会社設立後に必要な手続きとは?社労士が解説する労務準備と依頼するメリット

会社設立、誠におめでとうございます!

新たな事業への希望に胸を膨らませる一方で、「登記は完了したけれど、次に何をすれば良いのだろう…」と、特に人事や労務に関する手続きの多さや複雑さに戸惑いを感じていらっしゃるのではないでしょうか。会社を設立すると、たとえ社長お一人であっても、また従業員を雇い入れる場合にはさらに、社会保険や労働保険への加入、法定帳簿の整備、雇用契約の準備など、専門知識を要する多くの手続きが待っています。これらの手続きにはそれぞれ期限があり、適切な対応を怠ると、将来的に法的なリスクや予期せぬ費用の発生につながる可能性も否定できません。 本記事では、会社設立後に経営者様やご担当者様が直面する人事労務関連の具体的な手続きと、その際に私たちのような社会保険労務士(社労士)がどのように皆様をサポートできるのかを、基礎から分かりやすく徹底解説いたします。

社労士事務所altruloopは、会社設立間もない経営者様が本業に集中し、スムーズな事業運営のスタートダッシュを切れるよう、全力でバックアップいたします。この記事が、皆様の不安を解消し、将来の安心を築くための一助となれば幸いです。

目次

会社設立直後に必要な人事労務手続き

会社を設立し事業を開始すると、まず対応すべきは社会保険および労働保険に関する手続きです。これらの手続きは法律で義務付けられており、それぞれに提出期限が定められています。特に設立直後は対応すべきことが多く、後回しにしがちですが、遅延するとペナルティが発生する可能性もあるため、迅速かつ正確な対応が求められます。

「労働保険」の新規適用手続き(従業員を雇うなら必須)

従業員を一人でも雇い入れる場合、事業主は労働保険(労災保険と雇用保険の総称)への加入が法律で義務付けられています。これらは働く人々を保護するための重要な制度です。

労災保険:万が一の業務災害・通勤災害に備える

労災保険は、従業員が業務中や通勤中に発生したケガ、病気、障害、あるいは死亡といった労働災害に対して、必要な保険給付を行う制度です。たとえ従業員が1名であっても、加入は必須です。 労災保険への加入を怠ると、万が一業務中や通勤中に従業員が事故に遭った場合、治療費や休業中の補償などを事業主が全額負担しなければならないという、非常に大きなリスクを抱えることになります 。特に、設立して間もない、まだ経営基盤が盤石でない企業にとって、このような突発的な経済的負担は事業の継続を困難にするほどの深刻な打撃となりかねません。したがって、労災保険への加入は、単に法律で定められた手続きをこなすということ以上に、企業経営における重要なリスク対策と捉えるべきです。労災保険料は全額事業主負担となります 。  

雇用保険:失業給付や育児休業給付の源泉

雇用保険は、従業員が失業した場合の生活保障(失業給付)、育児休業や介護休業を取得した際の給付金、あるいは教育訓練を受けた際の給付金などを支給する制度です。 1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上引き続き雇用される見込みがある従業員は、原則として雇用保険の被保険者となります 。平成29年1月からは65歳以上の労働者も適用対象となっています 。 雇用保険への適切な加入は、従業員の生活の安定に寄与するだけでなく、企業の採用活動においても重要な要素となります。現代の求職者は、給与水準のみならず、安心して働ける環境や福利厚生、万が一の際のセーフティネットが整備されているかを重視する傾向にあります。雇用保険は失業時だけでなく、育児休業給付のように従業員のライフイベントにも深く関わる制度であるため、これが未整備である企業は、人材獲得競争において不利な立場に置かれる可能性があります。したがって、適切な雇用保険手続きの履行は、法的義務を果たすと同時に、企業の人材戦略の一環としても捉えることができます。  

手続きの期限と必要書類、社労士への依頼ポイント

労働保険の成立手続きは、主に以下のステップで進めます。提出先は、まず労働基準監督署、次にハローワークという順番が効率的です 。  

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これらの手続きは期限が短く、必要書類も多岐にわたるため、専門家である社労士に依頼することで、正確かつ迅速な処理が期待できます。特に初めて従業員を雇用する場合、どの書類をどこにいつまでに提出すべきか混乱しがちです。社労士はこれらの手続きを代行し、経営者が本業に集中できる環境をサポートします。また、概算保険料の計算など、専門的な知識が必要な部分も安心して任せられます。

以下に、労働保険関連手続きの概要を表にまとめます。新設法人の経営者や担当者は多くの業務に追われ、情報を整理する時間も限られています。この表は、「何を」「いつまでに」「どこへ」「何を持って」手続きを行えばよいのかを瞬時に把握するのに役立ち、記事の利便性と実用性を高めます。

手続き名主な対象者/条件提出先提出期限主な必要書類例
労働保険 保険関係成立届従業員を1名でも雇用労働基準監督署雇用日の翌日から10日以内登記簿謄本
労働保険 概算保険料申告書従業員を1名でも雇用労働基準監督署等雇用日の翌日から50日以内(申告書に記入)
雇用保険 適用事業所設置届適用条件を満たす従業員雇用ハローワーク設置日の翌日から10日以内保険関係成立届控、登記簿謄本
雇用保険 被保険者資格取得届適用条件を満たす従業員雇用ハローワーク雇用した翌月の10日まで(届出書に記入、マイナンバー等)

「社会保険」の新規適用手続き

社会保険とは、主に健康保険と厚生年金保険を指します。法人の場合、たとえ社長一人であっても、一定の条件を満たせば加入義務が発生します。

健康保険・厚生年金保険:社長1人でも加入義務が発生するケース

法人は、社長一人であっても、役員報酬を得ていれば原則として健康保険・厚生年金保険の加入対象となります 。これは、法人の代表者も「適用事業所に使用される者」と解釈されるためです 。個人事業主から法人成りした場合など、この点を誤解しているケースが少なくないため注意が必要です。 「社長一人だから社会保険は関係ない」という誤解は、設立初期の企業が陥りやすい罠です。この誤解が原因で未加入のままでいると、後々大きな金銭的負担や法的リスクを背負うことになります。年金事務所からの指導に従わず未加入状態が続くと、最終的には立入検査の上で強制加入となり、過去2年分の保険料を遡って請求される可能性があります 。延滞金が加算されることもあります 。設立間もない企業にとって、このような遡及徴収は経営を揺るがすほどの大きな影響を及ぼす可能性があるため、早期の正しい理解と対応が不可欠です。  

手続きの期限と必要書類、保険料の考え方

社会保険の新規加入手続きは、主に以下のステップで進めます。

  1. 健康保険・厚生年金保険 新規適用届の提出
    • 提出先: 事業所の所在地を管轄する年金事務所  
    • 提出期限: 会社設立(事実発生)から5日以内  
    • 主な添付書類: 法人(商業)登記簿謄本(原本、発行後90日以内)、法人番号指定通知書のコピーなど 。  
    • ポイント: この5日という期限は非常に短いため、会社設立登記が完了したら速やかに準備する必要があります。
  2. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届の提出
    • 提出先: 年金事務所  
    • 提出期限: 事実発生(社長の就任、従業員の雇用)から5日以内  
    • 内容: 社長自身や加入対象となる従業員一人ひとりについて提出します。マイナンバーの記載も必要です。
  3. 健康保険 被扶養者(異動)届の提出(該当する場合)
    • 提出先: 年金事務所  
    • 提出期限: 事実発生から5日以内  
    • 内容: 被保険者に扶養する家族がいる場合に提出します。続柄を証明する書類(住民票など)が必要になることがあります 。  

保険料の考え方として、健康保険料・厚生年金保険料は、従業員(役員含む)の給与(標準報酬月額)に基づいて決定され、会社と従業員が原則として折半で負担します 。40歳以上の場合は介護保険料も合わせて徴収されます 。  

手続きが遅れた場合は、期限を過ぎた場合でも、速やかに年金事務所に相談し、手続きを行う必要があります。遡って加入が可能です 。  

社会保険手続きは期限が非常にタイトであり、書類の準備も煩雑です。社労士はこれらの手続きを正確に代行し、期限内の提出を確実にします。保険料の計算や、社長一人の場合の報酬設定と社会保険料のバランスなど、専門的なアドバイスも受けられます。 社会保険手続きの5日間という期限は、多くの新設法人にとって最初の大きなハードルです。会社設立直後は、登記手続き、銀行口座開設、オフィス準備、事業計画の実行など、経営者が自ら行うべき業務が山積しています。この重要な時期に、社労士が手続きを代行することで、経営者は事業の立ち上げという本来のコア業務に集中できる時間を確保できます。これは単なる手続き代行以上の価値提供であり、手続きの遅延やミスによる罰則や遡及徴収のリスク を回避し、経営資源を最適に配分することを可能にします。  

以下に、社会保険関連手続きの概要を表にまとめます。特に「社長一人でも加入義務」「5日以内」という点は誤解や対応遅れが生じやすいため、この表で主要な手続き、対象者、期限、必要書類を一目で確認できるようにし、行動計画を立てやすくします。

手続き名主な対象者/条件提出先提出期限主な必要書類例
健康保険・厚生年金保険 新規適用届法人設立(社長1人でも原則対象)年金事務所設立(事実発生)から5日以内登記簿謄本、法人番号指定通知書コピー
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届社長、加入条件を満たす従業員年金事務所就任・雇用(事実発生)から5日以内(届出書に記入、マイナンバー等)
健康保険 被扶養者(異動)届被保険者に扶養家族がいる場合年金事務所事実発生から5日以内住民票、収入証明書類等(状況による)

「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の整備

労働保険・社会保険の手続きと並行して、従業員を雇用する際に法律で作成・整備・保存が義務付けられている「法定三帳簿」があります。これらは適切な労務管理の基礎となる重要な書類です。

法定三帳簿とは?作成と保管の義務

法定三帳簿とは、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(または労働時間を記録するこれに準ずるもの)」**の3つを指します 。これらは労働基準法により、事業主に作成と適切な保管が義務付けられています。 法定三帳簿の整備は、単なる事務作業ではなく、企業のコンプライアンス体制の根幹であり、従業員との信頼関係の基盤となります。労働基準監督署はこれらの帳簿を重視しており 、これらの帳簿は賃金支払い、労働時間管理、社会保険手続きなど、あらゆる労務管理の基礎データとなります。不備があれば、残業代未払いなどのトラブルが発生した際に、企業側が不利な立場に立たされる可能性があります。したがって、設立初期からの適切な整備は、将来的なリスクを予防し、健全な労務管理体制を構築するための第一歩です。  

  1. 労働者名簿
    • 記載事項: 労働者の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類(従業員30人未満の事業場では任意)、雇入年月日、退職(死亡)年月日とその理由など。
    • 対象者: 日雇い労働者を除く全ての労働者。
    • 保管期間: 労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間(現在は経過措置、将来的には5年) 。  
  2. 賃金台帳
    • 記載事項: 氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数、基本給や手当の種類と額、控除項目と額など。
    • 対象者: 全ての労働者(日雇い労働者も含む)。
    • 保管期間: 最後の賃金について記入した日から3年間(現在は経過措置、将来的には5年) 。  
  3. 出勤簿(労働時間の記録)
    • 記載事項: 労働日ごとの始業・終業時刻、休憩時間。タイムカード、ICカード記録、PCログなどもこれに該当し得ます。
    • 対象者: 全ての労働者。
    • 保管期間: 最後の出勤日から3年間(現在は経過措置、将来的には5年) 。  
    • ポイント: 労働時間の適正な把握は、残業代の正しい計算や長時間労働の防止に不可欠です。

年次有給休暇管理簿 も、法定三帳簿と合わせて作成・保存が義務付けられています(取得日、付与日、日数などを記載し3年間保存)。  

これらの帳簿の未整備や不備は、労働基準監督署の調査で指摘された場合、是正勧告の対象となり、悪質な場合は罰則(30万円以下の罰金など)が科される可能性があります 。また、労使トラブルが発生した際に、企業側の主張を裏付ける証拠が乏しくなるリスクもあります。  

社労士による適切なフォーマット提供と作成アドバイス

法定三帳簿は法律で記載事項が定められていますが、具体的なフォーマットは自由です。しかし、何を書けばよいか、どのように管理すれば効率的か、初めての担当者には難しい場合があります。 社労士は、法令に準拠し、かつ実用的な法定三帳簿のテンプレートを提供したり、企業の状況に合わせたカスタマイズのアドバイスを行ったりすることができます。記載漏れや誤りがないかチェックし、適切な管理方法(電子データでの保存の可否や注意点など)についても指導します。これにより、企業は法令遵守を確保しつつ、効率的な帳簿管理体制を構築できます。

初めて従業員を採用する際に準備すべきこと

会社が成長し、初めて従業員を雇い入れる際には、入社手続きだけでなく、その前段階から様々な準備が必要です。無用な労使トラブルを避け、従業員が安心して働ける環境を整えるために、社労士と共に確認・準備すべき重要ポイントを解説します。

採用決定~入社までに必須:「労働条件通知書」と「雇用契約書」

従業員の採用が決定したら、入社日までに労働条件を明確に書面で伝えることが法律で義務付けられています。これに関わるのが「労働条件通知書」と「雇用契約書」です。

労働条件通知書と雇用契約書の違い

  • 労働条件通知書: 使用者(会社)が労働者に対し、賃金、労働時間、就業場所、業務内容などの労働条件を一方的に通知する書面です。労働基準法により交付が義務付けられています 。違反すると罰金(30万円以下)が科されることがあります 。  
  • 雇用契約書: 使用者と労働者の双方が労働条件について合意したことを証する契約書です。法律上の作成義務はありませんが、労使双方の権利義務を明確にし、後のトラブルを避けるために作成することが強く推奨されます 。  
  • 兼用する場合: 労働条件通知書に記載すべき事項を全て網羅していれば、雇用契約書を労働条件通知書として兼用することも可能です 。この場合、原則として書面で交付し、労働者が希望すれば電子メール等での交付も可能ですが、書面として出力できる形式である必要があります 。  

トラブル回避のための絶対的記載事項と任意記載事項(相対的明示事項)

労働条件通知書(または兼用する雇用契約書)には、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、会社に制度がある場合に明示すべき「相対的明示事項」があります。

  • 絶対的明示事項:
    1. 労働契約の期間(期間の定めの有無、有期の場合は更新の有無や基準)
    2. 就業の場所・従事すべき業務の内容(2024年4月改正: 雇入れ直後だけでなく、将来の変更範囲も明示 )  
    3. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇
    4. 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
    5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    6. 昇給に関する事項(パートタイム労働者等は昇給の有無)
    7. 2024年4月改正 (有期契約労働者対象): 更新上限の有無と内容、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件  
  • パートタイム・有期雇用労働法に基づく追加明示事項:
    • 昇給の有無
    • 退職手当の有無
    • 賞与の有無
    • 相談窓口(雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口)
  • 相対的明示事項: (会社に定めがある場合)
    • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期
    • 臨時の賃金(賞与など)、最低賃金額
    • 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
    • 安全衛生に関する事項
    • 職業訓練に関する事項
    • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
    • 表彰・制裁に関する事項
    • 休職に関する事項

2024年4月の法改正で「就業場所・業務の変更範囲」や有期契約労働者の「更新上限」「無期転換ルール」の明示が義務化された点は特に重要です 。企業の成長に伴い、組織変更や従業員の役割変更は避けられませんが、事前に「変更の範囲」を合意しておくことで、これらの変更をスムーズに行うことができます。また、有期契約労働者の無期転換ルールは複雑であり、企業側が正しく理解し、適切に明示・運用しないと、意図しない無期雇用化や紛争のリスクが生じます。これらの事項を初期の労働条件通知書に正確に盛り込むことは、予防法務の観点から極めて重要であり、将来の成長と変化に対応できる柔軟な組織運営の基盤となります。  

以下に、労働条件通知書の主な絶対的明示事項(2024年4月改正対応)を表にまとめます。この表は、特に重要な絶対的明示事項と、2024年4月の改正点を整理して提示することで、読者が最新の法的要請を正確に理解するのを助け、企業が法的に不備のない労働条件通知書を作成し、将来の労使トラブルを予防することに貢献します。

項目主な内容・注意点2024年4月改正点
契約期間期間の定めの有無。有期の場合、契約期間、更新の有無、更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)。有期契約の場合、更新上限の明示(新設・変更時も)、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件
就業場所・従事すべき業務雇入れ直後の就業場所・業務内容。変更の範囲(将来の配置転換等により変わり得る範囲)を明示
始業・終業時刻、休憩、休日、休暇具体的な時刻、日数、制度内容(年次有給休暇、代替休暇、育児休業等)。所定労働時間を超える労働の有無。
賃金基本賃金、諸手当の額または計算方法、割増賃金率、賃金締切日・支払日、支払方法、昇給に関する事項(有無、時期等)。
退職に関する事項定年制の有無・年齢、継続雇用制度の有無・年齢上限、自己都合退職の手続き、解雇の事由・手続き。
(パート・有期労働者のみ)昇給の有無、退職金の有無、賞与の有無、相談窓口

社労士による契約書リーガルチェックとカスタマイズの重要性

インターネット上には雇用契約書や労働条件通知書のテンプレートが多数存在しますが、それらをそのまま使用するのはリスクが伴います。企業の業種、規模、雇用形態、独自ルールなど実態に合わない場合や、最新の法改正に対応していない場合があるためです。 社労士は、労働関連法規の専門家として、作成された契約書が法的に問題ないか(リーガルチェック) を行います。さらに、企業の個別事情をヒアリングし、実態に即した、かつ将来的なリスクを予防できるような条項の追加や修正(カスタマイズ) を提案します 。例えば、秘密保持義務、競業避止義務、副業・兼業のルールなど、企業が独自に定めたい事項を適切に盛り込むことができます。これにより、形骸化した契約書ではなく、実際に企業を守り、従業員との良好な関係を築くための実効性のある契約書を作成できます。  

従業員10名未満でも検討を!「就業規則」作成のメリットとタイミング

就業規則は、職場の服務規律や労働条件に関する具体的なルールを定めたもので、「会社の憲法」とも言える重要なものです。

就業規則については下記記事に取りまとめています。

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給与支払いのルール作り:「給与規程」と「勤怠管理」の基礎固め

従業員への給与支払いは、会社の義務であり、従業員の生活を支える最も重要な要素の一つです。給与計算の誤りや遅延は、従業員の信頼を大きく損ない、モチベーション低下や労使トラブルの原因となります。

残業代計算、最低賃金など、給与計算の基本ルール

  • 賃金の支払いの五原則(労働基準法第24条): ①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければなりません。
  • 最低賃金の遵守: 各都道府県ごとに定められている最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります 。最低賃金は毎年改定されるため、常に最新情報を確認する必要があります。  
  • 割増賃金(残業代・休日労働手当・深夜労働手当):
    • 法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える時間外労働には、25%以上の割増賃金が必要です 。  
    • 法定休日に労働させた場合は、35%以上の割増賃金が必要です。
    • 深夜(原則22時~翌5時)に労働させた場合は、25%以上の割増賃金が必要です。
    • これらの割増率は重複して適用される場合があります(例:法定時間外かつ深夜労働の場合は50%以上)。
  • 控除のルール: 社会保険料、雇用保険料、所得税、住民税など、法律で定められたもの以外を給与から控除する場合は、労使協定が必要です。
  • 給与規程の整備: 賃金の構成(基本給、諸手当)、計算方法、昇給、賞与、退職金などに関するルールを明確に定めた「給与規程」を作成することが望ましいです。これは就業規則の一部として定めることもあります 。明確な給与規程は、従業員の納得感を高め、トラブルを防止します。  

勤怠管理の法的要請と適切な勤怠管理方法(ITツール活用含む)

適切な勤怠管理は、残業代の正しい支払いや長時間労働の抑制といったコンプライアンスの観点から不可欠であると同時に、業務効率化や生産性向上にも繋がる重要な取り組みです。ITツールを活用し、社労士のアドバイスを受けながら初期にしっかりとした勤怠管理の仕組みを構築することは、将来の成長に向けた投資と言えます。手作業での勤怠管理はミスが発生しやすく、集計にも時間がかかり、人事担当者の負担が大きいため、勤怠管理システムの導入はこれらの問題を解決し、正確なデータに基づいた労務管理を可能にします。また、正確な労働時間データは、業務量の偏りや非効率な作業を発見し、改善するきっかけにもなり得ます。

  • 労働時間の適正な把握義務: 使用者には、従業員の労働時間を客観的な方法で適正に把握する責務があります 。これは、2019年の労働安全衛生法改正で、管理監督者を含む全ての労働者の労働時間の状況の把握が義務化されたことにも関連します 。  
  • 1分単位での労働時間管理: 賃金全額払いの原則から、労働時間は原則として1分単位で管理し、給与計算に反映させる必要があります。安易な切り捨て・切り上げは違法の可能性があります 。  
  • 勤怠管理の方法:
    • タイムカード、ICカード、PCログ: 出退勤時刻を客観的に記録する方法です。
    • 勤怠管理システム/アプリ: 打刻、残業申請、休暇申請、労働時間集計などを一元管理できるITツールです。リアルタイムでの労働時間把握、自動集計、給与計算ソフトとの連携などが可能で、管理業務の効率化と正確性向上に大きく貢献します 。  
    • 自己申告制の場合の注意点: やむを得ず自己申告制とする場合でも、従業員への十分な説明、実態調査、記録と実態の乖離があった場合の是正措置など、厳格な運用が求められます。
  • 社労士によるアドバイス:
    • 企業の規模や業態、勤務形態(フレックスタイム制、シフト制 など)に合った勤怠管理方法の選定をサポートします。  
    • 勤怠管理システムの導入支援や、運用ルールの策定(打刻ルール、残業申請フローなど)についてアドバイスします 。  
    • 法改正に対応した勤怠管理体制の構築を支援します。

会社設立直後から社労士をつける5つのメリット

会社設立直後は、本業の立ち上げに全力を注ぎたい時期です。しかし、ここまで見てきたように、人事労務関連の手続きや整備すべきルールは多岐にわたり、専門知識も必要です。これらを経営者自身や不慣れな担当者だけで対応しようとすると、多くの時間と労力を費やし、本業に支障をきたすばかりか、意図せぬ法令違反のリスクも抱えかねません。だからこそ、会社設立直後から社労士をパートナーとして迎えることには、大きなメリットがあるのです。 社労士の役割は、単なる手続き代行や規程作成に留まりません。特に顧問契約の場合、企業の成長フェーズに合わせて発生する様々な人事労務課題(採用戦略、人材育成、組織活性化、労務トラブル対応など)に対して、継続的に伴走し、経営者の良き相談相手となる「外部の人事部長」のような存在になり得ます。これは、人事専任者を置く余裕のない設立初期の企業にとって、非常に価値の高いサポートです 。  

メリット1:社長は本業に集中!煩雑な手続きから完全に解放される

設立期の貴重な時間をコア業務へ投資

会社設立期は、事業計画の実行、商品・サービスの開発、顧客開拓、資金調達など、経営者が自ら動かなければならないコア業務が山積みです。社会保険・労働保険の手続き、帳簿の整備、契約書の作成といったバックオフィス業務に時間を取られていては、事業成長のスピードが鈍化してしまいます 。 社労士にこれらの専門業務を委託することで、経営者や担当者は煩雑な手続きから解放され、本来注力すべきコア業務に時間とエネルギーを集中できます。これは、特にリソースの限られる創業期において、何よりも大きなメリットと言えるでしょう。  

メリット2:最新の法改正にも即応!「知らなかった」では済まされないリスクを回避

専門家による法令遵守体制の構築

労働関連法規は、働き方改革の影響もあり、毎年のように改正が行われています。例えば、2024年4月には労働条件明示のルールが改正されました 。これらの法改正情報を常にキャッチアップし、自社の諸規程や運用に正確に反映させるのは容易ではありません。 「知らなかった」では済まされず、法令違反は罰則や行政指導、さらには企業の信用失墜に繋がる可能性があります 。社労士は、常に最新の法改正情報を把握しており、企業が法令を遵守した労務管理を行えるようサポートします。これにより、設立初期からコンプライアンス体制の基盤を築き、将来的なリスクを未然に防ぐことができます。  

メリット3:「もらえるはずだったのに…」を防ぐ!助成金・補助金活用のチャンスを最大化

創業期に活用しやすい助成金情報と申請サポート

国や地方自治体は、雇用の創出や人材育成、労働環境の改善などを目的とした様々な助成金・補助金制度を設けています。これらは返済不要の資金であり、特に創業期の企業にとっては大きな助けとなります。 しかし、助成金の種類は多く、要件も複雑で、申請手続きも煩雑です。自社で情報を収集し、適切な助成金を見つけ出し、期限内に正確な申請を行うのは大変な労力が必要です。 社労士は、助成金に関する専門知識を持ち、企業の状況に合わせて活用可能な助成金を提案し、申請手続きを代行することができます 。助成金の申請代行は社労士の独占業務とされているものも多く 、専門家である社労士に依頼することで、受給の可能性を高め、手間を大幅に削減できます。「知っていればもらえたのに…」という機会損失を防ぎ、資金調達の一助とすることができます。  

創業期に活用しやすい助成金の例として、キャリアアップ助成金(正社員化コースなど)、トライアル雇用助成金(一般トライアルコースなど)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コースなど)、地域雇用開発助成金 などがあります。また、小規模事業者持続化補助金 やIT導入補助金 なども検討の価値があります。 (上記はあくまで例であり、年度や企業の状況によって対象となる助成金・補助金は異なります。最新情報は厚生労働省や中小企業庁のウェブサイト、または社労士にご確認ください。)  

新設法人は資金調達の手段が限られており、返済不要の助成金・補助金は非常に魅力的です。しかし、制度が複雑で、自社に合うものを見つけ、申請するのは困難です。以下の表は、創業期に比較的活用しやすい代表的な制度をピックアップし、概要、対象、社労士の関与ポイントを簡潔に示しています。これにより、読者は助成金活用の具体的なイメージを持ちやすくなり、社労士に相談する動機付けにもなります。

助成金・補助金名概要主な対象経費・要件例社労士の関与ポイント例
キャリアアップ助成金(正社員化コース)非正規雇用労働者の正社員転換等を支援正社員転換、賃金3%以上アップ、就業規則整備、キャリアアップ計画策定・提出計画作成、就業規則整備、申請代行
トライアル雇用助成金(一般トライアル)職業経験不足等の求職者を試行雇用ハローワーク等からの紹介、原則3ヶ月の有期雇用、求人提出実施計画作成、求人連携、申請代行
特定求職者雇用開発助成金高齢者、障害者、母子家庭の母等の就職困難者を継続雇用ハローワーク等からの紹介、継続雇用対象者確認、申請代行
小規模事業者持続化補助金小規模事業者の販路開拓や生産性向上の取組支援広告宣伝費、展示会出展費、新商品開発費等。経営計画策定。(直接的ではないが)労務整備が経営基盤強化に繋がり間接的に貢献
IT導入補助金中小企業・小規模事業者のITツール導入支援会計ソフト、勤怠管理システム、受発注ソフト等の導入費用。(直接的ではないが)勤怠管理システム導入等で連携の可能性

メリット4:将来の労使トラブルを未然に防ぐ!盤石な労務基盤を初期に構築

「最初のボタンの掛け違い」を防ぐ重要性

従業員との間のトラブルは、一度発生すると解決に時間とコストがかかり、経営者や他の従業員の精神的な負担も大きくなります。特に設立初期は、労務管理のルールが未整備だったり、曖昧だったりすることが原因で、意図せず「最初のボタンの掛け違い」が起こりがちです。 例えば、雇用契約の内容が不明確、就業規則がない、残業代の計算が誤っている、といったことが後々の大きな紛争の火種になり得ます。 社労士は、労働関連法規に基づいた適切な雇用契約書の作成、実態に合った就業規則の整備、公正な給与体系の構築などをサポートし、労使間の認識のズレや誤解を防ぎます。これにより、将来起こりうる労使トラブルのリスクを最小限に抑え、従業員が安心して働ける、健全な職場環境の土台を初期に築くことができます 。  

メリット5:いつでも相談できる!経営に寄り添う人事労務の専門家という安心感

孤独になりがちな創業社長の良き相談相手

創業期の経営者は、事業のことから資金繰り、そして従業員のことまで、あらゆる判断を一人で下しなければならない場面が多く、孤独を感じやすいものです 。特に人事労務の問題はデリケートで、誰に相談して良いか分からないことも少なくありません。 顧問契約を結んだ社労士は、日常的な労務相談から、採用、教育、評価、従業員のモチベーション管理、問題社員への対応まで、人事労務に関するあらゆる悩みについて、専門的な見地からアドバイスを提供します。法的な観点だけでなく、企業の成長段階や経営者の想いを汲み取った、実情に即したサポートが期待できます。いつでも気軽に相談できる専門家がいるという安心感は、経営者が自信を持って事業運営に臨む上で、大きな精神的支柱となるでしょう 。  

会社設立後の「頼れる社労士」選びのポイント

会社設立後の人事労務を安心して任せられる社労士を選ぶことは、事業の安定と成長にとって非常に重要です。しかし、どの社労士に依頼すれば良いか迷う方も多いでしょう。ここでは、頼れる社労士を選ぶための3つのチェックポイントをご紹介します。

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よくある質問

会社設立後の人事労務手続きに関して、経営者様やご担当者様から多く寄せられるご質問とその回答をまとめました。

Q. 会社設立後、社長1人だけでも社会保険に加入しないといけないのですか?

A. はい、原則として加入義務があります。法人の場合、社長お一人で役員報酬を得ていれば、健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。個人事業主の時とは扱いが異なりますのでご注意ください 。手続きの期限は会社設立から5日以内と非常に短いため、速やかな対応が必要です 。  

Q. 従業員を雇う予定ですが、何から手をつければ良いか分かりません。

A. まず、労働条件通知書(または雇用契約書)の準備、労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続き、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続き(従業員が加入条件を満たす場合)、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の整備が必要です。従業員数が10名未満でも、トラブル防止のために就業規則の作成を検討することをおすすめします 。手続きにはそれぞれ期限がありますので、社労士にご相談いただくとスムーズに進められます。  

Q. 社会保険や労働保険の手続きを忘れてしまった場合、どうなりますか?

A. 手続きを怠ると、まず行政機関から指導や督促があります。それでも対応しない場合、社会保険については過去2年分まで遡って保険料を請求されたり、延滞金が課されたりする可能性があります。また、悪質な場合は罰則(懲役や罰金)が科されることもあります 。労働保険についても同様に、遡及徴収や追徴金のリスクがあります。気づいた時点で速やかに専門家である社労士に相談し、適切な対応をとることが重要です。  

Q. 助成金に興味がありますが、申請が難しそうです。社労士に依頼するメリットは何ですか?

A. 助成金の申請は、種類が多く、要件も複雑で、書類作成も煩雑なため、専門知識がないと難しい場合があります。社労士は助成金の専門家であり、お客様の状況に合った助成金の選定から、計画書の作成、申請書類の準備、行政機関とのやり取りまで代行・サポートできます 。これにより、お客様は手間を大幅に削減でき、採択率の向上も期待できます。助成金申請代行は社労士の独占業務とされているものも多いです。  

Q. 社労士との顧問契約は、会社設立直後から必要ですか?

A. 必須ではありませんが、設立直後から顧問契約を結ぶことには多くのメリットがあります。煩雑な手続きから解放され本業に集中できること、法改正に迅速に対応できること、助成金活用のチャンスが広がること、将来の労使トラブルを予防できること、そして何よりも経営に寄り添う専門家としていつでも相談できる安心感が得られることです 。特に初めて従業員を雇用するタイミングや、人事労務の専任担当者がいない場合には、早期の顧問契約が有効です。  

まとめ

会社設立後の人事労務手続きは、労働保険(労災保険・雇用保険)の新規適用、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の新規適用、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の整備、そして従業員を雇用する場合には労働条件通知書・雇用契約書の作成、就業規則の整備、給与計算・勤怠管理体制の構築など、多岐にわたります。これらの手続きはそれぞれ期限が定められており、専門的な知識も必要です。

これらを経営者様ご自身や不慣れな担当者様だけで対応しようとすると、多くの時間と労力を費やし、本業に支障をきたすばかりか、意図せぬ法令違反や将来的な労使トラブルのリスクも抱えかねません。特に、社長お一人でも社会保険の加入義務が生じることや、各種手続きの短い提出期限は見落としがちなポイントです。

私たち社会保険労務士は、これらの煩雑な手続きを代行するだけでなく、最新の法改正への対応、活用できる助成金の提案、就業規則の作成・運用サポート、日々の労務相談などを通じて、企業が健全な労務管理体制を構築し、安心して事業成長に集中できるよう支援します。会社設立という重要なスタートラインにおいて、人事労務の専門家をパートナーとすることは、将来の安定経営に向けた賢明な投資と言えるでしょう。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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