働時間管理の徹底。 |
食品メーカーが「技術・人文知識・国際業務」の外国人を工場作業に従事させた | 入管法第73条の2第1項第1号(不法就労助長罪) | 法人及び担当係長を書類送検 | 在留資格で許可された活動範囲の正確な理解と、逸脱させない業務指示の徹底。人手不足を理由とした安易な違法就労の回避。 | |
ソフトウェア会社が「技術・人文知識・国際業務」の外国人を清掃作業に派遣 | 入管法第73条の2第1項第1号(不法就労助長罪) | 社長逮捕 | 在留資格と実際の業務内容の整合性確認。派遣の場合も派遣先の業務内容を把握する責任。 | |
婦人服メーカーが技能実習生に最低賃金未満で労働させた | 最低賃金法違反、労働基準法違反 | 社長逮捕 | 外国人労働者にも最低賃金法が適用されることの認識。技能実習制度の趣旨を理解し、搾取的な雇用をしない。 | |
ラーメンチェーンが留学生を時間超過労働させ、ハローワークへ未届出 | 入管法違反(不法就労助長)、雇用対策法違反(当時) | 社長ら7名書類送検 | 資格外活動の時間管理と、外国人雇用状況の届出義務の履行。 |
これらの違反事例の多くは、採用時の基本的な確認作業の怠慢、つまり在留資格の種類とその活動範囲の不正確な理解、あるいは在留カードの有効期限確認の不備に起因しています。厳しい罰則の多くは、事前の適切なデューデリジェンスによって防ぐことができたはずです。この事実は、本レポートで繰り返し強調している採用初期段階での確認の重要性を裏付けています。
労働基準法違反(賃金不払い、差別的待遇等)の事例
- 最低賃金未満での雇用:岐阜県の婦人服メーカーが、中国人技能実習生に対し、当時の県の最低賃金(時給800円)を大幅に下回る時給405円で働かせていたとして、社長が最低賃金法違反と労働基準法違反の疑いで逮捕された事例があります 。
- 国籍を理由とした不当な賃金差:外国人であることを理由に、同じ仕事をしている日本人よりも低い賃金を設定することは、労働基準法第3条の均等待遇違反となります 。
- 割増賃金の不払い:1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働させた場合や、深夜(午後10時から午前5時)に労働させた場合には、割増賃金の支払いが必要ですが、これが適正に行われていないケースがあります 。
- 不当な解雇、解雇予告手当不払い:業務上の負傷で休業した労働者を、復職後すぐに解雇したり、解雇予告(原則30日前)や解雇予告手当の支払いを怠ったりする事例も労働基準法違反です 。外国人労働者の解雇に関するトラブルでは、企業側に正当な理由があっても、本人に納得が得られず紛争に発展するケースも見られます 。
- 契約内容の誤解から生じる賃金トラブル:雇用契約書における報酬や手当の記載が不明確であったり、外国人労働者が内容を十分に理解していなかったりしたために、賞与や残業代の支払いに関して「未払いだ」と主張されるトラブルが発生することがあります 。
在留資格・外国人雇用状況届出に関する違反事例
- 在留カードの確認怠慢、有効期限切れのまま雇用継続:採用時に在留カードを確認していても、その後の在留期間の更新状況を把握せず、有効期限が切れたまま雇用を継続してしまうと、不法就労助長罪に問われる可能性があります 。
- 外国人雇用状況の届出義務違反:外国人労働者の雇入れ時・離職時にハローワークへの届出を怠ったり、虚偽の届出を行ったりした場合、30万円以下の罰金が科されることがあります 。
これらの違反は、個々の担当者の知識不足だけでなく、企業全体のコンプライアンス意識の低さや、人手不足を背景とした安易な採用方針、外国人雇用に関する社内教育の欠如といった組織的な問題から生じている場合も少なくありません 。したがって、再発防止のためには、個人の知識習得に留まらず、組織として外国人雇用に関する正しい知識を共有し、遵守するための体制を構築することが不可欠です。
6. 外国人材が定着し活躍できる環境を作るには
外国人労働者を適法に雇用することは出発点に過ぎません。彼らが能力を十分に発揮し、企業に貢献し、そして日本社会に定着していくためには、言語や文化の壁を乗り越え、安心して働ける職場環境を整備することが極めて重要です。このような環境整備は、単なる福利厚生の問題ではなく、法的トラブルの未然防止、生産性の向上、そして企業イメージの向上にも繋がる経営課題と捉えるべきです。
コミュニケーション円滑化と異文化理解促進の具体策
- 日本語教育の提供・支援:業務に必要な日本語能力の習得は、円滑なコミュニケーションの基礎です。企業が日本語研修の機会を提供したり、外部の日本語教室への通学を支援したりすることが有効です 。
- 業務マニュアル等の多言語化:作業指示書や安全衛生マニュアル、社内規定などを外国人労働者の母国語や英語に翻訳したり、図やイラストを多用して視覚的に理解しやすくしたりする工夫が求められます 。
- 日本人従業員への異文化理解研修:外国人労働者を受け入れる側の日本人従業員が、異文化に対する理解を深め、固定観念や偏見を排し、多様な価値観を尊重する姿勢を育むための研修を実施することが重要です 。
- 明確な指示と確認の徹底:「たぶん」「いい感じで」といった曖昧な日本語表現を避け、具体的かつ明確な言葉で指示を出し、理解度を確認する習慣をつけましょう 。特に建設現場などでは、指示の誤解が重大な事故につながる可能性があります 。
- 翻訳ツールや通訳の活用:日常的なコミュニケーションの補助として、翻訳アプリやAI翻訳ツールを活用したり、重要な会議や面談では必要に応じて通訳を手配したりすることも有効です 。
- 定期的な面談やヒアリング:外国人労働者が抱える業務上の悩みや生活上の不安、職場環境への意見などを吸い上げるために、定期的な面談やアンケート調査を実施し、風通しの良い職場づくりを心がけましょう 。これにより、問題が深刻化する前に早期発見・早期対応が可能となります。
ハラスメント防止と相談体制の整備
国籍、文化、言語の違いなどを理由としたハラスメントは、外国人労働者の尊厳を傷つけ、働く意欲を著しく低下させるだけでなく、企業の法的責任問題にも発展しかねません。
- ハラスメント防止方針の明確化と周知:いかなる形態のハラスメントも許さないという企業方針を明確にし、全従業員に周知徹底します。
- 相談窓口の設置と多言語対応:外国人労働者が安心して相談できる窓口を設置し、可能であれば母国語での相談に対応できる体制を整えることが望ましいです 。
- 迅速かつ適切な対応:ハラスメントの申告があった場合には、プライバシーに配慮しつつ、迅速に事実確認を行い、加害者への厳正な措置と被害者のケアを適切に行うプロセスを確立しておく必要があります。
適切な労務管理、キャリア形成支援、生活支援のポイント
- 公正な労務管理:労働時間、休憩、休日、休暇の管理は労働基準法を遵守し、外国人であることを理由に不利益な取扱いをしないことが大原則です 。賃金についても、同一労働同一賃金の原則に基づき、日本人従業員と均等な処遇を確保する必要があります。
- キャリア形成支援:外国人労働者に対しても、スキルアップのための研修機会の提供や、キャリアパスを明示することで、仕事へのモチベーションを高め、長期的な定着を促すことができます 。
- 生活支援:
- 住居確保のサポート:外国人であることを理由に賃貸住宅の契約が難しいケースもあるため、企業が社宅や寮を提供したり、賃貸契約時の保証人になったりするなどの支援が有効です 。
- 社会保険・税金手続きのサポート:日本の複雑な社会保険制度や税金の手続きについて、分かりやすく説明したり、必要に応じて手続きを補助したりすることが求められます 。
- 地域社会への適応支援:地域のイベントへの参加を促したり、日本の生活習慣に関する情報を提供したりするなど、日本社会にスムーズに適応できるようサポートすることも重要です 。
言語サポートや文化研修、公正な待遇といった職場環境への投資は、単なるコストではなく、誤解から生じる法的紛争のリスクを軽減し 、高額な離職・再採用コストを削減し、意欲の低い従業員や困難を抱える従業員に起因する生産性の低下を回避するための重要な投資と捉えるべきです。
効果的なコミュニケーション戦略と異文化感受性研修 は、目先の誤解を防ぐ以上の効果をもたらします。これらは信頼と相互尊重を育み、国籍を問わず従業員のエンゲージメントとロイヤルティの基盤となります。外国人従業員が理解され、尊重され、評価されていると感じる職場は、長期的には生産性が高く、革新的で安定した労働力となる可能性が高まります。これは、単に法的トラブルを回避することを超えて、積極的な事業成果を達成することにつながります。
7. 最新法改正のキャッチアップ:2024年~2025年の動向と企業対応
外国人雇用を取り巻く法制度は、社会経済情勢の変化や政策的要請に応じて、常に変化しています。企業はこれらの最新動向を的確に把握し、適切に対応していく必要があります。特に2024年から2025年にかけては、技能実習制度の廃止と「育成就労制度」の創設、そして「特定技能」制度の運用変更など、大きな変革が予定されています。
「育成就労制度」の新設(技能実習制度からの移行と企業の準備)
長年にわたり外国人材受け入れの一翼を担ってきた技能実習制度は、その目的(国際貢献としての技能移転)と実態(国内の人手不足を補う労働力)との乖離や、人権侵害、実習生の失踪、原則として転職が認められないことによる問題などが指摘され、廃止されることになりました 。これに代わり、新たに「育成就労制度」が創設され、2027年6月までに施行される予定です 。
- 育成就労制度の目的:従来の「技能移転」から、「人材育成と人材確保」へと明確に目的が転換されます 。これにより、日本の労働市場のニーズに対応しつつ、外国人材を育成し、特定技能制度への円滑な移行を促すことが目指されます。
- 主な変更点:
- 在留期間:原則として3年間で、特定技能1号の技能水準まで育成することを目指します 。
- 転籍(転職):同一の業務区分内であれば、就労開始から1年を超え、かつ一定の技能と日本語能力を有すると認められる場合など、一定の要件下で本人の意向による転籍が可能となります 。ただし、無制限な転籍ではなく、受入れ分野や地域間の偏りを防ぐための調整措置も検討されています。
- 日本語能力:入国時に日本語能力試験N5程度の日本語能力が求められるなど、一定の日本語能力が要件化される見込みです 。
- 受入れ対象分野:特定技能制度の対象分野との整合性が図られ、育成就労修了後に特定技能1号へスムーズに移行できるような分野設定がなされます 。
- 監理団体の役割変化:現在の「監理団体」は「監理支援機関」へと名称が変更され、中立性が求められ、許可要件も厳格化される予定です 。
- 外部監査人の設置義務化:受入れ企業に対し、第三者による外部監査の実施が義務付けられ、労働環境や人権保護のチェック体制が強化されます 。
- 企業が準備すべきこと:
- 特定技能への円滑な移行支援体制の構築:3年間の育成就労期間で特定技能1号レベルの技能・知識を習得させ、その後の特定技能への移行を支援するための計画的な育成プログラムの策定。
- 日本語教育・技能教育体制の強化:入国時の日本語能力要件に加え、在留中の継続的な日本語学習支援や、専門技能向上のためのOJT・Off-JTの充実。
- 労働環境の更なる改善と魅力向上:転籍が可能になることを見据え、外国人材にとって魅力的な労働条件、職場環境、キャリアパスを提供し、人材の定着を図る努力が一層求められます 。
技能実習制度から育成就労制度への移行は、日本の外国人労働者受け入れ政策における基本的な方針転換を意味します。これは、外国人労働者を単なる労働力としてではなく、育成すべき人材として位置づけ、より長期的な視点で日本社会への統合を目指すものです。この変化は、必然的に受入れ企業に対して、研修の質の向上、公正な労働条件の提供、そしてキャリア形成支援といった面で、より大きな責任を求めることになります。日本語能力要件の強化や労働者主導の転籍の可能性といった要素は、企業がこれまで以上に外国人労働者の権利と成長に配慮する必要があることを示唆しています。
「特定技能」制度の対象分野拡大と要件変更のポイント
人手不足が深刻な分野で即戦力となる外国人材を受け入れる「特定技能」制度も、運用開始から数年が経過し、見直しや対象分野の拡大が進んでいます。
- 2024年からの追加分野:従来の12分野に加え、「自動車運送業」(バス・タクシー・トラック運転者)、「鉄道」(運転士、車掌、駅員、車両製造、軌道・電気設備保守等)、「林業」、「木材産業」の4分野が新たに対象となりました 。
- 既存分野の運用方針変更:
- 介護分野:従来は認められていなかった訪問系サービス(訪問介護等)への特定技能外国人の従事が、一定の要件(実務経験、研修修了等)のもとで解禁されました。
- 工業製品製造業分野(旧:素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業):特定技能外国人の適正かつ円滑な受入れを推進するための民間団体が設立され、受入れ機関には当該団体への加入が条件付けられる方向です。
- 外食業分野:風俗営業法の許可を受けた旅館・ホテル内での飲食提供業務全般(配膳、調理、接客等)に特定技能外国人が従事できるようになりました。
- 特定技能2号の対象分野拡大:熟練した技能を持つ外国人が対象で、在留期間の更新上限がなく、家族帯同も可能な「特定技能2号」の対象分野が、従来の建設、造船・舶用工業の2分野から、介護を除く11分野へと大幅に拡大されました 。これにより、より多くの分野で外国人材の長期的なキャリア形成が可能となります。
- 各種届出の変更:2025年4月1日以降、特定技能制度における受入れ機関から出入国在留管理庁への各種届出(受入れ状況、活動状況、支援実施状況等)の項目や頻度が見直される予定です 。
その他、外国人雇用に関連する法改正・制度変更の概要
- 在留手続き手数料の改定:2025年4月1日から、在留資格変更許可申請や在留期間更新許可申請などの手数料が、現行の4,000円から6,000円(オンライン申請の場合は5,500円)に、永住許可申請の手数料が8,000円から10,000円に引き上げられる予定です 。
- ミャンマー国籍者の在留資格認定証明書の有効期間延長:ミャンマー情勢の不安定化を受け、同国籍者が日本へ入国しやすくするため、在留資格認定証明書の有効期間が当面の間、通常の3ヶ月から6ヶ月に延長されています 。
特定技能分野の拡大や育成就労制度の導入は、企業が新たなルールを学ぶだけでなく、外国人材の獲得・定着戦略を戦略的に再考する必要があることを示しています。例えば、育成就労制度における転籍の可能性は、企業が単に法令を遵守するだけでなく、競争力のある労働条件と真の能力開発機会を提供してこれらの労働者を維持する必要があることを意味し、これは単なるコンプライアンスを超えた積極的な人材管理への移行を求めています。
8. まとめ:専門家(社労士)を活用したコンプライアンス体制の確立
外国人雇用は、企業にとって新たな成長の機会をもたらす一方で、その背後には複雑な法制度と、それを遵守しなかった場合の重大なリスクが存在します。「知らなかった」では済まされない責任が伴うことを、本レポートを通じて繰り返し強調してきました。
社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。