【社労士解説】障害年金とは?受給条件から申請方法、相談先まで網羅的に解説

病気やケガにより、これまで通りの生活や仕事が難しくなり、将来への不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。障害年金は、そのような時に経済的な支えとなる公的な制度ですが、「制度が複雑でよくわからない」「自分が対象になるのか不安」といった声も少なくありません。

この記事では、障害年金制度の基本から、受給できる条件、年金の種類と金額、そして複雑な申請手続きの流れ、さらには専門家である社会保険労務士(社労士)に相談するメリットまで、網羅的に、そして分かりやすく解説します。

障害年金のことでお困りの際は、私たち社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)が、専門的な知識と経験をもってサポートさせていただきます。この記事をお読みいただくことで、障害年金に関する疑問や不安が少しでも解消され、次の一歩を踏み出すためのお力になれれば幸いです。

目次

障害年金とは?まず知っておきたい基本のキ

障害年金という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのような制度なのか、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。このセクションでは、障害年金の基本的な知識について解説します。

障害年金は公的な年金制度の一つ

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが著しく制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる公的な年金制度です 。これは、日本国憲法が定める生存権に基づき、国が国民の生活を保障するために設けている社会保障制度の一環です。  

多くの方が老齢年金をイメージされるかもしれませんが、公的年金には、老齢年金の他に、この障害年金、そして遺族年金があります。障害年金は、予期せぬ病気やケガで働けなくなったり、日常生活に大きな支障が出たりした場合のセーフティネットとしての役割を担っています。

重要なのは、障害年金は、定められた法律上の要件を満たせば誰でも受け取る権利があるということです。これは、慈善事業や恩恵的な給付ではなく、国民が安心して生活を送るための社会全体の仕組みです。そのため、ご自身やご家族が該当するかもしれないと思われた場合は、ためらわずに情報を収集し、制度の利用を検討することが大切です。

障害年金の3つの目的

障害年金は、単に金銭的な給付に留まらず、受給される方の生活全体を多角的に支えることを目的としています。その主な役割は、以下の3つのポイントに集約されます。

ポイント1:経済的基盤の安定化

病気やケガによって、以前のように働くことが難しくなると、収入が減少したり、途絶えたりすることがあります。また、治療費や介護費用など、新たな支出が増えることも少なくありません。障害年金は、このような状況において安定した収入を確保し、経済的な基盤を支える役割を果たします。これにより、日々の生活費の不安を軽減し、必要な医療やリハビリテーションを受けるための経済的余裕を生み出すことができます。

ポイント2:治療・療養への専念サポート

経済的な見通しが立つことは、精神的な安定にも繋がります。収入の心配が軽減されることで、病気やケガの治療や療養に安心して専念できる環境が整いやすくなります。心身の回復や症状の安定には、ストレスの少ない環境が不可欠であり、障害年金はその一助となることが期待されます。これは、ご本人が将来の生活に対する過度な不安から解放され、前向きに治療に取り組むための重要な要素です。

ポイント3:精神的な安心感と社会との繋がり

公的な支援制度である障害年金を受給できるという事実は、「自分は社会から孤立しているのではなく、必要な時には支援を受けられるのだ」という精神的な安心感をもたらすことがあります。経済的な安定は、すぐに社会復帰とはいかなくても、例えばリハビリテーションや就労支援プログラムへの参加、あるいは無理のない範囲での社会活動への関与を可能にし、社会との繋がりを維持するきっかけとなることもあります。これは、精神的な安定を図り、生活の質(QOL)を維持・向上させる上で大切なことです。

「障害手当金」との違い

障害年金制度には、継続的に支給される「障害年金」とは別に、一時金として一度だけ支給される「障害手当金(しょうがいてあてきん)」という給付があります 。これらは支給の条件や性質が異なるため、その違いを正しく理解しておくことが重要です。  

「障害手当金」は、初診日に厚生年金保険に加入していた方が対象となる制度です 。病気やけがの初診日から5年以内にその症状が固定(これ以上治療しても改善が見込めない状態)し、その障害の状態が障害厚生年金3級に該当するよりも軽いものの、法令で定められた一定の障害の状態にある場合に支給されます 。  

ここで注意が必要なのは、「治った」や「症状が固定した」という言葉の解釈です。これは、病気やけがが完全に消え去った状態を意味するのではなく、医学的に見てそれ以上の治療効果が期待できず、症状が安定した状態を指します 。  

障害年金と障害手当金の主な違いを以下の表にまとめました。

特徴障害年金障害手当金
支給形態年金(定期的・継続的)一時金(1回限り)
対象となる障害の状態障害等級1級・2級(障害基礎年金・障害厚生年金)、3級(障害厚生年金のみ)に該当する状態が継続障害厚生年金3級より軽いが、法令で定める一定の障害が残存
「治癒」(症状固定)の要否必ずしも必要ではない(障害状態の継続が前提)必要(初診日から5年以内に症状が固定)
対象年金制度障害基礎年金、障害厚生年金障害厚生年金のみ
請求期限の有無原則としてなし(ただし、遡って請求できる期間には制限あり)あり(症状が固定した日から5年以内)

例えば、初診日に会社員として厚生年金に加入しており、ケガをして治療を受けた結果、初診日から3年後に症状が固定し、障害厚生年金3級には満たないものの、一定の後遺障害が残ったというようなケースでは、障害手当金の対象となる可能性があります。どちらの制度に該当しそうか、あるいはどちらを請求すべきかについては、専門家である社労士にご相談いただくことをお勧めします。

【受給条件】障害年金をもらえる3つのチェックポイント

障害年金を受給するためには、原則として以下の3つの大きな要件をすべて満たしている必要があります 。これらの要件は、障害年金の種類(障害基礎年金か障害厚生年金か)にかかわらず、基本となるものです。ご自身がこれらの条件に当てはまるかどうか、一つひとつ丁寧に確認していきましょう。  

この3つの要件のいずれか一つでも満たせない場合は、原則として障害年金を受給することはできません。それだけに、各要件を正確に理解し、ご自身の状況を正しく把握することが、申請の第一歩となります。

初診日要件:いつの時点の病気やケガが対象?

まず最も重要なのが「初診日要件」です。 初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します 。この初診日がいつであるかによって、加入していた年金制度が特定され、請求できる障害年金の種類(障害基礎年金または障害厚生年金)が決まります。また、後述する「保険料納付要件」も、この初診日を基準日として判定されるため、初診日の確定は障害年金申請の出発点と言えます 。  

初診日の特定における注意点

初診日の特定は、時に非常に難しい場合があります。特に以下のような点は誤解しやすいため注意が必要です。

  • 病名確定日ではない: 初診日は、病名が医師によって診断された日や、専門的な治療が開始された日とは限りません 。それ以前に、関連する症状で医療機関を受診していれば、その最初の日が初診日となります。例えば、長期間にわたる体調不良で近所の内科を受診し、その後、大学病院で精密検査を受けて難病と診断された場合、初診日は近所の内科を最初に受診した日です 。  
  • 健康診断日ではない: 原則として、健康診断や人間ドックを受けた日自体は初診日とはなりません。ただし、健康診断の結果、精密検査が必要と指示され、その指示に基づいて医療機関を受診した場合は、その再検査のために受診した日が初診日となることがあります 。  
  • 整骨院・鍼灸院など: 医師による診療ではないため、整骨院や鍼灸院、整体院などでの施術開始日は初診日とは認められません。

特殊なケースの初診日

傷病の種類によっては、初診日の考え方が特殊な場合があります。

  • 精神発達遅滞(知的障害): 原則として出生日が初診日とされます 。  
  • 広汎性発達障害(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群など): 本人が自覚症状を感じて、初めて精神科や心療内科などの医療機関を受診した日が初診日となります 。知的障害とは初診日の捉え方が異なる点に注意が必要です。  

社会的治癒とは

社会的治癒」という考え方があります。これは、過去に発症した傷病が、医療を行う必要がなくなり、相当期間(一般的には5年以上が目安とされます)通常の社会生活を送ることができていた場合、その後に同じ傷病が再発して医師の診療を受けたときは、その再発後の診療日を新たな初診日として認めるというものです 。この「社会的治癒」が認められると、再発後の初診日で保険料納付要件などを判断できるため、過去の納付状況が思わしくない場合に有利になることがあります。ただし、社会的治癒の認定は非常に専門的で、個別の状況を詳細に検討する必要があるため、該当する可能性がある場合は社労士などの専門家への相談が不可欠です。  

初診日の特定は、特に最初の受診から長期間経過している場合や、医療機関の廃院、カルテの破棄(法定保存期間は原則5年 )などにより、証明が困難になるケースが少なくありません。この初診日の証明ができないために、障害年金の申請を断念せざるを得ない方もいらっしゃるほど、重要なポイントです 。  

初診日を証明する書類

初診日を証明するための最も基本的な書類は、最初に受診した医療機関(初診の医療機関)に作成してもらう「受診状況等証明書」です 。この書類には、初診時の傷病名、受診年月日、治療内容などが記載されます。  

ただし、診断書を作成してもらう医療機関と初診の医療機関が同一である場合は、診断書の中に初診日に関する情報が記載されるため、別途「受診状況等証明書」の提出は不要となることがあります 。  

受診状況等証明書が取得できない場合

初診の医療機関が廃院していたり、カルテが既に破棄されていて「受診状況等証明書」を取得できないケースも少なくありません。そのような場合でも、諦める必要はありません。以下の方法で初診日を証明できる可能性があります。

  1. 2番目以降の医療機関の証明: 初診の医療機関で証明が取れない場合、次に受診した医療機関(2番目の病院)に「受診状況等証明書」の作成を依頼します。その際、初診の医療機関から紹介状があれば、それが初診日を推認する手がかりになることがあります。
  2. 受診状況等証明書が添付できない申立書: どうしても「受診状況等証明書」が取得できない場合は、申請者自身が「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成し、提出する必要があります 。  
  3. 客観的な参考資料の添付: 上記の申立書と合わせて、初診日を推認できる客観的な資料を可能な限り収集し、添付します。参考資料となり得るものには、以下のようなものがあります 。
    • 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、およびこれらの申請時の診断書の写し
    • 生命保険・損害保険・労災保険などの給付申請時の診断書の写し
    • お薬手帳、病院の領収書、診察券のコピー
    • 健康保険の診療報酬明細書(レセプト)
    • 事業所の健康診断の記録
    • 当時の日記や家計簿(医療費の記載があるもの)
    • 第三者証明: 初診日頃の受診状況を直接見聞きしていた第三者(友人、同僚、民生委員など。原則として三親等内の親族は不可)からの申立書。2名以上の証明が求められることがあります 。  

初診日の特定や証明は、障害年金申請において最も複雑で時間を要する部分の一つです。ご自身での対応が難しいと感じた場合は、早めに社労士にご相談されることをお勧めします。

保険料納付要件:年金保険料をきちんと納めていたか

次に重要なのが「保険料納付要件」です。これは、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、一定期間以上、国民年金や厚生年金の保険料を納付しているか、または免除・猶予されている必要があるというものです 。  

この要件は、障害年金が社会保険制度の一つであるため、一定の保険料負担を前提としていることを示しています。初診日の前日時点で判断されるため、初診日当日に慌てて未納分を納付しても、この要件には算入されません 。  

保険料納付要件には、以下の2つのルールのいずれかを満たす必要があります 。  

原則(3分の2ルール)

初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間(20歳から初診日の前々月まで)のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間(学生納付特例期間や納付猶予期間を含む)を合算した期間が、全体の3分の2以上あること

特例(直近1年間ルール)

初診日が令和8年3月31日までにあり、かつ初診日において65歳未満である場合に限り、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと

この「直近1年間ルール」は、過去に未納期間が多く「3分の2ルール」を満たせない方でも、直近1年間にきちんと納付または免除・猶予を受けていれば救済される可能性がある特例措置です。ただし、この特例は期限付きであることに注意が必要です。

ご自身の保険料納付状況がこれらの要件を満たしているかどうかは、年金事務所や「ねんきんネット」で確認することができます。

20歳前傷病による障害基礎年金の場合

初診日が20歳未満(国民年金の強制加入前)にある傷病によって障害の状態になった場合は、ご本人が保険料を納付する義務がなかったため、上記の保険料納付要件は問われません 。これを「20歳前傷病による障害基礎年金」といいます。  

ただし、20歳前傷病による障害基礎年金には、受給者本人の所得による支給制限があります 。前年の所得が一定額を超える場合、年金額の全額または一部が支給停止となることがあります。例えば、令和7年度の基準では、前年の所得額が4,721,000円を超える場合は年金の全額が支給停止、3,704,000円を超える場合は2分の1の年金額が支給停止となります(扶養親族の有無等により所得制限額は変動します)。  

この所得制限は、保険料負担なしで受給できる年金であるため、他の年金受給者との公平性を図るための措置と考えられます。

障害状態要件:どのくらいの障害の程度なら対象?

3つ目の要件は「障害状態要件」です。これは、障害の原因となった病気やけがによる障害の程度が、法律で定められた障害等級(1級、2級、3級など)に該当している必要があるというものです 。  

この障害の状態は、原則として「障害認定日」における状態で判断されます。

障害認定日とは

障害認定日とは、その障害の状態を医学的に認定する基準となる日のことです。原則として、以下のいずれかの日が障害認定日となります 。  

  1. 初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日
  2. 初診日から1年6ヶ月以内に、その傷病が「治った」日(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態になった日を含む)

例えば、初診日から1年後に症状が固定し、それ以上の回復が見込めないと医師が判断した場合、その症状固定日が障害認定日となり得ます。

20歳前傷病の場合の障害認定日

初診日が20歳前にある場合、障害認定日は原則として**20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)**となります 。ただし、20歳に達した日より後に初診日から1年6ヶ月が経過する場合は、その1年6ヶ月を経過した日が障害認定日となります。  

障害等級(1級・2級・3級・障害手当金)の目安

障害年金の障害等級は、障害の程度に応じて、重い方から順に1級、2級、3級と定められています。また、障害厚生年金には、3級よりも軽い障害が残った場合に一時金として支給される「障害手当金」があります 。  

  • 障害基礎年金の対象となるのは、原則として1級と2級です。
  • 障害厚生年金の対象となるのは、1級、2級、3級、そして障害手当金です。

ここで非常に重要なのは、障害年金の障害等級と、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳などの「障害者手帳の等級」とは、必ずしも一致しないということです 。審査基準や認定機関が異なるため、「手帳が1級だから年金も1級」とは限りません。むしろ、障害年金の認定基準の方がより詳細で複雑な場合が多く、手帳の等級よりも厳しい結果となることもあります。  

各等級のおおよその目安は以下の通りです(傷病の種類や状態によって具体的な認定基準は異なります)。

障害等級障害の状態の目安主な対象年金
1級他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない状態。身の回りのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできないか、または行ってはならない。活動範囲がベッド周辺に限られるなど。 障害基礎年金、障害厚生年金
2級必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度の状態。家庭内の軽易な活動はできても、それ以上の活動はできない。活動範囲が家屋内に限られるなど。 障害基礎年金、障害厚生年金
3級労働が著しい制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度の状態。日常生活には大きな支障はないが、就労に際して大幅な配慮や制限が必要。 障害厚生年金のみ
障害手当金傷病が治った(症状が固定した)後、障害厚生年金3級よりも軽いが、法令で定める一定の障害が残った状態。労働に一定の制限を受ける。 障害厚生年金のみ(一時金)

この障害等級の認定は、提出された診断書の内容に基づいて、日本年金機構の専門医(認定医)が行います。そのため、診断書の内容がいかに実態を正確に反映しているかが、極めて重要になります。

障害年金の種類と金額の目安は?

障害年金には、初診日に加入していた公的年金制度によって、主に「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。どちらの年金に該当するかで、受給できる障害等級の範囲や年金額の計算方法が異なります。「自分がいくらもらえるのか」という疑問は、多くの方が抱く切実なものです。ここでは、それぞれの年金の種類と、令和7年度(2025年度)の年金額を目安として解説します。

年金額は毎年度改定される可能性があるため、常に最新の情報を確認することが重要です。

障害基礎年金:対象者と金額の計算方法

障害基礎年金は、主に自営業者、学生、無職の方などが加入する国民年金の被保険者期間中に初診日がある場合、または20歳前に初診日がある傷病(前述の20歳前傷病)の場合に支給対象となります 。また、日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で、老齢基礎年金を繰り上げ受給していない年金未加入期間中に初診日がある場合も対象となり得ます。  

障害基礎年金の対象となる障害等級は、1級と2級です 。  

障害基礎年金の金額(令和7年度)

障害基礎年金の年金額は、過去の収入に関わらず、障害等級に応じて定額で定められています。1級の年金額は2級の1.25倍です 。  

令和7年度(2025年度)の年金額(昭和31年4月2日以後生まれの方の場合)は以下の通りです 。  

  • 1級:1,039,625円(月額 約86,635円)
  • 2級:831,700円(月額 約69,308円)

(注:昭和31年4月1日以前生まれの方は、若干金額が異なります 。)  

この基本額に加えて、生計を維持している子がいる場合には「子の加算」が上乗せされます。障害基礎年金は、その名の通り、国民の基礎的な生活を保障するための年金という位置づけです。

子の加算額について

障害基礎年金の受給権者に、生計を維持されている18歳到達年度の末日(高校卒業時)までの子、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子がいる場合には、基本の年金額に「子の加算額」が加算されます 。  

令和7年度(2025年度)の子の加算額は以下の通りです 。  

  • 第1子・第2子:各239,300円(年額)
  • 第3子以降:各79,800円(年額)

例えば、障害基礎年金2級の方に18歳未満の子が1人いる場合、基本額831,700円に239,300円が加算され、合計1,071,000円(月額約89,250円)が支給されることになります。

障害基礎年金 年金額の例(令和7年度・昭和31年4月2日以後生まれの方)

障害等級/子の数年金額(円)月額目安(円)
2級(子なし)831,700約69,308
2級(子1人)1,071,000約89,250
2級(子2人)1,310,300約109,192
1級(子なし)1,039,625約86,635
1級(子1人)1,278,925約106,577
1級(子2人)1,518,225約126,519

障害厚生年金:対象者と金額の計算方法

障害厚生年金は、会社員や公務員などが加入する厚生年金保険の被保険者期間中に初診日がある場合に支給対象となります 。  

障害厚生年金の対象となる障害等級は、1級、2級、3級です。さらに、3級よりも軽い一定の障害状態に対しては一時金として「障害手当金」が支給される制度もあります 。  

障害厚生年金の金額の構成

障害厚生年金の年金額は、障害基礎年金とは異なり、主に以下の3つの要素で構成されます 。  

  1. 報酬比例の年金額: 厚生年金加入期間中の平均標準報酬月額(おおよその平均給与)と加入月数に基づいて計算される部分です。加入期間が長いほど、また平均給与が高いほど、この部分の金額は大きくなります。
    • 計算にあたっては、厚生年金加入期間が300月(25年)未満の場合は、300月として計算される最低保障措置があります 。これは、加入期間が短い方でも一定の年金額を保障するためのものです。  
  2. 障害基礎年金(1級・2級の場合): 障害厚生年金の1級または2級に該当する場合、対応する等級の障害基礎年金(子の加算額を含む)も併せて支給されます 。つまり、「報酬比例の年金額+障害基礎年金」が受け取れます。  
  3. 配偶者の加給年金額(1級・2級の場合): 障害厚生年金の1級または2級の受給権者に、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に加算されます 。
    • 令和7年度(2025年度)の配偶者加給年金額:239,300円(年額) 。  
    • ただし、配偶者自身が老齢厚生年金(加入期間20年以上など)や障害年金を受け取る権利がある場合などは支給停止となることがあります 。  

障害厚生年金の等級別計算方法(令和7年度基準)

  • 1級: (報酬比例の年金額 × 1.25) + 障害基礎年金1級(子の加算含む) + 配偶者の加給年金額(該当する場合)  
  • 2級: 報酬比例の年金額 + 障害基礎年金2級(子の加算含む) + 配偶者の加給年金額(該当する場合)  
  • 3級: 報酬比例の年金額のみ。ただし、最低保障額が設けられています(令和7年度:年額623,800円 ※昭和31年4月2日以後生まれの方)。障害基礎年金や配偶者加給年金は支給されません。  

障害厚生年金は、このように報酬比例部分があるため、個々人の厚生年金加入履歴によって金額が大きく変動します。一般的には、障害基礎年金のみの場合よりも手厚い給付となる傾向があります。これは、厚生年金保険料が国民年金保険料に上乗せして徴収されていることの反映と言えるでしょう。

障害共済年金(簡潔に触れる程度)

以前は、公務員や私立学校教職員などが加入する共済組合の制度として「障害共済年金」がありました。しかし、平成27年10月1日に厚生年金と共済年金の制度が一元化されたため、それ以降に初診日がある場合は、原則として障害厚生年金として扱われることになりました 。  

ただし、一元化前の共済組合加入期間に基づく「経過的職域加算額」といった部分が、引き続き障害共済年金として支給される場合があります 。また、障害年金の請求手続きは、初診日に加入していた共済組合に対して行うことになります 。該当する可能性がある方は、加入していた共済組合または年金事務所にご確認ください。  

【簡単シミュレーション】あなたの受給額イメージ(注意書きと共に)

障害年金の金額は、個別の状況によって大きく異なります。以下のシミュレーションは、あくまで目安として参考にしてください。正確な金額は、年金事務所や社労士にご相談の上、試算してもらう必要があります。

(注意)

  • 以下の金額は、特に記載がない限り、令和7年度(2025年度)の年金額(昭和31年4月2日以後生まれの方)に基づいています。
  • 障害厚生年金の報酬比例部分は、加入期間や平均報酬額によって大きく変動するため、ここでは仮定の金額や最低保障額を用いています。

ケース1:障害基礎年金2級、子なし

  • 年金額:約83万円(月額約6.9万円)

ケース2:障害基礎年金1級、18歳未満の子1人

  • 年金額:約104万円(基本額)+ 約24万円(子の加算)= 約128万円(月額約10.7万円)

ケース3:障害厚生年金3級(報酬比例部分が最低保障額の場合)

  • 年金額:約62万円(月額約5.2万円)

ケース4:障害厚生年金2級、生計を維持する配偶者あり、子なし、厚生年金加入歴20年・平均標準報酬月額30万円と仮定

  • 報酬比例の年金額(概算):約70万円~80万円程度と仮定
  • 障害基礎年金2級:約83万円
  • 配偶者の加給年金額:約24万円
  • 合計年金額:約177万円~187万円(月額約14.8万円~15.6万円)

これらの例は非常に簡略化されたものです。特に障害厚生年金は、報酬比例部分の計算が複雑なため、ご自身の年金加入記録に基づいて正確に計算する必要があります。具体的な受給額の見込みを知りたい場合は、年金事務所での相談や、社労士による詳細な試算をお勧めします。

障害年金の手続きの流れ?5つの申請ステップ

障害年金の申請手続きは、多くの書類準備や医療機関との連携が必要となり、複雑で時間がかかる場合があります。ここでは、申請の基本的な流れを5つのステップに分けて解説します。この流れを把握することで、見通しを持って準備を進めることができるでしょう。

申請手続きは、ご自身やご家族だけで進めることも可能ですが、各ステップでつまずきやすいポイントも存在します。

ステップ1:年金事務所または市区町村役場での事前相談

まず初めに、お住まいの地域を管轄する年金事務所、または障害基礎年金を請求する場合は市区町村役場の年金担当窓口で事前相談を行うことをお勧めします 。  

事前相談の目的

  • 初診日の確認: どの時点の病気やケガが対象となるか、ご自身の状況を伝え、初診日の見当をつけます。
  • 保険料納付要件の確認: 初診日を基に、年金保険料の納付状況が要件を満たしているかを確認してもらいます 。  
  • 必要書類の案内: ご自身の状況に応じた申請に必要な書類一式や、各種様式(年金請求書、診断書の用紙など)を受け取ります 。  
  • 手続き全体の流れの説明: 今後の手続きの進め方について説明を受けます。

事前相談の際の注意点

年金事務所の窓口では、親身に相談に乗ってくれますが、その役割は主に手続きが正しく行われるための案内や書類の受付です 。必ずしも「どうすれば受給しやすくなるか」という観点でのアドバイスが中心となるわけではありません。また、相談時に伝えた内容は記録されるため、後の申請内容と矛盾が生じないよう、事前に情報を整理しておくことが大切です 。  

この段階で、初診日の特定が難しい、保険料納付要件がギリギリであるなど、複雑な事情がある場合は、社労士などの専門家に相談することも検討しましょう。

ステップ2:必要書類の準備と収集

事前相談で必要な書類が明らかになったら、次はそれらの書類を一つひとつ準備・収集していきます。このステップが、障害年金申請において最も時間と労力を要する部分と言えるでしょう 。書類に不備があると、受付が遅れたり、再提出を求められたりするため、慎重に進める必要があります。  

必ず必要な書類一覧

以下は、多くの場合で必要となる主な書類です。個別の状況によって追加書類が必要になることもあります。

書類名主な入手先/作成依頼先ポイント
年金請求書年金事務所、市区町村役場、日本年金機構HPからダウンロード 障害基礎年金用、障害厚生年金用など種類がある。記入事項が多く複雑。
年金手帳または基礎年金番号通知書お手持ちのもの基礎年金番号の確認に必要。紛失した場合は年金事務所で再発行可能。
戸籍謄本、住民票など市区町村役場生年月日、氏名、住所、家族関係(加算対象者がいる場合)の確認用。マイナンバー提示で省略できる場合あり
診断書医療機関(主治医に作成を依頼)障害の種類に応じた専用様式(8種類)あり 。障害状態を証明する最重要書類の一つ。作成に数週間かかることも。
受診状況等証明書初診の医療機関(診断書作成医療機関と異なる場合)初診日を証明する書類。取得できない場合は「受診状況等証明書が添付できない申立書」と参考資料が必要
病歴・就労状況等申立書申請者本人または代理人が作成発病から現在までの経過、日常生活や就労の支障を具体的に記述。診断書を補完する重要書類
預金通帳またはキャッシュカードのコピーお手持ちのもの年金の振込先口座の確認用。金融機関名、支店名、口座番号、口座名義人(カナ)が鮮明にわかるもの

これらの書類は、日本年金機構のウェブサイトから様式をダウンロードできるものもありますが 、記入方法が複雑なため、年金事務所で入手し、説明を受けるのが確実です。  

状況によって必要な書類一覧

上記に加えて、個々の状況に応じて以下のような書類が必要になる場合があります 。  

  • 配偶者や子に関する加算を請求する場合:
    • 配偶者やお子様の所得証明書、住民票(世帯全員のもの)、戸籍謄本など(生計維持関係を証明するため)。
  • 障害の原因が第三者の行為(交通事故など)による場合:
    • 第三者行為事故状況届、交通事故証明書、損害賠償金の算定書(示談書の写しなど)、同意書など。
  • 20歳前傷病による障害基礎年金を請求する場合:
    • 請求者本人の所得証明書。
  • 他の公的年金を受給している場合:
    • その年金の年金証書のコピー。
  • 障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)を持っている場合:
    • 手帳のコピー。

必要書類は多岐にわたるため、年金事務所でご自身のケースに合わせて正確なリストを確認することが不可欠です。この書類収集の段階で、「何から手をつけていいかわからない」「書類が複雑すぎる」と感じる方が多く、専門家である社労士のサポートが有効となる場面でもあります。

ステップ3:診断書の作成を医師に依頼する際の注意点

障害年金の審査において、医師が作成する「診断書」は最も重要な書類の一つです 。診断書の内容が、障害等級の認定を大きく左右すると言っても過言ではありません。そのため、医師に診断書の作成を依頼する際には、いくつかの重要な注意点があります。  

医師は医療の専門家ですが、必ずしも障害年金制度の専門家ではありません 。障害年金の認定基準や、どのような情報が審査で重視されるかを詳細に把握しているとは限りません。したがって、ご自身の障害の状態や日常生活での支障を正確に医師に伝え、診断書に適切に反映してもらうための工夫が必要です 。  

診断書の種類と重要性

障害年金の診断書には、障害の種類に応じて8種類の様式があります(眼の障害用、聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用、肢体の障害用、精神の障害用、呼吸器疾患の障害用、循環器疾患の障害用、腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害用、血液・造血器・その他の障害用)。正しい様式の診断書を使用することが必須です。  

診断書は、日本年金機構が障害の程度を医学的に判断するための根拠となります。記載内容が不十分であったり、実際の症状よりも軽く書かれていたりすると、本来受給できるはずの等級よりも低い等級に認定されたり、不支給となったりする可能性があります 。  

特に、精神疾患や内部疾患など、外見からは分かりにくい障害の場合、診断書に記載される日常生活能力の評価や、具体的な症状の記述が極めて重要になります。

医師に伝えるべきポイント

適切な診断書を作成してもらうためには、医師に以下の点を具体的に伝えることが大切です。

  • 日常生活での具体的な支障: 「食事が一人で準備できない」「入浴に時間がかかる、または介助が必要」「金銭管理が難しい」「公共交通機関を一人で利用できない」など、日常生活の各場面でどのような支障があるのかを具体的に伝えましょう 。  
  • 就労への影響: 仕事をしている場合は、仕事内容、職場で受けている配慮、困難を感じる業務、仕事による疲労の程度などを具体的に伝えます。仕事をしていない場合は、なぜ就労が困難なのかを説明します。
  • 援助の状況: 家族や周囲の人からどのような援助を受けているかを伝えましょう。障害年金の審査では、「一人暮らしをしたらどの程度できるか」という視点で判断されることが多いため、援助があるからかろうじてできていることも、「援助がなければできない」と伝えることが重要です 。  
  • 症状の波や調子の悪い時の状態: 診察時には比較的調子が良くても、普段はもっと症状が重い時間帯や日がある場合は、その状況も伝えましょう。「いつもこの状態ではない」ということを理解してもらうことが大切です 。  
  • 書面での情報提供: 口頭だけでは伝えきれない場合や、診察時間が短い場合は、日常生活での支障や就労状況などをまとめたメモ(日常生活状況申立書など)を事前に作成し、医師に渡すのが効果的です 。  
  • 家族や支援者の同席: 可能であれば、ご家族や支援者(社労士など)に同席してもらい、客観的な状況を補足説明してもらうのも良い方法です 。  

医師とのコミュニケーションを密にし、ご自身の状態を正確に理解してもらうことが、実態に即した診断書作成の鍵となります。決して症状を誇張する必要はありませんが、遠慮せずに困っていることを正直に伝える勇気も必要です。

ステップ4:病歴・就労状況等申立書の作成ポイント

病歴・就労状況等申立書」は、申請者本人(または代理人)が作成する書類で、発病から現在に至るまでの病状の経過、日常生活や就労状況の支障について、ご自身の言葉で具体的に記述するものです 。診断書が医師の医学的見地からの証明であるのに対し、この申立書は、ご本人の生活実感に基づいた訴えを伝える重要な役割を担います。  

この書類は、審査において診断書を補完する情報として、また、初診日の信憑性を高めるための資料としても活用されます 。適切に作成された申立書は、審査官に障害の実態をより深く理解してもらう助けとなり、受給の可能性を高めることにも繋がります。  

具体的なエピソードを盛り込む

申立書を作成する際は、単に「つらい」「できない」といった抽象的な表現に終始するのではなく、具体的なエピソードを交えて記述することが非常に重要です 。いつ、どこで、誰が、何をして、なぜ、どのように困ったのか(5W1H)を意識すると、より具体性が増します。  

例えば、「眠れない」というだけでなく、「週に3回ほどは朝方までほとんど眠れず、日中は強い倦怠感で起き上がれないため、家事も手につかず、予定もキャンセルしてしまうことが多い」といったように、頻度や具体的な影響を記述します 。  

発病から現在までの期間について、受診歴(病院名、診療科、受診期間、治療内容、医師からの指示など)、症状の変化、日常生活や就労状況の変化などを、時期を区切って時系列で分かりやすく記述します。通院していない期間があれば、その理由やその間の状況も正直に記載しましょう 。  

日常生活や就労への支障を明確に

日常生活における支障については、食事、入浴、着替え、掃除、買い物、金銭管理、服薬管理、対人関係、外出、安全保持、社会的手続きなど、具体的な項目ごとに、どの程度困難であるかを記述します 。ここでも、「一人暮らしをしたら」という仮定で、どの程度のことができるのか、どのような援助が必要なのかを明確にすることがポイントです 。家族の援助があるからできていることも、援助がなければできないと正直に記載しましょう。  

就労状況については、もし就労している場合は、職種、仕事内容、勤務時間、職場で受けている配慮(業務量の軽減、休憩時間の増加、人的サポートなど)、仕事上で困難な点、仕事が症状に与える影響などを具体的に記述します。休職や退職をした場合は、その経緯や理由を明確にします。就労していない場合は、なぜ就労が困難なのか、その理由(症状によるもの、体力的なものなど)を具体的に説明します 。  

申立書の内容は、医師が作成した診断書の内容と矛盾がないように注意が必要です 。両方の書類が整合性をもって障害の実態を訴えることで、説得力が増します。  

ステップ5:年金請求書の提出と審査期間の目安

必要書類がすべて整ったら、いよいよ年金請求書を提出します。

提出先

年金請求書の提出先は、請求する年金の種類や初診日の状況によって異なります 。  

  • 障害基礎年金(初診日に国民年金第1号被保険者だった方、20歳前傷病の方など):原則として、お住まいの市区町村役場の年金担当窓口
  • 障害厚生年金(初診日に厚生年金保険の被保険者だった方):お近くの年金事務所または街角の年金相談センター
  • 障害基礎年金(初診日に国民年金第3号被保険者だった方):お近くの年金事務所または街角の年金相談センター

郵送での提出も可能な場合がありますが、書類に不備があると返送され時間がかかるため、窓口で確認してもらいながら提出するのが確実です。

提出前の最終確認

提出前には、以下の点を必ず最終確認しましょう 。  

  • 必要な書類がすべて揃っているか。
  • 記入漏れや誤りはないか(氏名、生年月日、基礎年金番号、日付の和暦・西暦の統一など)。
  • 押印が必要な箇所に押印されているか。
  • 訂正箇所は二重線で消し、訂正印が押されているか(修正液・修正テープは不可)。
  • 提出するすべての書類のコピーを必ず取っておくこと 。これは、後日の問い合わせ対応や、万が一の再申請、不服申し立ての際に非常に重要になります。  

審査期間の目安

年金請求書を提出してから結果が出るまでの審査期間は、ケースバイケースですが、一般的に3ヶ月から4ヶ月程度とされています 。日本年金機構の統計によれば、障害基礎年金で約3ヶ月半、障害厚生年金で約5ヶ月が標準的な処理期間とされていますが、書類の不備や確認事項が多い場合、審査が難航する場合などは、これ以上かかることもあります。  

審査が完了すると、日本年金機構から結果が郵送で通知されます。支給が決定した場合は「年金証書」と「年金決定通知書」が、不支給となった場合は「不支給決定通知書」または「却下通知書」が届きます 。  

この審査期間は、申請者にとって精神的に長く感じられるかもしれませんが、結果が出るまでは辛抱強く待つ必要があります。

障害年金の申請は難しい?社労士に依頼するメリット・デメリット

障害年金の申請手続きは、ここまで見てきたように、多くのステップと専門的な知識を要するため、「自分一人で進めるのは難しいのでは…」と感じる方も少なくないでしょう。実際に、申請の複雑さや準備の大変さから、途中で断念してしまうケースや、書類の不備・内容の不十分さから不支給となってしまうケースも見受けられます。

ここでは、ご自身で申請する場合の注意点やよくある失敗例、そして専門家である社会保険労務士(社労士)に依頼する場合のメリット・デメリットについて解説します。

自分で申請する場合の注意点とよくある失敗例

障害年金の申請は、ご自身やご家族が中心となって行うことももちろん可能です。しかし、その過程でつまずきやすいポイントや、注意すべき点がいくつかあります。

書類不備による返戻・遅延

申請書類は種類が多く、記入項目も複雑です。年金請求書や病歴・就労状況等申立書の記入漏れ、押印忘れ、日付の誤り(和暦と西暦の混同など)といった単純なミスでも、書類が年金事務所から返戻されたり、追加の確認を求められたりすることがあります 。これにより、審査開始が大幅に遅れ、精神的な負担が増すことになります 。  

症状の実態が伝わらないことによる不支給

最も重要な書類である診断書や、それを補完する病歴・就労状況等申立書において、ご自身の障害の状態や日常生活・就労への支障が審査官に十分に伝わらない場合、障害等級に該当しないと判断され、不支給となることがあります 。  

特に以下のようなケースが散見されます。

  • 初診日の証明ができない: カルテが破棄されていたり、記憶が曖昧だったりして、初診日を客観的に証明できず、申請に至らない 。  
  • 診断書の内容が実態と乖離: 医師に日常生活の困難さが十分に伝わっておらず、実際の症状よりも軽い内容の診断書が作成されてしまう 。特に精神疾患の場合、診察時の状態と普段の生活状況が異なることも多く、このギャップが問題となりやすいです。  
  • 病歴・就労状況等申立書の記述が不十分: 具体的なエピソードや支障の程度が不明確で、障害の重さが審査官に理解されない。診断書との整合性が取れていない 。  
  • 制度理解の不足: 障害年金の認定基準や、どのような点が審査で重視されるのかを理解しないまま申請し、ポイントを押さえた書類準備ができない 。  
  • 年金事務所の窓口での誤解: 年金事務所は手続きの案内はしてくれますが、受給に有利なアドバイスを積極的に行うわけではないことを理解していない 。  

これらの失敗は、単に運が悪かったというよりも、制度の複雑さや、申請における特有の「コツ」を知らなかったことに起因する場合が多いのです。

社労士に依頼する4つのメリット

障害年金の申請を専門とする社会保険労務士(社労士)に依頼することで、上記のような困難を回避し、スムーズかつ確実に受給を目指すことができます。社労士に依頼する主なメリットは以下の4点です。

メリット1:複雑な手続きを任せられる

障害年金の申請には、初診日の確定、保険料納付要件の確認、多岐にわたる書類の収集・作成、年金事務所との折衝など、多くの煩雑な手続きが伴います 。体調が優れない中でこれらの手続きをご自身で行うのは、大きな精神的・時間的負担となります。社労士に依頼すれば、これらの複雑な手続きの大部分を代行してもらえるため、申請者は治療や療養に専念しやすくなります。年金事務所に何度も足を運ぶ必要もなくなります 。  

メリット2:受給可能性を高める書類作成サポート

社労士は、障害年金制度の専門家として、認定基準や審査のポイントを熟知しています。そのため、

  • 医師に依頼する診断書について、どのような情報が必要か、どのように伝えると実態が反映されやすいかといったアドバイスや、診断書作成依頼時の参考資料(日常生活状況に関する書面など)の作成サポートを行います 。  
  • 病歴・就労状況等申立書についても、診断書との整合性を図りながら、申請者の状況や日常生活での支障を具体的かつ的確に、審査官に伝わるように作成します 。 これにより、書類の不備を防ぎ、障害の実態が正しく評価される可能性が高まり、結果として受給の可能性を高めることが期待できます。実際に、社労士が関与することで認定率が向上するというデータを示す事務所もあります 。  

メリット3:医師との連携サポート(必要な場合)

適切な診断書を作成してもらうためには、医師との良好なコミュニケーションが不可欠です。しかし、患者自身が医師に障害年金のポイントを的確に伝えるのは難しい場合があります。社労士は、必要に応じて、医師への説明資料の作成や、診察への同行(ご本人の同意がある場合)を通じて、医師が障害年金制度の観点から必要な情報を診断書に盛り込めるようサポートします 。これにより、医学的な見地と年金制度上の要請との間のギャップを埋める助けとなります。  

メリット4:精神的な負担の軽減

病気やケガを抱えながら、不慣れで複雑な年金申請手続きを進めることは、大きな精神的ストレスとなります 。社労士は、専門家として手続きを代行するだけでなく、申請者の不安や疑問に寄り添い、精神的な支えとなる存在でもあります。進捗状況を適切に報告し、見通しを示すことで、申請者の不安を和らげ、安心して結果を待てるようサポートします。

障害年金に関するよくある質問(Q&A)

障害年金に関して、多くの方が疑問に思われる点をQ&A形式でまとめました。

Q1. 働いていても障害年金はもらえますか?

A1. はい、働いていても障害年金を受給することは可能です 。障害年金の審査では、単に就労しているかどうかだけでなく、その仕事の内容、勤務時間、職場で受けている配慮、仕事が日常生活に与える影響などを総合的にみて、障害の状態が認定基準に該当するかどうかが判断されます。  

特に精神障害の場合、就労状況は日常生活能力を判断する上での一つの要素とはなりますが、「働いているから絶対にもらえない」というわけではありません 。例えば、職場からの特別な配慮(短時間勤務、業務内容の軽減、頻繁な休憩など)があって初めて就労できている場合や、就労はしているものの帰宅後は疲弊して何もできないような場合は、障害の状態が重いと判断されることもあります 。  

実際に、フルタイムで働きながら障害厚生年金2級や3級を受給している事例も多くあります。ただし、障害の種類や程度、就労の実態によっては、就労が障害等級の認定に影響を与える可能性は否定できませんので、専門家にご相談いただくのが確実です。

Q2. 精神疾患(うつ病、統合失調症など)でも対象になりますか?

A2. はい、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)、知的障害、てんかんといった精神疾患も障害年金の対象となります 。これらの疾患によって、日常生活や就労に著しい支障が生じていると認められれば、受給の可能性があります。  

精神疾患の認定基準では、抑うつ気分、意欲・行動の低下、思考障害、幻覚・妄想といった症状の有無や程度に加えて、食事、身辺の清潔保持、金銭管理、対人関係といった日常生活能力がどの程度損なわれているかが重視されます 。診断書にはこれらの日常生活能力を評価する項目があり、その記載内容が審査において重要な判断材料となります。  

精神疾患は外見からは分かりにくく、症状に波があることも多いため、診断書や病歴・就労状況等申立書を通じて、いかに具体的な生活上の困難さを伝えられるかがポイントになります。

Q3. 障害者手帳と障害年金は関係ありますか?

A3. 障害者手帳(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳)と障害年金は、それぞれ異なる法律に基づく別の制度です 。申請窓口や審査機関、認定基準も異なります。  

したがって、障害者手帳を持っているからといって必ず障害年金が受給できるわけではありませんし、手帳の等級がそのまま障害年金の等級になるわけでもありません 。一般的に、障害年金の認定基準の方がより厳格で詳細な場合が多いと言われています。もちろん、障害者手帳を持っていなくても、障害年金の受給要件を満たせば受給できます。  

ただし、例外として、精神障害で障害年金を受給している方が精神障害者保健福祉手帳を申請する場合、年金証書の写しなどを提出することで診断書の提出が省略できる場合があります 。これは手続きの簡略化であり、制度が同一であることを意味するものではありません。  

Q4. 申請してから結果が出るまでどれくらいかかりますか?

A4. 障害年金の申請書類を提出してから審査結果が出るまでの期間は、ケースバイケースですが、日本年金機構が公表している標準的な処理期間としては、障害基礎年金で約3ヶ月半、障害厚生年金で約5ヶ月とされています 。  

ただし、これはあくまで目安であり、申請書類に不備があった場合や、審査の過程で追加の資料提出や確認が必要となった場合、あるいは申請が集中する時期などは、これよりも長くかかることがあります。逆に、非常にスムーズに進めば、これより早く結果が出ることもあります。

Q5. もし不支給になったらどうすればいいですか?(不服申し立てについて)

A5. 残念ながら障害年金の請求が不支給(または期待した等級よりも低い等級)と決定された場合でも、その決定に不服がある場合は、不服申し立て(審査請求・再審査請求)を行う権利があります 。  

  1. 審査請求: まず、決定を知った日の翌日から3ヶ月以内に、地方厚生局の社会保険審査官に対して「審査請求」を行うことができます 。審査請求は、原則として最初に提出した書類に基づいて再度審査が行われます。  
  2. 再審査請求: 審査請求でも決定が覆らなかった場合、その決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内に、厚生労働省の社会保険審査会に対して「再審査請求」を行うことができます 。  

ただし、不服申し立てで決定が覆るケースは、残念ながらそれほど多くないのが実情です。特に、最初の申請書類(特に診断書)の内容が不十分だった場合、同じ書類で審査される不服申し立てで有利な結果を得るのは難しい傾向にあります 。  

そのため、不支給の理由を詳細に分析し、不服申し立てで争うべきか、あるいは診断書の内容を見直すなどして「再申請(改めて新規に申請し直すこと)」をした方がよいかを慎重に検討する必要があります 。再申請の場合、受給権が発生するのは再申請の受付月以降となり、不服申し立てで認められた場合よりも年金の受け取り開始が遅くなる可能性がありますが、より確実な受給を目指せる場合もあります。  

不支給の理由が初診日の問題なのか、保険料納付要件の問題なのか、あるいは障害状態の評価の問題なのかによって、採るべき対応は異なります。このような複雑な判断や手続きについては、障害年金を専門とする社労士に相談することをお勧めします。

まとめ

障害年金制度は、病気やケガによって生活や仕事に支障が生じた方々にとって、経済的にも精神的にも大きな支えとなる重要な制度です。しかし、その仕組みは複雑で、申請手続きも煩雑なため、多くの方が不安や困難を感じられることでしょう。

この記事では、障害年金の基本的な知識から、受給条件、年金の種類と金額、申請方法、そして専門家である社労士に依頼するメリット・デメリットに至るまで、網羅的に解説してまいりました。ご自身の状況を正しく理解し、適切な手順で申請を進めることが、障害年金を受給するための第一歩です。

一人で抱え込まず、分からないことや不安なことがあれば、年金事務所の窓口や、私たちのような障害年金を専門とする社会保険労務士にご相談ください。正しい知識と適切なサポートがあれば、受給への道は決して閉ざされてはいません。

社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)では、全国対応・初回相談無料でご相談を承っております。人事労務に関するお悩みはお問い合わせよりお気軽にご相談ください。

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監修者(社労士)

社会保険労務士(社労士事務所altruloop代表)
労務管理・人事制度設計・法改正対応をはじめ、実務と経営をつなぐ制度づくりを得意とする。戦略コンサルファームでは新規事業立ち上げや組織改革に従事し、大手〜スタートアップまで幅広い企業の支援実績あり。
現在は東京都渋谷区や八王子を拠点にしている社労士事務所altruloop(アルトゥルループ)代表として、全国対応で実務と経営の両視点から企業を支援中。

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